ペガサス級“幻の戦艦”フォリコーンの超スーパーエースパイロットだった俺だが、実をいうと戦艦という枠内でなら一番好きなのはペガサス級アルビオンだったりする。次点でマザー・バンガード。
何が言いたいのかというと、めっちゃ見たい、アルビオン。
あの時は確かにアレ以外の選択肢が無かった訳で、でも結果論としては連邦軍の数がちょっと多く残った程度だと聞くし、それだと俺の頑張った意味ってあんまりなかったんじゃね? あのままシャアのジオングがいないア・バオア・クーを第13独立部隊の皆で殴り込みして戦火を上げまくった方が後々身の振り方を検討出来たんじゃね? と、嫌な方向ばかりに思考が向くようになってしまった。少なくともこんな所で悶々としながらペンを紙に走らせることはなかっただろう。そう考えると、出撃前にバーニィに殴られた頬が違う意味で痛んでくる。アイツ、元気でやってっかなぁ。無事にアルの所に帰れたんだろうか……。
っと、ヤバイ。今日の日誌はこの世界の人間に見られたら怪しい事ばかり書いてしまった。無意識に心の内を晒そうとするとこうなってしまう。まぁ誰かに話したくなる衝動を抑えられているのなら効果はあるのだろう。
これからは意識すると共に、この日誌を誰にも開かれない様にしないとな…。
【テリー・オグスター獄中の個人日誌より抜粋】
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ペガサス級強襲揚陸艦“アルビオン”。
ホワイトベースの血を引くその艦が飛んでいたのは太平洋のど真ん中。丁度南米ジャブローとオーストラリア大陸の中間付近だった。
「パサロフ、航行に支障はないな?」
アルビオン艦長、エイパー・シナプス大佐が操舵のイワン・パサロフに問い掛けると、彼は手帳から目を離さずに小さく頷いた。
「ごめんなさい艦長、勝手にブリッジに上がってしまって」
キャプテンシートの前、ブリッジから見下ろせる広大な太平洋に視線を落としていた“二人の”女性の内の一人、金髪の女性がシナプスに気付き、頭を下げた。アナハイム・エレクトロニクス社から派遣されたシステムエンジニアのニナ・パープルトンだ。
「お気になさらず、パープルトンさん。しかし、ジャブローからずっと同じ景色では飽きてくるのではないかね?」
「そんなこと…!いつ見ても波の動きが違うんですもの!私達スペースノイドにとって、それだけでも新鮮ですわ…!」
「ん?ああ、そうか。君は地球に降りるのは初めてだったか。ワイズマン技術大尉もそうだったかな?」
「いえ艦長。私は旦那に“本物のシドニー”というものをはっきりと教えてあげないといけないので」
そう言ってハンディカムを一旦下ろして振り向いたのは、赤い髪の女性だった。名は、クリスチーナ・ワイズマン。
かつて一年戦争においてガンダム“NT-1アレックス”を駆り数多の戦果を上げた、あのクリスである。
「それと艦長。お仕事中は“旧姓”で呼んで頂ければと」
「おっと、すまんな。マッケンジー大尉」
「見えたわ、クリス!アレがオーストラリア大陸ではなくて!?」
「ちょっとは落ち着きなさいよ、ニナ」
同じスペースノイドのニナとクリスだが、クリスは任務で何度か地上に降りていた為、然程気にした様子はない。クリスのよく知る南極を見たらどんな反応をするのか、確かめられないのが残念である。
「大陸が見える……と、言うことは“ここ”がシドニーですね、艦長?」
「そうだ」
「えっ……? でもここはまだ、海の……」
オーストラリアの首都シドニーの名を聞いたニナがブリッジから見下ろすが一面に広がる海ばかりで陸地はまだまだ先だった。
「ここが、“コロニーが落ちた”場所だよ」
ニナが“答え”に辿り着く前に、シナプスが口を開く。
「ここが…ッ!?」
「ジオンのブリティッシュ作戦の名残ね……」
