機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第07話【特殊戦技教導】

 

 という訳で。

『本艦はこれより、特殊戦技教導隊……“特技隊”として新機軸のドクトリン研究の為ルナツーから発進します。総員、出航準備!』

 マナ・レナ艦長の号令で、俺達フォリコーンのクルーは一層気を引き締めた。

「……」

 若干一名を除いて。

 現在俺達パイロット組はフォリコーンの食堂に集まっていた。

 更衣室に待機するのが一番いいのだが、なんせグレン小隊、リーフ小隊……いや、俺が隊長を務める“シャドー分隊”が新たに新設されたおかげでグレン分隊、リーフ分隊と改名したのだが、総勢9名補充要員2名含めた計11名。

 

 折角テリー・サンダース・Jr.軍曹に会えたのは良かったが、彼らは別の部隊として出撃するらしい。きっとその先でシロー・アマダ少尉と出会って、08の第一話に繋がるんだろうなと思うとその場に居合わせられないのが残念で仕方がない。

 

 とまれ、この艦で男は俺一人である。

 

 一応、全く男がいない訳ではなかったのだが、彼らはV作戦資料回収用の専門家達だったらしく、ルナツーで早々に降りてしまったのだ。

 

 このフォリコーンにはどういう事か女性……しかも美女美少女が多かった。

 

 何故かは知らないが、男だらけでむさ苦しい中に放り込まれるよりかはマシというもの。

 

 ……しかし、美人っていい香りがするので、ついうっかり理性を失わないか心配である。

 

 一度ほぼ成り行きで肌を重ねたマナ・レナ艦長には「ここから惚れさせてこそ、真の男ではなくて?」と言われてしまったので、何か良い口説き文句でも思いつかない限り俺は彼女無し生活に逆戻りだ。土下座交渉など使えよう訳もないし。

 

「……」

 

 まぁ、俺のそんなシモ事情はさておき、問題は俺のお隣で絶賛むっつり怒り顔のヒータ・フォン・ナントカさんだった。

 

 ルナツーについて自室謹慎から解放された後一度艦長に謝ったというのは聞いたが、それ以降彼女に何があったかはよく知らない。

 

 この怒りの表情については、俺が勝手にジムのパイロットにミドリ・ウィンダムちゃんと彼女を推薦したからではないかと思っているが、そこの所は分からない。

 

 折角宇宙世紀世界に飛ばしてきたのだから、ガンダムと一緒にニュータイプ技能も頂けなかったのかと神に愚痴るばかりである。

 

『微速前進!』

『微速前進! ヨーソロー!』

 

 そんな俺の胸中などいざ知らず、フォリコーンはルナツーを発し、再び広大な宇宙の波を漕ぎだし始めるのだった。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「フォリコーン、ルナツーを離れます」

 

「まさか二週間も経たない内にここからペガサス級が出て行く光景を二度も見るとはな……中尉」

 

「なんでしょうか、ワッケイン司令」

 

「君は、フォリコーンが何故女性ばかりで構成されているかご存知かね?」

 

「……いえ、小官にはわかりかねます」

 

「理由は単純だ。連邦上層部の一部は旧暦の男尊女卑文化を引き摺っているのさ。“女が指揮を執るなど”“女の下で働くなんて真っ平ごめんだ”といった事情で一か所に集められたのが、彼女たちだ」

 

「……」

 

「優秀な人材より、己の体面を重視する……我が軍のトップとは、そんな連中さ」

 

「……心中、お察し致します」

 

「いや全く……この時代は寒すぎるよ、本当に」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 フォリコーンの食堂で待機していると、ジオンが大々的な放送をしているという噂が艦内を巡り回っていた。

 

 この時期でジオンの放送といえば、やはり“アレ”だろう。

 

 俺の他のパイロットたちも気になったという様子で反対意見もなかったので、早速備え付けのモニターとテレビへと切り替える。

 

