【転属命令】
テリー・オグスター 軍曹
ペガサス級強襲揚陸艦フォリコーンへの転属を命ず。
以後は同艦の艦長であるマナ・レナ少佐の指示に従う様に。
以上。
「シャアじゃん」
晴れて(?)フォリコーン隊の一員になった俺は、あてがわれた自室でシャワーを浴びながら、鏡で自分の顔をマジマジと見つめていた。
そして出た言葉が、これだった。
「俺、めっちゃ顔がシャア・アズナブルじゃん」
髪の色に、青い瞳。
マナ・レナの部屋に掛かっていた士官学校時代の写真を見た時にもちょっと思ったが雰囲気のせいで言えなかったので、改めて確認していたのだ。
「まさか、シャアの弟……?」
いや、流石にそれはないだろう。そんな人、原作にいなかったし。
そうだ、ジオリジンにはシャアそっくりなシャアさんが居たではないか。
……ややこしいな。つまりは“キャスバルが成り済ましたシャアご本人”なのだが。
つまり、似た顔のそっくりさんがもう一人くらい居てもなんら不思議ではないのだ。
転属命令が下った際についでにテリー・オグスターくんの経歴を参照したが、どうやら彼は地球出身だそうだし、遠くサイド3で生まれたキャスバル・レム・ダイクンと同じ血が流れているとは到底思えない話だ。
「地球、か……」
宇宙世紀世界に転生する前。
ごく普遍的な日本の男子学生だった俺は当然地球で生まれ、地球で死んだ。
テリー・オグスターくんも世界は違えど同じ地球生まれだと知って、心の距離が縮まった様に思える。
「この艦も、地球に行くのだろうか……」
ホワイトベースはルナツーから出航した後、すぐジャブローに向かった。
まぁ、それはシャアによって妨害されて、結果ホワイトベースは地球を行ったり来たりさせられるわけだが。
……俺達も、同じ進路を取るのだろうか?
「地球に、降りられる……?」
まぁ、その前に俺は
「フ……フフッ……」
おっと、思い出したらまた元気になって参りました。
「認めたくないものだな……自分自身の……」
おっとダメだ。心なしか声も似てる気がしてきた。これ以上はやめとこう。
「それにしても……」
シャワーを止め、渇いたタオルで身体を拭きながら、記憶を辿る。
マナ・レナの思ったより大人な女の……。
違う、そっちじゃない。
「何か、忘れてるような気がするんだよなぁ……」
まぁ、忘れてるくらいだし、そのままでも良いか!
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ワッケイン司令。ペガサス級強襲揚陸フォリコーン、只今帰還致しました」
ルナツーの指令室に入室したマナ・レナは短く敬礼をした後、一歩前進した。
ただ、小柄な彼女の一歩は短いので、結局あと三歩は前に移動する事になる。
「うむ、ご苦労だった、マナ少佐。資料の方はどうだった?」
「サイド7に残っている物は全て回収しました。荒らされた形跡があるという報告もありましたが、そちらはホワイトベース隊が回収したのだろうというのが本官の推測であります」
「ふむ……」
暫く考え込む仕草を見せたワッケイン司令だったが、ほどなくして口を開いた。
「プロトタイプのガンダムをほぼ無傷で回収出来たのだ。それだけでも重畳だろう」
「はい」
「では、これからの貴艦らの任務だが……」
「ジャブローへ、でしょうか?」
「いや。その仕事はホワイトベースに任せてある。着いて来てくれたまえ」
「了解です」
ワッケイン司令の後を移動するマナ・レナ。
傍から見ると父と娘にも見えなくもない異様な組み合わせの二人が向かった先は、ルナツー内の格納庫の一つだった。
そこでは現在、プロトタイプガンダムの点検及び整備が行われていたはずだ。
そして、そこにあるのはガンダムだけではなかった。
「……これは!?」
「形式番号RGM‐79……“ジム”だ」
彼女の目の前にあったのは、ガンダムの量産機である、ジムと呼ばれるモビルスーツだった。ガンダムとは違う、ゴーグルタイプのカメラアイを持つ赤いカラーリングのモビルスーツが五機、ハンガーに均等に並べられていた。
「ガンダムの量産化は既に始まっていたというのですか!?」
