二組六人の異世界人   作:117

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3章 3話

 まずは小さく、全力を持って探り合う。

 

 

 

『――まもなく京都です。お忘れものないよう――』

 その放送が車内全体に響く時、『松山綾香』は冷たい眼をして従業員のスぺースに立っていた。そして目の前のちゃっちい作りの椅子には青ざめた顔の女が一人、意識なく腰掛けさせられていた。『松山綾香』は冷たい眼をしたまま、その哀れな女に手を伸ばし――

「もし、大丈夫ですか?」

 ――とても優しい顔でそんな声をかけた。

「…………うぅ、う」

「もし、もし?」

 苦悶の声を出す意識無き女性。そんな女性に根気よく『松山綾香』は声をかけ続ける。そして段々と女性の反応は強くなり、やがて、

「チョ、チョコレートデコレーション!!?」

「ひゃあっ!?」

 そんな奇声をあげて目を覚ました。そして寝ぼけ眼のままでキョロキョロと辺りを見回す女性。その女性は腰まである長い黒髪を少しだけボサボサにしながら、鋭いと形容されるような美しさを持つ顔をふらつかせる。

「はれ? 目の前におっきな鏡? ていうか私、大胆な格好、それにメガネ…………」

「お姉さん、大丈夫やえ?」

 顔に見合わずに、妙な愛嬌を秘めた行動に『松山綾香』は苦笑する。

「立ち入り禁止区域らしいんやけど……苦しそうな声がしたから来てもうた。お姉さん、どこか辛いところは?」

「へ……? って、あ! 私仕事中!」

 ボウっと『松山綾香』の言葉を聞いていた女性は唐突にそれに思い当たり、ピョコンとおもちゃじかけみたいに立ち上がる。

「す、すいません。どうも最近疲れたみたいでついウトウトと。なんでもありませんからこの事は誰にも言わないでください!」

 少しだけで涙目で女性は『松山綾香』に頭を下げる。それに『松山綾香』は人のいい笑みで答えた。

「構わへん。それよりもお姉さん、妙にうなされおったのは疲れからと違いますかなぁ? 少しゆっくりした方がええんやないどすか?」

「は、はい。ありがとうございます」

 安心からほっと息を吐く女性。ちょこちょことミスをするその女性、実は先日も減給をされたばかりである。

『京都ー、京都ー』

 そして響くアナウンス。それを聞いて『松山綾香』は女性ににっこりと笑いかけた。

「と、うちはここで降りるんやった。それとお姉さん、せいぜい体を大事にするんやえ」

「重ね重ね、すいません!」

 深く頭を下げる女性。従業員の格好をした女性の胸元には松山綾香と印刷されたネームプレートが揺れていた。松山綾香を尻目に歩きだす『松山綾香』。

「ほなな」

 そして電車を降りて日光を一身に浴びる『松山綾香』のその格好は、男性だけでなく女性までも思わず目を留めてしまうような格好だった。

 腰まである長く艶のある黒髪、鋭い美しさを持つその美貌。そして白く健康的に透き通った肌に整ったプロポーション、それを際立たせるような肩と背中が大きく開いた遊女を思わせる和服。その服と乳房の間の肌に視線が向かってしまうのは特に男ならば仕方のない事だろう。和服の裾も足首まであるものの、動きやすさを重視してか足を動かす度に太ももが見えるのが悩ましい。足は足袋に底の厚い和製の履物。煽情的だが、それは確かに京美人と呼ぶに相応しい人物であった。

 そして先ほどまでのやりとりを見ていたものがいれば松山綾香とかなり似ているその風貌に驚いただろう。その顔つきと体つきは相似点があまりにも多い。ただし纏っているものは正反対、着ているものは洋服と和服、実務的と芸術的と言わずもがな。更にその雰囲気さえも天然ほんわかとした松山綾香と異なり、この『松山綾香』は氷を砥いで日本刀に仕上げたような妖しくも攻撃的な美しさを醸し出していて、実に対照的である。格好の割に下心を持った人間が寄ってこないのはその他を威圧するような空気が問題なのかも知れない。

(さて。たしか今日のスケジュールは清水寺見学の後に旅館に直行やったな)

 外見という些事はさておき、その思考は既に『松山綾香』ではなく天ヶ崎千草という魔法使い。カエル騒動の時、どさぐさに紛れて召喚しておいた猿の式で盗み見たしおりの内容を反芻しながら頭の中でカロリーを消費する。

(組織が大きくなれば動きは愚鈍になる。京都駅から清水に行くのに1時間はかかり過ぎやけど、ウチが今から行って妨害工作するのに使える時間は……30分、無いやろうな)

 優雅に、しかし見苦しくない速度で京都駅を闊歩していた千草は歩きながら携帯を取り出してすばやくプッシュ。コール音が耳に響くも、一回も満足に響く前に通話状態になる。その電話口から響いてくるのは間延びした声。

