二組六人の異世界人   作:117

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3章 8話

 趣異なる厄介事。

 

 

 

 頭を抱えてゴロゴロと床を転がるネギ。その前はイスに座ってただボーっとしていたかと思えば唐突にこの行動である。

「…………」

 なんと声をかければいいのやら。帰ってきてずっとネギがその状態だったのを見ていると、士郎でさえ反応に困ってしまう。血が繋がっていないとはいえどもネギの兄を自認しているが、しかしそれでもこれでは反応のしようがない。

「仕方ない」

 奇行を繰り返すネギを置いておいて、士郎は自室へと向かう。ネギに聞けないのならば別の人間に話を聞けばいい。今日ネギと一緒に班行動をした横島ならば何か知っているだろうと。

 テクテクと歩き、やがて部屋へとたどり着く。

「おい、忠夫。ちょっと聞きたい事が――」

「あ、衛宮先生」

 言いかけて固まった。部屋の中から入口のドアに向けて顔を出してきたのはおキヌで、横島ではない。

「氷室か。別にこの部屋にいるのは構わないんだが、忠夫がどこにいるのか知らないか?」

「横島さんですか?」

「ああ」

「部屋の中にいますよ」

「?」

 ならばなぜおキヌが返事をして横島が返事をしないのか。首を傾げつつも部屋に入ると、すまきにされ、逆さ吊りにされた横島の姿がいきなり目に入ってきた。

「…………」

 絶句する士郎。

「どうかしましたか、衛宮先生?」

 無邪気に問いかけるおキヌ。その無邪気さが今は少し怖い。

「えっと、氷室。これは、えっと、何? 何だ? 何事だ?」

 気を失っている横島を見ながら問いかける士郎。一体全体、何がどうなってこんな状況になっているのか、さっぱり想像がつかない。とにもかくにもやや引きながらおキヌに話しかけるしか選択肢が残されていない士郎。

「おしおきです」

 満面の笑みで返答してくれるおキヌ。士郎、絶句、二回目。

「おしおきです」

 繰り返すおキヌに士郎は自分が関わってはいけない類の問題だと認識した。こういう変な危機感知能力は冬木にいた頃の経験で嫌という程に磨かれている。たまに働かなくなる時もあるにはあるけど。っていうかしょっちゅう故障するけど。ともかく、今回は故障しないで済んだ珍しい事例だと言う事は理解出来た。

「そ、そうか」

「横島さんに何か用事があったんですか?」

「あ、ああ。でも大した事じゃないから氷室は気にしないでいい。君は君のするべき事をしてあげてくれ」

 ごくごくごく普通なおキヌに冷や汗まじりでそう言い残すと、士郎は踵を返して一刻も早この異空間から脱出しようと足を動かす。

「士、郎ぉぉぉ……――」

 それなのに。脱出寸前に聞き覚えのある聞きたくもない声が聞こえてきた。嫌々ながら振り返ると、逆さまに吊るされた横島が恨めしそうに士郎の事を睨んでいた。

「や、やあ忠夫。楽しそうだな、ゆっくりと遊んでくれ」

「お前にはこれが楽しそうに見えるのか、なら代わってくれ是非とも代わってくれ、今度秘蔵のエロ本見せるから!」

「あ……」

 それは半ば反射的に出た言葉なのだろうし、気絶から目覚めたばっかりでまだ周りの認識もしっかり出来ていない上にぼんやりとした頭でもあったのだろう。だが、その一事はあまりにマズかった。士郎は横島の後ろにいる、横島からは見えない悪魔の形相に冷や汗が止まらない。

「頼むよこの通り! 秘蔵のお姉さん系を見せてやるから!」

 殺気が一段と大きくなった。というかなぜ横島はこの殺気に気がつかないのか。

「言いたい事がある」

「おう、助けてくれるなら何でも聞く」

 何か微妙にテンションをあげている横島だが、しかし士郎としてはそれどころではない。士郎にまで殺気を向け始めた少女が怖すぎる。

「まず、私はその本を見せて欲しいと言った事はないし、そもそもそういった類の本を忠夫に貸してくれと言った事はない。分かったか、氷室」

 

 サァァァァァァァァァァァァ――――――…………

 

