喋るオコジョとキスゲーム。
せつせつと自分とネギの劇的な出会いと、どれだけネギが素晴らしい漢なのかを語るカモ。
その話にネギは照れているし、おキヌは真面目に感動してるし、アスナの目は遠いところをみている。
「……って言うのが俺っちと兄貴の出会いなんでさー♪ その後も色々お世話になって……」
「すごい、格好いいじゃないですかネギ先生!」
「へ~~? 漢ねぇ……」
「いやー、なつかしいなあ。カモ君、大きくなったね」
テンションがハイとローで見事に別れる女の子二人。ネギはというと久しぶりに出会えた友達の変化に喜んでいたりする。
そして世間話はそこまで、カモは来日も目的を切り出した。
「――ところで兄貴、ちっとも進んでねえみたいじゃないですか」
「え? 何が?」
キョトンとするネギに大声をあげるカモ。あまりの勢いの良さにおキヌがやや引き気味だ。
「パートナー選びっスよ、パートナー選び!! いいパートナー探さないと立派な魔法使い(マギステル・マギ)になるにもカッコがつかないでしょー!?」
その言葉にネギの顔が曇る。
「うっ…………。それは実はこれから探そうと思ってたんだけど…………なかなか…………」
どうもノリが悪いネギを見ながらカモは、ふーっ。と、どこから出したのか、タバコを吸いながらニヤッっと自信タップリに笑う。
「そうスか。でも俺っちが来たからにはもー大丈夫。俺っちは兄貴に姉さんに頼まれて助っ人に来たんスよーっ」
その言葉に曇っていたネギの顔が輝いた。
「ええっ!? 本当!?」
「も~さっきここの風呂場で調べてきたスけど、すごくいい素材だらけで…………。
良い! すごく良い! この中に運命的なパートナーが必ずいる!!」
断言するカモに、タバコを奪い取って消したアスナが胡散臭そうな視線を向ける。
「へー。何でそんなことわかるのよ」
「俺っちにはそういう能力があるんスよ」
「あ、さっきのはカモさんだったんですね」
痛い所をつっつかれて焦るカモと、どこか平和な感想を漏らすおキヌ。そして追求を振り払うように大声で気合を入れなおすカモ。
「いけるぜ3―A!! この中にきっと兄貴のパートナーが…………!!」
と、その瞬間。ガチャっと風呂場からのドアが開いた。そして中から出てくる、魔法を知らない木乃香。彼女はバスタオルを体に巻いただけの状態で部屋の中を見渡す。
「何や何や、さわがしーなー。誰か来とるんかー?」
「わー!」
「お♪」
思わず大声をあげてしまうネギと、コイツは本当に魔法を秘匿する気があんのかといった感想を抱かせるカモ。
「い、いや別に誰もいないわよー?」
フォローをするアスナにしーっしーっっとカモにジェスチャーをするネギ。そしてアスナの声を聞いた木乃香は怪訝そうな顔をする。
「おキヌちゃん、いるやん」
「「あ」」
すっかり忘れていましたといった様子で声をハモらせるアスナとネギ。そして少々複雑そうな顔をしながらもしっかりと木乃香に頭を下げるおキヌ。
「どうもこんばんは。おじゃましています」
「うん、こんばんは~。で、おキヌちゃんはどうしたの?」
自分の棚から下着を出して身につける木乃香。ちなみにその際バスタオルを外して一糸纏わぬ姿をこの場の全員に晒し、カモが異常なハイテンションになったりしている。直後、アスナから怒りの鉄拳をもらったりしているが。ネギは木乃香がバスタオルを捨て去った瞬間、首の筋がどうにかなるんじゃないだろうかという勢いで真っ赤な顔を逸らしている。
「あ~と、え~と…………」
そんな騒がしい光景を背負いながらどもるおキヌ。魔法の事を言ってはいけない事は理解しているが、上手い言い訳がとっさに思い浮かばなかったのだ。彼女は秘匿の為の嘘をつきなれていないので、これはある意味しょうがないのかもしれない。
