アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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生まれた場所こそが〝世界〟の全てであった

 

 

「ソロを炭素冷凍に?俺に死体となったオブジェクトを渡すつもりか?死ねばハットが黙っていないぞ?」

 

ベスピン、クラウド・シティのカーボン凍結装置が備わる施設の中、幾人のトルーパーを護衛に悠然と立つスローン大提督に、ハン・ソロの引き渡しのために呼び出されたボバは、怪訝な顔つきで、そう言葉を吐いたスローンを睨み付ける。

 

カーボン凍結。

 

その名の通り、炭素冷凍であるそれは、もともとは不安定な物質を閉じ込め、安全な保管や運搬を可能にするテクノロジーだ。

 

ベスピン・モーターズ社製のカーボナイト保管リパルサー・スレッドを用いてカーボン凍結が行われていることは、運搬業も熟すボバも周知の事実であった。しかし、この技術はあくまで〝不安定なガス〟や〝エネルギー物質〟などを封じ込めるための技術であり、当然ながら知的種族などの生き物に対する使用は想定されていない。使えば命の保証はないだろう。

 

ジャバ・ザ・ハットが依頼した内容はハン・ソロを生きて連れてゆくことだ。カーボン凍結により命を失った彼を持っていったところで、ハット族が代金を支払うなど考えづらい。

 

だが、スローンはボバの発言など知ったことかと言わんばかりに見下した物言いで返した。

 

「皇帝の指示でもある。これが成功すれば、手軽に捕虜を冷凍し収容所へ移設できるのだからな」

 

「体の良い人体実験というわけか…」

 

苛立つように言うボバに、スローンは鼻で笑って答える。

 

「何を足踏みをする?賞金稼ぎ?貴様たちにとっては金が全てではないのか?」

 

「だが、通すべきものある。俺は父からそれを学んだ」

 

「偉大なるジャンゴ・フェットからか?フン、与太話に過ぎないことを過信すれば、君もいつかは痛い目を見ることになるぞ?」

 

所詮は大戦の時の話。帝国支配下となって表舞台から姿を消した父の話を与太話と一蹴するスローンに、ボバは言い難い怒りに似た感覚を覚えた。共に賞金稼ぎを業(なりわい)とするが、父は偉大な賞金稼ぎだ。言葉では言わないが、ボバが父の背を追っていることも事実。

 

そんな父の歴史を与太話とこの男は一蹴したのだ。正直に言うならこめかみにブラスターを突きつけて引き金を引きたい気分だが、相手は帝国軍の大提督であり、クレジットを出す相手だ。

 

「かもしれないな」

 

湧き上がる怒りを噛み砕き、ボバは素っ気なく答えた。帝国がこれほどの規模で動いているのだ。ハンを炭素冷凍することは決定事項なのだろう。彼が万が一にも死亡した場合は、その賠償金を帝国にふっかけてやるか、と意識を切り替える。

 

そんなことを考えていたボバの前に、手錠で拘束されたままトルーパーたちに連行されるハンの姿が見えた。そして、その後ろにいる者たちも。

 

ウーキー族の後ろにいるレイアと、彼女の母であるパドメ・アミダラ…またの名を、パドメ・スカイウォーカー。

 

彼女たちとボバは古くから交流があった。父がアナキンとパドメを救出してから、極秘裏の運送依頼を受け、何度かスカイウォーカー家とボバは顔を合わせている。まだ幼いレイアに、スレーヴⅠに乗せてとせがまれ、父に内緒でナブーの軌道上まで上がったこともあった。そのあと、父やアナキンから叱られはしたが、ボバにとってはかけがえのない思い出だった。

 

彼女が政治家の道を志した時も、オルデランを通じて反乱軍に加勢した時も、ボバ自身は反対だった。

 

父と共にクローン戦争の鉄火場を潜り抜けてきたからこそ、ルークはともかく、レイアには様々な思惑や野望、野心、欲望が渦巻く人間の醜い側面を知らずにいてほしかった。

 

何よりも、賞金稼ぎとして生きる自分の世界を知ってほしくなかった。

 

やめろ、そんな目で俺を見るなよ…レイア。

 

助けを乞うような目を向けるレイアの視線に耐えきれず、ボバはマスク越しにそっと目を逸らした。今の自分は帝国側に雇われる賞金稼ぎだ。高尚な思想や、理念を持つレイアたち反乱軍や、帝国軍ですらない。クレジットで人の命を狩り取るロクデナシだ。

