アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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ジェダイ

 

スターキラー基地破壊作戦。

1年前。

 

 

 

 

 

「マスターはジェダイに――世捨て人になれと言うのですか?」

 

トルーパーという立場から一変し、不時着した惑星ダゴバでフォース感応者として才覚を見いだされた彼は名を〝フィン〟と改め、自然界にあるフォースと向き合うための修行を始めた。

 

アナキンや、ルークといったフォース感応者とは言えないが、その素質は充分に〝ジェダイ〟となれるものを秘めていた。

 

そして、彼がジェダイの基本的な修行を終えた日、ヨーダはダゴバの小さな家の中でフィンとこれから進む道について話をしたのだ。

 

フィンの戸惑ったような言葉に、霊体であるヨーダは ふむ と考えるような仕草をして頷く。

 

「結果的にそのほうが世界のためということもあるということだ、パダワンよ」

 

ライトサイドで全てを照らせるほど、人の理とは明確なもので形作られていない。それは真実だった。現に、ジェダイでもライトサイドでも、光で照らせぬものがある。

 

照らせぬものを顧みずに進んだ道の先が何に繋がっているのか。それは、この場にいる〝誰も〟が知る過去であった。

 

「我々は光の眩さの中で立っている場所すらも見失っていたのかもしれん。眩しさと光によって生み出されるものもまた、視界を塞ぐ闇と同じ」

 

円状に作られた部屋は見る人からすれば、かつてのジェダイ評議会を連想させるような円状の部屋であった。コルサントのような調度品はないが、木製の座椅子の上に座る霊体、〝マスター・ウィンドゥ〟は過去の自分の過ちを見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「私は…その光の闇の中で全てを見失った」

 

あの日。

 

あの運命の夜に、ウィンドゥは選択を誤った。

 

いや、ずっと前からだ。ジェダイ評議会という存在自体が破綻していた。自然と調和と平和と理念を掲げながら、その本質をシステムとして受け入れたことで、激しく動く時代についていくことも、ましてや見つめることすらも出来なくなっていた。

 

自身の弟子…フォースの本質を理解していたジェダイに首を斬り落とされるまで、ウィンドゥはその間違いを認めることができなかった。ジェダイとしてそれが正しいと信じ、それが間違っていないと信じていたから。たとえそれが思考停止だったとしても、当時の自分はその光を信じていた。

 

だが、今になって理解することができた。問いに対する遅すぎる答えではあったが。

 

眩しすぎる光。信じ切った景色は、時にそれ自身が身を惑わせる闇と化す。真っ白な闇。その闇に誰もが囚われていたのだ。〝彼〟を除いて。

 

結果、その光に飲まれジェダイは滅ぶべくして滅んだ。光と闇の中間にある人の理によって帝国と反乱軍という構図が生まれ、そして帝国は連邦へと生まれ変わった。

 

人の生きる指針が人の手によって定められた。

 

「古い教えや、受け継がれてきた知識という殻を破り、イデオロギーが成された。今の世はフォースという自然的なエネルギーを〝要素〟として認識している。その世界に、フォースを〝指針〟とする我々ジェダイは必要ない」

 

すでに連邦にいるフォース感応者の多くはジェダイやシスといった概念的な思想ではなく、自身の操れる力の要素のひとつとしてフォースを感じ取っている。

 

探究や研究をするのではなく、ごく当たり前に使うことができる才覚として認識し、それを受け入れることでフォースと向き合ってる彼らに、ジェダイやシスといった思想はもう必要ないのだ。

 

「では、何故…フォースは世界に存在し、それを感じ取れる人間が存在するのですか?」

 

「それは感じられる人間から見た一方向からの主観に過ぎないのだよ、若きパダワンよ」

 

フィンの問いに答えたのは、ウィンドゥの隣に腰掛けるマスター・キット・フィストーだった。彼もまた、ひとつの終わりを見つめたジェダイ・マスターの一人だ。

 

「フォースという天然的な力を定義するとしても、どれを取ろうが主観から観測するという法則から抜け出す事はできん」

 

それがたとえライトサイドであろうと、ダークサイドであろうと、ジェダイでもシスでもノーバディでも。フォースという力に触れた以上、それを定義しようとした瞬間に、結果は主観にしかならない。

 

フォースとはひとつであり、そして全てだ。どこにでもあって、どこにでも揺蕩う存在。空気にも水にも、真空にもフォースはあり、そしてそれは常に自然の中で揺らめき、バランスを保っているのだ。

 

「我々のようにフォースを感じることができる者たちもまた、その力に縋り付いている存在に過ぎず、一方向からの主観に囚われ続けていることになる」

 

