機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第35話【チェンバロ作戦】

『これより、チェンバロ作戦を開始する!』

 

 

 レビル将軍の一言を皮切りに、ソロモン宙域に集結した地球連邦軍艦隊は一斉に攻撃を開始した。

 

 その先鋒として用いられたのは、連邦軍の新型兵器“ソーラ・システム”だった。

 

 この攻撃によってソロモンの艦隊のほとんどを片付けた連邦の第一手は大きく、作戦開始から間を置かずに戦況は連邦軍に傾いていた。

 

 ホワイトベース、フォリコーン、グレイファントムからなる第13独立部隊もその例に漏れず、現在はティアンム艦隊と共に進軍をしている最中だった。

 

 

『モビルスーツ隊出撃を用意させて!』

『了解! モビルスーツ隊発進して下さい!』

『おうよ! グレン01ヒータ出るぞ!!』

 

 

 いつもの“二段階命令”の後、ヒータ・フォン・ジョエルンの乗る先行量産型ジムが出撃する。

 

 

『リーフ01ミドリ・ウィンダム!ジム出撃します!!』

 

 

 ヒータに続き、ミドリも宇宙へと駆ける。

 

 

「……まさか、つい数日前までジオン兵だった俺がソロモンを攻める事になるなんてな」

 

 

 カスタムされたジム・コマンド:ザク・カスタムの中で、バーニィがひとりごちる。

 

 

『バーニィ聞こえるか! オグスターだ!』

「おう、テリー! 似合ってるよその衣装!」

『言ってろ! ……トロイア・ドッグは隠し球だ、もっとソロモンに近づかないと出せない。ヒータ達のエスコートは任せるぞ!』

「あの気の強い嬢ちゃんだと逆に俺がエスコートされると思うけどな!」

『聞こえてんぞ新米! サボってないで早く来い!』

「了解! バーナード・ワイズマン! 発進する!!」

 

 

 二回目となる、連邦軍の戦艦からの出撃。

 

 グラン・ア・ロン博士の計らいでコックピット内装もよりザクに近くなったジムのコックピットからソロモンを眺めるバーニィ。側面からはホワイトベース隊のガンダムに、グレイファントム隊のアレックスが並ぶ。

 

 

「ジオンから見ればまさしく悪夢だな……」

『敵さんが来たぞ! 散開して各個に対処しろ!!』

 

 

 前方に光が見えた。リック・ドムからなるジオンの小隊だった。

 

 

「元同僚には悪いけど、俺はアルに帰るって約束したんだ……! 倒したって恨んで化けて出てこないでくれよ!」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「連邦軍のモビルスーツ部隊、段々ソロモンに近づいてるってよ」

「それにしちゃ、この辺は静かだな」

「ここは主戦場の裏側だぞ。連邦なんて来やしないよ」

 

 

 小惑星ソロモンのゲートの一つを警備していたミーノ・ガッシー中尉は部下と共に“仮初めの休暇”を満喫していた。

 彼らは確かに作戦行動中だったが、彼らが“仕事”をする時というのはソロモンが“墜ちる時”である。

 

 

「……ん? 中尉。ゲートの外にリック・ドムが一機。こちらに通信を求めています」

 

 

 そんな彼らの元に一本の通信が入ってきたのは、突然の事だった。

 

 

「ヒヨッコが逃げ込んできたか……通信開け。俺が追い返してやる」

 

 

 ミーノ・ガッシー中尉が気怠げにコンソールを操作する。

 

 画面には垢抜けてない新米兵士……ではなく、赤い軍服に身を包んだ、仮面の男が映っていた。

 

 

「なぁっ!? あ、赤い彗星……!?」

『やぁ。休憩中だったかな?』

「シャア大佐! キ、キシリア閣下の艦隊が援護に来られたのですか!?」

『いや、私だけ先行してきた。艦隊は連邦軍のエースパイロット、テリー・オグスターの足止めをしてもらっているよ』

「テリー・オグスター? 誰です、それ?」

『黒いガンダムのパイロットだよ。あの様子だと、アムロ・レイより強敵になるだろうな』

「アムロ・レイ……?」

『……なんでもない。内側から近道して主戦場に出たい。通して貰えるか?』

「え、えぇ勿論です大佐! 2ブロック先の格納庫で補給を受けているモビルスーツ小隊に連絡します、彼らと合流して下さい!」

『ありがとう』

「おい、ゲートさっさと開けろ! 俺はドズル閣下に大佐が来られた事をお伝えする!」

「了解!」

 

