機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第37話【ソロモンが堕ちる日】

 

 

 トロイアの木馬。

 

 ギリシャ神話における“トロイア戦争”にて用いられた巨大な馬の像の事である。

 

 敵国トロイアを攻めあぐねていたギリシャ軍が作ったこの木材で作られた馬の像はトロイア側が“降参の証”だと勘違いして敷地内へと運び込み、トロイアの民はそれを囲んで宴を開いたという。

 

 だがその晩、酔い潰れて静かになった街の真ん中で木馬像内部に息を潜めて隠れていたギリシャ軍兵士が飛び出し、城外の本体を手引き。

 

 見事にトロイアを滅亡せしめたという歴史がある。

 

 ……いやまぁ、俺はその神話モチーフの映画を小さい頃に一度見たきりだったのだが、“ここ”に来てから散々……それこそ本人にすら「シャアそっくり」と言われていたのでどこかでやってやろうとは思っていたのだ。

 

 この為にサイド6に降りた時に赤いペンキと“シャア・アズナブルなりきりグッズ”制作の為の布などをしこたま購入したのだ。

 

 で、この戦法を使用するにうってつけだったのがこの“チェンバロ作戦”だった。

 

 ゲルググじゃなくてリック・ドムで騙し通せるものかと冷や汗掻いたものだが、管轄の違いというのが上手く嘘の“質”を高めてくれたようである。

 

 偶然シャアにそっくりだったという“容姿”に、俺の“西暦から持ち越した知恵”。

 

 そして俺のメチャクチャな発想を理解してトロイア・ドッグや移動用のカミカゼを開発してくれたグラン・ア・ロン博士に、変な顔しながらも赤いジオン軍服を裁縫で縫ってくれたマナ・レナには感謝の言葉しかない。

 

 あ、一緒にリック・ドムを赤く塗ってくれたバーニィにもちょっとは感謝しないといけないな。

 

 

「しかし、まさか“ソロモンの悪夢”を倒してしまうとは……!」

 

 

 初撃は完全に誤射だった。

 

 

 原因は「ビックリしたから」である。

 

 

 まさかこの広いソロモンでの戦いで、最初に会ったジオン兵がアナベル・ガトーだったとか言われたら、流石に焦ってしまう。誰だってそうに違いない。

 

 ……アムロは違うな多分。

 

 とまれ、“シャア・アズナブルになりすまし中枢まで進んでドズル・ザビを抹殺する”という俺の壮大な計画は失敗に終わってしまった訳だ。

 

 “着ぐるみ”であるトロイア・ドッグはガトーとの戦闘で破壊されてしまった為にこのまま先に進むのは非常に危険なので続行も不可能と判断。

 

 ……でも、アレだな。帰る時の事考えてなかったから、この計画失敗して成功だったかもしれない。

 

 

「折角仮面とマスクまで用意したのに……なっ!」

 

 

 仮面とマスクを脱ぎ捨て、ジオンの“なんちゃって”赤軍服から連邦のノーマルスーツへ着替える。

 

 このまま単身で乗り込むという手もあるが、それは非常に危険だ。

 

 時間的にそろそろ味方部隊がソロモンに侵入を始めても良い頃なので、別の部隊と合流できればいいのだが……。

 

 と、そんな事を考えている時、前方で爆発が起きた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 場所からして、さっき取り逃がしたリック・ドムの一機が何かと交戦しているのだろうか?

 

 ここはソロモンの“表側”から攻めるのなら結構深い場所だ。

 

 ならば相当の腕を持つ者……もしかしたらアムロ達と合流出来る可能性もある。

 

 

「行ってみるか!」

 

 

 向こうのリック・ドムはこちらを警戒して後ろから撃たれた可能性もある。

 

 どちらにせよ、今接近するのが一番なのは間違いなかった。

 

 

「……」

 

 

 T字路の角で、一度呼吸を整える。

 

 戦闘音はなく、何かの駆動音のみが微かに聞こえてきていた。

 

 何かがこちらを警戒している様だ。

 

 

「……よし!」

 

 

 ガンダムなら一発や二発耐えられると判断した俺は、一気に通路の方へと飛び出した。

 

