アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
「本当に信じられない!ルーク!なんで貴方がここにいるの!?」
牢屋から出たばかりだというのに、レイア姫というお嬢さんはやけに元気だな、とハンはストームトルーパーの装甲服を窮屈そうに身につけながら思っていた。
このバトルステーションことデス・スターへと乗り込む羽目になるわ、ラーズのおやっさんが用意していた二重底に隠れる羽目になるわ、挙げ句の果てにストームトルーパーの身包みをはいでデス・スター内部に潜入していると来ている。
ウーキー族であるチューバッカを連行するフリをして、このデス・スターに囚われているレイア姫を助け出すという流れになったが、明らかな規約違反だとハンは内心で顔をしかめていた。
なぜかチューバッカは勇んで姫さんの救出に協力していたが、ハンに至っては完全に被害者だ。本当ならば、あのオルデランの地に降り立ち、ルーク達をほっぽり出せばこちらの商売は完了しているはずだというのに。
「妹が帝国のデス・スターに囚われていて、拷問を受けてるなんて知ったら助けに来るのが兄じゃないのかい!?」
「呆れた!せっかくこの基地の設計図を託したっていうのに!スカリフの犠牲を無駄にするつもりなの!?」
真っ白なドレスを身につける姫と言い合いをしているのは、この施設にレイアが捕われていることを知って顔を真っ青にしていたルークだった。
トラクタービームのスイッチを切るために別行動をしているオビ=ワンが部屋から去ったあと、R2がレイアが捕われている独房の場所を特定したのだ。
「R2は大丈夫さ、父さんが見てくれてる」
この破壊兵器の設計図を持っているR2は、C-3POと共に部屋に残る選択をしたアナキンが見てくれている。鉄火場から離れてしばらくの父がそういう選択をする事はわかっていたが、ルークとしては共にレイアを救って欲しいという子供らしい思いもあった。
だが、そんなルークの思いをレイアは「信じられない」といった驚愕の目で見つめる。
「お父様を巻き込んだの!?ルーク!お母様との約束を忘れたとは言わせないわ。お母様はお父様をジェダイやシスの因縁に巻き込まないことを条件に貴方が反乱軍に入ることを認めて…」
「待て待て待て、待ってくれよ。俺を置いてけぼりにするな」
これ以上ほっておくと騒ぎを聞きつけたトルーパーたちが来るまで続きそうだ。そう判断したハンが、兄妹喧嘩に待ったをかけた。隣にいるブラスターを持ったチューバッカも唸り声を上げた。
「ああ、お前さんの言う通りだ」
「で?貴方とこの歩く絨毯は何者なの?」
「俺はハン・ソロ、ミレニアム・ファルコン号の船長。こいつはウーキー族のチューバッカ。俺の相棒さ。まぁ、この坊主とオビ=ワンって親父さんをオルデランまで送るちょろいチャーターの仕事を受けてたはずだったんだが…」
うんざりした様子のレイアの不躾な言い方にため息をつきながらハンは答えた。チューバッカはハンとレイアを何度か目線を彷徨わせてから小さく吠え声を出した。
「わかってる。そう喚くな」
「とにかくここを出よう。オルデランも帝国の監視下にある。まずは脱出して反乱軍の基地に向かわないと」
「何を言ってるの?オルデランは…」
「綺麗な山々だったよ。帝国のくそったれがいなければな」
狭い監獄の通路を、トルーパーたちの死屍累々をまたぎながら進むルークたちに、オルデランのことを聞いて呆気に取られるレイア。そんな彼女を連れて、通路を抜けた先にあるドアをルークがフォースを使ってこじ開けた。
そして、その先に待っていたのは白い装甲服の兵士たちではなかった。
「レイア!」
ルークの叫びと共に、チューバッカとハンがまるで条件反射のようにブラスターを構えて閃光を放つ。
迸ったブラスターの光。それは目前に迫ったところで不自然に停止した。
ルークは咄嗟に腰からライトセーバーを手に取る。3人の目の前で待っていたのは、オルデランで出会った黒い戦士、カイロ・レンだった。彼の後ろには、同じように漆黒の装甲服と外套を組み合わせたような格好をするマスクをかぶった戦士たちが手をブラスターの光弾目掛けて掲げてきた。
