二組六人の異世界人   作:117

10 / 44
1章 2話

 試我を上回る快感は無い。さあ、楽しもう。

 

 

 

 言葉は無く。ただコツコツと虚しい三様の足音だけが響く廊下。なぜかその後地下に潜って、更にそれから10分も歩かないうちに地下だというのに建物が途切れて。

 そして無機質な光を放つドーム状地下の中、渡り廊下を挟んだ上で大きすぎる建物が視界を遮るように立ちふさがっていた。彼らのうち誰もが知らなかったが、それは図書館島深部にあるクウネル・サンダースことアルビレオ・イマの住居を連想させる佇まい。

「ここじゃよ、麻帆良の中で唯一大規模戦闘に耐えられる建物じゃ」

 見上げればそれは、東京ドームとはいかないまでもそれと見間違えるような大きなドーム。バゼットは流石に目を大きく見開いて凝視するし、イタズラが成功したような顔をしている学園長が説明を加える。

「『麻帆良ドーム』。表向きは全校的イベントを行う多目的ホールじゃが、裏の事も出来る様に学園有数の強力な結界も張る事もできる。心置きなく闘うと良い」

 フォフォフォと奇妙な笑い声をあげて学園長は麻帆良ドームへ向かって歩を進める。その後ろを慣れているタカミチが特に動揺も無く続き、最後に驚きの為にやや出遅れてしまったバゼットが追随する。

「お、驚きました。まさか地下にこれ程までの施設があるとは」

 本当に動揺しきったバゼットの様子に苦笑で返すタカミチ。

「気持ちは分かるけどね、これくらいで驚いていたら麻帆良じゃやっていけないよ」

 その言葉にバゼットは更なる驚きを禁じえない。それはともかくとして学園長が歩みを止めない以上、彼らは徐々に麻帆良ドーム近づいていく。やがてドームの足下についた時、バゼットは改めてその建物の大きさに驚かされた。それ程の大きさだった。

 そして麻帆良ドームに入っていく。入り口からすぐのところにまずはロビーがあり、次いで正面に扉と地下へ降りる階段がある。そのうちで学園長は迷うこと無く地下への階段を選び、タカミチも続く。最後に戸惑いつつもバゼットが。

 控え室やらトイレやらが立ち並ぶ小汚い廊下を通り抜けて、やがて大きな扉の前につく。壁についていたボタンが押されると、その大きな扉は物々しい音をたてて開いていった。

「散々歩き回させてすまんかったの。ここが終点じゃ」

 そしてその先には予想に違わない光景。広い催事場があり、その周りを取り囲む高い壁とその更に上に観客席。

「範囲はこの壁に囲まれた全て。ワシが止めるまで存分にやりなさい。ただし、相手を殺すのは無しじゃ」

 簡潔なルールを言うと、学園長はブツブツと短く何かを唱える。そしてすぐに壁に沿って結界が張られた。

「2人とも、存分にやってくれ。では始め」

 戦場の中央に誘導するまでもなく、タカミチとバゼットの距離がほとんど無い入り口近くであっさりと開始の号令をかける学園長。そのあまりのあっけなさにバゼットは一瞬どう反応していいのか分からずに硬直してしまった。対するタカミチは学園長のこんな茶目っ気には慣れきっているので、バゼットの硬直している隙をついて瞬動を使用し、一気に距離を引き離す。

 彼らの距離は約10メートル。そこでタカミチは止まり、バゼットは正気を取り戻した。ちなみに学園長はいつの間にか観客席に移動しており、その手にはコーラとポップコーンが。

「油断……しました。しかしその格好はなんなのですか?」

 学園長は完全に無視して、バゼットは距離を取りポケットに手を突っ込んだままのタカミチを睨み付ける。それを笑いながら受け流すタカミチ。

「すまないが、これがボクの戦闘スタイルで……ね!」

「!!!」

 直感の命ずる通りにとっさに腕をあげ、顔をガードするバゼット。その腕がパパパンと景気のいい音をたてる。

「流石に防ぐ、か」

 半ば予想していたが、流石に自分の技を防がれてしまえばショックとなる。タカミチが視線を鋭くしてバゼットを見据えれば、バゼットもガードの間から鋭い視線をタカミチに向けていた。

「今のは……なんですか」

 魔力では無い、気でも無い。いや、確かに身体強化にそれは使っているのだろうが、バゼットを襲ったのはそんなモノではない。それを正しく理解した男装の麗人は、正しく理解してしまったからこその恐怖に抱かれてしまう。そして戦場においての恐怖はそのまま動きの束縛に直結する。

「もちろん、秘密さ」

 

 パパパパパパン!

