二組六人の異世界人   作:117

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1章 8話

 還る場所なぞ、どこにもない。

 

 

 

「…………」

「…………」

 全校生徒に温かな拍手で迎え入れられる前夜。バゼットたっての願いもあり、特別に女子寮の416号室に通された士郎。そこは重苦しい沈黙が支配していた。

「…………」

「…………」

 時にして約一時間。微動だにしていなかった二人。

「…………」

「…………分かり、ました。もういいですから頭を上げてください、バゼットさん」

 目を閉じた士郎の発したその言葉でようやくバゼットが一時間ぶりに頭をあげた。そう、彼女は一時間、ずっと頭を下げ続けていたのだ。そしてあげた顔にもまだ申し訳なさが漂い、その憂いを帯びた表情はとても美しいものだったが、あいにくとその表情に見とれる人間はその場に誰もいない。

 そして目を閉じたままで、確認のように士郎が口をひらく。

「……オレが平行世界に来た原因は、あなたなんですね」

「はい」

 約束の四日間における直接の原因はバゼットが『死にたく無い』と願った事。その願いが良しにせよ悪しにせよ、士郎はただ巻き込まれただけ。

「……もう、オレに還る所はどこにもないんですね」

「はい」

 彼等が還る場所というならば、もうどこにもない約束の四日間のみ。大筋『元の世界』に還ったとして、そこにはどんなカタチにしても『衛宮士郎』は居て、彼はどうしても異邦人にしかなれない。

 士郎は、この五年間ずっと自分の居た痕跡を探し続けていた。冬木があった場所を探したりもしたし、イギリスの時計塔の辺りを当ても無くうろついたりもした。あらゆる情報機関を探し、清水の舞台から飛び降りる覚悟で自分が固有結界持ちだという情報も流した。そしてその全てが空振り。その時は平行世界に来てしまったという覚悟はうすうすと持っていた。が、いくらなんでもここまで状況が悪いとは夢にも思わなかった。もし事故でここに来たとしても、誰かが――遠坂が必ず探しに来てくれると信じていたのだ。だが、この状況ではそれすらも期待できない。一抹の希望にさえ手痛く裏切られてしまった。

 

 ふうぅ

 

 軽く、重い士郎のため息。それにいたたまれないのはバゼット。憂いの色がますます深くなっていく。

「……まいったな」

 士郎は幻の四日間の記憶全てが残っていた。無論、無限の記憶なんて人の脳に留めて置けるはずもないから、必要な記憶を残して徐々に忘れていった。そして忘れていった記憶の中に赤の弓兵との対話があったが、それでも過去全てが否定された事なんて無い。これはもう、とびっきりの非常事態だ。

「――まぁ、いいか」

 なのに。さらりとそう言い切る士郎。目を見開くバゼット。そして彼女は信じられないような口調で問い返した。

「まあいいか、とは?」

「いや、そのまんま。深い意味は無いんだけどさ」

 士郎は続けて口を開く。

「結局、どこに行ってもオレのやる事は変わらない。全てを救えるような正義の味方になる事に変わりは無いんだから」

 なんの気負いもなく言い切る、少年。そう、彼はまるで少年のようだった。もう、それは前に進むしかない疲れきった、けれども疲れている事に気がついていない少年。歪みを正せない少年は走り続ける。

「ありがとう、バゼットさん。これでようやくオレは先に進める気がするよ」

 そんな彼を今まで以上に痛ましい表情で見つめるバゼット。けれども何も言えない、変えられない。

 

 彼が救われる日は、来るのだろうか?

 

 

 

 

 

「うーん、いい天気。終了式日和だなー」

 時は変わり、翌朝。ドドドド……と物凄い足音を立てながら爆走するネギとアスナ、そしてローラースケートで追従する木乃香。

「おはよー、ネギ君」

「ニーツォオ!」

「おはよーございます」

「ネギ君、おっはよー♪」

「おはよー、桜子さん」

 そして次々に合流していく彼の生徒達。そんな中、本を読みながら歩いている一人の女生徒を見つけて、ネギは大きく手をふった。

「おはようございます。えーと……長谷川さん!」

 少し戸惑うが、正しい名前で挨拶をするネギ。

「はよー♪

 んー♪ 2ーAでも特に目立たない方の千雨ちゃんまで覚えてるなんて教師の鏡っ」

「いえっ、あの…」

「…………」

 挨拶をしつつ、かなり失礼な事をいいつつ、ネギを誉めつつ。無駄に器用な事をする桜子になんと言っていいのやら言葉に困るネギ。千雨の頭に怒りマークが出ているのに気づいているのだから尚更だ。

