機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第13話【震える山(前編)】

「フォリコーン、大気圏突入シーケンスを終了。通常航行に戻ります」

 

 

 08小隊含めた極東方面軍がジオンの鉱山基地への総攻撃を開始したとほぼ同時刻、補給を終えたペガサス級強襲揚陸艦フォリコーンは無事に地球への降下を果たしていた。

 

 

「現在地は?」

「コジマ大隊基地の南西200キロ地点、予定通りのコースです」

 

 

 彼女らが向かうのは、落下したテリー・オグスターを保護してくれたコジマ大隊の常駐する前線基地だった。

 

 

「艦長。山の向こうで爆発を確認しました。戦闘の様ですが……」

「確認出来る?」

「いえ……ミノフスキー粒子の影響か、レーダーが上手く機能しません」

「分からないか……とりあえず基地を目指しましょう。折角一日早く降下出来たんです。テリーくんを早く迎えに行ってあげましょう!」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

『オグスター! 右からスカート付きが来る! 距離200!!』

「了解!」

 

 

 エレドア曹長の指示通りに右にビームライフルを構え、発射する。

 

 爆発音、なし。

 

 

「外れた!?」

『いや、こっちで捉えられた! 任せな!!』

 

 

 側面からカレン曹長の声が聞こえたと同時、ビームライフルの発射音が響く。

 

 振動、爆発。

 

『ナイスショットだジム頭!』

『ジム頭はやめてくれよジム頭は……』

 

 ガンタンクのパイロットに褒めらているらしいカレン曹長だが、その声色には照れよりも呆れの方が大きい様子だった。

 

 格納庫で眺めている時に「そんなに気になるなら機体交換するか?」と言われたので、彼女がどんな評価を下しているのかなど明白なのだが。

 

 

『どうやらこの辺一帯の敵は殲滅できたようだ。各員は所定の位置につけ! その後メシにしよう』

「ふぅ……」

 

 

 シロー隊長の言葉を聞いて、俺は一度操縦桿から手を離した。

 

 襲撃してきた敵は、ザクが五機に、ドムが一機。

 

 その内四機は昨日騙したのと同じザクだったようで、俺のガンダムを見るや否や一気呵成に攻めてきたのだ。

 

 その内二機は何とか仕留めたが、残りはそれぞれ08小隊のガンダム達に一機ずつ撃破して貰った。

 

 

「なんか俺、弱いなぁ……」

『いや、オグスター軍曹はよくやってるよ』

「サンダース軍曹!?」

 

 

 通信を切り忘れていたらしい。そんなついうっかり洩れた独り言に反応したのは、サンダース軍曹だった。

 

 

『お前が的確に敵を追い込んでくれたから撃破出来たんだ。それは誇って良い』

「そんなもんですかねぇ……」

 

 オデッサ作戦が終わった現時点での俺の総撃墜スコアは、ザクが八機にムサイ級一隻のみ。テーマがちょっと違うポケ戦を除けば、一年戦争のガンダム主人公では最弱のスコアなのは間違いなかった。

 

『アシストは優秀だから“アシストのテリー”とでも呼ばれるかもしれんな』

「サンダース軍曹も冗談、言うんですね」

『俺の事をなんだと……』

 

 

“テリー”同士の束の間の談笑を楽しんでいた、その時だった。

 

『エレベーター!? 地下からだ! サンダース! オグスター! 左前方!!』

「!?」

 

 振動と共に、廃ビルの一つが爆発した。

 

 そして、一体のモビルスーツが地上へと現れる。

 

「ノリス・パッカードのグフカスタムか!?」

『近すぎて死角だ! カレン!』

『任せな!』

 

 グフカスタムは丁度、サンダース軍曹が護衛する量産型ガンタンクが隠れる廃ビルの直上を陣取っていた。当然、その横にいる俺からも死角で攻撃出来ない。

 

 だが、これはこれで良いのだ。

 

 “後の展開”を思えば、このタイミングでガンタンクには全滅して貰わねばない。

 

 もし俺が“部外者”として“歴史”を変えるなら、それは今じゃない。

 

 

「一度身を隠します! エレドア曹長! どこか良い場所ありませんか!?」

『ちょっと待ちなよ……』

 

 

 だが、それはそれとして全力で相手をする気持ちもあった。

 

 何故なら今の俺は、08小隊の一人なのだから……!

