アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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誤字報告、毎度ありがとうございます。感想も励みになっております。落ち着いたらログとパルパルの話、描きたいな。

エピソード6は短くなるかも…


宿命の戦い 2

 

 

高速シャフトリフターが上がった先。非常用の明かりが点灯する部屋の中は、ひどく荒れ果てていた。

 

炭素冷凍を目的にした施設であるそこは、ボバが発火させたガスの影響でズタズタに引き裂かれており、炭素冷凍装置も破壊されている。断裂したホースからは冷却用のガスが吹き出しており、あたりは異様な匂いと煙に覆われていた。

 

リフターを降りたアナキンは、網目状の鉄の床を軋ませながら歩く。

 

彼の見上げる先。

 

火によって炙られて黒くくすんだ階段の上に、それは佇んでいた。

 

真っ黒な外套と、骸を思わせるマスクをつける男、ダース・ヴェイダーは真っ赤な光刃を出現させたライトセーバーを手にした状態で、見上げるアナキンを見据えていている。

 

「待っていたぞ、アナキン・スカイウォーカー」

 

マスクでくぐもった……いや、声帯が焼かれているため、電子音声で構成されたヴェイダーの声が響く。応えるようにアナキンは歩み出すと、ゆっくりと黒ずんでいる階段を登った。

 

「フォースが増している。どうやら、前回とは違ってフォースとの絆を取り戻したようだな」

 

その言葉と同時に、アナキンはローブを脱ぎ捨て、腰に備わるライトセーバーを引き抜く。弓を引き絞るような独特の構えを織りなす。

 

防御を主眼にした亡き師が愛用した型である「ソレス」。攻撃主体の型を得意とするアナキンがこの防御の型を選んだのには、明確な理由があった。

 

じりじりとライトセーバーの光刃にプラズマの粒子が迸る中、アナキンは鋭い目つきとフォースを維持したまま、この場に来て真っ先に聞くべき問いをヴェイダーへ投げる。

 

「ダース・ヴェイダー。僕はお前に問わねばならないことがある」

 

認めたくない。考えたくない。そんなことはありえない。

 

心の奥底でアナキンは自分が発しようとする言葉に耳を覆いたくなる衝動があった。彼はあの時に死んだ。目の前でムスタファーの溶岩に飲み込まれて死んだのだ。生きているはずがない。

 

彼は死んだのだ。

 

あの惨状で生きているとしたら…それはもう…。

 

ダゴバで見た暗黒面のビジョンが、アナキンの心を鷲掴みにした。ヴェイダーの仮面の向こう側にいた者、それがオビ=ワンだったことも、息子のルークだったこともある。あるいは自分自身。

 

だが、そのどれもがアナキンが恐れるものではなかった。

 

それは悪夢だった。試練でも訓練でもない。夢を見る中で現れたヴェイダーのビジョン。そのマスクの下にいた者。それこそがアナキンが恐れる者だった。

 

引き下がりそうになる心をぐっと押しとどめて、アナキンは目の前に立つ骸の仮面を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、ログなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い沈黙だった。

 

振り絞るようなアナキンの声を耳にしてから、ヴェイダーはプラズマで満たされる光刃を地に向けたまま佇む。

 

時折聞こえるガスの噴出音が聞こえるだけで、あたりにはライトセーバーの独特な音だけで満たされ、それ以外の全てが静寂だった。

 

「衰えたものだ、スカイウォーカー。ログ・ドゥーランは死んだ。この私が奴に終止符を打ったのだ」

 

そのヴェイダーの言葉で、アナキンの疑念は確信に変わった。同時に、深い悲しみと絶望に突き落とされた。ああ、なんていうことだ。あまりのショックに顔を覆いたくなる。だが、相手はそれを許さないだろう。アナキンは師と同じ型を構えたままジッとヴェイダーを睨みつけた。

 

「人間は、生き物はフォースの器になんてなれやしない!!ログ!!自分を取り戻すんだ!!」

 

その悲痛な叫びは、ヴェイダーの放った一閃によって遮られた。一合で放たれる無数の斬撃を切り返し、アナキンとヴェイダーは間合いを取った。

 

「無意味な問答だ、アナキン・スカイウォーカー。お前も道を違わなければ、私のような完全なる全能の存在になれたものを!!」

 

「人が人である限り、完全なものになんか成れない。それを教えてくれたのはログだ。不完全でも、大切なものを守る大切さを伝えてくれたのが…!!」

 

プラズマの光刃がぶつかり合う。鉄網の床を二人のブーツが蹴り、立ち上る煙をライトセーバーが切り裂く。ヴェイダーの放った袈裟斬りの一閃をアナキンが躱すと、その先にあった施設を保持する柱の一本が真っ二つに切り裂かれる。

 

溶断された柱は自重に耐えきれずに折れると、底の見えない煙の闇へと轟音を立てながら倒れ落ちていった。

 

「フォースに勝る摂理など、この世に存在しない。まやかしや愛などというものは、人が生み出した幻想に過ぎん」

 

「彼はその幻想の大切さを誰よりも理解していたんだ!!僕に伝えてくれたように!!」

 

彼はいつも、それを教えてくれた。

 

母を共に救ってくれた時も、パドメとの愛を認めてくれたときも、共にクローン戦争を駆け抜けた時も。彼は誰よりも優れたフォースの使い手であると同時に、アナキンに家族の尊さと愛の大切さを教え、導いてくれた。