『はい~、お電話お待ちしてました』

「清水や、時間は2時から。どのくらいイケるか?」

『10イケたら上出来ですわー』

 そんな電話の向こうからの声の調子に取り合わずに必要な言葉だけを手早く口にする千草、そして挨拶もなしの言葉に気も悪くせず、瞬間的に答えを返す電話の向こう。その余りに簡潔な言葉の応酬は彼女達がどれほど綿密に事前準備をしてきたのかを暗に示している。

「OKや。ウチもなるたけ早く行く」

『分かりましたー、では打ち合わせの通りに』

 通話が切れる。千草は電話をしまう暇も惜しいといった風情で駅を出て、ロータリーに停まっていた車に乗り込む。その車とは――パトカー。

「清水!」

 乗り込むと同時にそう言い捨てる千草。運転席に座っていた警官姿の男は頷く暇も惜しいと言わんばかりにファンファンと甲高い音をパトカーから鳴り響かせて急発進させた。到着まで少しだけの時間、千草の行動に穴が空く。

(…………)

 少しだけ思案した千草は再び携帯をプッシュする。今度の呼び出し音はやや長く、しかし常識的な長さで通話状態となる。

「おおきに、山淵はん。…………ええ、ええ、千草でございます。月詠の件はどうも、確かに彼女は掘り出しモンですわ。拘束期間と実力を踏まえたら10は格安ですわ、いつものながらいい仕事をしなはる。………………ええ、この件が片付いたらお礼に一杯お酌をさせて頂きますわ。

 …………山淵さんにはかないまへんな。はい、お願いがあってご連絡させて頂きました。どうも月詠だけでは手に余りそうな雰囲気なんですわ。ここ四日のうちのどれか一日で構いまへん、月詠と同等かそれ以上の人間を都合して頂けないでしょうか? ……………………冗談でしたらウチも気が楽なんやけども。……ええ、ちょっとケタ違いな奴が居るんですわ。

 条件としては補佐能力はいらんどすえ、純粋に戦闘能力の高さを買いたいんですわ。……………………、……………………、……………………、おりますか! いや嬉しいわ、それで具体的には? 24日の一日のみ、3と5ですか。破格、どすな。しかし山淵はんの仕事ですからな、信用致しますわ。OKです。いや無理を言ってすいまへん、恩に着ますわ。はい、ではそれで契約成立という事でお願い致します。

 …………へ? いやいや、ウチはそういった事はせんもんで。いくら積まれても朝は一人で迎え酒が好きなんですわ。…………まあ、心を買って頂ければさぶさかではありまへんが。フフッ、プレイボーイでならした山淵はんの目に留まるとは光栄どすなぁ。………………では心を買って頂けますか? この件のお礼の酌は取りやめにして、代わりにプライベートな時間を作っときますわ。

 フフッ。ええ、どんな言葉で買われるのか楽しみにしておきます。ほな、また連絡させて頂きます」

 ピ。そんな音をたてて携帯が不通状態になる。途端に千草の顔が笑顔からゴミでも見るような表情になった。

「エロオヤジが……っ! 何が『君の一晩の数字を教えて欲しい』や、安い女に見んなっ!

 しかも足元見おって。確かに無茶言ったのはこっちやけど、ここぞとばかりに高級商品を売り付けおってからに! 一日で二人合わせて800万やと? 破格を通り越して暴挙どすえ!」

 ここまで一気に吐き出して、それでようやく千草も落ち着いたようだ。フーフーと荒い息がやや収まる。

「…………まあ、ええ。とにかく山淵はんの仕事や、間違えはないやろ。確かに800万は痛かった、そやけどそれで収まるなら安いもんや。その前に決着がついても保険と思えば、まぁ」

 ブツブツと言いながら心を鎮める千草。今はとにかく過去の不満について文句を言っている場合ではない、先を見なくては24日の前に悪い意味で終わってしまう。

「さあ、ここからが本番や」

 清水寺はもうすぐそこだった。

 

「待たせたな、月詠」

「お待ちしておりました、千草さん」

 清水寺。そこで一般人に怪しまれないように手段を問わず細工をしている月詠に近づいた千草は、脇目も振らずに作業をしている彼女にそう言葉をかけた。月詠の方も目と手だけは一切澱まさせずに言葉だけで返答をする。

「見張りからの連絡は?」

「今のところはありませんです」

「まあ予想通りやな。今の情勢でこっちの陣地にそう斥候を送り込める筈もあらへん。どうしても相手の対応は場当たり的なものにしかならん。

 よっしゃ、じゃあウチも仕掛けをして回るわ」

「お気をつけて~」

 そう言って別れる千草。彼女も当たりそうな罠を仕掛けていく。目的は単純、先ほど判明したこちら側の人間の、更に護衛に当たっている人間は誰なのかという判明だけ。何せ相手は関東魔法協会の麻帆良である、なんの関係もない魔法生徒がいる可能性も低くない。その人間にまで手当たり次第攻撃を仕掛けると無駄な敵を作りかねないからだ。