 が、千雨はそれに対して多分に諦めの感情が入っているので特に何も言わない。それよりもまず湧いてきたのは呆れの感情。

「――ったく。遅刻でもないのになに元気に走ってんだ、あいつら…。

 ガキ……」

 かなりガラ悪く毒づく千雨。

 

 ――そしてそれから約一時間後、終了式にて。

 

「フォフォフォ、皆にも一応紹介しておこう――。

 新年度から正式に本校の英語科教員となるネギ・スプリングフィールド先生じゃ。それからこちらの二人の男性がネギ先生の補佐を担当する横島忠夫先生と衛宮士郎先生。

 ネギ先生には4月から『3―A』を担任してもらう予定で、こちらの女生徒は3―Aに編入予定の氷室キヌ君じゃ」

 

 オオーーーッ♪

 

 ザワザワパチパチとどよめきと拍手が響く中で一人ガビンとする千雨。

(なっ…、何ぃ~~~っ!!)

 この瞬間、来年度はかなりロクでもない事になると確信した千雨だった。

 

「という訳で2―Aの皆さん、3年になってからもよろしくお願いしまーーす!!」

 教壇に立ってぺこっと可愛らしく頭を下げるネギに、教室内のテンションもウナギ登り。

「よろしくネギ先生―っ♪」

「先生、こっち向いてこっち―っ」

 みんなで大きく騒ぎ立てる中、まずは必要な紹介をとネギは入り口の方を見る。

「さて、今日から2―Aに所属する3人の紹介を先にしちゃいますね。入って下さい!」

 ネギの言葉で盛大な拍手と共に、3人が入ってくる。

「…………」

「おおっー。転校してきた気分だな」

「うわ、うわぁ。緊張しちゃいますぅ」

 無愛想で肌の色が黒く、対照的に髪が真っ白な背の高い、どこか執事という言葉が頭に浮かんでくるようなスーツ姿の男性。デザインセンスがやや古く、頭に真っ赤なバンダナを巻いた物凄くラフな格好の男性。長い黒髪を携えた、大和撫子といった雰囲気を携えた麻帆良中学の制服を着た女性。

「入ってきた順番に衛宮士郎さん、横島忠夫さん、氷室キヌさんです。終業式でも紹介された通りに僕の補佐をして頂く為に副担任になったお二人と、転校生の方です」

 

 よろしくーっ♪

 

 子供のような返事をする一同を見届けたネギはチラリと士郎の方を見る。その視線に気がついた士郎は一歩前に出て自己紹介を始めた。

「衛宮士郎、好きに呼んでくれて構わない。年は24だ。趣味は……料理とガラクタいじりかな? 特技は弓と壊れた物を直すこと。

 一応、昔ネギ君と一緒にイギリスで住んでいた事があって、英語だったら教えられる。分からないところがあったら遠慮なく聞きに来てくれ」

 

 ざわぁぁぁ

 

 とある下りでざわめきが教室中に広がった。特にショタコン委員長とか。

「あら、ネギ先生のお兄さまのような方なのですね。ではお義兄様と呼んでもよろしいですか?」

 と、間髪入れずにショタコン委員長は自分を売り込む。神速の挨拶にどでかい汗を後頭部に背負う士郎。

「いや、お兄さんの発音がおかしくなかったか? えっと……」

「あら申し遅れましたわ。わたくし、委員長をやっております雪広あやかと申します。どうかあやかと呼び捨てになさいませ、士郎先生」

 ニッコリと笑うあやかだが、士郎の背中にはいやな悪寒が走る。

「あ、ああ。よろしく、あやかちゃ「こんにちはあやかさん! 僕、横島忠夫、今後ともよろしく!」」

 

 ドゲシッ!