「ん? どしたん?」
そしてニコニコとおキヌの来訪目的を問う木乃香。悪意が無いのが逆に性質が悪い。どうしようかと回りを見渡して見るとアスナにボコられているカモが目に留まった。その光景にピンと来る。
「実は、ネギ先生のペットを見させて貰っていたんですよ」
「へ? ネギ君のペット?」
おキヌが指差した先にはアスナが(外見上は)可愛がっている白いオコジョ。その可愛らしさに木乃香は思わずカモを抱き上げてしまう。
「可愛え~~っ!! 真っ白なオコジョやー。ネギ君のペットなん~~!? うひゃ~~♪」
きもちえー。そんな事を言いながら頬ずりする木乃香。もちろんカモもまんざらではない。そしてそのまま部屋を飛び出した木乃香は廊下で大声をあげる。
「みんな、見てやコレー」
「あっ、ちょっ……」
慌ててネギが止めに入るが冷静に考えなくても手遅れだ。瞬く間にクラスメイト達が集まってカモを囲い、もみくちゃにしていく。
「わー、フェレット? かわいー♪」
「違うよー、イタチだよイタチ!」
「あの……オコジョです」
「オコジョ? オコジョって?」
「イタチの仲間ですね。イタチに似ていますが、イタチよりもやや小型なのが特徴です。日本はもちろんアジア北部や北米、ヨーロッパまで広く分布しています。毛皮はアーミンと呼ばれ高級です。一説にはクダキツネの原型となった動物と言われています。
お腹の方は年中黒いですが、保護色として背中は夏にチョコレート色になり、冬に白色になります。が、このオコジョはお腹も白いですね。アルビノ、でしょうか?」
「詳しい話をありがとう、ゆえ吉。だけど誰も聞いてないよ?」
「なんですとっ!?」
「さっきのはこいつやったんかー」
「もー、しょうがないなーー」
「ネギ君のペットやて」
「さわらしてー♪」
「あ~~♪ 流石高級毛皮♪ たまんない肌触りー」
「聞いているのではないですかっ!?」
一人だけ変な方向に向いているが、おおむねカモに対して好意的なようだ。
(フフッ。全員、俺っちの漢気にメロメロかよ)
おかげでカモがありえない勘違いをしてしまっていたりする。そんな中ネギは控え目に、されどはっきりと聞く。
「あ、あの…………僕、コレ飼ってもいいんですか…………?」
「いーんじゃないー♪」
「この寮、ペットOKだし」
「ウチ、許可取ってきたげるなーー」
そして返答は、即答で好意的に是。思わずネギの顔もほころぶ。
「やっ、やったー。ありがとうございます」
少しだけ肩の荷が降りたネギは、足取り軽くカモを回収して部屋に戻る。そしてそれを合図に他の人達も解散していく。集まるときも早ければ解散する時も早い人々である。ちなみにここでおキヌがネギ達についていくのいくのも不自然なので、彼女はおとなしくパル達について行っている。
ドアを閉めたネギは一つ懸念が減ったとばかりに、足取りと同じく軽やかな声をあげる。
「これでパートナー探しも楽になるかもー。
お姉ちゃんにカモ君を寄こしてくれたお礼メールを書かなくちゃ」
「ま、しょーがないわね」
その言葉に、木乃香のいない自室で躊躇いなくカモは大声をあげた。
「あー、兄貴。いい、いい!! 別にそんなの書かんでも」
「え…………? 何でさ?」
「え…………あの…………えーと……」
「?」
様子のおかしいカモに疑問符を浮かべるネギとアスナ。そしてカモが次に出した言葉は…………
「実は…………今いた娘達の中に『これは!!』というパートナー候補がいたんスよ!!」
完全に話を逸らす為の言葉だった。
「えっ!? うそっ!?」