 

 顔を険しくしたままタカミチは動きを止めたバゼットのガードに向かって己の技を出し続けた。ガードしているとは言えども腕にダメージは溜まり、やがては落ちる。そこまでいかなくとも僅かでもダメージが溜まってくれればいい。

 そう思い、ガードの隙間から見える鋭いバゼットの目を見すえながらもタカミチは技を止めずに出し続ける。

 対するバゼットもただ黙ってガードし続けている訳では無い。恐怖は感じてもパニックにはなっていないのだ。

 技の原理が分かれば、それが出来なくともどういう動作でどういう結果を引き起こすのか。それが分かれば対処の仕様はいくらでもある。

「始動(レッツビギン)―――」

 始動キー。この世界の魔法と違い、バゼットの世界の魔術は自己暗示であるそれを呟く。

 魔法は力ある存在と契約、もしくは自分の体の中にある魔力を存在変換して効力を引き出すのに対し、バゼット達の魔術は自己暗示、存在としての起源を遡る事により世界そのものと存在を接続して法則を具現化する。故に一歩誤れば世界という大きさに自分の体が耐えきれず、待つものは死のみ。そんな綱渡りのような、魔法使いにとっては狂気の沙汰に相違無い方法で神秘を世に送り出す。ただしその分、効果は絶大。

「――見えた」

 視力、筋力、反射速度を強化したバゼットにはタカミチの動作を正確に捉える。手を抜く時にポケットの端に引っかけ、力を溜める。その反動を利用して拳を繰り出し、拳圧によっての風属性の物理ダメージを与える。

 

 特筆すべきは、2点。

 1つはその攻撃法。魔力も気も込めていない上に、予備動作の抜いた手を視認させない高速のモーションはその射程距離も相まって銃の早抜きを彷彿させる。

 もう1つは10メートル程離れていても有効打を与えられるその破壊力。距離が離れればその分エネルギーが無駄に消費される為、近づけば近づく程に飛躍的に危険度は高まる。

 だがその一方で至近距離に近づいてさえしまえばその特質上、ノーガード、ポケットに手を戻す時間のロス、振り切る前に拳が止められる。弱点は山ほどある。つまり、超接近戦こそがタカミチの弱点。

 

「ふっ!」

 ダメージを蓄積されては反撃もままならない。バゼットはタカミチの攻撃の衝撃も利用して後ろへと飛ぶ。一息で5メートル程も間合いをあけ、仕切り直す。タカミチからの追撃は、ない。

「…やはり、その技の射程は10メートル程度のようですね。それ以上間合いをあけられると攻撃に威力がなくなる」

「初見で、しかも攻撃を喰らいながらそこまで冷静に思考をまわせるとは大したものだね。

 だがどうする? その距離から何か攻撃を仕掛けられるのかい?」

 互いに見せるのは余裕の笑み。その上で、バゼットは初めて構えを作った。その構えはボクシングスタイル。

「ほう……」

 そして感嘆の息が思わず漏れたのはタカミチ。それもそのはず、魔法使いの世界において西洋的な構えは絶滅種に近いからだ。

 

 確かに、表の世界ではボクシングスタイルを始めとした西洋が開発した格闘の構えは最強に近い。ルールを決め、その範囲で体中の全ての機能を理論的に突き詰めるからであり、更にルールを取り払った後でも専用の理論を組み立てれば一流の戦士が出来上がる。

 だが裏の世界ではそれが完全に裏目にでる。表の世界で重視されるべく、破壊力・スピード等の要素が全て魔力や気においてカバーされるからだ。表の世界・一般的には体が大きい方が破壊力・耐久力・スタミナ。スピードと小回りを除くあらゆる面で有利とされる。いやスピードでさえも体の使い方でなんとでもなる。ボクシングのように階級わけされていないと、体が小さいと言うだけで最強の称号を得られない事もしばしば。

 そういう意味においては、裏の世界では先天的な魔力量に依存する事も少なくない。だがそうと理解したならば、アーテファクトを含む『裏技』によって容易にそれはひっくり返る。いや、殺し合いという枠だからこそひっくり返す事が出来る。

 ならばこそ、裏において求められるのは東洋的な常時周囲を警戒して対処できるような技術、いなし受け流し倍返し。または鍛えにくい内部への攻撃といった柔らかな技を重視する。ボクシングスタイルのような、正面から弾き外面を破壊するといった硬い技は通用しにくい。

 もちろん例外はある。例えならタカミチの技はどちらかと言えば西洋的な側面が強い。だがそれでも技の開始である『居合』の起源は東洋的である事を考慮すれば側面が強いに留まる。完全に西洋的な体術を得意とする裏の一流は居ないと言っていい。少しでも頭の働くものならば僅かな攻撃力の上昇よりも、東洋的な体術のメリットが大きいと感じるから。

 更に言うなら、純粋に力のみを求める魔法使いもいる事はいる。だがそれも実戦には余り向かない二流三流という場合が極めて多い。そういう意味においてバゼットの構えはこのタイプのはずなのだ。弱ければならないはずなのだ。しかし集めた情報がそれを否定する。ならば、どこかに隠し玉があるのは道理。

 

 タカミチの目の前には完成されきったと言っていいボクシングスタイル。明らかに慣れきったその構え、そこからいかなる技が繰り出されるのか興味は尽きない。

(さあ、バゼット女史。どうでる!?)

