機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第一章第五幕~ソロモン攻防戦篇~
第33話【新兵器】


 

おかしい。

 

 バーニィがヒータのジムに乗って一緒にイフリート・ダンを殴った事がか?

 

 いや、それも確かにおかしい。

 

 しかし、それは身体が勝手に動いた事なので、とりあえず、良い事にする。結果的に勝てた訳だし。

 

 問題はそこじゃない。

 

 

「キャー! バーニィさーん!!」

「や、やぁ……どうも……」

「ランチ、ご一緒に良いですか!? なんならディナーもその後もご一緒に!」

「ちょっと! 抜け駆けはダメよ!」

「あ、あのー……とりあえず、席に座らせて……」

 

 

 バーニィが、フォリコーンの女子クルー達に囲まれて、黄色い声を一身に浴びていたのだ。

 

 おかしい。

 

 絶対に、おかしい。

 

 普通さ、“現代からアニメや漫画の世界に転生してきた男”つったらさ? メインモブに限らずモッテモテのウハウハな訳じゃん? それが何よ? これまで何度も一緒に戦場を駆けた俺にはああいうイベントなんで来なくて、一回出撃しただけのバーニィがあんなにもてはやされるの? 顔か? やっぱり顔なのか? ……いや、でもこの素面シャア・アズナブルにそっくりなテリー・オグスター君も立派なイケメンな筈……。

 

 

「一体……一体俺とバーニィの何が違うって言うんだ……?」

「んーー……テリーくんアレなんじゃない? 同級生達には“見慣れてる”から……」

 

 

 俺の隣の席でチーズリゾットを口に運びながらマナが答えてくれた。

 

 見慣れてる?

 

 つまり、なんだ。

俺が“転生”する前に、学園ハーレムイベントが行われて、もう俺がハーレムイベントを堪能する事は、ないと言うのか!?

 

 

「世の中は理不尽で出来ている……」

「オレもそう思うぜテリー……アイツが活躍出来たのは、オレのジムを無断で使ったからじゃねぇか……ぐすん……」

 

 

 マナとは反対の隣席には、涙目でサンドイッチにかじりつくヒータがいた。

 

 病室からやっと解放された彼女だったが、作戦終了からずっと艦内がずっとこの調子で、自分のモビルスーツを勝手に拝借した事を怒るに怒れない雰囲気で不貞腐れて今に至る。

 

 そんな二人の間で食事を取っていた訳だが、向かいの席のミドリがやけにニコニコしている。大盛のポテトと巨大ハンバーガーにご満悦だからだろうか?

 

 いや、どちらかと言うとあの顔は「美少女二人侍らせてなんて贅沢な事言ってるのかしら?」って顔だな。

 

「“美少女二人侍らせてなんて贅沢な事言ってるのかしら?”って思ってる?」

「あら、分かっちゃいました?」

 

 

この余裕の表情である。

 

最近はニュータイプ的な感覚が鋭利になってきたからか、他人の考えがなんとなーく分かってきたのだが、ミドリはそれに気が付いてからずっと俺と目が合う度にニコニコしているのだ。きっと気味悪がられていた“勘の良さ”を同じく共感出来る者がいて嬉しい……と、言った所か。

 

 

「……テリー君。あまり女の子の心の中を覗くのは感心しないわね」

「うっ」

 

 

 ほらこうなる。ニュータイプにプライベートゾーンはないのか。

 

 

「は? なんでちょっとテリーくんと仲良くなってるのミドリちゃん!?」

「まさか、オレが病室で苦しんでいる間に何か良からぬ事が……」

 

 

 この二人に関してはニュータイプ以前に感情がはっきり顔に出るタイプなので、変に心を読む必要がないのが救いだ。

 

 ミドリが学生時代にこの二人と仲が良かった理由を、今更ながら知れたと言うわけである。

 

 最も残念な事に、俺はその“学生時代の記憶”がさっぱりないのだが。

 

 

「ちょっと聞いてるテリーくん!?」

「そうだぞ! ちゃんと説明しろ!!」

「いや、単にちょっと共通の話題で盛り上がれただけで……おい、ミドリもなんか言ってくれ!」

「きゃー。バーニィさーん」

 

 

 あの女面白がってシカト決め込みやがった!!

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「お、おや、ど、どうかしたんですか?」

「何でもないよ」

「同じく……」

 

 

 俺とバーニィは仲良くため息をつきながら、グラン博士のいる右舷デッキの方へと避難していた。

 

 と、言うのもあの後マナとヒータによる“正妻戦争”が勃発し(俺が誰かとはっきり付き合ってると言わなかったのが主な原因)食堂の雰囲気が一気にホットになった所で抜け出した所、全く同じタイミングで同じ事を考えていたバーニィと共に逃げてきたという訳である。

 

 

「う、上は、大変そうですねぇ……」

「そう言えば、グラン博士は格納庫以外で見た事ないな」

「……確かに」

 

 

 バーニィの言葉を聞いた後、記憶をひっくり返した俺は頷いた。

 

 最初に尋問する為に空室に招いたが、それ以降は確かに格納庫かその近辺でしか姿を見ていない。

 

 

「じょ、女性ばかりと言うのは、こ、こう、な、なんとも気が引けてしまって……そ、それに、い、一応は、ジ、ジオンから脱走した訳ですから、ぶ、分をわきまえていると言いますか……」

