機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第12話【決戦の前夜】

 

「眠れないのか?」

 一人で夜空を眺めていると、後ろからシロー隊長が声を掛けてくれた。

「……はい」

 

 嘘である。

 

 本当はカレン曹長の陸戦型ガンダムが陸戦型ガンダム(ジム頭)になる感動の瞬間を見ていたのだ。

 

 当のパイロットに「見せもんじゃねぇぞ!」と怒鳴られながら追い出され、今に至るのだが。

 

「無理もない。明日は決戦だからな」

 彼は両手に一つずつコーヒーカップを持っており、その内の一つを俺に渡してくれた。

「ありがとうございます」

「ブラックだが」

「大丈夫ですよ……本当は、紅茶派なんですけど」

 

 流石に夜は冷える。

 

 俺はシロー隊長に礼を述べた後、頂いたブラックコーヒーを口に含んだ。

 じんわりとした苦みが口いっぱいに拡がる。

 

「……エレドア達から聞いたよ。まさか敵のフリをして戦闘を避けるなんて中々やるじゃないか」

「敵を逃がしたなんて知れたら、軍法会議ものですけどね」

「だが、俺はそういう考え嫌いじゃない。……敵も人間なんだ。そりゃ、今は戦争なんてやってるけど、出来るだけ無駄な死者は出したくないんだ」

「それでスパイ容疑、かけられてたんでしょ?」

「お前も似た様な事したんだぞ?」

 真剣な声色で尋ねると、シロー隊長も同じように真顔で返してきた。

 

「……ふふっ」

「あははっ! やっぱり君、面白いな!」

 

 それが何かおかしくて、俺達はつい笑顔を見せてしまう。

 

「君の所属するフォリコーン……だったか? そこから連絡があった」

 不意に、シロー隊長がそう切り出してきた。

「本当ですか!?」

「あぁ。二日後にはこちらに到着するらしい」

「そうですか……」

 

 シロー隊長から目を離し、空を見上げた。

 

 ここに……08小隊として共に戦えるのも、後一日か……。

 

 たった五日(内三日は睡眠)離れただけだったが、何故かずっと会っていない様な、そんな感覚が俺を包み込んでいた。

 

「マナ達の所に、帰れる……」

「君にも大切な仲間がいるんだな」

「……はい。皆さんに会えて嬉しかったのであまり気にしてなかった筈なんですけど、いざ明後日会えると思ったら、何かこみ上げてきちゃって……」

 

 心の底から思える事だった。

 

 大好きなアニメのキャラクター本人達にリアルで会えるというのは感動するが、それでもやはり最前線の硬いベッドを体験すれば、フォリコーンの自室は恋しくなるものだ。

 

「作戦の成否に関わらず、君とは本当に最後の戦いになるんだな……オグスター」

「はい……はい?」

シロー隊長……もしかして今、俺の事を普通に呼んだ……?

「テリーと呼ぶとサンダースが変な顔をするからな。構わないか?」

「こっ……こちらこそ、光栄であります!!」

「それは良かった。……オグスター、明日の決戦がどうなるかは分からない……だけど、君は必ず仲間の元へと届ける。それまでは、俺が、俺達8小隊が君の仲間だ。必ず、皆で生き残ろう」

「……はいっ!」

 シロー隊長の差し出した手を、俺はしっかりと握り返した。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 一方その頃、衛星軌道上で待機していたジオン軍のムサイ級巡洋艦“ペールゼン”は依然、連邦の新造戦艦を遠方から監視していた。

 

「サレナ少佐。“黒木馬”に動きが。どうやら、地球に降りるようです」

「例の黒いモビルスーツが地上で発見された、という情報は本当だったみたいね……」

 

 伝令を伝えたムサイの艦長の方には目をくれず、サレナ・ヴァーンはブリッジから連邦の黒い戦艦を見つめていた。

 

「他には?」

「は。……キシリア閣下からご命令です。地球へ降下し、地上でシャア大佐のマッドアングラー隊と合流せよ、と」

「赤い彗星は少佐ではなかったか?」

「ジャブロー基地のゲートの位置を特定したそうで、先程大佐に昇格なされました」

「女の小間使いで昇格とは、赤い彗星も地に堕ちたものだな……だが、他でもないキシリア様の命令とあれば無視も出来ん。コムサイを用意しろ。イフリート・ダンと共に地球へ降下する」

「あの、我々はどうすれば……」

「頭は飾りではないだろう? 自分で考える事だ」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 翌日。

 決戦の日。

 

「おはよう皆。ついに今日は決戦だ」

 テリー・オグスターを含め一列に並んだ08小隊のメンバーの前で、シロー・アマダが口を開いた。

 

「現在、友軍が命懸けで敵拠点の正確な位置を観測してくれている。俺達8小隊の任務は、その観測を基に砲撃を行うガンタンク部隊の死守にある。主戦場から離れた位置ではあるが、敵のモビルスーツ部隊は必ずこちらを狙って来るだろう」

「……」

 

 全員が黙って聞いてくれているのを確認し、シローは続ける。

 

「その為、三機のガンタンクにそれぞれ護衛を着ける。俺とカレンとサンダースがその担当だ。オグスターは遊撃隊とする。指示はエレドアに従ってくれ」

「遊撃、でありますか?」

「あぁ。戦場は建造物で入り組んだ旧市街だ。この地形だと俺達の陸戦型より、機動力のある君のガンダムの方が遊撃に向いていると判断した。だが、あくまで目的はガンタンクの護衛だ。最悪敵の足を止めてくれるだけで構わない。敵をキルゾーンに追い込んでくれれば、俺達が撃破する」

「了解です」

 

「最後に……今日は確かに決戦だが、これで戦争が終わる訳じゃない。明日も、明後日もきっと戦いは続く。でも、この戦いが一つの区切りなのは確実だ。少なくとも、この辺でもジオンとの戦いは無くなるだろう。……だが、それもこれも、生きて帰らなければ意味がない。状況如何では逃げるのも構わない。だが、生きる事からだけは逃げるな。……作戦終了後にはオグスターの送別会を開くつもりだ。コジマ大隊長と交渉して酒も食事も大量に確保してある。それだけからは逃げるなよ! 以上! 各員持ち場に急げ!!」

「「「「了解!!」」」」

 一糸乱れぬ敬礼をした後、カレン、サンダース、エレドア、ミケル、テリー達がそれぞれの搭乗機の元へと走る。

シローも続いてコックピットに乗り込み、Ez‐8を起動させた。

 

「08小隊、出撃!!」

 

 


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