「海賊どもめ……一人前気取って新型なんて生意気な!」
ティターンズ所属戦艦フォリコーンⅡの艦長の命令で小隊ごと転属になった女性士官ライラ・ミラ・ライラ大尉はガルバルディβに乗り、海賊の操る新型モビルスーツとの戦闘を繰り広げていた。
ライラとその部下は一年戦争こそ未経験だが、今の時代であれば豊富な宇宙戦をこなした優秀なパイロットとも言える。しかしながら、相手が大戦時からモビルスーツに乗っているパイロットで、新型に乗っているとも来れば、追い付くだけでも精いっぱいだった。
「相手はたったの二機だぞ! 左右から挟み込む様に接近すれば捉えられる筈だ!!」
ライラの指示により、四機のガルバルディβが宇宙海賊のモビルスーツへの挟撃を狙う。向こうは宙域からの撤退が狙いなので、積極的には攻めてはこない。後続の部隊の事を考え、出来るだけ距離を取りたがっているのだろう。
「ティターンズからすりゃ私達なんて投げ槍か鉄砲玉みたいなもんだろうけどさ、こっちだって正規の軍人なんだよね!」
ライラだけが特別ではなく、連邦軍内におけるティターンズの評価など、概ねそんな所だ。しかしそれだけでエゥーゴの様な反地球連邦組織の存在を容認するかと言われれば、それはまた別の話であるが、、そもそも今のライラにはそんな余念に構っている暇はなかった。
後方からのメガ粒子砲による不意打ち。それによって部下が一機落ちたからだ。
「後ろから攻撃!? 宇宙海賊の仲間の方が先に来たのか!?」
モノアイを動かし周囲を警戒するライラ。しかしそれがすぐに勘違いである事を悟る。
今もなおこちらに向けて艦砲射撃をするのは、あろうことか味方である筈のフォリコーンⅡではないか!
「馬鹿な! 味方ごと撃つなど、正気の沙汰とは思えん!」
『庶民などぉ! この名家たる私の戦果を足止めしてくれただけでも十二分な活躍をしたというものよ!』
通信機から聞こえるのは、忌々しいティターンズの士官の声だった。ミノフスキー粒子による通信障害は作戦遂行において文字通りの障害なのでないに越した事はないのだが、今ばかりは聞きたくない声だとライラは苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。
通信の主は、専用にカスタムされたハイザック・カスタムに搭乗し、随伴機もなしにこちらへと突撃してきていた。
「式典用みたいなモビルスーツ! シャロ大佐のか! 指揮官としての自覚は無いのかい……ッ!」
『ライラ隊に告ぐ! 庶民にしてはよくやったと褒めてはやるが……ここからは私の狩りだ。手を出すな! 以上!』
「チッ。噂に聞いた以上の傲慢っぷりじゃないか……聞いたろ! 撤退する!!」
後退ざますれ違う赤いハイザック・カスタムを見ながら、ライラは部下と共にフォリコーンⅡへと帰還した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「ガルバルディが退くぞ! どいう事だ!?」
「“本命”が来たって事さね!」
シーマの操るゲルググMカラーのディジェのコックピットの隅で揺られるしかない俺は、敵の奇妙な行動に違和感を覚えていた。数の上でも勝っており、エネルギーが尽きた様子もないのであれば、後続部隊と合流するのが常套手段の筈だ。実際シーマはそれを恐れて逃げの一手を選択したのだが、先行してきたガルバルディの小隊の練度を少々過小評価していたようだ、というのはさっきシーマが語った言葉である。
『宇宙海賊に通達する! 我が名はシャロ・ル・ロッド大佐! 名家にしてティターンズの序列三位を頂く者だ!』
「誰だアイツ」
「今自己紹介してくれた通りだよ。目立ちたがりのバカさ」
シーマが忌々し気にみると、ガルバルディの隊を入れ替わる様に突撃してくる一機のモビルスーツがあった。
フォリコーンと同じく赤いボディーに金色の装飾が施されたハイザックだ。頭部にはブレードアンテナらしきパーツも見える。
「あれじゃ赤い彗星だな……」
「ゲン担ぎしてる訳じゃないよ。アレで厄介な事に凶悪な動きをするから出会いたくなかったのさ!」
