アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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フォールンオーダー

「着いたぞ、ジオノーシスだ」

 

スティンガー・マンティスのコクピットで、船長であるグリーズ・ドリタスがそう告げると、乗船していたカル・ケスティスは、トリラ・スドゥリ、そしてナイトシスターであるメリンらと共に、荒野の大地へと降り立った。

 

アウター・リム・テリトリー。

 

アケニス宙域に属するジオノーシスは、砂漠の惑星であった。

 

月と彗星の衝突によってできた巨大な小惑星帯のリングに囲まれ、地表には岩石の荒野と砂漠が広がっている。その光景を見て、まだ銀河の果てが見えないメリンは感慨深そうに息をつく。

 

「本当に砂漠しかない土地なのね」

 

「ジャクーよりはマシさ。あそこは温度もこことは比べ物にならない」

 

ナイトシスターの伝統的な衣装束から、環境に応じて変更できる服装へと変えたメリンの言葉に、カルはBD-1を肩に乗せたまま答える。ジオノーシスは荒野であるが、ジャクーやタトゥイーンは完全な砂漠惑星。まだ暑さもマシなジオノーシスのほうがよほど居心地は良かった。

 

「おしゃべりは程々に。私たちはここへ観光しに来たわけじゃないんだから」

 

「わかってるよ、トリラ」

 

二人を諫めるように言うトリラに従って、カルたちはジオノーシスの荒野を歩く。しばらく進むと、赤い地表と幾つもの尖塔が現れ、崖から覗く眼下には荒野には似合わない機械的な地下施設が広がっていた。

 

その様子を見て、メリンが顔をしかめ、少しよろめく。肩を抱いてカルが受け止めると、彼女の体はわずかに震えていた。

 

「メリン、何かを感じるのか?」

 

「ええ…ここでは…恐ろしいことがあった。ダソミアで起こったことと同じような何かが…」

 

緑色の煙のような陰影を浮かび上がらせるメリンの脳裏には、聞き取ることができないほどの断末魔の叫び声が聞こえてくるようだった。ダソミアで起こった殺戮。その後に残されたメリンが感じ続けていた、息が詰まりそうな重みがあるように思えてならない。

 

顔色を悪くするメリンの側に、後から付いてきていたシア・ジュンダが荒野を見渡しながらカルたちに声をかける。

 

「——かつて、この星にはジオノージアンという種族がいたわ。クローン戦争の時よ」

 

この地で生を育んでいたジオノージアンは不運にも利己的で、合理的だった。共和国に組みさずに分離主義者と手を組んでおり、同時にシスの暗黒卿とも手を組んでいたのだ。知性的なジオノージアンが設計した〝究極兵器〟を作り上げるために。

 

「デス・スターを完成させた帝国は、秘密を知るジオノージアンを皆殺しにしたのね…。BD-1が生命体反応をキャッチできなかったのもそれが理由」

 

「酷いな…」

 

シアの説明を聞き終えたカルが簡潔に心に感じ取った思いを口に出した。

 

「けれど、身から出た錆とも言える最期ね」

 

「虐殺することはなかったはずだ。それも種族を根こそぎなんて」

 

トリラの言うことも尤もだ。彼らは分離主義者、それもシスに加担したのだ。嘘と虚構が常套句であるシスが、ジオノージアンの要求すべてに応じることなど考えにくい。彼らは信じた闇に裏切られてこの世を去ったのだ。だが、それでも、その最期はあまりにも凄惨で、惨いものであった。

 

「デス・スターの設計図を知っている以上、秘密裏に敵国への対抗策で建造されるわけにもいかなかったんでしょうね」

 

シアがそう続けても、カルの心が晴れることはなかった。物体のフォースの記憶を読み取ることができる彼は、より顕著にジオノージアンの最後を感じ取ってしまっていたからだ。そんな中、カルのコムリンクに通信が入る。

 

《お楽しみのところ悪いが、俺たちの仕事が何だったか覚えてるやつはいるか?ん?》

 

「わかってるさ、グリーズ」

 

《ああ、それならよかった。安心だな》

 

マンティスの船長であり、このチームのムードメーカーでもあるグリーズの言葉を聞いてから、カルたちは自分たちの目的である場所へと移動を開始する。ワイヤーを崖に固定し、茶色い岸壁を降りてゆくと、さっきまで感じることのなかった鉄の床の感触を踏み締めた。

 

「この星にはドロイドを生産する工場があると同時に、大規模な鉄鉱山もあるの。ドロイドのボディや装甲を作るために使われる鉄は全てこの星で賄われてるの」

 

「今まで無人だったはずのその鉱山に出入りする組織があると…?」

 

