機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第20話【ヨーコ・フォン・アノーという女】

 

『分隊長! 待ってましたよ!!』

『隊長の指示待ちです』

 

 ミライさんとセイラさんをホワイトベース前で下ろした俺が急いでフォリコーンの格納庫へ向かうと、既に起動していた二体のジムから部下たちの声がした。

 

「クロイ! ヨーコ! 既にモビルスーツに乗っていたか!」

『ホワイトベース隊のモビルスーツは既に戦ってますよ!』

 

 俺がガンダムのコックピットへ向かっている最中も、クロイのテンションは上がりっぱなしだった。

 

 へっぴり腰になってるよりは、マシであろう。

 

「俺もガンダムで出る! ヒータ分隊長とミドリ分隊長は!?」

 

『おう! やっと帰ってきたか!』

 

 フォリコーンの格納庫からヒータの声がした。それとほぼ同時、二体のジムが現れる。先行量産型という事は、アレに乗っているのはヒータとミドリの二人で間違いなさそうだ。

 

『ホワイトベースの女の子とのデート、どうでした?』

「そんなんじゃないぞ!」

『おい、どういうこった!』

「だから違うって!」

 

 宇宙で離れてからずっと塞ぎこんでいたというミドリも、すっかり調子を取り戻していた。否、空元気で乗り切っているのかも知れない。その辺は本人のメンタル次第だが、仮に俺が何かしてやれるとしても、それは今じゃない。

 

「状況は!?」

 

 ガンダムのコックピットに滑り込みながら、計器をチェック。ノーマルスーツを着ていきたいが、敵が目前にいては悠長に着替えなんて出来ないのでこのまま行く事に。

 

『基地内部にジオンの水陸モビルスーツを確認! 中には赤いモビルスーツと、例の白いモビルスーツもいるそうです!』

「なんだって!?」

 

 白いモビルスーツ…“あの”イフリートが地球に降りてきていたってのか!?

 

「不味いな…」

 

 だが、今回は前回とは状況が違う。

 

 なんたってこちらにはホワイトベース隊が、アムロ・レイのガンダムがいるのだ。

 他力本願というのは少々情けない話だが、08小隊と共に戦った時に自分がいかに弱いかを実感してしまった以上、英雄的行動よりも慎重に行く方が良いと思う。

 

『分隊長、指示を!』

 

 何より俺は、モビルスーツのパイロットであると同時に、部下の命を預かる隊長でもあるのだ。

 

 シロー隊長の様に、俺も出来るだろうか…?

 

 

「よし、シャード01より各機へ! 我々の目的はフォリコーンとホワイトベースの護衛だが、我が軍の本拠であるジャブローをジオンが闊歩しているというのはよろしくない。よって! 積極的に前に出てジオンの連中を叩き出す! ただし無茶はするな! 相手にはあの“赤い彗星”と白いモビルスーツがいる! 生き残る事を忘れるな! 以上!!」

 

 よし、決まった筈だ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「“生き残る事を忘れるな”ですって?」

 真新しいジムのコックピットの中で、ヨーコ・フォン・アノーは独り言ちる。

 

 戦争中にそんな生易しい考えが通用するものか。

 

 敵を討たねば討たれる様な現状で、生き残る事を優先しろだと?

 

「分隊長くらいはって思ってたけど、まさかね……」

 

 フォリコーン隊の連中は、そのほとんどが士官学校の同期で構成されている。

 加え、ずっと宇宙で訓練と試験しか行っていなかったのだ。

 

 彼女が何を思っていたのかというのは単純明快。

 

 “緊張感が足りない”のである。

 

 生きるか死ぬかの戦場のど真ん中で、彼女らは未だ学生気分が抜けていない、というのがヨーコの考えだった。

 

 特に艦長のマナ・レナとヒータ・フォン・ジョエルンが酷い。

 

 かの有名なレビル将軍直管の特殊部隊に着任するという名誉など露知らず男の奪い合いなどをしているのだ。本人達が口では否定しているのが尚気に入らない。

 

「なんで、私がこんな扱いを受けないといけないのよ……!」

 

 ヨーコの士官学校での成績は、総合四位だった。

 

 それだけ見れば、かなり優秀な成績を修められたと彼女は自負している。

 

 努力は怠らなかった。

 

 だからこそ“あんな連中”に成績表の上で負けたのが納得いかないのだ。

 

「でも、戦場でなら……!」

『シャード02! 右側に敵影! 警戒しろ!!』

「ッ!」

 テリー・オグスターの声で意識を現実に戻す。

 

 索敵。

 

「見つけた!」

 

 岩陰に隠れたジオンの水陸両用モビルスーツを視認。

 

 ビーム・スプレーガンを乱射する。

 

 二発は逸れ、三発目にしてようやく掠る。

 

 が、撃破には至らない。

 

「こんな連中に負けてられないのに! お前なんかに苦戦なんてぇぇーーー!!」

『お、おいヨーコ! 一人で前に出過ぎるな!!』

 

 テリーの命令にも聞く耳持たず、突出するヨーコ。

 

 敵モビルスーツの銃口が向けられる。

 

 が、こちらの方が早い。

 

 更に二発。

 

 一発目で腕を吹き飛ばし、二発目がコックピットを直撃。

 

 爆発。

 

「やった……!」

『大丈夫か!?』

「やりましたよ分隊長! ほら、実戦では私の方が優秀でしょう!? ヒータなんかに先にモビルスーツを渡したの、今更後悔し始めたんじゃないですか!?」

『お前、何を……!』

 

 

 彼女は、昂っていた。

 

 

 それは、ヒータに“根暗ちゃん”と呼ばれる程に己を殺して軍人としての“殻”を被っていた、彼女の本性。

 

 

「私はエリートなんです! この中で一番モビルスーツを上手く扱えるんです!」

『待て! そんなに迂闊に前に出ると……!』

 

 

 テリーの忠告も束の間。

 

 

 

 ヨーコの乗るジムの目の前に、真っ白なモビルスーツが降り立った。

 

「……!」

 

 逆刃のビームサーベルが、振り下ろされる。

 


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