U.C.103
「特殊戦技教導隊、ですか」
「そうだ。彼らの活動は約一か月だったが、その成果が一年戦争で連邦軍を勝利に導いた礎の一つになったのは、歴史が証明してくれているな?」
センセイの話は、歴史の裏側を知れる、非常に有用なものだった。
特に、一年戦争と言えばアムロ・レイの伝説を筆頭に、ホワイト・ディンゴ隊や幻のガンダム“ピクシー”、EXAMシステムを巡る戦いや、兎に角“戦い”を記録したものが多かった。モビルスーツが発明され双方が本格的に使用した初の戦争であった以上、そういう見栄えのある記録ばかり残されているというのは気持ち的には分からないでもないが、後年に歴史を辿ろうとする人間からすれば、些か食傷気味にも思える始末。
更に、そう言った“戦争の格好いい所”ばかりを見せると、若者が戦争を曲解し、また新たな争いが生まれる……というのは、宇宙世紀以前の時代でもよく起こっていた事態だったと聞いたことがあった。
「時にジョナサン・クレイン君。君は“ミラーズ・リポート”を読んだ事はあるかね?」
「ミラーズ・リポート、ですか?」
読んだ事は……ないはずだ。
しかし、どこかでその名前を見た覚えがある。
さて、どこだったか……。
センセイの眼差しを受けながら記憶を必死に漁る。
そうだ、思い出した。
ミラーズ・リポート。
確か、一年戦争時代のある連邦の一部隊に密着取材をしたレポートに、そんな名前のものがあった気がする。
残念ながら読む機会には恵まれなかったが、フリージャーナリストとしてのイロハを叩き込んでくれた先輩で、心の師でもあるカイ・シデンさんの事務所でその資料の表紙を見た事があったのだ。
「存在は知っていましたが、実は一度も……」
「そうか。良い機会だ。目を通してみるといい」
そう言ってセンセイは、一冊の古ぼけた本を手渡してきた。
随分と装丁がボロボロに剥げてはいるが、そこにはハッキリと“ミラーズ・リポート”の文字があった。
「少し喋り過ぎたからな。君が読む間、私は少し休ませてもらうとしよう」
席から立ち上がったセンセイに「珈琲はいかがかな?」と問われた為、素直に頂く事にした。
センセイが部屋の奥へと消える。
薬缶に水を注ぐ音。コンロに火をつける音。
地球が“白い惑星”になってからというもの、こういったレトロな品の需要は増した。
やはり、人類全てが宇宙に進出するには、我々はまだ幼すぎたのかもしれない。
そんな事を思いながら、ミラーズ・リポートを開き、読み進めていく。
一年戦争の最中、オデッサ作戦前後に起きていた、東南アジアでの戦いの記録だった。
だが、これが他の文献と違っていたのは、主役とも言える第08MS小隊の隊長シロー・アマダ少尉という男性と、ジオンのパイロット、アイナ・サハリンという女性について書かれている事だった。
この時代の連邦とジオンと言えば殺すか殺されるかの血みどろの戦い。男と女の関係なんて、全くの無縁の様に思われていたが、どうもそういう事ばかりではなかったらしい。
感心しながら読み進めていると、いつの間にか目の前のテーブルに二つのカップが置かれていた。湯気をたてる真っ黒な液体から漂う香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、センセイにお礼を述べてから、一口含んだ。
「……苦い」
見栄を張らず、砂糖を頼むべきだった、と続けると、センセイはニッコリと笑って角砂糖の入った瓶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
有難く角砂糖を一つ入れて、かき混ぜる。
一口。
駄目だったので、もう一つ入れた。
うむ、これくらいが丁度いい。
ひとしきり珈琲を堪能した後で、再びミラーズ・リポートを目を通す。
「おっと」
まさか、ここでこの男の名を見るのは予想外だった。
……テリー・オグスター。
あとがき。
初めまして。私、一条和馬と申します。
機動戦士ガンダムは昔から大好きなのですが、こうして本腰入れて創作するのは初めてです。
一応、短編では学生時代に一本書いた事があり、その時の主役がレッドショルダー隊の三人でございました。
因みにそちらの話はジャブロー攻防戦がメインで、シャアの援護の為に補給部隊の護衛をしていたレッドショルダー隊が、ついうっかり連邦のジムの群れに突っ込んで全滅する、という話だった気がします。
まるで成長していない……!
それはさておき、今回で第一章第一幕は終了。
次回からは第一章第二幕、08小隊編のスタートでございます!
相変わらずどの層に向けて作ってるかよくわからん作者の好み200%小説ですが、是非次回以降も楽しんで頂ければ幸いでございます。
君は、生き残ることが出来るか!?