 音をたてながら横島の血の気が引いていった。

「ええ、もちろんよく分かってますよ、衛宮先生」

 ニッコリにっこりのおキヌ。微妙に士郎に向かう殺気が薄れつつあるのに、色黒白髪の大男は知らず安堵の息を吐く。

「じゃ、じゃあ私はこの辺でネギ君に話があるからな」

「士郎ぉぉぉー! 親友だろ、俺達は親友だろっ!? たす、たす、助けてくべぇ!!」

 おキヌの膝が的確に横島の脇腹をえぐる。全く容赦というものが感じられない攻撃だ。そんな横島を視界の端でとらえながら、士郎はそそくさとその場から離れていく。

「あ、衛宮先生」

「なっ、なんだ氷室」

 裏返ってた声。

「ネギ先生に用事があるならついでに様子も見てきて頂けませんか? ちょっと心配ですから」

「心配って、班行動中に何かあったのか?」

 真面目な話になりつつある事を理解した士郎はやや表情を引き締める。

「ええ、まあ。横島さんに呪いをかけられたりしたので」

「ネギ君に何をやってるんだよ忠夫!」

「し、仕方なかったんだって! だってあの10才児、本屋ちゃんに告白されてるんだぞ!? 男として呪いの一つでもかけなきゃやってられねーだろ!」

「…………ちょっと、待て」

 この部屋に入ってから話がかなり跳躍しつつあるので、頭がついていかない士郎。少し深呼吸をして心を落ち着ける。

「そうか、ネギ君の様子がおかしかったのはそれが原因か」

「そうそう、それで俺がモテない男を代表としておしおきを――」

「OKとてもよく分かったよ忠夫。ところで氷室、私も参加していいかな?」

 主語を抜いた言葉に少しだけキョトンとするおキヌだが、とてもイイ笑顔になっている士郎を見て疑問が氷解する。ああ、今のこの人は味方なのだと。

「…………イヤ待ッテ下サイヨ士郎サン。何デスカソノイイ笑顔ハ?」

「なんで片言なのかよく分からないけど、人の弟分に手を出してただですむと思うなよ?」

「ひぃぃぃ! 疑問形だけどそれは絶対に答えが1つな疑問形だ!」

「あ、衛宮先生。木刀と鞭のどっちがいいですか? 多少キツくても大丈夫ですよ、横島さんですから」

「おキヌちゃん、そんな信頼はいらない! そして鞭とか何で持ってるのっ!?」

「心配はいらないよ、氷室。木刀ならばここにある」

「そしてお前はお前でいつのまにそんな物を用意した!」

 横島のつっこみはことごとく空振ることになる。やがて異様な眼光をたたえた二人の修羅がちょっとバイオレンスな得物を持って横島の眼前へ。

「では横島さん。改めまして、美神さん程上手ではないふつつかものですが、どうかよろしくお願いします」

「こういう状況じゃない場面で聞きたかったそのセリフ!」

「さて忠夫。今から始まるのは一方的な虐殺劇だ。その耐えたその先に、きっとまたオレ達が仲良くなれる未来があると信じている」

「そう信じてるならやめる方向でどうか一つ! っていうか虐殺劇って言っちゃってるよこの人!」

 横島の声は届かない。激怒した二人には届かない。どんなに声を嗄らしたって届かない言葉も想いも、きっとある。ネギを許せなかったという横島の声が届く事は、きっとない。

 

 ホテルのどこか一室で誰かが断末魔の悲鳴をあげている頃、ネギのとんでもない失言にいきり立ってホテルを闊歩する女帝とそれに付き従う野次馬が若干名。

「こ、告白。ネギ先生に告白。そんなうら、いえうらやま……うらやましい事なんて許せませんわ!」

「本音隠せてないよ、いいんちょ」

 裕奈が一応つっこみを入れていたりする。ズンズンと歩いていく一行だが目的はもちろんネギに告白した不埒な(あやか視点)事をした人間を突き止めるため。そういった場合に依頼するのはもちろん彼女に他ならない。

 あやかの部屋、3班の宿泊場所に辿り着きどかどかと入っていく。幸い、お目当ての人物は部屋の中でデジカメのデータ整理をしていた。そう、彼女たちが目指しているのは麻帆良のパパラッチ、朝倉和美。

「ん~。いいんちょにその他大勢。どしたの?」

「その他大勢って言うなー!」

 ちょっとばかりあんまりな、気が緩みまくっている朝倉の言葉にガーっと怒るその他大勢だが、今はそれどころではない。一切合財を無視してずずいと前に歩み出るあやか。

「朝倉さん、依頼がありますわ」

 その余りの気迫に朝倉もピンと背筋を伸ばす。そして話を聞いていき――

「なぬっ!? 教師と教え子が淫行疑惑~!?」

 その大スクープ情報につい大声をあげてしまう朝倉。内容が内容だけに一瞬だけひるんだ彼女だったが、スクープの情報提供に段々と好奇心たっぷりな笑みが浮かんでくる。

「そ、そうなんだよ朝倉。大変なんだよ」

「うんうん」

 あやかのちょっと行き過ぎな表現に少し冷や汗が出てくる裕奈とまき絵だが、まあこっちの方が面白そうかという理由で訂正は一切していない。

 朝倉はと言えば頭の中はフル活動である。確かに上の意味でも下の意味でも中学生と思えないような体型をしている人物はたくさんいるし、まさしく中学生らしい人間ももちろんいる。ならば調べてみる価値はあるかも知れないと、そういう事をしそうな横島とかその他の教員の顔や言動を思い出していく。

