未来は無限 子等よ、無限に臨め。
月日が流れるのは早いもので明日はとうとう新学期。翌日を待ちわびる者と疎む者に分かれるこの日の明け方、いつもと変わらないで朝食の準備に勤しむ木乃香が、チャーと台所で食欲をそそる、可愛らしくいい音をたてる。そして仕上げにチャッチャッと軽快な音をあげて、本日の朝食が完成した。
居間を見れば、ぼーと考えにふけるネギと慌ただしく新聞配達の準備をするアスナの姿。いつもと変わらない光景にいつもと変わらない笑みを浮かべて朝食をテーブルに並べる。
「おまたせネギ君、目玉焼きー♪ イギリス風ブレックファストやえ」
キチンとテーブルの前で正座をし、行儀よく食事をとる木乃香とネギ。対してアスナはあっちにいったりこっちにいったりしながら、思い出したように食卓の食事に手をつけていた。
「うん! 美味しいです! このかさん」
「ホントー、ネギ君?」
落ち着いて、ゆっくりと、味わって食べるネギとは裏腹に、ひょいぱくひょいぱくと食べるアスナ。
「いっふぇひまーふ」
そして口をもごもごさせながらバイトへと向かう。アスナはいつもの通りなのだが、ちゃんと作ったものを評価してくれるネギが本当に嬉しいのだろう。木乃香は満面の笑みを浮かべてネギに言葉をかけた。
「やー、うれしーわー、ネギ君。アスナはいつも食べたらすぐに出かけちゃうから」
「悪かったわね」
腹黒いのか、天然なのか。アスナがまだ部屋にいる間にそんなことを言う木乃香の本性はどちらなのか非常に迷うところである。
そしてそのままアスナは部屋を後にした。そんな仲のいい二人を見ながらネギはニコニコと木乃香との会話を楽しむ。
「いえ、ホントにおいしいです。このかさん、素敵なお嫁さんになれますね」
「もう♪ ネギ君てば」
ポッと顔を赤らめて、照れ隠しにゴチと金槌をネギの頭に振り落とす木乃香。
そして食事が終わった二人はそのまま家事を片づけるべく動き出す。まずは洗濯。昨日のうちに洗濯機に放り込んで綺麗になったタオル類を部屋に運ぶ。
「大丈夫? 重くない?」
「はい」
女の子にたくさんの荷物を持たせるわけにはいきませんからと木乃香の3倍はある荷物を運ぶネギと、そんな彼を気遣う木乃香。それはまるで姉弟のよう。
そして次は部屋の掃除。主に身長の関係から木乃香が部屋の高い所の埃を落とし、ネギは掃除機で床を丁寧にきれいにする。
「いつもありかと、ネギ君」
「いえ、居候ですし」
息の合った二人はやはり姉弟のよう。家庭的な木乃香にネギも田舎の姉を思いだし、ついでにアスナと比べてみる。
(ツッコミが時々ハードすぎるけど…掃除に洗濯、お料理も上手だしこのかさんは優しくていいなー♪
うーん、怪力でガサツなアスナさんとは大違いだ)
「ただいまー、ちょっとネギネギ!」
「わああっ、ゴメンなさい」
噂をすればなんとやら。新聞配達から帰ってきたアスナが大声でネギを呼びつけて、更に不穏な事を考えていたネギはつい挙動不審になってしまう。さすがにそれを気にするなというのは無理であろう、呆れた視線でアスナは聞いた。
「何あわててんのよ?」
「い、いえ別にっ。ど、どうかしたんですかっ!?」
お前がどうした。そうツッコミたいのはやまやまなアスナだったが、今はそれよりも重要な事がある。郵便受けに入っていたエアメールをネギの前に差し出してヒソヒソ声で注意をする。
(これよ! これ!
