機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第08話【仮面の女】

 

 ガンダムとテリー・オグスターを迎えたペガサス級強襲揚陸艦フォリコーンが特殊戦技教導隊“特技隊”としての活動を始めて、一か月の月日が経とうとしていた。

 

 地球では既にホワイトベース隊のアムロ・レイが“青い巨星”のラン・バ・ラル大尉を撃破。

更に“黒い三連星”のガイア、オルデガ、マッシュを撃墜する程の戦果を挙げる“オデッサ作戦”の成功により、戦況は徐々に連邦軍に傾きつつあった。

 一方、宇宙では地上程ではないにせよ、ジオン本国にも混乱が訪れていたという。

 

 歴史は着実に、ジャブローでの決戦に迫っていた。

 

「サレナ・ヴァーン少佐、前方に機影を確認。例の“黒木馬”です」

 キシリア・ザビの配下であるムサイ級巡洋艦“ペールゼン”が隠密行動をとっていたフォリコーンを発見したのは、ちょうどその様な時期だった。

 

「遂に見つけたか……“黒木馬”の動向はどうか」

 サレナ・ヴァーンと呼ばれた人物は、仮面で顔を隠した黒い髪の女性だった。

 カスタムメイドされた白い軍服を身にまとった彼女はこの艦で一番の指揮権を持っている様で、ブリッジの中央で仁王立ちの姿勢を崩さない。

 

「はっ。こちらにはまだ気が付いていない様子です」

「あの位置……地球に降りようという算段だろうが、そうはさせんぞ。艦長、私はイフリート・ダンで出撃する。バーコフ隊にも発進させろ」

「了解であります少佐」

 白いマントをなびかせながらブリッジを去るサレナ・ヴァーン。

彼女が居なくなると同時、緊張一色だったブリッジにひと時の休息が訪れた。

 

「ふぅ」

「艦長、あんな女に好きにさせて良かったんです?」

「それがキシリア様からの命令だからな」

 悪態を付く通信担当の士官に対し、艦長はため息交じりに返答した。

「大体何なんですかね、あの仮面」

「さぁな。赤い彗星のファンなんだろうよ」

『こちらバーコフ! 艦長、発進準備完了だ!』

 そうこうと雑談している内、ザクの部隊長であるバーコフからの通信がブリッジへと送られてきた。

 

「よぉし、バーコフ隊発進させろ! 仮面のお嬢様を無事に舞踏会までエスコートしてやれ!」

『了解!!』

 バーコフ機に続き、それに追随した計四機のザクがムサイの前に出て、一気に敵戦艦へと向かっていく。

 

『イフリート・ダン出撃準備出来ました少佐! ご武運を!!』

『発進する』

 続けて、サレナ・ヴァーンの操る純白のモビルスーツも出撃する。

 その右肩は、まるで血の様な赤色にペイントされていた。

「“血塗りの花嫁”か……」

「なんです?」

「そう見えたのさ。趣味の悪い色してるよ、全く……」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「艦長。コックのマギー姉さんから「塩が足らんのです」と文句を仰せつかったんだが…」

 俺がつまみ食いのペナルティとしてブリッジにいるマナ・レナ艦長の元までパシられて来たのと、敵襲を知らせる警報が鳴ったのは、ほぼ同時だった。

 

「どうしました!?」

「いや、だから塩が…」

「レーダーがモビルスーツらしき機影を捕捉しました! 数は四…いえ! 五機です! 後方から物凄いスピードのが……速い!? 通常のザクの三倍……それ以上の速度で本艦に接近中!」

「ザクの三倍だって!?」

 

 ザクの三倍。

 

 と、言えば勿論赤い彗星(シャア・アズナブル)だろう。

 

「赤い彗星のシャアが出てきたってのか!?」

「総員第一種戦闘配置! ミノフスキー粒子戦闘濃度散布急いで!!」

「了解!」

「グレン分隊とリーフ分隊を先に発進させて! テリー曹長はガンダムに乗って出撃! ……訓練の成果を見せる時ですよ」

「俺達ならいけるさ。じゃ、行って来る!」

 

 言うな否や、俺は出撃準備の為に走った。

 パイロットスーツを着用し、ガンダムのハンガーへ。

「装備はビームライフルで良いですか!?」

「赤い彗星にはバズーカなんて当たらんだろうしな!」

「え? 出てきたのは白い新型だって上から聞きましたが?」

 

 白い新型?