「で、ホシは誰よ? 横っち? 新田? 瀬流彦? 衛宮? 衛宮って絶対ムッツリだし、やっぱりあいつ?」

 結構ひどい事をさらりと言っている朝倉だが、対象となる人間は折檻をしている最中とされている最中だ。聞こえるはずもない。

「それがですね……」

 それはさておき得た情報を伝えていくあやか。

 班別行動から戻ってきたネギの様子がおかしく、ボーっとしたり悩んだり。かと思えばゴロゴロと転げまわったり。声をかけたら誰かがネギに告白したらしい事を、パニくって言ってしまった直後にダッシュで逃げていってしまった。ネギに告白した淫行生徒が誰だかを是非に調査して欲しい。

「つかそれ全然淫行じゃないっつの!!」

「な、何をおっしゃいますか! 充分許されざる行為ですわ!」

 ズビシと突っ込む朝倉だがしかしそんな事などなんのその。あやかはあやかで逆ギレで押し切る。

「とにかくネギ先生に誰が何をしたのか調査して欲しいのですわ!」

「頼んだよ朝倉ー!」

「GOGO!」

 乱入者全員が口を揃えて言っているし、相手はなんといってもネギへの偏愛で知られるあやかだ。恐らく何を言っても無駄だろうと重い腰をやれやれとあげる朝倉。

「スクープじゃないもんには興味ないんだけどねー。

 しかしまあひょんなことから大事件につながる事もあるし…………一般市民の期待に応えるのも報道記者の仕事かもね」

 ぶつぶつとグチりながら迷いなく5班の部屋へと向かう朝倉。実はもう彼女の中で犯人、というか純な想いを告げた相手の特定は9割方済んでいる故に本人の言質を得るだけの仕事でもある。むしろ彼女の顔を思い浮かべられない乱入者たちの頭が不憫な位だ。

 5班の部屋に来た朝倉はコンコンとノックをしながら部屋の中に入る。ちなみにノック二回はトイレの在室確認の回数であり、留守かどうかの確認はノック三回が正しい。

「おーい入るよ。本屋いるー? って、お。丁度一人か」

「はい、なんですか朝倉さん?」

 部屋の真ん中のテーブルの前でまったりとジュースを飲んでくつろいでいたのどかは突然の来訪者にも嫌な顔を見せず、笑顔で迎え入れる。これからする質問には夕映やパルがいたら妨害される可能性もある為にのどか一人でいるのは朝倉にとってとても都合のいい展開だった。

 が。しかしこれではつまらない、本当につまらない。なんの障害もなく取材が完了してしまう。ちょっとからかってやろうかと悪戯心が胸の中に芽生えつつある朝倉はのどかの隣に座り、ボイスレコーダーのスイッチを入れて一言。

「アンタ、ネギ先生と寝たって本当?」

 ブーーーッとマンゴーミルクが朝倉の顔にぶちまけられた。

「なっ、ななな! そんなことしてないです~~っ」

 人の顔に牛乳入りのドリンクをぶっかけておきながら謝る事すら思いつかない程テンパっているのどか。朝倉としてもちょっとタチの悪い冗談だったかと反省してるし、ついでにいい具合にのどかの余裕を奪いとれたので怒る事無くハンカチで顔を拭きながらナハハと苦笑いをするだけだ。

「冗談冗談。今日、告ったんだってな~。――で、どうだったん?」

「え…どどど、どーと言われましても――。

 私は自分の気持ちを伝えたかっただけですので……だから――お返事は最初っからいらないとゆーかー」

 寝る発言がいきなり出たせいで告ったという基本的な部分を否定する余裕が全くないのどか。完全に朝倉の術中にはまってしまっている。いっぱいいっぱいでごまかす余裕がないことを確認した朝倉は更につっこんだ疑問を口にする。

「へー…。で、ネギ先生の気持ちは気にならないの?」

「いえ…もう満足……。…………とゆーか…あの、聞くの…こわいのでー……」

「……………………。

 あっはっはっは。かわいーなー宮崎は♪ だめだよー、小学生じゃないんだしそんなんじゃ。いや、まあいーかー」

「あーうー?」

 モジモジと蚊の鳴くよな声で自分の気持ちを精いっぱい口にする可愛らし過ぎるのどかの頭をグリグリと撫でまわす朝倉に困惑するのどか。そんなのどかを思う存分可愛がった朝倉はじゃねと言い残して部屋を出る。

 しばらく茫然としていたのどかだったが、すぐに正気に戻ると廊下に飛び出して上機嫌に歩く朝倉の背中に声をかける。

「あっ…………。このことは先生に迷惑がかかるし内緒に――……」

「OKOK、わかってるって。応援するからがんばんなよ宮崎ー♪」

 どこまでもいじらしいのどかに朝倉の機嫌は止まらない。どこか楽しげな歩調で歩き去っていく。

 やがて廊下を曲がってのどかの目の届かないところまでいくと、ボイスレコーダーを取り出して停止ボタンに指をかける。

「……ほいっ、取材終了っと。

 はあ~~ぁ。こんなんじゃ記事にもならないよ」

 子供先生実はモテモテ!? とかいう題名で出来なくはないのだが、それではランクの低い芸能記事だ。朝倉が目指すのはそんなレベルではないし、そんな記事を載せてしまえばきっと小さな恋は終わってしまう。

