機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第31話【テキサスの攻防】

「やっぱり、私ではアレックスの力を完全に引き出せないわ。アムロ君。これは元々君の為に開発したガンダムだから、是非貴方に使って欲しいの」

「え、嫌ですよ」

「「えぇ!?」」

 

 即答したアムロに対し、俺はクリスと同じタイミングで驚いてしまった。

 サイド6宙域から脱した後に強襲してきたコンスコン艦隊に対し、俺達三人はそれぞれのガンダムで応戦。12機のリック・ドムの内、4機の撃破に成功した。因みに6機はアムロで、残りの2機はクリス。戦艦は他の仲間に譲る形になってしまったが、上々の戦果だ。

 

「で、でも、アムロ君の方がパイロットとしての技量は高いし、それにアレックスは貴方やテリー君のようなニュータイプ専用に開発されたモビルスーツで……」

「ニュータイプの事よく分かってない連邦の人がニュータイプ専用機を作れる訳ないじゃないですか」

 

 然り。

 

「確かに全天周囲モニターは魅力的ですけど必要性を感じませんし、何より感度が高過ぎる調整は単純に操作に神経質になってしまって長期の作戦になった際に体力や精神力を無駄に使う事にもなります」

 

 然り。然り。

 

「……テ、テリー君も同じ意見なの?」

「しか……あっ、はい。俺もそう思います」

「そっか……」

 

もう少し気を使った言い回しの方が良かった気がするも、あまりにもアムロが俺と同じ感想を持っていた事につい同意せざるを得なかった。

 

というかアイツ、乗ってないのにアレックスの特性をドンピシャで言い立てた事になるんだよな……化け物だなアイツ……。

 

「それにモビルスーツを交換するとなると、二機のガンダムをそれぞれのパイロットに合わせて調整しないといけません。それなら、アレックスをクリスチーナ中尉に合わせる方が手間が掛かりません」

「クリスで良いわよアムロ君。あ、テリー君もね?」

 

 よくやったアムロ!

 ずっと“マッケンジー中尉”でよそよそしかったから助かる!!

 

 俺は無言でアイコンタクトを送ったが、その前に顔を背けていた。ニュータイプの先読みズルい。

 

 

「じゃ、じゃあ問題はアレックスをどう調整するか、か……」

「それについては僕に考えがあります。少し待ってて下さい!」

 

 そう言うとアムロは自分のガンダムのコックピットへ赴き、中から小さい箱の様なものを持って戻ってきた。

 

「これは?」

「僕の父さん……テム・レイ博士が開発したコンピューター回路です」

 

 クリスの質問に答えながら見せてくれたのは、所謂“テム・レイ回路”だった。

サイド6で受け取ってからそのまま投げ捨てたのかと思っていたが、そう言えば横に俺がいたので捨てるに捨てられなかったのだろう、と今更思い出す。

 

「随分古いタイプね……」

「……ガンダムを作る前の試作品を貰ってきたんです。これをアレックスに取り付けましょう」

 

 本当は酸素欠乏症に掛かった弊害でこれを“最新型の回路”だと言って押し付けてきたのだが、アムロは嘘を着いた。心中をなんとなく察した俺は黙っておく事に。

 

「でも、これだとアレックスが動くかどうかも怪しいわ」

「メイン回路と交換するんじゃなくて、回路とコードの間に挟んで出力調整用の“つまみ”にするんですよ」

「なるほど。確かにそれなら、私でもアレックスの性能をもて余さずに済むかも……」

 

 どうやらその方向で決まったようだ。

 と、なると後はクリスとバーニィの為に少し背中を押してやっても良いかもしれない。

 

「俺とアムロで調整しておきますから、クリス中尉は恋人の所へ行ってやって下さい」

「ちょっ、ちょっとテリー君! 私とバーニィはそういうのじゃないから……!!」

「良いから良いから!」

「……とりあえず、頼んだわね、二人とも!」

 

 頬を赤くしながら医務室の方へと走っていくクリスの後姿を、俺とアムロは見守った。

 心なしか、アムロが残念そうな表情をしている気がした。

 ちょっとからかってやろう。

 

「……なんだいアムロ、言いたい事でも?」

「いえ、別に?」

「……ちょっと気があった?」

「からかわないで下さいよ……!」

 

 あ、こりゃ図星だわ。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「二人にして欲しい?」

 フォリコーンの医務室に向かったクリスチーナ・マッケンジーは開口一番、女医にそうお願いした。

「お願いします。大事な話があるので」

「良いよぉ、丁度休憩したかったし、この部屋使いな。あ、隣の隔離してる人は気にしなくていいよ。こっち側から見えないし聞こえないようにしとくから」

「あ、ありがとうございます……」

 

 それはちょっと可哀想だな、とクリスは思ったが、バーニィがジオン兵であるという事実が公になるのは不味いと思い、隔離されている少女については触れない事にした。

 

「鍵は内側からかけといてね。じゃ、ごゆっくり~」

 

 女医は何の疑いもなくその場を去っていった。

 部屋に残されたのは、クリスと、バーニィ。

 

 連邦の兵士と、ジオンの兵士の二人だった。

 

「……」

「……」

 

 沈黙が続く。

 

「……話、聞かせてくれるわよね?」

「あ、あぁ……」

 

 先に沈黙を破ったのはクリスだった。

 それに対し、バーニィは頷いた後、全てを話してくれた。

 

 