 巨大なガルマ・ザビの遺影を前に力強く握り拳を握り、熱く演説する男が映っていた。

 

「ギレン・ザビ……」

 

 パイロットの少女の一人が、そう呟いた。

 

 あの男がギレン・ザビ……。

 

 良い声してるなぁ。

 

『諸君らの愛したガルマ・ザビは死んだ! 何故か!!』

「坊やだからさ」

「なんだって?」

 ボソリと呟いたつもりだったが、隣に座っていたヒータにはバッチリと聞かれていた様子だ。

 彼女もまたマナ・レナ同様、士官学校時代の同期らしい。

 この艦には他にもリーフ分隊長のミドリちゃんや、その他十数名が同期生で構成されているとか。

 

 訓練艦か何かじゃないかと疑いたくなる構成だが、曰く“未来のエリート集団”らしい。

 真偽はさておき“エリート”と言われれば気分も良くなるというもの。

 

 それに、周りを見渡すと皆、決意の裏にどこか不安を見せる様な表情ばかり。

 

 “エリート”という言葉は、彼女らの誇りにして心の支えになっているのかもしれないな。

 

『立てよ国民! ジーク・ジオン!』

『ジーク・ジオン!!』

『ジーク・ジオン!!』

「何がジーク・ジオンよーっ!」

「コロニー落としの人殺しがー!!」

 連邦とジオン双方の熱気が食堂を支配する。

 地球出身の彼女らには、きっと彼らの苦労と怒りは伝わらないだろう。

 最も、この戦争はザビ家独裁の為の野望の様なものなので、本当に怒りを向けるべきは喝采を煽るギレン・ザビなのだが。

 

 

 ……いやでも、こんな良い声で煽られたら従うよなぁ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 戦術論どうのこうの以前に必要なのは、やはりパイロットのモビルスーツ操縦技術の向上だった。

『テリー曹長、準備はよろしいですか?』

「いつでも良いぞ!」

『カタパルト接続! 進路クリア! 発進どうぞ!』

「ガンダム行きまぁぁす!!」

 

 身体に掛かるGを感じながら、俺の乗る黒いガンダムはフォリコーンから発進した。

 振り返ると、ミドリちゃんとヒータ・ナントカのジムも続いて発進するのが見える。

 

『マナ・レナより各機へ。これより、モビルスーツ同士による模擬戦を行います。まずはグレン01とリーフ01の一騎打ち。シャドー01テリー軍曹!』

「はい、艦長!」

 マナに呼ばれて、俺は元気に返事をした。

『モビルスーツの扱いは軍曹の方が二人よりも少し先輩です。是非、近くで観察して指導してあげてください』

「教官の真似事をしろと?」

『えぇ。士官学校時代の仕返しにドンドン厳しくしてやってね』

「……了解した」

 ごめん、覚えていない。

『先にペイント弾がコックピットに直撃した方が負けとします! 曹長、号令は任せました』

「わかった」

 モニターの向こうでは既に二人の乗るジムが対面し、俺の号令を待っていた。

「ふむ……」

 

 普通に「始め!」だと味気ないよな。

 

 よし、ちょっと緊張をほぐしてやろうか。

 

「すぅ……」

 

 息を吸い、腹に力を込める。

 

「それではぁぁぁぁぁぁッ! ガンダムファイト! レディィィ『真面目にやる!!』

 

 ごめんなさい。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

『そこまで!』

 ミドリ・ウィンダムの駈るジムが放ったペイント弾がヒータ・フォン・ジョエルンのジムのコックピットに直撃した瞬間、模擬戦終了の合図が鳴った。

「ふぅ……」

 模擬戦とはいえ、20メートル前後あるサイズの巨体が突っ込んでくる戦いは、戦闘機とはまた違った緊張感があった。

 