イギリスからのエアメール! 魔法学校からとか書いてあるよ。バレたらどうすんのよ、不用心ね)
「あ、ホントだ」
そもそもネギが送ったものではないのだからネギを責めるのは酷な気もするが、魔法はバレて困るのはネギだから仕方がないのかも知れない。まあ、こういった手段をとっている時点で認識阻害の魔法がかかっているのは当たり前なのだが、アスナもネギも気がつかないようだった。でないと配達員とかにモロバレだ。
それはともかくとして、ネギもアスナも送られた手紙の内容に興味が移行した。早速手紙を開けるネギ。とたんにポウッと懐かしい姉のホログラムが紙の上に浮かんだ。小さな姉はとても嬉しそうに言葉を投げかける。
『ひさしぶりネギ♪ 元気してる?』
「わあー♪ お姉ちゃんからだ」
「わっ、何コレ。スゴッ。さすが魔法使いねー。で、これがあんたのお姉ちゃん?」
久しく見なかった姉の姿に喜ぶネギと、初めてみる魔法の手紙とネギの姉に興味津々なアスナ。それに関わりなく手紙のネカネは言葉を続ける。
『ちゃんと先生になれたのね、おめでとう♪ でもこれからが本番だから気を抜かずにがんばってね。
それと……ふふっ。ちょっと気が早いけどあなたのパートナーは見つかったのかしら? 魔法使いとパートナーは惹かれあうものだから、もうあなたの身近にいるのかも知れないわね。修業の期間中に素敵なパートナーが見つかることを祈ってるわ♪
最後になるけど、士郎さんと会えたらしいわね。ずいぶん印象が変わったらしいけど、私も士郎さんの顔が見たいから今度は士郎さんとの手紙も送ってちょうだいね』
そこでネカネの手紙がきれる。アスナは今の手紙で一つ不穏な単語を見つけた。
「パートナー?」
パートナー。相方や恋人など、親密な相手を指す三人称。それを裏付けるようにネギは照れながらこんな言葉をもらす。
「パートナーかあ~。やだなお姉ちゃん、僕にはまだ早いよー」
「…………」
照れながら、もらす。ネギはまるで照れ隠しのように手紙のスイッチを押して映像を巻き戻す。状況証拠は十分だった。
「ちょっとぉー。何よネギ、パートナーって。恋人のコト? ガキのくせに生意気ねー」
「えっ、いえ違いますよ」
ガシィッ
ヘッドロックをきめながら多少にやついた顔でアスナはネギに絡む。さすが女子中学生、この手の話題には興味津々ようだ。が、誤解されたままではたまらないとネギが慌てて注釈を加える。
「僕たち魔法使いの世界に伝わる古いお伽話で…世界を救う一人の偉大な魔法使いと、それを守り助けた一人の勇敢な戦士の話があるんです。
そのお話にならって今でも社会にに出て活躍する魔法使いにはそれをサポートする相棒――『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』と呼ばれるパートナーがいるのがいいとされます。
特にマギステル・マギになるんだったらパートナーの一人もいないと格好がつかないんですよ」
もっともな解説にアスナも納得顔。ついでに疑問に思ったことも聞いていく。
「へー……パートナーねー。それってやっぱり女の子? てゆーか異性なの?」
それにはい、と返事をしてから更なる解説を加えるネギ。
「やっぱり男の魔法使いだとキレイな女の人、女の魔法使いだと格好いい男の人がいいですよねー。
で、今だと大体そのパートナーと結婚しちゃう人が多いんですけど」
アスナは最後の言葉を聞いてムニニーとネギのほっぺたを引っ張りながらもっともなツッコミをいれる。
「じゃ、やっぱ恋人みたいなもんじゃんー」
「へー。ネギ君、実は恋人探しに日本に来たん?
じゃあウチのクラスの女の子だけでも30人やからよりどりみどりやな♪」
「い、いえ。だから違うんですって…」
ふと。そこまで言ってから気がついた。今の声の人物はこちら側ではない事に。
「わーっ、このかさん!?」
「木乃香、いっ、いつから聞いて……!?」
びっくぅと過剰な反応を示す二人に対して、頭に疑問符を浮かべる木乃香。
「途中からやけど何の手紙なん、それ?」
途中ってどこから? そんな怖いツッコミは出来ない。
「何でもないです、何でもないですよぅ」
ネギとアスナが二人一緒になって慌ててそんな事を言うあたり、なにかあると丸分かりだ。そんな二人にムズムズとイタズラ心が刺激される木乃香。ガチャリと玄関をあげて大声で外にこんな声を響かせる。
「みんなー、ネギ君恋人探しに日本にきたらしいえー♪」
「ギャー、違います。本当に先生をやるために来たんですよーっ」
木乃香にとってはちょっとした冗談なのかもしれないが、ネギにとっては本気でシャレにならない。というか致死量の言葉だ。涙を流しながら止めにかかる。そんなネギの様子に悪ふざけが過ぎたと感じたのか、木乃香はちょっと情けなさそうにネギに向かってあやまる。
「スマンスマン、冗談やネギ君。
アスナ、おじいちゃんがまた呼んどるから言ってくるわー」
ついでに外出の知らせもしておく。その言葉にいやそうな顔をしたのは意外にも呼び出されたわけでも無いアスナだった。
「えー、またあの話?」
「せや」
顔だけでなく、声までも嫌そうな感じ。それに笑って、だけど冷や汗を背負ってこたえる木乃香。二人の反応にちょっとだけ違和感がある。その違和感が気になったのか、はたまた部外者だったのがイヤだったのか。
「? なんの話ですか?」
軽く聞いてみるネギ。しかし二人の反応が苦笑いだけだったことから、深く入り込んではいけない話題と悟る。やがて木乃香の気配が完全になくなったところで、フーとアスナが深いため息を吐いた。
「でも驚いた」
「バレたかと思いましたよ」
肩の力を抜く二人。そうしてバタンと扉を閉めたが、その影に隠れていた二つの小さな影を見落としていた。
そして部屋に戻った二人はもう気を使う必要は無いと言わんばかりに先ほどの話を再開する。