しかし切羽詰まっているネギは一にも二にも無くその話に飛びつく。アスナも目を丸くして興味津々といった風情でカモの言葉を遮る様子もない。少し安心したカモは出席簿の中にある写真のうち、一人の女の子を指差した。
「こ、この人っス。もー俺っちのセンサーもビンビンス」
「こ、これは…………!!」
「本屋ちゃん?」
やや慌てながら、それでもハッキリと言い切るカモ。そして指された人物を見てビックリした声をあげるネギとアスナ。いや、この場合誰を指差しても驚きの声をあげたのかもしれないけれども。
(み、宮崎さんが僕の運命的なパートナー候補………………? 確かにちょっと思いあたるフシも……。で、でも…………)
混乱気味のネギに対してアスナは放心気味。ただ、どちらも僅かも声を上げずにのどかの写真に魅入っている。そしてカモがこれを幸いとばかりに推してくる。
「なんスか、『すごくカワイイ』とか書いて兄貴もまんざらでもないんじゃー」
「ち、ちがっ…………。そんなことないよ!!」
そして顔を真っ赤にして大声で反論するネギ。そんな彼等を見てアスナはとても平和な事を思う。
(なんかのん気なもんねーー…………。ま…………エヴァンジェリンもしばらくは大人しくしているみたいだし、いっか…………)
実際はパートナー選びはVSエヴァンジェリンを含めて魔法使いとしてとても重要な事でもあるし、エヴァンジェリンの方だって水面下で何をしているのかも分からない。一番のん気なのはそう考えているアスナなのだが、本人ばかりがそれに気がつかない。
そしてネギ達はと言うと、ギャーギャーと言い争ったあげくにネギが、
「と、とにかくしばらく考えさせてーっ」
「あ、ネギ」
と言って逃げ出した事でとりあえずの決着を見せた。逃げ出したネギに軽くそう声をかけたのはアスナで、
「わかったっス。お早目に、兄貴ー」
容易に矛を収めたのはカモ。ネギがいなくなって、ちょっとだけ気が緩んだその空間だったが、
「あれ、手紙が……。わ、ネギのお姉さんからのエアメールじゃない」
「!?」
アスナが郵便受けに入っていたネカネからの手紙を見つけた事で(主にカモの)緊張感が高まる。
「あっ、姐さん!!」
「誰が姐さんよ」
冷静につっこみを入れるアスナだが、カモをそれどころではない。一生懸命に声を出す。
「その手紙、俺っちが兄貴に届けておきますよ!!」
「い、いいけど……?」
鬼気迫るカモの言葉に思わずその手紙をカモに渡してしまう。そしてカモはそれを咥えると、一目散に部屋から飛び出していく。そして残されたアスナはポツリとこんな言葉を零した。
「って言うか。オコジョと普通にしゃべってるし、私……」
なんか気が落ち込むアスナだが、どうして落ち込むのかが分からない。人の心とは微妙なものである。そしてカモはと言うと、廊下に飛び出すと最短距離でゴミ箱の元へ行き、ネカネからのエアメールをゴミ箱に放り込んだ。
(やばい…………早いとこ行動おこさにゃ)
冷や汗まみれのオコジョはそう決心を固く決めた。
翌日の放課後。図書委員としての仕事の最中なのどかは十冊に迫る本を持って麻帆良中学校内を歩いていた。
(図書館島が遠くて困りますー…………)
優しくグチを思いつつも、口には出すことなくとことこと歩き続けるのどか。そして玄関につき、本を丁寧に置いてから下駄箱を開けると手紙が一つ、ハラリと落ちてきた。
(あれ…………?)
別に下駄箱に手紙を入れた記憶は無いはずだけど。首を捻りつつも手紙を拾うのどかだったが、書かれている文字を見たとたんにドキンと心臓が一回、大きく高鳴った。
(こ、これはネネ、ネギ先生からの手紙! どどど、どうしてー?)
