一方その頃。
ソロモンの“表側”ではついに連邦のモビルスーツ部隊が着々とソロモンに取りつき始めていた。
「12時の方向に新手よバーニィ!」
「おうさ!」
アレックスを操っていたクリスが迫ってきたリック・ドムを一機撃墜しながら、背後を警戒してくれていたバーニィに言葉を飛ばした。
“ザクもどき”になったジムを巧みに操るバーニィは、つい数日前にサイド6で戦ったザクと同じパイロットとは思えない機敏な動きでジオンのモビルスーツを翻弄している。
「アムロ君は!?」
『もうとっくに先に行っちまった! やれやれ、ガンダムのパイロットってのは化け物しかいないのか!?』
「褒め言葉として受け取っておくわ!」
新たなリック・ドムの小隊が接近してきたのを、二人で迎撃するクリス達。
アムロ・レイが改造した“テム・レイ回路”により、テキサスコロニーで戦った時からアレックスの調子はすこぶ好調だった。
数値で見れば機体のスペックは落ちているのだが、ブースターでの移動後の“滑り”が減り、カメラ感度が下がったりと、より現場で使用するのに向いた調整が施されたアレックスは、性能と引き換えにクリスに“私でも持てあまさないで使える”という自信を与えていた。
「ビームライフルの残弾が……!」
短いアラートの後、クリスはアレックスの持っていたビームライフルを捨てた。
そして、腕部に内蔵していたガトリングを展開する。
眼前には、勝利を確信して不用意に接近してきたリック・ドムが二機。
「当たって!」
薙ぎ払う様にガトリングを斉射する。
反撃を予想していなかったリック・ドム達はたちまち蜂の巣になり、爆発四散。
「テリー君の方は大丈夫かしら……」
このエリア近辺の敵が減った事により、小休止を挟むことが出来たクリスがソロモンの方を見た。
『単独でソロモンに潜入なんて、どうかしてるよ』
「私から見れば、あのテリー君と渡り合えたバーニィもどうかしてると思うけど?」
『褒め言葉として受け取っておくよ』
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
『ガトー大尉、シャア大佐のリック・ドムがこちらに向かっているそうです』
「戦犯の汚名を被りながらも、戦火をくぐり抜け古巣を助けにくるとは……ドズル閣下の慧眼を以てしても兵士一人一人の真意を見抜く事は出来なかったようだな」
部下であるカリウスの報告を聞きながら、隊長であるアナベル・ガトー大尉は“赤い彗星”への評価を改めていた。
『ルウムの英雄が味方に居ると分かれば、他の部隊の士気も上がるだろうな』
「我々も此度の一戦で英雄と呼ばれるに至るかも知れんのだ。余り油断するなよ、ケリィ」
ガトーの小隊は、直属の部下であるカリウスを除き全滅。現在は部下が全滅してしまった友人のケリィ・レズナーと共に臨時の小隊を組み、再出撃の為の補給を終わらせた所だった。
「大佐が到着次第、前線に戻る」
『見えました大尉! 赤い彗星です!!』
ソロモン内部の搬入路を高速で移動する赤い影があった。
赤い影は減速する事もなくガトー達の待機する格納庫前を目指している様子だ。
「おお、あの異彩を放つ一条の光点! 連邦兵が一目見ただけで恐れ慄くというのも納得の気迫を感じる……!」
『お前さんも相当恐れられてると思うぜ、ガトー』
『自分もそう思います、大尉。……ん?』
「どうした、カリウ……ッ!」
それは、完全に油断だった。
赤いリック・ドムが、こちらにジャイアント・バズの銃口を向けていたのだ!
