二組六人の異世界人   作:117

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1章 9話

 秘密の花園へようこそ。

 

 

 

「ふう…」

「お、鬼や。悪魔や……」

 疲れきったという事を全面に出しつつ士郎と横島が歩く。今は春休みの昼過ぎなのだが、彼等は昨日から仕事をしっぱなし。つまりは徹夜である。まあ、仕事と言っても最低限覚えるべき事を春休み中に覚えて貰おうというだけなのだが。

「つうか士郎はなんでそんなに余裕そうなんだよ……」

「いや、十分疲れてるぞ。ただ少しだけ慣れているだけだ」

「そんなモンかね~」

 てくてくというか、とぼとぼといった風情で歩く二人。と、

 

 ピンポンパンポーン♪

 迷子のご案内です。中等部英語科のネギ・スプリングフィールド君、保護者の方が展望台近くでお待ちです。

 

「……………………」

「……………………」

「何をやっとるんだ、ネギ坊主は…」

「…全く」

 疲れた顔を更に疲れさせてため息二つ。出会ったばかりにしてはかなりシンクロしている二人である。そして苦笑いをしたまま士郎は横島に話しかけた。

「……とりあえず、私はネギ君の様子をみてくるよ。迷子になる位だからちょっと心配だ」

 じゃあ、と言って分かれようとする士郎だが、

「ちょっと待った、士郎。俺も行くぞ」

 横島からの待ったが入った。それに怪訝そうな顔をする士郎。

「別に構わんが…忠夫にしては珍しい反応だな」

 士郎はここ数日で横島の行動は見切ったつもりだった。基本的には男の為には指一本動かさない代わりに、女の為には男に使う分の気遣いを全てつぎ込んでいるような積極性を見せる。ただこれは能動的な話であり、受動的―――つまりは人に頼られたりしたときは男でもそれなりに手を貸すと。ちなみに『それなり』の範囲はその時の気分が大きく関係するようだ。

 話がややそれたが、つまりは士郎にはこの状態で横島がわざわざネギの様子を見に行くとは思えなかったのだ。なにせ今は徹夜明け。横島でなくても無駄なことはせずに布団の中で惰眠を貪りたいと思うだろう。そんな士郎の意図を察したのか、横島はニヤリと悪そうに笑う。

「ふっ、何かピーンときたのさ。今、ネギについていくともれなく良いことがあると!!」

「…………」

 そんな横島に冷たい視線を浴びせる士郎。

(……まぁ、徹夜明けだしな。少しおかしくなっても仕方ないか。元々おかしかったのに輪がかかっただけだろ)

「まあ好きにすればいいが、私に当たるなよ」

 かなり失礼な事を考える士郎だが、表情に出していないので横島には分からない。そして彼らは展望台へと向かう。

 

 ――士郎は知らなかった。横島の言う『ピーンときた』が霊能力者に宿る直感じみた、かなり当てになるものだと。まあ、知ったところでどうにもならなかったのかも知れないけれども。

 

 

 

