機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第40話【決着、そして…】

『アムロ君、エルメスを破壊してほしい』

「え?」

 

 

 サレナ・ヴァーンとの戦闘が終わり静かになったソロモンの海で、シャアはアムロにそう話し掛けた。

 

 

「ララァを戦場に立たせた貴方が、一体どういう……?」

『“あんなもの”を見せられてしまってはな。しかし、このまま帰ればまた戦場に駆り出される……。ララァはここで“戦死した”事にして、身を隠させる』

『兄さんは……兄さんはどうするの!?』

 

 

 会話に割り込んできたのは、コア・ブースターに乗ったセイラだった。

 

 そしてアムロは初めて彼女がシャアを“兄”と呼んでいる事を知る。

 

 

「お兄さん……シャアが?」

『アルテイシア、お前はまだ軍に……いや、最早止めはしない。だが、どうせ軍から抜けないのなら、共に来て欲しい。アムロ君もだ』

「僕も……?」

 

 

 それは意外な誘いだった。

 

 仮面の下の“真意”を見出せなかったアムロは困惑する。

 

 

『君達だけではない、テリー君もだ。この戦場で敵味方にニュータイプが集まり、こうして心穏やかに会話出来ているのは何かの“奇跡”だろう。私はこの好機を無駄にしたくはないのだよ』

「僕は……」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 宇宙に放り出されたミドリは、幸いにもノーマルスーツに負傷なく、怪我も軽微だった。

 

 最初にコックピット部分だけが吹き飛ばされてエンジンの爆発に巻き込まれなかったのが幸いしたらしい。

 

 

「ミドリ! おい、ミドリ!!」

「返事しろ、この馬鹿野郎!」

 

 

 無事にガンダムのコックピットに運び込み、ヘルメットを脱がす。

 

 微かに息は聞こえる。

 

 しかし、彼女の意識はまだ戻らない。

 

 セイバー・フィッシュから乗り込んできたヒータと二人で身体を揺すったり、声を掛けてみるが、反応は無かった。

 

 その時だった。

 

 後方で、爆発があった。

 

 

「まさか赤い彗星の奴が仕掛けて……!?」

「いや、様子が変だ……ッ!」

 

 

 その光景を見て、俺は戦慄した。

 

 アムロのガンダムのビーム・サーベルがエルメスのコックピットを貫いていたのだ。

 

 

「まさか……まさか、そんな!」

 

 

 “歴史”を変えられなかった?

 

 ここでララァが死ねば、シャア・アズナブルがネオ・ジオンを率いてアクシズを落とす計画を画策してしまう。

 

 それ自体はアムロが止めるだろうし、無論そうなった場合俺も止めるつもりだが、もし宇宙世紀を“正史”より良くする為にはアムロとシャアの和解は必須条件と言っても過言ではない。

 

 どうする?

 

 今打てる最善の“手”とは、何だ……?

 

 

「どうしたら戦争は無くなるんだ……?」

「テリー……」

 

 

 ソロモン……コンペイ島に目を向けて、俺は考えた。

 

 あそこには、レビル将軍以下連邦軍の宇宙艦隊が集結しており、今にもジオン最後の要塞であるア・バオア・クーへの進撃の為に……。

 

 

「……いや、待てよ」

「どうした、テリー?」

「何とかなるかもしれない」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「う…ん……?」

 

 

 ミドリが意識を取り戻しうっすら目を開けると、そこはセイバー・フィッシュではなく、ガンダムのコックピットだった。

 

 

「傷は無さそうか?」

「軽く触ってみた感じ、大丈夫そうだ」

 

 

 どうやらシートに座ったテリーの膝上に寝かされているらしく、いつの間にか同乗しているヒータが自分の身体の怪我の具合を調べているらしいと察したミドリ。

 

 テリーが触診していたら間違いなく殴り飛ばしていたが、その辺はちゃんとTPOを弁えてくれているらしい。

 

 最も、“昔”も今も彼に対して一度と恋愛感情を抱いた事のないミドリにとってはどんな状況でも身体を触られたら拒絶する自信があったのだが。

 

 

「でも、意識はまだ戻らねぇみたいだな……」

「心配だな。早く戻ろう」

 

 

 しかし恋愛対象と見てないとは言え、心配されると言うのは悪い気はしない。

 

 ここはフォリコーンに戻るまで静観しておこう、そう思った時だ。

 

 

「うん?」

「どうした、テリー?」

「いや……いや、ミドリから“思念”が聞こえた様な……」

「ごほっ! げほっ!!」

 

 

 思わず咳き込んで誤魔化した。絶対起きてるのバレるタイプの誤魔化し方に冷や汗をかき始めるミドリだが。

 

 

「だ、大丈夫かよミドリ!?」

「汗も出てきた……きっと呼吸困難に陥ってるんだ!!」

 

 

 二人してパニックを起こしている様子。いや普通気が付けよとミドリが心の中でツッコむ。

 

 

「やっぱりミドリから“思念”が……」

 

 

 うわニュータイプ超めんどくせぇ。

 

 学生時代自分が避けられていた理由を今頃になって心底理解してしまうミドリ。

 

