アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
スターキラー基地。
惑星を星系ごと粉々に吹き飛ばせる兵器へと変貌させた星一個分のファースト・オーダーの基地は、連邦軍艦隊の奇襲とベンとレイによる決死の突入作戦によって、その猛威を振るうことなく惑星の塵へと還ることとなった。
史実であれば、勢力の乏しい〝レジスタンス〟の基地へと報復措置を取るファースト・オーダーであるが、連邦軍は旧帝国軍と反乱軍を掛け合わせた勢力であり、その物量差はファースト・オーダーを軽々と超える組織となっている。
まさにファースト・オーダーは窮地に立たされていた。スターキラー基地からなんとか脱出したものの、残された戦力は最高指導者の乗る船とスターデストロイヤーの艦隊のみで、その姿は敗残兵と言っても過言ではなかった。
周りは白から暖色へと塗装されたスターデストロイヤーや、モン・カラマリ・スタークルーズからなる連邦軍の混成艦隊によって取り囲まれている。
だが、連邦軍は無闇に攻撃を仕掛けることはしなかった。
漆黒の中で輝く星の大海を一隻の交渉船が進んでゆく。向かう先は交渉の場として選ばれたファースト・オーダーのスターデストロイヤーだ。
「こちら、ファースト・オーダーの交渉船。貴艦はこちらの送るハンガーへと着艦されたし」
交渉船のキャプテンが固唾を飲む中、ファースト・オーダーからの通信が響く。
「大丈夫だ、キャプテン。交渉は長引くことはないだろう。気にせずに進路を進めるんだ」
同じく操縦室に入り、コクピットの後ろからスターデストロイヤーを見つめる人物が緩やかに進路を指し示す。
速度を落とした交渉船は着陸用のリブを展開してストームトルーパー達が見つめる中、ゆっくりとハンガーへと着陸した。
「将軍、連邦からの特使が到着しました」
赤い肩部装甲を身につけるトルーパーの隊長がブリッジにいる将軍へと報告する。報告を聞いたアーミテイジ・ハックス将軍は漆黒を基調としたコートを翻してブリッジを後にした。
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「連邦から派遣された特使です。書簡と交渉を任されてここにやってまいりました」
しばらく応接用の部屋で待たされた後、トルーパーを引き連れて現れた将軍へ、ジェダイローブのフードを外したフィンは、連邦軍から預かった書簡を渡した上で、優勢である連邦軍からの伝言を伝えた。
内容としては至極当然、無条件の武装解除と降伏勧告であった。
「もはや、そちらに抵抗する力は残っていません。連邦の艦隊があなた方の艦隊を完全に包囲しています。増援信号を送っているようですが、手はありません。降伏を改めて打診します」
「我々に、連邦へ慈悲を乞えと言うのか?」
特使としての任務を全うするフィンの言葉に、ハックス将軍は書簡を一通り目を通してから不満げな声でそう問い返す。
「連邦は、すでにそれを通達しています。武装を解除し、降伏すればあなた方の身柄は保証します。ファースト・オーダーが拉致した人々に対しても、相応の対応を約束しましょう」
スターキラー基地の主戦力を鎮圧した時点で、連邦軍はファースト・オーダーへ降伏勧告を行っていた。にもかかわらず、彼らはスターキラー基地の兵器を強制的に発射しようとした。兵器の主導力部を破壊し、星の機能ごと基地を破壊した後も、敗走に至った敵艦隊にも、連邦軍は降伏勧告を続けたのだ。
それでも、ファースト・オーダーは折れない。交渉に来たとは詭弁とも言える様子で、フィンを睨みつけるハックス将軍は、恐れも慄きも無い平坦な声で宣言する。
「我々は連邦の薄汚れた兵士ではない。誇り高き帝国軍だ。断じて降伏は受け入れられない。徹底抗戦を貫く所存だ」
「…わかりました。とても残念です、将軍閣下」
尊厳なハックス将軍の物言いに、フィンもまた感情のない平坦な声でそう返した。憎しみも怒りも、戸惑いも迷いもない声色。彼らの歩む道は険しいだろうが、そう選択した以上、特使としての赴いた自分にしてやれることはない。