 しばらく二人で歩き、やがて彼らは展望台近くへと辿り着く。

「さて、と。ネギ君はと……」

「おっ、いたいた」

 軽く辺りに視線をとばす士郎と横島。そして殆ど探す間もなく目的の赤毛をみつけた。

「おーい、ネギ君」

 軽く手を振りながら近づく二人。それに気がついて手を振り返すネギと、なぜかいる鳴滝姉妹。

「ってあれ? 風香ちゃんと史伽ちゃん? なんでいるの?」

 横島の失言に膨れっ面を返す似たもの姉妹。

「なんでいるのとは失礼な!」

「ボクたちはこれからネギ先生と学園案内ツアーです!」

 行動が見た目の通りに幼い二人に横島が苦笑をしながら謝る。

「あー、ごめんごめん。展望台で保護者が待ってるって放送で言ってから、てっきりアスナちゃんがいると思ってたんだよ」

 その言葉に機嫌を直す鳴滝姉妹と、ズーンと落ち込むネギ。

「……やっぱり士郎さん達も聞いてたんですね、あの放送」

「まあ、校内放送だからな。ちなみに私達がここに来たのは迷子のネギ君が心配でなのだが――」

「迷子じゃないですよ、もー! ちょっとアスナさん達とはぐれたら、いきなりあんな放送をしたんですよー」

「……それ、一般的に迷子って言わないか?」

 プンスカするネギに対して、でっかい汗を背負った士郎の一言。ズズーンと落ち込むネギ・スプリングフィールド。数えで10歳。

「まあ、それはいいとして肝心のアスナちゃんは?」

 話に出てきたアスナが見つからずに問いかける横島。それに答えたのはネギではなく鳴滝姉妹だった。

「なんかこのかとアスナが学園長に呼ばれたとか」

「で、ボクたち学園の案内を任されたのだ!」

 二人揃って誇らしげに胸を張る。そして彼女らのプロフィールを思い出しながら口を開く士郎。

「そっか、二人とも散歩部だったな。なら学園の案内はお手のものだろ。っと、そうだ」

 そこで士郎は不意に彼女らに向き直る。

「私たちもこの学園に来たばかりだから勝手がよく分からないんだ。よかったらネギ君と一緒に案内してくれないかな」

 にこやかに頼む士郎に、ニコニコと笑いながら返事をする二人。

「もちろんOKですよ~」

「散歩は多い方が楽しいですからね~」

 そして散歩部の許可がでて同行する事が許された二人も一緒になって道を進む。そしてその道中でふと横島が思いついた事を口にする。

「つか、散歩部ってどんな活動? 俺、そんな部活初めて聞いたんだけど」

「やだな~。お散歩するクラブに決まってるじゃないですか、横島さん。

 いいなー、ほのぼのしてて」

 鳴滝姉妹ではなくネギがそう言ったところで――

「ち、違うよネギ先生」

 ――鳴滝姉妹、姉の風香から待ったが入った。

「散歩競技は世界大会もある、知る人ぞ知る超ハードスポーツなんだよ!」

「ええっ」

「はっ?」

「……マジ?」

 上からネギ、士郎、横島のリアクション。そんな彼らを見ながら大きく手を振りながらその過酷さを語る風香。

「プロの散歩選手は世界一を目指し、しのぎを削って散歩技術を競い合い…、デス・ハイクと呼ばれるサハラ横断耐久散歩では毎年死傷者が――」

「デス…」

 あまりと言えばあんまりな内容に涙を流しながら本気でビビるネギ。

「ス、スイマセン。田舎から出てきたので…散歩がそんな恐ろしいことになってたんて知りませんでした」

 二人とも気をつけて…。そう本気で心配しているネギだが、当の風香はと言えば笑いながら小声で話を補足する。

(――と、こんなバカ話をしながらまったりとブラブラするのが主な活動内容だけどねん)

(お姉ちゃんダメ、信じてるです。先生、子供なんですから)

 涙目で姉を止める史伽だがふと気がつく。ここにはしっかりした大人が二人もいるのだと。期待を持った目で副担任二人を見上げる史伽。

「そっか~。なんかシロが散歩で朝夕50キロ全力で走るって言ってたけど、あれ散歩競技だったんだ。

 そっかそっか、本当に散歩だったんだな、アレ」

「散歩、ねえ。うんまあ確かに散歩と称してオヤジが海外に行ってたもんな。アレも散歩の一種だったんだ」

「……………………」

「……………………」

 ごくごく普通に真に受けている大人達。彼らの名誉の為にも、徹夜明けで頭が働いていないからという事にしておきたい。そして更に話がバカな方向に発展していく。その火付け役は士郎。