 思わず首を傾げてしまう。

 

 白?

 白だと“ソロモンの白狼”ことシン・マツナガが有名だが、新型となると話が判らない。高機動型ザクならわざわざ“新型”なんて言わないだろうし……。

 

「考えても仕方ないな……。準備できたぞ! 出してくれ!!」

『ガンダム、発進どうぞ!』

「シャドー01、テリー・オグスター! 出るぞ!!」

 出撃時のGにも随分慣れてしまった。

 

 フォリコーンの前方では既にヒータとミドリのジム、そしてセイバーフィッシュ編隊が待機していた。

 

 現在フォリコーンがいるのは、衛星軌道上付近だった。

 サイド7で見た時よりも巨大に見える我らが地球を背景に展開する機体というのは、いつ見ても心のどこかで感動を思えてしまう。

 

「シャドー01より各機へ! 初めての実戦だが焦るな! 訓練通りにやろう!!」

『上官っぷりが板についてきたじゃねぇか』

『頼りにしていますよ、上官殿』

「からかうなよ二人とも」

 両サイドから分隊長達の軽口が聞こえてきた。

 これでいい。緊張しているよりずっといい。

「……ふぅ。落ち着けテリー・オグスター。お前は出来るぞ……!」

 

 とは言ったものの、俺にかかる重圧は相当なものだった。

 思えば、こなした戦闘と言えばザクに不意打ちかまして三枚抜きしたのと、直掩機の居ないムサイを一隻落としたのみ。

 

 敵味方双方万全の状態で挑むという点では、これが初の“戦争”と言えなくもない。

 

『敵、本艦の射程距離圏内に入ります!』

『各砲座攻撃スタンバイして下さい!』

『グレン01より各機へ! ここは地球のすぐそばだ。調子に乗って飛ばすと重力に引かれて地上まで真っ逆さまだぞ! 実家が恋しくなっても己を律するのを忘れんな!』

『ヒータさんが一番暴走しそうですのにね』

『うっせーぞバカミドリ!』

 俺の緊張などお構いなしに状況は進む。

「……見えた! アレは……!?」

 

 

 照準用のスコープ越しに“敵”を見た時、俺は驚愕してしまった。

 

 全体的には、グフに近い左右対称のボディー。

 ただ、ヘッドパーツはドムタイプの物に酷似している。

 宇宙世紀世界に飛ばされてきてからは、確かに初めて見るタイプだった。

 

「……ありえない」

 

 だが、俺は“アレ”を知っている。

 

「イフリートだと!? 地上専用の機体が何で(そら)を飛んでいるんだ!!」

 

 見間違いではなかった。

 あれま間違いなく、真っ白いボディーカラーのイフリートだった。

 赤く塗られた右肩だけが、嫌に脳裏に焼き付きそうになる。

 カテリーングに見覚えはないが、あのシルエットは間違いない、

 

「嫌な空気になってきたな……!」

 

 嫌な汗が噴き出した。その時だった。

 

『うっ! ううぅうぅうう……』

『どうしたリーフ01! おいミドリ!!』

『な、なんだか気分が…ゴッホ! ゲホッ!! …あの白いモビルスーツ……危険……』

「何があった!?」

 

 突如、ミドリの様子が急変したのだ。

 

 ミドリ・ウィンダムは恐らく“ニュータイプ”である。

 

 それは、この一か月程を共に過ごした中で確信めいたものがあった。

 フォリコーンのクルーは“天然だが勘は鋭い人”と評価しているが、たったそれだけで士官学校時代に総合トップの成績などはじき出せるはずがない。

 

 “俺”がテリー・オグスターになって、一番最初に違和感を指摘してきたのも彼女だ。

 

 いや、“唯一”だ。

 

 行動で「テリーくんちょっと変わったね」と言われることは多々あったが、冗談めかして聞いて来ないのは彼女だけだった。

 

 そんな彼女が、モビルスーツ一機視界に入れた途端に気分を害す?