 全力でバゼットを警戒するタカミチ、射程距離に入ったら迷わず拳を抜く準備は出来ている。一瞬の間、そして――

「なっ!」

 気が付いたら5メートルの距離があっという間に詰められていた。瞬動、ではない。魔力も高まりも気の高まりも感じなかった。ならば、これは魔力で身体能力を底上げしているとは言えども純粋な体術。

「くっ!」

「むっ!」

 タカミチ慌てて拳を抜く。6メートルの距離でバゼットを押し留める事が出来たが、言い変えれば何も出来ずに半分以上も間合いを詰められたという事でもある。それでも拳圧にバゼットは押し戻――

「馬鹿な…」

 ――されない。タカミチの繰り出す拳圧を、その両の拳で全て打ち落としている。確かにボクシングではその回転の速さに定評はあるが、それでもここまでの回転の速さは尋常ではない。例え、魔力で強化しているとしてもだ。

「どうしましたか、ミスタータカミチ?」

 ジリジリと全ての攻撃を叩き落としつつタカミチに近付くバゼット。徐々に拳圧の威力が上がるように感じるはずなのにその顔は涼しげ。先程の間合いを詰めた事も考えると答えは一つ。

 バゼットは純粋な力・速さのみを突き詰めた魔法使い。体術における柔軟さを全て放棄する代償に誰よりも強く、速くを追い求めた戦士。だがそれだけでは器用な魔法使いに翻弄されてしまう。タカミチもどちらかと言えば剛直を得意とする魔法使いだから噛み合うが、搦め手を得意とする魔法使いにはどうしても相性が悪くなってしまう。

 地力で押しきれる相手ならそれでも問題にはならないだろうが、上位の実力者は少なからず搦め手を使用できる。タカミチもその例外ではないし、裏の組織を1人で潰したという実績がある以上バゼットもその例外ではないはずだ。ただ、その搦め手を何時使ってくるかが大きな問題となる。

 

 そうタカミチが思考を回している間にもバゼットは着実に距離を詰め続ける。目の前の戦闘へ意識を戻したタカミチはジリ貧になる事を悟った。

(…じゃあ、これでどうかな?)

 徐々に近付くバゼットを見ながら、タカミチは次の策に移行する。

 流石のバゼットと言えども、居合い拳の嵐を叩き落としながらでは徐々にしか進めない。ならばバゼットが詰めるのよりも速く後ろに下がり、遠距離から一方的に叩き続ける。えげつないが理に適った方法を選択するタカミチ。

 そしてそれを実行に移すために足に魔力を溜め、一気に爆発させる。瞬動と呼ばれるその技術は中距離の瞬間移動にも似た速度を誇り、これを使用できない人間には追随を許さない技。

「甘いっ!」

 そのはず、なのに。瞬動で後ろに逃げたタカミチに向かって、瞬動を使ってもいないの一気に距離を詰めるバゼット。

 確かにボクサーは前後の移動速度には長けている。これは異常だと思うかも知れない。だがしかし、僅か前に純粋な体術でありえないスピードを出したバゼットである。しかも瞬動を使うための魔力を足に分配し、尚且つ後ろに下がるという行為は拳の弾幕を僅かなりとも衰えさせる。瞬動は足に魔力をたぎらせる為、見るものが見れば使う兆候は丸分かり。バゼットに言わせれば、タカミチが甘いと言わざるを得ない。

 4メートルはあった距離は完全に0になり、バゼットを目の前まで招き入れてしまったタカミチ。

(まずいっ!)

 目の前にいるバゼットを視界に納めつつ、タカミチは左手をガードに回して右手で居合い拳を放つ。

 

 ビシッ!

 

 だが敵の顔を狙ったそれは、間に割り込んだバゼットの右手によって完全に止められた。

「確かにそれなりに効きますが……接近戦には向きませんね」

 冷静に技の批評をする余裕まであるバゼット。そして掴んだ手を思いっきり反時計回りに捻り、タカミチに無理矢理背を向けさせた。

「馬鹿なっ!」

 しかしこれもやはりタカミチにすれば有り得ざる事。手一本で、力ずくで魔力を体中に行き渡らせた人を回す。どんな力があれば出来ると言うのか。

 だが、そんな思考を回している余裕は無い。左手をガードに回したとは言えども、背中を向けさせられてはろくな反応は出来ないのは道理。

 

 ゴッ!

