アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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エンドアの戦い 5

 

 

 

「全ては無意味だ、アナキン・スカイウォーカー。貴様はここで私に殺されるのだ」

 

排気ダクトが連なるエリアへと差し掛かったアナキンとヴェイダーの戦い。

 

ダクトが破壊されたことで生じた煙に乗じて、姿を隠したアナキンを注意深く探しながら、ヴェイダーは通路を歩んでいた。

 

もう何十手と切り結んだ攻防であったが、二人の実力はほぼ互角。機械の四肢と呼吸システムによって管理されたヴェイダーのタフネスさと比べると、長期戦になればアナキンが不利になることは明白だった。それを承知した上での作戦。おそらく、この排気ダクトへと退路を選んだのもアナキンの咄嗟の判断であったのだろう。

 

だらりと自然体にライトセーバーを下げたまま悠然と歩くヴェイダーは、どこかに隠れて様子を窺っているであろうアナキンに対して言葉を紡いだ。

 

「決着をつける?そんなもの、とうの昔に付いているだろう?貴様が私になる前の存在を穿ってから」

 

ムスタファーでログがアナキンに討たれることを望んだ段階で、彼が望む望まざるに関係なく、二人の戦いはアナキンが生き残ったことで完結している。そのことに満足したからこそ、この肉体は空となり、それを良しとしないフォースの意思が、ヴェイダーという器を宿したのだ。

 

「そら、簡単な話だ。すでに決着など付いてる。貴様が私の前に現れた段階で、結末は決まっていたのだ」

 

その結末で良かったというのに。それで彼は満足したというのに。それでも足掻いて、それが納得できないから、アナキンもパルパティーンも、ヴェイダーの前に現れたのだ。決着など、とっくに付いているというのに、それが認められないから足掻いている。

 

ここまでくるのに、そんな下らないことに縋って、反乱軍や帝国と分かれて、シスやジェダイだと謳って、刃を重ねて歩んできた。

 

それでも、まだ足りないと言って、走って、走ってきた。

 

「あの結末で足りぬと言うなら、まずはエンドアにいる貴様の娘を殺そう。船に乗る妻を、この場にある息子を、タトゥイーンにいる貴様の親族を皆殺そう」

 

反乱軍を殺そう。歯向かうものを全て殺そう。ジェダイに関わったもの全てを消してやろう。スカイウォーカー家を知るすべての存在を消し去って、全てを無に還してやろう。

 

「貴様の大切なものを全て失えば、そんな幻影からも逃げられる。フォースの深淵に立つために失うものを無くせ。できないというならば仕方がない」

 

故に、貴様を殺して、私がそれを果たそう。

 

機械化された音声がダクトに響く。ふと、ヴェイダーが背後から立ち上る気配に気がつく。振り返ると、すでにライトセーバーを起動させたアナキンが、そこに立っていた。

 

皮膚を切るような緊張感の中、両者の視線が交錯する。奇しくも構えは同じ、剣を持つ手をだらりと下げた自然体であった。

 

自身の心音が大音量に聞こえるような静寂が、二人の間に横たわっていた。

 

剣舞の始まりは唐突なものだった。

 

かすかに響いた鉄を打ったような音が響くことを合図にして、両者の間に火花が散った。赤と青の光が互いに喰い合う。甲高い音を残して間合いを取る両者の頬や黒い装甲に薄く刻まれた傷が、生まれた。

 

最速。最短。アナキンは勝負をかけた。

 

持久戦に縺れ込ませるにはアナキンの衰えた体力では分が悪すぎる。ひと呼吸でライトセーバーを斜めに構えると、一閃を皮切りに流れるような剣舞が炸裂する。ヴェイダーもそれに応じ、2人の振るう光刃が狭いダクトの通路内で乱舞した。

 

刃を鍔迫り合わせ、アナキンが力任せに通路の出口までヴェイダーを押し除けたが、その押し出す力を逸らし、ヴェイダーは鮮やかに体を翻し、アナキンの猛攻を躱した。

 

バランスを崩したアナキンへ、ヴェイダーの一閃が降りかかる。疲労がピークに達しようとしていたアナキンは、その一撃をギリギリで逸らすことしかできなかった。ライトセーバーの柄にヴェイダーの一閃がかすめ、アナキンの手から放たれていた青白い光が突如として消え去る。

 

……終わりだ!