ドキドキドキと大きくはないけど高鳴り続ける心臓。それを押さえつけながら震える手で手紙をめくっていくのどか。
『宮崎 のどかさま
放課後、りょーの裏で
まてます。
ぼくのパートナーに
なてください。
ね ぎ』
冷静に考えると、とてつもなく怪しい文章である。が、ネギからの手紙を受け取ったという事実がのどかから冷静さを奪っていた。
(――――――――! うそっ…………。先生からのラブレター…………!? パ、パートナー…………。
キャーー♪ どうしよー)
ちなみにこの『どうしよー』は行くかどうかではなく、その前段階としてどうしたらいいのか分からない状態である。このあとしばらく、玄関でアワアワとするのどかの姿が見えたとか。
一方、もちろんそんな手紙を出した覚えの無いネギはテコテコと広場を歩いていた。
「はー。何とか今日も無事に授業をこなせたなー。またエヴァンジェリンさん、いなかったし……よかった。…………でも、先生としてはエヴァンジェリンさんのサボリを認めておく訳には…………で、でも…………」
「兄貴、兄貴ーッ」
色々な葛藤が渦巻くネギの胸中だが、それはカモの大声で中断された。
「あ、カモ君。何で学校に!? ダ、ダメだよ大声出したら」
「大変ッスよ、例の宮崎さんが」
慌てるネギだが、それに構わずにカモは状況を説明していた。
「えーーーっ!? 寮の裏手で不良にからあげされてる~~!?」
「かつあげっす、かつあげ!」
ネギの脳内にはこんがりと揚げられたのどかのイメージ画像が再生されていたりする。しかしそんな事に構わずにネギはカモを見て問いかける。
「な、何でそんなことがわかったの!?」
「え……えーと。能力だよ、オコジョの特殊能力」
この上なく胡散臭いその説明だが、カモの言葉が本当だったら一秒でも惜しい。杖にまたがったネギは大声でカモを促す。
「と、とにかく行くよっ、カモ君!!」
「そーこなくっちゃ、兄貴!!」
そしてネギにしがみつくカモ。桜と共に空高く舞い上がったネギ達はほとんど時間を置かずに寮の裏へと辿りつき、
「いたっ!」
即座にのどかの姿を確認した。ただちに人目の無い所まで急降下し、一人ポツンと立つのどかに走り寄る。
「宮崎さん! 大丈夫ですか!?」
切羽詰ったネギの顔をどう解釈したのか、可愛らしいお気に入りの服で着飾ったのどかは嬉しそうに顔を赤らめる。
「あ…………先生…………」
「あ、あの、不良のからあげはどこです!?」
「からあげ――……定食ですか?」
「あ、あれ。襲われていたんじゃ…………?」
「はあ……?」
「あれー、おかしいな……」
どうもテンションと話がかみ合わない二人。揃って可愛らしく首を傾げる。そして話が一段落ついたと思ったのどかはただでさえ赤い顔をますます真っ赤にしながら、ためらいがちにネギに問いかけた。
「あ、あの――……。それでネギ先生…………。わ、私なんかが…………パ、パートナーでいいんでしょうか?」
「へ…………」
想像の範疇を超えた言葉にネギの目が点になる。そのネギの肩で親指をたてるオコジョに流石のネギもピンときた。
(カ、カモ君!?)
(すまねェ、兄貴…………。手っ取り早くパートナーの契約を結んでもらうため、ひと芝居うたさせてもらいましたぜ)
(カ、カモ君、騙したね!)
(あ、後押しだよ後押し!)