 

「かはぁ……!」

 鈍い音がそして衝撃がタカミチの背中から奔り、息が漏れる。足は地に着かず、嫌な浮遊感。殴られ、宙を飛ばされるタカミチ。魔力で強化していたからよかったものの、していなかったら確実に殺されていた一撃だ。並の術者でも重傷は間違いない。

(純粋に強い。裏の組織を1人で潰すわけだ)

 だが魔法世界では音に聞こえたタカミチ、宙を飛ばされながらも思考は冷静。宙で体勢を整え、追撃してくるバゼットに備える。そしてその予想通りにバゼットは宙を舞うタカミチが地面に着くと同時に攻撃を加えられる様に速度を調節しつつ突っ込んできていた。

「ふっ!」

 もちろんそれを甘んじて受けるタカミチではない。左手をポケットに突っ込んで、居合い拳。ダメージでなく速度を殺す為に放たれたそれは術者の望み通りに男装の麗人の足を一瞬止める。その一瞬の違いで無事に着地したタカミチは、左手をポケットから出しつつ右手で目の前まで迫ってきたバゼットにカウンター気味の一撃をお見舞いする。が、

「だから、甘いと言っているのです!」

 思いっきり腕を引いて殴りかかった、威力だけはあるだろうタカミチの腕をショルダーブロックで弾き返したバゼット。そして体を縮込ませたまま、その懐に入り込んだ。

 攻撃の為に胸の前で腕を揃えるバゼット。防御の為に胸の前で腕を揃えるタカミチ。そして――

「――ハァァァ!」

 

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 

 

 

「がぁぁぁっ!!!」

 地鳴りを連想させる鈍い音と衝撃。その全てをガードしているとは言えども、タカミチの口から苦悶の声が漏れる。

(この攻撃力は――正直、侮っていたな)

 冷や汗を流しつつも、タカミチはそんな考えがよぎる。よぎるが、何が出来る訳でもない。防御に魔力を全力を注がなくてはならないし、瞬動を使っても逃げ切れないのならば、タカミチに逃げるという選択肢はないも同然。

(ここまで力だけを突き詰めるとは――なんて人だ。しかも圧倒的。なるほど、純粋に強い相手は魔法使いにとっても未知数の相手だからな。そこらの二流三流とは違ってむしろ相性はいいのか)

 今のタカミチには思考しか許されない。その思考において、まだ余裕が隠されている事をバゼットは気付けない。

 

「ァァァァァァァァァ!」

 攻める、攻める攻める攻める。バゼットはガードの上からでもお構い無しに叩き続ける。下手にアッパーを混ぜてタカミチにかわされてもつまらない。ガードの上からでも叩き続ければいつかはガードが壊れる。そう信じて一心にタカミチの腕を叩く、叩く叩く叩く叩く叩く! が、

(……まだ壊れないのか)

 もう2分はガードを叩き続けている。なのに壊れない。破壊力にそれなりの自負があるバゼットには屈辱の事実だ。タカミチの表情を伺えば、それは苦悶。だが壊れない。楽になろうとしない。

(少し侮っていましたか)

 バゼットはそう思考を回す。確かに今の攻撃は回転の早さを重視して破壊力は二の次になっている事は否定できない。それでもそこらの相手ではこれで十分だと思っていたのだが、よくよく考えてみれば相手に不足無しと言ったのは他ならぬバゼット自身だ。最高の一撃から大きく劣る攻撃で仕留めようとしたのが間違えだったのかもしれない。

(良し……!)

 そう判断してからは早かった。右手は変わらずに連打を続け、左手を顔の側まで近づけて力を溜める。そして攻撃――

 

 ビキ!

 

「グゥゥゥゥ!!!」

 ――せずに。直感が左腕を胴体のガードに向かわせる。そして直感は正しかった。ナニカが左腕を押し潰し、骨にヒビを入れる。貫通力のあるその攻撃は衝撃を胴体まで伝え、肺から空気を押し出す。だが肺の方は後に残るダメージではない。一呼吸すれば立ち直れる。体がそう判断し、理解するより早くナニカを行なったであろうタカミチから距離を取るために足を後ろに下がらせる。

「逃がさない!」

 もちろんそれをみすみす黙認するAAAのタカミチ・T・高畑ではない。本能がさせた撤退に見事に喰らいつき、今度はタカミチがバゼットの懐へと潜り込む。

(……なにをするっ!?)

 バゼットは懐に潜り込んだタカミチを凝視する。タカミチは右手を胸の前で溜め、そして肩・肘・手首と完全な連動をさせつつその拳をバゼットへと繰り出していた。

(スクリューブローか!)

 その攻撃を、もう一度左腕で受けなおす。そしてタカミチの拳はバゼットの左腕を押し潰し、今度は骨を叩き折る。貫通力のあるその攻撃は衝撃を胴体まで伝え、肺から空気を押し出そうとするも、あいにく押し出される空気はもう残っていない。骨がヒビはいった事と折られた事の差異を除けばそれは正しく先程受けた痛み、苦しみと同じものだった。

 今度はそのタカミチの攻撃の方向に従い、後ろに飛んで最後の一押し分の衝撃を緩和した。バゼットは飛ばされながらも一息ついて、状況を解釈する。

(ガードの姿勢がそのまま反撃の溜めになってた訳か。あの状況で動けなかったのは確かなようだったけど、言い換えれば少しでも状況が推移すれば即座に反撃に移れる状態だったわけだな。気付かなかった私が馬鹿か。