 妹の恋を見守るお姉さんのような気分になりながら朝倉はボイスレコーダーを巻き戻して再生ボタンを押し直す。

「ま、みんなが知ったら騒ぐだろうし、この件は秘密にしてやるか♪

 ゆっくり進む恋もあるさね…………。いいんちょ、悪いね。消去、と」

 取った証拠を消しながら、つまらなそうに歩く朝倉。なまじ最初の一歩で燃えてしまったので不完全燃焼な事この上ない。

「ふー。しっかしウチのクラスは平和だねー。何か血沸き肉躍る大スクープでも転がってないもんかね~」

 一部の教師や生徒、警備員が聞いたら呆気に取られそうな事を呟きながらホテルを目的なくうろつく朝倉。だがもちろんそう簡単にスクープが転がっているはずもない。燃える記者魂を燻らせながら、しかしどうしようもなく徘徊を続ける。

 っと、そこでホテルから出ようと歩いている小さな影を見つけた。スーツを着こんでフラフラとした足取りの彼は件の子供先生に間違いない。

(おっとネギ先生じゃん。本人にも一応インタビューしとくか?)

 そう思い、ネギに小走りで近づく朝倉だが、そのやつれた顔を見て流石に冷や汗が出てくる。

「あらー。何か悩んじゃってるなー。10歳の少年には告白は、ちょっとショッキングだったかな?」

 こういう雰囲気だと声をかけるタイミングにも困る。ネギの性格からして声をかければ笑顔で応えてくれそうではあるが、結局その負担はネギが一人で背負ってしまう事になる。

 これ以上小さな先生に負担をかけるのは忍びないと、朝倉は黙ってネギの後ろを歩きながら声をかけるタイミングを見計らう。

 ネギはというと朝倉には気が付かずにホテルを出て公道へ。

 その眼前、毛繕いをしているネコが。そして右手からは止まる様子の無い車が走ってくる。数秒後の光景なんて予想するまでもない。

「ネ……ネコが!?」

 思わず声を出した朝倉だが、残念ながら彼女の位置からネコまでは余りに遠すぎた。確実に間に合わない。いや、ネギの位置からでも間に合う訳はない。

 硬直してしまう朝倉の目に更にとんでもない光景が映る。ネギがネコを守るために車道へ飛び出してネコを庇うように抱きしめた。車の前に体を曝したまま。

(し、死んだーー!? ネギ先生ーー!?)

 

 世界がスローモーションになる。

 

 迫りくる車。

 ネコを抱きとめた、崩れた体勢のネギ。

 迫りくる車。

 逃げられないネギ。

 迫りくる車。

 ネギの口が何かを呟く。

 迫りくる車。

 吹き飛ぶ車。

 まるで新体操の選手のように、一回転しながらネギの頭の上を通過する。

 着地する車。

 地響き。

「よかった、無事だ……」

 ネギのほっとした声。

 

(なっ……なぁにぃーーっ!?)

 今度は声に出なかった。いや、出せなかったといった方が正しい。余りにもつっこみどころが満載な今の光景を目の前にして、朝倉の口は完全に硬直していた。

 それでもパパラッチの習性ゆえか、物影に素早く体を隠す。

「運転手さんも大丈夫ですかー?」

「あ、あれー? 今…………?」

 ネギの能天気な声と車に乗っていたであろう人の震えた声が朝倉の耳に届いてくる。そのまま何かから逃げるように車は走り去っていった。

(な、ななな…………い、今のは~~~~!?

 あ、合気道!?)

「見てたよネギ君、お手柄じゃないか」

 テンパった朝倉はさておいて、そんな声が上から降ってくる。思わず朝倉は上を見上げるが、そこは屋根に遮られて見えない。けれどもその声は何回か聞いた事がある。具体的に言うと今年の4月からの真面目な副担任として。

「あ、士郎さん。居たんですか」

「ああ、見張りのために上に居たからね。しかし今のタイミングじゃ、私では助けられなかったよ。タイヤを射抜く事は出来ても、慣性は止められない。それこそボンネットを釘付けにするくらいじゃないとな」

「へへ、居た場所がよかっただけですよ」

 上を見上げたネギからその人物の名前が口にされる。そして違和感なく話を合わせるネギの顔を誇らしそうだ。

 二人の声色に共通しているのは、今のビックリテレビにも投稿出来そうなトンデモ映像を当然の事として扱っている事。

 状況を整理しようと落ち着こうとする朝倉だが、その耳には更に頭を混乱させるような声が響いてくる。

「ふふん。どうだい衛宮の兄貴、ネギの兄貴だってぼーっとしててもやるときゃやるだろ」

「ああ、全くだ」

 聞き覚えのない声に視線を向けて見れば、オコジョがなんかしゃべっていた。それはもうごく普通に、しゃべるのが当然の如く。もう朝倉の顔は真っ青だ。

(オ、オコジョしゃべった~~~~っ!?)