そのシーマの言葉を理解するのに、数分の時間も必要ではなかった。
ハイザック・カスタムと言えば連邦のジムとジオンのザクの技術をハイブリットさせた高性能機ハイザックの出力を更に上げたモビルスーツだ。新型ジェネレーター搭載によって大型ビームランチャーによる火力と更なる機動性を得た、“隠れハイザック”の異名を持つ機体。通常回線でティターンズのトップの一人だと自称したマヌケとは思えない程にその男はハイザック・カスタムを自分の手足の様に扱っていたのだ。
この時代の平均的なモビルスーツの性能やパイロットの腕前は知らないが、少なくともガルバルディの小隊がもう二つ三つあっても勝てそうにない、そんなオーラを感じずにはいられない。
しかし。
<―――!>
言葉が走った。
久しく忘れかけていた、この感覚。
「右だ!」
「何ィ!?」
咄嗟に叫んだ俺の言葉に一瞬遅れて反応したが、すぐさまその方向にモビルスーツを動かすシーマも大したものだった。左腕を持っていかれはしたが、胴体への直撃は免れた。
「アンタまさか、噂のニュータイプってのなのかい!?」
「知らんね! 俺はただそう感じたから右と答えただけだ! 次は左!」
「チッ!」
恐らく最短の感覚でビームランチャーを発射してくる赤いハイザック・カスタム。それに対応しきれなくなったシーマは次第に俺の言葉に従い回避をするようになるが……。
「癪だけど、アンタが操縦した方が早い気がしてきたよ!」
「えっ」
ハイザック・カスタムの攻撃が一瞬止んだ隙にそう言ったシーマ。彼女は戦闘中であるにも関わらずシートを離れ、俺の肩を掴んで強引にその席へと押し込んだのだ。相当緊張していたのだろう。ノーマルスーツごしにシートから彼女の温もりを感じる。
「おいちょっと待て! モビルスーツの操縦なんて7年もやってないぞ! しかも新型になんて……ッ!」
勿論敵が待ってくれる訳もない発砲してきたので回避。
「習うより慣れなって言う前に、もう動かしてるじゃないか」
「集中するからちょっと黙っててほしい!!」
ただでさえコロニーの中でアレックスに乗った時に「全天モニター酔うなぁ」とこぼしていた身としては久しぶりの戦闘でこれは少々ハードが過ぎるというもの。
しかし、ここでむざむざやられる道理もなし。
というか、上手く説明できないのだが、シャロなんとかとか名乗った男が不快で仕方がなかったのだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「急に動きが良くなったな……」
敗戦を受け入れられないジオンの有象無象が集まった宇宙海賊。そのリーダーとも言うべきシーマ・ガラハウ専用カラーのモビルスーツにしては情けない動きをすると欠伸の一つさえしていたシャロ・ル・ロッドの眉が動く。
「まさか私を前に手加減して勝てると思っていたのか? ここは本気を出してきた事に礼儀を払ってやるか……否!」
ビームランチャーの乱射をやめ、左手でビームサーベルを抜き、一気に距離を詰める。
「この私相手に手加減して勝てると思ったその傲慢さ……万死に値する!!」
『チィ!』
宇宙海賊の新型が、ついに武器を抜いた。右手を後ろに回して取り出したビームナギナタとシャロのハイザックのビームサーベルが交差すると、相手との接触回線が開かれる。
『誰だが知らないが赤いザクのお前! 尻尾巻いて脱げるなら見逃してやる!』
「はっ! 名家たる私を知らぬと嘯くだけに飽き足らず情けをかけるだと? つくづく傲慢な女……いや待て。男の声! 貴様何者だ!?」
『戦場でわざわざ敵に名乗る訳ないだろバーカ!!』
「バッ……私に向かって何という口をぅおっ!?」
それは低俗で陳腐すぎる言葉に逆に動揺したシャロの一瞬の油断だった。
その油断を突いた新型は蹴りでこちらの体制を崩し、そのままハイザックの両腕をビームナギナタで切り裂いた。
「馬鹿な……馬鹿な!?」
ティターンズになって……否。地球軌道第一艦隊司令になってから初めて、シャロは初めて“死の恐怖”に直面し、狼狽した。
