アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
トワイライト・ボガーノ
アウター・リム・テリトリー。
ボガーノ。
あるジェダイが粛清前に見つけた惑星であり、帝国が台頭したこの時代でも、その星は観測されたどのチャートにも記載されていない幻の星。
ハイパースペースから出たスレーヴⅠは、ボガーノ衛星軌道上から一気に降下するとメサと湿地帯で形成された惑星の空へと姿を現した。
しばらく飛行すると古代のゼフォ種族が建造した巨大な宝物庫が見えてくる。そこを麓とするように、宝物庫の下には小さいながらも宇宙船の発着所や、施設が建てられており、スレーヴⅠは降下すると、空いている発着所へと機体を下ろした。
「これで全てか?ボバ」
輸送ハッチから荷物を下ろしていた船の主に、マンダロリアンの装甲服とは違う、くたびれたクローントルーパーの装甲服をラフに身につけた老齢の男、ジャンゴ・フェットが声をかける。
「そのつもりだよ、父さん。まったく…ハット族の相手をするのも大変だ」
ヘルメットを脱いで息を吐いたのは、立派な成人へと成長を遂げたジャンゴの息子であり、クローンでもあるボバ・フェットだ。彼が下ろしてきた荷物は、タトゥイーンのジャバ・ザ・ハットから支払われたクレジットや、ボガーノに帰還する最中に買った物資などで、まだスレーヴⅠの中に山のように積まれている。
「そういうな、息子よ。ああ見えても彼らは立派なクライアントさ。そんな彼らが、運び屋であった手駒にあそこまで躍起になるとは…」
「ハット族は反乱軍にも帝国にも屈しないつもりさ。アイツらの関心は信頼と金。それに尽きる」
「この仕事をわかってきたじゃないか」
ジャンゴは、思わず愚痴を吐くボバの様子をおかしそうに笑う。根無し草の賞金稼ぎというものはそういうものさ、とも。
そういう父の言葉に、ボバも顔をしかめながら同意していた。なまじ、規律や思考に律儀な友人たちがいるからこそ、抱えることができる悩みでもあるが、ジェダイのような宗教じみた戦士になるつもりは、ボバには毛頭ない。こういった賞金稼ぎの方がよほど身の丈にあっている。
帰ってきた息子と言葉を交わすジャンゴ。その頭上をヨットタイプの宇宙船が過ぎ去った。スレーヴⅠが停泊する隣の発着所へと着陸したその船からは、普段のローブとは違い、動きやすさや輪郭をはっきりとさせた格好をしたシア・ジュンダが、カルとトリラを連れて降りてくるのが見える。
「あぁ、ジャンゴ。彼らを知りませんか?」
こっちに気がついたシアが発着所の間を通って問いかけてきたが、ジャンゴは腕を組んで首を横に振った。
「知らないな。俺たちはアンタらの仲間じゃない」
いつもこれだよ、とカルが肩をすくめると隣にいるトリラが少し楽しそうに笑い、彼女の肩に乗っているBD-1が愉快そうな電子音を鳴らした。
「わかってるわよ、ジャンゴ。けれど、新参者の私達より、あなたの方がこのボガーノのことをよく知ってるんじゃなくて?」
心の奥底を見つめてきそうな目つきで言うシアに、ジャンゴは両手を上げて降参だというポーズで答えた。
「負けたよ、北の渓谷さ。この時間なら、あの親子はそこにいる」
ジャンゴの答えに、シアは礼を伝えてからポケットに入れていたクレジットをジャンゴへ渡して渓谷へ続く道へと降りてゆく。なんだ、よくわかってるじゃないかと、現金主義者でもあるジャンゴは受け取ったクレジットを懐にしまう。
「見てないで手伝ってくれない?」
「わかった、何クレジットで手を打とうか」
「そう言うと思ったよ」
天を仰ぐように呆れる息子を見つめながら、ジャンゴは小さく笑って彼が苦戦している物資のコンテナを持つのを手伝うのだった。
▼
見晴らしがいいメサの上。太陽の光の下、青白い光を放つ刃を、全く同じ型で繰り出す二人のジェダイがいた。
その型は流れるように大気を切り裂きながら舞い、ライトセーバーを振るう二人の影は乱れることなくピッタリと揃ってその切っ先を自在に操っていた。
フォームII、またの名をマカシ。
伝統的な7つのライトセーバー型の中で、対ライトセーバー戦を想定し作られた物だ。
精確さと効率性に重きを置いており、これを繰り出す者は自身の武器を失う状況を的確に回避しつつ、最小限の動作で身を守ることができる。
優雅で集中的と描写されるマカシ。
それは敵の裏をかくためのバランスとフットワークを基本としていた。
湿地帯の泥を跳ね除けながら繰り出される剣戟は叩き切るような大振りな動きよりも打突や浅い切り込みを多用し、強さよりも流動的で正確な無駄のない動作を重視した。