「しかし…デス・ハイクか。ちなみネギ君はデス・ハイクに参加するとしたらどうする?」

「えっ? ……そうですね、とりあえず簡易テントで昼と夜は過ごすとして、明け方と夕暮れに歩くのは基本ですよね」

「う~ん、持っていく水の量の調節も大変だよな。あまりに多すぎると体力を消耗しちまうし、少なすぎると枯れて死ぬからな」

 そしてネギも真面目に返事をして横島までのってくる始末。

「あっ、後は塩分も大切ですよね。汗でどんどんなくなっちゃいますから」

「と、なると食事は肉の塩漬けはあるとして、果物の蜂蜜漬けってのもアリだな。すぐに養分にしないと体が持たないだろうし、ビタミンとかの補充にも果物は役立つし」

「食べ物もいいけどさ、確か靴とかもちゃんと選ばなきゃダメじゃなかったっけ」

「忠夫の言う通り、服装もきちんとしなきゃな。砂漠は足元が安定しないから靴擦れをおこしやすいし、そもそも靴が焼けたら意味がない。しかも砂漠の熱も寒さも遮断するタイプじゃないと――」

「それにちゃんと体を直射日光から守らないとすぐ火傷しちゃいますよね?」

「そうそう、外と体との間に空気の層を作ると涼しいんだってな。昔、美神さんに聞いた事がある」

「それに白色の布って紫外線を通しちゃったりしますからね~。あんまり薄いとやっぱり火傷しちゃうかも……。でも黒だと熱を吸収しちゃうから、マントには分厚い白い布がいいのかな?」

「いや、薄い白の布を3枚位重ねて着るのもアリかも知れん。空気の層も作れるし、これが一番快適じゃないか?」

 すごい真面目に架空の競技、デス・ハイクについて語り合う男3人。まさか自分のふったネタにここまで食いついて、胃の中まで飲み込むような事になると思わなかった風香は呆気にとられ、史伽は目を白黒させている。まあ、彼女の言った通りにバカ話をしながら歩くという散歩部らしい部活ではあるのかもしれないが。

 と、

「やほー、ネギくんに衛宮先生、それに横島先生」

「あ、ゆーなさん。こんにちは」

「ああ、明石か。って事はここはバスケ部か」

「横島先生なんて水くさい……。気軽によこっちと呼んでくれ!」

 裕奈が出てきて話が中断し、3人はようやく自分達が体育館に来たことに気がついた。ちなみに言うまでもないことだが、彼女が出てきて一番安心したのは鳴滝姉妹である。

 それはともかくとして体育館についての説明をする明石。

「OK。任せろ、よこっち!

 ここは中等部専用の体育館。21もある体育系のクラブの生徒が青春の汗を流してるんだよ」

 そして鳴滝姉妹が彼女の説明を補足した。

「うちで強いのはバレーとドッジボールだっけ?」

「あと新体操とか女っぽいのが強いです」

「「「へー」」」

 声を重ねて納得する男衆。

「ちなみにバスケは弱いよー」

「ほっとけ!!」

 ついでに下らない補足というか蛇足でバスケ部である裕奈の怒りを買う史伽。そんな彼女らには関わらずに眼下に広がる元気の良さに感想が漏れる3人。

「若いな~。そうだよな、オレとはもう10も年が離れてるんだよな、彼女ら…」

「う~ん。たまにはこんな健康的な姿を見るのもなかなか…」

「なるほど、スポーツをがんばってる女子生徒と言うのはいいですねー」

 さわやかだなー、というネギ。そんな彼らをイタズラな顔で茶化す風香。

「あ、何か先生達オヤジっぽい発言」

 その言葉に真っ赤になる史伽と過剰に反応するネギ。

「えっ。ど、どういうことですか!?

 オヤジって…!? え!?」

 そんなネギの反応が面白くて仕方がないという風情の風香はいやらしくニヤァと笑う。

「ウヒヒ、もーわかってるくせにー。

 じゃあネギ先生達ご期待の更衣室探検…♪

 いっとく?」

 イヒヒと笑いながら更衣室のドアノブを回す風香。それをおねーちゃ…、と言いながら必死に止める史伽。

「な、何でそーなるんですかーー」

「よっしゃ、任せておけ!!! 俺に任せておけ、全力任せておけ、とにかく任せておけ!!!!!」

「やめろ、とりあえず犯罪だからやめろ……」

 慌てるネギと無駄に気合いが入る横島、疲れながらも横島を止める士郎。と、

「あ、ネギ君だーー」

 ネギの声を聞きつけたのか中で着替えていたであろうまき絵が顔をのぞかせ……ピシリと固まる。彼女の視線の先には彼女より随分と年上な、男の副担任の姿が。ちなみに彼女の今の格好は、全裸。