 もう悪い予感しかない。

 

「ヒータ! ミドリをフォリコーンに引っ張って戻れ!! 早くしろ!」

『ダメです……今の、テリーくんじゃ…みんなで……』

「文句があるならまずは体調を万全にしろ! ヒータ!!」

『お、おう!』

「正直アレは俺とセイバーフィッシュ隊だけで抑えられる気がしない! その駄々っ子の病人を蹴り飛ばして、早く戻って来てくれ!!」

『わ、分かったぜ!』

『……ダ……メ……』

 駄目なのなんて分かってるさ。

 

「フォリコーン! 援護射撃頼む! あの白いのを集中して狙え!!」

『分かったわ! 各砲座! 外さない気持ちで撃ちなさーーい!』

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

『黒木馬の艦砲射撃か! 威嚇などに当たるものでは『うわあぁぁ!?』

『コチャックーッ!』

「一機やられたか……」

 口には出したが、サレナ・ヴァーンはそんな些細なことは気にしていなかった。

 

 目的の相手が、すぐ目の前にいる。

 

「見せてあげるわ……連邦の技術で改造されたイフリート・ダンの力ってやつをね!!」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「シャード01より各機へ! ツーマンセルを維持して散開! 白いのには手を出すな! 後方のザクだけと戦え!!」

『『『了解!!』』』』

〈会いたかったぞ! 黒いの!〉

「なんだ!? 敵からの、思念…? 少年の……いや、女の声か!」

〈死ね!〉

 

 白いイフリートが、背中にマウントしていた実体剣を取り出し、右袈裟に振りかざしてきた。

 早い攻撃だった。

 だが、見えない訳じゃない。

 シールドを構えながら後退し、回避。

「くそっ!」

 ビームライフルを短い間隔で三連射。

 腕の一本は持っていける自信があった。

 

 しかし。

 

「なにっ!? 今のを避けるだと!?」

 ぐりん、という音でも聞こえそうな身を捻じる動作に近い動きで、ライフルを全弾避けられてしまう。

〈こんなものか!〉

 

 白いイフリートが剣先を逆に構えた。

 俗にいう“峰打ち”の構え。

 バカにでもしているのか、そう言おうとした時だった。

 

 峰の部分に沿って、ビームの刃が輝きだしたのだ!

 

「逆刃のビームサーベルとでも言うのか!?」

〈死ね! お前なんか! 死んでしまえ!!〉

「ちぃっ!」

 

 盾で防御……したが、あの白いイフリートのビームサーベルは強力らしく、ルナ・チタチウム製のシールドにいとも簡単にめり込んでしまう。

 

「これならぁ!」

 

 だが、元よりこれくらいの覚悟はあった。

 肉を切らせて、というやつだ。

 ビームライフルを捨て、ビームサーベルの柄にアームを伸ばす。

 

 超至近距離からの袈裟斬り! これでダウンだ!

 

「……!」

 

 しかし、この一撃もかわされてしまう。

 

〈読んでいた!〉

「なぁっ……!?」

 

 どうやらこの攻撃を“誘われた”らしい。

 当たるというギリギリの瀬戸際で、白いイフリートは舞う様にサーベルの軌道上から身を引いたのだ。

〈コックピットを焼き斬ってやる!!〉

 バックパックにマウントしていたらしい、もう一本の逆刃ビームサーベルを引き抜く白いイフリート。

 

 やられる!?

 

『テリーはやらせねぇ!』

 その時だった。

 視界外からのジム・ライフルによる正確な射撃が、白いイフリートを襲う。

 

「ヒータか!」

〈ちっ!〉

 不意を突けたからか、ヒータの射撃を避けられずに食らう白いイフリート。

 好機とばかりに、俺もガンダムのヘッドバルカン砲で援護。

「これで抜けない装甲はないぞ! 全弾持っていけ!!」

 

 ほぼ全弾直撃。

 

『やったか! …なんだと!?』

 ヒータの絶叫も最もだった。

 

 何故なら、通常のモビルスーツなら穴だらけの蜂の巣になってもおかしくない弾幕を張ったのだ。

 

にもかかわらず、白いイフリートには、傷一つない。

 

「ジム・ライフルを無傷で耐えた!? これじゃまるでガン……うわぁ!?」

 

 

 それは一瞬の油断だった。

 

 それとも、これも“読まれていた”のだろうか?