「そう言えばさ、衛宮先生もアンタと昔一緒に住んでいたってことは魔法使いなの? それに確かバゼットさんも魔法使いとか言ってたわよね。二人にパートナーっていたりするのかな?」
もう既に士郎が魔法使いだと断定したようなアスナ口調。それに大筋間違いは無いのだけど、少し違うところがあったのでネギは苦笑しながら言葉を続ける。
「士郎さんは確かにこちら側なんですけど、魔法使いではないんですよ」
「? どゆこと?」
ネギとバゼットしかあちら側の人間を知らないアスナにはその違いが分からない。その辺りの事情を噛み砕いて説明する。
「えっとですね、まずこちら側の人がみんな魔法使いとは限らないんですよ。例えばさっき言ったミニステル・マギの人も別に魔法使いじゃなくて構わないんです。でも、こちら側の事情を知ってしまった人は大きく分けてこちら側になる訳です。だからある意味ではアスナさんもこちら側の人間だと言うこともできるんですよ」
ここまではいいですかと言うネギの言葉。それを頭の中で整理して自分の言葉に直すアスナ。
「えっと、つまりそっちの人間がみんな魔法使いって訳じゃないのね」
「ハイ。まあ比喩してこちら側の人間全ての総称として魔法使いって言ったりしますけど。
それはともかく、魔法を使う人という意味で士郎さんは魔法使いではないんです。才能がなかったみたいで、士郎さんは本当に初歩的な魔法さえ使う事は出来なかったんです。代わりに『魔術』ってものを使うそうなのですが――」
「『魔術』?」
また訳の分からないものが出てきたとアスナの表情が顕著に語っている。
「なによ、それ?」
「いえ…僕も詳しくは知らないんですよ。士郎さんも詳しく教えてくれませんでしたし、おじいちゃんも魔法と大差ないだろうって……」
「んじゃ、やっぱり魔法なんじゃない?」
「ん~、そうかもしれませんけど、士郎さんも違うって言ってるし、僕もなんとなくどこか魔法じゃなくて違和感があるというか。本当になんとなく、なんですけどね」
腑に落ちないといったネギの声色に、アスナの表情も曇る。
「とにかく、そういう意味で士郎さんは魔法使いじゃなくて魔術師なんですよ」
「あ~、私よく分かんないわ。とにかく、衛宮先生はあっち側って判断でいい訳ね。で、パートナーとやらは衛宮先生とバゼットさんにいるの?」
「パートナーについては…ちょっと分からないです」
そう言ってネギは手紙を持って立ち上がった。
「ちょっとネギ、どこ行くのよ?」
「士郎さんのところですよ。せっかくお姉ちゃんからの手紙が来たんですから、士郎さんにも見せないと。ついでにパートナーがいるのかどうかも聞いてみます」
「ん、分かった」
行ってきますとネギが言い、行ってらっしゃいとアスナは言う。その気安さは、木乃香に負けず劣らず姉弟のようだった。
ネギは女子寮からでると、とりあえず大きなため息を一つ。
「はー、さっきは危なかったなー。
僕が魔法使いだってバレたら連れ戻されるのは確実で、下手をするとオコジョにしちゃうぞっておじいちゃん言ってたもんな。バレないように注意しないとね」
反省をしながらとぼとぼと歩くネギ。と、その視界に先ほど話題にしていた二人の人物が入ってきた。道端で会話をしていた二人だが、ちょうどいいと彼等に笑いかけるネギ。
「士郎さーん、バゼットさーん」
「やあネギ君。どうしたんだい?」
「ネギ先生、おはようございます。どこかにお出かけですか?」
声をかけられた二人は同時にネギへと向き直りニッコリと笑って返事をする。
「ええ、士郎さんにちょっと用事が」
「私か?」
いきなり名前を呼ばれた士郎は怪訝そうな顔をする。そんな彼に構う事無くネギは懐から例の手紙を取り出して士郎に手渡した。
「はい、これはお姉ちゃんからの手紙です。中を見てもらえば分かりますけど、お姉ちゃんも随分士郎さんの事を気にかけてたみたいですよ。次は一緒に手紙を送りましょうね」
「すまないな、仕事が忙しくて時間がとれなかったんだ」
「それを僕にじゃなくて、お姉ちゃんに言って下さいよ?」
「ああ、もちろん」
ネギから手渡された手紙を大切そうに懐へとしまう士郎と、そんな士郎を温かい目で見つめるバゼット。
「ところで……」
話が一段落ついてから、ネギはもう一つの話題を出すべく口をひらいた。
「二人とも、もうパートナーっているんですか?」
「いないよ」
「いません」
そして同時に息がぴったりとあった返事。
「あ、そうなんですか」
そう言われたらそう返すしかない。そしてそんなネギに疑問を返すのは士郎。
「しかし、なぜ急にそんな事を?」
「お姉ちゃんがパートナーについて聞いていたんですよ。だから二人ともどうなのかなって気になって」
「ああ、なるほど」
と、そこまで会話をした所でネギは唐突に頭に疑問が沸いた。この二人、道端でどんな会話をしていたのだろうかと。
世間話なんかするような二人ではなさそうだし、なんとなく趣味の話も合いそうにも無い。となると仕事の話が有力だが、二人の仕事場は遠く離れている。愛を語り合っていた? ありえない。と、なるとあちら側の話を……いや、そんなもの誰が聞いているか分からない道端でする話では無い。
考えれば考えるほど、どんどん二人に共通した話題がないように思えて仕方が無い。考えても仕方が無いと、ネギは思い切って聞いて見る事にした。
「そう言えば、お二人はどんな話をしていたんですか?」
「「世間話」」
ぴったりと合わさった声。ネギが真っ先に却下した可能性が大当たりだった。しかしそれはそれでどんな話をしていたかという疑問は残る。
しかしそれをネギが尋ねる前にその内容を口にする士郎。
「世間話というよりは…グチかな? ほら、私は忠夫と相部屋だろう?」
「いえ、初耳ですけど」
「? 言ってなかったか?