 

 間

 

「きゃああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」

 もの凄い悲鳴があがり、とりあえず全力で逃げる一同。彼らは体育館を脱出したところで立ち止まり、一息つく。

「びっ、びっくりしました」

「これって懲戒免職ものだよな」

「この位で平静を乱すとは情けないな、おまえ等は」

「なんで忠夫はそんなに余裕があるんだ…」

 鳴滝姉妹は息も絶え絶えで心臓がバクバクだし、別の意味で心臓バクバクなネギと士郎。だが横島はむしろ堂々としている。そんな横島に士郎が突っ込みを入れる。と、

「……慣れ?」

「慣れるな!!」

「と、いうか何に慣れてるんですか?」

「女の子に悲鳴をあげられる事とか、逃げることとか、覗くいて女の子の裸を見ることとか?」

 なんて突っ込んでいいのか分からず、揃って聞くんじゃなかったといった表情をするネギと士郎。

 と、そこでようやく鳴滝姉妹の息が少し回復する。

「ハァハァハァ、びっくりしたです」

「そ、それじゃあ次の部活に行ってみようか!」

 ヨロヨロと足下がおぼつかないまま歩き始める鳴滝姉妹。おそらく彼女達にはさっきの横島のセリフは聞こえていなかったのだろう。そして彼女達の後に続く士郎と横島、最後尾を歩くのはネギ。そんなネギがポツリと一言だけ妙に感情のこもった言葉をこぼしたが、それを聞きつけた者はいなかった。

「バゼットさんに見つからなくて本当によかった……本当に」

 

 

 

 そして次に彼らが来たのは、

「ここが屋内プールです」

 風香の言う通りに屋内プール。そして先ほどの言葉を史伽が補足する。

「あ、そうだ。水泳も強いよ。ウチのクラスのアキラがすごいからね」

 彼らの視線はプールからあがり、プール帽子を外しているアキラへ。そして彼女に挨拶をする一同。

「アキラー」

「おーい!」

「こ、こんにちはー」

「どうも、ネギ先生。……で、アレは?」

 軽く冷や汗を流しながらアキラが指を向ける。そこには、

「は、離せ離せ士郎! この状況で、この状況で何もしないのは漢の恥、いやむしろ女の子に失礼!!」

「だからやめろって! 捕まるぞ、比喩なしに!!」

 いつも通りのコメディが。

「……見た通りです」

 そして精一杯言葉を選んだであろうネギの涙ぐましい努力が見て取れた。そしてその時、

「――横島さん」

 なんか、とても聞き覚えがある、とても冷たい声が。ピシリと固まる横島。

 ギギギと不器用に首を動かして声がした方向を見ると、そこには予想通りの人物が予想外の姿で。

「いや、おキヌちゃん。なんでスク水?」

 横島の言葉に顔がカァァァと赤くなるおキヌ。慌ててその体のラインがピッチリと出る水着姿を両手で隠そうとするが、その動きは完全に逆効果。扇情的である。

「いや、これはその…部活の体験入部で……」

 おキヌは恥ずかしくってクルクル回ってどうにか姿を隠そうとする。が、残念ながらそれはお尻を横島に見せつける結果に終わった。ちなみに士郎はとっくにそっぽを向いておキヌに視線を合わせないようにしている。