 

 あやかと握手をしようとした士郎を思いっきり蹴飛ばして、代わりにあやかの手をしっかりと握りしめる横島。

「…っとぉ」

 そして蹴飛ばされた士郎はというと、コミカルに吹っ飛ぶ事こそなかったが、たたらを踏んで場所を譲る。

「あら、忠夫先生でしたわね? あなたもネギ先生とお知り合いで?」

 セクハラに近い握手をする横島に、ネギの家族に近い人だと勘違いして淑女な反応を返すあやか。

「いえいえネギ坊主とは数日前に会ったばかりですよ。それよりも、あやかさん。今夜一緒に食事でもどうですか?」

「まあ、それは――」

 

 ビキィ

 

「ひぎぃ!?」

 破滅的な音が横島の手から鳴る。

「いきなり名前を呼び捨てとは失礼じゃありませんこと? いくら先生と生徒とは言えども礼節はわきまえて頂きたいですわね、よ・こ・し・ま・せ・ん・せ・い?」

 

 ギチギチギチギチ。

 

 有機生命体がたててはいけないような音を鳴らさせるあやかの握力。

「いやもうホントすいません、反省してますから手を離してくださああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 ボキンッ!

 

 その握手は横島のカルシウムが砕けるまで続いたという。

 

「うぉぉぉぉ。手がぁ、手がぁぁぁ!」

 某大佐ネタを手にアレンジして転げ回るバカ一人。

「よー、横っち。相変わらず節操無いねぇ」

「ん……? その声は……?」

 そんなバカに声をかける腐女子が一人。その声に反応して、横島は何事もなかったかのように立ち上がる。

「おぉ、マイブラザーパル! そっかそっか。夕映ちゃんと木乃香ちゃんが一緒のクラスなんだから、当然パルとのどかちゃんも居るって訳だな?」

「いや、ていうかね。成績発表の場に私もいたんだけど。気が付かなかったの?」

 パルの言葉もなんのその。既に視線でのどかを探していた横島は、のどかを見つけて目が合う。

「うひぃ!?」

 んで、目が合った瞬間に奇声を上げて横島から目を逸らすのどか。

「…………」

 そんなのどかに、地味にショックを受けたのか、うずくまってね地面に『の』の字を書く横島。その姿が更に一人の生徒の記憶にヒットした。

「あー、あの時のナンパ男っ!!」

 声の主はもちろん釘宮。そしてその言葉を皮切りに柿崎と桜子も騒ぎだす。もう騒ぎ方が芋づる式だ。

「ナンパ男って何っ!?」

「あー、あの時の!!」

「なになに、くぎみー知り合い?」

「くぎみー言うなっ!!」

「よーこーしーまーさぁ~ん!?」

「ひ、ひぃぃ!? む、昔の話だよおキヌちゃん。時効だよ、ホラもう時効!!

 つか、ほら。ナンパ位いいじゃないか、ねっねっ!?」

 あちらこちらで阿鼻叫喚。だけど2―Aにとってはこれがデフォルト。あわあわとパニくるネギを目にした士郎はため息をつきながらも話を進めるためにパンパンと手を叩いて場を鎮めようとする。

「まだ紹介は終ってないぞ、騒ぐんじゃない。横島先生も氷室もまだ自己紹介が済んでいないんだからふざけないで」

 その言葉で我に帰るのはおキヌただ一人、他の人間は相変わらずノリにノってお祭り騒ぎ。

「あ…はい、そうですね。自己紹介しなくちゃ。えっと……」

 クラスの様子を見るおキヌ。カオス。ネギの様子を見るおキヌ。パニック。

「えっと……」

 すがるように士郎を見るおキヌ。はぁ、とため息をつきつつも仕方が無いと大声を張り上げる士郎。

「みんな、静かに! 氷室が自己紹介をするから!」

 一瞬だけ静まりを見せる教室。それは冷静になったのではなくて、より興味をもった方向にノリが移行したという事で。ノリが向けられたということを敏感に感じたおキヌは少々ひるみながらも自己紹介を開始する。

「ひ、氷室 キヌと申します。おキヌと呼んでください。歳は15なんですけど、病気で学校に行けなかったので皆さんと同じ学年になりました。一つだけ年上になりますが、細かい事は気にしないでどうかよろしくお願いいたします!」

「おー、よろしくおキヌちゃん!」

「気にすんなー! イッコ上だろうがニコ上だろうが楽しけりゃOK!」

「そっか~、一つ年上か~。まっ、そんなの気にしないで。うちのクラスには幼児園児とかおばさんとかいるから」

「……おばさん?」

「だ~れ~が~」

「幼稚園児ですか朝倉ぁ~!!」

「誰もあんたらのことなんて言って無いから」

「「じゃ、だれのことだー!」」

 素敵に無敵な2―A一同。あまりの気にしてなさに頭に冷や汗をかくおキヌ。そして今度は我に帰ったネギが話を進める。

「はい。では最後に横島さんの自己紹介をお願いいたします」

 その言葉に横島は飄々と口を開く。

「横島 忠夫。よこっちとか横島先生とかただやんとかお兄ちゃん♪ とかユーモアあふれる呼び方を好む18歳だ。なんかノリでこのクラスの副担任になったけど、この一年間楽しくいくぞー!」

