機動戦士ガンダム~白い惑星の悲劇~   作:一条和馬

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第03話【黒いホワイトベース】

「やった……のか?」

 

 

 ついうっかりコロニーの中でビームライフルを使ってしまったが、それに気が付いた時には目の前には腹部にぽっかり穴の開いたザクが三機、仲良く並んで倒れていた。

 視界を外すと、ビームの熱で溶かされたライフルの銃口が見えた。

 

 一週間前、ガンダムがホワイトベースと出航する直前に爆発し損ねた試作品の一つだったのだろう。

 ともすれば、接射じゃなければ出力が足らずにザクの装甲にも弾かれていたのかもしれないな。

 

 

『聞こえ……こちらペガ……ザッ……です。繰り返し……』

「ん?」

 

 

 どこからかノイズ混じりの通信が聞こえたのはその時だった。

 

 

「これがミノフスキー粒子による通信障害か……どれどれ」

 ガンダムの操縦では使用しなかった側面のボタンやつまみを慣れた手つきで(他人事というのは未だに慣れないが、そういう感覚でしか表現出来そうにないのだ)操作する。

 

 

『サイド7の連邦軍! 聞こえますか! こちら、ペガサス級強襲揚陸艦“フォリコーン”です! コロニー外部にジオンの戦艦を確認! モビルスーツが侵入したかも知れません! 応答を! 応答をお願いします!!』

 

 

 どうやら、コロニーの外側に連邦軍の増援が来ているらしい。通信担当と思われる舌足らずな女性の声が響く。新兵だろうか?

 

 しかし、ペガサス級のフォリコーン? それは全然全く聞いた覚えのない名前だ。

 

 

『誰もいないんですか!?』

「聞こえてるよ!」

『出たっ! 艦長!』

『まずは所属の確認! 敵だったらどうするんですか!?』

『あっそうだった……こちらフォリコーンです。貴官は?』

「連邦軍の兵士、テリー・オグスターだ! コロニー内部でザクを確認。残ってたガンダムで何とか黙らせたが、他にも敵はいるのか!?」

『ガンダム…?』

『RX‐78の名称です! それを知ってるって事は少なくともジオンではないでしょう。四番ゲートの方から合流するように伝えてください!』

 

 

 どうでも良いが、艦長さんの声も全部聞こえている。

 

 

『はい! 聞こえますかテリー・オグスター! 本艦は四番ゲート前で待機中! 至急合流されたし!』

「了解だ!」

『テリー・オグスター!? もしかして、テリーくん……?』

 

 何やら意味深な言葉と共に、通信は切れてしまった。

 

「あの艦長さんは、俺の事を知っているってのか……?」

 記憶を探る。

 学校で提出された宿題の……違う、こっちの記憶じゃない。

テリー・オグスター君の方の記憶だ。

 

 

……、

 

 

………………。

 

 

…………………………?

 

 

「……ダメだ。思い出せない」

 

 テリー君は相当女に縁がなかったのか、その辺りの記憶がさっぱりと存在しなかった。きっとガリ勉タイプだったのだろう。

無理もない。相当な美少女でもない限り、目の前にロボットのあるロマンに勝てるとは到底思えないからな。

 

 そんな事を頭の片隅で思いつつ、しかし丸腰ではマズいだろうとザクからマシンガンを拝借した俺は、四番ゲートの方へとガンダムを移動させ始めるのだった。

 

 

 

 件の四番ゲートは元々自分たちが乗っていたランチが止めてある場所だ。迷いはしなかった。

 

 

「さて」

 

 

 “記憶”が戻ってから、初めての宇宙。

 

 本物の、宇宙だ。

 

 

「おお……!」

 

 

 思わず感嘆の声を挙げてしまったのが分かった。

 

 真っ黒な宙にひしめく、煌びやかな星達。

 

 青く美しい、我らが水の星。

 

 そしてその周りに点在する、筒状の人工物。

 

 

「ここは本当に……宇宙世紀の時代……!」

『テリーくん! テリー・オグスターなのですよね!?』

 

 

 先程よりもはっきりと通信が繋がっていた。

「その声……艦長さんか?」

 

 

『私です! マナ・レナ! 士官学校の同期の!』

 

 

 誰????

 

 俺が本気で頭を抱えていると、スクリーンに一人の美少女が映った。

 

 そう、美少女だ。

 

 長い金色の髪に、ブルーの瞳。

 

 まさにアニメって感じの女の子が、連邦軍の制服を着て、連邦の艦のキャプテンシートに腰を下ろしていたのだ。

 

 

「マナ・レナ……?」

『その声……!本当にテリーくんなんだね!』

 

 

 どうやら知り合いらしい。

 

 ごめん、覚えていない。

 

 

「それよりも、ジオンだ! ザクがいたという事は、近くに敵の戦艦が潜んでいるかもしれない!」

『……流石テリーくんだね。コロニーの反対側にムサイを一隻確認しています。機体の損傷の方は?』

「問題ない。無傷で運び出せた!」

『では、今すぐフォリコーンに着艦して下さい! 収容後、敵に気が付かれる前に強襲を掛けます!』

「待ってくれ! こっちからそっちの艦が見えない!」

『目の前ですよ! ちゃんと見て!』

「目の前……!?」

 