 

そんな中、白い煙が立ち昇る炭素冷凍装置の前にトルーパーによって連れ出されるハンを、レイアが引き留めた。

 

「ダメよ!ハン!炭素冷凍だなんて…」

 

「死にはしないさ」

 

肩をすくめて、ハンはいつもの調子で答える。人…ましてや、生き物が味わったことのない未知の行為だ。人道に反する以上に、非道で、残酷な行為だ。

 

ただでさえ、ハンはレイアやパドメの代わりに帝国の凄惨たる拷問を受けている。強がってはいるが、精神も肉体もボロボロになっているはずだった。

 

レイアの後ろにいるチューバッカが、悲しげな声色で吠えるが、ハンは元気付けるようにチューバッカへウインクを返した。

 

「ハン、貴方は勇敢な戦士です。だから必ず、生きて戻って」

 

パドメは、エコー基地から逃れる際にデブリに逃げ込むなんて言う破天荒さを見せたハンに驚きはしたものの、その心の奥にある勇敢さや、正義感を認めていた。

 

彼は立派な男であり、今も足がすくみそうな恐怖があるだろうに、毅然とした態度で帝国と向き合っている。

 

彼を失うことはあまりにも手痛い仕打ちだ。未だ先が見えない帝国と反乱軍の戦い。より先にある〝未来〟では、彼のような自由の象徴が必要となるはずだ。

 

その思いを込めて告げたパドメの言葉に、ハンは驚いた顔をするが、頭を下げて礼を持って答えた。

 

「光栄ですよ、アミダラ将軍」

 

その時、レイアは母の隣を飛び出して、死地に向かうハンへ縋り付くように寄り添って、その口元へ口づけを交わした。

 

誰もが言葉をなくした。

 

母や周りの目すら気にせずに口づけを交わす二人。彼女とハンが、デス・スターを破壊してから育んできた愛は、二人が想像するよりもずっと大きなものとなっていた。

 

「愛してる」

 

「知ってたさ」

 

トルーパーによって引き剥がされた最愛の人へ、レイアはようやく育んできた思いを告げて、ハンはいつものようなニヒルな笑みを浮かべながら頷く。手錠が外され、炭素冷凍がセットされてゆく。

 

スローンが手を上げた。

 

それを見たベスピンの技師が、炭素冷凍装置の起動キーに手をかけようとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺はなんて馬鹿なんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが自虐に満ちた悲鳴を上げた。すると、突如としてソロの両脇にいたトルーパーが倒れる。致命傷となる場所へ、赤いブラスターの閃光が命中したのだ。ハンが驚いた様子でレイアたちを見た。

 

だが、彼女たちが撃ったのではない。

 

レイアの視線を追うと、そこにいたのは父から譲り受けたブラスターピストルを二丁、腰のホルスターから引き抜いたボバ・フェットの姿があった。

 

「早くこっちへ!」

 

パドメの大声で、止まっていた時間がようやく動き出した。火花が散る炭素冷凍装置から駆け出したハンは、レイアたちと合流すると、彼女たちを監視していたトルーパーを、ポッカリと開いた通路の外側へと体当たりで押し出す。

 

悲鳴を上げて煙の中に闇へと落ちてゆくトルーパー。その中で、ボバはレイアたちが逃げられるよう退路を作りながらブラスターを撃ち放った。

 

彼女が何かを叫んでいたが、ボバは聞こえないフリをした。

 

愛するものを目の前で失う辛さを、ボバはなぜか知っているような気がした。口づけを交わす二人を見たボバには、転がる父のヘルメットのビジョンが見えた。ショックも大きかったが、それ以上に大切な何かをボバはうっすらと感じ取っていたのだ。

 

「裏切るか!!賞金稼ぎ!!」

 

隣で倒れるトルーパーに目もくれず、さっきまで余裕がある笑みを浮かべていたスローンが、怒りに赤い瞳を滾らせながらブラスターで次々と帝国兵を撃ち抜くボバへと非難の罵声を浴びせる。

 

そんなもの、慣れたものさとボバはマスクの下でほくそ笑んだ。

 

「ハンの身柄は貰っていく、あとの仲間も」

 

「帝国に逆らうか!」

 

「アンタは俺のクライアントではないのでな!!」

 