(難儀な仕事やな、ホンマ……)

 思わずそう心の中でグチってしまう。そうしながらも手を動かす事しばし、千草は見張りからの念波を受け取った。

『千草のねーちゃん、来たで』

「来たか」

 ポツリと言葉を返す。今の最大のアドバンテージは謎、それを容易く手放す程千草は愚かではない。

「よっしゃ、撤退や。例の場所で落ち合うで」

『はいはい、了解や。ったく、なんでこんなめんどい手を使わなアカンねん。正面からガツンといったらええやんか』

「アホ。今はその正面がどこなのか探ってる段階やろが」

 最も、千草には正面が判明した所で正面から当たるつもりは毛頭ないが。そんな会話をしつつ合流地点へと急ぐ。時間にして僅か一分も経たずに千草はそこへとたどり着いた。

「お早いおつきで、千草さん」

「あんたもな、月詠。まさか手を抜いて早めに切り上げたなんてことはあらへんよな?」

「もちろんですわー。仕事はキッチリとやりますから~」

「ま、そこは信用しとるで。それで幾つイけた?」

「9ですわ。千草さんは?」

「4やな。合わせて13、まあ妥当な数字やろ」

 そこまで会話したとき、小さめの人影が二つ飛び込んできた。白髪の少年と黒髪の少年の二人である。そしてそれと同時、真っ先に口を開いたのは意外にも無口な白髪の少年であった。

「報告がある」

「なんや?」

 なんの前置きもなくそういう白髪の少年。それに僅かに眉を震わせつつも、最低限の会話だけは成立させる千草。

「無視できない障害を確認した。赤い髪の、男装の女。彼女は――危険だ」

 白髪の少年のその言葉がどれほど深い意味を持つのか、それを本当の意味で理解している人間はその場にいなかった。それでも件の女が重大な障害だという事は千草にも痛いほど分かっている。イライラした調子を隠そうともせずに彼女は吐き捨てる。

「分かっとる。仕方無いからさっき増援を頼んだところや」

「え~。ウチに相手させて下さいよー」

「ちっ。女かい、男だったら俺がボコボコにしたるのに」

 そして好き勝手な事を言う子供組。それをたしなめるのはやはり意外にも白髪の少年だった。

「やめた方がいいよ、返り討ちにあう。

 それで千草、その増援は何時来るの? どんな増援?」

「24日や。その一日だけしか都合がつかんかった。それでも一日で2人合わせて800万もとったんや、腕の方は期待出来るやろ。そやけどただ一日だけやからな、細かい所まで指示できるとも思えへん。とにかくあの女の邪魔をするだけで限界やろうな」

「そう」

 それで会話が終わる。白髪の少年は自らの思考に没頭する為に、千草は仕掛けた罠の成果を見る為に。そしてその成果は中々に辛い現実を突き付けてくれる。

「ちっ。ソツの無い連中やなぁ……」

 仕掛けた罠のうち5が既に無力化されている。あんなに時間をかけて仕掛けたのに、この短時間で既に4割が破られているのは仕方がないと理解できているとは言えども業腹でしかない。

 だが目論見の通りの成果もあげている。多少の害ある罠の他に、監視等の意味を込めて放った幾多もの式がそれを教えてくれる。

(お嬢様の組以外に配置されているこちら側はだいたい15か。害のない式を無視している辺りは防衛が主な任務なんやろな。やはり目標以外に手を出すのは下策や。それと黒肌の女も無関係やな、気がついても無視しかせぇへん。糸目の女もやっぱりこっち側か、式の存在にいちいち気がついてるのが腹立つわ。

 …………ま、こいつらはどうでもいいやろ。手を出さん限り静観してそうな構えやし)

 問題は男装の麗人と神鳴流の二人だ。罠を先読みして潰してくるばかりか、監視用の式さえも積極的に破壊してくる。その探査の精度も高い部類に入る。彼女達はもうこれ以上なく明らかに『敵』である。しかし動きから大雑把な実力は分かった。残りの罠は3。

「これ以上は無駄やろ、引きあげる、え?」

 そう言った矢先、信じられない光景が千草の目に飛び込んできた。恋占いの石の間に仕掛けた罠に一般人が引っ掛かったのだ。

「千草のねーちゃん?」

「ちょい待ち!」

 式を通して状況がつかめない三人のうち、黒髪の少年が代表して疑問符を投げかけるも千草としてはそれどころではない。引っ掛かる訳がない罠に引っ掛かるというありえない事が起きたのだ。慌てて式に二人の敵対者の様子をうかがわせると、そこには冷めた視線で親書を持つ少年を見る神鳴流の姿が。

「…………まさか」

 千草の頭の中で一つの仮説が組み立てられる。

(まさか……向こうの連携は完璧じゃあらへんのか?)