「でもダメだぜ。あんまり派手な魔法を使っちゃー」

「どこで誰が見ているか分からないからな」

「うん……ゴメンナサイ」

 そう言いつつもネギはネコを抱えたまま杖にまたがって空を飛ぶ。

(と、飛んだーーッ!?)

 そうして朝倉の視界から外れた場所から話声だけが聞こえてくる。

「とにかくよかった。誰も見てなかったし……」

「って、確認してないのか、ネギくん」

「あ、はい。必死だったので」

「全く、そういう時は見られても問題ない魔法を使うんだ。あんな大技、ごまかしもきかないぞ」

「まあまあ、結果オーライって事でいいじゃないスか。ネコも助かったんですし。

 とりあえず俺っち達はこのネコを安全な場所に運んできますから」

「ああ、見張りは私に任せておけ」

 その言葉を最後に話声が聞こえなくなる。そして遠くの空を見てみれば、杖に乗って空を飛んでいるネギの姿が。

 まずは深呼吸する朝倉。そして仕事道具であるカメラを構えて空を飛んでいるネギの姿を一枚激写。そしてもう一度深呼吸。

(き……

 きき、来たぞーーーー!!

 超特大スクープゥ~~~~!!!!)

 上にたぶん士郎がいる。会話からそれを理解した朝倉は忍び足でホテルの中まで戻り、そこからダッシュでトイレへと閉じこもる。そして便座に座りこみ、今見た異常について頭をこれでもかと働かす。

(超能力者!?

 宇宙からきた正義の味方!?

 人間界に修行に来た魔女っ子・男の子版!? 荒唐無稽だけどこれが一番状況証拠と一致するかも……)

 様々な想像が朝倉の頭の中を巡る。そのどれもが滑稽なものだったけど、まあ今目撃したものが非現実的過ぎたからそれも仕方がないかもしれない。

 だがしかし朝倉を悩ませる事が一つ。証拠がないのだ。

 上に士郎が居る以上、デジカメで空を飛ぶ証拠写真は一枚が限界だろう。そして折角撮った証拠写真はピンボケしていて証拠として機能しそうになかった。ならば次の一手として、まだ気が付いたという事に気が付かれていない今の状況を最大限に利用することの方が大切だ。

 それに大きな問題がもう一つ、この情報をどのような形で報道するかも大切な事。どんなに大きなスクープでも、一般社会に受け入れられない記事で書いてしまったら誰にも注目される事はない。

 まあ、なんて言おうが朝倉は焦る事はない。もう尻尾はガッチリと掴んでいるのだ。

「そーいや、今まで撮った写真の中にもそれらしいのがチラホラあったような…………。

 うーむ。私としたことがこんな身近なスクープに気付かないなんて!?」

 ちょっと悲しくなる事実を自分で発見してしまう朝倉。だがしかしそれは仕方のない事でもある。ネギ自身それなりに認識阻害の魔法を使っているし、実は麻帆良自体にも広域の認識阻害の魔法陣が張られているのだから。そういう意味で修行中な上にいっぱいいっぱいなネギが認識阻害の魔法を張り忘れていた事と、麻帆良の外で認識阻害の魔法陣の影響を受けないうちに魔法を見れた朝倉は運がよかったと言えるかもしれない。

「よーーーーし!! 世界の度肝を抜かすスクープまで後一歩!!

 こうなったらあの手でいくぞーーーー!!!!」

 一気にテンションをあげる朝倉。ちなみにその大声がトイレの外まで漏れて、笑い者にされている事に彼女は気が付いていない。

 

 

 

 やや時間が経って、ここは温泉。夕日に照らされたその中で、ゆっくりと風呂につかっている男が二人。

「はぁ~~~~ぁ」

「オラオラ兄貴。情けねえ声、出してるんじゃねーよ」

「そう言ってやるな、カモ。何だかんだ言ってネギ君も疲れているんだ」

 発破をかけるカモに落ち着いた声を投げかけるのは士郎。今浴場にいるのはこの二人と一匹だけである。

「疲れていようが疲れていまいが敵さんには関係ないんじゃねーか? そこんとこ衛宮の兄貴はどう思うんだよ?」

「まあ道理ではあるが、疲れを取る時はしっかり休まねばならないのも事実だ。今は忠夫が警戒してるし、休むことが最重要だ」

「なるほど。横島の兄貴がいないのはそういう訳か」

 うんうんと頷くカモ。ちなみに横島は士郎とおキヌにフルボッコにされたあげく、罰として一晩中見張りに立たされている事実を知らない。別に知ったって何も変わらないけれども。