しかし新型はこちらにトドメをさす事なく踵を返し、離脱を始めてしまった。
『ご無事ですか!?』
『お怪我などされておりませんかシャロ様!?』
聞こえてきたのは、今はハイザックに乗った部下の女性パイロット達の声だった。かつてミドリが“腰巾着”と揶揄した二人から焦った様な声が聞こえる。
「連中が来たという事は、フォリコーンⅡも近くに……助かった……」
ほう、とため息を溢したシャロだが。
「……待て。私は今、安心したのか? 気高い狩人である筈の……名家たるこの私が?」
人を見下して生きて来たシャロ・ル・ロッドにとって『他人に見下される』というのは何よりも許されない侮辱だった。
「許せん……許さんぞ、あの男! モビルスーツの性能で優っているというだけで、あそこまで人は傲慢になれるのか!!」
そして自分が最強である事を疑わない彼は、敗北の原因がモビルスーツの性能差であると断定した。そうする事によって、怒りも幾分か収まる。
『あの……シャロ様? 追撃はどうなさいますか?』
ハイザックのパイロットが恐る恐る聞いてくる事には、シャロは既にいつもの調子を取り戻していた。切り替えが早いのが、彼の取り柄でもある。
「……ふん。こんな貧弱なモビルスーツでは、勝てんという事だろう。進路をグリプスに取れ! そろそろガンダムMk-Ⅱのテストも終了しているだろう。それを受け取り次第、連中を叩く」
『了解です。まずはフォリコーンⅡにご帰還ください』
「あぁ……。そうだ、お前」
『マキ・トリーです。シャロ様には地球軌道艦隊の頃から……』
「庶民の名前などいちいち覚える訳がないだろう。お前と、そこのお前。後で私の部屋にこい」
『……はい』
マキ・トリーと名乗った女性パイロットと、もう一人は“ご指名”を受けた事で内心戦々恐々としている事だろう。シャロの自室に呼ばれる、という事は、彼の何某らのストレス発散の“玩具”にされるという事だ。
そして当の本人は恐れられていると知りながらも、むしろそれを楽しんでさえいるのだった。
「そう……私こそティターンズの……いや、地球の頂点に立つべき男なのだ。全て私が最高で最上でなければ……」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「そのデブリの先に艦を隠してる。先導する部下を見失うんじゃないよ」
「分かってる」
もう数秒余裕があれば赤いハイザックを撃墜出来たのだろうが、目的は逃走であるのと、なにより見た目が変ったとはいえフォリコーンが敵と言われたらなるべく直接の戦闘は避けたかった。流石に当時のクルーが乗っていている以前に、仮にそうだとしてもディジェに俺が乗っているなんて思ってもいないだろうし、そんな色んな感情がこみ上げて逃げを選択したが、どうやらそれが功を奏したらしく、追撃もなくシーマ・フリートの母艦付近へと逃げる事に成功したという訳である。
「しかしアンタやるねぇ。クライアントが7年もアンタの所在を探してたのにも納得だよ」
「それでシーマ……さん?」
「なんだい」
「そのクライアントってのは一体誰なんだ?」
「元は連邦でモビルスーツの開発に携わってた一人だって言ってたよ。イリーナ・ペティルって女さ」
「誰ですかその人」
誰ですかその人。いや、マジで知らん。
「知り合いじゃないのかい? じゃあ多分……熱烈な“ファン”って所かね?」
「はぁ?」
「ま、後は直接会って確かめるんだね……見えてきたよ、あれがそうだ」
「なんか心配になってき………んんん????」
今日で何回驚いただろうか。
目の前では、見た事のない戦艦がこちらを待っていた。
基本はザンジバル級“リリー・マルレーン”の様だが、上部に連邦のサラミス級らしき艦橋が乗せられて、前方には楕円形の船体が増築されている。
極めつけとして目立つのは、機首に堂々とあしらわれた髑髏のマーク。
……あれ? おかしいな? 機動戦士ガンダムって原作に富野由悠季と矢立肇の他に松本零士もいたっけ……???
「ようこそ、我らシーマ・フリートの拠点……“アルカディア”へ」
マジかよこれ怒られない?