 神鳴流の視線は実力を計るもののそれだ。つまりそれは実力を計らなくてはいけない類の関係であり、それはつまり――――――――

 グルグルと千草の中で情報が暴れだす。味方内の不和というのは第一級の致命的な情報である。余りに都合のいい情報に罠でないかと疑いを持つも、それにしては関係の悪さが甘い。罠にするならば殺気をぶつけ合うくらいの演技はしてもいいはずだ。なのに神鳴流の少女は観察という立場を崩さないし、親書の少年はその視線にドギマギしている。そのあげくに遠目には視えないように加工した酒樽の存在を見逃して、更に大きな被害を一行に与えていた。

「く、くくく……」

 思わず笑いがこぼれた千草を誰が責められるだろうか。決定的にして、致命的な穴。もしもここをうまくつけば今日中にケリがつく。そう考えると思わず感情が溢れ出すというものだ。

 ――それを好機と狙っていた者がいるとも気がつかずに。

 

 パァン!

 

「!」

 一瞬だった。反応する事が出来たのは白髪の少年だけ。おそらく彼だけは彼女をずっと警戒していたのだろう。千草の頭に向かって投げられた、ルーンが刻まれた石をしっかりと掴んだ少年は感情無く言う。

「バレたよ。逃げよう」

 白髪の少年の視線の先には一人の女がいた。赤色の髪をもった女。彼女は石を投げた姿勢のまま探るようにこちらの方を見ていた。

「…………っ!」

 ここに至り、ようやく千草の体に悪寒が走る。白髪の少年が防がなければ死んだという事実すら理解できずに殺されていた。しかも探査妨害と防御の結界をいとも簡単に破られている。

 だがしかし視覚妨害の結界は突破出来なかったのだろう。赤い髪の女は探るような視線をこちらに向けて、今の攻撃が有効だったのか否かがいまいち判断がつけられないでいる。

「逃げ――っ」

 逃げるで。千草がそう言いきる前に赤の髪の女が動いた。こちらではなく、生徒たちが乗り込んだバスの方へ。しおりの予定よりかは少し早い気がするが、恐らくは酒に酔った生徒たちの為に予定を繰り上げたのだろう。赤髪の女も仕留められるか分からない敵よりかはお嬢様と親書の護衛に向かった、という事だろうか。もしも向こうが親書の少年の実力を計る為に酒樽を放置していなかったとしたら――――

「助、かった……?」

「ラッキーだったね」

 へなへなとその場に座り込む千草と、淡々とそう言う白髪の少年。

「確かに強いお方どすな~。一遍でも仕合たいお方やわ」

「…………化けもんかいな、あのねーちゃん」

 悦に入った月詠の言葉と、呆れたような黒髪の少年の声。特に黒髪の少年の言葉は千草の心情を代弁していた。

 

 

 

「やっぱりあの刹那って奴の仕業に違いねぇよ、兄貴!!」

「うーーん……」

 夕方のホテル嵐山。そこの一画でオコジョと喋っている少年がいた。その少年、ネギは首を捻りながらもしかし使い魔の意見には頷けずにいる。そして混沌とする場に、第三者が介入してくる。

「ちょっと、ネギネギ!」

「あ、ここに居たんですか」

「あ……アスナさんにおキヌさん」

 ネギの言葉の通り、現れたのはアスナとおキヌ。魔法の事に関与するとネギが知る生徒たちである。彼女たちは何とも言えない顔をしながらネギに話しかける。

「電車内のカエルといい、ちょっとおかし過ぎる気がするんですけど……ネギ先生は何か知りませんか?」

「そうよ。とりあえず酔ってるみんなは部屋で休んでるって言ってごまかせたけど…………一体何があったって言うのよ」

 問い詰めてくる二人。

「じ、実は、そのー……」

「言っちまえよ、兄貴!」

 そしてなんと言ったらいいのか迷うネギ。ここでこちら側の事情を明かしてしまっていいのだろうか? そんな迷いをカモは一蹴してGOサインを出し、それに押されたネギはポツリポツリと事情を話す。その事情は総括すると、

「えーーーーっ!! 私達3―Aが変な関西の魔法団体に狙われてる!?」

 と、アスナが叫んだ様な事実に集約される。まあ本当はネギの持つ親書(と、このか)が狙いであるのではあるが、アスナにとってはそれは同義である。あそこまでクラスメイトに迷惑をかけていたのならば仕方の無い事なのかも知れないが。