 

得物を失ったアナキンを見て、ヴェイダーは大振りした腕を引き絞るように構え、止めの一撃をアナキンの元へと繰り出そうと踏み込み…、

 

地に膝をついた。

 

「ダース・ヴェイダー」

 

ヴェイダーの脇腹を、青白い光が貫通したのだ。突き出されてすぐさま引き抜かれた一撃であった。大振りから構えに移行する僅かな隙間に、アナキンは勝機を賭けたのだ。

 

だが、おかしい。アナキンのライトセーバーは放った一撃で破壊できたはずだ。身を焼き貫かれた苦痛から顔を上げる。そこには、壊れたはずのライトセーバーから、青白い光を立ち上らせて構えているアナキンの姿があった。

 

「それは…」

 

その手に収まるものは、アナキンの物ではない。確かに見覚えがあった。すでにヴェイダーがヴェイダーになる前の記憶であったが、そこには確かに、彼が知る物があった。

 

「ログ・ドゥーランの…ライトセーバー…か…」

 

ムスタファーで、火山にログが焼かれた後にアナキンが拾った彼のライトセーバー。オビ=ワンが、この戦いになる直前に霊体で現れ、アナキンにログのライトセーバーを託したのだ。

 

タトゥイーンで、オビ=ワンはずっとそのライトセーバーと向き合っていた。苦悶と、苦しみがこびりついたログのライトセーバーと。アナキンも握りしめた瞬間に、ログの残留思念を読み取った。

 

そのライトセーバーに込められた深い悲しみを。

 

「ヴェイダー、お前の言う通りなのかもしれない。お前の言った通り、すでにログはこの世界に居ない。僕たちは居なくなった者の影を追い続け、それに怯えてきた半端者なのかもしれない」

 

彼を殺したのは僕だ。

彼をそうしたのはジェダイだ。

彼をそうせざるえない道へと誘ったのは世界だ。

 

そして、目の前で膝をついているヴェイダーは、その意志の残光。彼がいなくなったというなら、その残光をこの世界に縛り付ける意味もないはずだ。

 

「だからこそ、僕は…」

 

「素晴らしい。いいぞ、アナキン」

 

その言葉を遮ったのは、通路の先に繋がっていた玉座であった。見上げる階段からパルパティーンが降りてくる。その表情はまさに、待ち望んでいた瞬間がやってきたと言わんばかりの顔つきであった。

 

「そやつを殺せ」

 

まるで歓喜するように、パルパティーンは膝を折ったヴェイダーを見下ろしてアナキンへ告げた。計画では、アナキンが勝利しようが、ヴェイダーが勝利しようが問題などない。

 

パルパティーンが再現しようとしたのは、あの帝国が樹立した時の激闘そのものだ。

 

フォースの流れや意思を、あの時と同じような場面に導くこと。そして、その瞬間に鍵となるアナキンか、ログの残光であるヴェイダーが死亡すれば、失われたログの元へと続くフォースの扉が現れると計画していたのだ。

 

「抜け殻でしかないそやつなど、なんの価値もない。ログの肉体という順応性の高い利点を除けば、そやつが生きていることも値しない骸だ」

 

さぁ、殺せ、アナキン。殺して失ってこそ、その先に開く扉があるのだ。その扉を開く鍵を、そなたは持っておる。ログ・ドゥーランと同じように。真っ黒な外套の下から、その期待に満ちた目をアナキンへ向けるパルパティーン。

 

カイロ・レンを取り戻したルークたちが、玉座へと戻ってきたのも、そのタイミングであった。ログのライトセーバーをぶら下げてヴェイダーの前に立っているアナキンを見て、ルークとカイロ・レンは息を呑んだ。

 

「父さん…!!」

 

幾ばくかの沈黙のあと、アナキンはログのライトセーバーの切っ先を持ち上げ、その光刃のスイッチを切った。とたん、パルパティーンの顔つきが変わる。

 

「僕は、僕は殺しはしない」

 

明確な拒絶だった。パルパティーンが欲するログの回帰を、アナキンは望んでいなかったからだ。

 

彼は、もう死んでいる。

 

この世にいないのだ。ヴェイダーとの戦いでそれを知ったアナキンにとって、これ以上のことは、全て無意味に思えてならない。

 

「僕はジェダイでも、シスでもない。英雄でもない。〝ただのアナキン・スカイウォーカー〟だ。シーヴ・パルパティーン」

 