シアの言葉に問いかけたトリラ。彼女の質問には、通信を繋ぎっぱなしにしていたグリーズが答えた。

 

《あくまで噂だがな?だが、ハクシオン・ブルードが躍起になって追ってる案件なだけの情報価値はあるな》

 

〝ハクシオン・ブルード〟は、アウター・リム・テリトリーで活動する犯罪シンジケートだ。過去の一件でカルが捕らえられ、アリーナで怪物たちと戦わされて以降、向かう先で邪魔をしてくる厄介者たち。

 

だが、カルたちにとってハクシオン・ブルードは無関係な存在。彼らがカルを敵視する理由はないが、カルの仲間であるグリーズを目の敵にするには十二分な理由があった。

 

「また揉め事?グリーズ?」

 

うんざりするハクシオン・ブルードの名を聞いたカルがうんざりした様子でグリーズに聴くと、彼は誤魔化すように早口で答える。

 

《まさか。俺はもうギャンブルには手を出してない。日がな一日、マンティスで観葉植物を育てたり、腹を空かせて帰ってくるお前たちにステーキを焼いたりするくらいな日々だ。まぁ…なんだ、過去のことを引っこ抜けばだがな?》

 

「グリーズ?」

 

《わかってる!トリラ、そう怒ったような声で呼ぶな!とにかくこんな気味の悪い星からはさっさと抜けちまおう》

 

そう言い終えてコムリンクを切ってしまったグリーズに、全員が呆れたように肩をすくめる。「私は彼のこと好きよ」と、まだ迷惑をあまりかけられてないメリンが挙手してフォローするが、あまり効果はなかった。

 

「とにかく、廃墟になった工場を調べるしか他ないわね」

 

「ああ、それにグリーズの言う通り、ここは嫌な予感がする。早めに立ち去った方が良さそうだ」

 

シアの言葉に賛同したカルは、嫌な予感を外へと追い出し、トリラたちと共に廃坑となったジオノーシスの地下へと飛び降りてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

地下へと降りたカルたちが目撃したのは、かつては分離主義者たちが戦力として扱っていたドロイド工場の跡地であった。

 

潤沢な資源から掘り出された材料を用いて、ジオノージアンはドロイドを作り上げていたのだ。

 

だが、その工場も今では廃墟同然。クローン戦争を彩ったドロイド兵もスクラップ同然。まさにつわものどもが夢のあと、と言ったところだろう。

 

だが、奥へとカルたちは足を進める。相棒であるBD-1は、廃墟と化した工場という目先の情報ではなく、より奥底にある〝何か〟を発見していた。廃墟の中を進むカルたちが、工場の最下層にたどり着いた時だ。

 

奥底から何かが動く音がカルたちへと届く。

 

「稼働している…。ドロイドたちが何かを作ってるぞ」

 

通気口を抜けた先、点検用通路から工場の様子を見つめるカルたちは、作業用のアームやドロイドが何かを製造している現場を目撃したのだ。

 

「やっぱり廃墟になったという噂はカモフラージュだったのね。カル、トリラと共に制御室へ、私はドロイドの注意を逸らすわ」

 

ブラスターを腰に下げるシアが慎重にそう言うと、彼女のパダワンであったトリラが小さく笑った。

 

「懐かしいですね、マスター。あの時も貴女が前に出て私やパダワン見習いを守ってくれました」

 

彼女が思い出していたのは、コルサントを逃れた後の事だった。クローンの反逆、オーダー66によって多くのジェダイが命を落としたあの時、シアは共に脱出したジェダイ・イニシエイトを守るために単身で帝国率いるクローン兵と戦いに挑んだことがあったのだ。

 

その過去を思い返して、シアは申し訳ないようにトリラへ視線を送る。

 

「トリラ、私は守れてはいなかったわ。ノーバディに属することになってから、私は見た通りフォースとの絆を絶ったのよ。それは今でも変わらないわ」

 

「けれど、マスターは正しいことをしたはずです」

 

そう言ってくれるかつての弟子に、シアは力なく首を横へ振った。思い出すのは、トリラたちを守るために戻った瞬間。トルーパーに押さえつけられたトリラ、そして銃口を向けられ怯える子供たちだ。あの時、モールや他のノーバディたちが助けに来てはくれたが…。

 

「貴女たちを守るために私はダークサイドに手を伸ばしかけた。他のノーバディたちの助けがなければ、私は今頃もっと多くの大切なものを失っていたはず…だから、私は…」

 

その瞬間、カルたちがいた点検用の通路が赤い光によって溶断された。支えていた柱ごと切られたことで、カルたち全員が下へと投げ出される。カルはメリンを、トリラがシアを庇う形で着地するが、体を強く打ち付けた二人は、しばらく鉄の床の上で呻く。