まるで、フィンにはマスターたちの言葉が懺悔のように聞こえた。まるで自分たちのような在り方は初めから間違っていたのだと言わんばかりに。

 

「進んだ文明、人によって規律が重んじられる社会形式が構築される上で、その実は神秘や自然的な意識に重きを置く文明は過去のものとなってゆくのが摂理だ。進みすぎた文明はいずれはフォースを理解し、それを凌駕する技術を作り上げ、そして自然的な力や意志は技術に取って代わられることになる」

 

それは多くの歴史が証明している。古代では霊体を司るシャーマンや、霊媒師が主権を握り、そして時代が移り変わると、人は生き方を自ら考え、その自然的な感覚から遠ざかっていった。神秘から遠ざかり、そして引き換えに得た知恵と技術と主義で世界を切り開いてゆく。

 

その世界に、自然的な感覚やエネルギーは必要とされないのだ。

 

「存続はできよう。だが、それを主にした社会形成や、イデオロギーを作り上げる事は難しいものとなる。趣向や主義のひとつとして、我々の存在は新たなる世界の形式の一つとなってゆく」

 

あるいは思想。あるいは憧れ。あるいは興味。あるいは侮蔑。あるいは嫌悪。そういったものたちの対象として落とし込まれた世界の守護者たちは、訪れる新たな時代を前にしてこれまでの在り方を大きく見つめ直すことになった。

 

新たに象られてゆく世界を外側から見つめる者たち。問いかけられ、目が向かない限り、何者であるかも悟られない存在として、ジェダイという存在はこの世界に在り続ける事はできるだろう。

 

しかしフィンにとって、それは膨大たる時間の中で確かに共和国の平和を守ってきたジェダイたちに対してあまりにも不幸な仕打ちだと思えた。

 

「それは…悲しいことです…」

 

「それが進歩と進化というものじゃよ、若きパダワンよ。豊かな未来との対価に、我々のような存在は古きものとなるのが定めなのじゃ」

 

師が超えられる存在であり続けるように。試練も乗り越えられる存在であるように。進化というものについて行けなくなったものは、その時間に取り残され、風化してゆくのだ。

 

「ですが、まだ〝その時〟ではありません。マスター」

 

誰もがそういう思考を持っている中、まだ霊体ではない、みずみずしく若い肉体に魂を宿すフィンは、真っ直ぐな目と声で、熱を失ったマスターたちに断言した。

 

「銀河連邦が設立され、まだ数十年。無限に広がる星々との対立や軋轢はまだ残っています。そして、新たなる社会体制について行くことができない人々も、取り残された人々も確かにいます」

 

たしかに、世界は変わった。帝国と反乱軍が手を取り合い、銀河連邦が生まれたことは紛れもなく真実だ。だが、その変化について行けないもの達もいる。

 

確かにいるのだ。

 

そして、彼らが欲するのが新設された政府でも体制でもなく、もっと前時代的なものであることもフィンは知っている。

 

彼は見てきた。多くの人が新しい世界についていけず置いていかれ、何もできずにファーストオーダーに苦しめられている姿を。皮肉にもフィンは、その圧政を強いる立ち位置からずっと見てきたのだ。

 

故に知ってしまっている。目の前のマスターたちが焦燥するジェダイを必要としている人々を。

 

「かつてのジェダイは、フォースを研究する哲学者でした。そして旧共和国の守護者でもあり、調停を司る存在でもありました」

 

星々に赴き、政府では対応しきれない荒事や、争いの火種を取り除き、そして秩序と調停をもって平和を守ってきたのは、他ならぬジェダイだ。

 

だからこそ新たな世界に、その存在が必要とされている。

 

「ジェダイは戦士ではありません。ましてやライトサイドの従者でも。だから……俺はその本質と義務を全うします」

 

そこにあったものは、誰もが光の中で見失っていたものだ。暗黒面との戦い、そしてクローン戦争で見失ったこと。戦うことや争うことよりも尊重していたもの。

 

フィンの向ける眼差しは、本来あるべきライトサイドを見据え、銀河の守護者として誰もに必要とされた———ジェダイの姿だった。

 

これもまた自分たちに残された導きかもしれん。戦いに赴く戦士でもなく。あるいはフォースを探求する哲学者でもなく。

 

人が開いた新たなる道を照らすよう、その在り方を見つめ調和と調停を重んじる存在。

 

「それが、俺が目指す…ジェダイの姿です」

 

彼の決意が、消えかけてきた〝銀河の守護者〟たちに新たな火を灯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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