「はい! 関西呪術協会て言う……」

「どうりであんなカエルだの変だと思ったのよ。また魔法の厄介事かー」

 ネギの言葉に嫌そうな顔をするアスナ。

「すいません、アスナさん」

 本当に申し訳なさそうなネギに、アスナは気楽な笑みを浮かべて軽く言い捨てる。

「ふふっ…………。どーせまた助けて欲しいって言うんでしょ? いいよ、ちょっとなら力、貸してあげるから」

「ア…………アスナさん」

 アスナの優しさにジーンとくるネギ。とにかくアスナの協力を取り付けられたのは大きい。

「関西呪術協会とか日本古来の魔法だという事は、陰陽とかそっちの方なんでしょうか?」

「多分な。兄貴の親書を奪ったのも式神とかいう日本特有のペーパーゴーレムだったし」

 対して首を突っ込む事を前提としているおキヌとカモ。彼らは彼らで結構建設的な会話をしていたりする。

「陰陽系なら少しはかじっているんですが……よくは知らないんですよ」

 元の世界の陰陽術を知っていても特に意味はないという根本的なところに全く気が付いていないおキヌ。完全に天然である。そんな一人と一匹につまらなそうにアスナが口を挟む。

「おんみょーとかなんとか言われても私よく分かんないし。それよりも、もっと単純な話はないの?」

「って、そうだ姐さん! クラスの桜咲刹那って奴が敵のスパイらしいんだよ! 何か知らねーか?」

 カモのその言葉におキヌとアスナが目を大きく見開いた。

「クラスの中にスパイがいるんですかっ!?」

「え~~っ!? スパイって……桜咲さんが?」

 とにもかくにも桜咲について一番詳しいのはしばらくクラスメイトをやっていたアスナである事は間違いない。ううんと頭をひねる。

「そ、そうね。このかの昔の幼なじみだって聞いたことあるけど…………。

 ん~~、そういえばあの二人が喋ってるところ見たことないな……」

 とは言えどもほとんどクラスメイトと関わりを持たなかった桜咲である。アスナと言えども思い当たる節は無い。しかしそれでもその言葉を受けた天才少年にはなにかピンとくるものがあった。

「…………あ! そういえば…………待って!」

 そう言って、慌ててバックを漁るネギ。そして取り出したのは出席簿、素早く顔写真付きのクラス名簿を開くと桜咲の部分を凝視する。そこには記憶の通り、京都とタカミチの筆跡で書かれている。

「あ~~っ! み、見て見て!! 名簿に京都って書いてあったよ~~っ」

 その言葉に一斉に名簿に集まる一同。そこには確かに『京都 神鳴流』の文字が。というか、生徒がクラス名簿を見ていいのだろうか?

「かみ……なるりゅーって何ですか?」

「知らないわよ」

 結構ほのぼのとして会話をする生徒たちはさておき、一気にヒートアップするのは魔法使いとその使い魔。

「やっぱり奴は京都の出身だったんだな!!」

「えええ、じゃあやっぱり!」

「ああ、奴は間違いなく関西呪術協会の刺客さ!」

 カッ、と後光を背負いながら断言するカモ。

「うーん、そうかなーー……?」

「ちょっと短絡的な気がするんですけど……」

 それに懐疑的なのはもちろん生徒たち。特におキヌがつっこんで話を進める。

「出身が京都、っていうだけで疑うのはどうかと思うんですけど。そんな事言ったら、誰だって疑えるじゃないですか」

「そりゃもっともな話だがなおキヌの嬢ちゃん、桜咲刹那に関しては状況証拠が揃い過ぎてるんだよ。

 さっきも言ったが、電車の中で兄貴が親書を奪われた時、あいつの近くに紙型が落ちてたし親書自身もアイツに握られてた」

「……うぅん。でも親書をネギ先生に返してくれたんですよね?」

「まあ、俺っち達が親書を奪った現場を取り押さえちまったからな。奪ったっていう事実があると不利な立場だったんじゃねえか?」

 筋は通る。まるで落し物を拾ったかのようにネギに返せば、苦しいが善意の第三者で通るだろう。

「う、ううん…………。他に何か無いんですか?」

 クラスメイトの身の潔白を証明しようと、おキヌは更に突っ込んだ話を聞きに回る。それに嬉々として話を加えるカモ。

「おう、まだあるぜ。アイツは今日に限って兄貴の方をよく見てたんだよ。特に清水寺じゃあ監視に近い雰囲気だったんじゃねぇか?

 ありゃあきっと、落とし穴みたいなものに兄貴が引っ掛かったら親書を奪う気だったに違いねぇぜ」

「う、うう」

 話を聞けば聞くほど桜咲が犯人のような気がしてならない、のにおキヌはカモの話に頷けないでいた。もうほとんど黒だというのになお桜咲が敵だと認めないおキヌに、カモは溜息混じりで問いかける。

