機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第10話【コジマ大隊へようこそ】

 夜が明け、太陽は既に真上にまで登っていた。

 コジマ大隊基地から救難信号の発信地点は直線距離にしてはそう遠くないが、鬱蒼としたジャングルは進軍を阻む。最も、これは敵にも言える事なので、この東南アジア戦線が泥沼の戦場と化しているのは偏にこの地形由来であるのだが。

 

 無理な進軍はよくない、という事で一度小休止を取る為に足を止めた08小隊だが、目的は進軍ではなく孤立した味方の救援。休む間も交代で周囲の探索は怠らなかった。

「あ!」

 切り立った崖の上から周囲を見渡していたミケル・ニノリッチ伍長が叫んだのは、その時だった。

 

「隊長! 前方にモビルスーツを確認! アレは……ガンダム!? ガンダムです!!」

「どこの小隊か分かるか!」

「待ってください……なんてこった! あのガンダム陸戦型じゃありません!」

「なんだって!?」

 ミケルの言葉を聞いたシロー・アマダ少尉が自身のガンダムであるEz‐8の肩に昇り、双眼鏡を覗き込む。

 確かに、密林の真ん中に立っていたのは、連邦軍のガンダムだった。

 しかし、カレン・ジョシュア曹長の乗っていた陸戦型や、ましてやカスタムされたシローのEz‐8とは当然違う。

 

 純正の、RX‐78。

 

 たが、カラーリングが違う。

 シローはシミュレーションではあるが、アムロ・レイが搭乗するガンダムの操縦経験があった。

 あの機体は連邦のシンボルカラーとして、白を基調に赤青黄を入れたトリコロールカラーだった筈だ。

 だが、あそこにいるガンダムは、白と黒の二色。

「一体アレは……?」

「プロトタイプガンダムだと!?」

 だが、シローの疑問にすぐに答える声があった。テリー・サンダース・Jr.軍曹だ。

「知っているのかサンダース!?」

「え、えぇ……ルナツーに寄港した際に一度見ています。……もしかしたら、遭難者は自分の知るパイロットかも知れません」

「呼びかけてみてくれ。カレン! ガンダムは動けるか!?」

「問題ありません!」

 

 そう言うとカレンは、胸部に砲撃痕のある陸戦型ガンダムを立ち上がらせた。

 ここまで来る道中、案の定ジオン軍の待ち伏せがあった。

 しかも、新型を持ち出してきたのだ。

 相手はザクの残骸を利用した固定砲台に、単独での飛行を可能としたグフのバリエーション機。

 逃げ場のない狭い橋の上での戦いだったが、彼らはその戦いで無事に勝利を収めた一行がここまでやってきた、というのがこれまでの経緯になる。

 

「こちら連邦軍コジマ大隊第08小隊! そこのガンダム、聞こえるか! 救援に来たぞ! ……テリー軍曹なのだろう!? 無事なら返事をしてくれ!!」

「ん?」

 サンダースの言葉に違和感を覚えるシロー。

 

 “テリー軍曹”とは、君の事ではないのか?

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「うーん……」

 目が覚めると、俺はベッドの上に横になっていた。

 ここは?

 というか、俺はどうなった?

「目が覚めた?」

 見知らぬ天井をぼんやり眺めていると、視界の端に軍医らしき女性の姿が映った。

 胸元の徽章は、確かに連邦軍のものだった。

「ここは……?」

「連邦軍の基地です。モビルスーツの中で倒れているのを、救助に行った兵士が見つけて運んでくれたのよ」

「そうか。俺は気を失っていたのか……」

 周囲を見渡すと、ここはテントの中の様だった。横を見ると、隣には何人もの人間が同じようにベッドに寝そべっていた。全身を包帯で巻いているにも関わらず、その隙間から生々しい傷が見える人もチラホラ。

「もう三日はぐっすりと眠っていたわ。死んでんじゃないのってヒヤヒヤしたのよ?」

「三日も……三日!?」

 軍医の女性の言葉を聞いて、俺は思わずベッドから飛び起きた。

「落ち着いて! まだ安静にしないと!!」

「は、はい……」

 言われると確かに、全体的に体がだるいような気がする。

「今、食事を持ってきてあげるわ。お腹、ペコペコでしょう?」

 俺が答える前に、俺のお腹が大きな返事をしてくれた。

「……はい」

 恥ずかしくなって、(布団代わりに被せられていたであろう)シーツを頭から被る。うわ、凄い汗臭い。

 

「ちょっと待っててね……あっ! アマダ少尉ーッ? 例の少年、起きましたよー!!」

「そうか! ……ちょっと話をしたいんだが、中に入っても大丈夫かい?」

「えぇ。どうぞ」

 軍医の女性と入れ違いで、男の声が聞こえた。テントの布が揺れてこすれる音が微かに響く。

 

「やぁ。無事に起きてくれて良かったよ。折角戦闘で生き残ったのに熱中症で死んだんじゃ、浮かばれなさそうだしな」

 

 ……む、この機関車と新幹線が合体したロボや、ライオンと新幹線が合体したロボに乗ってそうな勇者の声、聞き覚えがあるぞ。

 

 恐る恐るシーツをどけると、声の主は笑顔で握手を求めてきた。

 

「俺はシロー。シロー・アマダ少尉だ。テリー・オグスター軍曹、ようこそ東南アジア戦線へ」

 

 

 シロー・アマダ……?

 

 

 シロー・アマダだって!?!?!?!?