 

 部下に指示を出したミーノ・ガッシー中尉が通信回線のチャンネルを変えると同時、ゲートが開き、真っ赤にペイントされたリック・ドムが姿を現した。

 

 

「赤い彗星って初めて見たけど、思ったより若いんだな」

「それより見ろよ。あのリック・ドム、あちこちガタが来てるみたいだ」

「ひでぇ有様だよな全く。よっぽどそのテリー・オグスターってのが強敵だったんだろうな」

「ガンダムの性能は新型のゲルググに匹敵するらしいしな……あれ? 大佐にもてっきりゲルググを回されてると思ったんだが……」

「そのゲルググがやられたからリック・ドムに乗ってるんだろ。じゃなきゃ、あんなボロボロのモビルスーツに赤い彗星が乗るかよ」

「だよなぁ……」

「任務中だぞ、私語は慎め! 手が空いたんなら外の監視でもしてろ! 見逃しには注意するんだぞ!!」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「シャア・アズナブルだと!? アイツめ、よくも抜け抜けと俺の前に顔を出せたものだな!」

 

 主戦場の裏側のゲートを守っていた士官から赤い彗星到着の報を聞いたソロモン司令ドズル・ザビ中将が怒鳴り声を上げた。画面越しの士官は額に汗を流しながらドズルの顔色を窺っている様子だった。

 

 

「で、キシリア艦隊は今どこにいると?」

『はっ。……何でもガンダム一機を食い止める為に戦闘行動中だと』

「たった一機のモビルスーツを艦隊で止めるだと!? 嗤えない冗談はよせ!!」

「か、閣下! 防衛網を抜けた連邦のモビルスーツが居ます! 例のガンダムとかいう……」

「ガンダムは一機ではないのか!?」

「さ、最低でも二機確認されています!」

「なんだと!?」

 

 

 部下の言葉を聞き、ドズルは天を仰いだ。

 

 たった一機のモビルスーツで戦線が崩されるとは思っていないが、兵たちの、特に新米兵士たちへの心理的効果を考えると悩まずにはいられなかった。

 

 たった半年足らずの間に数々の“伝説”を作り上げた連邦の忌まわしきモビルスーツ、ガンダム。

 

 それが三機もいると言われると、兵士たちの士気にどう関わるか分かったものじゃない。

 

 あのコンスコンの艦隊が一分も経たずに撃破されたというのは、誇張表現ではなかったらしい。

 

 

「……分かった。姉上の増援は期待しないものとしよう。それで、他に何かあるか?」

『はい、閣下。シャア大佐のリック・ドムは手傷を負っておられます。ガンダムのパイロット、テリー・オグスターとやらにこっぴどくやられたと……』

「パイロットの名前などどうでも……待て。今、何と言った?」

『は?』

「ガンダムのパイロットの名前だ!」

『は、はい! テリーです! テリー・オグスター!!』

「テリー……オグスター……!」

 

 

 司令官用のシートに座り、深いため息をつくドズル。

 

 

『あの、閣下……?』

「なんでもない。もう良いぞ」

『し、失礼します!』

「……はぁ」

 

 

 通信が切れた後も、ドズルの顔色は優れなかった。

 

 

「閣下。その様な顔をされるとそれこそ兵たちの士気に関わります」

「そうだな……」

 

 部下であり腹心の一人である士官に指摘され、一度姿勢を正すドズル。

 

 しかし、歴戦の男の表情にはまだ暗いものがあった。

 

「……そうか。あの男が連邦軍に。なんとも皮肉な話だ……」

「あの、閣下……何か重荷を背負っておられるのであれば、不肖私、少しでも肩代わりを致します」

「そうか……そうだな。大事な一戦だ。そうさせてもらおう。……中佐」

「はい、閣下」

「テリー・オグスターはな……その……」

 

 

 2メートルを超える巨漢のドズルが小さくなりながら、部下の前で小さく言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アイツは“隠し子”だ」


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