はたから見るととても不審者な行動をとるネギにのどかも冷や汗を流しながら頭に疑問符を浮かべた。それでものどかは意を決して話を進める。
「あの…………おとといの吸血鬼騒ぎの時にはまた助けて頂いたそうで…………」
「え…………」
ちょっと話についてこれないネギであるが、そんな事はおかまいなしに話を進めるのどか。
「何だか私、先生に迷惑かけてばかりですいません…………」
「い、いえ。そんなコトないですよ」
そう答えるネギ。実際、ネギにのどかから迷惑を受けたといった思いはない。なぜなら先生は生徒を守る事が当然だからだ。一人の人間として見ているのどかと一人の生徒として見ているネギ。そこには悲しい事に、大きすぎる溝が存在している。そしてそれを埋めようという意図はないだろうが、彼女は埋めるという事に一役買う言葉を口にしていく。
「だから…………お返しに――……ネギ先生のお役に立てることなら何でも――……が…………がんばりますから、何でも言ってくださいね…………♪」
真っ赤な顔を更に赤く赤く。フラフラになりながらでも、どもりながらでも。しっかりと地面に立って、はっきりと言葉をネギに届けた。その純真な言葉はネギの心を動かす。
「み…………宮崎さん…………」
(フフ…………俺の読みは間違ってなかったな…………)
ニヤッっと笑ってネギの肩から飛び降りるカモ。そんなカモに、目をパチクリさせながら問いかけるネギ。
(ど、どういうコト!? カモ君)
(一口にパートナーと言っても、ただ隣にいりゃいいって訳じゃないんだよ! 互いに信じ合い、いたわりあえる関係であることが重要!
その点、この娘は――ネギの兄貴を好きであることではズバリ現時点クラスNO.1!!)
(え…………ええ!? み……宮崎さんが僕のこと、すす好っ…………!? そ、そんな、僕困るよ~~っ)
他人からとは言え、好きと言われてテンパるネギ。どのくらいテンパっているかというと、のどかが聞いたら人生に影響が出そうな心の傷をつけそうなくらい。そしてテンパっているネギを尻目に、短時間で地面に書いた魔法陣を発動させるカモ。
「契約(パクティオー)!!」
「わ」
「キャ……」
魔法陣は光り、そして下方から流れる光はまるで質量を持つかのように陣内にいるものの存在を上方に押し上げる。それは感情ですら例外ではない。
「なっ…………何コレ!? 魔法陣!?」
ネギは驚きの声をあげ、そしてのどかは感じた事の無い高揚感に戸惑っている。
「ん…………せ、先生…………これは…………? この光……な、なんだかドキドキ……しますー…………」
(あ、あれ? ぼ、僕も何だかドキドキしてきた…………)
そしてその高揚感を覚えたのはネギも同じ。言い知れぬ感覚に軽い恐怖心まで付きまとう。そしてカモはそんな感情の変化なぞ知らんと言わんばかりに、胸を張って魔法陣の説明を始めた。
(これがパートナーとの『仮契約』を結ぶための魔法陣っス)
(仮契約!?)
詳しい話を知らないネギに、カモは丁寧にそして少しだけ大げさに仮契約システムを説明していく。
(契約して『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』になった者は魔法使いを守り、助けることになる。その代わりにミニステル・マギは魔法使いから魔力をもらって血行促進精力倍増!! お肌もツルツル!! 肉体的にも精神的にも大幅パワーUPでいいコトずくめって訳っスよ~~♪
でも兄貴のような子供には『本契約』はまだ出来ないし…………ミニステル・マギを選ぶのはなかなか大変だし迷うものッス。そこで出てくるのがこの仮契約システム!! 言わばお試し期間って訳よ!
活動時間等に著しい制限がつくっスが何人とも契約できるのが仮契約で、魔法使いのキャパシティにもよりますが常に傍らにいる従者一人だけと契約するのが本契約っス)
「な、なるほど~~~~。知らなかった」
士郎の事があったから微妙に勉強したネギであったが、それでもしっかりとした話を聞いたのはこれが初めて。そんなしきりに感心するネギを見てせかすカモ。
(わかったっスか? じゃあ早速仮契約を! 兄貴!!