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「ようやく会えたね、テリー・オグスター君?」
“アルカディア”なる戦艦にディジェを収容してコックピットから出ると同時、俺の目の前に現れたのは長身の女性だった。黒く長い髪をポニーテールにしており、失礼な話それで女性と判断できる程にスレンダーなボディーの持ち主だった。
「えっと……助けてくれてありがとう? になるのか?」
「私は依頼をしただけだよ」
「結局最後は私らが助けられる事になったがねぇ……」
後は仲良くやりな、と言い残したシーマは部下を連れてさっさと格納庫から姿を消してしまった。知らない艦の中で知らない女と二人っきりにされるのは結構辛い。
「で、えーーっと……失礼ですが、どこかで会いました……?」
「いや、会うのは初めてだ」
「でも俺を助けたんでしょ?」
「変かね?」
いや変でしょうが。
「フ……まぁそう思うのも無理はないわよね? では自己紹介から。私はイリーナ・ペティル。一年戦争の時はレビル将軍の艦隊でモビルスーツ設計に携わっていたわ。そこにいるのはチチデカ助手君」
「“チカ・ジョッシュ”ッスよ先輩!! いいかげんその紹介の仕方止めて欲しいッス!」
イリーナなる人物に名前を呼ばれたらしい女性が、格納庫に置いてある黒い巨体の横から姿を現した。イリーナとは打って変わって小柄な少女だが、なるほど『チチデカ』と呼びたくなるのも立派なモノをお持ちであった。
七年も“ご無沙汰”では俺のリトルテリー君も思わず反応してしまう訳だが、それよりも理性の方がチチデカ……じゃない、チカ・ジョッシュなる少女が整備していたらしい“黒い巨体”へと意識を向けさせた。
「お、早速反応してくれたみたいで嬉しいよ」
「それどっちの話してる?」
「アッチは分かるけどコッチのはどういう意味かな?」
イリーナのいう“アッチ”は黒い巨体の事だろうが、“コッチ”は明らかに俺の小さい巨体を見ている。やめないかそのニヤニヤした目。
「冗談はさておき……“コイツ”も紹介しないといけないね。何を隠そう、こいつは一年戦争時代の君の戦闘データを基に、ガンダム試作4号機に大幅な改良を加えたものだ」
「モビルスーツなのか? 大き過ぎやしないか?」
「あぁ。肩に増設したブースターと、下半身部分をドム系列のものに変えたのが大柄に見せているのだろう」
まぁ実際、平均的なモビルスーツの体積の二倍か三倍はあるが。とイリーナは補足してくれた。
しかしこれもまた、何か他の違うものに見える。
なんだっけか。
黒いボディーに巨大ブースター。そしてまるで花びらの様に重なった装甲……。
「ブラックサレナじゃねぇか。ナデシコの」
「む、このガンダムには“ガーベラ・リヴァーレ”と名付けたのだが……君の直感センスは中々のものだね。それ採用」
しまった余計な事を言ってしまった気がする。
まぁでもアルカディアもあるし良いかと思いつつ、俺は思い切って他に気になる所を聞く事にした。
「横に置いてあるプロペラントタンクは?」
「脚部に装備する事で航続距離を伸ばす為の追加ブースターッスね。流石にコレを着けたまま戦闘は不可能ッスけど、コンペイトウからゼダンの門……あーーーっ、ソロモンからア・バオア・クーまで行って帰るだけの容量はあるッス」
「なんでジオンの軍事拠点を例えに……ん?」
「思い出したかね? そう、君が一年戦争時代に使用していた玩具からヒントを得た装備だ」
玩具、というのはソロモン突入やア・バオア・クー……というかソーラ・レイ破壊の為に使用した簡易SFS“カミカゼ”の事だろう。
「最近では似た兵器に“サブ・フライト・システム”って名前が付いて連邦が独自技術みたいな顔して使ってるけど、間違いなく君の玩具をパクったんだろうね」
「だろうな」
「なんだって?」
「いや、こんなの誰でも思い付くって話をしただけ」
「一介のパイロットが7年後の新技術を先読みで開発してたんだ。技術者として嫉妬しちゃう訳よ」
「その嫉妬でコイツを作ったのか?」
「まさか。これは所謂……“愛の結晶”だよ」
「……はい?」
自分でも分かる程に素っ頓狂な声を挙げてしまった。きっと顔も相当な間抜け面に違いない。そんな俺の事など気にも止めず、イリーナは続ける。
「7年前のあの日! 君は単身ジオンの軍事拠点ア・バオア・クーに乗り込み、ギレン・ザビを刺激……結果的にコロニーレーザー“ソーラ・レイ”を使用された事によってレビル将軍とデギン公王が死亡し、そこから一年戦争と呼ばれる戦争の最後の戦いが始まった!」
「昨日似たような事を聞いたよ。それがティターンズ誕生のきっかけになったんだとさ」
「まさか! 連中の事だ。理由なんて何でもよかったんだろう。それより君の話だよテリー君。当時私は第一艦隊のマゼランの一隻にいたんだよ」