「直径5万キロメガトン級のクレーターだ。戦争の爪痕……と、言うにはあまりにも甚大すぎた」
シナプスとクリスの言葉を聞いたニナの表情が一変。子どもの様にはしゃいでいた顔から笑みが消える。
「ここが、全部……?」
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その後アルビオンはなんの障害もなく、トリントン基地へと到着。ニナ達アナハイムのスタッフと“相談役”クリスは技術者の主戦場へと移動した。
「それにしても、“相談役”なんて大層なお役目…私なんかで良かったのかしら?」
アルビオン左舷格納庫内部にて整備中だった“ガンダム”の整備チェックを一通り終えたクリスがふと、そんな事を呟いた。
ガンダムの開発に関して有名なのはアムロの父、テム・レイ博士だが、彼は一年戦争序盤に消息を経って久しい。
だが、だからと言って“他のガンダム”の開発スタッフなら他に何人もいるし、ガンダム開発スタッフに拘らなければクリスより優秀な人物はそれこそ星の数ほどいる。
そんな中、南極基地の隅っこでプロジェクトに従事していた一介のテストパイロットに過ぎない自分がわざわざジャブローに呼び出され、アルビオンに乗艦したのは些か過大評価されているようにしか思えなかったのだ。
「私“なんか”って謙遜を…“ガンダム”開発に関わったスタッフで唯一のパイロットの女性っていうだけで本社では憧れの的なのよ?……ねぇ、軍属の技術スタッフじゃなくて、ウチに来る気はない?」
「アナハイムねぇ……サイド6にも近いし、職に困った時はそうしようかしら?」
「ふふっ、その時は私から紹介状書いてあげるわね……あら?」
クリスの横でさりげなく彼女のヘッドハンティングを画策していたニナの手が止まる。クリスも作業を一旦中断し視線を移動させると、開け放たれた格納庫の扉付近に乗り捨てられたバギーと、それを運転していたらしい若い連邦の士官が辺りを興味深そうに観察していた。
「この時間は技術スタッフ以外立ち入り禁止って言ってたのに…!」
「あら、でもアルビオンでは見たことない顔ね。ここの人じゃない?」
「軍人なんてどこも変わらないのね!ちょっと追い出してくるわ!」
「心配だし、私も着いていこうかしら」
「もう、まるで保護者ね」
「相談役でーす」
実際にはニナがトゲを飛ばしまくって連邦士官と喧嘩するのを阻止する為、という真意を隠し同行するクリス。
「おい、見ろよキース! こっちのはコア・ファイター付きだぜ!」
「見りゃ分かるよ……お?」
アルビオンに搭載された“二機のガンダム”の内の一つ“GP-01ゼフィランサス”……試作1号機を下から覗き込む様に観察する士官の後ろでつまらなそうに辺りを見渡していたサングラスの士官と目が合うクリス達。
「ちょっとあなた達! 今は関係者以外立ち入り禁止よ!」
「アナハイムの人? 自分はこの基地でテストパイロットをしています、チャック・キース少尉であります!」
「あら、テストパイロットの……私はシステムエンジニアのニナ・パープルトンです。悪いけど、見学なら明日以降にして下さる?」
「それは良いんだけどさ、俺は君に興味があるかな。今夜空いてる?」
「な、なぜかしら…?」
「だって僕らのデートの予定を決めないといけないじゃないか! あ、お隣のお姉さんも是非、どうですか」
「うふふ、所属は違うとはいえ、上官を“ついでに”口説くなんて、貴方なかなかいい根性してるわね」
「じょうか……」
「ご紹介しますわキース少尉。こちら南極基地からわざわざお越しいただいたテストパイロット兼相談役のクリスチーナ・マッケンジー技術大尉よ」
「げぇ! た、大尉!? しっ、失礼しました! そ、そこにいるのは同僚のコウ・ウラキ少尉。……おーい、コーウッ!」
「んー?」