仮契約なら何人とでも結べるし、ホラ軽い気持ちでこうブチューーーッっと♪)
「う、うん。ブチューーーッっと…………。
ってええっ!? ブチューーッて、キス!?」
さらっと流されたその内容に思わず大声を上げるネギだが、カモは平然としたもの。
(一番簡単な契約方法さ。他にもあるけどめんどいし)
いくらなんでもこればっかりはハイソウデスカと簡単に頷くわけにはいかない。神秘の秘匿も忘れてカモにくってかかるネギ。
「だ、だめだよ。それに宮崎さんだってこんな騙したみたいな格好で…………「キ、キスですか――…………?」」
どこか艶かしい、のどかの声。
「わ、私も初めてですけど…………ネギ先生がそう言うなら………………」
「え」
絶句。一言でネギを表すのにこれ以上似合った言葉は無い。そしてのどかはと言うと、胸の高鳴りに従って自らの行動を決める。
「それにー……私も何だか胸がドキドキしてー…………」
その言葉、自らの言葉に覚悟を決めるのどか。自分に酔う、彼女。しっかりと目を閉じて唇を差し出す。
「えっ……ええ~~っ!?」
これは言うまでもなく未だに覚悟が決まらないネギの言葉。
(そ、そんな。僕、心の準備が…………っ)
(ここまで来て何迷ってるんだよ。パートナー欲しいんだろ、男ならホラ! ブチューーッてウラ!!)
(ぼ、僕もまだキスなんてしたことないし…………宮崎さんは僕の生徒だし~~。あうっ~~、はううっ……)
顔を真っ赤にして本格的にテンパり、そしてフリーズするネギ。そしてのどかはというといつまでも訪れない口付けに薄目を開けて様子を窺うと、下の方にネギが。背が届かないものと思って腰を低くするのどかにネギの顔が更に赤くなる。しかし女性にここまでさせているのだ。それがネギに覚悟を決めさせる。しかし、なのに、だけど。体が動かない、動いてくれない。
と、固くなっているネギの頬に、ありったけの勇気を振り絞ったのどかの手が添えられる。
「あ……」
それは、どちらの声だったのか。徐々に近づく唇。もう、お互い以外は何も、感じられ、ない――…………。
「コラ、このエロおこじょ」
パチンッ
「「!?」」
はずだったのに。いきなり聞こえてきた聞き覚えのある声と同時、契約陣が消滅してしまった。その衝撃でネギは正気に戻り、
「アッ、アスナさん!? これはあのそのっ……ってああっ、宮崎さん!」
のどかはきゅう……っと気絶してしまう。そんなネギ達には構わずにアスナはカモによって捨てられていた、ネカネからのエアメールを白いオコジョにつきつける。
「あんたね~。子供をたぶらかして何しようとしてたのよ。ホラ、お姉さんからの手紙!! 見たわよ~~っ。全く、おキヌちゃんが見つけてくれなかったらどうなってた事やら…………」
「うっ……」
その言葉に今のシーンを見られていたのかとネギが思わず回りを見渡すと、やっぱりというかおキヌもすぐそこにいた。
「い、ひぇ、いへぇぇ……。ど、ど、どう、いたし、ましして――――。かぐ、かぐら、かぐらざかさ、神楽坂さん、足、足、速いん、ですね…………」
ものすっごい息も絶え絶えに地面に突っ伏してしたけど。そんな彼女にニヘラっと苦いものが混じった笑みを向けるアスナ。
「あ~、ごめんね。ちょっと速過ぎた?」
「いへぇ、時間、も、あり、ませ、ん、でした、し。こちら、こそ、足を引っ張って、しまって」
段々呼吸が落ち着いてきたおキヌに軽く頷いてからアスナは厳しい顔でカモに向き直る。
「お姉さんに頼まれてきたなんて嘘じゃない!! ホントは悪いコトして逃げて来たんでしょ、あんたーーっ!!」
(ひ…………ひ~~~~っ。この姐さんには全部バレてる~~っ!?)