まあそれはともかくとして、忠夫の私生活が目に余ってな。全く、服は脱ぎ散らかすわ料理はしないわ、掃除はしないわ覗きはするわ。褒めるところなんて好き嫌いをしないところくらいだぞ」
「…………」
それ、大人の褒めるところじゃないですよね。そんな声は喉まで出かかってでない。
「他はともかくとして覗きだけは許せませんね。ミスター横島、次会った時には地獄を見せてあげましょう!」
そして相変わらず不穏な発言をするバゼット。
「て、手加減は忘れないで下さいね」
ゴキゴキと手をならすバゼットに、彼女の被害にあう事の多いネギは本気で横島の体の心配をした。まあ、その心配は8割がた杞憂であるのだけど。
と、ネギがそう言った瞬間、
「ネギ先生~っ!!」
聞き覚えのある声が響いてきた。
「はいはい。――え?」
ドドドドドドドドドド
そして地鳴りをたてて迫り来る彼の生徒達。その迫力はちょっと怖い。
「わあ~~っ!?」
「うおおっ!?」
「…………」
そんな光景にネギと士郎は驚きの声をあげるがバゼットはとても冷静な顔。この程度の事でいちいち驚いていたら麻帆良ではやっていけないと悟ったのだ。その悟りの事を人によっては諦めたとも表現するが。
「ぜひとも私をパートナーに~っ!!」
「私も私も、ネギ王子~♪」
それはともかくとして生徒津波はあっと言う間にネギ+2名を取り囲んでしまう。
「パートナー探してるんだって!?」
「それって恋人なの!? 結婚相手なのー!?」
「あの、舞踏会はいつ……?」
「なっ、何でみんな知ってるんですかーっ」
「あー! 護衛隊長だ衛宮護衛隊長!!」
「えー、じゃあバゼットさんはー?」
「部下だ部下! 護衛隊隊員!」
とりあえずバゼットのこめかみに青筋が一つ浮いた。それに気がついたのは隣にいた士郎だけで、彼はビクビクしながら事の成り行きを見守る。
「先生、王子様って本当!?」
「いつも持ってる変な棒は王家の証とか」
「お妃にしてぇ~ん♪」
「何の話ですかぁっ」
涙目で叫ぶネギ。彼女達はもうノリにのって訳が分からなくなってきているし、自己完結している為にこっちの話を聞く気もない。彼女達は既に疑問をほとんど確定事項として扱っている。
「うわーん、ヤバいよーっ」
「あっ、逃げたぞ。追えーっ」
ダッと逃げたネギを追いかけようとする一同。だが、その道に2つの人影が立ちはだかり、道をふさぐ。
「ちょっと調子にのり過ぎじゃないのかね、君たちは?」
「甘いですね、ミスター衛宮。このくらいは麻帆良で日常茶飯事ですよ?」
「マジか……」
「……マジです」
立ちふさがっただけで精神的に自滅した二人だった。
「む、むむ……」
「む~」
「ま、マズいよマズいよぉ~」
しかし、立ちふさがったという事実は大きい。士郎はともかくとしてバゼットの実力は以前の石投げとかで十分に体に染み込んでいる。さすがの彼女達と言えども無策に飛び出していく訳にはいかない。
「……ん?」
そしてその状況に、士郎が気がついた。目の前の女の子達のほとんどはバゼットを警戒していて、士郎にはあまり注意を払っていないと。そうと気がつけば話は早い。
「バゼット、ここは任せた!」
回れ右をしてネギを追う士郎。そしてそんな士郎に僅かな集中力さえも割く事なく目の前に意識を集中するバゼット。
「……さて、ミスター衛宮にこの場を任された以上はバゼット・フラガ・マクレミッツの名にかけてこの場所は死守させて貰います」
そう言って、ポケットから皮の手袋を出してはめる男装の麗人。あらゆる意味で本気なのは間違いない。ついでに大人げないのも間違いない。
「くっ!」
悔しそうに呻くのはあやか。たとえこの場を突破できたとしてもそれでは遅すぎる。一刻も早くネギの元に辿り着かなくてはならないのだ。
「いいんちょ、仕方ないね」
そう促すのは桜子。もうこの道を使えないのは明白だった。
「ええ、仕方ありませんね」
あやかは本当に残念そうにそう言ってから、
「仕方ありません、みなさん。この道は破棄して別の道でネギ先生を追いますよ! 多少の時間のロスには目をつむります!!」
オー!
「なあっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいっ!」
いいんちょの号令に従い、蜘蛛の子を散らすようにわき道や裏道に消える生徒達。それを慌てて追うバゼット。
バゼットにしてもまだまだ麻帆良の認識は甘かったようだ。
ところ変わってここは麻帆良上空。杖にまたがり空を飛ぶネギと、杖の端に掴まって宙ぶらりんな士郎。彼らはあっさりとバゼットを翻弄した自分の生徒たちを見て冷や汗をかいていた。
「すごいですねー、あのバゼットさんが手玉に取られてますよ」
「……本当に中学生か、あの子達は?」
一難去った彼らはとりあえずの冷静さを持ち、これからの事を話し合う。
「ところで…僕たちはどうしましょう? どっかに隠れた方が――」
「う~ん、それなんだけどな」
チラリと下を見る士郎。物凄い勢いで町を駆け巡る彼女達を見ると不安になった。
「なんかさ、どこに隠れても見つかる気がするんだよな」
「…………」
否定できない。幻の地底図書室まで追ってきそうな勢いだ。
「じゃ、じゃあこのまましばらく空をとんでます? 認識阻害の魔法がかかってますし」
「……えっと、さ」
再びチラリと下を見る士郎。物凄い勢いで町を駆け巡る彼女達を見ると不安は全く拭えない。
「ほっとくと、認識阻害の魔法くらい容易に破れそうな気がするんだが」
「…………」
いや、さすがにそれはないでしょう。そう言いたいのだが、その言葉が喉から上に出てきてくれない。全く根拠のない話ではあるが、そんな心配をする程に彼女達の勢いはすごい。何せ、あのバゼットが負けるくらいだ。そして根拠のない不安というのは感じてしまった時点で負けなのである。
「……どうしましょう?」
「……どうしようか?」
完全に手詰まりだった。どうしようもないほど、どうしようもない。
「と、とにかく万が一空を飛んでいる所を見られたらアウトだ。どこか人気のない所に隠れて様子を見よう!」
「そ、そうですね!」
ちなみに、この手の認識阻害の魔法を破るには『そこに人が居る』と確信するのが手っ取り早い。つまりは空を飛んでも不思議ではないという感覚を持っている魔法使いにはほとんど無効な魔法であるという事であり、人が空なんか飛べるはずがないという常識を持っているという一般人にはとてつもなく有効な手段。の、はずなのだが。彼女達の場合、ノリで『人だって空を飛べるさ!』とか物凄いイイ笑顔で、物凄い真面目に言い切りそうなのだ。この場合、認識阻害の魔法がどちらに転ぶかはかなり怪しくなると言わざるを得ない。ある意味、とてつもなくやっかいな相手であるため、彼等のカンは決して間違ってるとは言えなくもないかもしれない。ともあれ、魔法がバレたらオコジョなのは確実なのだから極力リスクは避けるべきではある。
そのため、とっとと逃げる場所を探す二人。
「で、どこに行きましょうか?」
「女子寮に帰るというのはアリだな。ある意味盲点だ」
「でも、見つかった場合は袋小路ですよ?」
「ならば私の部屋はどうだ? 女子は立ち入り禁止だし」
「……多分、みなさんは立ち入り禁止とか気にしないと思いますよ。それに横島さんなんてためらいなく僕たちの居場所をみんなに通報しそうですけど」
「ム……」
同僚に全く信用されていない横島。弁護のべの字すら出ないのは人としてどうかと思う。横島も士郎もネギも。
そこでチラリと学校が目に入った。
「と、とりあえず学校なら休みで人もいないかな?」
「まあ、他に選択肢もないか」
諦めの入った士郎の賛同の言葉に急旋回をして誰もいないはずの校舎を目指すネギ。
かなりの速度が出る杖はほとんど間もなく目的地へと辿り着いた。杖から飛び降り、一息つく二人。
「ふー、ここなら……」
「しかし油断するなよ、すでに誰かいるかも……」
「あれ!? びっくりしたー」
女の子の声に、ギクリと体を強ばらせる二人。声のする方に視線を向ければそこには清楚な和で着飾った一人の女の子が。
「え……あっ…」
「うっ……ってえ?」
(しまった……全然知らない人に魔法を見られた!?)
