アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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ダークサイドと、ライトサイドと。

 

 

 

 

 

「皇帝陛下。シャトルの準備が整いました。デス・スターでヴェイダー卿がお待ちです」

 

コルサント。

 

帝国の中心とも言えるインペリアル・センター。その皇帝の執務室に姿をあらわしたカイロ・レンは、赤い傷跡を象ったマスクを被り、玉座に座する皇帝の前に膝を折って跪く。

 

彼が準備していたのは、森の月エンドアの周回軌道上で建造が進む第二のデス・スターへ視察に向かうためのインペリアル・シャトルだ。

 

「わかった。下がるが良い、カイロ・レン」

 

玉座に座したままのダース・シディアスは身に纏った真っ黒なローブとフードの下から眼下で跪くカイロ・レンを一瞥してから、まるで興味がないような感情のない声でそう返す。

 

彼は立ち上がると、しばらく辺りを見渡してから、シディアスへ一礼して執務室を後にしてゆく。

 

シディアスは玉座から立ち上がると、床にまで届くローブを従えて悠然と歩み、コルサントの幻想的な都市風景を一望できるバルコニーへとたどり着く。彼はしばらく高速で行き交うスピーダーが織りなす光の筋を見つめてから、ゆっくりとバルコニーの入り口へと振り返った。

 

「人払いは済ませておる。姿を見せてはどうかな?〝マスター・ケノービ〟」

 

無駄に姿を隠すのはやめろ。そう言わんばかりに言い放ったシディアスの言葉に呼応するように、薄暗いシディアスの執務室の奥から、青白いフォースの光が現れる。

 

半透明の身体、ジェダイローブを身につける長身の男性…第一のデス・スターで霊体化したオビ=ワン・ケノービが、その場に立っていた。

 

「議長。やはり気がついておられたのですね」

 

待ち受けるシディアスのもとへ歩み寄ったオビ=ワンは、当時では考えられないような穏やかな顔つきでシディアスへ言葉を放った。

 

対するシディアスも、ジェダイへ向ける憎しみや、暗黒面の立ち上るような怒りも出さないでいて、まるで共和国時代に戻ったかのような感覚だった。

 

「君は交渉に長けていたからな?マスター・ケノービ。フォースの霊体となってもヴェイダー卿の説得を続けていたのも知っておる」

 

「ええ、徒労に終わりましたが…彼は、もうドゥーランではありません。議長もわかっておるのでしょう?」

 

第一のデス・スターで霊体化したオビ=ワンは、暗黒面に落ちたと思っていたログをライトサイドへ引き戻すために交渉を続けていたのだ。

 

彼もまた、アナキンと同じくログを前にして何も出来なかった身だ。タトゥイーンや、ルークたちを鍛える傍で、彼もまたフォースへの理解を深めようと修行に励んでいた。

 

だが、彼の本質は堅実なジェダイ……ジェダイらしいジェダイだ。交渉を重ねたとしても、ログをこの世界に〝呼び戻す〟ことなど叶わないと、シディアスは答えを聞く前から分かり切っていることであった。

 

「彼にもはや、ドゥーランの魂は無い。フォースが彼を生き永らえさせている。外側だけが生きている。あれでは生きた骸です」

 

「何を言うか、貴様たちが彼をあの有り様にしたのだろう!偉大なるジェダイたちが、あの有り様の存在を作り出したのだ」

 

シディアスの叫びは、まるで悲鳴のようだった。オビ=ワンはその慟哭にダークサイドを感じることはできなかった。あるのは深い悲しみと、暗黒面では考えられない慈しむ心だ。

 

そして、その感覚をオビ=ワンは味わったことがあった。

 

ナブーの戦いで、ログがダース・モールを〝ただのモール〟へと戻した瞬間だった。

 

あの計り知れないフォースの光を、オビ=ワンはシディアスから感じ取っていた。

 

「議長…」

 

「……もう、わかっておるのだろう?マスター・ケノービ。ジェダイは…私が手を下さずともいずれ滅んでおった。私が私の師であるダース・プレイガスを殺し、新たなシス・マスターにならずとも、共和国も、ジェダイも、滅んでおった」

 

たとえば、シディアスが何も為さない単なる市民として平和に生活していても…たとえば、単なる元老院議員として職務に励んでいたとしても、共和国と分離主義者との諍いは起こっていただろう。プレイガスが生きていたとしても、シディアスと同じように手を下して内乱を起こし、共和国は崩落し、ジェダイは危険分子としてこの宇宙から排除される末路を辿っていただろう。

 

シディアス…暗黒面(ダークサイド)が押し進めたのは、その滅びへの帰還を数百年ほど早めた程度に過ぎない。

 

