機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第一章~一年戦争篇~
第01話【テリー・オグスター】


 

西暦20XX年。

 

 突然ですが、俺の人生は、終わってしまいました。

 

 なんてことない16年だった。

 

 学校に行って、なんとなく授業受けて。

 

 友達も作らず、放課後は帰宅部の活動もサボってゲーセンへと足を運んだ。

 

――テリー!

 

 学生が追い出される時間になるまでガンダムVSガンダムをひたすらプレイする日々。

 

 そんななんてことない日々に変革が訪れたのは、寒い冬の日だった。

 

 連戦連勝を重ねていた俺は、次で通算1000連勝の興奮に身を震わせながら帰宅していた。

 

 寝て起きるくらいしかしない実家。

 

――聞いているのかテリー!

 

 だが、一台のトラックが猛スピードで突撃してくる光景を最後に、俺は

 

 

「テリー・オグスター!!」

「はっはい!!」

 

 

 

U.C.0079

 

 

 

 気が付けば俺は連邦軍の兵士“テリー・オグスター”という名前でサイド7に常駐していた。

 

 より正確に言えば、この宇宙世紀に“テリー・オグスター”として生を受け16年を生きたが、アムロ・レイがガンダムを大地に立たせたのを目撃した事によって“本来の記憶”を思い出した、といった所だろうか。

 

 もう少し早ければ俺がガンダムに乗れていたかもしれないと思うと、生前(?)の自分の寝坊癖をこれ程までに恨んだ事はない。

 

「早くしろ! ジオンが来る前にコイツを運びだなきゃならん!」

「何です?」

「モビルスーツだ天然野郎!」

 直属の上司(重要な情報じゃないからか、記憶を思い出した時に名前をド忘れしてしまった)からの叱責を受けながら、格納庫の中を進む。

 

「これは……!」

 目的の格納庫の扉を開くと、そこには黒いボディーカラーのガンダムがあった。

 間違いない。これはRX‐78シリーズの一号機“プロトタイプガンダム”だ。

「ガンダム!」

「ザクに見えるか! 早くハンガーデッキに移動しろ! ゲートを開けて外に運び出す!!」

「りょ、了解!」

 

 格納庫の脇の部屋に入り、電子パネルを叩く。生前の記憶ではさっぱりな筈だが、テリー・オグスター君は勤勉で優秀だったらしい。連邦士官学校を首席で卒業し、いくつか表彰を貰った記憶もある。俺の記憶だが俺の記憶じゃないってのは、なんとも変な話だが。

 

「ハッチ開けます!」

『よし! お前はランチで……』

 

 上司の声は、そこで途切れた。

 

 大きな爆発音が遮ったのだ。

 

「なんだ!?」

 

 声では驚きながら、身体は動揺することなくパネルを素早く叩いた。

 

『何があった!?』

「ジオンのザクです! 数は三! まっすぐこちらに向かっています!!」

『クソッ! とりあえず応戦を……なんだ、ハッチが閉まらない!?』

「壁の向こうに!!」

 

 再度、爆発音があった。

 

「うわっ!!」

 

 トラックにはねられた“あの瞬間”を彷彿とさせるような衝撃が俺を襲った。

 そのまま後ろの壁へと激突。ノーマルスーツを着用していたのと、普段からテリー君がしっかり体を鍛えてくれていたおかげで目立った外傷はない。

 

「……!」

 

 部屋から這い出ると、プロトタイプガンダムがうつ伏せに倒れていた。

 後方では爆発で無理矢理こじ開けられた壁の向こうから、ザクが顔を出していた。

 

 

 アニメやゲームではやられ役の様な立ち位置の雑魚モビルスーツ。

しかし、今俺の目の前にいる巨人は、それと同一の存在とは到底思えなかった。一歩歩く事に地面を揺らす一つ目の怪物は、正しく脅威だった。

 

 

「そうだ! 先輩!!」

 

 考える前に身体が動いた。

コックピットの方へと移動すると、巨大な赤い花が一輪、裂いていた。

「……!」

 

 

 

 心が、痛む。

 

 

 

 涙が、頬を伝った。

 

 

 

 だが、俺の知り合いではない。

 

 

「夢に出てきそうだなぁ」

 

 良く出来たスプラッター映画だとこれよりもっと悲惨な物を見せてくる。この程度で狼狽えるとは、さてはテリー・オグスター君はグロいのが苦手と見える。

 

「さて」

 

 コックピットに座り、先人の失敗に習ってしっかりとシートベルトを閉める。

 

 眼前には様々なボタンやレバーが並んでいた。何が何だかさっぱりだが、テリー・オグスターの記憶の頼りにボタンを幾つか押し、目の前のグリップをしっかりと握った。

 

「起きろ!」

 

 ゆっくりと上体を起こすガンダム。よし、良いぞ。次は反転だ。レバーを操作。

 

「……嘘だろ!?」

 

 思わず声を挙げてしまった。

 

 

 

 眼前には、なんと三機のザク。

 

 

 

 

 ……自分でそう数えた気がするが、そこは重要じゃない。

 

 

 

 

 問題は、ザクの“肩”だった。

 

 

 

 

 右肩が、赤い。

 

 

 

 

 それが、三機。

 

 

 

 

「クソッ! どうみてもエースパイロットじゃねぇか!?」

 

 このガンダムが“史実通り”の性能なら、ザクに負ける理由がないのだ。

 

 ……ハッチ開閉部分が故障している、という一点を除けば。

 

「何が何でも1000勝させないつもりか! 神様のクソッタレー!!」

 

 叫びながら、俺はガンダムのブースターを点火させた。

 


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