 しばらくして我に返ったおキヌは真っ赤な顔のままでにやけた顔の横島にくってかかった。

「じゃなくて! 何をしているんですか、横島さん!! 衛宮先生に迷惑をかけて、しかもそんな恥ずかしい事を言って!」

 正気に戻ったおキヌに横島の顔が青ざめる――かと思いきや顔は緩みっぱなし。それもそのはず、横島の目の前にはスク水姿のおキヌが迫ってきているのだから。

「う…あ…う……」

「横島さんっ!!!」

「い、いかんいかんあかん! おキヌちゃんに手を出したら、出したらっ…!!」

 その場の床に思いっきりヘッドバットをする横島。言うまでもないが、プールの床はかなり堅い。たちまち血まみれになる床だが横島のヘッドバットは止まらない。

「ちょ…横島さんっ!?」

「あかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんんんん~~~!!!」

 そんな横島を止めようとするおキヌだが、ヘッドバットの速度はあがるばかり。そしてやがて力つきた横島の動きがぱったりと止む。

「よ、横島さぁぁぁ~~~~~ん!!!」

 かなり本気で心配しているおキヌだが、周りはクスクスと笑ってそんな彼らを見ていた。『夫婦喧嘩?』、『恐妻家?』とか言っていた彼女達だが、横島が動かなくなった事で興味が他に移る。すなわち、噂の子供先生と横島の世話から解放された副担任。

「この子がウワサの子供先生かー」

「うん」

「こんな子が授業できるの?」

「できてるよ、な?」

「こっちの白髪の男の人は?」

「副担任の衛宮 士郎先生」

「きゃ~♪ かっこいい~」

「うん、かっこいい」

「背ぇたかぁ~い♪」

「うん。高い、な」

「でもそっか、やっぱり副担任がいるんだ」

「でも、本当にちょっとした補佐だけ。ネギ君、本当に頑張ってる」

(みんな水着…当たり前だけど……)

(3,141592――)

 キャイ♪キャイ♪とハシャぐスクール水着姿の集団。必死に体から目をそらすネギと現実から目をそらす士郎。そんな困った姿の彼らを少し離れた場所でクスクス、ヒヒヒ……とイタズラ心満点で見つめる鳴滝姉妹。

(くっくっく。目のやり場に困ってる困ってる)

 ――本当に心底楽しそうだ。

 

 

 

 アキラとおキヌ、両名と別れて次に行く一同。まだ横島は貧血気味だし、ネギと士郎は顔が真っ赤だ。

「屋外の体育クラブはこっちです」

「人が多すぎていっつもコートの争奪戦で大変なんだ」

 屋外のコート、その一角で。

 

 バッ…

 

 なんの迷いもなくめくれあがり、その中身を外へと晒すチアスカート。見せることを前提においているとは言え、なかなかに刺激が強い。

「あ、ネギ君達。何しに来たのー、見学?」

 そのスカートを翻してネギ達に声をかけた人物は2―Aに所属する桜子。次いで同じく2―Aに所属する円と美砂が声をかけていく。

「……のぞき?」

「いいよー♪ のぞいてきなー」

 円はネギと士郎の時はからかうようなイタズラっ子のような視線で、横島の時は心底侮蔑したような視線になる。対して桜子と美砂は三人に分け隔てはないようだ。

 そしてここでは妙に大人しい横島。と、言うか微妙にガタガタと震えている。

「……忠夫、ここでは大人しいんだな」

 軽く本音を言った士郎だが、その言葉にガバリと顔をあげて彼にくってかかる横島。

「お前なぁ! 軽く言うけど円ちゃんって本当に怖いんだぞ、雪広ちゃんと同じ位!! この前ナンパした時なんかムチャクチャ辛かったんだからな!!!」

「すいません横島先生、名前で呼ぶのやめて貰えます?」

「ほらなぁぁぁ!!」

 冷たい釘宮の声にあがる横島の奇声。そして士郎の嘆息。

「釘宮のはごくごく普通の要求だと思うが。と、言うか完全に忠夫の自業自得だろう」

「あっ、衛宮先生は名前でも構いませんよ」

「ちくしょー、なんだこの差別はっ!」

(((ナンパしたかそうでないか)))

 泣き崩れる横島を見て、チアリーディング部三人の意見が一致する。そして少し離れたところでは真っ赤になって俯くネギの姿が。

「……………」

 何も言葉を発することなく固まっている。そんなネギの様子を見てやっぱり嬉しそうな鳴滝姉妹。

「あわ、とうとう黙っちゃったですけど」

「お色気ムンムンだもんねー♪」

 悪意満点。そんな姉妹にとうとうネギがキレた。

「そーゆーとこしか見せてくれないのは誰ですかーっ!」

「わーん、先生怒ったーっ。お姉ちゃんのせいだー!」

「しょーがないだろ、女子校なんだから!」

 目に涙をたたえたまま両手を振り回して必死に逃げる姉と涙目の妹を追いかけるネギ。更にそんなほのぼのとした三人を微笑みながら追いかける副担任二人。見ようによっては成人男性二人が薄ら笑いを浮かべつつ、涙を流して逃げる子供達を追いかけるようにもみえる。