ハンとチューバッカから放たれたブラスターの光は、あろうことかカイロ・レンの後ろに控える者たちから放たれるフォースによって止められていたのだ。
「やめておけ。そんな武器では我々に勝つ事は容易ではない」
そう言ってカイロ・レンが手繰るように手を握りしめると、ハンとチューバッカの手からブラスターが引っ張られるように離れた。それを確認してから、フォースで止められていたブラスターの光は行く先を変えられてデス・スターの堅牢な柱へと傷をつけるに終わった。
「やはり、貴様が潜り込んでいたか。ジェダイ」
「お前たちは…」
「我々はレン騎士団。私はその騎士団の筆頭騎士を務めているカイロ・レンという者だ」
ライトセーバーを互いに手に取った状態で睨み合うルークとカイロ・レン。
そんな彼を、ルークは師から聞いていたような怒りの力を使って戦いを挑んでくるシスの暗黒卿のように思えたが、カイロ・レンはすぐに襲うような真似をせずに、その場にとどまったまま自身の名を名乗った。
まるで戦いの前に潔く相手に敬意を払う中世の騎士のような出立を思わせるカイロ・レン。彼はマスク越しのくぐもった声で、ルークに問いかけた。
「さて、ジェダイ。貴様をここで始末することが我々の役割ではあるが、貴様にいくつか聞かなければならないことがある。その剣技…誰の師事を受けた?」
「さぁ、答える義務はないね」
「好戦的な言葉だな。ジェダイとはもっと利口だと思っていたが。貴様はクローン戦争を知らずに訓練を受けたのだな?目的はなんだ?共和国政府の再建か?それともジェダイオーダーの再建か?」
「お前たち帝国の支配から、虐げられている者たちを解放するためだ」
言葉の応酬の中、ルークの答えにカイロ・レンは思わず笑ってしまった。何を笑っているのか、とルークの隣にいるレイアの凄みのある目を見てから、数回咳払いをしてから大袈裟に肩をすくめる。
「ああ、失礼。あまりにも常套句過ぎて思わず笑ってしまった。我々の支配から人々を解放するだと?」
小馬鹿にするような言い草がルークやレイアのしゃくに触ったが、カイロ・レンはそれを気にしない様子で言葉を続けた。
「お前は知らないのか?過去のオーダーが何を行ったのか。名のあるジェダイ・マスター達が座していたオーダーがあったというのに、なぜ共和国が倒れて帝国が樹立されたか」
「それは貴方達が共和国政府を壊したからよ」
「そんなもの、皇帝が手を下さずとも滅んでいたさ。穏やかな繁栄に身を委ね、明日を見ずに未来を見つめ過ぎたジェダイたちの過信と慢心によってな」
銀河共和国は、帝国が誕生するまでにわたって銀河系を統治した民主主義国家だ。
平和と正義の守護者であるジェダイ・オーダーに助けられ、共和国は1000年以上もの間、全面戦争を経験することなく運営された。だが、その1000年という月日は、共和国内部を腐り落とすには充分な時間と言えた。
共和国の慢心。ジェダイの慢心。今を見ずに1000年という長すぎる繁栄が生み出した偶像の未来を見るばかり。
結果として、ナブーの侵略と呼ばれる大規模な危機が銀河共和国を襲った。そして果てに銀河系全土を巻き込むクローン戦争が勃発した。
「だからこそ、私たちが共和国を取り戻す。正しい世界の在り方に戻すために」
レイアの言葉に、カイロ・レンも、その後ろにいるレン騎士団の騎士達も呆れた表情をマスクの下で浮かべていた。何一つとして、今の世界のあり方を理解していない無能者の言葉だ。
カイロ・レンは気を取り直し、改まって言葉を紡ぐ。
「おまえ達の言う共和国を取り戻してどうなる?その先には何がある」
「自由よ」
「ああ、そうだろう。そこには自由がある。だが、我々の考える「自由」とはかけ離れたものだ。自由とは何か?抑圧のない世界か?誰もが言論を以って歩み寄ることができる世界のことか?」
民主主義とは何か?共和国の在り方が世界の秩序をどう守った?言論の自由、人権の自由、自由、自由、自由。その呪われた言葉のせいで誰が虐げられ、誰が苦しめられたか。その言葉の意味を本当に理解しているのか?
