機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第一章第二幕~東南アジア戦線篇~
第09話【遭難と、出撃と、遭遇と。】


 U.C.0079

 

「生きてる……? 生きてるゥーーーーっ!!」

 

 白いイフリートに地球に叩き落された俺だったが、何とかガンダムが炎上する前に立て直し、こうして機体と共に五体満足で地上に降りる事に成功した。

 

 宇宙から見下ろすばかりだった地球が今、俺の目の前に広がり、そして頭上には果てのない宇宙が広がっていた。

 

 

 ただ残念だったのは、今が夜だった事だろうか。

 

 

 ……いや、しかし仮に今が丁度日の出だった時に感動に浸れるかと言われたら、イエスとは答えにくい。

 

 

 

 なんたって現在、絶賛自由落下中だからである。

 

 

 

 バーニアを噴射して落下速度を落とす?

 

 いや、ダメだ。エネルギー残量を考えれば、今から吹かせば間違いなく途中でまた落下する羽目になる。

 

 下が海ならまだ落ちてもなんとかなりそうなものを、運が悪い事に、見渡す限りのジャングルだった。

 

「10……9……8………」

 

 エネルギーが持つギリギリのタイミングを見極めなければ、俺の冒険は終わってしまう。

 

「7……6……5……」

 

 そんなの嫌である。

 

 折角ガンダムに乗って実戦二回目で落下死など、ガンダムパイロットの名に傷を付ける。旧ザクに負ける事の次くらいに情けない話だ。

 

「4……ッ!」

 

 いかん、思ったより落下速度が速い!

 

「踏ん張れぇ!!」

 

 バーニアを噴射させ、何とか落下速度を落とす。

 

 ここからは残量メーターとのチキンレースだ。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 テリー・オグスターの地球着地から約二時間が経過したその頃。

地球連邦軍極東方面軍第1混成機械化大隊……通称コジマ大隊は、いつも通りジャングルを挟んでのジオンとのにらみ合いが続いていた。

 

 ジャングルの中にポカンと空いた敷地に構えられたフェンスの要塞の中では、帰還後すぐに疲労で倒れ込んだまま熟睡した兵士がいたり、帰ってこなかった者達への弔いをしていたりと、雑多ではあるが、概ね静かな時間が過ぎていた。

 

「総員! 傾注!」

 そんな中、格納庫の一角で一人の女性の声が響く。声を張り上げていたのは第08MS小隊……通称08小隊所属のカレン・ジョシュア曹長だ。その横に同隊のミケル・ニノリッチ伍長と、テリー・サンダース・Jr.軍曹も並んで整列している。

 

「ありがとう、カレン曹長。……皆、急に起こしてすまない」

 そう言って切り出したのは、08小隊の小隊長である、シロー・アマダ少尉だった。新任ではあるが、部下からの信頼が厚い士官だ。

ここにいる三人と、現在後方で療養中のエレドア・マシス曹長を入れた五人で構成された08小隊は、既に幾つもの死線を共に越えた、立派な一部隊である。

「一時間程前、この基地から北に二〇〇キロ離れた地点から連邦軍の救難信号を受信した」

「救難信号、ですか?」

「そうだ」

 ミケルの問いに、シローは頷く。

 

「連邦軍の勢力圏内とはいえ、安易に救難信号を出すとは迂闊な……」

「サンダースの意見もごもっともだ。向こうもそれに気が付いたのか、十分と経たずに信号は途絶え、現状は不明とされている」

「ジオン側の作戦という線は?」

 怪訝な表情で質問をしたのは、カレンだった。

「救難信号自体は連邦軍のものだろうが、向こうも間抜けじゃない。信号に釣られてやってきた捜索隊の方を狩りに来るという可能性は充分に考えられるだろう」

 これを考慮しつつ、とシローは続ける。

「我が08小隊は捜索隊として出撃。ジオンに警戒しつつ、救難信号を発している味方の救援に向かう! 俺とカレンはガンダムで、サンダースはミケルのサポートとしてホバー・トラックで出てくれ! ……以上だ。何か質問は?」

「はい、隊長!」

「どうしたミケル?」

「その救難信号を出した連邦の兵士について、何か情報は?」

「モビルスーツのパイロットだ。二時間前、衛星軌道上でジオン軍と不意遭遇戦になった部隊の内の一機が大気圏に突入。丁度救難信号付近に着陸したらしい」

「えぇ!? 宇宙からぁ!? ……それって、もしかして幽霊とかじゃ……」

「幽霊が機械を操作するか? 方法は分からんが、パイロットが何とか生き残り、救助を待っているんだ。必ず助けるぞ。08小隊、全力出撃!!」

「「了解!」」

「うぅ……隊長が化けて出てきた兵士に襲われたって、僕は絶対助けませんからね!!」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「うーん……さっきの信号は逆にまずかったかなぁ……」