「……よく生きてたな」
「そう! そこだよ!!」
興奮した様子で距離を詰めるイリーナに、俺は一歩身を引いてしまった。今まで自分より身長の低い女の子ばかりが周りにいた為に、自分より背の高い女の人に迫られるのは慣れていなかったからだ。食堂のマギー姉さんはそういうキャラじゃなかったし。
「一応は連邦軍技術部門のトップに上り詰めた私だがね……正直あまり乗り気ではなかったのだよ。生産性と安定性を重視したジムの設計ばかりさせられていたからね。私としてはむしろジオンの水陸両用モビルスーツやモビルアーマーの様な尖った設計思想の機体を作ってみたかった。そんな中だよ。私達の乗っていたマゼランの“すぐ横”をソーラ・レイの光が通り、後に残ったのは残骸のみさ。……私はレビル将軍達の和平交渉がどういう結果に転ぼうと、ギレン・ザビがソーラ・レイを撃つのは必定だと思っている。さて、その場合その危険に気が付き単身乗り込んだテリー君の事を私が気になるのは当然な訳で。調べてみれば君は積極的にミラーを破壊してくれたらしいじゃないか。その理由をお伺いしても?」
「……止めるにはそうするしかないと思ったからだ」
「そう! どの様にしてソーラ・レイの存在を知ったのかとか、そういう細かい話は置いておこう! 重要なのはその時点で私が君に興味を持ったという事だ! そして調べてみれば出るわ出るわ君の武勇伝! 初のモビルスーツでの実戦が不意遭遇戦でありながら、三機のザクとムサイを撃破! その後教導隊として活躍しながらRX-78シリーズ2号機までしか搭載されていない単機での大気圏突入をマニュアルでやってのけ! 密林で孤立した状態でザクを更に三機落としたと思えばネームドの駆るグフのカスタム機を無傷で撃破! サイド6では全天モニターとマグネットコーティング初期搭載型NT-1でザク相手にインファイトをかますという奇行からアムロ・レイ、クリスチーナ・マッケンジーと並んでたった1分で12機のリック・ドムを破壊! ソロモン攻略戦ではリック・ドムの“着ぐるみ”を用いた作戦で一番に敵基地の奥へと到達して大暴れしたとくれば、もう君の活躍に夢中にならない理由はないだろうそうだろう!?」
「顔が近い」
そんな事もあった様な気がするが、全部7年前の話である。
本人も覚えてない様な事をスラスラと言うあたり、“ヤバイ奴”と評価するのが妥当だろう。
「それに唯一“シャア・アズナブルに引き分けした男”っていうのもあるッスよね」
「何? それはアムロ・レイの話じゃないか?」
「いえ? 彼はア・バオア・クーの最終決戦で負けるッスよ? ただまぁ、今はそれまでの功績から地球のどこかで悠々自適にセレブ生活送ってるらしいッスけど」
どういう事だろうか? 俺は昔の記憶を辿る。
7年前。アムロとシャア、ララァとの共闘してサレナ・ヴァーンを討ち取った後、俺が油断している隙にエルメスが爆発。『ララァ・スン生存』という宇宙世紀最悪の出来事のフラグを折り損ね正史をなぞるのを恐れ、例の特攻を選択した訳だが、結果的にティターンズは生まれてしまった。それはきっと“歴史は変えられない”という事なのだろうが、それだとア・バオア・クーでアムロがシャアに負ける理由にならない。あの時のシャアはニュータイプとして覚醒したばかりで、ほぼ完全体とも言えるアムロに勝てる要素は無かった筈。
何かを見落としている。
俺が記憶の海を辿っている中、ふいに今は関係のない筈のバスク・オムとの会話の記憶がフラッシュバックした。
まるで、“今はそんな事考えている場合じゃない”と訴える様に。
――そうだ。君の恋人……マナ・レナと言ったか――
――今は軍を辞めてサイド6で暮らしているよ。ティターンズに入るのなら勿論、再会出来るだろうね――
――フフフ、一日だぞ――
「……不味い。マナ・レナ!!」
「ん? どこかで聞いた事のある名前だが……」
「おい、このモビルスーツ、今からでも動かせるか!?」
「ブラックサレナ、の事かい? 勿論今から月の裏側までだって行けるよ?」
「貸してくれ。事情は後で説明する!」
「貸しても何も、これは私が君の為に作ったガンダム……好きに使うと良い」
「恩に着る!」
「よし、じゃあ私達もご一緒しようか、チチデカ助手君」
「チカ・ジョッシュ!」
「悪いけど、シャトルか何かで付いてこようってんなら、悪いけど急いでるから……」
「シャトル? まさかまさか」
そう言ってコックピットを開こうとする俺の前で、ガーベラ・リヴァーレ改めブラックサレナのコンソールを操作しながらイリーナは続けた。
「このガンダム、三人乗りなんだよね」
「えっ」
イリーナの言う通り、コックピットには通常のシートの他、それを挟む様に二つのシートが増設されていたのだった。