 最後におー! と手を振り上げればクラスのほぼ全員がおー! とノリよく返事をする始末。自己紹介はそこで終わりだが、2―Aがそのまま静まるという選択肢があるハズもなく。

「ほら見て~っ。学年トップのトロフィー!」

 そのままのノリで次の話題に移行する。今度の話題は期末テストで1位になった事。特にバカレンジャーであるまき絵は嬉しいのだろう。高々とトロフィーを掲げあげるともう止まらない。

「おお~っ、みんなネギ先生のおかげだねーっ!」

「ネギ先生がいれば中間テストもトップ確実だーっ♪」

 調子にのって騒ぎまくる一同と、

(えっ…!? 何故!?)

 冷静に、心の中でだがツッコミをいれる千雨。そしてそんな千雨の心情も知らずに無責任にそのノリを花束を背負って肯定するショタコン学級委員長。

「――そのとおりですわ、先生そして皆さん。

 万年ビリの2―Aがネギ先生を中心に固い団結でまとまったのが期末の勝因!

 クラス委員長としても鼻が高いですわ。

 今後とも私たちクラス一同よろしくお願いします、ネギ先生」

「は、はい。こちらこそ」

 そう言って、まるで伝説に登場する騎士のごとき動作でネギにひざまずき、手に口づけをするいいんちょと、引いていると言うよりかはどう反応していいか分からないネギ。

 そんないつも通りにいつも通りな動作を見てますますテンションが上がっていく一同。

(ちっ…違うだろ~~!? あのガキ何もやってないじゃん。

 つーか、一日授業サボったくせに……)

 そんな中、比較的冷静に彼らの問題点をツッコンでいく千雨。無論、心の中でだけだが。

 ……そして実はその間バカレンジャーの勉強も見ていたので実態は一概にネギのサボりと、ギリギリだが言い切れる訳ではない。

 もちろんその事実を知らない人間にとっては完全にサボりだが。

(――てか、その前にそんな10歳のガキが担任教師になっていーのかよオイ!? いくら大人二人が副担任についてるとはいえ労働基準法違反だろっ!? しかも横島とやらも18だろーが、明らかに教員免許もってねーだろ。

 誰か突っ込めよ――っ!)

 そして残る士郎も教員免許を持っていないと知ったらどうなるのだろうか。ストレスゲージがヤバい領域に達しそうになる千雨。

「ハイッ。先生、ちょっと意見が!」

「はい、鳴滝さん」

「先生は10歳なのに先生だなんて、やっぱり普通じゃないと思います!」

 

 ざわ……

 

 風香によって、今まで誰もが気がついて、しかも意図的に無視してきた事にとうとう焦点があてられた。さすがの2―Aも軽いざわめきが広がり、それに千雨が期待を寄せる。

(おっ!?

 よーしよし、やっぱりそうだよな……。やるじゃないか、双子のツリ目の方…。もっと言ってやれ)

 ようやく我が意を得た意見が飛び出し、ウンウンと安心する千雨。そしてそこで史伽も起立し、言葉を補足しようとする。

「えーと…」

「それで史伽と考えたんですけど――……」

 そこで双子が声を合わせて。

「今日、これから全員で『学年トップおめでとう・衛宮先生、横島先生、おキヌちゃんいらっしゃいパーティー』をやりませんか!?」

 

 ガクッ、ゴッ!

 

 あんまりな話題の展開の仕方に、千雨は思わず頭を机に打ちつけてしまう。

「おー、そりゃいいねえ!」

「やろーやろー♪」

「じゃ。ヒマな人、寮の芝生に集合!」

 しかもクラスメイトはなんの違和感も持たずに今の話題にのっかるし。

(前フリとカンケーないだろそれはっ!

 何みんなで大喜びしてんだ!? 私はこのクラスのこーゆー所にもついて行けねーんだよっ!!)