 やがて追いかけっこが止まったところで、学園案内人が最後の注釈を加えた。

「文化部は今日一日では紹介しきれないです」

「何せ、160個はあるからねー」

「どんな学校ですか、ここは!?」

「すげーな、マンモス校」

「この学園の規模を考えればむしろ当然ではないか?」

 ひとまずの部活紹介が終わったところで小腹が空いたのか史伽がこんな提案をしてきた。

「あ、じゃあそろそろおやつにするです、先生」

「そうですね」

 ネギも小腹が空いたのだろう、すぐにその案に賛成する。とたんに風香がニヤッと笑いながらネギを腕で軽く小突く。

「大人としておごってくれるんだよねー、先生」

「あっ、はい。もちろんです」

 ネギの返事。そしてそれに眉をひそめたのは士郎だった。

「待て待てネギ君、年長者としてここは私が出そう」

 その言葉に、ちょっとビックリしたように反論するネギ。

「え…士郎さん? いえ、でも、鳴滝さんたちに頼まれたのは僕ですから」

「しかしなぁ、ちゃんと仕事に就いている成人男性が弟に奢られるのは、なぁ?」

「ちゃんと仕事についてるなら問題ないじゃないですか。仕事についていないなら問題ですけど」

「世間体ってものがあるだろう? いくらネギ君が教師をやってるって言っても見た目はまだ10歳だ。そんな子供に奢られる成人男性は流石に情けない」

「でも士郎さんにはいつもお世話になってますし…」

 話が一向に進まない。そんな状況に業を煮やしたのか、横島がだぁぁぁーと爆発した。

「うっさいわお前等、見ててイラつく! 話が決まらないなら俺が奢るぞ!?」

「ああ、君が奢ってくれるならありがたい。では是非そうしてくれ」

「えっと、じゃあ士郎さんがそういうのなら…お願いします、横島さん」

 

 間

 

「えっ、マジ?」

「何を言う、君が奢ると言ったのだろう? 自分で」

「ご馳走になりますね、横島さん」

 呆気に取られる横島の瞳には、ニヤァと性格が歪んだ笑いを浮かべる士郎と屈託なく笑うネギの姿が。

「うわぁ、今のコントで見たことあるですよ、お姉ちゃん」

「むむぅ。やるね、衛宮先生」

 そして耳には鳴滝姉妹の言葉が。

「いや楽しみだ。では早速行こうか、横島先生?」

 意地の悪い士郎の言葉にがくぅと肩が下がる横島であった。

 

 

 

「食堂棟は地下から屋上まで全部食い物屋だよ♪」

 そこからほとんど歩かずにある食堂棟。学園案内人はそこの説明も律儀に加える。そして説明しながらもムシャムシャと勢いよくデザートを頬張る二人。

「あー、このマンゴープリンココパルフェおいしー♪」

「今月の新作ですー♪」

 本当に幸せそうに、おいしそうに甘いものを口に運ぶ二人。そしてそんな二人を見て青くなる横島。

「あ、あの二人とも、もうちょっと加減して…」

「君が奢ると言ったのだろう? 自分の言葉には責任を持つことだ」

「お前にハメられたんだろーが!」

 チーズケーキをつつき、ブラックコーヒーを口に運ぶ士郎にくってかかる横島。ちなみに横島は紅茶を一杯しか頼んでいないが、出費は軽く数千円に届くだろう。つぐつぐ支出に縁のある男である。いや、彼の場合は金に縁のない男であると言った方が正しいか。

