アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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宿命の戦い 4

 

 

 

「さぁ、行くよ。仕事の時間だ」

 

幾人のトルーパーたちと共にクラウド・シティへと降り立ったノーバディの古参メンバーの一人であるアサージ・ヴェントレス。

 

彼女は、夫であり戦友でもあるクインラン・ヴォスと共に輸送船から降りると、黄色いライトセーバーを引き抜き、前線で戦うレン騎士団の援護へと加わった。

 

「お前たちは…」

 

「今回ばかりは協力するよ、サー・マレック。私たちの任務は苦しんでいる市民を守ることにあるからね」

 

帝国兵のブラスターを難なく弾き返す二人に、騎士マレックとブリッジャーは互いに顔を見合わせるが、すぐに意識を切り替えて戦闘を再開した。

 

帝国兵は突如として現れた〝レン・アーミー〟の軍勢を前にして指揮系統が完全に混乱していた。電撃的な作戦は効果を遺憾無く発揮し、制圧された各所からは救助を求める市民たちが殺到し、レン騎士団と兵士たちの指示のもと、収容作業が進められていた。

 

「民間人の収容用の輸送船、準備ができました」

 

「頼むぞ、キャプテン。俺たちは取り残された人を救出に向かう」

 

「御武運を、サー・ブリッジャー」

 

駆け出してゆく光刃を携えた騎士や戦士たちを見送った後、エコーや他の指揮者は収容が進められていく様子を見つめながら声を張り上げた。

 

「各員、民間人の収容を!敵勢力がインバウンドするまで残り5分だ!撤退準備急げよ!」

 

退けたとは言え、帝国軍の戦力は計り知れない。ベスピンに差し向けられた兵は、スローン大提督や武官たちからしたら、雀の涙程度の戦力なのだろう。こちらに向かってくる敵の反応は、旧共和国製の艦艇で構成された反抗勢力の艦隊の数倍の規模にあたる。

 

まともに相手をすれば戦いにもならないだろう。故に、今は救助を求める市民たちを収容し、撤退することがなによりも重要だった。

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティの最下層までたどり着いたカイロ・レンとルークは、噴き上がるガスと風に身につける衣服をはためかせながら、ライトセーバーの剣戟を交える。

 

真っ赤なライトセーバーがルークの一撃を跳ね除けると、一閃。上から下へと振るわれた一撃を紙一重で避けたルークだったが、すでに気力も体力も限界を迎えつつあった。

 

「終わりにするか?続けるか?ジェダイ」

 

「それを決めるのは、お前じゃないぞ…カイロ・レン!」

 

互いに死力を尽くしていた。クロスガードライトセーバーを向けるカイロ・レンも、ここまで手こずることは考えていない。互いに肩で息をする中、カイロ・レンは真っ直ぐとライトセーバーを構えて、こちらを見据えるルークへ何度目かわからない問いをかけた。

 

「スカイウォーカー。お前は本当にジェダイなのか?旧体制を信用するただのジェダイで満足するのか?」

 

旧共和国…いや、それ以前から連綿と続いてきたジェダイのあり方。教えや規律。シスとの因縁。それを引き継いで、ジェダイ・オーダーを復活させることが本当に世界が良くなる方向に力を働かせるのだろうか。

 

カイロ・レンにはそうは思えなかった。過去から続く重い足かせであり、鎖だ。オーダーがあっても、クローン戦争は止められなかったし、なにより平和の守護者だというなら強者に震える弱者が銀河に存在することもなかった。

 

結局のところ、ジェダイというのは人がフォースの側面を概念化させた思想でしかない。万能でも全能でもないのだ。永久に続いてゆく完璧なシステムなど、この世には存在しない。だからこそ、レン騎士団や帝国という、時代と歴史の流れから生まれるシステムがあるのだ。

 

ルークもそれを十分にわかっていた。

 

ダゴバでの修行、そしてボガーノでの修行。多くの星の滅びと繁栄を見た。その中には平和もあったが、ジェダイの求める永遠の大安など、どこにも存在しなかった。

 

でも、と。ルークは前を向いた。それでもと歯を食いしばって、カイロ・レンを見た。彼が求める物が、この剣戟の中でルークにも見えたのだ。

 

「…カイロ・レン。僕はジェダイだ。師や、父がそうであったように。けれど、過去の体制に与することはない」

 

