アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
〝ファイターの操縦なんてしたことがないぞ!?〟
感覚が赴くまま、TIE・ファイターの格納庫へと足を踏み入れた。導かれるままに監視の目を掻い潜り、エンジンが待機状態となっている最新型のファイターに乗り込んだところで、我に帰った。
ファイターのパイロット教育など受けていない。目の前に広がるコンソールパネルのどれがスイッチなのかも分からない。
〝感じるままに扱えって言われても!!〟
操縦桿を握りしめると、不思議と機体は自分の言うことを聞いてくれたような気がした。固定リブを引きちぎり、イオン魚雷を置き土産にして飛び立つファイター。
母艦であるスター・デストロイヤーの複雑な構造物を入り組むように飛んで少しでも早く船から離れるように舵を切る。無我夢中だ。周りの音も声も情報量が多すぎて思わず悲鳴を上げる。
〝くそ!!やっぱりファースト・オーダーから逃げるなんて無謀だったんだ!?〟
船が少し遠ざかったところで、後部から迫る熱源を感知したファイターのセンサーから警告ブザーが響いた。確認するまでもない。追尾してきているのはスター・デストロイヤーから発射された高精度追尾弾頭のミサイルだ。
拙い操縦の最中、直感的に理解する。この攻撃を避ける事はできない。
〝ミサイル…!?これ、避けきれ——〟
いや、これでいい。そんな声が聞こえたような気がした中、ミサイルの一撃がTIE・ファイターを捉え、左側面のソーラーパネルの大部分を吹き飛ばした。機体制御が叶わない中、吹き飛ばされた残骸と共にファイターは切り揉み、深い緑に覆われた惑星へと墜落してゆくのだった。
////
息苦しさを感じてハッと目を覚ました。途端、口の中に異物感を感じ、こみ上げてきたものと一緒に吐き出してのたうつ。泥臭さと気持ち悪さが一挙に来て気分は最悪だった。
仰向けからうつ伏せとなり、痛みが覆う体をなんとか起き上がらせようと地面に手を置いた。そこには鉄独特の冷たさはなかったが、代わりに自然的な寒さがあった。
湿っている。手を見ると水分を多く含んだ土がこびりついていた。あたりを見渡すと、自分が横になっていた場所が湿地帯であり、池のほとりであったことに気がつく。いや、池というより沼地というべきか。すぐそこでは不時着したであろうTIE・ファイターの残骸が泡吹きながら沼地へと沈んでいく様子が見えた。
どうやら大気圏をなんとか突破したファイターはこの沼地に墜落し、自分は運良く船から放り出されたのだろう。そう思いそうになっていたが、ふと思考を止める。
そんな都合よく、ほぼ無傷で船から放り出される事はあるだろうか?
墜落時。ミサイルが当たった衝撃で自分の意識は刈り取られていた。無意識に体は動くものだとは教えられたが、そこまで正確な動きをしているのは不自然だ。
トルーパーの装備から泥を払い立ち上がる。上を見上げても、宇宙で感じていた息苦しさや喧騒はない。空は厚い雨雲と霧で覆われていて、あたりには聞いたこともないような野鳥の声が。
「どうやら、道に迷っておるようだのぅ?んん?」
声をした方向へ咄嗟にブラスターを構えた。目にしたのは薄汚れたローブを身に纏う緑色の小人だった。
「ああ!撃つな馬鹿者!」
両手でブラスターから顔を覆い隠してある小人を見て、すぐに銃口を下ろした。相手は武器も持っていない様子であり、完全に怯えている。
「悪かったよ…。少し、気が動転していて」
「トルーパーにしては、やけに理性的だのぅ?」
腰のホルスターに武器を収めると、小人は小さな歩幅でこちらへと近づいてくる。まったく無用心な。こちらがファースト・オーダーの兵士であると知っていながら…そう思うが、もう自分は脱走した身。ここがどんな惑星なのかもわからないし、ここから出られる術も知らなかった。
「俺はもう…兵士じゃない。逃げ出したんだ。ファースト・オーダーから。恐怖のストーム・トルーパーの一人さ。それに、多くの恨みも買っているだろうし…」
「ここから出る術を知らぬというよりも、ここから動く未来が見えぬと言った様子かのぅ?」
腰を降ろして呟くように言った言葉を、緑の小人はまるで心を見透かしたように言う。ぞくりと感覚が研ぎ澄まされた。年老いたその眼光が自分の全てを見透かすかのように見えて。
「安心するがよい。若き兵士よ。この星にはワシともう一人、そしてお前さんしかおらん辺境の星じゃ」
かかか、と小人は笑う。その笑顔に少し心が落ち着いたような気がした。と、同時に体が震えてるのがわかる。沼地ですっかり体の体温が奪われたのだろう。トルーパーの生命維持装置もとっくに尽き果てているようだった。
「この星の夜は長い。若き兵士よ、ついてくるがよい。小汚い所ではあるが寝床くらいは用意できるじゃろう」
横に落ちている杖を拾い上げた小人は、軽やかな足取りで沼地の奥へと進み始めた。しばらく呆然とその場に立ち尽くしていると、奥に進んだ老人がこちらを急かしてくる声が響く。
ここにいても確かに何も始まらない。暗くかげり始めた空を見上げて、ブラスターをぶら下げたまま、奥へと進み続ける小人の後を追う。
「越えて行かれる役目が、マスターの務めですよね?マスター・ドゥークー」
「まったく、君にはいつも手を焼かされるよ」
ここは、惑星ダゴバ。
遠くから見つめる二人の淡いフォースの霊体、それにフィンは気付くことなく、かつてのグランドマスターの霊体の後を追って、かつて二人のジェダイが修行に明け暮れた森を進んでゆくのだった。