「ニナさんだ! アナハイムのシステムエンジニアだそうだ! それと、南極基地のマッケンジー大尉!」
「よろしくー」
「……ウ、ウブな奴でね、美人に弱い」
「本当にそれだけかしら?」
「ちょっと君! あんまり近付かないで……!」
「彼は私に任せて、ニナ……ウラキ少尉、で良かったかしら? 貴方ガンダムに詳しいのね」
「いえ、ガンダムだけって訳じゃないつもりなんですけど……この重装甲のガンダム、凄いブースターだ……でも、何か変だぞ……高機動重装甲がコンセプトだとしたら、横の冷却装置付きシールドは一体……?」
クリスが話し掛けてもお構いなしに、ウラキと呼ばれた若い士官は二機のガンダムに夢中だった。
「私は直接開発には関わってないけど、どっちも良いガンダムよね」
「はい。とても素晴らし……あれ、あそこにあるのはジムかな?」
「そうよ、私のモビルスーツ。あっちなら好きに見ても良いわよ?」
クリスが自慢気に話した事を聞いていたのかは怪しいが、格納庫の更に奥へと足を進めるウラキ。彼女もそれに続く。
二機のガンダムの横に格納されていたのは、一年戦争終結後にエースパイロット用として開発されたモビルスーツ“ジム・カスタム”だった。
白を基調に各所に青を取り入れたカラーリングは本来のそれとは違い、基礎設計となった“NT-1アレックス”を彷彿とさせるものだった。
“特徴がないのが特徴”と言われた本機だが、しかし。
「あれ、このジム、変わってるのはカラーリングだけじゃないですね? 腕部のパーツが二回りは大きいぞ……ちょっと待てよ。どこかの資料でこれに似たパーツを見たような……アレックス? そうだ! NT-1アレックス! あのガンダムの50ミリガトリング砲と同じカバーだ!!」
「あら、凄いわね。ドンピシャで当てちゃうなんて! そうよ、この子の腕は戦後に解体したアレックスの腕をレストアしたものなの」
「でも、マッケンジー大尉。そんな貴重なパーツを一体……ん? マッケンジー……?」
「そうよ。クリスチーナ・マッケンジー」
やっとモビルスーツから目を離してクリスの方に視線を向けるウラキ。その目は憧れ半分、困惑半分と言った色だ。
「も、もしかしてアレックスのテストパイロット、クリスチーナ・マッケンジー中尉ですか!?!?!?」
「一年戦争時代は確かに中尉だったわね」
「あのっ……その、自分、失礼しました! ちゅ…た、大尉殿と知らず、とんだ御無礼を……!」
「多分謝罪するタイミングはとっくに過ぎている様な気がするけど、私のジム・カスタムの“隠し玉”を言い当てた素晴らしい観察眼に免じて、今回は不問とします」
「ありがとうございます!」
「でも、全くお咎めなしもそれはそれで……そうだ。折角だし、基地を案内してもらおうかしら? 他のパイロットの方達にも挨拶しておきたいし」
「自分で良ければ、是非ご案内させて頂きます!」
「決まりね。ニナも行くでしょ?」
「え? でも私はガンダムの整備が……」
「息抜きも仕事に必要な事よ!」
「もうっ! 相談役ってそういう職権乱用の為の肩書きじゃないのに!」
「で、行くの? 行かないの?」
「行くわよ! ……だって“彼”とモーラの邪魔しちゃ悪いし」
「お気遣いありがとね、ニナ」
「コ、コウ……たすけて……」
ウラキは全く気が付いていなかったようだが、キースはアルビオンクルーの中でも一際大柄な女性整備士モーラ・バシットと硬い握手を交わしていた(モーラに無理矢理捕まれているとという)。
二人はビールだか夕焼けだか、そんなホットスポットに向かうようなので、クリスはニナを連れ、ウラキ先導の元トリントン基地を案内してもらう事にした。
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「はぁ……」
