機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第11話【ようこそ08小隊へ】

 

 

「本日付けで08小隊に配属になりました、テリー・オグスター軍曹であります!」

「本日付けで皆様の元へ帰って参りました、エレドア・マシス曹長でありまぁす!」

 08小隊を乗せたミデア輸送機の中で俺が緊張と興奮と戦いながら必死に挨拶をすると、横からロングヘアーの男性が現れ、一緒になって敬礼をした。

 負傷で一時期戦線を離れていた、エレドア・マシス曹長だ。この人も例に洩れず良い声をしていらっやるので、こちとら顔がニヤけるのを抑えるので必死である。

「おっ、面白い顔出来るじゃん新人~!」

「エレドア、あんまり茶化してやるな……一応臨時という形ではあるが、これでオグスター軍曹は8小隊の正式な部隊員となった。以後よろしく頼む」

「はい!」

 そっかぁ……今、俺08小隊にいるんだなぁ……。

 

 

「……そんなに緊張するな。敬礼、下ろして良いぞ」

「……はっ? あぁ、申し訳ありません!」

 感激のあまり余韻に浸っていたらしく、俺はその場で硬直していたようだった。それを見て笑いに包まれる作戦キャンプ(笑っているのは一名だけだったが)

 

 ヘラヘラ笑顔を隠さないエレドア曹長に、呆れ顔のミケル伍長。

 

マニュアルを必死に読み進めるカレン曹長と仏頂面のサンダース軍曹。

 

そんな面々を前にアマダ少尉……シロー隊長は余裕の表情を崩さない。

 

良い機会なので、彼の隊長としての言動をしっかり勉強したい所だ。

「では早速ブリーフィングを始める。今回の目的は敵基地の捜索にある。まず俺達はミデアから空挺降下で所定ポイントに……サンダース、聞いているのか?」

「……」

「サンダース?」

「……あ、申し訳ありません」

 俺が座った横のミケル伍長の、更に隣のサンダース軍曹の様子がおかしい。

 

 と、言うのも無理はない。

 

 今の彼は08小隊の所属するコジマ大隊、そのトップのコジマ大隊長より上のイーサン・ライヤー大佐からシロー隊長の監視を命じられているのだ。色々と葛藤する事もあるのだろう。

 

「……大丈夫ですよオグスター軍曹」

 そんな俺の表情を憂いか何かと勘違いしたのか、ミケル伍長が小声で俺に話しかけてきた。

「こんなんですけど、08小隊はメチャクチャ優秀なんですから! ……階級は僕より上かもしれませんが、年齢もここでの軍歴も僕の方が長いんです。遠慮なく、先輩として頼って下さいね!」

「は、はぁ……ありがとうございます、ミケル先輩……」

「先輩……先輩かぁ……」

 自分で言って何を感動しているのだろうか、この人は……?

 

 

 その後、シロー隊長のブリーフィングを受けた俺達……“俺達”!! 08小隊はミデアの格納庫へと向かう事になった。

 

 

「よぅスパイのあんちゃん! 達者でな!」

「……」

 通路に出ると同時、ミデアのパイロットがシロー隊長にそんな言葉を投げかけた。一方の隊長は何も言わない。

 

「おっと」

 不意に、背中が巨大な何かに押された。前に出たサンダース軍曹の体が当たったのだ。

「隊長は、スパイなんかじゃない! そんな器用な人間じゃないんだ……!」

 

 嗚呼、そう言えばこの時期と言えば、シロー隊長はジオンのアイナ・サハリンと雪山でビームサーベル風呂デートをした後だったな。

 

 感動のあまり意識していなかったが、今は劇中後半の時間軸だったんだ。

 

「……オグスター軍曹、スパイ容疑のかかった俺みたいなのが隊長の小隊に呼んでしまって、すまなかったな」

 不意に、シロー隊長にそんな事を言われた。

「いえ、ジャングルで孤立していた自分を助けてくれた命の恩人が、スパイなんてやましい行為を出来るなんて、思ってませんから」

「……ありがとう、期待に添えるよう、頑張るよ」

 

 OVAで本編を見ているのでスパイ疑惑なんて最初から抱いてもいないのだが、今のシロー隊長には歪んで伝わったのか、帰ってきたのは渇いた返事のみだった。

 