 さっきの大振りのパンチといい、タカミチの接近戦が脆いと油断させるのも折りこみ済み。完全に掌の上で踊らされた)

 少し考えれば分かる事だった。ポケットから手を出すには後ろか、または上にしか方向は無い。だというのに前に衝撃を飛ばしている以上、拳を方向変換させているのに決まっている。勢いを殺さずに方向転換するを可能にするのは柔軟で強力な肘と手首が必要不可欠になる。それ以前として、空気を介して攻撃する居合い拳の方が直接攻撃より劣るのは当たり前。あまりに特殊な攻撃が当たり前な事を当たり前と理解させなかった。

 それらを全て複合させたスクリューブローの破壊力としてはむしろ当然というより、ダメージが少ない方。

 と、そこまで考えて気が付いた。

(……ああ、そういえばコレはアナタでしたね)

 ボロボロになりつつあるソレは、よく考えればあの歪な英霊が変化したもの。そう考えればこの程度のダメージで済んだのはむしろ納得だ。そこまで考えて彼女の短い浮遊時間は終わる。

「ふっ!」

 地面に叩きつけられぬよう足をバネにして衝撃を受け流したバゼットが体勢を整えるまでもなく、追撃してきたタカミチがスクリューブローで突く。その攻撃はガード不能と言う事は先程の攻防で織り込み済み、しかしあっさりかわせるほど遅い速度ではない。ならばと死に体である左腕を体の回転で振り回し、その一撃の盾にする。

「がぁぁぁぁぁぁぁ!」

 死に腕を体の回転とは言えども動かす痛み、さらにその腕でタカミチの攻撃を防ぐ痛み。その激痛は百戦錬磨のバゼットといえども苦悶のうめきをあげさせた。しかもその程度でスクリューブローが防げるはずも無く、苦痛の代償は一瞬。必殺の一撃はなおもバゼットに迫り来る。

 

 チッ!

 

 その、一瞬。大いなる苦痛を代償にした一瞬で必殺の一撃はかするだけの被害へと姿を変えた。

(うまいっ!)

 心の中で思わず感嘆の言葉を上げるのはタカミチ。

 なにより評価するべきはその決断力。いくら被害が最小限になると分かっていたところで、スクリューブローの痛みはバゼットに染み付かせている上に盾にしたのは動かすだけでも激痛が奔るであろう左腕。それをコンマ何秒かのうちに判断し、決断するというというのはもはや神業に等しいと言っても過言では無いだろう。

 そしてだからこそ、それは大きなチャンスをバゼットに与える。必殺の一撃をかわしただけでなく、バゼットはタカミチの懐に入る事に成功した。そこはスクリューブローを打ちづらい場所であるだけでなく、バゼットの攻撃力なら十分なダメージの与えられる場所。左腕が潰れたバゼットだが、右腕一本でタカミチを打倒出来る場所でもある。

(だが、そうとボクに悟られてはおしまいだ)

 予想の通り、バゼットはタカミチの目の前で右腕を思いっきりひいて力を溜める。片腕である以上、回転の速い攻撃は不可能であるだろうが無傷の右腕での最高の一撃ならばバゼットにも十分勝機があると言えるだろう。故にタカミチは左腕を使い潰すつもりで防御に使い、右腕でスクリューブローをカウンターで打つ為に力を溜める。

(左腕は仕方ない。だが代わりに勝たせて貰う……!)

 左腕を犠牲にする決意を持って力を溜めるタカミチ、そして―――

 

 ゴッ

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!」

 なぜか、右脇腹に、ありえない痛みがはしった。

(バ、カな!)

 吹き飛ばされ、着地するまでタカミチは混乱の極みにいた。勝利を確信した瞬間の痛打、おそらくあばらの3本は砕けた。折れる、とかそんなレベルでないダメージで、砕けた骨が内臓を傷つけなかったのはある意味奇跡といってもいいかもしれない。

 そして吹き飛ばされた先で、正気に返ったタカミチ。そしてどんな攻撃を喰らったのかを理解する。

「膝、か」

 消去法でそれしか残らない。バゼットの左腕は壊れているし、位置的に他の部位で攻撃できたとも思えない。更に吹き飛ばされたタカミチを追撃しなかったのは攻撃に足を使い、体勢を立て直せなかったからに他ならない。

 バゼットの左腕は完全に壊れ、タカミチも脇腹の骨をヤってしまった。

「……仕方ないな」

 手加減を完全に排除し、殺すつもりでバゼットに攻撃する決意を固めるタカミチ。体から魔力と気を同時に溢れさせる。相反するそれはパリパリと変わった音をたてて拒絶反応を起こしているが、もしそれが統合されたなら爆発的な活力を術者に与える秘法。

 

 咸卦法。西洋風にはシュンタクシス・アンテイケイメノイン(気と魔力の合一)と呼ばれるそれこそがタカミチの切り札。

 