 それはともかくとして、そういう訳で横島の姿がここにない今、『先生タイム』で他の男の先生が来ない限り彼らの貸し切りで、カモも遠慮なく話が出来る。

 はず、だったのだが。

 ガラッと音がして脱衣場の扉が開く。しかも女性用の脱衣場の方からである。

「ぶっ!」

「――あら。ネギ先生に衛宮先生♪」

「し、しずな先生ーー!?」

 そこにはバスタオル一枚でその肢体を覆ったしずな先生がいた。噴き出した士郎は全力で反対側を向き、ネギはあわあわとパニックになっている。

 そんな彼らの様子もなんのその、優雅な足取りでぺたぺたと足音を立てながら湯船の方に近づいてくるしずな。その足音を聞いて士郎の体に嫌な汗が流れる。

「あ、あ~。しずな先生? 申し訳ないが見ての通り今は私たちが湯船を使っているので、今浴場を使うのは遠慮をして頂けないだろうか?」

「あら。私は気にしないから大丈夫ですよ」

「い、いや、しかしだな……」

 慌てている男性陣は意に返さずしずな先生は湯船に浸かってくる。そして反対側を見ている士郎の姿を見て、ニヤリとほくそ笑むと綺麗な笑顔を浮かべて視線をネギの方へ。

「ネギ先生、今日もお疲れ様です。お背中流しましょうか?」

「い……いえ、その。結構ですので……!」

 あわあわとパニックに陥るネギ。

 しずなはそんなネギの肩を捕まえて、声をかける。

「…………うふふふ、実はね、ネギ先生。

 私……あなたの秘密を知ってしまったの……」

「えっ!」

 その言葉にネギのパニックが鎮まり、士郎の体がピクリと動く。女性の裸以上のインパクトがその言葉に込められていたから。

 そして満を持して、しずなは次の言葉を口にする。

「あなた……『魔法使い』でしょう?」

 次の瞬間、しずなの首には後ろから浅黒い手がかかっていた。それは指に力を入れれば頸動脈を圧迫して失神させ、そして掌に力を入れれば首の骨を折る事が出来る、絶妙の位置。その位置を、いつの間にか立ちあがっていた士郎は陣取っていた。

 そんな士郎がしずなの命を握ったともいえる状況に一番目を丸くしたのは、ネギ。なぜって、彼の目に映っていたのはあんまりな状況だから。

「し、士郎さん。前、かくさなくていいんですか?」

 そう、ネギの視線の先には士郎の男性の象徴がしっかりと。

「今はそんな状況ではないよ、ネギ君」

 シリアスに言う士郎だがその姿はあんまりにもダメダメである。だがまあ、ネギどうすればいいのか測りかねていた。

 いきなりしずなの首を掴む士郎もそうで、血の気がひいたしずなの顔もそう。とりあえずネギはタオルを士郎の腰に結んで、士郎のそれを隠す。

「ありがとう、ネギ君」

「ど、どういたしまして。そしてこれはどういう事なんですか?」

 ひとまず落ち着ける状況を作ってから、眼前の訳の分からない状況を改めて見る。

 確かに一般人に魔法の事を知られるのはまずいが、それでも目の前の状況を掴めない。魔法の事を知ってしまった人を放置する訳にはもちろんいかないが、その人を殺す訳にもいかない。それではマギステル・マギとして本末転倒だ。そもそもとして秘密がバレてしまったからといってその人間を殺すような性格を士郎がする訳がないと、ネギはよく知っている。

 だからといってその事を喋るなと言うのは余りに下策。それは脅迫するという意味であるし、脅迫するという事は周りに話されてはまずいという事を脅迫者が吐露するのも同義である。よっぽど優位な状況でなければ脅迫は成立しないのだ。故に脅迫でもありえない。

 そしてとりあえず気絶させて後で対処を考えるとした場合、変に情報を与えない方がいい。つまり、とっとと気絶させてしまった方がいい。なのに士郎はそれもしない。

 全ての対応が中途半端。だからこそネギは目の前の状況に理解が追いつかない。

 やがて、ゆっくりと士郎が口を開く。

「お前は……何者だ?」

「誰って……しずなですよ? お忘れですか、衛宮先生?」

「違う。お前はしずな先生じゃない」

 やや青い顔をしながら言うしずなに対して士郎の目つきは厳しいまま。そしてようやくここに至ってネギは現状を把握した。

 つまり目の前のしずな先生はニセモノで、士郎は尋問をかけているのだと。そうであれば殺さないのはともかくとして、気絶させないのは理解できる。

「――まさか、関西呪術協会の刺客!?」

「それは違うな」

 一瞬で戦闘体勢を整えて杖を構えたネギに淡々と否定するのは士郎。

 ネギの体がガクっとなる。

「えー。そうなんですか?」

「まあ、絶対とは言わない。だからこそこうして首根っこを掴んでいるんだからな。

 本当に刺客なら魔法使いかどうかなんて確認は取らないはずだし。もっとも、そこから何かを企んでいるならなんとも言えんが」

 士郎の言葉にキョトンとした顔をするしずな。それでようやくネギは彼女が刺客でないと理解し、杖を下ろす。もちろん後ろをとっている士郎からはその表情の変化は見えない為に、士郎は臨戦態勢をとかないが。