 夜のジャングルに身を潜めて、一時間程が経過した。

「っていうか、そもそもここはどこなんだ……?」

 ジャングルの木々に隠す様にガンダムをしゃがませ、周囲を軽く回ったが、目ぼしい情報は見つからなかった。

 というか、暗くてガンダムからほとんど離れられなかった。

 明かりになるものと言えば、ツインアイの発光くらい。

 こんな状況で生身で動き回るなんて、ナンセンスにも程があるというものだ。

「……暑いな」

 季節は11月の半ばと言った所だが、ジャングルは異様に蒸し暑かった。西暦の時代と違って地球温暖化が進んでいるのか? とも思ったが、否定。ついさっきまで宇宙にいたんだ。その宇宙より寒かったらそれはそれで問題である。

 最も、季節が“春夏夏冬”とか言われたらもう何も言えないのだが。

「……」

 

 なんにせよ、暇だった。

 

 携帯食料のレーションは僅かに積んではあるが、状況次第では長期の単独行動になるだろうからむやみに消費出来ないし、かと言って見張りもなしに寝ようものなら次に目が覚めたらジオンの兵士の前で全裸にひん剥かれてた、みたいな状況に陥る可能性の無きにしも非ず。

 とりあえず日の出まで頑張って起きよう。そう思った時だった。

「……ん!?」

 一瞬だが、前方に明かりを発見した。

 狙撃用のスコープを取り出し、光の方向を凝視。

 

 ザクのモノアイだ!

 

 どうやら奴さんはモビルスーツを導入し、夜明けを待たずして“間抜けな連邦軍狩り”を始めたらしい。

 

 生い茂るジャングルで宝探しが出来ると思っている程スペースノイドは“夜”を舐め腐っているのか、それとも何か算段があるのかは分からない。

 が、万が一にも発見されるのはよろしくない。

 

「ならば、先制攻撃で……」

 

 ビームライフルの最大射程を以てすれば、こちらから一方的に攻撃も可能だろう。

 

 だが、そこで思い出す。

 

 俺は宇宙での戦闘で、ビームライフルを投げ捨ててしまったではないか!

 

「くそっ。神がいるならその尻蹴り飛ばしてやりたい気分だよ……!」

 

 

 それもこれも、あの白いイフリートのせいだ。

 神を蹴り上げるのは無理そうなので、当面はアイツを殴り飛ばす事を目標に生きる事にしよう。

 

「それをする為には、必ず生きて帰らないとな……」

 

 必ず生きて帰る。

 

 08小隊のシロー・アマダが劇中でよく口にしていた台詞だ。

 ジャングルの中というロケーションも相まって、気分は08小隊だ。

 

 そう言えば、ここはどこなのだろう?

 

 星座を見れば現在地がわかる……みたいな話があるが、生憎そういう授業は苦手だった。

テリー・オグスターくんも専門は機械操作や戦闘だからか、その辺の知識には乏しいらしい。戦闘民族かよ。

 

「せめてレーダーが使えれば、現在地も敵の位置も把握出来るんだけど……」

 

 ミノフスキー粒子の登場により、戦場は無人兵器から有人兵器による戦闘に逆戻りをした。

 誘導兵器も使えず、電波通信の距離も大幅に狭まった。

 これでは時代が逆戻りした様である。

 

「時代が逆戻り……それだ!」

 

 天啓を得たと同時、ザクの頭上から何かが射出され、一瞬だけ昼の様な明るさになった。

 

「照明弾!」

 

 姿勢を低くしていたのは正解だった。ザクはこちらの位置を把握していない。

 

 だが、ジオンにとっての無駄撃ちは、俺の味方をしてくれた。

 

 見回っているザクは、三機。

 夜の視界で歩兵が使えない事を祈れば、敵はたった三機。

 ならば、勝機はある。

 

 自慢じゃないが、これでも俺はサムライニンジャ大好きの健全な日本男子だったんだ。

 

 

見てろよスペースノイドめ。地球生まれ地球育ちの俺が、地に足のついた戦い方ってのをその身に叩き込んでやるぜ……!

 

 


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