 対するバゼットもタカミチの決意に気付く。

「ほぅ……。そちらがそう来るなら私も手加減はいらないな」

 背中の筒から丸い石、もはや岩といっていい大きさかもしれないソレが飛び出し、バゼットの周りを旋回する。そしてそれはやがてバゼットの斜め後方で浮遊しながら停止した。

 

 『後より出でて先に断つもの(アンサラー)』の二つ名を持つ『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』。

 

 相手の切り札に反応し、相手の切り札を発動させた後にフラガラックを的中させ死にいたらしめた場合に限って、因果を歪める事によって「相手の攻撃の後から発動して先に攻撃を命中させた」という事実を「相手よりも先に攻撃をなした」と改竄し、「相手の攻撃がなかった」事にしてしまう。

 かつてバゼットがいた世界において現存する数少ない宝具であるそれは、ケルト神話における光の神ルーが所持したと言われるそれと同等のものである。

 いわく、彼の祖父バロールの直視の魔眼を打倒した。それほどまでの伝説がある神の持つ一級品の宝具。

 

 そして殺気を纏ったまま向かい合い、そして――

 

「やめんかぁ!!!」

 

 威圧の伴った学園長の一喝。それにより2人は完全に硬直してしまった。

「始めに相手を殺すのはナシと言ったじゃろうに」

 ポップコーンとコーラはすでにその手には無く、何時の間にか2人の間には学園長その人が立っていた。

「バゼット君の実力はだいたい分かった、正式に君を採用しよう。

 ただしこれ以上やるとどちらかが死ぬじゃろう。この試合はここで終わりじゃ」

 そして学園長はタカミチの方に向き直る。

「タカミチ君らしくもない。本気で殺しかかるとは」

「面目ありません……」

 しゅんとなったタカミチに、情けは無く次の言葉を申し付ける。

「罰じゃ、しばらくの間バゼット君の面倒は君が見なさい。さしあたり、今日のところは彼女を女子教職員用の寮への案内じゃ」

「承りました」

 学園長は次にバゼットの方を向く。

「バゼット君もタカミチ君から仕掛けたとはいえ相手を殺そうとしたんじゃ。それなりの罰は受けて貰う」

「はい……」

 バゼットも自分の行動を恥じているのか、小さくなってそれを受け入れる。

「タカミチ君の世話になっている間は、給与30パーセント減じゃ」

「了承しました」

 そこでいったんの話が終わる。次にブツブツと学園長がナニカを呟き、魔法を完成させた。そしてタカミチの体が光に包まれる。

「……ふぅ」

 光が消えた時タカミチの体に痛みは無く、その驚異とも言える学園長の魔法でタカミチの体は完全に癒された。ようやく痛みから解放されたタカミチは静かに息を一つ吐く。

「バゼット君も治療は必要かの?」

「ご心配なく、自分で治せます」

 学園長の好意をやんわりと断り、バゼットは右手中指の先を噛みきって、そこから流れる血で左腕の患部に文字を書く。

 そしてブツブツとナニカを呟けば、見る間にバゼットの傷は癒されていった。

「ほぅ、ルーン魔法か」

「お察しの通りです」

 学園長の言葉を肯定するバゼット。そして内ポケットから、なにやらファンシーな柄のバンドエイドを取り出して右手の傷に当てる。そして再びいったんの話が終わった。

「さて、と。あまり荒れてはおらんが、いちおうワシはこの催事場のあとかたずけをしてから戻る事にするわい。2人は先に帰ってなさい」

 その言葉に従い、学園長に見送らながらタカミチとバゼットは肩を並べて無言のまま催事場を去る。大きな門を抜け、小汚い廊下を通り、ロビーへと続く階段を登って。そこで始めてタカミチが口を開いた。

「済まないね、最後にムキになってしまったよ」

 コツコツコツと、きっかり3度。2人の足跡がなってからバゼットが受け答えをした。

「謝るのはこちらもです。最後に私もあなたを殺す気になってしまった。非礼をお詫びしましょう」

 そのまま2人は渡り廊下にさしかかり、タカミチの次の言葉が飛び出した。

「もし、あのまま学園長が止めなかったらどうなっていたと思うかい?」

 互いに切り札をだしあって、息の根を止めようとしたら。相手の切り札が分からない以上この問いを答えるのはひどく難しいのだが、あいにくとここで勝てないと言うようでは、自分の切り札を信じられないようでは。裏の世界をわたっていけるはずも無い。バゼットは当然己の自信を口にする。

「勝負に勝って試合に負けるといったところでしょうか。フラガラックは必殺の宝具。放てば確実にタカミチは死にますし、そうなれば私の反則負けです」

「大層な自信だね。バゼット君の切り札……宝具・フラガラックと言ったかな? ボクの切り札を見ても同じ事が言えたなら、正直スゴいよ」

「言いません。結果的にあなたの切り札を出すことはありませんから」

 やがて渡り廊下も終わり、放課後とは言えども一般人も居る空間へと入った。よって裏の世界の話題を話すわけにもいかなくなり、一般人に聞かれても問題の無い話題へと移行する。