そう答えを突き返したボバは、轟々と立ち昇る炭素冷凍装置の煙へリストに備わる火炎放射器を放つ。放たれた炎の渦は圧縮された煙に引火し、炭素冷凍装置を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

爆殺前に、レイアたちを逃した通路へとジェットパックで逃れたボバは、扉を閉める措置をしてから操作装置を数発ブラスターで撃ち抜き沈黙させた。

 

「何をボサッとしている。先に進むぞ」

 

そんなボバを見つめていたレイアたちへ、彼は何食わぬ声で指示を出すと、先に出て走り出した。この先には船の発着場がある。帝国兵の駐留を良しとしない勢力が脱出準備を整えてくれているはずだ。

 

思考を止めれば、ハンとレイアの姿を思い出してしまう。今はとにかくできることをするべきだ。そう無理やりでも意識を切り替えて、ボバに先導される形でハンやレイアたちは通路を駆け抜けてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティ、行政府を担う市街地は地獄と化していた。もともとクラウド・シティはディバナ・ガスの採取コロニーであり、その豊富な資源の供給を盾に帝国政府とは良好な取引関係にあった。

 

クラウド・シティを治めるランドーニス・バルサザール・カルリジアン、通称ランド・カルリジアン執政官は徹底して中立を貫き、帝国政府からの武力的な支配は受けないとした上で、帝国自治内の決め事には従い、市民や経済の安定を図っていた。

 

しかし、スローン大提督がその秩序を完全に崩壊させたのだ。カルリジアンのもとに訪れたハン・ソロら一行を引き渡すことを条件に、帝国はクラウド・シティに武力的な干渉はしないと約束していたはずなのに、その内容は彼と背後にいる武官たちによって歪曲された。

 

結果、クラウド・シティにはトルーパーたちが派遣され、抵抗した市民や自警団が逮捕、虐殺されるという悲劇が引き起こされていたのだ。

 

「クラウド・シティの住民には今までの行いを後悔してもらうよ。反抗するものは全員逮捕だ。発砲も許可する」

 

その指揮系統の全権を任されていたのが、尋問官であるナインス・シスターであった。アナキンに切り落とされた片手を義手に変えた彼女は、部下であるパージ・トルーパーに指示を出す。

 

彼女たちのやり方は恐怖と暴力による支配だった。抵抗するものは見せしめのように殺され、従ったとしても彼らは恐怖に怯えることになる。怒りと恐怖を扱うシスに傾倒した尋問官にとって、それは躊躇いがないことであった。

 

シティの制圧を進めるナインス・シスターの横に控えていたトルーパーがコムリンクで通信を受ける。相手はスローン大提督だった。

 

「ナインス・シスター、炭素冷凍室で問題が」

 

遠くで爆発音が聞こえる。施設内にいるが、雲の上に浮かぶクラウド・シティにその爆発の振動は伝わってきた。おそらく、ハン・ソロやレイアを助けにきた〝誰か〟がいるのだろう。

 

「お前たち、行くよ」

 

ナインス・シスターが指示を出すと、数名のパージ・トルーパーが武器を構えたまま先に通路をゆくシスターに続く。

 

行政府の広間を抜けて炭素冷凍設備がある塔へ向かうシスターたちが、全員で出口である巨大なブラストドアに近づいた時、閉ざされていたブラストドアがゆっくりと開いた。

 

開いたドアの先には、黒いローブを着た誰かが佇んでいて、シスターたちの行手に立ち塞がった。

 

シスターは感じ取ったフォースに息を呑んだ。目の前にいたのは、レン騎士団筆頭騎士であるカイロ・レンだった。

 

「これはこれは、レン騎士団の筆頭騎士どの。御足労して頂いたが、貴方がする仕事はここにはないですよ?」

 

突然現れた騎士団の長に、シスターは警戒心を緩めずに高圧的な声で出迎える。フードを深くかぶる彼の顔は、さらに奥にあるマスクによって閉ざされており、その真意を見定めることはできない。

 

とにかく、ここで邪魔をされるのは厄介だ。シスターの指示で2名のパージ・トルーパーがカイロ・レンの行動を制限しようと近づいてゆく。二人の手が彼に触れようと伸ばされた瞬間、カイロ・レンはフォースの力で腰に備わるクロスガード・ライトセーバーを手にして、身を翻した。

 

ナインス・シスターたちの足元へ、先に出たトルーパーのヘルメットが無残に転がってくる。目を剥くナインス・シスターよりも、パージ・トルーパーたちの防衛本能の方が早かった。