「これは試験用の先行量産機だがね。この内の二機をフォリコーンに配備する。ガンダムと共に新たな戦術ドクトリンの検証テストを行って頂きたい」
「戦術ドクトリン、でありますか?」
「そうだ」
今も慌ただしく整備班が移動するのを見ながら、ワッケイン司令は続ける。
「ルウムでの戦いからモビルスーツの重要性を学んだ我々連邦はようやくモビルスーツ量産体制の目途が立った。しかし数を揃えても、それを扱うノウハウが我々にはない。それは、理解できるな?」
「はい。テリーく……テリー・オグスター軍曹も、戦闘機とモビルスーツでは戦法が全く違うと言っておりました」
「プロトタイプのパイロットか。……やはり乗っている人間の言葉は信頼に値するな……さておき、ジムは、カタログスペック上ではザクと互角か、それ以上に渡り合える数値がはじき出されている。何度も繰り返す様ですまないが、モビルスーツの運用方法は戦術レベルでも、ましてや戦略レベルでもジオンには遠く及ばない。現状彼らの猿真似をするのが精いっぱいだ。……なにせ、向こうが先駆者なのだからな」
「だからこそ、新たなドクトリンを検証する部隊が必要だと」
「その通りだ少佐。地上では既に、ホワイトベース隊があのガルマ・ザビを倒したという報告が上がってきている」
「ガルマ・ザビ!? ザビ家の末弟で、北米一帯を指揮していた、あのガルマ・ザビでありますか!?」
「然り。それ程の戦果を挙げる艦だ。地上でのモビルスーツ運用ドクトリン検証は彼らに任せ、フォリコーン隊には主に宇宙戦や低重力戦でのモビルスーツと母艦の運用ドクトリンの練度を高めてもらいたい」
「……戦技教導隊、と言ったものでしょうか」
「そうなるな。ただし、現在ジオンの目はホワイトベース隊とガンダムが一挙に請け負ってくれている。実戦とは程遠い訓練漬けの地味な任務になるが……」
「構いません」
ワッケイン司令の言葉を遮り、マナ・レナは彼に向かって敬礼をしてみせる。
「縁の下の力持ちという奴です。我々の尽力で友軍がスムーズに戦えるなら、勇猛果敢な部下たちの手綱も見事手繰ってみせましょう」
「やはり、こういう時の女性はしたたかで心強いな。よろしく頼む」
「承りました」
「……それで、あそこにいる君の部下だが……」
「サンダース軍曹!? テリー・サンダース・Jr.軍曹でありますか!?」
「自分は、確かにそうでありますが……」
「すっげぇ! 本物だ!! 凄い良い声!! あ、あの! 握手してもらっても良いですか!?」
「え、えぇ……恐縮ですが、自分はただの一兵士でして、その、そんなに畏まらなくても……」
「しっ、失礼しました! 自分、テリー・オグスター軍曹であります!」
「ほぉ、自分と同じファーストネームで同じ軍曹!」
「本当だ全然気が付かなっ……いえ! 自分もそれに気が付いて、つい興奮してしまいました!」
「変わった人だな……」
見た事ない兵士だ。恐らく、ルナツー所属なのだろうか?
それに全力で絡むのは、ウチのガンダムパイロット。
「ちょっとテリーくん何してるの!?」
「「はい?」」
「紛らわしい!!」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
はい、分かりました。ムサイの準備が整い次第、そちらに向かいます。
……聞いての通りだ。父上から招集がかかってしまった故、私は今すぐサイド3に行かねばならない。
だが、貴官の活躍ぶりは見事なものだ。機密文書を載せた連邦軍の脱出艇を奪取してここまで単独飛行するというのは、中々に苦労な旅であったろう。
私は同道出来ないが、フラナガン機関にこのデータを送っておいた。早速そのデータを基にイフリートタイプのモビルスーツの改良を進めさせている。施設へ赴き、パイロットとして手伝ってやれ。
完成の暁には、その機体は好きにしていい。
……何、同じ戦場に立つ女同士、少し手を貸してやろうというだけだ。
では、話は以上だ。向こうでの用事が済み次第、私も機関の方に顔を出そう。
良い結果が出るのを期待しているぞ、伍長。