状況は少し前に戻る。
『このガンダムと核弾頭は頂いていく……ジオン再興の為に!!』
“内通者”によってトリントン基地へ潜入、核弾頭装備のガンダム試作2号機のコックピットに乗り込んだその男は、高らかにそう言った。
「ここから出す訳には……いかないっ!!」
それを止める為に最初に2号機に立ち塞がったのは、ウラキが乗り込んだ試作1号機だった。軍規に則れば、彼もまた重罪だが、状況はそうも言っていられない。
『やはり“原作通り”だなコウ・ウラキ! しかし私は“悪夢”の様に未熟だからと見逃しはしないぞ! ここで死んでもらう!!』
2号機の奪ったジオンのパイロットがそう言いながら、ビームサーベルを抜いた。対するウラキも1号機のビームサーベルを抜き、構える。
「は、ハッタリになんてぇ!!」
二本のビームサーベルが交差する。しかし、根本的な出力で1号機は劣っており、機体のパワー、更にパイロットの技量にも差。
「圧されている!?」
『そのまま死んでもらおう!』
『ウラキ少尉!』
だがウラキには“味方”がいた。
青と白のカラーにリペイントされ、“先祖返り”したジム・カスタム。
“隠し玉”から放たれた無数の鉛玉が2号機を襲う。
『なんと!』
驚きこそすれ、2号機のパイロットはこれを回避してみせた。
1号機と2号機の間に、クリスの乗るジム・カスタムが割り込む。
『待たせたわね!』
「た、助かりました! マッケンジー大尉!」
『マッケンジー!? クリスチーナ・マッケンジーか! 何故ここにいるんだ!?』
『大人しく投降するなら、ゆっくりお話してあげるわ!』
『チィッ! 流石に分が悪すぎるか!』
単純に戦闘するなら、これでも五分か怪しいだろう。
しかしジオン残党兵の目的はガンダムと核弾頭の無傷での奪取。
足の一本でも奪い取れば、こちらの勝ちだ。
しかし、敵は更に一枚上手だった。
「う、うわあぁあぁぁ!?」
上空からのミサイル攻撃。そしてドムタイプのモビルスーツによる襲撃。
ガンダム2号機を取り押さえる為に視線を内側に向けていたトリントン基地は、その無防備な背中を一気に蹴り飛ばされる事になったのだ。
『“大佐”! 無事に成功しましたか!?』
『良い手際だ、ゲイリー! それでは撤収する!』
『了解であります!』
専用回線ではなく、共通の回線で送られた通話はウラキにも届いたが、その腕までは届かなかった。
更に激しいミサイルの追撃が基地を襲う。
爆発があった。基地司令部の方が炎上しているのが見える。
「見逃して……くれたのか?」
『無事かウラキ!?』
「でもあの男……なんで僕の名を……それに、原作通り、って一体……?」
『ウラキ! ミサイルのシャワーくらいでビビるな!!』
「はっ! ……バ、バニング大尉!?」
何か重要な事に気が付きかけたウラキだったが、その思考は上官の叱責によって吹き飛んでしまう。目の前には、バニングが使用するジム改の姿があった。
『ライフルを取れ、ウラキ。我々はこれより、ジオン残党軍の追撃作戦に移る!』
「りょ、了解!」
『バニング大尉、私もお手伝いします!』
『助かる、マッケンジー大尉。ウラキ少尉は俺と来い! マッケンジー大尉は08小隊と合流してくれ!』
『分かりました!』
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
『アルビオン所属、テストパイロットのクリスチーナ・マッケンジー技術大尉です! 只今よりそちらに合流、作戦行動を共にさせて頂きます!』
根本的に命令系統が違う08小隊は先んじてジオン残党軍の追撃を開始していたが、ここは彼女らにとってはアウェーの地。トリントン基地の駐留部隊との足並みを揃える為に一時待機していたカレン達の下にやってきたのは、青と白のカラーのジム・カスタムだった。
『隊長! クリスはテストパイロットだが、一年戦争でガンダムに乗ってたエースだ! 腕はオレが保証する!』
「驚いた、ジョエルン少尉……アンタ人並に話せたんだね」
『え?』
素っ頓狂な声を挙げるヒータだが、それもまた、カレンは初めて聞く声だった。
今の今まで機械の様に淡々と任務に従事していたヒータの人間らしい一面を目の当たりにし、カレンの“重荷”の一つが片付いた。
「いや……コミュニケーションが取れるなら、私はなんだって良いさ……エレドアァッ! 逃げた連中の足取りは掴めたかい!?」
『ダメだ! 連中さっさと索敵外に逃げやがった!』