「殊勝な心掛けだな。聞いたバーニィ君?」

「よく言うよ。アレは“拉致”ってんたぞテリー君」

「?」

 

 

 俺達のギリギリアウトのやり取りに対してその意味を掴めていないらしいグラン博士は首を傾げた。

 

 優秀な技術者ではあるらしいが、こういう人間関係に関しては鈍いらしい。

 

 

「それよりもグラン博士。開発の方はどうなってる?」

「そ、そうですね大佐……」

「……あの、俺、少尉だけど」

 

 

 勝手に昇格されたら困る。

 

 

「あ、あぁ! も、申し訳ない! そ、その……お、オグスター少尉のこ、声が赤い彗星にそっくりだったもので、つ、つい……」

「えっ、テリーってもしかして、あのシャア・アズナブルと血縁関係にあるのか!?」

「いやいやまさかそんな出来過ぎた話ある訳ないでしょ。そっくりさんってだけだよ」

 

 

 現に本人にも、妹のセイラさんにも「まぁ、そっくり」の一言で終わったのだ。

 

 だが、“それ以外”なら、どうだろうか?

 

 

「俺が赤い彗星似のハンサム顔なのはさておき」

「自分で言うかぁ?」

「うるさいよ」

「し、進捗の話ですよね! と、と言っても、ほ、ほぼ有り合わせの物を繋ぎ合わせただけなので大した労力は必要なかったのですが、ま、まずはこちらを……」

 

 

 グラン博士に先導されてデッキの上の方へと移動する。

 

 ここからなら、格納庫を一望できるからだ。

 

 

「さ、最初に頼まれていたカ、『カミカゼ』です」

「おぉ……」

 

 

 思わず感嘆の声を挙げてしまった。

 

 “カミカゼ”は戦場で拾ったマゼラン級やサラミス級の甲板の一部を加工し、側面にプロペラントタンク(これも同艦から拝借したもの)を取り付け、機首部分にはセイバーフィッシュを取り付けた急造品だ。

 

 しかし、これは確実にサブ・フライト・システム……SFSとしての機能を充分に備えている、立派な兵器だった。

 

 

「モビルスーツを運搬する、ジェット機みたいなものか?」

「に、二機分のパーツは確保して頂いたのですが、か、完成したのはこの一機のみになります」

「とりあえずソロモン攻略前に一機間に合ったのは助かったよ。他のは?」

「ら、楽なのから先に、し、仕上げさせて頂きました。私の方ではこ、こう呼んでいます……“ジム・コマンド:ザク・カスタム”です」

 

 

 次にグラン博士が見せてくれたのは“カミカゼ”の横に格納されていたジム・コマンドだった。ただ“ザク・カスタム”という直球のネーミング通り、赤くリペイントされたザクⅡ改のシールドとショルダースパイクが装備されていた。

 

 

「こ、これは……!?」

「サ、サイド6で回収したザクⅡ改のパーツを、りゅ、流用させて頂きました。お、オグスター少尉曰く、わ、ワイズマンさんの戦闘スタイルなら、あ、あって困らないだろう、と……」

「そうか……」

「い、一応、ひ、ヒート・ホークも回収出来たので、あ、扱いはほぼザクと同じ感じになってしまいますが……」

「……構わないよ。むしろ、そっちの方が“慣れている”」

「慣れて……? あ、あぁ。成程! や、やっと合点がいきました!」

「グラン博士……その件は内密にお願いしたい」

「わ、わかりました! シャア大佐!」

 

 

 だから違うって。

 

 

「……そう言えば、さっき出撃する前にバラしたリック・ドムのパーツを見たんだが、アレも何かに変わるのか?」

「い、いえ。あ、アレはもう“完成”しています」

「え?」

「コレには俺が答えよう。なんたって自信作だからな!」

 

 

 バーニィが見たリック・ドムの残骸は、俺がコンスコン艦隊と戦った際にさり気なくパーツを回収したものだった。

 

 そこから上手く“必要最低限”のパーツだけ補修し、今に至る。

 

 

「これ、動くのか?」

 

 

 眉をひそめながら、バーニィはバラバラになっているリック・ドム“だったもの”を見つめていた。確かに、ここまま動けばジオングというかターンXである。

 

 だが流石に、そんな物は作れない。

 

 

「名前は“トロイア・ドッグ”とした」

「とろい……なんだって?」

「う、宇宙世紀以前……こ、古代ギリシャに伝わると、“トロイアの木馬”から名前を取ったらしいですよ。そ、それにしてもオグスター少尉。や、やけに古典にお詳しいですよね……」

「ん? じゃあ名前はなんで“トロイア・ホース”にしなかったんだ?」

「そりゃお前。“走る棺桶”と言えば“犬”でしょうや」

「は? ……グラン博士、それも何かの古典だったりするのですか?」

「い、いえ……わ、私は古典にはあまり明るくないので……」

 

 

 古典であっても困る。

 

 

「でも、最後の“仕上げ”がまだだな」

「い、言われて間もないじゃないですか……!」

「最後の仕上げって?」

「あぁ、……これ」

 

 

 そう言いながら、俺は丁度横に積み上げられていたペンキの缶を刷毛(はけ)を一つずつ持ち上げ、バーニィに手渡した。

 

 

「さ、一緒に色塗りの時間だ、バーニィ君」

「……あのまま食堂で女の子にもみくちゃにされていた方がマシに思えてきたぞ」

「クリス中尉に言いつけちゃうぞ」

「こ、この卑怯者!!」

 


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