 

 とまれ、攻撃の手が止んだ瞬間にイフリートは再び急接近。

 

 全体重を掛けた蹴り、ガンダムの胸部に直撃した。

 

 機体が、後ろに傾く。

 

 

〈大気摩擦で燃え尽きろ! 貴様には上等過ぎる死に方の筈だ!!〉

「くそっ! くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 腹の底から叫びながら、バーニアを噴射する。

 しかし、上昇よりも落下の方が早かった。

 地球の近くで、戦い過ぎたんだ……!

 

「フォルコーン! 重力に掴まった! 戻れない!」

『そんな!』

 

 モニターの端が赤くなる。地球への本格的な“落下”が始まったのだ。

 

 一つ僥倖と言えたのは、白いイフリートが追撃をしなかった事だ。

 

 あの女パイロットは、俺の事は知っている様でも、ガンダムの事までは良く知らないらしい。

 

 ならば。

 

「なんとかはしてみる!」

『なんとかって……テリーくん! テリーく』

 

 途中で通信が切れる。

 恐らく、電波障害の様なものだろう。

 

「頼むぞRX-78……お前もガンダムなら、兄弟と同じように出来る筈だ!」

 

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 あれから、三日経った。

 

 テリー・オグスター軍曹を乗せたガンダムは、突然の事態に慌てる事無く大気圏突入用の装備を展開……する所までは確認出来たが、連絡はつかず、依然消息不明。

 

 ガンダムを蹴落とした事に満足したのか、ジオンの白い新型モビルスーツはそのまま撤退。

 

 ザクの小隊はヒータとセイバーフィッシュ隊、そしてなんとか体調が復帰したミドリ達によって全滅させる事に成功する。

 

 だが、これが果たして勝利と言えようか?

 

 

 追いかけようにも、弾薬食料共に備蓄が尽きかけていたフォリコーンはその場から動く事も出来ず、補給艦を待って、三日が経った。

 

 

「補給艦から弾薬と食料を受け取りました。ハッチ、閉めます!」

「お願いします」

「マナ・レナ! この薄情者!!」

 

 ブリッジで指示を出していたマナ・レナに食って掛かったのは、ヒータ・フォン・ジョエルンだった。

 赤い髪から今にも本物の炎が飛び出しそうな怒りの形相で、キャプテンシートに腰を下ろす上官の胸倉を掴む。

 

「三日だぞ! もう三日も経った!」

「そうですね。補給艦の到着が早くて助かりました」

「お前……テリーが心配じゃねぇのかよ! 学生時代アイツの腰巾着みたいについて回ってたお前が!」

「昔話を持ち出すのはプライベートな時間だけにして下さい。私がこの艦の艦長という事をお忘れか?」

「権力持ったら人情を忘れるのかよ! テリーは仲間だ! 大切な仲間だった!! それが地球の重力に引かれて落ちていくのをお前は、そこで指咥えて黙って見てたって「そんな訳ないでしょう!!」

 

 食って掛かっていたヒータに対し、遂にマナがキレた。

 

 ブリッジの他のクルーはこわばった表情……というか「あーあ、地雷踏みやがったよアイツ」という顔をして無視を決め込む腹積もりだった。

 

 そんな“同級生”達の心遣いも心外に、今度は逆にマナがヒータの胸倉を掴んだ。

 

「アナタは良いですよねぇ! パイロットって騒いで暴れても許されるんですから!! 私が、私が冷静だと! 人の心がないとでも!? そんな訳ないでしょう!! 私はどんなに辛くても泣き叫べない立場なんですよ! それを知ろうともしないで、さも自分が一番自分だけが心配してますなんて顔で他人に当たれたらどれだけ!! どれだけ気分が晴れる事か!!」

 

「……ッ!」

 

「アナタが一方的にテリーくんに好意を抱いているのは知っています。いえ、ここにいる皆同期、士官学校時代からずっと知ってます! 興味を引いてもらう為に暴力ばかり振っていた情けない男みたいな女! 恥を知れ!!」

「マナ・レナ! お前、言って良い事と悪い事が「艦長!! 地球から通信! テリー軍曹からです!」

 

「何!?」

「読み上げます……連邦の地上部隊と合流! 指示があるまで現地部隊のお世話になる、との事!」

「部隊名は言っていましたか!?」

 

 茫然と立ち尽くすヒータの手を払いのけて、マナは一目散に通信担当の士官の元へと走る。

 

 

「確認します! ……続報で来ました! 地球連邦軍極東方面軍第1混成機械化大隊所属……第08MS小隊です!!」

 

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