子供は光の中で育てばいい。
「え…………。し、修学旅行の京都行きは中止~~!?」
学園長室からこの世の終わりを目撃したような声が響いてきた。そのとんでもない声量に士郎と横島、バゼットといった学園長室にいた面々は耳をふさぐ。
「うむ。京都がダメだった場合にはハワイに…………」
ただ一人、まともに受け答えしてくれた学園長の言葉はネギの耳に届かない。きょ……きょうと――……と言いながら少年は波に遊ばれる木端のようにフラフラとしたあげく、士郎やバゼット、横島のように闇を背負って壁と同化する。それを冷や汗をかきながら見る士郎とバゼットと横島、そして学園長。
「コレコレ、まだ中止とは決まっとらん。ただ、先方がかなりイヤがっておってのう」
瞬間的に立ち直るネギ。真面目で、そして少し不安そうな顔で学園長と対峙する。
「先方? 京都の市役所とかですか?」
「いや、うーむ。何と説明してよいやら」
僅かな時間だけ言葉を選ぶ学園長。そしてすぐにその言葉を吐き出した。
「関西呪術協会――それが先方の名前じゃな」
士郎とバゼットの顔が険しくなる。キョトンとするのはネギと横島。
「か……関西呪術協会?」
聞きなれない言葉をオウム返しに呟くネギ。それにウムと頷いた学園長は背景の説明を始める。
「実はワシ、関東魔法協会の理事もやっとるんじゃが、関東魔法協会と関西魔術協会は昔から仲が悪くてのう……。
今年は幾人か魔法先生がいると言ったら修学旅行での京都入りに難色を示してきおった」
「え…………、じゃあ僕たちのせいですか!?」
ガビンとすごい顔をするネギ。それを見ながらフォフォフォと言葉を続ける学園長。
「まあ聞きなさい。ワシとしてはもーケンカはやめて、西とは仲良くしたいんじゃ。そのための特使として西へ行ってもらいたい」
「!」
学園長の言葉に息を呑むネギ。回転の早い彼の頭は瞬時にこの責任の重さを理解した。そして続く学園長の言葉にいっそうの集中力を持って耳を傾ける。
「この親書を向こうの長に渡してくれるだけでいい。ただ道中向こうからの妨害があるやも知れん。彼らも魔法使いである以上、生徒や一般人に迷惑が及ぶような事はせんじゃろうが…………ネギ君にはなかなか大変な仕事になるじゃろ。
……どうじゃな?」
学園長は机の引き出しから一通の手紙――親書を取り出してネギの前に差し出す。
「…………」
一瞬だけ沈黙するネギ。しかしすぐにその顔は明るくなっていく。
「わかりました、任せてください学園長先生」
淀みなく親書を受け取るネギ。その顔を見て学園長はフォフォフォと愉快気に笑う。
「ほ……いいカオをするようになったの、新学期に入って何かあったかの?」
「え!?」
何かあったかと言われれば確かにエヴァンジェリンの襲撃があった。しかしネギとしては終わった事件を蒸し返してエヴァンジェリンを苦しませたくはない。
「い、いえぇ。別に何もありませんよ!」
「そうかの?」
アワアワと冷や汗をかきながら手を振って否定するネギ、何かあったなんて丸分かりである。まあ学園長も何かあったなんてよく分かっている事である。嘘が全くつけない少年の冷や汗混じりで見つめながら、次に視線を後ろに控えた三人に移す。
「と、いう訳じゃ。衛宮君、横島君、バゼット君。どうかネギ君のサポートをよろしく頼むぞい」
その言葉を受けて頷く三人。
「はいっ!」
「めんどいっ!」
「仕事はします」
………………………………
「忠夫、お前今日メシ抜きな」
「全力で任せて下さい、学園長!」
調子のいい横島に、はぁ……。と四人が溜息をつく。そして場を仕切り直すようにネギの方を向く学園長。
「そうそう、京都と言えば孫のこのかの生家があるんじゃが……このかに魔法の事はバレとらんじゃろうな?」
「え……たぶん」
学園長のカミングアウトにネギの頭に疑問符が浮かんだ。そんなネギに関わらず話を進める学園長。
「すまんの、ワシはいいんじゃがアレの親の方針でな。魔法のことはならべくバレないように頼む」
「は、はい。わかりました」
ネギの返事に満足げに頷く学園長。
「うむ、では修学旅行は予定通り行おう。頼むぞ、ネギ君。
と、横島君と衛宮君、バゼット君はもう少し話があるから残ってくれないかの?」
「はいっ」
「はい」
「はい」
「はい」
微妙に全員の返事がずれる。こんなところ一つとっても息の合わない一同である。礼儀正しく、しかし元気よく退室するネギ。それを見てから学園長はスッと目を細める。
「では、そろそろ本題に入ろうかのぅ」
「…………」
「…………」
そんな学園長の様子を見て身構える士郎とバゼット。
「え? なになに、この空気?」
そして全く緊張感の無い横島。本気で気が抜けたその他の三人はハァとため息を吐いた。
「まあ変に肩肘張っても仕方がないしの」
そう前置きしてから学園長は本題を話し始める。
