機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第14話【震える山(中編)】

 暗い。

 

 外が見えないコックピットの中は、こんなにも暗かったのか…。

 

「脱出しないと…あいつに…あいつに殺される!」

 

 初めて会った戦闘で、俺は手も足も出なかった。

あの時地球に蹴り落とされていなければ、間違いなく俺は死んでいただろう。

 

「死ぬ……?」

 

 なんだか急に冷えてきた。身体の震えが止まらない。

 

「いやだ……死にたくない……“僕”はこんな所で一人で死にたくない!!」

 

 否。

 震えていた原因は寒さではなく、“恐怖”だった。

 身体の底から涌き出る感情が、やがて心まで……。

 

 ……ちょっと待て。なんで俺は自分の事なのにこんなにも冷静でいられるんだ?

 

「ヒッ…!」

 

 モニターが生き返った。

画面がいつもより荒い。おそらくサブカメラに切り替わったのだろう。

 

「あいつが…またあいつが来た!」

 

 体が勝手に動く。目の前には廃ビルがそびえ立っていた。

 

「“僕”は死にたくない! だからお前が死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

 おい、やめろ! アレはモビルスーツですらない!

 

「うわあああ! うわっ うわあああああああ!!!!!」

 

 ガンダムの拳がビルにめり込み、亀裂が走る。

 …おいこれ不味いぞ。これ以上は…!!

 

「!?」

 

 案の定、壁を破壊してバランスを失ったビルが、こちらの方へと倒れ込んできた。

 逃げようにも体が言う事を聞かず、俺のガンダムは情けなく瓦礫の下敷きになってしまう。

 

 

「うう……うううう……」

 

 ほら、言わんこっちゃない。

完全に身動きが取れなくなってしまったではないか。どうしてくれる。

 

『エレドア! 戦況はどうなったの!? 隊長は!!』

『騒がなくたって聞こえてるぞ! ……まずいぞ、隊長が敵に掴まった! サンダース! お前が一番近い!! 西に200移動しろ! 急げ!』

『了解!』

『エレドアさん! オグスター軍曹は!?』

『アイツなら新兵らしく泣きながら喚いてるよ! ほっとけ!!』

『そんな!』

『いいかミケルよく聞け! あいつのガンダムは特別硬く作られてんだ! ビーム兵器でも使われねぇ限りやられはしねぇんだよ!!』

 

 08小隊の隊員達の声が聞こえる。

 

 おい、聞いたかテリー・オグスター?

 泣き喚いてるんだってよ。

お前、それで良いのか?

 

「……」

 

 なんて情けないヤツだ。

 最強のモビルスーツであるガンダムを乗りこなし、ぶっつけ本番で大気圏突入をやってのけたお前が、たかだか一度負けたイフリートに恐怖を覚えて“幻覚”まで見るとは!

 

「幻覚だったのか……?」

 

 そうだ。ここにアイツはいない。アイツの嫌な“思念”が届かなかったのが何よりの証拠だ!

 それを勝手に勘違いで見えない敵を一人で作り出して怯える!!

 

 それでも男か! 軟弱者!

 

「僕は……それでも、怖いんだ……!」

 

 そんなの当たり前だ! 殺すか殺されるかの戦場に立つと決めた、兵士になると決めたのは俺じゃない! お前の筈だ! お前は何のために士官学校で戦い方とやらを学んだんだ!

 

「それは……正義の為に……」

 

 嘘つけ!

 俺はお前だ!!

 嘘なんか通用すると思うな!!

 

「いつまでも子ども扱いするパパとママを見返してやりたかった……」

 

 それだけか!

 今もそうなのか!?

 

「でも、学校に向かう時のシャトルでマナと相席になって、その時からずっと彼女に良い所を見せたくて……!」

 

 良いぞ、その調子だ!

 

「踏ん切りがつかなくて、結局離れ離れになって、再会できたと思ったら、また離れ離れになって……!」

 

 それがお前だ、テリー・オグスター!

 

「!?」

 

 それがお前の戦う理由だ!

 お前が死ねば、マナ・レナ達とはもう会えない!

 

「会えない……?」

 

 それだけならいい!

 ここでお前が情けなく蹲っていれば死にはしないだろうが、あの白いイフリートがマナ・レナ達を殺すだろう!

 お前が!! 何もしなければそうなる!!

 

「そんなの……そんなの嫌だ……!!」

 

 嫌だろう!?

 だったら立ち上がれ!

 そして今一度“お前が誰か思い出せ!”

 

「僕は……僕は………俺は!!」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「俺は……生きる!!」

 Ez‐8の破損した左腕を引きちぎって武器にしたシロー・アマダの猛打撃が、敵エースの乗るモビルスーツを捉えた。

 しかし、がむしゃらな攻撃など当たる筈もない。

「生きて……アイナと添い遂げる!!」

 

 その一言が“当たった”。

 続く様に、叩き込んだ“腕”が敵モビルスーツの頭部に直撃。ツノと動力パイプを叩き折った。

 

 

 体勢を立て直す為か、その場を離れんと敵モビルスーツが身を引こうとした。

 

 

 その時だ。

 

 

『俺は、テリー・オグスターだぁーーーーーっ!!」

「!?」

 

 シローの前の前に現れたのは、黒いガンダム。

 そのガンダムが敵モビルスーツに組み付き、そのまま一緒に瓦礫を粉砕しながら猛進していったのだ。

 

「オグスター!?」

『隊長! 無事ですか!?』

 その光景を前に困惑したシローの前に、サンダース達が駆け寄る。

「あのモビルスーツは!? エレドア!!」

『ダメだ! ドミノ倒しで建物が破壊されるせいで、どれが“震源”か特定できねぇ!!』

「オグスター一人では無理だ! カレン! サンダース! まだいけるか!?」

『当然!』

『俺はもう“死神”の名を返上したんです! こんな所で“仲間”を死なせたりはしません!』

「よし! エレドアとミケルはそのまま索敵! 俺達は“足”を使って探すぞ!!」

『『『『了解!!』』』』

 

 

 

 だが、シロー達08小隊がテリー・オグスターを発見した時には見たのは、既に奪われた己の得物でビルに串刺しにされた敵モビルスーツと、爆発する最後の量産型ガンタンクの姿だった。

 

 08小隊は、負けたのだ。

 

 

 


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