「我々にとって、貴様達が叫ぶ自由と正義という言葉はあまりにも意味がない。〝自由という言葉以外、何もない〟のだ」
そう。カイロ・レンの言葉は事実だった。反乱軍がいう自由の先には何もない。帝国を打ち倒して、今の帝国よりもより十全な国家体制を銀河に施行することができるというのだろうか。
「帝国ができて、世界は、銀河はどうなった?恐怖による抑圧と反乱者達の弾圧。だが、それと引き換えに秩序と規律を銀河の隅々に行き渡らせることができた。物々交換でしか成り立っていなかった社会体制を立て直し、銀河の端に行ってバーに入っても、クレジットという共通通貨で代金を支払えるシステムが確立された。辺境のアウターリムでだぞ?共和国時代にそんなことができたか?」
共和国の政治の主戦場はコアワールドだ。アウターリムのことなど端から見ていない共和国主義者だからこそ、そういうことを言える。
1000年という繁栄の偶像に縋る者達が、帝国から国家運営を取って変わったとしても、アウターリムで通貨を使って、金を出せば必ず物品を入手できる社会体制を実現できるわけがない。
そんな世界の秩序を成立させたのは、間違い無く帝国の力があってこそだ。
「けれど、そこには抑圧と弾圧、恐怖が付き纏うわ!」
「仕方のないことだ。そうしなければそこまで成り立たせることができなかった。まずは共和国が築いた腐敗した部分を切り落とす必要があった。でなければ過去の繰り返しにしかならん」
ターキンドクトリンもそのための政治施策だ。弱肉強食を地でゆく原始社会がアウターリムにごまんと存在している。ならば、郷に入って郷に従うのが筋とも言える。
ターキンドクトリンの施策は理に適っていた。
その星を統べる強者達を圧倒的な力で下し、その星を帝国が望む社会へと変革させる必要があるのだ。
「だからこそ、我らのような存在が必要となる。銀河の隅々にいる帝国傘下の市民達を守るための騎士達がな」
弱肉強食。その体現者がカイロ・レンのような騎士団だった。適切な政治を思考する者、その示された道を守り、守護する者。共和国末期ではジェダイが思考も守護も担っていた。だから綻びができた。〝守護者が戦士の真似事をして〟、〝守護者が政治屋の真似をして〟、そんな不安定な世界を作り出した共和国は、そうなるべくして滅んだ。
「我々は純粋なフォースを身につけて戦う騎士だ。我々が政治の舞台に立つ事はない。〝我々は政治屋や策謀者ではないのだから〟」
いつかのジェダイマスターが言った。
〝我々は戦士ではない〟と。
なら、そうならなければ良かった。戦士ではなく守護者だというなら、それに徹すれば良かった。共和国が新たな政治体制に切り替えられても、ジェダイの在り方を崩さなければ未来は違っていたかもしれない。
だが、ジェダイはクローン戦争で戦うことを選んだ。それが大いなる間違いだとも知らずに。
「多くのジェダイの生き残りの中でも、こちらの考えに賛同して軍門に降る者はいる。その幾人かは、今のレン騎士団に所属している者なのだ」
〝戦士が政治家や守護者の真似事をして何になる〟
ヴェイダーがレン騎士団の皆に語った言葉だ。
語るに落ちる立ち位置を持つ者と、武器を手に戦う戦士。その分断を明確にし、戦士は思想家達が示した道を切り開く存在となるのだ。
そうあるべきだと、カイロ・レンは信じている。
「故に、改めて言おう。ジェダイよ」
そう言ってカイロ・レンはルークへと手を差し伸べる。
「我々の傘下に、騎士団へと加われ。その力をいたずらにジェダイなどという盲目的な思想に使わず、我々と共に帝国の秩序と規律を守ることに殉ずるのだ」
その言葉に、レイアはルークを見た。カイロ・レンから送られてくるのは穏やかなフォースだった。微睡のような誘いの中、ルークは差し伸べられた手に応じるように、ライトセーバーのスイッチを起動する。
「…僕はジェダイだ。父や師がそうであったように。シスの皇帝が座する帝国の傘下に加わるつもりはない」
帝国がシスの手によって作り上げられた世界だというなら、いつか今の在り方がより恐怖や痛みを伴う危険がある。シスの激しい怒りが銀河を燃やし尽くす。その未来だけは避けなければならない。痛みを伴う変化に、何の意味もありはしない…!!
「そうか」
ライトセーバーを抜いたルークを見て、カイロ・レンは残念そうな声を吐いてから、腰に備わるクロスガードライトセーバーを手に取った。彼の後ろに控える騎士たちは、カイロ・レンに加勢する様子を見せず、ロッドスタッフを構えたまま後ろへと下がった。
「ならば……交渉決裂だな、ジェダイ」
その瞬間、カイロ・レンが握るライトセーバーから真っ赤な炎が立ち上がった。
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