「おキヌの嬢ちゃん、どうしてそう否定ばっかするんだ? 何か桜咲刹那のヤツが犯人じゃない証拠でもあるのか?」

「証拠、という訳じゃないんですけど……」

 言い淀むおキヌ。これを言っていいのか悩む彼女だが、しかしラチがあかないと意を決して言葉を続ける。

「霊感、です」

「「「は?」」」

 おキヌに注目していた三人が同時にそんなすっとんきょうな声をあげた。

「だから霊感です。なんとなく、桜咲さんは違うって…………」

 自信なさげなおキヌの言葉。

「ネギ先生――教員は早めにお風呂を済ませてくださいな」

「「ひゃっ」」

 そしてその言葉にみんなが反応する前に、しずな先生が割り込んできてしまう。魔法の話をしていた所為で、思わず変な声が出てしまうネギとおキヌ。

「あ。は、はい! しずな先生」

 とっさに機転を利かせたのはアスナ。そんな言葉をホコホコと湯気の立つしずな先生に言ってからその場を離れる。そして別れる時にネギに次の約束を取り付ける事も忘れない。

「5班ももうすぐおフロだし、続きは夜の自由時間に聞くよ。OK?」

「は、はいっ」

「OKッス、姐さん」

 彼らの返事に満足そうに頷いたアスナはおキヌを連れだって自分の部屋へと歩き去る。ちなみにおキヌも子供先生に向かって丁寧なお辞儀を忘れない。そんな礼儀正しい生徒を見送ってから、ネギは風呂に入る為の準備をしに行動を始めた。

 

 カラカラカラ

 風呂場へと続く引き戸が軽快な音をたてる。そして脱衣所から姿を現したのは腰にタオルを巻いただけのネギとその使い魔のカモ。

「…………」

「…………」

 入った瞬間、二人は絶句していた。なぜかってそれはあまりにも予想外な光景が目の前に広がっていたのだから。そこには一面の夜空、外に作られた岩場に温泉をためて湯船にした露天風呂。もちろん覗き対策のために3メートルはありそうな竹の視界隠しで風呂場全体を覆っているが、それがまた風情があっていい。どれもこれもイギリス出身である彼らには物珍しい。

「遅いですよ、ネギ先生」

 んが。そんなものはこの全裸で湯船に浸かっていた女性に比べれば割とどうでもいい事である。

「うほぅ!?」

「ごめんなさいっ!!!!」

 目の前の光景を脳が理解した瞬間にカモはオーバーヒートし、ネギは一瞬で引き戸を閉めて脱衣所に逃げ帰った。扉を閉めたその場にへたり込んだネギは呆然と肩にいる使い魔に声をかける。

「ねえ、カモ君。僕、女湯に入ったっけ?」

「確か男湯だったと思うが…………。しかし眼福だったぜ」

 顔を真っ赤にしたネギと物凄く満足そうなカモ。対照的だが、両方とも混乱しているのは間違いない。良しにしろ悪しにしろ。そして更なる混乱を巻き起こすかのようにカラカラとネギの前の扉が横に動く。もちろんそれを動かしたのは脱衣所側ではない、浴場の側からだ。

「? どうしたのですか、ネギ先生?」

 不思議そうな顔をして扉を開けたのは赤い髪の女性、バゼット・フラガ・マクレミッツ。麻帆良学園の警備員である。湯船からあがっているのでタオルで前を隠しているのだが、それも申し訳程度。むしろ濡れて体に張り付いたタオルが煽情的でさえある。

「ババババ、バゼットさん!? なぜ男湯に? え? 僕が女湯にっ!?」

「…………何を言っているのかよく分かりませんが、とにかく浴場に入って下さい」

 座り込んでいたネギをタオルを押さえていない方の腕でひょいと掴むと肩に担ぎ、そのままスタスタと風呂場へと移動する。その際、足で引き戸を閉める事も忘れない。

 カラカラと惰性で閉まる扉の音を聞きながら、なんの気負いもせずに湯船へと歩を進めるバゼット。一方のネギはというと前にしかタオルで隠されていないせいで剥き出しになっているお尻を直視する位置に顔がきてしまい、必死になって目を閉じている最中である。

「さて、と」

 そのままバゼットはストンとネギを地面に下ろした。ようやく大丈夫かと、そろそろとネギが目を開けようとした瞬間。

 

 ザバァ

 

「ひゃ!? な、なんですか?」

 ネギの頭からお湯がぶっかけられる。

「何ってかけ湯です。日本の湯船はしっかりとかけ湯をしてから入るのが常識らしいですよ」

 そのまま二度三度とネギの頭に湯をかけるバゼット。どうやらギュッとつぶった目をかけ湯される覚悟があったものと勘違いしたらしい。

 そしてかけ湯が終ったネギを再び引っ掴み、バシャバシャと湯船を付き進む。そしてある程度まで進んだと思ったら、なんの配慮もせずにネギを掴んでいた手を離して湯船の中に落とした。

「あいたっ!」

 もちろんなの配慮もしていない以上、ネギはお尻をしこたまにぶつけてしまう。お湯の緩衝材があったとは言え、硬い岩にお尻をぶつけたのである。少し涙目になってしまうネギ。