『危ない大尉!!』
三人の中で最初に動いたのは、ずっと観察を続けていたカリウスだった。
ガトーが動き出そうとしていた時には、既にカリウスのリック・ドムの背中がコックピットの視界を塞いでいた。
『う、うわあぁあぁぁあぁぁ!?』
そして、爆発。
「カリウス!!」
『くそっ、どうなってるんだ!』
「シャア・アズナブルがガルマ大佐を見殺しにしたという噂は誠だったか! のみならず今度はドズル閣下まで謀ろうとは……! おのれ、なんと恥知らずな男なのだ!!」
『相手は赤い彗星だぞ、ガトー!?』
「あの赤星はジオンに凶兆を招く死の彗星に他ならぬ! ここで我らが落とすぞ、ケリィ!!」
搬入路を後退しながら、赤いモビルスーツを睨みつけるガトー。スラスターで移動するリック・ドムならではの芸当だ。ザクではこうは出来なかっただろう。
「落ちよ!」
二機のリック・ドムによるジャイアント・バズの波状攻撃。
しかし赤いリック・ドムは狭い搬入路の中で揺れる様な最小限の動きでこれを回避してみせた。まるで撃つ前から軌道を見切っている様な、そんな不気味さを感じる動きだった。
『腐っても英雄か!』
「ならば避ける場所を無くすまで!!」
ガトーの次弾が狙ったのは目立つ赤いモビルスーツではなく、搬入路の壁の一つ。
赤い彗星の移動速度から逆算して丁度手前の壁に当たる様にジャイアント・バズの射線を調整し、発射。
爆発があった。
赤いリック・ドムに当たった訳ではない。搬入路の脇に置いていた資材が小規模の爆発を起こしたのだ。
狙ってもいないモノが当たる筈もなく、赤いリック・ドムは搬入路のもう片方の壁に添う様に爆発を避けた。
ガトーの狙い通りだった。動き回って当たらないのなら、相手の動きを制限すれば良い。
赤い彗星とて、“爆発は回避する”という人間的な本能までは御せまいと踏んだからだ。
『そこだあぁぁぁぁぁ!!』
そしてその考えを一瞬で察したケリィによる追撃が赤いリック・ドムに迫る。
しかし、続く爆発は無かった。
「なんと!?」
直撃コースだった。
しかし、あの赤いリック・ドムはジャイアント・バズが当たる直前に片足を軸にその場で一回転させただけで避けてみせた。
一秒でもタイミングが狂えば成功しない様な曲芸じみた回避を、軽々とやってのけたのである!
『ニュータイプとやらには一体何が見えているんだ!?』
「そんなものは戦場の“まやかし”に過ぎん!」
射撃で仕留める事を諦めたガトーはジャイアント・バズを投げ捨て、バックパックに装備していたヒート・サーベルを抜いた。
同時に逃走を中断。一気に距離を詰める。
『ガトー! どうするつもりだ!?』
「ここは私が食い止める! ケリィは友軍に……閣下に合流して、赤い彗星の謀反を何としても伝えるのだ!!」
『……死ぬなよ!』
戦友の言葉を背中に感じながら、ガトーは更に前に進んだ。
敵は変わらずジャイアント・バズの銃口をこちらに向けていたが、撃っては来ない。
「今更私に情けでも掛けようと言うのか!」
リック・ドムの胸部にある拡散ビーム砲を放つ。
目くらまし程度の威力しかないが、戦場で一瞬の隙を作れる“目くらまし”は馬鹿には出来ない。
赤いリック・ドムが初めて怯んだ。
「貰った!」
もう間もなく、こちらの間合いに入る。
「ガルマ大佐の仇、このアナベル・ガトーが討ち取らせて頂く!!」
ヒート・サーベルによる突きの攻撃。
直前に反応されて僅かに横に逸れたが、胴体への直撃だった。
このまま横に薙いでしまえば、融合炉ごとコックピットを一刀両断出来る。
「なっ……なんだ、これは!?」
が、ガトーの動きはそこで止まってしまう。
貫いたのは間違いない。
しかし、その“手応え”がまるで無かったのだ。
まるで“中身のない空のモビルスーツ”を貫いた感覚に近い。
「どうなって……!!」
次の瞬間、ガトーは己の目を疑った。
赤いリック・ドムの装甲が崩れ落ち、中から黒いガンダムが姿を現したからだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ガトォォォォォォォォォォ!!」
コックピットの中で、俺は無我夢中で叫んでいた。
トロイア・ドッグを“着ていた”ガンダムのビームサーベルを抜き、向こうが硬直している一瞬を突き、掬い上げる様に斬り上げの一撃。専用カラーのリック・ドムの両足を切り捨てた。
そして少し前進。ガトーが投げ捨てたジャイアント・バズを拾い、構える。
「……」
さっき攻撃を躊躇わせた「ノリスの様に助けられないか?」という迷いが俺の中に過った。
しかし、“人に殉じる覚悟のノリス”と“国に殉じる覚悟のガトー”では勝手が違う。それに“今の格好”だとコックピットから出ただけで蜂の巣にされかねない。
故に俺は、個人より“
「悪いなアナベル・ガトー……! このソロモンで星の屑になってくれ!!」
ジャイアント・バズの一撃が、リック・ドムのコックピットに当たる。
爆発。
これでこの世界から“ソロモンの悪夢”が誕生する未来が失われた訳だ。