「――ん?」

 余りに苛つき過ぎて体がプルプルプルと震えるちう。そんな千雨に気がつき、冷や汗を流しながらも心配そうに声をかけるネギ。

「どーしたんですか長谷川さん。寒気でも……?」

 少々おかしな行動をしてネギと隣の夕映との視線を集めていた事に気が付いた千雨はハッと我に変える。

「……いえ、別に…」

 どうみても『別に』という状態ではなく、ぴくぴくと震えながらかばんをひっつかむ千雨。

「――ちょっとお腹が痛いので帰宅します」

「え……あ、ちょっ…」

 そのまま声をかけるネギを振り返る事なく教室を出る千雨。そんな千雨を心配そうに見るネギだったが夕映からのフォローが入った。

「ああ、千雨さんですか。いつもああですから放っておいていいです、ネギ先生」

「「それよりも寮行ってパーティー始めよ、ネギ君」」

 そしてそんな千雨をクラスメイトが全く意に介していないのは、薄情なのか個人の意見を尊重しているからなのかはたまた目の前のパーティーがそんなにも魅力的なのか。そしてやはり千雨を心配するネギ。

(長谷川さん……クラスになじんでないのかな……?)

「…………」

 そんなネギの様子を黙って見るアスナと、

「長谷川 千雨。早退っと……」

 冷静に出席簿に印をつける士郎、そして騒ぎまくるクラス。いつもどおりで、いつもとちょっと違う風景だった。

 

 

 

 ズンズンズンとイラつきを隠そうともせずに歩く千雨。

(――そもそもこのクラスちょっとおかしいんだよな…。

 一年の頃から思っていたけど……異様に留学生が多いし、何かデカいのやら幼稚園みたいのやら。全く次から次へと)

「だいたい、何だあのロボはっ!? 何で誰も突っ込まないんだよー、どー見てもロボだろ!? ロボ!!

 き…極めつけはあの子供教師!! 10歳ってなんだよ~~!? ムキ~~ッ、あたしの普通の学園生活を返せ~~っ」

 そして頭の中でとうとうリミッターが外れたようだ。早退したせいで誰も辺りにいないのをいい事に大声でわめきちらす千雨。と、

「は…長谷川さーん」

(げっ……。その本人がきた!?)

 テテテッっと完全なスーツに身を包んで変なものを白い布でグルグルにした上で背負っている子供が追いかけてきた。

 それを目にいれると、心の底から嫌そうな表情をする千雨。それでも一瞬で表情を正すと冷静に問い返す。

「……何か用ですか」

(こいつ、どうやって追いついたんだ? 学校からの電車には乗ってなかったけど…)

「ハァハァ」

 その一方で変な疑問が頭をよぎるが、そんなことは関係無に話が進んでいく。息を整えながらもネギはドクロマークにEXとついたとても怪しい薬壺を差し出した。

「あ…あの……。さっきおなか痛いって言ってたので。これ、おじいちゃんからもらった超効く腹痛薬です。おひとついかがですか……? 効きますよー」

(……アホか、こいつ……)

「結構です、もー治りましたので」

 呆れた顔で言う千雨にもネギは気が付かない。なんとかしてクラスになじませたいネギは懸命に話題を探す。

「あ、あの…パーティーに来ないんですか……?」

「私、ああいう変人の集団とはなじめないんです。帰るのでついて来ないでください」

 その言葉に不思議そうな顔をするネギと横島とおキヌ。

「そ、そうですか? みんな普通だと思うけどな……」

「だよなぁ。俺の高校時代の時とあんまり変わって無い気がする」

「ですよねぇ。みんな元気がよくていい人達じゃないですか」

(どこがだよっ!? つーかオメーが一番変なん、だ…?)

「スイマセン、どこから沸いてきたんですか、アナタ達は」

 なんかごく当たり前のようにいた横島たちに、千雨はごく当たり前のように言葉をかける。

「どこからと言われても、なぁ?」

「どこからと言われてもですねぇ?」

 そして二人とも、千雨にとっては、とてつもなくイライラする返事をしてきた。

(くっ…まずい…。また震えが……)