ドゥークーを始め、クワイ=ガンなどのジェダイがその技を身につけたが、クローン戦争時にはヨーダにも勝ると言われたほど極めたのが、アナキン・スカイウォーカーだった。
その彼の息子であるルーク・スカイウォーカーは、修行時代からフォームⅠであるシャイ=チョーや、フォームⅢのソレスを重点的に身につけていたため、父の指導のもとライトセーバー戦を想定した修行に明け暮れていたのだった。
「マスター・スカイウォーカー!」
マカシの剣舞を繰り出すスカイウォーカー親子の元に、渓谷に作られた足場を通ってやってきたのは、シアだった。アナキンとルークは剣舞を切り上げると、ライトセーバーを腰へと収納してシアを迎えた。
「シア、僕はもうジェダイ・マスターじゃないさ」
「私にとっては変わりません。マスター・ケノービと同じように。貴方たちに見せたいものが。すぐに本部へ来て欲しいの」
「なんなんだ?」
随分と慌てている様子だとアナキンが言葉を交わすと、シアは顔つきを暗くしてから二人へと言葉を出した。
「反乱軍の秘密基地が、帝国に嗅ぎつけられた」
シアの言葉に、アナキンとルークは顔を見合わせた。
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「惑星ホスか。帝国もよく見つけたものだ」
「彼らはデス・スターを破壊された。その報復として反乱軍の行方を血眼になって追っているのよ。探査ドロイドを銀河中にばら撒いて」
「ボガーノが見つかるのも時間の問題と言ったところだねぇ。どうするんだい?」
アナキンたちがボガーノの中枢部へと戻ってくると、シアから情報を受け取っていた「ノーバディ」のメンバーたちが立ち話ながら今後の方針について話し合っていた。
現リーダーであるモール。
実行部隊を取り仕切るアサージ・ヴェントレス。
そして、それらを補佐するのはアナキンのかつてのパダワンだったアソーカ・タノだ。
アサージからの問いかけに、モールは腕を組んだまま緩やかな声で答える。
「どうもしない。我々の目的は反乱軍の動向や帝国の動向に左右はされないのだから」
「反乱軍を見捨てるのですか?」
ノーバディの意思でもあるモールの決断に異議を唱えたのは、アナキンの隣にいたルークだった。他のメンバーが見つめる中、ルークは前に出てモールへと具申する。
「これほどのフォースとの繋がりを持っている貴方たちは、なんで帝国に立ち向かおうとしないのですか!!」
「立ち向かって、何になる?」
「ルーク、この話ならもう何度も」
モールの単調な切り返しと、隣にいるシアがルークに言葉をかけたが、まだ若いジェダイであるルークには納得できるものではなかった。
「僕は納得できません!今も帝国の圧政は強まるばかりで、人々は苦しんでいる。なのに、何もしないなんて…」
その言葉に、モールはあきれたように息をついてから、その赤と黄色の眼光を若きスカイウォーカーへと向けて語った。
「帝国が圧政を強いる理由を作ったのはお前たちにも原因はある。デス・スターを破壊されたからじゃない。その中にいた優れた統治者を倒してしまったからだ」
帝国の圧政は、銀河帝国が宣言されてから始まっていたがまだ緩やかな物であったと思い知る。デス・スターが反乱軍によって破壊されてから、帝国の圧力は強まるばかりで、強硬的な政策も次々と取り入れられるようになっていたのだ。ただ、その原因は帝国内部で完結する話ではない。
「ターキン総督は帝国軍内でもかなりの力を持っていた。だからこそ、彼が抑えていた派閥や、人脈もあった。けれど、それがデス・スターと共に亡くなったのよ」
「今の帝国にとって、圧政も反乱軍の掃討も、皇帝陛下にパフォーマンスするための動機しかないねぇ。空いているターキンのポジションに誰が座るか、みんな必死なのさ」
アソーカとアサージが言うように、今の帝国はターキンというグランド・モフの地位が空席となったため、内部闘争で荒れていると言ってもいい。次の「ターキン」は誰なのか。誰が彼の後継者になるのか。帝国軍の高官の意識にあるのはそれがほとんどだ。
その中で見せしめに星が破壊されたり、帝国市民が虐殺されたなんてものもあり、穏やかであった帝国の統治は一気に恐怖政治へと転がり落ちているようにも思える。
「けれど、それで無関係な人が苦しんでいるのは事実だ。だから、反乱軍に手を貸して…」
「反乱軍に手を貸してどうする。帝国を打ち倒すのか?そして1000年続いた共和国の再建か?笑わせてくれる」