「それより、君のガンダムの方はどうだ? 大丈夫そうか?」

「空挺降下用のパラシュートは、何とか取り付けたのですが……」

 シロー隊長と一緒に、俺のガンダムの方を見た。

 

 陸戦型用に調整された装備を無理矢理背負ったその姿は、あまりにも場に不釣り合いな姿だった。

 

「一応、パラシュートなしでも降下出来るのは実践済みですが……」

「なんたって大気圏から無傷で降りてきた化け物だからな。……でも、降りるのがゴールじゃないんだ。無駄に機体のエネルギーを使う必要は無い」

「そうですよね」

「ウチのメカニックを信じてくれ。……カレン! 君から先に降下してくれ!」

「……了解!」

 カレン曹長の緊張交じりの声と同時ミデアの後部ハッチが開かれた。

 

 

 ……そして、丁度真下を航行していたジオンのガウ攻撃空母との不意遭遇戦が始まる。

 

 一番奥にガンダムが置いてあった俺が出撃したのは、シロー隊長がガウ攻撃空母を見逃した後だった……。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 大気圏突破してきた俺が今更数千メートル如きで失敗するはずがない。

 

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

「うわっ……うわあああぁああぁああぁあぁあぁ!?」

 

 当然だが、宇宙から落下するのに比べて、落ちる距離は短い。

 

 つまるところ、地面までそんなに余裕がないのだ。

 

 それでもパラシュートの展開には成功するが、元々陸戦型の背中と肩で固定する事前提のバックパックを何とか背中だけで支えようとしたのだ。

 

 結果。

 

 パラシュートは開いたが、地上への降下を前に俺のガンダムは情けなく大地に叩きつけられる羽目になる。

 

 下が川で無ければマジで危なかった……!

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「なぁ、オグスター……だっけ? ちょっと聞きたいんだが」

 

 移動中のホバー・トラックの中で計器をチェックしていたエレドアが通信機越しに話しかける。

 お相手は、自分がいない間に拾ったという新参者だった。

 

『はい、なんでしょう?』

 

 現在08小隊は部隊を二つに分け、それぞれ進軍中だった。

 

 と、言うのも空挺降下直後、カレンの乗る陸戦型がジオンの水陸両用モビルスーツの強襲を受け、頭部パーツを損傷してしまったのだ。

 

 そのままの作戦行動には支障が出ると判断したシローはホバー・トラックに乗るエレドアとミケル、そしてテリー・オグスターをカレンの護衛としてミデアとの合流ポイントに直行する様に命令を下した。敵軍基地の捜索の方は、シローとサンダースの二人だけで続行している最中である。

 

「お前さん、ミケルより若いのに曹長なんて偉いよな」

「ちょっとエレドアさん! 本人を前にそんな事言います普通!?」

 操縦桿を握っていたミケルが食いつくが、エレドアは手をヒラヒラと動かしながら適当に流す。

「でも、士官学校を出たにしては階級が低い。宇宙では特殊部隊の隊長さんだったんだろ? だったら最低でも中尉か、大尉くらいの階級でも良さそうなもんだが……」

『あぁ、それですか? ……実は自分、戦争が始まったせいで課程を終える前に戦場にほっぽり出されたんですよね』

「そうなのか……ミケルもそうなのか?」

「違いますよ失礼な! 僕はちゃんと卒業してます!」

「そんな食いつくなって。ただ俺は……振動!? 止まれ!!」

 

 エレドアの言葉で、ホバー・トラックと二機のガンダムが足を止める。

 

「この振動は……モビルスーツ!? 前方約4キロに四つ! こっちに接近中だ!」

 先程とは打って変わって真剣な声色になったエレドアから指示が飛んだ。

一向に緊張が走る。

 

『なんたってそんな近くにいるんだい!』

「さっきの海坊主と一緒で隠れていたんだろ! ……クソッ、モビルスーツが二機いるからって強気なルート選ぶんじゃなかった……!」

 

 現在この周辺で稼働しているジオンと言えば、その大半がオデッサから逃げてきたものばかりだ。

故にまとまった敵モビルスーツはいないだろうというエレドアの読みが完全に外れてしまった瞬間だった。

 

 せめてカレンのガンダム一機なら、こんなルートを取らなかっただろうに。

 

『どうすんだいエレドア! こっちは白兵戦なんて無理だよ!』

 カレンから焦りの声が聞こえた。

 