 

『右に50、後ろに30の地点の高速道路下に向かえ!』

「了解!」

 

 エレドア曹長の指示通りの場所へ向かう。

 

 丁度、カレン曹長のジム頭と、彼女が護衛するガンタンクの横の位置だ。

 

 

「ここからなら、向こうも把握できまい……!」

 

 だが俺は敵のオーラに威圧されていたせいか、はたまた08小隊OVAを最後に見たのが5年以上昔だったからか、劇中の細かい演出をすっかり忘れていた。

 

 前方の道路目掛けて放たれたグフカスタムのガトリング砲が、周囲に砂埃を舞わせる。

 

『煙幕のつもりかい…!』

「ダメだ! カレン曹長! ガンタンクが!!」

『なにっ!?』

 

 砂埃の中に突っ込むが、時すでに遅し。

 

 二機目のガンタンクのコックピットが、真上から串刺しにされてしまう。

 機体のオイルが、まるで返り血の様にグフカスタムの顔にこびりつく。

 モノアイが動き、こちらと目が合った。

 

「ッ!?」

 

 

 しまった! 迂闊に前に出たせいで、向こうに位置がバレてしまった!!

 

『私達が、手玉に取られた……!? こなくそっ!』

「え、援護します!」

 

 二機のガンダムのビーライフルによる十字砲火。

 

 だがそれもヒラリと躱し、ビルの奥へと消える。

 

『どこ行った!?』

「止まると危険です! 動き続けなければ……!」

 

 俺がカレン曹長の後方死角をカバーする様に移動した、その時だ。

 

 もう既にこと切れた量産型ガンタンクに、銃弾の雨。

 

「しまった!?」

 

 ガンタンクの爆発。

 

「うわっ!?」

 

 爆風で先程以上の砂埃が舞った。

 

 視界が悪い。

 

 何も、見えない。

 

「!?」

 

 側面から衝撃が襲ってきた。

 

 金属が断ち切られる音が響く。

 

 

『ビームライフルがやられた!』

「くそっ! 俺のもです!!」

 

 

 中央からバッサリ切られた借り物のビームライフルを捨て、サーベルに手を伸ばす。

 

 相手はたかだがアニメキャラだと心のどこかでは思っていたが、それが間違いであるとようやく心の底から理解が出来た。

 

 あのシロー隊長の姿が、言葉が平面に見えたか?

 

 いや、あの姿は、あの言葉は正しく“本物”だった。アニメじゃない。

 

 なれば、敵も当然そうだし、戦いも状況に合わせて変えてくる。

 

 そして現に、ガンダム三機を容易く翻弄し、長距離攻撃手段のみを的確に狙ってきているのだ。

 

「勝てるのか……? 俺達に……」

 

 汗が頬を伝わる。

 必死に歯嚙みしようと顎に力を入れるが、何故か噛み合わない。

 

『真上だオグスター!!』

 

 エレドア曹長の怒号が聞こえた。

 見上げる。

 

「あれは……!?」

 

 頭上から現れたのは、右の肩を血のような赤色に染めた、白いイフリート。

 

「宇宙で見た貴様が何故ここに!?」

 

 ビームライフルを発射する。

しかし弾は全て奴の体をすり抜けてしまう。

 

「くるなっ! くるなあぁぁあぁぁ!!」

 

 ビームサーベルを抜剣する。

しかし敵のサーベルが手首に直撃し、ビームサーベルはビームを出すことなく地面へと落ちていった。

 

 そのままサーベルが頭上から振り下ろされる。

返す刀で切り上げ、横凪ぎを三連。

だが実剣では、ルナ・チタニウム合金を抜けられる筈がない。

 

「遊んでいるつもりか! 一思いに逆刃のビームサーベルを使えば良いものを!!」

 

 その言葉が聞こえたのか、はたまた斬る事を諦めたのか、敵はサーベルの柄でメインカメラを潰した。

 


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