「いたたたた。なんなんですか、バゼ……ブッ!」

「?」

 文句を言おうと目を開けたネギの脳に飛び込んできたのは全裸で湯船に浸かるバゼットの姿。

「ななな、前を隠して下さいよバゼットさん!」

「湯船にタオルを入れるのはマナー違反です」

 当然の抗議をあげるネギであるが、にべにもなく断るバゼット。

「それになんでバゼットさんがここに!? 男湯は女湯はっ!?」

「何を言っているのかよく分かりませんが、ここは混浴です。男湯も女湯もありません」

 そしてオーバヒートしっぱなしのネギは更に突っ込みを入れるが、バゼットの返事には配慮がない。そんなバゼットにネギは更なる言葉をまくしたてようとするがそれより先に口を開いたのはバゼットであった。

「そんな事はどうでもいいです。それよりも問題があります、わざわざネギ先生が来るまで湯船で待っていたのですから、どうか話を聞いて欲しい」

 真剣なバゼットの顔。それを見てネギも真面目な話だと理解した。とりあえずバゼットの格好とかどこに居るのかとかそういう思考を棚上げして真っ直ぐにバゼットを見た。

「清水寺において敵対勢力を確認しました」

「! 見つけたんですか!?」

 目を見開くネギとカモ。固唾を飲んでバゼットの次の言葉を待つ。

「はい。清水寺に各所に極低い害意を孕んだ罠を確認しました。私が確認し、破壊した数だけで5。更に多くの罠があったと類推しまして、それらの罠や私達を監視していた式神の存在も確認しました。

 そして一時だけ魔力の流れがおかしくなった部分に攻撃を加えましたが反応は無し。ですが、そこから攻撃を加えて結界を破った一瞬だけ監視の視線を感じましたので、敵対勢力がいると断定して報告をした次第です」

 手際よく報告を済ませるバゼットに、ムムムと考え込むネギ。そこに嘴を突っ込んだのはやはりというかカモだった。

「それで敵に関しての情報はねーのかい?」

「残念ながら。そういうそちらは何か掴んでいないのですか? …………えっと、そこのオコジョ妖精」

「そういやエヴァンジェリンの時で顔は合わせてたが自己紹介はまだだったな。俺ッチはカモミール・アルベール。バゼットの姐さんが言う通りにオコジョ妖精さ、気軽にカモとでも呼んでくんな」

「そうですか。私の名前はバゼット・フラガ・マクレミッツ。今は麻帆良の警備員の仕事をしています」

 オコジョと握手を交わす美女が一人。

「それで、何か情報は掴んでいるのですか?」

「っと、そうだった。兄貴、説明!」

 こういった情報交換は基本的に使い魔よりも本人が説明した方が礼儀正しい。だからネギの頬を尻尾で叩き、意識を戻すカモ。

「え、えっとですね。とりあえずウチのクラスの桜咲さんが怪しいらしいんですけど…………」

「らしい、とは?」

 微妙な言葉の使い方に更に突っ込みを入れるバゼット。それにあわあわとしながらもしっかりと説明を加えるネギ。

「違和感がある行動ばかりしているんですよ、桜咲さん。ただ、おキヌさんはなんとなく違うんじゃないかなとか言ってて……」

「…………。詳しい話をお願いできますか?」

 先ほどの話を口にするネギ。そのまま静かに話を聞き、時に相づちや更に突っ込んだ質問をするバゼット。そしてネギの話を補足するカモ。

「――だいたい以上です」

「そうですか……」

「何かわかったかい? バゼットの姐さん」

「ええ、とりあえず確定事項は、」

 

 カラカラカラ

 

 風呂場と脱衣所を結ぶ扉が開かれる音。瞬時に黙り、体を隠す三人。そしてそっと出入り口の方をうかがって見れば、そこにはかけ湯をしている女の子の姿が。

(!? せ、刹那さん~~!?)

(噂をすれば影とはこの国のことわざでしたか)

 思わず練習杖を取り出したネギと、至って冷静に現状を把握するバゼット。

(どどど、どうしましょうかバゼットさん?)

(いや、別にどうもしなくていいんじゃないですか? たまたま混浴ですれ違っただけなんですから挨拶くらいはするのは筋かも知れませんが)

(だめですよ! 僕と刹那さんは先生と生徒で男と女なんですから、一緒にお風呂に入っちゃ!!)

(…………まるで私が女でないような言い方ですね)

 その言葉でネギは現状を把握する、いや。してしまう。

(ってそうだー! ぼ、僕、バゼットさんとお風呂に入っちゃってる!?)

(あなたはまだ10歳でしょうに。そこまで神経質にならなくてもいいのでは?)

(イ、イギリス紳士として気にしなくちゃいけない問題ですよ~!)

 パニックになるネギのせいで話が一向進まない。そうこうしているうちにかけ湯が終った刹那は湯船に浸かる前、疲れたように溜息をついてからポツリと独り言を漏らした。

「困ったな……。魔法使いであるネギ先生なら……何とかしてくれると思ったんだが……」

 その言葉に、ネギとカモの動きがとまる。そしてそんな二人に不思議そうな顔をするバゼット。

(……え!? ええ~~っ!? な、なぜ僕が魔法使いだと…………? そ、そんな。やっぱり刹那さんはスパイ……?)