士郎はどこかで見たことがあるような気がして体が止まり、ネギは顔面蒼白になってパニックになる。
「ど、このどなたか存じませんが今のはつまりあのその~っ、……あれです! 今流行りのワイヤワーク! ってゆーか、CGなんです!」
(もう訳が分からないよ、ネギ君)
士郎は心の中でそうため息をつく。彼はネギがパニックになっている間に目の前の少女の正体(と言うのも失礼な気がするが)にあたりをつけている。少女の方も士郎はともかくネギが自分に気がついていないと分かっているのだろう。苦笑をしながら声をかける。
「ネギ君ネギ君、ウチやウチ♪」
そしてその言葉でようやく我に返るネギ。
「え? ウチ…あ…。こ、このかサンー!?」
彼女は、化粧をして随分大人っぽくなっていたが紛れもなく木乃香だった。
「何や、急に出てきたからびっくりしたわー。そーか、CGか、なるほろー」
この天然具合とかは、特に。
「わー、スゴイ。それ着物ですね、キレイーッ♪ このかさん、何でそんな格好を?」
ネギは普段とは違う木乃香の格好を気にいったようだ。すでに追われている事を忘れている様子に士郎は苦笑い。
「ネギ君と衛宮先生こそどうしてこんな所に?」
「追われているんだ」
本来は休みの日なので学校には誰もいないはずであるのだがという木乃香の疑問に士郎が簡潔に答えた。
「追われてるん? って誰に?」
「ああ、それは――」
簡潔な答えに複雑な意味をのせようとするその前に、
「木乃香さまー!?」
「どこですかー」
遠くから、なんか声が聞こえてきた。明らかに木乃香を探しているであろうその声に、当の木乃香はギクリと体を強張らせる。
「あっ、アカン」
「ん…あれは?」
「…………」
対してネギと士郎は姿形と声から彼等の追跡者ではないと判断して暢気なもの。だが、木乃香はそんなにのんびりとはしていられない。慌ててネギと士郎の手を掴むと走り出した。
「ネギ君、衛宮先生。ウチ逃げな……!!」
「えっ…逃げ?」
「近衛もか?」
引かれるままに走る二人。ネギは完全に状況に流されているだけだが士郎は違う。木乃香の追い手は殺気もないし、第一ここは麻帆良だ。不審人物が早々入って来れる場所でも無い。となれば個人的な、例えば宿題を忘れて教師に追いかけられているレベルの危機感ではあるだろう。が、ここで黙って立っていると間違いなく士郎は彼等に木乃香の行方を聞かれる事になる。事情が分からない士郎はそれになんて答えたらいいのか分からないし、そもそもこんな目立つところでボーっと立っていたら士郎達の追い手にも捕まりかねない。
(とりあえず隠れる事が先決なんだよな)
状況に流される事を最適と踏んだ士郎。受動と能動、この二つの差異は小さいようで大きい。ネギが大きく成長するまでまだまだ時間がかかりそうだった。
「えーっ、このかさんがお見合いー!?」
「中学生でお見合いって……」
更に所変わってここは麻帆良女子中学のとある教室。追われている事を完全に忘れていると確信できる大声と呆れてような小声。言うまでもなくネギと士郎の声だ。彼等の声にクスリと笑う着物の少女。ちなみに木乃香の事情の前にネギ達の事情を聞いて、自分が騒動の原因を作ったらしいと分かった時にはかなり申し訳なさそうだったと追記しておく。
「そーなんや。おじーちゃんがお見合いが趣味でな。いつも無理矢理すすめられるんよ。ウチ、中2やのにフィアンセとか言って。
今日はお見合い用の写真撮らされる所やったんけど途中で逃げてきてもーた」
(普段と同じような調子でお転婆な事を言うのだから性質が悪いな……)
相槌を打つネギとは対称的に士郎は心の中でそう呟く。
「……ところでお見合いって何ですか?」
「ありゃ」
「…………」
ガクっと。木乃香は愉快な声をあげながら、士郎は無言で。天然なネギに対して忠実なリアクションをとる。
「見合いゆーんは結婚相手、つまり将来のパートナーを探す日本の習慣やな♪」
「…………」
解説をするのは木乃香で士郎は沈黙を保っている。こういった伝統には裏にかなりドロドロとした事情が多分にあり、それを知ってしまっている士郎が変に口を挟むと幼い子供達が失望してしまうのでは無いかと考えての事だったが、どうやらそれは正しかったらしい。
「え…パートナー?」
少し前にミニステル・マギの話題が出たネギとしてはパートナーという言葉を含んだお見合いにやや関心を持ったようだった。それを察した木乃香はお見合いの一例を出そうと自身の持っていたお見合い写真を机の上にドサドサーッと並べる。
「ほら、相手の写真もこんなよーけあるんよ」
「わースゴーイ!」
アスナが喜びそうなダンディーなオジサマの写真。ネギと士郎は軽くそれを見回して感嘆の声をあげる。
「みんなカッコイイじゃないですか! お医者さんとか弁護士さんとか」
「うん、流石学園長だな。かなりいい人脈を持っている」