彼女のガンダムは頭部の代わりにビームライフルのスコープをモニター代わりにしていて、移動はともかく戦闘なんて不可能に近い。

 

「実質一対四……どうする!?」

 エレドアが歯嚙みした、その時だ。

 

『エレドア曹長、自分に考えがあります!!』

 

 黙っていた新参者が、口を開いた。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 ザクに乗っているジオン兵は、疲弊していた。

 

 それも当然だ。オデッサの敗戦からこっち、ろくな補給も受けずに逃げ回っていたのだ。

 

機体もそうだが、特に空腹が酷い。

 

 四機のモビルスーツというのは敵を威圧するには充分だが、その実情はただの張りぼてに近い。

 

『隊長! 前方に連邦のモビルスーツらしき影が!』

 だからだろう、小休止を挟んでモビルスーツを動かした矢先、すぐ近くにいた連邦軍を前に判断が一瞬遅れてしまったのだ。

 

「アイツは、マズいな……!」

 

 向こうは“顔つき”タイプが一機、それに負傷したらしき“顔なし”の二機。

 

 だが、彼らは知っていた。

 

 

 オデッサで暴れ回る“白い悪魔”を。

 

 

「アイツと同型だと……!?」

 

 勝てるわけがない。

 

 “アイツ”相手に、数的有利など通じる筈がない。

 

 ザクのパイロットは逡巡し、ザクを放棄して全力でその場を離れる作戦を思いついた。

 

 敵が攻撃する前に。

 

 しかし、状況は彼の予想外に進んだ。

 

『友軍のジオン兵、聞こえるか! 私はキシリア・ザビ少将である!!』

 

 不意に、連邦のモビルスーツからオープン回線で通信が飛ばされてきたのだ。

 

『キシリア・ザビだって!?』

『でも、あの声は確かにキシリア閣下だぞ!』

『なんだってこんな所に!?』

 部下のザクのパイロット達にも、動揺の混乱が走る。

 

『現在我々は、奪取した連邦の新型モビルスーツを移動させる為の極秘任務中である! 貴官らには是非とも、見なかった振りをして素通りして頂きたい! 後方に連邦の別動隊が迫っている! 貴官らが道を開いてくれなければ、私は連邦の“フリ”をして貴官らを撃たねばらない! 私に同胞を殺させるな!』

『ど、どうします隊長……?』

 

 部下の一人が、ザクのパイロットに問いかける。

 

 答えは、一つしかなかった。

 

「了解しましたキシリア閣下! ご厚意に甘え、我々は友軍基地を目指します! ご武運を!」

『感謝する』

「ジーク・ジオン!」

『ジ、ジーク・ジオン!』

 

 結局、ザクのパイロットは戦闘命令も、モビルスーツを乗り捨てる命令も出さずにその場を後にする判断を下した。

 

 ……普通に考えれば、月にいる筈の軍のトップがこんな最前線で敵のモビルスーツに乗っているなんて滅茶苦茶な話がある訳がないのだが。

 

 

 ザクに乗っているジオン兵は、疲弊していたのだ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

『ジオンの連中、離れていくぞ!!』

「……ふぅ」

 エレドアからの通信を聞いたカレン・ジョシュアがヘッドセットのマイクから手を離し、深くシートに座り込む。

 

 “舞台脚本”を聞いた時は「そんな馬鹿な」と思ったカレンだが、過ぎ去るザクの背中を見ると「そんな馬鹿な…」と思うしかなかった。

 

『まさかジオンの将校を語って敵を追い返すなんて……!』

『カレン曹長の声を聴いた時、昔ジオンの放送で聞いたキシリア・ザビの声を思い出したので、もしかしたら行けるんじゃないかと。……本当は一瞬の油断を誘って先制するつもりが、こんなにも上手く行くとは……』

 

 ミケルと共に、作戦を進言したテリーも驚きの声を隠せないでいた。

 

『しっかし、カレンがこんなに演技が上手いとは思わなかったぜ!』

「こっちは緊張でそれどころじゃなかったんだ! ……全く、ウチの隊長以外にも、変な男ってのは結構いるもんなんだね……」

 

 

 その後。

変な疲れ方をした彼女は、ミデアとの合流地点まで喋ることはなかったという。

 

 

 


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