ヴェイダーに背を向けてアナキンは茫然と立ち尽くすパルパティーンと向かい合った。彼もまた、自分と同じだ。あの日に負った深すぎる傷を抱えて動けなくなっているだけだ。

 

「お互いに、もう見えなくなった人の影を追うのはやめましょう。彼はもう…居なくなったんです。議長…」

 

ヴェイダーの言う通り、もう既に決着は付いていた。パルパティーンが帝国を樹立した日に。アナキンがログの身をライトセーバーで貫いたときに。

 

「だまれ!!!」

 

慟哭と共に、凄まじいフォースの流れがアナキンへと襲いかかる。壁際まで吹き飛ばされたアナキンは、なんとか着地はするがその痛みに顔を歪ませる。

 

「彼を呼び戻せるのだぞ!!それを諦めろというのか!?フォースの深淵たる知識を前にして、諦めろと!?ふざけるな!!」

 

再び目を向けたパルパティーンの目は、黄金色に染め上がっていた。両手に稲妻を迸らせ、あふれるエネルギーで辺りの物を破壊しながら、その怒りをあらわにしてゆく。

 

「諦めてなるものか!!踏みにじってなるものか!!そのために彼は礎となったというのか!?ジェダイなどという下らない思想を終わらせるためだけの礎に!!そんなもの、余は認めん!!余の待望を前にして、そんなものを認めてなるものか!!」

 

「パルパティーン議長!!」

 

「違うぞ、アナキン。余の名はダース・シディアス。シス・マスターであり、ログの唯一のマスターだ!!」

 

撃ち放たれた電撃を、アナキンは手に持っていたログのライトセーバーを起動させて受け止める。凄まじい威力のフォース・ライトニングは、その場で踏ん張ることしか認めず、アナキンの動きを封殺する。

 

「シディアァァアアス!!」

 

電撃を放つシディアスの背後へ、飛び上がったカイロ・レンがクロスガードライトセーバーを振りかざして襲いかかる。

 

「自ら呪縛を解いたか、我が息子よ」

 

その一撃を空いた手の袖からライトセーバーを下ろしたシディアスは、たやすく打ちとめた。感心はする。脳内に埋め込まれたバイオチップの思考操作を打ち消しても、自分に挑んでくる強さに。

 

「俺は、あんたの息子なんかじゃない!!ここであんたを倒す!その知識は危険すぎたんだ!!」

 

「身の程を知れ、愚か者よ。そなたら程度では余を倒すことなど不可能だ」

 

その程度では足りぬわ!!父の援護に加わろうとしていたルーク目掛けて、シディアスは片手の僅かな動きのみで襲いかかってきていたカイロ・レンを操り、矢のように撃ち放つ。

 

「ルーク!!」

 

「愚か者が!!フォースの何たるかを理解せぬ者たちめが!!ならば余が相応しい死をくれてやる!!その身を以ってして、ダークサイドの…無限のパワーを思い知るが良い!!」

 

シディアスがフォースを手繰り寄せるように力を放つ、手に持っていたライトセーバーが浮かび上がり、体勢を崩したカイロ・レンやルークとの剣戟を始めた。

 

手を一切下さずとも、卓越したライトセーバーの動きでルークとカイロ・レンを釘付けにするシディアス。

 

「どうした!!この程度で戦うとは!!なんたる無知なことか!!身の程を知れ、アナキン・スカイウォーカー!!」

 

シディアスから撃ち放たれた稲妻が、アナキンを襲った。防御する間も無く穿たれ、その衝撃と共に吹き飛ばされたアナキンは、無骨な鉄骨へその身を打ち付けた。

 

「がはっ!!」

 

握っていたログのライトセーバーがシャフトの底へと落ちてゆく。

 

「これで終わりだ、もう一人の選ばれるはずだった者よ。フォースの意思への礎となるがよい」

 

両の手に火花と化したフォースの稲妻を持つシディアスが、身動きの取れないアナキンへ邪悪な笑みを向け、極光へと達したフォース・ライトニングを放つ。

 

だめだ。どうにもできない。肺の中の酸素すらも失ったアナキンは、迫る稲妻を茫然と見つめる。視界の端で、ルークが叫んでいる姿が見えた。

 

手に武器はない。あれほどの電撃だ。受ければ…命はない。しかし、目的は達した。彼の執着をほんの僅かにでもくじけたと言うなら、満足だ。悟ったように迫り来る光を見つめる。

 

そんな彼の前に、影が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

もう随分と、昔に感じられる夢。

 