 

だから、今度は僕が彼に教える。

 

彼から教えてもらえた「愛」を。

 

なによりも自分を愛せなかった親友に、その大切さを伝えるために。

 

「目障りなジェダイめ、貴様もオビ=ワン同様、この私が永遠に葬ってくれる!!」

 

そのアナキンの思いを切り裂くように、ヴェイダーは怒声に満ちた声で言葉を発する。彼の構えが変わった。アナキンの内面にある警戒心が一段階跳ね上がった。

 

ヴェイダーの取った構えが、生前ログ・ドゥーランが最も得意とした攻撃特化の型「ヴァーパッド」だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティの通気用の通路の中で、カイロ・レンとルーク・スカイウォーカーは熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

互いに攻撃型のライトセーバーの閃光を振るい合い、狭い通気用の通路の壁には高熱で付けられた傷跡の尾を伸ばして残してゆく。

 

独特なスパーク音とプラズマの揺らぎが生み出す剣戟は、一種の演舞を思わせるように激しく、鮮やかで、過激な激突であった。

 

「どうした?この程度か、ジェダイ!」

 

通路の先に出る少し大きなホールで、カイロ・レンはクロスガードライトセーバーを閃かせた。ブレードを弾き上げられたルークは、弾かれた反動を生かしたまま防護を怠らず、その場で宙返りを打って、ライトセーバーを構え直した。

 

「お前の意思の強さはこの程度なのか?お前のやっていることは、悪戯に過去の規律に縋り付いたジェダイの真似事に過ぎないぞ!!」

 

「くっ!!カイロ・レン!!」

 

ルークの雄叫びと共に再び剣を重ねる二人は、ホールの真ん中で激しく剣舞を競い合う。

 

体を入れ替えて攻防を目まぐるしく入れ替えていた二人は、やがてその場から動かずにライトセーバーを振るい始めた。スパーク音とセーバーを振るう音が徐々に加速してゆき、渾身の一撃を見舞うタイミングを見計らう。

 

「俺が目指すものは帝国市民の平和と安全、それを司る正義を貫くだけだ!貴様のような過去にしか縋ることのできない者に負ける道理はない!!」

 

カイロ・レンの声と共に、必殺の剣がセーバーの乱舞の中から射出された。ルークも同時に剣を閃かせ、赤と青のセーバーが凄まじいスパークを発生させながらぶつかり合う。

 

引くも押すもできない鍔迫り合いだ。

 

二人は互いに理解し合うように、手のひらにフォースを漲らせて、セーバーの隙間からぶつけ合った。

 

カイロ・レンとルーク。

 

その二人から発せられるフォースの力は常軌を逸しており、ホールに張り巡らされたパイプや柱の、壁をひしゃげさせ、くの字に折り曲げた。

 

反発し合う二人のフォースはやがて許容量を超えた。カイロ・レンとルークはまるで磁石が反発し合うかのように反対方向へと弾き出される。互いが壁に体を打ちつけ、もんどり打ちながら、痛みに震える体を起き上がらせる。

 

「…ジェダイの本質を見誤るな、お前はまだ世界の在り方を知らない。平和と正義のあり方も!!」

 

震える手を気合いで動かし、カイロ・レンは床に転がった自分のライトセーバーをフォースの力で手繰り寄せ、再び赤い光刃を漲らせた。

 

ルークも立ち上がり、肩を上下する激しい呼吸を整えながらライトセーバーを構える。

 

「帝国を倒し、俺たち騎士団を倒したあと、お前たちジェダイは何になる?共和国政権を復活させ、また平和の守護者だとのたまいながら、ライトセーバーを振るうのか?それでは何も変わらない。単なる暴力装置へと成り下がったジェダイと何ひとつとして!!」

 

 

また無秩序の世界へと還りたいか!

 

力を持つ者が全てであると言わんばかりの世界に!

 

銀河帝国がもたらした規律と秩序を破壊してでも、お前たちは自分たちの正義が正しいと聞く耳を持たないか!!

 

ライトセーバーの剣戟の中、地獄から響くようなカイロ・レンの叫びに、ルークもライトセーバーで応戦しながら顔をしかめた。

 

クワイ=ガンの言葉を無視して、なぜ自分は反乱軍に加わり、ライトセーバーを振るったのか。レイアが反乱軍に加わっていたから?ジェダイを復興させて、共和国を蘇らせたかったから?自分の力を誇示したかったから?

 

どれもが違う。今のルークにならそれが分かる。本当に為すべき使命が別にあるということも。きっとレイアも、アナキンもわかっているはずだ。

 

自分の師であったオビ=ワンが殉じた道。それが答えに繋がっているのか。ルークにはまだ、その答えを見いだせていない。

 

そして、それはカイロ・レンも同じであった。

 

「貴様が、また時代を繰り返すことを目指すと言うなら……お前にそれ以外の可能性を感じられなかったら、レン騎士団の名において、帝国に仇なす貴様たちの命を断つ!!」

 

クロスガードライトセーバーの切っ先をルークに向けてカイロ・レンは咆哮する。フォースのパワーに傾倒した考え方だ。ルークは深く息を吐いて、ライトセーバーを構えた。

 

互いが求めるものは、とても似通っている。もしかしたら同じものなのかもしれない。違うかもしれない。

 

そして、その答えは戦いの中でしか得られないということを、ルークは理解していたのだった。

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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