「単刀直入に言おう、この修学旅行で西からの襲撃者は必ず来る。それも西洋魔法使いを狙った人間ではなく、ネギ君を狙った人間がの」
ここでようやく事の重大さを悟ったらしい横島がアワアワと学園長に突っかかっていく。
「ちょ、どうしてそんなのを断言できんすかっ!?」
「…………恐らく、ネギ先生が英雄の息子だからでしょう」
それに答えたのは学園長ではなくバゼットだった。彼女は自分に視線が集まるのを感じながら、しかしよどみなく言葉を紡いでいく。
「魔法協会と呪術協会が今までどんな交渉を重ねてきたのかは知りませんが、今は亡き英雄の息子が特使になるとなると意味合いが違う。本格的な和平になる。先の大戦で西洋魔法使いに恨みを持った人間にしてみればこれは決して看過してはならない事です」
「当たらかずも遠からじ、といった所じゃの」
バゼットが口を閉じるのと同時、学園長が口を開く。
「実はの、今までも何度か和平の使者は出しているのじゃよ。それなりの成果もあげとる。しかしの、今はコレといった決定打が打てないのが現状なのじゃ」
「? ネギ先生が親書を運ぶのが決定打になるのですか?」
バゼットの言葉にフムと一拍子をおく学園長。
「順繰りに説明しようかの。
まずは先の大戦で西洋魔法使いと東洋魔法使いの仲は著しく悪くなったのは間違いがない。しかし大戦の影響で関西呪術協会の人手不足は深刻となり、血筋も実力も申し分ない人間はたった一人、親西洋魔法使い派の人間だけじゃった。皮肉な事にその人物が今の西の長という訳じゃ」
「「「…………」」」
無言で聞く三人。それを見て満足そうに頷いた学園長は更に先を話す。
「まあその人物とワシは個人的な親交があり、ちょくちょくと話をしていたのじゃがの。特に大戦終結後、西の長は嘆いておったわ。戦争とはどちらが悪いものではない、なのに西洋魔法使い全体を憎むこの風潮をなんとかしたいとな。
それにワシも一口のった。事実、あのまま放っておいたら再び戦争が始まるかも知れんという危惧もあった。それぐらいに西の雰囲気は険悪じゃった。
そして親善の第一歩として麻帆良と西の親善条約を結ぼうとしたのじゃ。一番怖いのは西側の魔法使いが暴走して西洋魔法使い側に攻撃を仕掛ける事。そうなれば西側全体がよいきっかけだと雪崩込んでくるじゃろうしの」
「ちょっと待った! 西の長とやらはこっち側なんだろ? なら別にその人に押さえて貰えば危機的状況にはならないんじゃないのか?」
素朴な疑問をあげたのは横島。そしてその疑問に答えたのは士郎だった。
「いや、それは無理だ忠夫。
元々西の長は西洋魔法使い派の人間だ。それが血筋と力を祭り上げられて長についているだけ。彼は確かそんなに年をとってないようだし、西洋魔法使いを恨んでいる西の魔法使いに西の長への信用なんて全くない。むしろ古参の重役の方が圧倒的に発言力があったはずだ」
そこで言葉をきり、少しだけ黙る士郎。その真剣な顔を見ると頭をフル活動させているようだ。
「私が調べた所によると…………だいたい長派が一割、中立が四割、反長派が五割といった所か」
「詳しいの、衛宮君」
驚きの顔をする学園長に曖昧な笑みを返す士郎。
「麻帆良に来るまでは西の様子を探っていましたから。どうも最近キナ臭くなってきたようで、おかしな動きが随所に見られました。余り深い所には入れませんでしたけどね」
その言葉に、満足そうに頷く学園長。
「しかし衛宮君がネギ君についてくれるとは心強いの。
話を戻そう。もし西側が暴走してしまったら、不可侵条約しか結んでいない今では戦争がおこるやも知れん。だが親善条約を結びさえすれば、個人的暴走として麻帆良と西が協力して暴走者を粛正出来るため、戦争になる危険は低い」
その言葉に顔を歪めたのは士郎。不快な話だという感想を隠そうともしない士郎だが、学園長は視界に入っているだろうそれを見て一言付け加えてから話を進める。
「もちろんワシらが手を組めば無傷で取り押さえる事も可能じゃしの。
それで西の長と内密に調整を図っておったのじゃが如何せん敵が多くての、近日ついに連絡を取り合っていた事がバレてしもうた。こちらも後一手で親善条約を結べる所まで来てはいるのじゃが、如何せん反対派が目を光らせているのでの、反対派に見つからずに西の長の所に行くのは無理じゃ。どうしても一手が足りないのじゃよ」
「私ならば力ずくで西の長の所まで辿り着ける自信がありますが」
バゼットが進言するも学園長はゆるゆると首を振るのみ。
「そういう訳にもイカン。何せこれから和睦を結ぼうという相手じゃ、傷つけたりしては和睦そのものが成り立たなくなる」
僅かに沈黙。そしてわき出た疑問を横島が言葉にしてぶつける。
「じゃ、なんでネギを特使にしたんすか? あからさまにネギ坊主、狙い撃ちじゃないですか。ソレ」
「普通ならの。しかし、もし西の長とサウザンドマスターが旧知の間柄ならばどうする?」
士郎の息が止まった。それに構わずに言葉を続ける学園長。
