サイド7コロニーからずっとホワイトベースで一緒に過ごしたカツ、レツ、キッカの三人がジャブロー基地での保護を拒んで行方をくらませた、という話を聞いたセイラ・マスはミライ・ヤシマと共にバギーの調整をし、現在はアムロ・レイを呼びに行ったフラウ・ボウを待っている最中だった。
「セイラさん! ミライさん!」
「待ってたわよフラウ! ……そちらの方は?」
「フォリコーンのガンダムパイロット、テリー・オグスターです! 何かお手伝い出来ないかと思って同道してきました!」
「助かります。では、テリーさんは助手席に。フラウは……そうね、ホワイトベースに戻って管制をお願いしてもいいかしら?」
「でも……」
「入れ違いになっちゃダメでしょ? ホワイトベースから通信してくれる人が必要だわ」
「そうですよね……」
セイラの言葉に一応納得してくれたのか、渋々承諾するフラウ。
「セイラさん、ミライさん。それに、テリーさん。あの子達の事、よろしくお願いしますね!」
「えぇ」
「わかったわ」
「任せてください」
フラウがホワイトベースの方へと向かうのを背に、ミライを後部座席に、テリー・オグスターなる少年を助手席に乗せたセイラはバギーのキーを回した。
「アムロくん達は、格納庫方面を調べてくれるらしいですよ!」
「じゃあ私達は、その反対側を目指しましょう!」
テリーの言葉で方向を決めたセイラはアクセルを踏んだ。
三人を乗せたバギーが前へと進む。
「……迷子になったというのは、ホワイトベースの乗組員なのですか?」
走り出して間もない頃に、テリー・オグスターが声を掛けてきた。
「サイド7から脱出した時に保護した子ども達です。他の人たちは本人達の希望で途中で下ろしたんだけど、あの子達は最初の戦闘で両親を失ってしまって……」
「そう、だったんですか……」
まさかそれも知らないで人探しを手伝ってくれるとは、この金髪の少年はなんて心優しいのだろうか。
それに。
「……キャスバル兄さん?」
「え?」
心なしか、彼の横顔にセイラの兄、キャスバルの影が重なったのだ。
いったいこの少年は、何者なのだろうか……?
「セイラ! あの岩陰なんか怪しいんじゃなくて!?」
「そうね……ここで一旦降りて、手分けして探しましょう!」
だが、今は子ども達の捜索が先だ。
ミライに指摘された岩陰を調べる為にバギーを道路端に止めると、セイラたちはそれぞれ移動を開始した。
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セイラさんとの接触には成功した。
俺を見てはっきり“キャスバル兄さん”と小声で口にしたのは分かったので、少なくとも彼女もテリー・オグスターに“シャア・アズナブル”を重ねているのははっきり分かった。
だが、それ以降の反応が無かったところを見るに、俺の“ダイクン家の末子説”は文字通り邪推に終わってしまった訳だ。
……一応SEED世界のラウ・ル・クルーゼの様な“クローン説”もない訳ではないが、宇宙世紀でクローンと言えばクラックス・ドゥガチくらいしか思い浮かばない。あの時代は今から約半世紀後である事を考えれば、この線はないとみて良いだろう。
じゃあ何だ? 本当にただのそっくりさん?
いやでも、キャスバルは自分そっくりの青年、シャア・アズナブルに“成り代わって”ジオンの士官学校に入学したのだから、もう一人や二人似たような顔の男が居ても不思議では、ない……?
ん? でもこの設定はジ・オリジン版であって、テレビ版は違った様な……。
そんな事を考えていた矢先だった。
「軍から身を引いてくれないか、アルテイシア?」
岩陰から、良い声が聞こえた。
間違いない。シャア・アズナブルだ。
テンションが、上がった。
さっきからそっくりさんなどクローン等真面目に考えてはいたが、根っこの部分は“生シャアを見たい”に尽きるのだ。
別にアムロ・レイでテンションが上がらなかったという訳ではないが、シャア・アズナブルが変な仮面被ってたのは一年戦争中くらいなので、レア度はこちらの方が高いのだ。
だが、一応テリー君の顔がシャアにそっくりとはいえ、軍属的には敵なのだ。
取りあえず銃だけ構えて警戒しながら飛び出そうとした、その時だ。
「シャア大佐! 岩陰に連邦の兵が‼」
「!?」
どこかで聞いた事のある女性の声が聞こえたと思った時には、俺は咄嗟に身を捻っていた。
考える前に身体が反応していたらしい。
一瞬遅れて銃弾が掠めた。
「当たったたらどうするんだ!」
「その為に撃ったのよ!」
岩陰に隠れながら銃弾の応酬。
ただ、生身での戦闘は(俺が“テリー”になってからは)初めてだ。
とりあえず適当にばら撒くくらいしか出来ないが、別に敵を倒すのが目的じゃないのでこれで良い筈だ。
「セイラさん! ミライさん! ジオンだ!! ジオンの兵が侵入してきたぞ!」
「チィッ!」
「兄さん!」
シャアと会う貴重な機会を逃したのは残念だが、それを対価に死ぬのなんて更に御免である。
が、邪魔した女の面くらいは拝んでおかないとな……!
「セイラさん逃げて!」
一気に岩陰から飛び出し、セイラさんの前に立つ。
「……!?」
残念ながら、シャア・アズナブルは既に姿を消していた。
そこにいたのは、拳銃を構えたジオンの女軍人。
白を基調としたカスタム軍服に身を包んだ、黒髪の女性。
「仮面だと!?」
その顔は、シャアと似たようなマスクで隠されていた。
え、誰? あの人???
赤い彗星のファンかな??
というか、あんなキャラ一年戦争時代にいたっけ?
「うーん……」
岩陰から銃弾が当たる音を聞きながら、考える。
ダメだ、アニメでみた記憶がない。
だがこの“声”……どこかで聞いたような気がするんだがな……。
「サレナ少佐、援護はもういい。君も後退したまえ」
「了解であります、大佐!」
その声のすぐ後に発砲音は消えた。
代わりに基地のどこかから爆発音が聞こえる。
『こちらフォリコーン! テリー軍曹緊急事態です! 基地内部にジオンのモビルスーツが複数侵入! 至急戻って来てください!!』
「セイラ! フラウから連絡があったわ! モビルスーツがホワイトベースを狙ってるって!」
フォリコーンからの連絡と、ホワイトベースから連絡を受けたミライさんからほぼ同じタイミングでジオン襲来の報せが届く。
いや、ミライさん経由のホワイトベース隊の方が、いち早く反応したという証拠だろう。
流石、サイド7からずっと実戦をくぐり抜けてきたホワイトベース隊だ。
マニュアル外の対応という点では、俺達フォリコーン隊はまだまだ彼らには敵わないと嫌でも実感してしまう。
でも、それでも全く役に立たないという事はない筈だ。
「ドッグに戻りましょう! 俺が運転します!!」
「えぇ、お願いするわ!」
俺がバギーの方へと戻ると、その後ろをミライさんが着いて来てくれた。
セイラさんらしき足音は、まだ聞こえない。
「……セイラ? どうしたの?」
「な、何でもないわ……行きましょう!」
シャアと仮面の女が走っていった方に一瞬だけ目を向けたセイラさんだが、今は目先のジオンを何とかする方が先という事に気が付いてくれたらしく、すぐにバギーの後部座席へと滑り込んできた。
「飛ばしますよ!」
キーを回し、エンジンを掛ける。
ガンダムに比べれば、こんな四輪の操縦などお手の物だ。