元第13独立部隊のモビルスーツパイロットにして、現在はコジマ大隊第08MS小隊に所属するヒータ・ジョエルン。しかし彼女は本来戦場に立つような“身分”ではない。
彼女のフルネームはヒータ・“フォン”・ジョエルン。宇宙世紀以前から続く古い貴族の家系で、彼女はその娘だった。因みにジャブロー基地がジオンに強襲された際に戦死したテリー・オグスターの部下ヨーコ・フオン・アノーは彼女の幼馴染だが、家柄的にも個人的にも犬猿の仲であったという。
元々淑女とは無縁のお転婆な性格を叩きなおす為だけに軍学校に入隊した訳だが、ジオンとの戦争が始まり成績優秀だった彼女が実家に帰る事は許されず、また、本人もそれを望んだ。
そして一年戦争が終わると彼女は“テリー・オグスターとの別れ”を惜しむ時間も与えられずに実家へと強制送還された。だが、軍属を強く希望する彼女の血気迫る説得と、“お荷物のお嬢様”とは到底言わせない戦果から遂に両親は納得。しかし条件として比較的目の届く“地上勤務”を言い渡されて、今に至る。
「テリー……」
だが、それもこれも、愛する男の事を考える暇を己に与えない為であった。
あれから、三年。
しかし三年経っても、彼女の中の想いの炎は消えていなかった。
“激戦区”だと聞いて希望した旧東南アジア戦線転属だったが、“あの親”が許可する程に戦闘は無縁の後方。それに気が付けばオーストラリアの荒野のど真ん中である。
“新しい仲間”とも馴染む気を全く見せず、空いた時間は格納庫などで一人ただ時が過ぎるのを待っていた訳だが。
「ここが、現在第08MS小隊に貸し出している格納庫です」
「まぁ! これって旧式の陸戦型ガンダムじゃない! まだ動かせるものがあるなんて、知らなかったわ!」
名前は憶えていないが、先日の模擬戦で戦ったこの基地の新米テストパイロットと、アナハイムの制服を着た女性が現れる。
出撃要請を知らせる為にやってきた……とは到底見えない。アレではまるでデートである。
片想い拗らせたヒータには一番見せてはいけないものである。
「はぁ……」
だが、追い返す元気もない。
今の彼女を動かせるのは、モビルスーツに乗っている時くらいであり、せめて“昔の仲間”の一人にでも再会出来れば、人間関係にも少しは改善の兆しが見えるかも知れないのだが……。
「もしかして、ヒータ……?」
「……クリス? クリスじゃねぇか! なんでここに!?」
その日、彼女は三年振りに戦場以外で表情を明るくしたという。
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「これは演習じゃないぞ、急げ!!」
夜空が見下ろすトリントン基地が、怒号と爆発に包まれていた。
レーダー網をかいくぐって襲ってきたミサイル群による爆撃。
ピンポイントで基地司令部を吹き飛ばした初撃と共に、旧ジオン軍製らしきモビルスーツを確認。緊急事態と踏んだバニング大尉は部下達を招集し、モビルスーツでの出撃を促した。
彼にとっては“久しぶりの実戦”だが、ここにいる新米のほとんどはこれが“初の実戦”。各々の顔に普段以上の緊張の色が見える。
「た、大尉~!!」
少し遅れてバニングの所に走ってきたのは、キースだった。その表情は周りより更に焦燥感があった。
「ジ、ジオンです! ジオンが核弾頭装備の2号機を奪取しました!!」
「何⁉ ジオンだと! アイツらまた戦争やる気なのかよ⁉ 一体何人殺れば気が済むんだ!!」
キースの言葉にカークスが足を止め、忌々しい“敵”へ悪態をついた。
「行くぞ!」
「「「おう!」」」
だが、バニングが冷静に、かつ迅速に部下達に檄を飛ばす。
こんなピンポイントでの“ガンダム強奪”が偶然の産物とは思えない。
はっきりしているのは、既に自分たちが後手に回っている事。
ならば、こんな所で地団駄を踏んでいる時間など一切ないというものだった。