目をグルグルにして打開策を練るカモだが、アスナの追求は止まらない。
「しかも何コレ。下着泥棒二千枚って書いてあったわ」
「カ、カモ君。どーゆーコトなの!?」
ネギまでもが追求の手を伸ばしてきた。
「あ、兄貴。これには訳が! 俺っちは無実の罪で……」
「無実の罪……?」
聞いてくれたのをこれ幸いとカモは必死に言い逃れをしようと言葉を重ねる。
「じ、実は……俺っちには病弱な妹がいまして…………。
ウェールズの冬は寒い…………貧乏暮らしの俺達兄妹じは満足な家にも住めず…………。せめて妹にはあったかい寝床を作ってやろうと保湿効果に優れた人間の女性の肌着を毎晩拝借しているうちに何故か罪に問われ…………」
「立派な下着ドロじゃない」
「ですよねぇ」
アスナの冷や汗を流しながらの突っ込みに全面的に賛同するおキヌ。そんなチャチャは無視して話を進めるカモ。
「ムショ暮らしじゃ妹に仕送りも出来やしねぇ。そこで覚悟を決めて脱獄…………。貨物船にゆられゆられて、唯一頼れる人間のネギの兄貴がいる日本に来たって訳でさぁ…………」
そこで話が終わる。のどかを抱きかかえたアスナはそこで素朴な疑問を入れた。
「だからって何でこんなコトしたのよ?」
「そ、それは手柄を立てれば兄貴に使い魔(ペット)として雇ってもらえると思って…………。
……マギステル・マギ候補のペットともなりゃあ追っ手も手出しは出来ねぇって寸法でね。へへっ、バレちまっちゃしょうがねぇや」
案外あくどい計画と開き直ったその態度にアスナとおキヌの唇がひくつく。
「あ、あんたねぇ~~」
「こ、このヒトは…………」
「…………いや、すまねェ。姐さん達、ネギの兄貴…………」
が、彼女達が責めたてる前にカモは神妙に覚悟を決めた。
「尊敬するネギの兄貴を騙して利用しようなんざ俺も地に落ちたもんさ…………。笑ってやってくれ。…………大人しく捕まることにするよ。
じゃ…………あばよ」
そうカッコ良く去っていくカモに、下着ドロなんて情けない罪で捕まった上に脱獄したスケールの小ささにアスナとおキヌは言葉もかけられない。が、彼の兄貴分であるネギは違ったらしい。
「ま、待ってカモ君!! し、知らなかったよ……カ、カモ君がそんな苦労を………………」
とても輝いた目で滂沱の涙を流すネギ。カモは少し、ほんの少しだけ良心が痛んだが――――
「わかったよカモ君!! 君をペットとして雇うよーーーーっ」
「あ、兄貴ーーーーッ。いいんですかい、こんなスネに傷持つ俺っちなんかで」
「うん! 月給は五千円でどう!?」
「じゅ、十分でさあ、兄貴ーーーー!」
目の前に垂らされた蜘蛛の糸には躊躇いなく飛びつく。現金だ。
「いや…………まあ、いいんだけどね」
「あ、あは、あははははは…………」
そして客観的に一人と一匹を見ていたアスナとおキヌは揃って冷や汗を流して頬を掻いていた。
夕方。のどかは玄関で目を覚ました。
「???」
現状を把握できない彼女はキョロキョロと回りを見渡したがやがて、
「い、いやです私、こんな所で寝ちゃって。しかも何てはしたない夢を~~~~っ」
夢だと判断したらしい。照れ隠しにブンブンと手を振る。そしてそこから少しだけ離れた物影にはネギとカモが。
(ご、ごめんなさい。宮崎さん…………)