鼻を鳴らして踵を返したハックスの後ろ姿を見送る。特使としての役目は終わったフィンも帰り支度を済ませ、すぐに乗ってきた交渉船へと戻ろうとしたが、席を立ったと同時に僅かな揺れとフォースの乱れを感じた。
悟られないようフォースの感覚を鋭くする。おそらく、乗ってきた船はもう原型を留めていないだろう。共に来てくれた乗組員達のことを思うと胸が苦しくなったが、その悲しみに浸る暇すらファースト・オーダーは与えないようだった。
ハックス将軍が出て行った扉が再び開くと、そこには行手を遮るようにストームトルーパーの軍勢がフィンを待ち構えていた。
「FN-2187。俺を覚えているか?」
「ええ、よく覚えてますよ。チーフリーダー」
先頭に立っている赤い肩部装甲を身につけるトルーパーの声。フィンは聞き覚えがあった。自分がまだ、ファースト・オーダーに属していた時、そして逃げ出す間際に会話をしたトルーパーが目の前の相手であった。
「今は俺が隊長だ。よくも姿を見せることができたな?連邦の犬となったか?なんだ、その格好は。ジェダイの真似事でもしているつもりか?」
下から上に、値踏みするような目を向けるかつての上司の言葉に、フィンは感情を隆起させることなく、どこまでも平坦な声色でその侮蔑が混じった問いかけに言葉を返す。
「今の私は連邦の特使です。貴方たちと敵対するつもりはありません。それに、もう私はストームトルーパーではないのです」
あくまでフィンは特使だ。
連邦でも、ファースト・オーダーでも、ほかのどの組織にも肩入れせず、属さず、それでいて単独で道を切り開く力を持つ調停者として、この交渉を連邦政府から任された立場だ。
その言い草に腹を立てたかのように、トルーパーの隊長である相手は腰にぶら下げていたブラスターの銃口をするりと立っているフィンへと向けた。
「馬鹿馬鹿しい。貴様はあの頃から変わっていない。自分で何も決められない臆病者のままだ。射殺命令すら聞くことのできない腰抜けだ」
フィン、お前はすでに知っているはずだ。自分にとっての敵が〝何か〟ということを。
「自分にとっての本当の敵…ですか?」
フォースの瞑想の中でしか現れなくなった彼は、まだトルーパーであった自分に変わるきっかけをくれた相手だった。霧のように漂うフォースの中で、彼はジェダイローブを揺らしながらフィンの問いに答えた。
「そうだ。ジェダイにとっての敵はシスや暗黒面…そういう考えもあるが実際は違う。ジェダイにとって最初に相対する敵は自分自身だ」
怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖、嫉妬、執着心。その全ての感情や感覚は暗黒面へと通ずる戸口となる。
旧共和国のジェダイは、その戸口を閉ざすために体制をとった。ジェダイになれるのはフォース感応者、そして生後間もない子供のみに限定した対策だ。
成長する過程で手にする人間性や感受性を破棄し、自己顕示欲や独創性を廃棄して暗黒面へ通ずる戸口をそもそも〝存在しない〟ようにしようとした。自然的なフォースに順応するために。だが、それもまた間違いだった。
「人間性を捨て、フォースに順応したところで人の生で得られる感受性を捨て去ることは誰にもできない。それはマスターであったとしてもだ。怒りや恐怖、憎しみや妬みを捨て去った気でいても、扉は存在し続けている。それを意識していないから扉が開いても気が付かない」
そして気が付かないまま、自分が暗黒面に足を踏み入れる。自分はジェダイだと謳いながら。
「ライトサイドの中のダークサイド…」
思わずフィンは口ずさむ。かつての師達が言ったことだ。眩しい光の中にいると、光で何も見えなくなる。それこそが、ライトサイドの中にあるダークサイドだとも。
「光の中の闇だ。眩しすぎる光ゆえに目が見えなくなる。だからこそ、ジェダイにとってまず向き合うべきものは教えでもダークサイドでもない。自分自身だ」
座するフィンへ、彼はゆっくりと腰を下ろして目線を合わせる。その言葉の全てを伝えるかのように。ダゴバで作り上げたフィンのライトセーバーを見つめながら、彼は微笑んだ。