 

ブラスターを構えて狙いを定めたと同時に、カイロ・レンは手を突き刺すように伸ばすと、開いた手を握りしめて手繰り寄せるように引き寄せた。すると、トルーパーたちが構えたブラスターがまるで見えない糸に引っ張られたように手からこぼれ落ちて、カイロ・レンの背後へと吹き飛んでいく。

 

次に目にしたのは、真っ赤に立ち上ったライトセーバーの刃だった。

 

「貴様!我々尋問官に歯向かうのか!?」

 

トルーパーたちを切り伏せたカイロ・レンへ、ナインス・シスターは回転式ダブルブレード=ライトセーバーを手に持って詰め寄る。

 

「歯向かう?さきに道理を外れたのはそちらだろう…!!」

 

突如として起こった騎士団による尋問官への襲撃。赤い光刃が幾度もぶつかり合い、閃光が辺りを照らす。影のような外套を揺らめかせながら、カイロ・レンは繰り出されるナインス・シスターの一撃を受け流し、そらし、切り払う。一見、攻勢に出ているのはナインス・シスターであったが、戦いを制していたのはカイロ・レンだった。

 

「やはり貴様は出来損ないだ!シスにもなれず、ジェダイにも傾倒できずの半端者風情が!!」

 

その事実に気づかず、己の力を過信するナインス・シスターの攻撃を受けながら、カイロ・レンは無言だった口を開いた。

 

「その言葉…俺はシスがどうだとか、ジェダイが悪だとか、そんな言葉が大嫌いだった」

 

押していたナインス・シスターの一閃を潜り抜けてカイロ・レンは彼女の逃げ道を塞ぎ、十字に光刃が伸びるライトセーバーを前に構えながら、ジリジリと彼女との距離を図っていた。

 

「シスとジェダイという思想が、帝国の市民の安泰と平和の何に意味を成すんだ?シスは銀河を統治する偉大な存在であり、ジェダイは旧共和国の遺物だと?その思想の違いが平和と正義の何になる?」

 

何を言っているんだ?ナインス・シスターは、矢継ぎ早に放たれるカイロ・レンの言葉の真意を理解できずにいた。彼が語る言葉の意味は、思想的なことだ。だが、騎士団がこちらを攻撃した意味を宿していない。極めて思想的な言葉だった。

 

「皇帝がシスの暗黒卿だから?ヴェイダー卿がシスの暗黒卿だから?故にシスは偉大であり、ジェダイは悪だと?無知な市民には差別も、弾圧も、殺戮も搾取も公認される?」

 

そう言い終えると、カイロ・レンは揺らめく炎の刃の切っ先を真っ直ぐにナインス・シスターへ向ける。

 

「そんなことは断じてない。そんな思想に傾倒した平和や正義など、断じて正しきものと言えるものか」

 

カイロ・レンにとって、シスも、ジェダイも、思想に過ぎない。どちらとも彼にとっては〝どうでもよかった〟。

 

事実、出来損ないと揶揄され、見向きもされなかったのだから、このまま逃げ延びて、一人の男として世に関わらず、静かに暮らす道もあっただろう。

 

だが、彼はその思想や言葉から連綿と続く愚かな戦いを…そのせいで傷付く多くの帝国市民たちを見過ごすことができなかった。

 

「故に、俺は騎士団を作った。我々は貴様たち暗黒面に立つ者たちの尖兵ではない。ましてやその逆も然り」

 

彼にとって、帝国の理念も武官たちの高尚たる武功も、野心も、野望も興味などない。帝国という〝世界〟が、彼にとっての世界だった。旧共和国など知ったものか。彼が生まれ、育ってきたのは帝国という治世で成り立つ世界ただ一つだ。

 

その世界で生きる多くの人のために、騎士団は存在する。

 

「我々はレン騎士団は、帝国市民の剣であり、盾であり、最後に頼るべき砦だ」

 

このクラウド・シティも、中立とはいえ帝国の管轄内で管理される場である。今、トルーパーたちによって理不尽に捕らえられ、殺戮の恐怖に晒されている誰もが、帝国のデータバンクに登録されている市民の一人だ。

 

カイロ・レンにとって為すべき使命は十全に機能する。

 

「尋問官ども、貴様らが帝国市民から搾取と弾圧を強要するというなら、我ら騎士団の名を以って、この刃で切り捨てよう!!」

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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