かつて父が夢見たジェダイとして。銀河を飛び回り、奴隷や、理不尽な理由で虐げられ、悲しんでいる人々を解放する秩序と正義を司る存在として、ジェダイは有り続ける。

 

そこにオーダーや、評議会など必要ない。上や下も存在しない。フォースとの関わりを持つ誰もが平等であり、同じなのだ。

 

塔〝テンプル〟も必要ない。そこにあるのは均等に置かれた円〝ラウンド〟だけだ。

 

「ジェダイは、平和を守護する守り手だ。だから、僕はその使命に殉ずる。多くの人を助け、解放するために」

 

満遍なく、偏りもなく、主義や主張も、思想も体制もいらない。ジェダイとは…否、フォースと向き合い、運命と向き合い、それに答える。弱き者を導き、力ある者を導き、ダークサイドへ理もなく落ちた者を討つ。

 

それがルークの見つめるジェダイの本質だった。

 

その答えを得たカイロ・レンは、しばらくベスピンの風に服を揺らしながらたたずみ、構えていたライトセーバーの刃を収めた。

 

いいだろう。それがジェダイの本質だと見つめるなら、その行先を見定めることが、レン騎士団を率いる自分の役割なのだと思う。

 

帝国の正義と平和のために。

 

弱き者の盾となり、秩序を保つために。

 

似ているようで異なる道ではあろうが、されど、どちらかを滅ぼす必要はない。共にある事が認められる寛容さもまた、フォースの持つ側面の一つなのだから。

 

「カイロ・レン!ルーク!」

 

ルークもセーバーを収めたと同時、下層部まで降りてきて声をあげたのは、マンティスから降りてきたシアと、カルたちだった。

 

「マスター・シア!」

 

「帝国の軍勢が来るぞ!早く脱出を!!」

 

二人から少し離れた場所から声を上げたカルに、ルークが答えようとした瞬間だった。

 

二人が立っている通路が突如として爆発に見舞われたのだ。揺れる足場にタタラを踏むルークが目撃したのは、帝国軍のTIE・インターセプターの姿だった。先行してきた帝国の増援部隊が、航空戦力を先に投入してきたのだ。

 

それを知る猶予もなく、再びルークたちがいる通路はTIE・インターセプターのレーザー砲火に見舞われ、二人は爆発に巻き込まれた。

 

爆風によって吹き飛ばされたルークは、シャフトの側面に体を叩きつけられたのち、そのままクラウド・シティの吹き抜けの空間へと落ちていった。

 

シアやカルの声が微かに聞こえたが、爆風のダメージとカイロ・レンとの戦いの影響で、ルークに残された力は僅かしか無かった。

 

「ぐ…はぁ…」

 

ダストシャフトへと落ちたルークは、そのまま通路内を転がるように落ちてゆき、シティの外縁部へと放り出された。手を伸ばし、フォースの力を借りてなんとか下部のアンテナ部へと掴まることはできたが、それ以上のことは叶わなかった。

 

「力が…くそ…」

 

身をよじってアンテナに掴まる。だが、このままでは体力切れで底のないベスピンの空へと落ちてゆくことになるだろう。カイロ・レンも同じように爆発に巻き込まれていたが、彼が放っていたフォースを感じ取ることもできなかった。

 

「父さん…レイア…」

 

意識が霞む中、ルークはフォースを辿った。その流れは、ミレニアム・ファルコンのコクピットシートにいたレイアへと届く。

 

「ハン、待って。…ルークがいるわ」

 

「なんだ?アイツが?どこに!?」

 

「分かるのよ。そのままクラウド・シティの真下へ!」

 

レイアの指示に従って、ハンはクラウド・シティの外縁部へと舵を切った。

 

のちに、アンテナに掴まっていたルークを救助した彼らであったが、カイロ・レンの消息を掴むことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

ヴェイダーの元から離れたアナキンは、通路で鉢合わせた帝国軍のトルーパーたちをあしらい、自身とルークが乗ってきたジェダイ・スターファイターのある発着場へと急ぐ。

 

だが、たどり着いた先にあったのは、ぼろぼろに破壊されたスターファイターと帝国兵の軍勢だった。

 