(っ!? 何を…………!?)

 思わず杖を持つ手に力がこもる。その殺気を感じてバゼットは慌ててネギを抑えにかかろうとするが、もう手遅れである。

「! 殺気?」

 自身に向けられた殺気に敏感に反応する刹那。彼女の反応は早かった。浴槽に使われている岩を小さくむしり取ると、それを指弾として明かりに投擲。ガシャンと甲高い音がして人工の光が消える。

「誰だっ!?」

 そして手元に備えておいた愛刀・夕凪を手に取ると高く跳躍して間合いを詰める。

(しまった、見つかった!?)

(くっ!)

 逃げるネギ、最悪の状況になったと歯がみするバゼット。そして殺気が物影に隠れたのを確認した刹那はその物に対象を合わせる。

「逃げるかっ。神鳴流奥義…………斬岩剣!!」

 気合い一閃。その刀はただの一撃で岩を両断した。巻き込まれてネギの前髪も少しだけ宙に舞う。

「仕方……ありません!」

 同時、ついにバゼットが覚悟を決めた。刹那の僅かな技後硬直を狙って間合いを詰める。

「甘い!」

 だがしかし刹那はそれにもしっかりと反応した。小脇に抱えた鞘に気を込めて間合いを詰める人影を迎撃。

「甘いのはどちらですか?」

「っ!?」

 それを右腕一本で受けるバゼット。鞘を封殺したバゼットは、勢いのそのままに左の手を刹那の首へと伸ばす。

「ちっ!」

 不利を悟った刹那は鞘を放棄。瞬動と呼ばれる技術で後方へ逃れると同時、夕凪で敵対者の左腕をないだ。本気を出せば瞬動よりも速度を出せるバゼットと言えど、それはあくまで服等に仕込んだルーンの加護があればこそである。全裸である今は瞬動で逃げる刹那に追いつける道理はないし、つまりは気のこもった斬撃をバカ正直に受ける必要もない。斬撃を避け、間合いを広げるために後ろへ逃れるバゼット。僅かな空白の時間。その時間にカモが大声をあげた。

「や、やいてめえ、桜咲刹那! やっぱりてめえ関西呪術協会のスパイだったんだな!?」

「へ?」

 その声に誰よりも呆然としたのは言われた刹那自身だった。関西呪術協会の刺客と闘っているつもりでいたのに、よもやその相手からスパイ呼ばわりされるとは。

「なっ、違う! なぜそんな話に? というかあなたは誰だっ!?」

「何が違うもんか、ネタは上がってるんだ。とっとと白状しろいっ」

 ギャーギャーとヒートアップする一人と一匹。それを見てハァとため息をつくバゼット。

「やめなさいっ!」

 怒声。それにカモは怯み、刹那は刀を構えなおす。そして怒声をあげたバゼットはその場にいる全員の注目を浴びながらも言葉を続ける。

「今のはネギ先生が悪い、暗がりからいきなり殺気を浴びせればああなるに決まっているでしょう」

「うぇ、僕のせいですか!?」

「当たり前ですっ!」

 情けない声をあげるネギ。その声に覚えがある刹那は思わず呆けてしまう。

「あれ? ネ、ネギ先生? なぜ、どうして?」

 攻撃を加えてしまったのが協力を要請しようとしていた子供先生と知り、あわあわと困る刹那。そんな刹那に話しかけるのはやはりバゼット。

「こちらの不手際をお詫びしましょう、桜咲刹那」

「え、ええ? でも先に手を出したのはこちらですし、そもそもあなたは誰ですか?」

「バゼットです。バゼット・フラガ・マクレミッツ」

「へ? えええ!?」

 意外過ぎる名前に、目をパチクリさせる事しか出来ない刹那。

「出来れば腰を落ち着けて話をしたいのですが……この場ではそうにもいかないようですね。夜の時間、ロビーの一画で話をしたいのですが構いませんか?」

「え、いや、はいっ!?」

「ちょ……バゼットの姐さん?」

「あ、あれあれあれ?」

 本人たちを放っておいて、トントントンと話を進めていくバゼットにその他の全員が全員目をパチクリさせる。

「ではその時間に。ネギ先生も関係者を集めておいて下さいね。それでは」

 言いたい事を言ってとっとと風呂場から出て行くバゼット。

「…………」

「…………」

「…………」

 

 カラカラカラ カラカラカラピシャン

 

「えっと。何? 何なんでしょう?」

「…………さぁ?」

「…………」

 バゼットが出て行くと同時に思わず顔を見合わせる三人。怒涛の展開について行けずに呆然とした、妙な空気が流れる。

 

 

 

 お互いに全裸である事に気がつくまで、後10秒――――

 

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