『お前たちの理想には〝自由〟しかない』。ルークの中で、カイロ・レンから言われた言葉がフラッシュバックした。モールの言う指摘も、このボガーノでの修行で幾らか理解することはできたが、それを飲み込めと言われてもまだ若いルークには難しい物でもある。だが、モールは容赦しなかった。
「クローン戦争でどっぷりと戦争経済にハマった銀河経済が、銀河帝国の力だけで立ち上がっていると思うか?反乱軍の兵器や戦闘機、武器、弾薬、基地設備、それらを作るための材料はどこから供給されている」
「それは…」
「光と闇、正と負、陰と陽。帝国と反乱軍。お前たちは同じ武器を同じ場所で買って戦い合ってる。結局、彼らがぶつかることができているのは、クローン戦争の利潤を忘れられない政治家や武器商人たちが後押しする延長線なのさ」
彼の表示するモニターには、TIE・ファイターを作る企業と、Xウイングを作っている企業が同じであることを指し示していた。それを見て、アソーカも落胆する。
たとえ、このまま反乱軍が帝国を倒し、共和国を復活させても今の世の中の仕組みが変わらない限り、また新たな帝国、新たな反乱軍が生まれて、戦争が起こり…そういった負の連鎖は永遠に続いていく。これでは根本的な解決になっていない。
故に自分たちは、大局的な物の見方をしない。もっと明日を、近くの未来を見つめてフォースの先を見つめなければならないのだ。
「けれど…それで帝国の好きにさせるわけにはいかない。終わらない戦いなんて、どこにもないんだ!!」
「ルーク!!」
そう悲鳴のような声を上げて、ルークはアナキンの制止も聞かずに司令室から飛び出してゆく。おそらく自分の船が止めてある発着場へと向かったのだろう。やれやれとアナキンもルークが出て行った後を追おうとして足を向けた時だった。
「スカイウォーカー。やはりお前は俺たちと共には来ないか?」
腕を組んだまま、こちらを見ずに言うモールの言葉に、アナキンは動かしていた足を止めてたたずんだ。その言葉は、このボガーノに来てから何度も言われている物だった。
「お前ほどの力をいたずらに消耗して何になる。息子と同じように反乱軍に加担するか?そうすれば、クローン戦争と同じ過ちを繰り返すことになるぞ。お前ならそうならないと言うのか?そんな保証はどこにもないというのに」
そもそもの話。
世界のバランスの在り方と、フォースのバランスは絶対的に等しいわけではない。
だが、今ジェダイやノーバディが、どちらかの陣営に加担すれば、天秤は傾く。その結果、帝国が敵になるか、ノーバディが敵になるのか、それとも良き理解者になるか、それは天秤が傾いてからじゃないとわからないことだった。
あえてモールは問うた。「それを踏まえた上でお前は息子と共に反乱軍の元へと向かうのか」と。
「モール。僕は戦争を終わらせるために戦うわけじゃない。その真意を知るために向かうんだ。なぜ、皇帝は…パルパティーンは、この戦争を続けているのか。やり方は他にいくらでもあるというのに、彼はクローン戦争の延長線を描いているだけだ」
アナキンはモールの方を振り返らずに言葉を続けた。
確かめなければならない。
フォースが強く、そう語りかけてくる。
あの時のアナキンもオビ=ワンも、盲目的にジェダイや、共和国の体制を信じすぎていた。自分の目で確かめもせず、〝親友〟の声も聞き漏らして。彼の孤独、彼の痛み、彼の苦悩…自分はそれを何一つ理解できていなかった。
「だから、確かめるよ。自分の目で。自分の耳で。そして答えを自分で出す。それが僕に課せられた…フォースと歩み始めた使命だ」
覚悟を決めた顔つきで答えたアナキンに、モールは瞑目するように眼を閉じてから、ゆっくりと開けてアナキンを見据える。
「その先に、何が待っていたとしてもか?」
「それを知るために、僕は再びライトセーバーを握ったんだ」
穏やかなフォースであった。明らかにクローン戦争の時よりも力強く、根強いものとなっているだろう。モールは小さく声を漏らしてから、アナキンへと向き直った。
「アナキン…辛い道のりになる。だが、フォースはお前を導いている。乗り越えるのはお前自身だ。フォースと共にあらんことを」
「さらばだ、古き友よ。フォースと共に」
その言葉を交わしてから、アナキンは部屋を後にする。不安そうにモールを見つめるアソーカ。わかっている。彼が歩もうとしている道は過酷そのものだ。だが、進む以上、フォースは何かを示そうとしている。
その先に、たとえ何が待っていようとも。
今はただ、静かにモールはその行先を案じることしかできなかった。
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