ドアを出たと同時にその光景を見たアナキンは素早くライトセーバーを構えたが、トルーパーたちはブラスターを構える間も無く、不可視の力によって押し出されて、ベスピンの空へと吹き飛ばされていった。

 

「アナキン!」

 

「アソーカ!」

 

合流したのは、避難するクラウド・シティの市民たちを先導していたアソーカと、バリスだった。彼女たちとアナキンを追っていた帝国兵たちが現れたせいで、久々の出会いを喜ぶ暇もない。

 

「まったく!相変わらず無茶をするマスターなんだから!」

 

「無駄口を叩いても終わらないわよ、アソーカ!マスター・スカイウォーカーも早く!」

 

ライトセーバーで市民たちを守りながら後退するアソーカたちに合わせて、アナキンも防衛線に加わる。

 

すると、発着場へと輸送機が到着する。そのハッチからガトリングブラスターを構えたクローントルーパーのレックスが、3人の援護へと入った。

 

「レックス!」

 

「スカイウォーカー将軍!こちらへ!早く!」

 

市民たちを先に乗せてから、アソーカとバリスも輸送船へと続くタラップに足をかけた。アナキンも最後の帝国兵を弾き返したブラスターで仕留めてから走り出したが、その足はタラップの手前で止まった。

 

ゆっくりと振り返る。

 

そこには真っ赤なライトセーバーを携えたダース・ヴェイダーが佇んでいた。

 

こちらに向かって歩いてきているヴェイダーへ、アナキンとアソーカとバリスはライトセーバーを構えて迎え撃つ。

 

「ヴェイダー…!!」

 

「逃すとでも思っているのか」

 

歴戦の戦士である3人を前にしても怯む様子も見せないヴェイダーは、セーバーを構えて攻撃態勢へと入った。そのヴェイダーの頭上を何かが飛び越える。

 

「ヴェイダァアっ!!」

 

黄色い光刃を出したまま宙返りからヴェイダーの目の前に着地したのは、傷だらけとなったモールだった。

 

「モール卿!!」

 

2対の光刃を出すライトセーバーは真ん中で叩き切られ、モールの体の至る所には重度の裂傷や焼き傷が刻まれている。焼きで閉じられていない傷口から、緑色の血液が溢れ、地面に滴る。

 

「来るな!アソーカ!!」

 

その様子にアソーカが飛び出そうとしたが、ピシャリとした声でモールはアソーカの援護を止めた。

 

「邪魔をするか、モール。見逃すチャンスを与えたというのに」

 

「言ったはずだぞ、ヴェイダー。俺が今度は見つける番だと…!!」

 

身体中に走る痛みを噛み殺して、モールは一刀の光刃を振るった。深傷を負っても、モールの素早い攻撃は健在だっだが、その全てをヴェイダーは難なく受け止めて逸らした。

 

「愚かな選択だ。故に貴様は死ぬ。ここで、その私の手によってな」

 

「モール卿!!」

 

このままでは、彼はやられる!!そのビジョンを見たアナキンがモールとヴェイダーの戦いに踏み込もうとしたが、モールはアナキンたちを見ずに、フォースプッシュを放って彼らの介入を阻止する。

 

それはまるで、お前たちには他になすべき事があるだろうと言っているように思えてならなかった。

 

「将軍、ダメです!帝国軍が来ます!」

 

「ダメ!置いていくなんて!!」

 

レックスの言葉に首を振るアソーカとバリスへ、モールはヴェイダーの一撃を受け止めながら、背後にいる彼女らへ声を紡いだ。

 

「行け、アソーカ。みんなを頼む」

 

〝フォースが共にあらんことを〟

 

その言葉は、発せられることはなかったが確かにアナキンたちに聞こえた。輸送機のハッチが閉じられてゆく。

 

「モール!!」

 

ハッチの向こう側で戦い続けるモールの姿が目に焼き付いて離れない。クラウド・シティの上で戦う彼を残して、輸送船は空へ舞い上がった。

 

「出せ!!ベスピンから離脱するぞ!!」

 

大気圏を離脱してゆく輸送船。それと入れ替わるように到着した帝国軍の戦闘機部隊が、クラウド・シティの頭上を通過してゆく。

 

ヴェイダーは真っ黒な外套をベスピンの風に踊らせながら佇む。

 

その手には、半ばから切り落とされたライトセーバーが握られていたのだった。

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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