対して木乃香の声は暗い。
「えー、ウチややわー。この人なんか倍も歳離れとるんよ」
「…………」
その言葉に地味にショックを受ける士郎。彼の歳は24。木乃香が歳が離れすぎてイヤだと言った青年と4つしか離れていないのである。別に木乃香とお見合いをしたいという訳ではもちろんないのだが、無意識にでもそう言われると結構へこむ。
(……親父のことじいさんって言ってたのって、実はダメージ大きかったのかなぁ)
無邪気な悪意の恐ろしさを感じ始める24歳はさておき、話を続ける14歳と数えで10歳。
「まだウチら子供やのに…将来のパートナー決めるなんて早すぎると思わへん?」
「うーん……そうですよね! わかります、このかさん! 士郎さんはどう思いますか?」
「は…へ?」
そして唐突に話がふられた。木乃香もニコニコとしながら最年長の意見を求める。
「将来についてこの歳で決めるんは早すぎやないんか? ってウチらは思うんやけど、衛宮先生はどう思うん?」
「そう、だな。それはとても難しい問いだと思う」
話を一瞬で吟味して、慎重に言葉を紡ぐ士郎。
「結局、どちらにもメリットもデミリットもあると思う。感受性が本当に豊かな時期なんて人生の割合でもほんの少ししか無いからな。
若い内にたくさんの可能性に触れてみるるのも人生だし、早いうちにたった一つに突き進むのもアリだと思う」
思い返されるのは、養父の夢を受け継いだ子供を見つめて笑い返した男の姿。それを呪いと評した未来の自分がいた。そして間違いじゃないと言いきった自分がいた。つまりはそういう事。何が正しくて何が正しくなくて、何が間違っていて何が間違いじゃないのか。それは経験してみないと分からない。いや、経験したって分からない。ただ、ほんの少し広い世界を見る事が出来るのは間違い無い。
「えー、そんなんかなぁ?」
含んだ意味が多い士郎の言葉にしかめっ面でお見合い写真を見る木乃香。もちろん、これは多少の年月を過ぎたからいえる事。まだまだ少年少女の彼等に分かる事では決して無い。苦笑をしたままで士郎は言葉を続ける。
「別にお見合いをしろって言ってる訳じゃなくて、選択肢としてある事を忘れるなって事だ。お見合いはやってみれば分かるけど、やってみなければ分からない。逆にお見合いをしなければ分かった事も、お見合いをしたら分からなくなってしまう事だってある」
最も、お見合いに限った事じゃないけどね。と付け加えて士郎は言葉をきる。そしてそれに対する幼い二人の反応は、
「「???」」
だった。まあ、無理の無い反応とも言える。そんな二人の反応を見て、フムと士郎は頭を動かす。
「もう少しわかり易くいった方がいいかな?」
コクコクと二人して首を縦に動かした。まるで姉弟みたいに息のあった木乃香とネギに士郎はニッコリと微笑み、
「先の事とか他人の迷惑なんて考えずに、思ったように動けばいいって事だよ。後始末は大人に任せておけばいい」
そう言った。
「それじゃ、やっぱりお見合いなんていややわー」
とたん、そんな結論を出した木乃香。ちょっと学園長に罪悪感を持った士郎だった。
「それにそやな。ウチ、おじさんとかよりネギ君がパートナーの方がええなー♪」
「え…」
そしてグサグサと士郎にダメージを与えつつネギに絡む木乃香。
「ネギ君もパートナー探し中やろ? ネギ君、大きくなったらカッコよくなりそうやし。
キャー♪ やっぱり外国人はえーなー♪」
一人でノリまくる木乃香と、そんな木乃香をひいて見るネギと士郎。と、はたと動きを止めてニコリとネギを見る木乃香。
「そや! ネギ君のパートナー、どんなんがええか占ってあげるえ」
「「え、占い?」」
ネギと士郎の言葉がしっかりと被った。そしてネギよりも早くその事実に気がついた士郎が声に出す。
「ああ、そうか。近衛は占い研究会の会長だったな」
「ちゃうちゃう、部長や部長」
「……なんで会なのに部長?」
「さあ?」
三人して首を捻る。ちなみになぜかというと占い研究会は麻帆良公認の『部』であるからである。『会』とはその部が勝手にそう名乗っているからに過ぎない。
「ま、どうでもいいやんそんな事。ネギ君、手、出して?」
言われた通りに手を出すネギ。それをギュッと握り、まじまじと手相を見る木乃香。士郎はすぐそばに立ち、その光景を静かに見守る。
「ふむふむ、なるほどー」
「ど、どうですか?」
(このかさんの占いって何となく当たりそう…)
もしかしたらネギは無意識の内に木乃香の内在する巨大な魔力を捉えているのかも知れない。そんな心はともかく、重く木乃香は結果を口にする。
「ネギ君の将来のパートナーはなー…ものすごく近くにいます」
「えっ…」
意外と言えば意外な言葉。ネギの脳裏に手紙で言っていた姉の言葉がよぎる。
「その人はこの春休みまでにちょっとでも仲良くなった女の子やな」
「ふむふむ、たくさんいるぞ」
(たくさんいるのか?)