 

 保護色になって気が付かなかったが、よく見ると確かに、人工物がゆっくりこちらに近付くのが分かった。

 

ホワイトベースと同じペガサス級強襲揚陸艦。

 

だが、その色は白ではなく、黒だった。

 

 

「黒いホワイトベース……ブラックベースとでも言うのか!?」

『フォリコーンですってば!』

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「アイツが……アイツがモビルスーツに乗ってここに来るだって!?」

 

 

 黄色いパイロットスーツに身を包んだ赤髪の少女が、興奮の色を隠せないままにフォリコーンの格納庫へと急いでいた。

 

 

「ヒータさん! ヒータ・フォン・ジョエルン! 待ってください!!」

 

 彼女の後ろから声がする。

 

ヒータが顔の横から視線を向けると、黄緑色の髪の少女が必死に追いすがっているのが見えた。

 

 

「だってよミドリ・ウィンダム! あのテリーがオレの前にまたやってきたんだぜ!?」

「いつからアナタになったのかしら!? 恥ずかしがって卒業まで手の一つ握れなかった人が!」

「そんな昔の事忘れた!!」

 

 

 瞼を閉じると思い出す、甘酸っぱい青春の日々。

 

 模擬戦で最初に負けた時から、彼の事が気になっていた。

 

休日ショッピングに誘おうとした。

 

ランチをご一緒しようとした。

 

手を繋ごうとした。

 

“好きだ”と言おうとした。

 

だが、それは叶わなかった。

 

いつも隣にマナ・レナがいたからだ。

 

瞳と髪の色が似ているからと言う理由だけでいつも二人で行動なんかしてくれちゃったものだから“美男美女兄妹”なんて言われて、何となく声を掛けづらくなってしまって。

 

模擬戦くらいでしか彼と関われなかったからいつも本気で戦った。

 

結局一度も勝てなかった。

 

 想いが届かない様で、悔しかった。

 

 何とかあと一歩、踏み出そうとした。

 

 でも気が付けば、卒業して離れ離れになってしまった。

 

 後悔しか残らなかった。

 

 

「でも、また会えた……!」

 

 

 この間僅か0.1秒。

 

 

 

「はい?」

 

 

 素っ頓狂な声を挙げるミドリの言葉を無視しながら、二人は格納庫へと繋がる最後のドアをくぐった。

 

 彼女らが格納庫に着いたのと、フォリコーンの左舷デッキが開いたのはほぼ同時だった。

 

 

「モビルスーツが入ってくるよ! 着艦準備急いで!!」

「セイバーフィッシュとは訳が違うからね!」

 

 

 整備班の同僚たちは、初めてのモビルスーツ着艦という緊張で皆がピリピリしていた。

 

 

「……くる」

 

 

 ぼそり、とミドリがそう呟いたと同時、一体の巨人が現れ、デッキの床に膝をついた。

 この艦と同じ、真っ黒なボディーカラーのモビルスーツ。

 

 

「あれが、ガンダムか……!」

「ザクと比べて、優しい顔をしてるのね」

 

 

 ミドリは士官学校からずっと腐れ縁の関係のヒータだが、時折彼女にも理解できない飛躍した思考で喋ることがままあった。

 

 だが、今はそんな事はどうだっていい。重要じゃない。

 

 愛しの王子様との再会の瞬間だった。

 コックピットハッチが、開く。

 白いパイロットスーツに身を包んだ少年が現れ、ヘルメットを脱ぐ。

 

 

「ふぅ…」

 

 

 金色の髪に、ブルーの瞳。

 間違いない。

見間違えよう訳がない。

 

 

テリー・オグスター!

 

 

 だが、“また”声を掛ける事は叶わなかった。

 

『艦長のマナです! コロニーの向こう側にジオンの巡洋艦を確認! 総員第一種戦闘配備! グレン小隊とリーフ小隊は直ちに出撃してください!!』

「クソッ! またマナ・レナに邪魔された!」

「今のはジオンでしょう!?」

 

 

 的外れな八つ当たりをするヒータと、それに呆れるミドリはしかし、慣れた動きで愛機の待つ格納庫へと急いだ。

 ヒータが向かった先にあったのは、赤字で“01”とペイントされた連邦軍の主力戦闘機、セイバーフィッシュだった。

 

 

「グレン小隊、ヒータ出るぞ! 早くその邪魔な黒いの片付けろ!!」

『邪魔って失礼だな! ここまで持ってくるの大変だったんだぞ!?』

 

 

 モニターの向こうで、テリーが怒鳴っているのが見えた。

 

 嗚呼、またやってしまった。

 

 また彼に嫌われる様な行動をとってしまった。

 

 

「……また、こうやってやり取りができるだけ、幸せ、かな?」

 

 

 関係の改善は、いつでも出来る。

 

 また、会えたのだから……!

 

 

「グレン01、ヒータ・フォン・ジョエルン! セイバーフィッシュ出るぞ!!」

 

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