 そこに居たのは、動かなくなったリック・ドムと、ジムの小隊だった。

 

 真っ赤に塗装されたジムが三機に、同じく真っ赤に塗装されたジム・キャノンが一機の四機編制。どう見ても第13独立部隊のものではない。

 

 

『ガンダムだと!?』

「撃たないでくれ! 俺は連邦軍の兵士だ!」

 

 

 武器を構えられたので、俺は咄嗟に通信を送って味方である事を伝えた。

 

 それにしても、やけに渋く貫禄のある声をしている兵士だったな……。

 

 

『成程。この“スカート付き”がやけに焦って飛び出してきたものだから何かあると思ったが、君の得物を横取りしてしまったようだな。……俺はバニング。第二連合艦隊所属モビルスーツ大隊第四小隊のサウス・バニング中尉だ』

「自分は第13独立部隊フォリコーン所属のテリー・オグスター少尉でありま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? 今、なんて言った?

 

 

 

 

 バニング? 第四小隊のサウス・バニング!?

 

 

 

「ふ、不死身の第四小隊!?」

『不死身の……? 確かに俺達は誰も欠けちゃいないが、そんな言い方されるのは初めてだな』

 

 

 なんという偶然だ。

 

 ガトーと戦った直後に第四小隊と合流するとは、今は一年戦争の最中じゃなかったのか?

 

 どうなってんだソロモン。

 

 

『第13独立部隊と言ったな? “外”ではお嬢さんの乗ったガンダムと“ザクもどきジム”に随分と楽をさせてもらった。その礼と言っちゃ何だが、これから作戦行動を共にしないか?』

「ぜ、是非にご一緒しますバニング大尉!!」

『おいおい、焦り過ぎだ少尉。第一、俺はまだ中尉だぞ、勝手に昇級させられたら困る。部下のモンシアにベイト、アベルだ。短い間だろうが、よろしく頼む』

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 こうして俺は、臨時でサウス・バニングた……中尉の第四小隊に編入する形となった。

 

 08小隊に第四小隊まで追加されてしまった俺の履歴書の未来は一体どうなる……?

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「あのガンダムに乗ってるテリーっての、まだガキじゃねぇか!」

『お前の“オツム”もその辺のエロガキと変わんねぇぞ、モンシア』

「うるせぇ!」

 

 

 第四小隊所属の兵士、ベルナルド・モンシアは突っかかってきた同僚のアルファ・A・ベイトに対して噛みつく勢いで言葉を返した。

 

 しかし、あのガンダムの動きは凄まじく、敵モビルスーツが六機出てきた時に咄嗟に三機落としてしまった反応の良さを見せた頃にはモンシアの悪口も段々となりを潜めていた。

 

 

「俺もガンダムに乗ってみてぇなぁ。そしたらよ、絶対あのガキより活躍する自信があるぜ」

『モンシア少尉が乗っても、あんなには動けないでしょう』

「うるせぇ!」

 

 

 冷静に返すジム・キャノンのパイロット、チャップ・アデルに対し、噛みつく勢いで言葉を返すモンシア。

 

 言葉のボキャブラリーすらなくしている事に、今の彼は気が付いていない。

 

 

 しかし、そんな彼含め、第四小隊の面々の活躍は見事なものだった。

 

 ガンダムに乗るテリー・オグスターに任せっきりにする事なく果敢に敵を落としに行く様子は、ジオンから見れば死神が列をなして襲ってくる様なものに見えたに違いない。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 

 

 

 

 テリー・オグスターがサウス・バニング率いる第四小隊と合流してから数時間後。

 

 

 

 

 

 

 

 ドズル・ザビの戦死により、小惑星ソロモンは陥落した。

 

 

 

 

 

 

 

 “ソーラ・システム”の初撃からなる連邦軍の圧倒的物量が勝利の鍵とされたが、敵軍大将ドズルの駆る巨大モビルアーマー、ビグ・ザムを撃破したのは、第13独立部隊ホワイトベース隊所属のパイロット、スレッガー・ロウ中尉の特攻だったという。

 


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