 プルプルと震えていた千雨は走り出す。それを反射的に追いかけるネギ達。

「あ、待って! やっぱり寒気がするんですか?」

「しません!」

「じゃあ、やっぱり腹痛か?」

「違います!」

「ダメですよ横島さん、女の子にとって生理痛ってとても恥ずかしい事なんですから、そう正面から聞いたら可哀想です」

「だから違います!」

「じゃあ、えと……。アルコール中毒だとか!?」

「私は未成年です!!」

 ドドドドドと愉快な音をたてながら疾走する四人。それもやがて千雨が自分の部屋に入り、バタンと扉を閉めたことで終わる。

「あ…」

 こうなると困るのは締め出された方である。誰もいない女子寮の廊下で途方にくれる三人。

「えっと、どうしましょうか?」

「う~ん」

「どうしましょうか……?」

 ためらいがちにおキヌが言葉をかけるも、男二人にはいい案が思い浮かばない。

「どうにかして長谷川さんにもクラスに馴染んでいただきたいんですけど……」

「向こうからの歩み寄りがないからなぁ…」

「難しいかもです、部屋に閉じこもっちゃいましたし」

「あれか、扉の前でお祭り騒ぎをすればでてくるかも?」

「天の岩戸作戦ですか。でも千雨さんはパーティーを嫌がって部屋に篭った訳で……」

「あれ?」

 うんうんと頭を悩ませていた横島とおキヌだが、ネギの意外そうな声に顔をあげる。

「どうかしました?」

「いや、鍵が空いてるんですよね」

 ホラ、とネギがドアノブを捻ってみると、確かに抵抗なくそれは回り、ドアに隙間を作る。

「あ~、鍵掛け忘れてたんですね」

「案外おっちょこちょいなんだな」

 と、なんか隙間から声がもれてきた。

 

 ―よし、来た来たー! ネットアイドルランキングでもぶっちぎり一位!! 私は女王なのよ! いずれはNET界のNO.1カリスマになって……全ての男達が私の前にひざまつくのよ!!―

 

 ――もの凄くイタイ声が。

「…………」

「…………」

 どう反応していいのか分からない横島とおキヌは顔を見合わせるが、

「どうしたんでしょうか…長谷川さん」

 恐らく叫び声の内容が分かっていないネギは小首を傾げながらも心配そうに部屋の中へと進入する。

「ちょ!」

「まっ!」

 さすがにこれはと横島とおキヌも続いて部屋へ侵入。そして彼等はバニーにウサミミを装備してもの凄く悪そうな笑みを浮かべる千雨と、そんな千雨を見て嬉しそうにしているネギを目撃した。

「…………」

「…………」

「…………」

「―――ん?」

 沈黙する一同の気配に千雨がようやく気付き、

「ギャー!」

 かっはぁっ。と吐血した。

「あ…スミマセン。カギ、開いてたので…」

「いやもう…」

「…なんか本当にスイマセン」

 なんか嬉しそうなネギととてつもなく申し分けなさそうな横島&おキヌ。慌ててメガネをかける千雨だが、その心はもう平静とは程遠い。

(み……見られた……? 私の秘密の趣味をこのガキ共に……!?

 あ……あああ。も、もうダメだ。私のこの秘密の趣味がバレたら学校中の生徒に後ろ指さされて笑われて…)

 

 変人集団にようこそ 変人さんいらっしゃ~い♪

 

 そんな千雨にとっては許容しがたい映像が頭に浮かぶ。

(くっ……消すしか無い。

 もはやこいつら殺るしか…何か凶器、鈍器は…)

 ものすごい勢いでパニクって、とても柔らかそうなニンジンのヌイグルミを頭の上に掲げる千雨を生暖かい目で見守る二名。そして後ろの状況全てを無視してパソコンに視線が止まるネギ。

「わー、長谷川さん。長谷川さん!! これ、長谷川さんですか!? キレイですねー」

「えっ…」

 忌憚なきネギの褒め言葉に千雨の動きが止まる。

(あ…当たり前だろ、私を誰だと思ってるんだ。ネット界NO.1アイドルだぞ…。

 それに画像には我が技術による複雑高度な修正が…)

「いや…」

 そんな中、ひょいとパソコンの画面を覗いた横島が言葉を付け加えた。

「ちょっと甘いな」

「なっ…」

 自身作を貶されて収まりが付かないのが千雨である。

「ちょ、ちょっと待てよ! どこが甘いって?」

 くってかかる千雨だが、横島はupされた写真を見ながら冷静に言葉を加える。

「撮りかな。光量が適当だし、絞りも甘い。背景とかの選択も単調だし……」

 ぐっ、っと言葉に詰まる千雨。確かにこの秘密の趣味は一人で楽しんでいたものなので、撮影者が他にいる訳もなく自己撮影だし、部屋の外で写真をとる訳にもいかないから背景も単調だ。