 

 

 

 

 

 

あの日、あの瞬間に、俺はログ・ドゥーランとしてスタートを切った。

 

通い慣れていたはずの小さな路地は、今となっては別世界のように見えた。自分があの世界で過ごした時間は、すでに元いた世界よりも多い。

 

コンビニ袋をぶら下げた自分が目の前にいる。あの時と変わらない。何も知らないままライトセーバーに貫かれた自分自身。

 

こちらは黒い服を身に纏っていて、手にはライトセーバーが握られている。

 

結末を知った。

 

アナキンの孤独を知った。

 

フォースに触れた。

 

世界の行く先を見据えた。

 

多くのことを学び、多くのことに触れ、多くを見た俺は、満足したのか。

 

確かにアナキンは暗黒面に落ちなかった。

 

ドゥーランが望んだ、アナキンを一人ぼっちにさせないために尽くした全てが報われたはずだ。

 

だが、何故…こんなにも虚無が胸の中にあるのだろうか。

 

誰も傷つかない未来を見つめて、アナキンとパドメや仲間が笑える未来に向かって駆け抜けてきたはずだというのに。

 

心の中には満足感どころか、あれだけ感じていたアナキンへの愛も、友情も、優しさも感じられない。

 

冷たさがあった。

 

後悔と、虚しさがあった。

 

そのためだけに、走ってきたというのに。その果てにあったものが、こんなにも残酷なものだったとは…。

 

自分はいったい、何のために世界を変えようとしたのか。

 

アナキンを一人にしないために、俺が一人になった。

 

本当に

 

 

 

 

 

 

本当に?

 

俺は一人になったのか。

 

視線を落とした先。

 

そこにあるのは赤いライトセーバーの光だった。

 

真っ赤なプラズマの光が腹部を貫いている様を見て、俺の意識は表層へと蘇る。そうだ。これで満足したと言った。けれど、やり残したことがある。

 

無意識に、俺の手は自分を貫くライトセーバーの光刃へと伸びた。刃を握りしめる。熱い何かが手に広がったが、痛みは感じなかった。

 

後悔がある。何の?

 

虚しさがある。何に対しての?

 

その答えを、俺は知っていた。知っているからこそ、その道に落ちたというのに。

 

 

 

 

 

〝悪いな、俺を待っている人がいるんだ〟

 

 

 

 

ズルリと引き抜いたライトセーバーを掲げながら、空を見る。

 

フォースと一体になっても、俺が世界と繋がっていられたのは、そんな人間らしい感覚であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに…!?」

 

シディアスから驚愕の声が漏れ出した。その稲妻の前に悠然と飛び出したのは、さっきまで倒れていたはずの…ヴェイダーだった。

 

真っ赤な光剣をかざし、シディアスから放たれる電撃を身をもって受け止める。馬鹿な、すでに意識など存在しないはずだ。ダース・ヴェイダーという傀儡は存在しないはずだ!セイバーのプラズマで許容できない稲妻がヴェイダーの機械の体を駆け巡り、生命維持装置の全てを破壊する。アナキンに穿たれた傷から入った電力は残されたヴェイダーの僅かな肉体を焼き切った。

 

しかし、彼は引かなかった。背後でその光景を目の当たりにしたアナキンを一瞥し、空いた手を宙へと伸ばす。

 

 

「『議長、ここで決着です』」

 

 

機械音声ではない声が響いた。

 

同時に、シャフトへと落ちていったはずのログのライトセーバーが、魔法のように導かれ、手をかざしたヴェイダーの元へと舞い戻る。

 

二刀となった光刃を交差させ、膨大なフォースの稲妻を受け止める。

 

シディアスは思考が真っ白に染まっていた。彼の背後には、幾人ものフォースの霊体が立っていた。ジェダイも、シスも、彼が導き、彼が裁いた者も。その多くがそこにいた。

 

彼らは手を伸ばす。まるでヴェイダーの背を後押しする様に、まるでフォースを送り込むように。

 

 

ああ、そうか。

 

そうだったのか。

 

そんなにも…単純なことであったか…。

 

 

差し伸ばされた手先から見える光。

 

シディアスが放っていた稲妻は反転する。

 

その瞬間、玉座があった部屋は眩い光とフォースの激流に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

シナリオを練り直すのを許せるか?

  • 細かい描写も見たい
  • ログの心の移り変わりを見たい
  • とりあえずエンディングまで突っ走れ

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