 

 

「あっ、そっ……いてぇ!」

「おっ、おい! 大丈夫か!?」

 “あの”シロー・アマダ少尉との不意遭遇は、俺をベッドから転げ落とさせるには充分すぎる衝撃だった。

 

 この世界に来てこんなにビックリしたのは、アムロの乗ったガンダムが大地に立った瞬間を見た時以来かも知れない。

 

 俺はファーストのOVAでは08が一番好きなのだ。

 

「もっ……申し訳ありません! つい緊張しちゃって……」

「あぁ……そうだな。寝起きにいきなり少尉に握手なんて迫られたら、軍曹の君はそりゃビックリするに決まってる。悪い、そんなつもりじゃなかったんだが……」

「い、いえ! そういう訳では……!!」

「?」

 その後上手い言い訳が思い浮かばず、というか興奮で中々声が出ない状態が続いていたが、食事を持ってきてくれた軍医の女性が仲裁となって、この話題は一旦落ち着く事となった。

 

 ……ただ、俺が取り乱しただけなのに、軍医にこっぴどく叱られるシロー・アマダ少尉には申し訳ない事をしたが。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「ペガサス級強襲揚陸艦フォリコーン所属テリー・オグスター軍曹であります!」

「うむ、私がこの大隊の隊長のコジマだ、よろしく」

 ピッチリと制服を着こなしたテリー・オグスター軍曹の敬礼に、適当に答えるコジマ大隊長。その様子に、シローは“ここ”に来た頃の自分を重ねていた。

 

 まだ一か月そこらしか経っていないというのに、随分と昔の様に思える。

 

 それだけこの東南アジア戦線が激戦の連続だったという事を考えれば、全部が全部いい思い出とは言えないが、生きているからこそ、そう思えるのだ。

 

「コジマ隊長。オグスター軍曹の処遇ですが、本当に

ウチ(08小隊)で預かってもよろしいのでしょうか?」

「あぁ、構わんよ」

 最も、それは本人次第だが、とコジマは付け加える。

 彼は階級こそ軍曹だが、宇宙では“特技隊”という独立部隊のモビルスーツ隊の隊長をしていたという。

 

 08小隊最年少のミケルよりも若いのに、立派なヤツだ。

 

 シローにしては、そんな彼を平凡な小隊長でしかない自分の部下として扱って本当に良いのか、という疑問があったのだが、その話をすると当の本人は快諾。

衛星軌道上にいるという母艦にもそういう連絡をしてしまったのだ。

 

「ところで君は、あのガンダムでザクを三機撃墜したそうだな? ……しかも“三体同時に串刺しにして”だ。一体、どんな無鉄砲をすればそんな戦果が挙げられる?」

「それは俺も気になるな。軍曹、是非教えてくれないか?」

 コジマの疑問は、シローも気になる所だった。先程のやり取りとは別に、シローは彼に自分に近い“何か”を感じ取っていた。

「では、僭越ながら……」

 ゴホン、と咳払いをしたテリーは、気を付けの姿勢から足を肩幅に開き、両手を背中に回して安めの体勢に入った。

 きっと長い自慢話が始まるのだろう。そう思って少し身構えたシローとコジマだった。

 

 が。

 

「逃げました」

 

「「は?」」

 

 彼の言葉に、思わず間抜けな声を出した二人。

 

 直接の指揮権がないとはいえ、上官二人の前で敵前逃亡を報告するなど、なんと肝の据わった若者だろうか?

 

 それともただの無鉄砲か?

 

 ……いや、その点で考えると、間違いなく自分もその部類だよな……。

 

 シローが頭の中でそんな事を考えていると、テリーはまた口を開いた。どうやら話には続きがあるらしい。

 

「正確には“敵に向かって”逃げました」

「敵に向かって……?」

 

 言っている意味がさっぱり分からなかった。

 錯乱して取った行動が結果的に命を救った、という事だろうか?

 

「……そうか。ヨシヒロ・シマズの戦法か!」

 だが一方で、コジマの方は何か心当たりがあるようで、勝手に一人で合点してしまった。

「コジマ隊長。ヨシヒロ……というのは?」

「あぁ、アマダ少尉はサイド2出身だったから馴染みは薄いな。大昔の日本に実在した人物だよ。敗北が決まった合戦の最中、追撃戦で勝利を確信した敵陣中央を一気に突破して逃げおおせた、伝説の戦いの一つだ」

 

 テリー曰く、その戦法を応用したのだという。

 

混乱してなりふり構わなかった兵士のフリをして“わざと”近くにザクに攻撃して誘引。

 

その後ジャングルの中を移動してきたザクを突破。

 

彼らが作ってくれた道を通って移動し、道幅の関係から丁度一列にならざるを得なかった位置まで誘導した瞬間に反転してビームサーベルで一突き……というのが一連の流れらしい。

「しかしまぁ、その年で随分と歴史に詳しいのだなぁ」

 コジマが関心して見せるのと同じように、シローもテリーに対する評価を改めた。

 罠が張り巡らされたジャングルで敵に道を“作らせる”という着眼点は悪くない。

 だがその戦法は、強力な装甲を持つRX‐78だからこそ成せる技だ。それを実行に移す思い切りの良さには純粋に敬意を払えるか、というのがシローの評価だった。

 

とまれ、シロー・アマダが確かに、この金髪の少年を(粗削りな部分はあれども)一人前の士官と認めた瞬間だった。

 

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