「フィン。まずは自分の中にある暗黒面を感じろ。扉を認識するんだ。怒りも憎しみもあるということを感じ取るんだ。その扉を開けることも、閉ざすこともできるように」
認識しないようにすることと、認識した上で制御するでは全くの別物だ。しかし、それをしなければジェダイは変わることがない。故に、彼はフィンへとその試練を与えた。なによりも辛く、険しい試練を。
「自分の選択を教えや感覚といった不明瞭なものに委ねるな。自分で決めるんだ。その扉をどう扱うかを。手放すか、それとも手をかけるか」
そう言って、フィンの方へと手を置く。その暖かさはハッキリとフィンは感じ取ることができた。優しい目だった。ヨーダや、ウィンドゥらがしていた目と同じ優しさが宿された目で、彼はまっすぐとフィンを見つめる。
「大丈夫だ、フィン。お前なら選べる。そして決められるはずだ。自分自身の在り方も」
彼の体はフォースへと溶けてゆく。瞑想の意識が表層へと上がってゆく。フォースを感じ取る集中力が途切れそうになる中、フィンは彼の言葉をしっかりと受け取った。
フォースは常にお前と共にある。忘れるな、常に敵であるのは自分自身ということを。
「今の私はジェダイです、隊長どの」
ブラスターの銃口を前にしても、フィンの感情が揺らぐことはなかった。平坦な声色が変わることはない。まっすぐとヘルメット越しにある相手の目を見つめる。
「その手に取ったブラスターを下ろしてください。私は貴方たちと戦うつもりはありません。私は交渉に来たのです」
「ああ、だろうな?だが、徹底抗戦を宣言している我々が貴様を返すと思うか?貴様の生首を連邦に晒して、一人でも多くの汚れた兵士たちを地獄へと引き摺り込んでやる」
もとよりマトモな交渉に応じる必要もなかった。これは踏み台だと隊長は言う。憎き連邦を地獄の底へと引き摺り込むための踏み台。正気を失っている。フィンは改めてその事実を見た。
連邦軍に囲まれながらも戦うという狂気。それはもう、フォースでもどうすることもできない。
「まずは貴様だ。FN-2187。ファースト・オーダーから逃げたことを悔いて死ね!!」
隊長の指が、ブラスターの引き金を引こうとした瞬間。まるでプラズマの稲妻のように光が彼の視界で瞬いた。フォースの力で自分のライトセーバーを手繰り寄せたフィンが、同時にプラズマの刃を起動し、一閃を振り上げたのだ。
「があっ!?」
ブレることなく止まった刃と同じく、ブラスターを握っていた隊長の腕が、ぼとりと硬い床へと落ちた。後方にいるトルーパー達がどよめく。その一閃はまさに神速。どう斬られたか、それは当人でも理解することができなかった。
フィンはどよめくトルーパーたちを見渡してから、ゆっくりと振り上げた構えを解き、紫色のライトセーバーの刃を閉じる。
「次はありません。私は貴方達と戦うつもりは無いと言ってるのです。それとも、ここで全滅したいですか?」
それほどの力があると言っているような言葉。だが、トルーパーの誰もがその眉唾ものの言葉を信じざるを得なかった。今目の前にいる、かつてトルーパーだった相手に、勝てるヴィジョンを見ることが出来なかったからだ。
「愚か者が…ファースト・オーダーの…帝国の崇高な理念を理解できない腰抜けが…」
跪き、痛みに苦しむトルーパーの隊長。相手が紡ぐ恨言のような言葉に、フィンはライトセーバーを腰にかけながら、簡潔にその言葉を切り裂く。
「それは貴方からみた一方的な主観でしかありませんよ、隊長どの」
「この時代にジェダイなど要らない!貴様は愚か者だ!!」
吐き捨てるような言葉。
たしかに、連邦軍が銀河全体を統治しつつある今の世界に、〝ジェダイ〟という存在はいつか不要なものになるだろう。
それでも、とフィンは立ち上がった。そして今、ここにいる。一人のジェダイとして。
「そうかもしれません。けれど、それで救える誰かがいるなら、俺はジェダイであり続けます。フォースの導きを信じて」
隊長の横を通り過ぎて歩き出したフィン。ジェダイを止める者は誰もいなかった。誰もが心の中でわかっていたから。その戦いの虚しさを。
トルーパーたちが避けるように道を開く中、フィンは歩いてゆく。
その姿はまさに、銀河の守護者と呼ばれていた———ジェダイであった。