「さて、もう一度だけ聞く。お前は、誰だ?」

「――まいったわね、どうして私がしずな先生じゃないって分かったのよ?」

「答える義務はない。

 ――というか、その声は」

 なぜなら士郎はしずながこっち側だという事を知っているからなのだが、まさかその事を言う訳にもいかない。しずなに迷惑がかかる。

 それはともかくとして、声を元に戻した『しずな先生』の声に、無茶苦茶聞き覚えのある士郎とネギ。

 士郎はおそるおそる、首に手をかけたのと反対側の手でその変装を解いていく。

「――――っっっ~~!?!? 朝倉さん!?」

「そう、3―A、3番。朝倉和美よっ!」

 胸を張ってどうどうと言い切る朝倉に目を見開くネギ。そして思わず士郎も頭を抱えたくなった。だがまあ、今ならまだなんとかなる。

「ネギ君。記憶消去の魔法を」

「はっ!? そ、そうですね。

 ラス・テル・マ・スキル……」

「おお~と、ちょっと待った! 私の記憶を消していいのかな?」

 ネギの詠唱をかき消すような大声をあげる朝倉。その声に思わず呪文を止めてしまうネギ。

 それを確認した朝倉は、首に手がかかっているにも関わらずに不敵な笑みを浮かべて、堂々と口を開く。その余りに威風堂々とした姿に、思わず士郎が口を開く。

「どういう意味だ、朝倉?」

「な~に。もしもこのまま私が死んだり記憶がなくなったりした場合、今まで私が集めた情報がインターネットで全世界に流れる事になるのよ!

 今日中に停止の手続きをしないと送信する手はずになっているんだけど、それでもいいならご自由にどうぞ?」

 士郎の背中に嫌な汗が浮かぶ。もちろんこのまま情報が表に出たとしても魔法が世界にバレる事がないのは士郎も知る事だが、その責任はネギと士郎の肩にかかってしまう。

 そして朝倉の背中にも実は嫌な汗が浮かんでいた。なぜなら今言った事はハッタリ、そんな措置なんて全然していないのである。もしも記憶を覗く魔法などを使われたらどうしようもない。朝倉は記憶を覗く魔法があるのかどうかも知らないし、実際にネギが使える。だからこそ朝倉の方も崖っぷちなのである。

 そんな二人を見ながらオロオロとするネギ。浴場の中を緊迫した空気が支配する。

 やがて口を開いたのは、士郎。

「ハッタリだな、朝倉。もしもそんな情報を握っていたのなら、私達にカマをかける以前にその情報を表に出せばいい」

「いやいや、別に私の目的はネギ君が魔法使いだってバラす事だけじゃないからね。しっかりと取材して世界に送信してこそ大スクープになるから! ネギ君や衛宮先生が魔法使いだってだけじゃただのパパラッチじゃない。その上でしっかりとした記事にするのが私の仕事なのよ!」

「信じられんな」

「信じたくなければ信じなくていいんじゃない? 今夜の0時を回ったらそこのカモ君が喋れるだとかその他モロモロの情報が世界一斉放送だから」

 朝倉の目がカモをとらえる。カモはというとその視線に思わず身震いをしてしまった。自分のミスでネギを窮地に追いやってしまった理解してしまった故に。

「ネギ君、朝倉の記憶を覗きたまえ。パスワードやらなんやらの情報を全て引き出した上で、記憶を消そう」

 朝倉の心臓がドクンと大きく一回高鳴ったが、しかし彼女はそれをおくびにも出さないで間髪いれずに声を挟む。

「そうは問屋が卸さないよ! もしも変なそぶりを見せたら舌を噛んで死んでやる!!」

「え、ちょっと朝倉さん!?」

 過激すぎる言葉にネギの顔が歪む。

「ハッタリだな」

「衛宮先生は記者を甘く見てるみたいですね。自分のスクープが無駄になる位なら死を選ぶのが記者の本懐なのよ! 私がここで死んでも今までのスクープは世界に送信されるしね!!」

 またもや世界が凍る。

 ネギは自分の生徒が自殺するという決意を聞いて、魔法使いである事を隠さなくてはならないという義務との間で板挟みになり、泣きそうな顔をしている。

 不敵な笑みを浮かべた朝倉の内心は冷や汗ダラダラだ。まさか本気で自殺する気はもちろん彼女にはない。ここまで来て諦めるのは辛いが、本当に死ぬ訳にはいかない。それに世界に発信するという事自体が嘘なのだから、ここで死んだら犬死だ。