「そーんな事言って。本当はボクたちに奢れて嬉しいんでしょ?」

「夕映とかパルとかが言ってたよ、女の子とのデートに何万出しても惜しくないナンパ男がいるって。それって横島先生の事だよね?」

「あいつらぁー!!」

「お待ち遠さまです」

 ここにはいない人物に怒りの叫び声を響かせる横島。そしてまだまだ運ばれてくるデザート。

(よく食べるなー)

 そんな彼女たちを見て軽く冷や汗をかきながら様子を見守るネギ。そんなネギを見て史伽はニンマリと笑う。くすくすと笑いながらスプーンにアイスをすくいとり、

「ほら先生、あーん♪」

「い、いいですーっ」

 ネギの口に持っていった途端に拒否された。その反応が気に入ったのか、キャイキャイ言いながらお互いに食べさせ合う双子。

(はー…、もうこの双子は……)

 そんな双子を疲れたように、仕方のないように見つめてため息をつくネギ。しかしその表情はどこか楽しそうで。

(……でも、他のクラスメートの人よりもはなしやすいかなー。子供っぽいからかな、僕より背が低いし…。

 故郷のアーニャもこんな感じだっけ。お姉ちゃんが言ってたけどまだまだ僕と同じで『色気より食い気』だって。えーと日本のことわざだと――?)

「何書いてるですか? ネギ先生」

 史伽に突如話しかけられてびくっとするネギ。そして慌てて出席簿を史伽から離す。

「あ、いえこれは…」

 しどろもどろになるネギに風香は何かがピンと来たようだ。

(……ん、あれは…? はは~~ん♪)

 風香はイタズラっ子な笑みを浮かべるが、ネギはそれに気がつかない。

「じ、じゃあこの辺でおひらきにしましょうか。それそれ夕方だし」

「――何言ってんの、先生」

「まだ最後に重要な所があるですよ」

 痛いところをくすぐられたネギは慌てて茶を濁す。だがそれはニッコリと笑った鳴滝姉妹に断られた。

「……重要なところ?」

「どこ?」

「「着いてからのお楽しみー」」

 士郎と横島の首をひねりながらの言葉に、姉妹の大声が建物中に響いて消えた。

 

 

 

 そして夕刻、5人は学園裏山のハイキングコースを歩く。小高い丘のハイキングコースだけあって、傾斜はなかなかキツい。

「ハアハア……。こ…この裏山に何があるんですか?」

「うう…、もうまるまる24時間以上起きとる」

「ああ……夕焼けが目にしみる」

「もう少しです、がんばって先生達」

「見えた見えた」

 情けない事になっている男達だが、小さな双子は余裕しゃくしゃくで歩を進め、とうとう目的であるそれが目に映った。

「「「あ」」」

 図らずも男達の声が重なった。眼前にそびえ立つは雄大なる大樹、そして――

(小竜姫さまが眠る場所)

 この中の誰よりも感慨深くそれを見上げるのは横島。いつから小竜姫がここに宿っているのかは知らないが、学園長の話を聞く限りでは100年以上、下手をするば千年単位かも知れない。

(…………)

 ナニカ熱いものが横島の胸にこみあげてくる。間違えなくこの世界におキヌと小竜姫を巻き込んだのは横島だ。おキヌは余り気にしていないようだが、それでもやはり辛いことは辛いだろう。

 横島を責めない、その事実が横島の心を痛める。

 そして小竜姫は? 彼女はどう思っているだろうか? 自分のことを、そしてこれからの事を。

 訳の分からない、胸を締め付けるような感情。それを胸に刻みつけて、もう一度だけルシオラが愛した夕焼けを背景に、小竜姫が宿る世界樹を見上げ――

「ん?」

 ――双子に同時キスをくらっている、ネギが。

「ネギ先生、だーい好きっ♪」

「今度は先生がプリンとパフェおごってね♪」

「あうーっ」

「コラー、今日おごったのは俺だろ俺っ! キスなら是非にとも俺にもお願いいたしますっ!!」

「やめんか忠夫、みっともない…」

 ネギをからかう双子にからかわれてテンパるネギ。大人げなくわめく横島に頭を抱える士郎。

 

 

 

 とても平和な光景に、夕焼けを背負った世界樹が柔らかく笑った気がした。

 

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