「……ふん、素人に何が分かるってんだよ」

 悔し紛れにそっぽむく千雨。

「でも横島さん、撮影について詳しいんですね~」

「まーな。ここに来てからバイトで色々やったし」

 おキヌの素朴な疑問、それに返した横島の言葉にピクリと眉が動いた。

「バイト、ですか」

「うん。アイドルのカメラマンとか、麻帆良女子高校の更衣室の清掃とか、麻帆良女子大学の食堂の手伝いとか――」

「こ、この人は…」

 かなり本気で呆れるおキヌだが、横島はそんな彼女に気が付かない。そして千雨はと言えば自己の中に埋没していった。

(つーことはだな、コイツにカメラマンを頼めばもっと上質の写真が撮れるってことか? となれば我がホームページも更なる躍進を……)

 だからこそ、トテトテと近付いてきたネギに気が付かなかった。

「すいません」

「あっ!? コ、コラ私のメガネ!」

 ひょいと呆気なくメガネを取られてしまう。そしてカアアと赤くなり、抗議する千雨だが、

「わー♪ ホントに素顔もキレイですねー」

「なっ…」

 ストレートなネギの褒め言葉に一瞬で顔が赤くなる千雨。そんな千雨をネギは見ずに、軽く目を閉じて咳払いを一つ。そしてにこやかに笑いながら扉を開けて、部屋の中に光を導いた。

「さ、行きましょう長谷川さん。みんなすぐ下の芝生でやってますよ、パーティー♪」

 そしてメガネを持ったまま部屋の外にかけだすネギ。メガネを取られたままの千雨は自分の格好も忘れて廊下に飛び出す。

「な、何言ってんだ。私のメガネ返してよー」

「えへへ、ダメですよー」

 ドタバタと何かお芝居のような雰囲気で走り回る二人。そんな場の流れに取り残された横島とおキヌはとりあえず二人の後について行く。

「でももったいないなー。何でそんなキレイなのにメガネでかくしてるんですか?」

 千雨のかけているメガネが度の入っていない伊達メガネであることを確認したネギが問いかける。

「わ、私ダメなんだよっ。メガネつけずに人に会ったりするのは……。

 それにパーティーとか嫌いだし、部屋に一人でいるのが性に合ってるんだ。返してって!」

「えー。そ、そうなんですか?」

 必死になって説明する千雨に意外そうな返事を返すネギ。

「で、でも今日くらいはいいんじゃないですか。だってほら、今日はこんなにいい天気なんですよ」

(え……)

 空バックに大きく手を広げるネギ。そしてこんなに明るい空に初めて気が付いたと言わんばかりに目を細める千雨。

「…………」

「ね♪」

「………………」

(……………………ま、今日くらいは変人たちに付き合ってもいいか)

 終了式だしな、と心の中に付け加えて千雨は仕方が無さそうに頭をかく。

 

 所変わって寮の前の芝生。2―Aのほとんどの人間が桜の木の下で騒いでいた。

「遅れてスイマセンー」

「バ、バカ。コラ、せめて着替えてから……」

(な、なんでこいつこんなに力が強いんだ?)

「横島さん私達はどうしたらよかったんでしょうか…?」

「どうしようも、どうしようもなかったんだよ。おキヌちゃん…」

 そしてそこに姿を現す我等が子供先生と彼に手を引かれて付いてくるバニーのコスプレをした美女。そしてどうしたらいいのか分からないといった表情で後ろからついてくる横島とおキヌ。