「あら、ややなあ♪ ネギ君、今日までにその子パンツを見とるえ♪」
(えっ、結構見てるかも)
(おい、ネギ君。その反応はなんだ? かなり心配だぞ、そのリアクションは)
「んー、そしてその子はツインテールと鈴がチャームポイントのちょっと乱暴者な女の子やな♪」
ブーーーッ
ネギと士郎が同時に吹き出した。
「それってまんまアスナさんじゃないですかー、無理矢理占わないでくださいよー」
「近衛…あのな……」
これ以上無く満足のいくリアクションに木乃香もイタズラっ子な笑みで答える。
「アハハ、今のは冗談や。でもネギ君、アスナのこと好きやろー?」
「なっ…す…すすす好きじゃないですよー別にっ!」
「あはは、ネギ君顔まっ赤やでー♪」
(その反応からすると本当に好きなのかそれとも自覚の無い図星を突かれてテンパっているのか……。どちらにしてもかなり脈アリだな、これは)
ドドドと教室の中で追いかけっこをする二人。そしてそれを外から傍観する一人。
「最近、ネギ君とアスナ仲えーやん」
「そそ、そんなことないですよ」
「そーけ? アスナもまんざらでもなさそう……てゆーか最近は嬉しそうやけど」
そして木乃香に追いついてジタバタと駄々っ子パンチをするネギであるが、木乃香に頭を押さえつけられながら撫でられているために全く手が届いていない。なんというか、見ていてとても微笑ましい。
「それにネギ君、ウチもな…」
「え…」
ちょっとだけ、木乃香の声の調子が変わった。それを察知したネギの動きが止まり、その隙をついて小さな男の子をぎゅっ…と抱きしめる和服の少女。
「ネギ君来てからカワイイ弟ができたみたいで嬉しいえ♪」
「……このかさん。ぼ、僕は弟じゃなくて先生ですよー」
「ネギ君また怒ったー♪」
そうしてまたもや追いかけっこ。しかしさっきとは違う点は、
「あ」
慣れない着物を着ているせいで、和服の裾を思いっきり踏んづけてしまったところだろうか。
「ひゃあ」
「と」
思いっきり転びそうになった所で間一髪、士郎が木乃香を抱き止める事に成功した。が、残念ながら後ろを走っていたネギは急に止まれない。
「わう」
結果、木乃香の背中に思いっきり激突してしまった。もちろん、その程度で士郎はビクともしない。しかし、木乃香は士郎の胸にぎゅっと顔を押し付けてしまう事になる訳で。
「~~~~~!!」
顔が真っ赤になる。いや、別に異性として認識して顔が火照った訳では無い。単に物理的に呼吸という生存に必至な運動が阻害されてしまったからである。普段ならいきなり顔が真っ赤になる事はないのだろうが、今は残念ながら直前までネギと追いかけっこをしていた最中である。ほんの僅かな時間呼吸が出来なくなっただけで顔が真っ赤になってしまった。
「と、悪い。近衛」
そしてそれにすぐに気がつき、一歩ひいて木乃香の呼吸を確保する。
「っぷはぁ!」
そして大きく呼吸を一つ、真っ赤になった顔が妙に扇情的である。だが、それに気がついたのは生憎と男二人ではない。
「ネギ、あんたねー。心配して探しに来てみれば――」
「木乃香さん、あなたという人はおとなしそうな顔をしてネギ先生を誘惑するとは。き、着物まで用意して」
「ミスター衛宮…。私が必死になって生徒達を抑えているのに、あなたは生徒とお楽しみですか……。なるほどなるほど」
殺気をこれでもかと込めた三者三様の声。その言葉の発生源は、いつの間にか教室の中に入っていたアスナとあやか、そしてバゼット。
さて、ここで冷静にネギ達の状態を確認してみよう。士郎は木乃香をしっかりと抱きとめて、木乃香の顔は上気して赤く、そしてネギは木乃香の腰にしっかりと抱きついている。アスナが見ればネギが木乃香に甘えているように見えるし、あやかが見れば木乃香がネギに抱きつかれて嬉しそうに顔を赤らめているように見える。そしてバゼットには士郎にしっかりと抱きしめられた木乃香が嬉しそうに顔を赤らめているように見える。
「「「…………」」」
あ、ヤバイ。
気がつくが、もう遅い。アスナは手をボキボキと鳴らしているし、あやかはユラァと幽鬼のように近づいてくるし、バゼットはすでに皮の手袋を装着済みだ。
「ア、アスナさん誤解…っ」
「いやな、いいんちょ。これは違うねん」
「待て、落ち着けバゼット。気持ちは分かるがとりあえず落ち着け!」
全力でなだめるが、残念ながらもう彼女たちに言葉は通じない。
ドドド…
と、そこに更に事態をややこしくするであろう、そして事態をうやむやにしてくれる可能性を秘めた突撃音が響いてきた。
「こっちだぞーっ」
「ネギ王子ーッ!!」
「発見ーッ♪」
「このかお嬢さまー」
そうだ、追われてるんだった。それは未だに抱きあっている三人の共通した思い。
「衛宮隊長だー!」
「バゼット兵士もいるよー!」
「構うかー、突撃ー!!」
「ネギ王子ー私と私とー♪」
「わ、私もー……」
「このかお嬢様、今日は逃がしませんよー」
「さて、とりあえず死になさい。ミスター衛宮」
「冷静に恐い事言うなよ! 落ち着けバゼット!! まずは事態の収拾を――」
「玉の輿だーッ」
「木乃香さん、ぬけがけは許しませんよー」
「あーん、アスナ助けてー」
「アスナさーん」
こうして、春休み最後の日はいつもの通りにふけていく。