 士郎は朝倉の言葉をじっくりと吟味していた。自分の仕事に命を懸けるという人間は決して少なくない。ましてや魔法使いだという事を世界にバラすのならば、それは確かに一生に一回あるかないかの大スクープだろう。そして今まで見てきた麻帆良の学生だからこそ、そこまで仕事に関するプライドが高くないとは言い切れないのだ。その上に朝倉の話を聞いていると、彼女が魔法について情報を集めていたのは長期に亘っているらしい。その範囲を魔法で消すなんて10歳のネギに出来るとは思えない。その道のエキスパートなら出来るかも知れないが、今現状で打てる手はないと言わざるを得ない。

「…………何が望みだ」

 結局、士郎が折れた。朝倉の首から手を離し、問いかける。

 朝倉は思わずへたり込みそうになったが、そういう訳にはいかない。ここからが本番なのだから。

「ふ……。私の望みはただ一つ。ネギ先生と衛宮先生の独占インタビュー!

 魔法使いが実在すると知ったらならば世間は大注目!! 私の独占インタビュー記事が新聞、雑誌で引っ張りダコに!! 人気の出たネギ先生と衛宮先生は私のプロデュースでTVドラマ化&ノベライズ化!! さらにハリウッドで映画化して世界に進出よーーーーっ!!」

 自分の野望を語っていくうちにどんどんテンションがあがっていく朝倉に、思わず士郎は頭を抱えた。自分の仕事に命を懸けている人間がまさか情報漏洩防止の話を聞いて納得するとは思えないし、そもそも士郎の話を信じるかどうかも疑わしい。仮にそれを信じたとしてそれを打ち破る為に全力を注ぐだろう。必要なら士郎やネギを脅迫してまで。

 完全に足元を見られたネギはもうどうしようもなく震えていた。断っても今までの情報をバラされてしまうし、頷いたら頷いたで待っているのは破滅だ。

「う……うううぅぅぅ…………」

 けど、朝倉は自分の仕事に命を懸けていて、断ったら死んでしまうかもしれない。けど、頷いたいつか世界に自分が魔法使いだという事を自分の意思で了承した事になってしまう。けど、断っても朝倉はその事実を世界にバラしてしまうだろう。けど――……

 つまる所、朝倉に魔法がバレた時点で詰んでいたのだ。

 そこに考えが至った瞬間、

「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~ん!!!!」

 ネギが、爆発した。

 ついでにその泣き声に反応して、風の魔法が暴走している。

「ちょ……!」

「うわ……!」

 その暴風に士郎は飛ばされないように体に力を込め、朝倉は為すすべなく吹き飛ばされた。ちなみにカモは最初の一瞬で空高く舞い上がっている。

「きゃあ!」

 飛ばされた朝倉はというと風呂の景観の一つとして備え付けられた岩にしこたま体を打ち付けて、目を回して浴槽に浮かんでいる。

「落ち着け、ネギ君! 朝倉がピンチだ!」

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………え?

 あ、朝倉さん!?」

 士郎の言葉に正気を取り戻したネギは朝倉の姿を見てわたわたと慌てている。それをどうどうと落ち着かせる士郎。

 ほんの少しの時間が経ってとりあえず落ち着くネギ。とりあえず朝倉を浴槽から地面に移して寝かせるが、全く問題が解決されていない事に顔を青くする。

「ど、ど、ど、ど…………士郎さんどうしましょう!?」

「さて、本当にどうするか。全く、厄介事が多すぎるな」

 上手い解決策が浮かばずに頭を抱える二人。

「その事なら俺っちに任せて――ぐはぁ!」

 と、ばしゃんという音を立てて浴槽に湯柱があがる。長い滞空時間を経て帰ってきたカモだった。

 ヨロヨロと大ダメージを受けながらも浴槽から這い出てきたカモは、けれどもしっかりとした口調で、ニヤリと笑いながら口を開く。

「俺っちに秘策あり、ですよ。ここまできたら朝倉の姉さんを取り込むしか方法はないでしょう? そういう交渉なら俺っちの十八番だ。

 責任の一端は俺っちにもありそうだし、まあ任せてくんな!」

「カモ君本当!?」

 涙目で感激するネギに向かって、不敵に笑いながらサムズアップするオコジョ。

 そこでドタバタと脱衣場の方から音がする。

「ちょっと何々、今の泣き声――――!?」

 そしてガラリと脱衣場を仕切るドアが開く。そこにはバゼットを筆頭に、3―Aの面々が。

 彼女たちはゆっくりとその光景を見る。ほぼ全裸の衛宮とネギ、そしてその上で気絶している朝倉。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………全く、厄介事が、多すぎる」

 達観したような士郎の言葉が静かすぎる浴場に響き渡る。

 

 嵐の前の静けさが終わるまで、後4秒――――

 

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