もし、シディアスがあの場でマスター・ウィンドゥに殺されても、それはそれで未来の結末の一つであったのだろう。力を持ちすぎたジェダイと、それを恐れる共和国によるクローン戦争に次ぐ内乱。共和国体制も、分離主義もない、血みどろの戦いで世界は暗黒に落ち、混沌となっていた。

 

あの凄惨たるクローン戦争の被害がマシだと思える犠牲者と戦いの血、絶望と悲劇を生み出し続けながら……。

 

「ログは、その犠牲を最小限に留めるため…己の身を供物として捧げたのだ。彼は誰よりも偉大なフォースの感応者だった。彼がフォースに導かれずとも、誰かが選ばれておった。無意識なるフォースの大いなる宇宙の意思によって、選ばれし者として……」

 

それこそ、その素養がある者なら誰でもよかったのではないかと思える。アナキンはもちろん、バリス・オフィーやアソーカ・タノ……ジェダイを離反した者たちも、そういった素質を持っていたのかもしれない。

 

あるいはお主自身であったかもしれんぞ?マスター・ケノービ。そう言って黄金の眼を向けるシディアスに、オビ=ワンは深く息をついて、まっすぐと見据える。

 

「議長、貴方はまだ…ジェダイを憎み、シスによる銀河の征服を胸に抱いて進んでいるのですか?それとも、単なるフォースの探究者として、ログを取り戻そうとしているのですか…?」

 

ダース・ヴェイダーとフォースを通じて心を通わせたが、あの暗黒騎士の中にあったものは果てのないフォースと、無心。あの肉体の中に、ログは存在しない。それだけははっきりとわかる。それでも、シディアスはオビ=ワンの問いに頷く。

 

「……彼の在り方は、まさに解読できぬ現象。宇宙そのものと言ってもよい。彼を呼び覚ますことで、我々が今まで信仰していた…知ってきた…伝えてきた知識や常識の全てが変わってしまうことになるかもしれん」

 

「ジェダイとシスの在り方を壊すことが…?」

 

「左様、そもそも…ライトサイドもダークサイドも、それを観測してきた者たち、我々の祖先の主観により凝り固められた思想に過ぎぬ。怒りや恐怖、安心や平和、愛や憎しみ。その両方の側面を学ばなければ、真なるフォースの使い手とは呼べぬ」

 

いつか、アナキンやログにも言った言葉だ。ジェダイの側では学ぶことができない知恵や経験を、ダークサイドで学ぶことで望んだ力を手にすることができると。それこそ、一方的な物の見方から語った話だ。自分も結局はジェダイと同じであり、片方の局面からしか物事を見ていなかった。その思考こそが最初から間違っていたのかもしれないなとシディアスは笑う。

 

「アナキンもまた、その可能性を秘めていた者だ。彼はフォースから生まれ、フォースにより育てられた。いつしかその役割を担う存在になるはずだった。だが…それを上回るフォースへの理解をログは得た…得てしまった」

 

驚異的なミディ=クロリアンの数値を誇るアナキン。彼がジェダイの道を単に歩んでいれば、こういった結末にならずに済んだかもしれない。だが、彼に「フォースに選ばれた者」以外の要素と素質を開花させたのは、間違いなくログの働きがあったからだ。

 

故に、アナキンはあの運命の日にオビ=ワンと共にウータパウでグリーヴァス将軍討伐へと向かったのだ。

 

「フォースにより生み出されたアナキンに「人として」の喜びと、「生命」の尊さを教え、彼という存在を吹き込んだのは紛れもなくログだ。アミダラや、マスター・ケノービでも、そして私でもなく…な」

 

 

ログはひとえにこの宇宙にある全てのものに愛を見い出していた。ライトサイドにもダークサイドにも、ダース・モールや、暗黒面に落ちた者たちにも…そして、シディアス自身にさえも。

 

「愛の大きさと、尊さと、その強すぎるパワーを知るがために、彼は自分自身を愛しておらんかった。故に彼は…フォースの器になることができた…できてしまったのだ」

 

「議長…」

 

オビ=ワンの霊体の横を通り過ぎて、シディアスは彼へ振り返ることなく言葉を綴る。

 

「私は取り戻すぞ、マスター・ケノービ。彼を取り戻すことが、私がダークサイドの道へ堕ち、フォースを探究する者として与えられた使命だ。彼がもたらす、新たなるフォースの側面を知り、それを後の世に正しく伝えるためにな」

 

そして漆黒の影の中、シディアスの両眼が黄金の眼光を放つ。オビ=ワンから見てもそのフォースからは計り知れない力と、ダークサイドの炎が立ち昇る。

 

「その道を邪魔する者がおるなら、容赦はせん。誰にも邪魔はさせん…それがたとえ、何者であったとしても」

 

そのまま足取りを緩めずに執務室を後にするシディアス。それを見送ったオビ=ワンの霊体は、まるでフォースに溶け合うようにその場から飛散し、消えてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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