「今は亡き大戦の英雄の忘れ形見、しかもサウザンドマスターの旧知の仲である西の長を訪ねてもおかしくない。幸い、修学旅行に乗じて京都に行く分には西の長の方がなんとでもしてくれるようじゃしの。
ならばこれを妨害して非があるのは向こうじゃ。そうなれば大きく動く事も出来まい」
「ふざけるなっ!!」
士郎の怒声。それに横島が目を見開いて驚き、バゼットは目を閉じて黙認した。学園長は表情を変えずに無言で士郎を見るのみ。
「それはネギ君を見てない! ネギ君を『サウザンドマスターの息子』としか見ていないっ!」
「承知の上じゃ」
あくまでも冷静な学園長の様子に士郎の頭に血が上ってく。
「ふざけるな、ふざけるなっ!! そんなものが承服出来るはずがないだろうがっ!」
「ならばネギ君は京都には行けんのう、ナギの手掛かりも無しじゃ」
今度は士郎の全てが止まった。怒りも、何もかもが固まったように動き出してはくれない。
「ネギ君を『サウザンドマスターの息子』として扱う。否定はせん、正にその通りじゃ。だが、今の状況ではそれ以外に京都に入る手だては無い。ワシを責めたければ責めるが良い、確かにこの歪んだ情勢はワシらの責任じゃて。君が怒る資格は十分にある。
じゃがしかし、これ以外に手が残されていないのも事実じゃ。他に策があるなら使っとるよ」
固まる士郎。彼の頭には高速で様々な情報が駆け巡っているのだろう。そんな士郎に学園長は更に無慈悲な一言を止めと言わんばかりに投げかけた。
「『ネギ君はサウザンドマスターの息子であるというだけで幾度となくこのような事に巻き込まれていく』」
それは、エヴァンジェリンの騒動の時に告げられた言葉。それに対して士郎はなんと答えたのか。
「これは別にの、厄介事が向こうからやってくるという事だけを指して言っている訳では無いのじゃ。ネギ君はサウザンドマスターの後を追う、つまり大戦の英雄の足跡を追う事になる。ただでさえそこには追い風もあれば向かい風もあると言うに、ナギの奴は謎の失踪を遂げたまま。藪をつついて出てくるものは…………蛇ではすまないかも知れぬ」
それすらからも守ると、犠牲の出る戦いなんて承服出来ないと。士郎は確かにそう言った。だから、士郎は今一度宣誓する。
「…………今度こそは、オレが守ります」
エヴァンジェリンとの戦いを糧にして、決して引かない想いで士郎はそう言った。
「…………仕方ねーな、俺も少しは手を貸してやるよ」
「忠夫…………」
ニヒルに笑う横島に、士郎の顔が少しだけ弛む。続けてバゼットも口を開く。
「仕事ならば間違いなく完遂致しましょう。この依頼、確かに引き受けました」
そんな三人を見てウムと力強く頷く学園長。
「今回手を出したら向こうに非があるとは言え、親書が西の長に届いてしまえば向こうの負けは確定じゃ。恐らく少数精鋭。しかも罪を被る覚悟の出来た、後の無い者が襲ってくるだろうとワシは予測している。抜かるでないぞ!」
学園長の激励に迷いなく頷く士郎とバゼット。
「例え誰であろうとも関係ありません。私はネギ君を守ります」
「無論です、ここで遅れを取るわけにはいきません」
「え? 相手、そんなに強いの? …………やめようかな」
そして瞬間的に逃げ腰な言葉を言う横島。
「忠夫、お前な…………」
そして士郎は呆れた口調で責めようとして――やめた。横島の目はそれでも弱音をはいていなかったから。
それから数日が経ち、場所は麻帆良から少し離れて都心。そこで大きく伸びをしている少女――桜子が気持よさげに大声を出していた。
「やっほー、いい天気♪」
まるで山彦を発生させようとしているような大声だが、しかしここは人通りの多い町のド真ん中。大きな声も雑踏に紛れてすぐに消えてしまう。まあ、周りの人たちは迷惑そうな顔をしていたけれども。
「ん~~、ホント♪」
そしてそれに応えたのは桜子の横を歩いていた柿崎。無言だが一緒に歩いている釘宮も気持ちがよさそうだ。そしてあまりの気持ちのよさに調子に乗る桜子。
「ほにゃらば早速カラオケ行くよ~~っ♪ 9時間耐久で!」
「よ~~っし、歌っちゃうよぉ、いくらでも!」
一緒に調子にのる柿崎に、釘宮が冷や汗をかきながら突っ込みを入れる。
「いい天気とか言っといてカラオケか。
っていうか、コラコラ。違うでしょ、今日は明後日からの修学旅行の自由行動日で着る服を探しに来たんでしょ? 予算も少ないんだからいつもみたくテキトーに遊んでると…………」
「ゴーヤクレープ一丁~~♪」
「お、ゴーヤ行くのかい姉ちゃん? 苦いよ~~」
「あ、私もー」
「話を聞けーーッ! そこのバカ二人!!」
全く聞いちゃいなかった。というかブツブツ言う釘宮を放って近場のクレープ屋に突撃する始末である。
「もー怒った、私も食べるっ」
「はいはい食べなさい、どんどん太りなさい」
「って、うあっ!? ホントに苦ッ、コレ!!」