「それで、私の仕事はなんなのですか?」

「先ほどの話の通り、麻帆良の警備員をして貰う。昼と夜と両方が担当になると思うけど、他の方とシフトを組んだ上で外部や内部において秩序を乱すモノを粛清するのが主な仕事だ。

 ただし、生徒には後遺症が残ったり大きなケガをさせないように」

 バゼットは『外部の』の下りで一瞬眉をひそめた。普通に聞いたら強調されないであろうその言葉に、間違いのない緊張を感じて心を引き締める。そしてしばらく考えた後、口を開いた。

「質問をよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

 真剣な目をするバゼットに、タカミチは自然と力が入る。

「外部の一般人なら、殺してもいいのですか?」

「……無しだ。というか常識で考えてくれたまえ」

 そして脱力。あり得なさすぎるその問いに、バゼットのお守りまでしなければならない事で頭痛まで感じてしまうタカミチ。

「ならば『コチラ側』の人間は? 捕らえた方がいいのでしょうか、それとも殺した方がいいのでしょうか」

「バゼット君。君ね、ここでは生徒も聞いてる可能性があるんだからもう少し言葉を選んで下さい」

 殺すだの殺さないだの、物騒な言葉をたしなめるタカミチだが今度の質問は比較的まともな部類に入る。

「それで先ほどの質問だが基本は捕まえてくれ。たが、被害が広がるようなら時間を惜しんでくれて構わない」

「せんせー、なんの話をしてるの?」

 唐突に2人の後ろから声がかかった。反射的に後ろを振り返るとそこには3人の女の子。バゼットには見覚えの無い少女達だったが、タカミチにはきちんと見覚えがある。彼女等はタカミチの元担任した2ーAの柿崎、釘宮、椎名のチアリーダー3人組だった。

「捕まえるとか被害とかなんの話?」

 椎名が不思議そうに首を傾げる。話を聞かれたことでバゼットは記憶を消そうと魔力を回すが、やんわりとタカミチがバゼットと3人組の間に入る事でそれを制した。そして柔らかい声で説明をする。

「旧校舎のネズミの話さ。まだあまり被害はでてないけど古い建物だからね。柱とかかじられてボロボロになる前に駆除してしまおうという訳なんだけど、ならべくなら捕獲して済ませたいという話だよ」