「流石今までコソコソ生きて来ただけあって、逃げ足は一級品ってかい……! マッケンジー大尉! アンタの方が階級は上だけど、私らは大尉に従えばいいのかい!?」
『階級なんてお飾りのテストパイロットよ、気にしないで! それに私、隊長なんて柄じゃないわ!』
「じゃあヒータに倣って呼び捨てにさせてもらうよ、クリス! …サンダース! ヒータ! ジョナサン! オーストラリアの田舎者に、本物の追撃戦の手本を見せてやるよ!」
『『『『了解!』』』』
「エレドアとミケルはそのままホバートラック! 他の部隊との情報共有も忘れんな!」
『了解です、隊長!』
『任せときなカレン!』
「08小隊全力出撃!!」
陸戦型ガンダムに、陸戦型ジム。そして鹵獲した連邦カラーのザク、専用カラーのジム・カスタムとホバートラックと引き連れたガンダムEz‐8が再びオーストリアの大地を進む。
この作戦においてザクのパイロットを務めていたジョナサン・クレインは後に語る。
“地球連邦軍のおっかない赤髪女三人が初めて揃った瞬間である”と。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「霧が濃くなってきたな……!」
真っ白な視界の中、ジム改のコックピットの中でバニングは悪態を付いた。
追撃開始から約数時間。夜は明け、辺りは朝靄が包み更に視界が悪くなっていた。
ジオン残党軍は宇宙への脱出を画策していた様で、大気圏離脱能力のあるコムサイを忍ばせていたが、ウラキ少尉の乗るガンダム1号機がこれを撃破。しかしその代償に、アレン中尉の乗っていたパワード・ジムが敵の前に散った。
最初の襲撃で一刀両断されたカークス含め、これで殉職者は二名。
バニングの部下は、キースとウラキの二人だけになってしまった。
だが、ただの痛み分けでは終わらなかった。
地上戦のスペシャリストとも言うべき08小隊が味方にいたのが幸いし、2号機の逃走ルートの割り出しが早急に完了したのだ。
現在はその目標地点に先行しているトリントン基地の他の駐留部隊、カレント小隊の後ろにバニングの隊と08小隊が後続として進軍しているという形になる。
『……バニング大尉。敵は2号機を奪取して、何を企んでいるのでしょうか?』
緊張に耐えきれず、キースがバニングに話しかけてきた。
いつもの陽気な様子は完全に引っ込み、怯え切っている。
「……さぁな。考えられるとすると、連邦の本拠であるジャブローを狙うのが一番だが、それだけとは思えん。しかし今は重要じゃない話だキース。作戦に集中しろ。2号機さえ取り押さえられれば、それも杞憂に終わる」
『りょ、了解です……』
「……お前達はこれが初陣だからな。不安なのも分かる。だが訓練通りにやれば大丈夫だ……アレンやカークスが死んだのは“運”が無かったからだ。こればかりはどれだけ訓練を積んでも覆せん。だが、自暴自棄にさえならなければ“運”以外では死なん。……少なくとも、俺はお前達にそういう教導をしてきたつもりだ」
『大尉……』
目の前でアレン中尉の“死に際”を見ていたキースの声に、徐々に色が戻ってくるのを感じたバニング。
「湿っぽい話になったな……。そろそろ先行した中隊が接触するだろう。ウラキ少尉。お前のガンダムが“耳”が良い。通信出来るか?」
『了解。繋ぎます』
『ぐわぁ!?』
「!?」
最初に聞こえてきたのは、パイロットの誰かの悲鳴だった。
そして続くのは、砂嵐。
「カレント小隊どうした、応答しろ! カレント!!」
『こちら08小隊のエレドア・マシスだ! カレント中隊が全滅した! 一味がそっちに向かってるぞ、数は1! 正面だ!!』
『まさか2号機……!?』
「連中の目的はその2号機の奪取だぞウラキ少尉! 引き返してくるのはあり得ん、他の敵だ、警戒しろ!!」
『きっ、霧の向こうに光が! ビームの光が見えました大尉!』
「なにぃ!?」
キースの悲鳴に近い指摘を受けて、シールドを前面に構え警戒するバニング。
直後、確かに2つの光が見えた。
一つは、ジオン系モビルスーツの特徴たる、モノアイの光……これだけで2号機で無い事は確定だ……の、下。霧の中に光る、2本のビームサーベルの光。否、正確には2本のビームサーベルではなく、一対の武器だった。
あの特徴的なビーム兵器を携帯しているモビルスーツの種類は、少ない。
「ゲルググタイプのモビルスーツか!」
『あの装備にカラーリング……まさか幻の陸戦仕様!?』