「あー、見て見てこの服かわいーー♪」
女三人寄れば姦しいと言うがことわざをそのまま体現しているような三人組である。そのままワイワイと、小物を買ったり服を見たり買い食いをしたりと雑談を交えつつ順調に資金を減らしていく。
「ねーねー、これなんか奈良っぽくない?」
「どこがよ」
「カラオケ安いよ~、どう?」
「すいません、今日は用事があるんですー」
今時の少女らしい言動のまま町を歩く三人。
「あーん、楽しい。私たち普段、麻帆良の外に出ないからねー」
「――ん?」
「どしたの、柿崎?」
と。そこで柿崎が何か発見したようだ。不思議そうに彼女を見た釘宮が柿崎の視線を追うと、ピシリと彼女も固まった。
「…………」
「…………」
彼女たちの視線の先、そこには困っていますオーラをまき散らす士郎とバゼットの姿が。と言うか、今日は休日だというのに二人ともスーツ姿なのはなぜだろうか? まさかあの年でスーツが普段着なのだろうか。
「何してるんだろ、あの二人?」
「なーにとぼけた事言ってんのよ桜子。デートに決まってるじゃない、デ・ェ・ト♪」
「うにゃ! マジですかっ!?」
「うわー、ちょっとショックかも……」
「おおっと、それは問題発言ではないですか、釘宮さん」
「そうか……、くぎみーにもとうとう春が来たか…………」
「訳あるかっ! っていうかくぎみー言うな!」
固まってぼそぼそと相談する三人。ちょっとショックと言った釘宮も、ニヤニヤと野次馬根性丸出しな笑みを浮かべている以上はおそらく女子特有の恋愛好奇心の方が勝っていると思われる。
「しかしですね、となるとやはりここはくぎみんの為にお二方の仲の真偽をはっきりさせた方がいいのでは?」
「くぎみん言うなっ! じゃなくて、いちいち最もらしい理由をつけるな、面倒くさい!」
「よっしゃ、早速尾行、尾行!」
「人の話を聞けぃ!」
喚く釘宮を無視した桜子と柿崎は士郎とバゼットの方を振り向き、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
バッチリと目が合った。
「あのな、内緒話ならもっと小さな声でするといいぞ」
「それから私とミスタ衛宮は別にそういった関係では全くありませんので悪しからず」
呆れた二人の声が妙に響く。
「つうか5メートルは離れてるんですケドッ!」
「ひそひそ声だったし!」
桜子と柿崎の叫びが響いた。釘宮はごまかし笑いを浮かべながら二人へ近づく。
「アハハ……。ところでデートじゃないならここで何をしてるんですか?」
そう問いかけるといきなり雰囲気が暗くなる二人。
「バゼット……どうする? 言うか?」
「いや、しかしですね…………」
顔を見合せてどうしようかと相談を始める二人。そんな真剣な士郎とバゼットの様子を見て、近づいてきた柿崎と桜子が助け船を出す。
「なんか困った事でもあったんですか?」
「私たちでよかったら手伝うよ?」
その言葉を聞いてますます困った顔をする二人。
「いや、しかし、でも……弱ったな」
「ですが、もうどうしようもないです。ここは彼女らの厚意に甘えましょう、ミスタ衛宮」
悲壮な顔で決意を固める二人。その尋常ではない雰囲気に釘宮はゴクリと唾を飲み込む。柿崎と桜子も引きながら冷や汗をかき、そして次の一言を待っている。
「「道に迷いました」」
間
「「「はい?」」」
打ち合わせでもしてたんかいという程綺麗に士郎とバゼットの声がハモり、打ち合わせでもしてたんかいという程綺麗に釘宮・柿崎・桜子の声がハモった。
「いや、実はバゼットも修学旅行に行くことになっただろ?」
「あ、はい。それは聞きましたけど…………」
答えながら釘宮は思い返す。副担任として衛宮先生と横島先生がついてくるという話のついでに、付き添いの女性がしずな先生だけでは女子中学生の修学旅行に大変だろうという事で特別にバゼットさんにも付き添いを頼んだとかなんとか。
「それでですね。私もなのですが、ミスタ衛宮も修学旅行に備えて色々と入り用だったのです。一応麻帆良にも大人向けの品物を扱う店があるとはいえ、やはりあそこも学園都市。そういった品物は種類が少ないのですよ」
「だから一緒にこっちの方まで買い物に来たんだが、いかんせん私はこういった入り組んだ都市部には不慣れでね。バゼットを頼りにしていたんだが…………」
「私も日本に来てからあまり時間が経っていないせいか土地感がないのです。そこはミスタ衛宮に任せようと思っていたのですが…………」
お互いに頼りにしていた部分が被ってしまい、いっちもさっちもいかなくなってしまったという訳か。
「くっ……」
と、柿崎が漏らすように笑い声をあげた。
「くく……」
続いて桜子も。
「くくくっ…………」
つられるように釘宮まで。だっていつも凛としている格好いいバゼットや、泰然としている士郎が迷子になって情けない顔をしているのだ。そのどこか子供っぽい二人に思わず親近感を覚えてしまうのは仕方がないと思う。