「こんなものを初めての出撃で操ってザクを三機、ムサイを一隻沈めたテリー・オグスターにはモビルスーツ操縦の才能があるとしか思えないですね……」

『はぁ……はぁ……お前も大概だと思うぞ、ミドリ』

「あら、通信繋がりっぱなしでした?」

 独り言のつもりだったので、それがヒータに聞かれた事に頬を赤らめるミドリ。

 

『悔しいけど、お前には敵わないなぁ』

「ヒータさんも凄いじゃないですか。被弾率だけで言ったら、私の方が酷いですよ」

『ほとんど足だったけどな。宇宙じゃこんなの飾りだろうに』

 ヒータの指摘通り、ミドリの乗るジムはコックピット以外、特に足部分に集中してペイント弾が当たっていた。

 一方のヒータ機は盾こそ塗料まみれだが、本体の方はコックピットのみの直撃である。

 

『モビルスーツが戻ってくるぞ!』

『あーあ、ベトベトになって帰って来ちゃってまぁーー……』

『ヒータ! 負けたペナルティはジムたちのお掃除だって!』

『マジかよぉ!』

『ミドリ伍長、ちょっと良いか?』

 

 ハンガーで色んな怒号が飛び交う中、ミドリに声をかける男がいた。

 というか、この艦には現在男は一人しかいない。

 コックピットハッチを開いて外に出てみるとと、そこにはバインダー片手に待機しているテリー・オグスターの姿があった。

 

「テリー曹長。どうでした?」

「良い戦いだったよ。狙いが正確なのが特に良かった」

「得意分野ですから」

「秘訣とか、聞いていい?」

「秘訣、ですか……?」

 士官学校時代にも聞かれなかったような質問に、ミドリは思考を巡らせてみた。

 

「なんだか、分かるんですよね。……こう、このタイミングで当たる、みたいな……勘に近いものが」

「ほう」

 バインダーの用紙にメモを取る訳でもなく、何かに関心した様子を見せるテリー。

 

「でも、回避の方は全然ダメだったな。君は焦ると上に逃げる傾向がある」

「私もこうして外から見てそう思いました。やはりセイバーフィッシュとは違うんですね」

 二人の視線の先には、足先からふともも部分に至るまでピンクに染まりあがったジムの姿がった。ヒータの狙いが正確ではなかった、というよりは、コックピットを狙った弾を上に避けた際に足に当たった、と取るのが当然の見解だ。

 

「モビルスーツは戦闘機と比べて“的”が大きいからな。上下に避けるより左右に避けたり、盾を有効利用するのが良いかも」

「そこはヒータさんお上手でしたね」

「ほぼ全弾凌いだのは見事だった。ただ、実戦だと盾がボロボロになって撃墜されていたかも知れない。……全く、ゲームと違って調整が難しいよな」

「あら? テリーくんってゲームやるんですか?」

「……さっ、最近始めたんだ。モビルスーツ操縦の練習になるかもって」

「ふぅん」

 

 この時、初めてミドリ・ウィンダムはテリー・オグスターに対する“違和感”を感じ取った。

 

 彼の事は士官学校時代に少し会話した事のある程度の間柄だったが、たった半年近く会わなかっただけこれだけ違和感を覚えるのは変な話だ。

「じゃ、じゃあ俺! ヒータ伍長の所言って来るから!!」

 問いただす前に彼は去ってしまった。

 

「“エスパー”って渾名に引っ張られて、変に考え過ぎちゃう癖でも着いちゃったのかな……?」

 でも、ほとんど接点のない自分がこれほど変に思うのだから、彼を良く知るヒータなら、どうだろうか?

 

「ヒータ伍長! お前のモビルスーツの扱い、イエスだね!」

「そそっ。そそそそうか? やっぱそうだよなぁ才能あるよなぁオレもそう思うもん!!」

 

 あ、ダメだ。

 

あの女はあの男に話しかけられただけで口元が緩む様な奴だったのをすっかり忘れていた。

 

 

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