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世界よ、どうか異世界からの来訪者に祝福を。
「だめネ」
たった一言で分かる結果。それは諦観と共に吐き出された言葉だった。薄暗い地下室で彼女は一応時計を見上げ、嘆息する。
「時間がないネ。これでいくより他がないアルか」
彼女の視線の先にはどこか幾何学的な文様をあしらった時計。彼女の最高傑作、時空移動装置『カシオペア』。
「ほんとに残念ネ……。科学に魂を売り渡したこの私が最後には運に頼るとはネ。運の作用すらも計算するのが科学だといのにナ」
そう呟くのを待っていたかのように、その地下室唯一の扉がひらく。
「チャオ、どうだ?」
まだ若い男の声に、チャオは力無く首を振るだけで答える。男はそれを予想していたであろうが、しかし落胆の色は隠せなかった。
「そうか…。それでもやるのか?」
「当然ネ」
今度の問いにも間髪入れずに答えを返す。男性の方もその答えを予想していたのであろう、事務的にカシオペアの問題点をあげていく。
「だが、カシオペアではあまりに使用魔力が多すぎる。それはつまり短時間の移動ならともかく、君のやろうとしている超長時間移動ともなると時空間に歪みを引き起こしやすくなる。
時空間の強度を正確に測定できない以上、本当に異常が起こるかは分からないが、僕の予想だとかなりの確率でイレギュラーが起きると思うよ。
更にどんなイレギュラーが起きるかも断定できない。最悪、時空の狭間に取り込まれることも――」
「承知の上ネ」
ウンザリしたチャオは長くなりそうな男性の言葉を切ってしまう。だが男性はそれに怒る様子も無く、次の言葉を紡いだ。
「そうか、その他の危険性については十分に話し合ったしな。僕に言えるのは後一言だけだよ。よい旅を、チャオ」
男性の粋な言葉ににかっと笑みを返すチャオ。
「ありがとネ」
そして彼女はカシオペアのスイッチを押す。
次の瞬間には何とも形容しがたい感覚が体を包む。そして彼女に分かる事はただ一つ、すなわち戻っているという実感だけ。
と、
「っ!」
一つ。更に一つ。時空間にヒビが入るのが分かる。
(まずったネ……)
背中に冷や汗が流れるのが分かる。もし自分がそのヒビの中に放り込まれたらアウト。
どことも知れぬ異世界に辿り着けばいい方で、最悪予め言われたケース通りに永遠を時空間の狭間で過ごすことになるかも知れない。
だが幸いにも、彼女はヒビに巻き込まれることもなくそれぞれのヒビを通り過ぎる。ほっと一息ついた時。
ヒュンっ!
ナニかが高速でヒビの中から飛び出してきた。彼女が異世界に迷い込む代わりに、そのナニかがこの世界に放り込まれてしまった。各々3つずつ、そして合計6の異世界からの来訪者。
(……イレギュラーになる、か。まあいいネ。そのイレギュラーすら計算に取り込めば済む話)
また彼女も時空間を移動する以上はこの程度の事は織り込み済み。今は異世界からの来訪者が二組六人である事を確認できただけでも大収穫。
そして、ややあって彼女も通常空間に戻る。
「成功、ネ」
流石の彼女も、命をかけた大移動にほっとしたようだ。
だが、本番はこれから。じっくり3年かけて準備した後に彼女の目的を果たさなければならない。
すなわち、魔法を世界にバラす。
「さあ、行きますカ!」
ネギ=スプリングフィールド。そして彼女と、二組六人の異世界人の物語が始まる。