「あはっ……あはは」
「あははは、あはははははーー」
「あっはははは、ははははははははーーーー!」
三人して腹を抱えて笑い始める。そんな彼女達を憮然とした顔で見るのはバゼット、疲れたように見るのは士郎。それからしばらく、少女たちが笑い終わるまで時間がかかった。
「あ~、笑った笑った」
「満足ですか?」
柿崎を睨むバゼットはかなりご立腹な様子。まあ、あれだけ爆笑されたら仕方のないことなのかも知れないが。
「ま、ま。そんに怒んないでよ、バゼットさん。私たちがちゃーんと案内してあげるからさ」
「本当か?」
桜子の言葉に地獄に仏といった表情をする士郎。それに笑みを浮かべながら答えるのは釘宮。
「大したことじゃないですしね。じゃあ行きましょうか?」
「「おー♪」」
元気よく返事をする柿崎と桜子、そして少女たちの後ろを歩く士郎とバゼット。余談だが、この一行を見て士郎に舌打ちした男性はかなりの数に上ったとかなんとか。
士郎達が歩いて行ったのとは反対の方向に、わきあいあいと歩いている四人が居た。ネギとこのか、おキヌに横島の四人である。もしも士郎とバゼットが居なければ柿崎達に発見されていたであろう彼女たちは、笑いながらゆっくりと町を歩く。目的は誕生日を翌日に控えたアスナへのプレゼントを探すこと。じっくりとプレゼントを吟味する一行の時間はゆっくりと流れていた。
「でもな、おキヌちゃんはともかく横島先生もついてくるのはちょっと予想外やったわ」
やがて世間話の延長で、ニコニコと嬉しそうに言うこのか。それに嫌味な調子はなく、純粋に横島がついてきてくれた事を喜んでいる声だった。
「まあ誕生日ったら年に一回だけだからな。金がなくてあんまり高いものは買えんけど……」
言葉の後半でちょっと落ち込む横島。20万はさすがにこたえたらしい。そんな横島を気遣うようにネギがまあまあと声をかける。
「こういうのは値段じゃなくて気持ちですよ、気持ち。気持ちがこもっていれば0円でも嬉しいものじゃないですか」
「そうですよ、細かい事は気にしないで下さいよ、横島さん」
おキヌもフォローに回る。そしてこのかはマイペースに店を回っていた。
「あ~、これなんかええかもな」
そう言ってこのかが手に取ったのはオルゴール。流行りからは外れた、けれどもアスナお気に入りの一曲。流行りからは外れたせいでオルゴールなのは珍しかったりする一品だ。
「ん~、けどちょっと値段がな」
が、値札を見てこのかの顔が曇る。中学生にとっては痛い数字である。が、これが今までで一番ピンときたプレゼントなのだ。どうにも諦めがつかない。しばらくウンウンとうなるこのかにネギが声をかけた。
「あの、なんだったら僕が半分出しますよ」
「でもな。アスナへの誕生日プレゼントやし、ちゃんとお金出したいんや」
小さな善意を笑顔でやんわりと断るこのか。しかしそれでもと食いつくネギ。
「だったら二人のプレゼントにしましょうよ、それならいいんじゃないですか?」
「…………ええの?」
名案に顔を輝かせるこのか。それにニッコリと笑うネギ。
「ええ、もちろんです。やっぱりプレゼントするなら喜んでもらった方が嬉しいじゃないですか」
「……うん。ありがとな、ネギ君」
にこやかな二人を見て、おキヌと横島は顔を見合わせる。
「う~ん、それじゃあ私たちも一緒にしましょうか?」
「一緒でもいいんだけどな、プレゼントが決まらないことには」
こういったプレゼントというのは案外難しいものである。二人が会計に行っている間にキョロキョロと近くの店を見渡す二人。と、おキヌがシャッターの閉まった店の前で露天を開いているアクセサリー屋に目を留めた。
「…………横島さん、あれなんてどうでしょうか?」
「ん? どれどれ?」
トテトテと露天に近づくおキヌとそれに付き従う横島。店を開いていた男気のある若い女性はにこやかに笑って二人を迎え入れる。
「いらっしゃい! 恋人かい?」
瞬間、おキヌの顔が真っ赤になった。横島も言葉を理解する一瞬の間をおいて真っ赤になる。そんな二人を見てクックと笑う女性。
「いいね、初々しくて。で、恋人のお二人さんに似合うのはこのペアリングかな?」
「違いますっ! 私と横島さんはそんなんじゃないです!!」
全力で否定したおキヌは顔を真っ赤に染めたまま、ハァハァと荒い息を吐いている。そんなおキヌを見てなお笑みを深くする女性。
「そうかい、そりゃ失礼したね。じゃあ何がお望みだい?」
手に取っていたペアリングを元の場所に戻し、二人に向き直る女性。おキヌは一度深呼吸をして心を落ち着けると、一つのアクセサリーを指さす。
「あの、これなんですけど…………」
「ん? これかい?」
おキヌの指の先にあったのは首飾り。銀色のチェーンに銀色の装飾具がついた首飾りは、一番大切なものが抜け落ちていた。というのも装飾具の部分には何か付けるような部分があるのだが、この首飾りはそこに何もついていないのだ。