 菩薩の様な笑みで悪魔のような嘘をつくタカミチにバゼットはやや呆然としてしまう。対して椎名は本来そんな事はどうでもいいのだろう。視線をバゼットに向けて更に問う。

「で、そっちの美人さんは誰かにゃ~? もしかして先生の彼女?」

「へぇ~、学校に彼女連れ込むなんて先生もやるねぇ~」

「アスナの反応が楽しみ~」

 椎名の言葉に便乗して、後ろに控えた柿崎と釘宮も一緒になって冷やかしだす。そんな軽い女子中学生に顔をしかめるバゼットだが、タカミチは明らかに慣れ手際で対応する。

「いや、彼女はこれから麻帆良で警備員の仕事につく事になったバゼット君だ。君たちの寮の警備にもつく予定だから困ったことがあったら相談するといい」

 淡白なタカミチの対応にチアリーダー3人組はつまらなそうな顔をする。

「ところで、まだ仕事が残っているんだけど。用事がないなら行っていいかな?」

 そのタカミチの言葉にはっとする柿崎。

「あっ、そうそう。これからうちのクラスでネギ先生の歓迎パーティーをやるんだけど、高畑先生もどう?」

「ボクもかい?」

 驚いた顔をするタカミチに、申し訳なさそうに口を挟む釘宮。

「ええ、高畑先生のご苦労さまパーティーも兼ねてますから。もちろんバゼットさんもOKです。

 お仕事が忙しいなら仕方ないですけど……」

 それにアッハッハッと笑いながら首を横に振るタカミチ。

「いやいや、かわいい元教え子のお誘いだ。至急済ませなくてはいけない仕事は1つあるけど、それもすぐに終わるからその後で寄らさせて貰うよ」

 タカミチの言葉にパァーと顔が明るくなる3人。

「よっしゃー、高畑先生参加決定!」

「これはアスナが喜ぶぞー!」

「じゃあ、ならべく早く来て下さいねー!」

 そして賑やかに去っていく。それを見ながらニコニコと手を振るタカミチと無表情なバゼット。

 そして視界から彼女たちが去った時に、タカミチはニコニコ顔を変えないままバゼットに話しかける。

「いきなり魔法に頼るのはよくないな、話術でもなんとかなる範囲だろう」

「確かに反応された範囲ではそうかも知れません。だがしかし、実際にどこまで聞かれたか分からない以上記憶を覗き、しっかりとした対応をとるのが最善でしょう」

 そのバゼットの言葉を聞き、笑顔をやめてふぅとため息を漏らすタカミチ。

「魔法と言えども万能じゃない。一回二回ならともかく、そう何度も記憶を消す事態になったら誰かが騒ぎだす。多少のリスクを負っても伝家の宝刀を抜くべきじゃない」

「……分かりました、そのような方針だと言うのならば従いましょう」

 どこかの平行世界で、文字通りの伝家の宝刀(フラガラック)をじゃんけんごときに用いたとは思えない殊勝な言葉。

 タカミチも事の真贋はともかくとして一応の言質をとれたことに満足しつつ足を進める。

 学校を抜け、街道へ。無言のままに歩を進める2人だったが、ふとタカミチが足を止めた。

「どうか致しましたか、ミスタータカミチ?」

 タカミチの視線の先を探りながらバゼットは聞き返すも、その時にはバゼットにも何が起こっているのかだいたい理解した。

 姿は見えないが、気の陰からネギの魔力とアスナの気配。

「やれやれ、またネギ君が何かしたかな?」

「というより、明らかに彼は魔法を一般人の前で使っていましたが、オコジョにしないでいいのですか?」

 方向を変え、彼らがいるであろう木陰へと歩くタカミチの後ろを歩きつつ、バゼットは呆れながら問いかける。

「まあ、魔法を使ったって魔法だとバレなければいい訳だからね。それにバレた一般人を抱き込めば問題もない。あくまで世間一般にバレるような事をしなければいいんだよ」

「……そんな問題でしょうか?」

 今の言葉にやや納得出来ないバゼット。

「そんな問題さ。

 それに今の彼は修行中、多少魔法がバレるのは折り込み済みの話。バレた時にちゃんと学習してしっかりとした対処法を学べば試験には合格になる」

 話としては通る。だいたい10歳かそこらの子供に完全を求める方が酷なのだ。

「つまり、今タカミチが彼の元に向かっているのは?」

「フォローの為、だね」

 そう言っている間にも彼らは件の木陰に近づいていく。そして―――

「おーい、そこの2人。何をやってるんだ?」

 ブレザー一枚しか身につけていないアスナの姿を直視した。

「あ……!?」

 突然の来訪者に、そして想像を超えたアスナの姿に一瞬全ての動きが止まる。

 一番先に我に返ったのはバゼット。急いで上着を脱ぎ、アスナに羽織らせる。

「あ、ありがとうございます……」

 呆然としたまま礼をいうバゼットをおいておき、次にバゼットはタカミチを睨み付けた。

「な、何かな? バゼット君……?」

「問答無用!」

「たわっ!?」

 間一髪、タカミチは突如として繰り出されたバゼットの拳をかわす。かわされたバゼットの拳はタカミチの後ろにあった街路樹にあたり、

 

 メキメキメキメキメキメキッ!

 

 洒落にならない音をたてながら倒れた。

「ちょ、ちょっとバゼット君っ!? いきなりなんだいっ!?」

 いきなり殺人パンチを繰り出されたタカミチはバゼットの据わりきった目を見ながら問いかける。

「うら若き少女の裸体を凝視するとは…………その性根、叩き直しましょう!」

「いやだってボクのせいじゃないだろう!?」

「問答無用!」

 殺人パンチを連打するバゼットに、冷や汗を流しつつその全てをかわすタカミチ。そして一歩間違えれば死にかねないタカミチに全力でパニクったアスナ。

「バ、バゼットさん。私の服を脱がしたのはネギ坊主ですからっ!」

 タカミチを助けようと洒落にならない言葉を発する。そしてそれを聞きつけてタカミチへの攻撃を止めるバゼット。そしてネギの方へ振り返る。

「ほぉ」

「ひっ!」

 目から勢いよく涙を流すネギを般若の目で見つめるバゼット。

「そうですかそうですか、性根を叩き直すべきはアナタでしたか」

 くっ、と拳を胸の前で構えて標準をネギに合わせる。

「いっぺん死んできなさい!」

「ストップ、バゼット君っ!」

 タカミチはその拳が繰り出される直前に、なんとかバゼットを羽交い締めにする。

「はなっ、離しなさいタカミチ! この少年の性根を叩き直すのです!」

「君が殴ったらネギ君の性根を直す前に昇天しちゃうから!」

 ギャーギャーとすごい事になっている2人。そんな2人を呆然と見ているネギとアスナ。

「ネギ君も呆けてないで逃げなさい!」

 タカミチの必死の言葉に、正気に帰ったのはネギでなくアスナだった。

「ほら、ネギ坊主。とっとと逃げるわよ!」

 未だに呆けるネギを抱えて走り去るアスナ。

「アスナっ! ネギは置いて行きなさい! 性根を……って、速っ! 足速っ!」

「いいから君はとりあえず落ち着きなさい!」

 まるでゴリラのような力で暴れるバゼットを、力ずくで押さえつけるタカミチ。

 疲れそうなバゼットの教育に、心の中で大きなため息をついたタカミチだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。