「遅いよー、先生」

「あれー? 誰そのカワイイ子は」

 そして早速絡まれるバニー千雨。

「わー、ホントにカワイイー♪」

「バニーだ」

「バニー♪」

「かわいー♪ まさか先生の秘密の恋人とかー?」

「てゆーかコスプレ? なんか隠し芸でも見せてくれるの?」

「へへへ」

 わらわらと集まってくるクラスメイト達になぜか得意げな顔をするネギ。

「な……ちょ……」

 ガヤガヤ、キャーッ♪ そんな周りの注目度に思わずカァーッ赤面してしまうメガネの無い千雨。

 一方、彼らから少し離れたところではどこからともなく鉄板を持ち出して焼きそばを作っている士郎と、やはりどこからともなく現れてその焼きそばを喰っているバゼットが。

「おかわりを」

「あぁ。懐かしいな、この感覚」

 故郷に帰ったような心持ちで嬉々と焼きそばを作る士郎。

「スマン、俺にも一つ」

「あっ、じゃあ私も」

 千雨を見捨ててきた横島とおキヌも加わり、ほのぼのとした空気が流れる。

 一方のネギサイドではそれどころではない。千雨がキャーキャー言われてテンパっている上に、

「ちょっとネギ、その子もしかして――」

 カンのいいアスナがバニーの正体に半ば気づいてしまったのだから。そしてそれどころではない千雨は、

「ちょっと先生。や、やっぱり返してよメガネ!」

「あっ…」

 ネギを思いっきり引っ張ってメガネを強奪する。その際、長い髪の毛がネギの鼻をなでてしまい、

「あぶ……は…は…」

 くしゃみ寸前。

「げっ…」

「ん?」

 そんな事態にアスナの顔はこわばり、メガネを装着して一息ついた千雨も違和感に気がつくがちょっと遅い。

「はくしゅんっ」

「きゃあっ!?」

 吹き荒ぶ風、はがれ落ちるバニーの服、そしてほぼ全裸になった千雨。ハラハラと舞散る服の残骸が物悲しく、呆気に取られる一同。

「な…な…」

(こ……これは…!?)

 が、それも束の間茫然自失の千雨を中心に一気に場は盛り上がっていく。

「おおーーーー!!

 バニーの服が一瞬で花びらに!?」

「スゴイ、手品や!!」

「スゲーー、ネギ先生!」

「…………」

 そんな中、こんな事態に耐性のあるアスナは目を閉じて疲れ果てていた。そして現実逃避を行いつつある頭は、メガネをかけてバニーというオプションがなくなったおかげで分かったその人物の名前をポロリと口に出してしまう。

「…って、アレ? あんた長谷川じゃ?」

「ち、ちがっ」

 否定しようと思ってももう遅い。ノリのよすぎるクラスメイトらに捕まってしまった千雨は全力でからかわれるハメに。

「違うっ!! 長谷川なんて女は知らねーっ、一切関係ないってばー」

「千雨ちゃん、ヘンタイー」

 もうしっちゃかめっちゃっか。

「あああ」

 そんな状況を作り出してしまって目の幅と同じ涙を流すネギ。

 

 シュン!

 

 そんなネギの前を何かが通り過ぎて、勢い良く地面に突き刺さる。

「へっ?」

 刺さったものを目で追ってみると、そこには一本の割り箸が。

「なんでこんなものが?」

 ん? と首を傾げたとたんに、

 

 ゾクゥ

 

 なにか、寒気が。ギギギと錆び付いたような動作で後ろを振り返るとそこには、

「さて、ネギ坊主。覚悟はいいですか?」

 男装の夜叉がいた。

「ひ…ひいいいいぃ!?」

 その余りの恐ろしさに大声をあげるネギだが、そんなものでバゼットは止まらない。

「では死ねぇ!」

「バゼットストップ!」

 そして間一髪、士郎が間に合って彼女を羽交い締めにした。

「はなっ、離しなさい士郎! これが初めてではないのです、正義の鉄槌を! 鉄槌を!!」

「アンタ執行者でしょうが、間違いなくネギ君が死んじゃうから」

 タカミチと同じように、同じようなことを言ってバゼットを引き止める士郎。

「いや~、しかしチチがええ具合に揺れとるの~」

「死ねぇ!」

「プロォ!?」

 そしてバゼットの前に回り込んで揺れる胸を観察していた横島は彼女に思いっきり蹴飛ばされる。

「よ~こ~し~ま~さぁ~ん~?」

「ひいいいいぃ。お、おキヌちゃんシメサバ丸は、シメサバ丸はっ!」

「ネギ坊主ぅ~!」

「だから落ち着けって!」

「あわわわわ」

「千雨ちゃん―――」

「「「ヘンタ~イ♪」」」

「だから私は千雨なんて女は知らねぇー!」

 

 どこまでも平和でカオスだった。

 

 

 

 後日。

「ご、ごめんなさっ……」

 涙を流しながら謝るネギと、

 

 ポコポコッ

 

 苦笑しながら軽く頭を叩くアスナと士郎。

(コ、コイツ……いつか絶対消してやる)

 そして人生の内で最も殺意を覚えた千雨がいたとか。

 

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