「これはアレよ、買った人がつけるものを選べるタイプ」
そう言って女性は色々なアクセサリーが置いてある台座の端の方を顎で指した。そこには指輪やらガラス玉やらが乱雑に置かれている。
「そこにあるのは一例だけど、思い出の品とか首飾りとかにも出来るわよ。私のオリジナルなんだけどね、これに目をつけるとはお目が高いっ!」
「オリジナルって……お姉さん、デザイナーさんなんですかっ!?」
「正確にはデザイナーの卵。これでメシ食えないからバイトしつつメシ食ってる身だしね」
和気あいあいと世間話を始めるおキヌとデザイナーの女性。それを意識の外に置いて横島はとある事を思いつく。
「…………」
右手をポケットに入れ、そこで文珠を生成。話し続ける女性にそれを差し出した。
「ちょっとゴメン。これとかつけられるかな?」
「ん?」
「って、横島さん。それって…………」
面白い顔をするおキヌに、イタズラ心のこもった顔でシーとする横島。女性はと言うと横島の手から文珠を受け取ってそれをしげしげと眺めていた。
「サイズ的には問題ないけど……何これ? 屈折率とか見るとガラスじゃないよね? 宝石系でもないし…………ムム?」
難しい顔をする女性。ブツブツという女性に対して問いを重ねる横島。
「で、大丈夫なのか?」
「うん、問題はないよ。…………つうかお兄さん、これ何よ? 無茶苦茶気になるんだけど」
自分で考えても答えが出ないと判断したのか、率直に横島に問いかける女性。
「秘密さ」
にべにも無い横島の反応に、女性はアハハと乾いた笑い声をあげる。
「まあ仕方ないか。あ、もし教えてくれる気になったらここにメール頂戴」
それでも諦めきれないのか、女性は横島に名刺を差し出す。それにすごいイイ笑みを浮かべた横島が手を伸ばしたところで、
「よ~こ~し~ま~さ~ん~?」
……横から怨霊の声が響いてきた。
「ひぃぃぃ!? お、おキヌちゃん?」
「何してるんですか! お姉さんも!! もしも横島さんが教える気になったら私からメールしますから!」
横から手を出してその名刺をかっさらってしまうおキヌ。そして名刺をしまいこむと、プクッっと頬を膨らませてそっぽ向いてしまう。
「お、おキヌちゃん、あの、その…………」
「…………」
なんとか機嫌を直してもらおうとする横島だが、完全にのれんに腕押し。おキヌは全く怒りを収める様子はない。そんな二人をクスクスと眺めながら、女性は手を動かしつつも誰にも聞こえないような声でこんな事を呟いていた。
「恋する乙女は最強だね~。ま、ゴチソウサマ♪」
地味に修羅場になっている二人の後ろを歩く五人組がいた。言うまでもなくチア三人組と、士郎とバゼットである。
「次の店はこっち~♪」
「品揃えいいんですよ、あの店」
「ほう、それは楽しみですね」
桜子と釘宮、バゼットが笑いながら歩いて行く。その後ろをちょっと元気のない柿崎が歩き、そんな彼女を心配そうに見る士郎が。
「……柿崎、なんか元気ないけど大丈夫か?」
「あ~、ちょっと喉が渇いたかも。歩き疲れたし」
その言葉を聞いて素早く近くを見まわす士郎。そしてちょうどいいところに喫茶店を見つけた。
「ちょっと三人とも、柿崎が疲れてるみたいなんだ。そこの喫茶店で軽く休まないか?」
その言葉に一斉に振り返る三人。ほんの少しだけ士郎がひるむ。
「ん~、それって衛宮先生のおごり?」
「あ、ああ。そんなに高い物を頼まなければおごりで構わないが」
「よっしゃ、GO!」
競うように喫茶店に突進する三人組。取り残された士郎はひきつった笑みを浮かべてバゼットを見る。
「じゃあ行こうか?」
「……ミスタ衛宮。一つ尋ねたいのですが」
真剣な顔で問いかけてくるバゼット。それにつられて士郎も真剣な表情を作った。
「ああ、何だ?」
「私もおごりですか?」
「……………………」
士郎の表情が更に疲れる。
「…………頼み過ぎなければな」
「そうですか、では行きましょう」
真剣な表情のまま、喫茶店へと向かうバゼット。そして溜息をついて後を追う士郎。ちなみに士郎が喫茶店に入ったと同時、喫茶店の隣の店からプレゼントの包みを抱えたネギとこのかが出てきた。彼女達はちょっとだけ横島とおキヌを探した後、露店の前にいる彼らを見つけてそちらの方に歩いて行った。
「いらっしゃいませ~」
そこはシックな雰囲気の喫茶店だった。メイド系の制服を着た店員が士郎とバゼットを迎え入れる。
「衛宮先生、バゼットさん。ここ、ここ!」
静かな店内に大声を響かせる桜子。目の前の店員さんの笑顔がちょっとだけ引きつった。それに苦笑いで応えてから士郎は三人が座っている席へと急ぐ。
「椎名、もう少し周りに配慮した声にしてくれ」
「にゃはははは、失敗失敗」