 こりゃ堪らないわね……と、考えるのを必死に我慢した。

 

 

「どっどどどどどうすんだよテリー! このままだとミドリが!!」

「おちっ、おちつけヒータ! こう言う時……こう言う時は……」

「「人工呼吸!!」」

「は?」

「ん?」

「げほげほっ! ごえっほ!!」

 

 

 流石に露骨過ぎたかもしれない。

 

 しかしてんやわんやする二人を静かに見守るつもりが、二人して変な所で意見が一致するのを見て、頬が緩みそうになるのを必死に抑える。

 

 丁度良いタイミングなので、どっちかが唇を近付けてきたら目を開いてビックリする算段を立てたミドリは己の心を必死に沈ませ、テリーに起きているのを悟られない様にした。

 

 勇んで出撃して為す術なく叩き落とされたのはショックだが、こんな面白いショーを間近で見れる機会を台無しにするほど、ミドリは真面目ではなかったのだ!

 

「じゃ、じゃあテリーがやれよ……じ、人工呼吸……!」

「お、俺が!? いやいやいやいや問題あるだろ」

「じゃあ何か!? お前はオレが他の女とキ……キスするの黙って見れるのかよ!!」

「普通逆だよなそれ言うの!?」

 

 

 どんな神経をしていたら怪我人の真上で夫婦漫才を始められるのか、これがわからない。

 

 

「ど、どどどどうせ俺はガンダム操縦してて動けないんだから、無理やり乗り込んできたヒータがししし仕事しろ!」

「おまえ……そんなっ……破廉恥な事を堂々と!」

 

 

 お互い異性を知らない身でもない癖に何をいまさら躊躇う必要があるのか?

 

 テリー・オグスターがマナ・レナに片想いをしていたのは学生時代から周知の事実である。

 

 そして、そのテリーに学生時代からヒータが片想いしていたのを周知の事実。

 

 最近マナの目がテリーに向き出して修羅場になっているのを、フォリコーンの女性乗組員はみんな知っていた。主にコダマ・オーム(口の軽い通信官)女医先生(面白い事大好きお姉さん)が原因である。

 

 そして、その修羅場にいるのは渦中にいる三人である。

 

 燈台下暗しとは言うが、些か盲目が過ぎると思わなくもないが、自分の命を預ける戦艦が“痴情のもつれ”で沈むのは勘弁願いたいので、事態をややこしくするのだけは御法度だった。

 

 それにしても、ミドリには解せない事があった。

 

 学生時代のテリーは、むしろヒータの事を「苦手」とすら言っていた。

 

 それが今は、親友の様に仲良く、恋人の様に密接な関係に落ちている。

 

 他の女性クルーは「だがそれがいい」と全肯定して盛り上がっているが、やはり違和感は拭えなかった。

 

 戦争という極限状態で趣味嗜好が変った、と言えば有り得そうな話だが、それでは説明できない“何か”を最初から感じ取っていたミドリは、そうしてもそれが気になって仕方がなかったのだ。

 

 

「よ、よし分かった落ち着け! こ、こうしよう……さ、先にオレとテリーがキスしてから、ミ、ミミミミドリにキスする……!!」

 

 

 そんなミドリの秘かな“疑問”を余所に遂に自分を“口実”に接吻を要求し始める同僚。

 

 見た目に反して脳細胞の片隅まで乙女思考のヒータを横にして、ミドリは遂に考えるのを止めた。

 

 

「どうせイチャイチャするなら外でやってくださいよ!! ただでさえこっち窮屈な思いしてるのに!!」

「ぎゃあああぁ! ミドリ起きてたのか!?」

「やっぱり! さっきからずっとそんな気がしてたけどやっぱり!!」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「だ、大丈夫ですか……?」

「?」

 

 赤くなった頬をさすりながら格納庫で黄昏ていると、グラン博士が心配そうな声で俺に話しかけてきた。

 

 俺は意外と元気だったと“感じた”ミドリとヒータをからかう為に一芝居打った訳だが、看破されてそれはもう罵詈雑言の嵐を受けた。

 

 理不尽である。

 

 更にフォリコーンへ着艦するや否や、心配そうな表情で駆け付けたマナにコックピットの中の惨状を勘違いされ、顔面に一発キツイパンチを食らった。

 

 理不尽である。

 

 しかし、俺は満足だった。

 

 俺が守るべき“日常”。

 

 本来あるべき“平和”。

 

 それを“最後”に実感することが出来たからだ。

 

 ……罵られたり殴られた事に興奮した、というのではない。決して、多分。

 

 

「……グラン博士。頼まれたものは出来たか?」

「え、えぇ……カ、カミカゼのブースターとプロペラントタンクの、ぞ、増量ですよね? あ、あと数時間……コ、コンペイ島を出発するまでには完了するかと……」

「そうか」

「そ、それにしても、こ、これは些か過剰の様にも思えます……。つ、月の裏側へ日帰り旅行にでも行くつもりなのですか……?」

「それよりも危険だ。……グラン博士。もし知っているなら教えて欲しい」

「な、何を……?」

「ジオンの切り札……“コロニーレーザー”についてだ」

 


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