 

「来ると思っていたぞ。半端者たち」

 

その声に、カルが顔を上げた。真っ赤な鉄が溶鉱炉へと流し込まれている光景を背に、ブーツの音を響かせながら無精髭を生やした男が笑みを浮かべてカルたちへと歩み寄ってくる。

 

「タロン・マリコス…!!」

 

声を上げたのは、カルの腕の中から立ち上がったメリンだった。ナイトシスターの一件で、ジェダイを仇とすり込まれた彼女にとって、その首謀者であったタロンには並々ならぬ感情があったからだ。激情に顔を歪めるメリンを見て、タロンはわざとらしくお辞儀をするような素振りを見せる。明らかな挑発だ。

 

「メリン、元気にしていたか?ダソミアを出て世界が広がったであろう?」

 

「喋るな、このペテン師め」

 

「人聞きの悪い言い方はよしてくれ。私は実に真実を君に伝えただけだ。〝ジェダイがダソミアの戦士や君の姉妹を殺した〟とな」

 

そう答えたタロンに、緑炎の塊を手に宿らせるメリン。怒りに身を任せる彼女の肩を、立ち上がったカルが押さえた。穏やかなフォースを流して、怒りに震えるメリンをなんとか落ち着かせる。

 

「ジェダイではないだろう!彼らを虐殺したのは分離主義者たちだ!」

 

「いいや、違うぞ?ケスティス。ジェダイが殺したのだ。旧共和国の評議会がライトセーバーを手にクローン戦争に乗り出した段階でな」

 

カルの問いに、タロンは簡潔に答えた。それが全てだと言わんばかりに。その余裕とも思える表情に、トリラも苛立たしげに顔をしかめた。

 

「こじ付けを…!!」

 

「だが、正しい物の見方だ。ジェダイが平和の守護者ではないと理解しているのはお前たち〝ノーバディ〟であろう?何を異議を申し立てる必要がある。ジェダイがライトセーバーを手に戦場に出た段階で、本質から外れていると理解しながら、お前たちは何故ダークサイドの力にあらがう」

 

「その力もまた、単なる一方からの視点から見た在り方に過ぎないからよ、タロン・マリコス」

 

「ははっ、賢くなったな?トリラ。もうパダワンからは卒業といったところか」

 

カルたちの周りを、タロンはまるで獲物を狙う猛獣のように歩み、間合いをはかる。彼の手には、すでに二刀のライトセーバーが握られていた。

 

「かつて、そのすべてに気がついた偉大なジェダイがいた」

 

緊張感に包まれる中、元ジェダイであったタロンは語り部のような口調で言葉を紡ぐ。

 

「共和国の平和の守護者などという無駄な肩書きに惑わされず、フォースの真意を見つめる偉大な存在。クローンに裏切られた私はそこでようやく気づかされた。彼という存在のあり方こそ、私が求めた真なるジェダイへの道なのだと」

 

そして同時に、それが私に新たな道標を示した。ジェダイ評議会などと言う偽りの守護者どもとは違う、はっきりとした道を。そう語るタロンに、カルはライトセーバーを構えて声を上げた。

 

「答えろ、タロン!お前はここで何をしている!このドロイドたちは何を作っているんだ!!」

 

「いいや、何も?私がここにいるのも後片付けと言っていいだろうな」

 

「とぼけたことを…!!」

 

「とぼけてなんていないさ。すでにここは〝用済み〟。お前たちがここに来る段階で計画を明かすほど、我々が間抜けに見えるか?」

 

すでにこの場所を使って行う計画は終了している。あとは無意味に動き続けるこの工場を跡形もなく消滅させることが、私の任務だ。そう続けたタロンに、シアは目を細めた。

 

「我々?タロン、貴方は…」

 

その言葉を、鉄を切り裂く音が遮る。タロンの両の手から伸びる赤い光刃は、鉄の床に真っ赤な爪痕を残し、その威光を示す。

 

「お前たちは罠に嵌ったのだよ。私の手で引導を渡すためにな…!!」

 

これは…まずい!カルの直感が叫んだ。ダソミアで戦った相手とは違う何かを、今ははっきりと感じる。

 

「構えろ、トリラ!!」

 

言われるまでもない、そう言わんばかりにカルとトリラは懐から黄色い光を立ち上らせるライトセーバーを構える。シアもブラスターを構え、メリンも両手に緑炎を纏った。それを見ても、タロンは瞳を黄金色に輝かせて笑みを浮かべる。

 

「すべては、あの方のために…!!」

 

二つの赤い刃を地に迸らせて、タロンは構えたカルたちへと襲いかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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