あからさまに反省していないと思われる彼女に、ハァと溜息を吐く士郎。そしてバゼットも追いついてようやく全員が着席した。ちなみに4人席なので桜子と柿崎、そして釘宮の座っている側は少し狭そうである。
メニューに目を通す士郎とバゼット。三人組はというともう注文は決まっているのか二人がメニューから目を離そうとするのをじっと待っていたりする。
やがてメニューから目を離す二人。それを待ち構えていた桜子は大声で店員を呼ぶ。
「おーい、てーいんさーん!」
「だから周りに配慮した声を…………」
士郎の声は空しく消える。他のお客さんがクスクスと微笑ましい目で見てくれる事はせめてもの救いだろうが、諦めた顔で注文を取りに来てくれる店員さんには頭が上がらない。
「私、ダージリン」
「私、私、アイスコーヒー」
「私もダージリン」
「私はエスプレッソをお願いします」
「私はアールグレイを」
最後の士郎の言葉を聞いて、かしこまりましたと下がる店員さん。これでひとまず注文は完了だ。これからは世間話の時間だと言わんばかりに柿崎が口を開いた。
「やー。しかし衛宮先生とバゼットさん、二人とお茶する事になるとは思わなかったな」
「それは私も同意だな、まさかつい一ヶ月前まではこんなゆっくりと出来る時間が取れるとは思わなかった」
くっくっ、と自嘲の笑みで言う士郎。それにキョトンとした顔で聞くのは釘宮。
「ってそうなんですか? ネギ君の補佐をするとか前から決まってた訳じゃないんですか?」
「いやそういう訳じゃない。ちょうど一ヶ月位か、知り合いからネギ君が教師をやるから補佐してくれないかと連絡が入ってね。慌てて麻帆良まで駆けつけたという訳さ」
はぁ~、と似たような合いの手をいれる向かいの三人。そこにバゼットがふと思い出したように質問をいれる。
「そう言えばミスタ衛宮は今までどうやって過ごしていたのですか?」
6年前にこの世界にやってきた事は聞いた、しかしそれ以後の事は聞いていない気がする。そんな理由からの質問であったのだが、チア三人組も見事に食いついてきた。
「あ、それ私も知りたーい」
「衛宮先生の過去、か。興味あるね、朝倉に高く売れそうだし」
「ネギ先生のお義兄さんみたいだったんでしょ? そこらへんを含めて気になるなぁ」
「椎名、だから声が大きい。それから柿崎、売るな」
一通り突っ込んでから、ふぅとため息をつく士郎。
「お待たせしました、アイスコーヒーのお客様?」
と、そこで飲み物が到着した。いったん話を中断して各自の飲み物を受け取る一同。バゼットだけは瞬間的に中身がなくなった気がしないでもないが、そこは気にしてはいけない。指摘しても意味のない事だし。
「さて、私の話だったかな? かと言って取り立てて話すこともないのだが…………」
士郎はアールグレイで軽く口を湿らせてから言葉を選ぶ。ちなみにその表情をみる限り、この店の紅茶はなかなか気に入ったらしい。
「…………どんな事をしていたと思うかな?」
その機嫌のまま、茶目っ気を含ませた笑みで問い返す。その切り替えしに僅かに悩んだのは柿崎と釘宮。即答したのは桜子。
「どっかの学校で先生をやってた!」
「そういう事はやっていない」
そして即座にペケをくらう。う~、と唸る桜子だが、それを無視して今度は釘宮が口を開いた。
「じゃあ、家業を継いでいたとか? ネギ先生とは学生の時のホームステイ先の家族とかで」
「当たらかずとも遠からず、かな」
うむむむむむ、と桜子と同じように唸る釘宮。そして最後に柿崎がフッフッフッと不気味に笑いながら口を開いた。
「ならばこれだ、衛宮先生は世界中を旅してた!」
「――正解」
「「「へっ?」」」
言った本人からしてネタだったのだろう、士郎の返答に一番驚いていたのが柿崎だった。それ、家業と関係ないじゃんと突っ込みの体勢に入りかけている釘宮が妙に笑える。
「6年前、ネギ君と出会った。そしてネギ君と1年暮らした後の5年はずっと世界をまわっていた。言葉にすればそれだけだ」
そう言ってアールグレイに手を伸ばす士郎。ニヒルな笑みを浮かべて紅茶をすするその姿は、大げさな言い方をすれば一枚の絵画のようだ。その姿にチア三人組は集まって、小声でキャーキャー言い始める。
「(ちょ、ちょっとちょっと? ムチャクチャ格好良いんですけどっ!?)」
「(厳しいだけの先生かと思ったけど…………いいじゃん、衛宮先生!)」
「(つうかよく考えたらまだ24歳でしょ? OKじゃん! 全然OKじゃん!!)」
「「…………」」
なお、当然の如く士郎とバゼットには丸聞こえである。微妙に居心地が悪そうな二人。
「しかし……世界中をまわっていたのですか。それはランサーが言っていた通りだと判断していいのでしょうか?」
その空気に耐えかねたのか、バゼットが小声でそう訊ねる。小さく頷く士郎。
「まあ、たぶん。ランサーが私の事をなんて言っていたのかは知らないから断言は出来ないけど」
「そう、ですか」
なぜか暗い声で返答するバゼット。それに首を傾げるしかない士郎。