 自分が最初にサイド6でアルフレッド・イズルハと出会った時の事。

 自分が北極からアレックスを追ってきた特殊部隊“サイクロプス隊”の補充要員に充てられた事。

 アレックスを奪取または破壊する“ルビコン計画”の失敗で月の上層部が核攻撃を決めた事。

 アルと一緒に過ごした時間の全てを、クリスはその時初めて知った。

 

 

「そう……事情は分かったわ」

「すまない、クリス。騙していて、本当にごめん……」

「……本当なら、許しちゃダメなんでしょうけど、アルが信じたんだもの。私も信じるわ」

「クリス……!」

 

 無論、バーニィ達に自分の仲間が殺されたのは事実だが、それを言い出すと向こうもそうである。

 なのでクリスは軍人である事よりも、人間として信頼していたアルの言葉を信じる事にした。

 それに、アルの“心の底からの叫び”を聞いた今のクリスには、バーニィを咎める気など最初から無かったのだ。

 

「しかし、あのザクに乗っていたのがバーニィだったなんてね。もし私がアレックスに乗って戦ってたら、どうなってたかしら?」

「そりゃ、俺が勝っていたさ!」

「そうかしら? きっと私が圧勝して泣きながら降参していたかも知れないわ」

「テストパイロットが実戦で戦ってきた俺に勝てる訳ないだろ!」

「本当に実戦経験あるの?」

「うっ……」

「……でも、知らずに戦わなくて、本当に良かったわ。テリー君とアルには、感謝してもしきれないわね……」

「それは同感だな。……ったく、あのビデオレター、ただの恥ずかしい記録になっちまった……!」

「?」

 

 そう言えば去り際にアルにそんな事を言っていたのを思い出したクリス。

 その内容くらい問い詰めてもバチは当たらないわね、と考えたその時だった。

 

 

 艦内に、警報が鳴り響いた。

 

 

『総員に通達! 前方の廃棄コロニーにて識別不明の機影を確認しました! これより本艦は第一種戦闘配置に移行! モビルスーツ隊も順次発進して下さい! 繰り返します…』

 

「行かないと……!」

「クリス! ……こんな事言えた義理じゃないけどさ……死ぬなよ」

「……わかったわ。ありがとう、バーニィ」

 

 バーニィの視線を背中に感じながら、クリスは医務室を出た。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「テキサスコロニーか」

 

 ホワイトベースのキャプテンシートから眼前の廃棄コロニーを見つめながら、ブライトは呟いた。

 

「廃棄されてから随分と久しいようね」

「それ故にジオンも罠を張りやすいと言った所か。フラウ! フォリコーンにいるアムロにコロニーの内部を調べる様に伝えろ!」

「了解! ……ブライト艦長! グレイファントムのモビルスーツ隊もアムロに同道するそうです!」

「任せよう! カイとハヤトはガンキャノンで出撃! フォリコーンのモビルスーツ隊と共にコロニー周辺の調査をさせる!」

 

 ブライトの的確な指示により、各モビルスーツが展開していく。

 アムロの乗った白いガンダムとグレイファントムのモビルスーツ隊がテキサスコロニー内部に侵入し、テリーの乗った黒いガンダムとクリスの乗ったアレックス、それとミドリの乗った先行量産型ジムがガンキャノン二機と合流し、コロニー外周へと回る。

「……む、アムロはアレックスに乗り換えるという話じゃなかったのか?」

「アムロ、断ったそうですよ」

「じゃあ一体何しにフォリコーンに行ってたんだ……?」

 

 流石にモビルスーツの操縦に関して疎いブライトには、アムロが断った理由を察する事が出来なかった。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 同じ頃、テキサスコロニーの丁度真反対に部隊を展開する艦隊があった。

 シャア・アズナブルが地球から乗ってきたザンジバルと、それに合流したムサイ級巡洋艦“リーマン”の二隻だった。

 

『艦長。救援感謝する』

 

 ザンジバルから発進する赤いモビルスーツが見えた。

 今し方シャア・アズナブル大佐に受け渡しした新型モビルスーツ“ゲルググ”だ。

 

「なに、あの“赤い彗星”の手助けともなれば、兵の士気も上がります。ウチのモビルスーツ隊は予定通り、コロニー外周から連中を挑発します」

『頼むよ。そちらにはサレナ少佐のイフリート・ダンを向かわせる』

「エースパイロットをお貸し頂けると?」

『今の彼女は少々ナイーブでね。出来れば主戦場から外してやりたい』

 

 ただ厄介者を押し付けられただけか。

 “リーマン”の艦長は顔をしかめるが、兵たちの手前言及も出来なかった。

 赤い彗星は、若い兵には人気があり過ぎたのだ。

 

「大佐は優しさも持ち合わせていられるのですね。分かりました、グレゴルー隊を彼女の護衛に着けましょう」

『陽動だけで良い。ガンダムを一体でも仕留められれば、勝機がある筈だ』

「……え? 何ですって? “一体でも”??」

 

 何か嫌な事を聞いてしまった様な“リーマン”の艦長だが、赤い彗星はそれに答える前にそそくさと通信を切ってしまった。

 

「聞き間違い……というには無理があるが……」

 

 苦言を申しながらも、軍人である以上階級が上の人間には逆らえない“リーマン”の艦長は、ドム三機で編制されたグレゴルー隊を発進させた。同時にザンジバルから発進するイフリート・ダンの姿も見える。

 

「艦長! ミラーの向こうに機影を確認! 連邦軍のモビルスーツ部隊です!」

「早速お出ましか! ミノフスキー粒子戦闘濃度散布! 本艦も出来るだけ前に出てモビルスーツ隊を援護する!!」

 

 そして、戦闘が始まった。

 


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