「で、衛宮先生は世界中まわって何してたの?」
「世界中を回る事と家業、何か関係がっ!?」
「っていうか、彼女居たりするっ!!?」
一通りの雑談が終わったらしい三人組は、更に突っ込んだ疑問をいきなり投げかけてきた。それに苦笑しつつも時には真面目に、時にははぐらかしつつ答える士郎。
騒がしいティータイムはもうしばらく続きそうだった。
一方、ネギ達も適当な店でお茶をしていた。ただもう一方と違うところは、こちらの一行は目的は済ませて帰るまでの小休止といったところだろうか。
「は~、けどネギ君からこんな事言ってくれて嬉しかったわ」
オルゴールと首飾りのプレゼントを見ながらニコニコ顔で言うこのか。その笑顔を見てネギも嬉しそうに口を開く。
「いえ、アスナさんには僕だっていつもお世話になってますから」
「とにかくこれで明日は完璧ですね!」
ニコニコとした顔はおキヌにまで伝染したようで、彼女も笑みが止まらない。唯一笑っていないのは横島くらいだ。
「いやいや、これくらいで満足しちゃだめだと思う」
至極真面目な顔と口調でそう言った横島に、残り三人の視線が集まった。
「誕生日にプレゼントを贈るのはもちろんだが、やはりここは贈る場――誕生日会が必要だと思う!」
「た、誕生日会とはケーキを作ってハッピーバースデイツーユーとかですか?」
「アスナさんはそういうのは喜ばない気がするんですけども…………。後、少し発音が悪いですよ、おキヌさん」
ネギのさり気なくキツい一言に軽くおキヌがヘコむ。それを笑顔で流したこのかが代案を提供した。
「なら、カラオケとかでいいんちゃう? みんなでワイワイ楽しめればいいんやし、あれなら歌えん人も楽しめるしな」
「…………え? 『歌えん人』って、いったい誰を呼ぶ訳?」
横島の素の一言に、やはりサラリと答えるこのか。
「都合のつく人全員」
「あっそう……」
誕生日会と言うよりかはいつも通りのドンチャン騒ぎになるような気がとてつもなくするのだが、とりあえず黙っておく横島。
「それじゃ、早速アスナに電話するえ」
そう言いつつ携帯を取り出して操作するこのか。僅かな時間を挟んで電話が繋がった。
「もしもし、アスナー?」
『はいはい、何よこのか』
少々音量が大きいのか、それともアスナの声が大きいのか。薄く携帯からアスナの声が漏れてくる。
「ちょっと時間大丈夫?」
『ん、へーき。一人で暇してたくらいよ。で、何の用?』
「えっとな、明日の予定を聞きたいんやけど」
『明日? バイトと学校以外に用事なんてないわよ』
怪訝そうなアスナの声とは対照的にこのかは無意識に笑みが深まった。
「そうなん。なら明日、放課後にカラオケ行かへん?」
『…………あ~、ゴメンこのか。修学旅行で今月お金ないのよね。私はパス』
「お金の心配はせんでええよ。明日は全部横島先生の奢りやから」
「俺ぇ!?」
思わず横島が叫ぶ。その大声にネギは耳をふさぐし、おキヌは哀れみの視線を送るし、このかは苦笑いのジェスチャーで謝っている。
『…………今の横島先生の声? なんかすごい驚いてたけど』
そしてその声はしっかりとアスナにも拾われていたらしい。そんなアクシデントにもニコニコと対応するこのか。
「ほら、以前に横島先生にナンパされたって言ったやろ? その時にちゃんとまたなって言うてたんや。横島先生はちょっと忘れてたみたいやけどな」
「……………………」
あーそう言えばそんな事言ったかも。そう現実逃避する横島と、微妙に視線が怖いおキヌ。そんな二人に関わらずに会話を続けるこのか。
『まあ、横島先生がいいって言うならそりゃ私は構わないけど』
「ほな、明日はカラオケOKな」
バイバーイと電話を切るこのか。そしてから両手を合わせて横島に頭を下げた。
「ごめんな、横島先生。誕生日会だってアスナにバレたくなかったから横島先生の奢りって事にしてもうた」
「…………まあいいけどな。結局プレゼント代払ってないし、その代金だと思えば」
実際は値がつけられない様な至高の一品をプレゼントしているのだがそれはそれ。やはり彼は女性に甘い。
「それじゃあ次は誕生日会の参加者集めやな。いちおう、クラスのみんなと衛宮先生と高畑先生にはメールしとくわ」
「多いって! 全員俺の奢り!?」
横島の悲鳴もなんのその、手慣れた手つきで携帯を操作して一斉送信。
そして翌日の誕生日会にはクラスの8割近くが参加したりとか、バゼットが誕生日会に乱入したとか、士郎のプレゼントが妙に乙女チックだったりとか、出費に頭を抱えた横島に苦笑したタカミチが半分出してくれたりとか、嬉しさにアスナが軽く涙を流したりとか、それを見たバゼットがブチ切れてタカミチと士郎と横島が体をはって止めに入ったりとか。
こうして修学旅行前日も笑いに満ちた日が過ぎ去っていき、気がつけばもう半日もしないうちに修学旅行が始まる時間になっていた。