二組六人の異世界人   作:117

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3章 10話

 続★喋るオコジョのキスゲーム。

 

 

 

「すぴーすぴー」

 わざとらしい程気持ちよさそうな寝息をたてながら眠るネギ。士郎に外部の警戒を任せている為、これ以上なく安心しているが故の安らかな眠り。

(ネ、ネギ先生の唇……唇っ!!)

(エヘヘー、ネギ君とキスかー♪ んふふ♪)

(あわわわわ、キス。ネギ先生とー……)

(全く! あのエロガモ、後でとっちめてやるんだから!)

 もしも内側でこんな事を考えている人間が居ると気がついていたら、ここまで安らかな眠りは不可能だっただろう。各班のテレビには朝倉とカモがその瞬間に最も熱そうな画面を選択し、映している。

「よっしゃー、双子GOー!」

「いいんちょ負けんなー!」

「本格的やなー」

「って、うぉ!? このかなんで一班の部屋に!?」

「だってうちの班、みんな参加しちゃったから。一人で部屋に居てもつまらへんし」

「……5班、参加率たけー」

 テレビをはさんでこんなお気楽な状況だったりするが、参加者はそれどころではない。だってキス。だってキス。だってキス。乙女にとっては正に人生の一大事である。

「あのエロガモ~! 女の子のキスをなんだと思ってるのよ!」

「ハハハ。まあまあアスナさん」

「刹那さんもそんなに落ち着いてないで!」

 心底怒ってますオーラを出しながら旅館内を闊歩するアスナに刹那は冷や汗が止まらない。このゲームのストッパーにアスナのストッパーと、間違いなく今夜一番の貧乏くじを引く羽目になってしまった刹那は心の中で大きなため息をついた。

 プンスカと前を歩くアスナだが、一瞬の気配を感じてその肩を掴む。

「なに?」

「しっ!」

 そのままアスナの体を抱えて、大きな声を出せないように口を塞ぎつつも天井に向かって飛ぶ。直後、角からいかつい顔のおっさんが姿を現した。

(……っ、新田せんせ!)

(静かに!)

 かえで顔負けの行動もびっくりだが、今はそれどころの騒ぎではない。新田先生は訝しげに辺りを見回している。大方、人の気配を感じているのに誰もいない事が不思議なのだろう。

 アスナと刹那はそのまま天井で息を潜めていると、首を傾げながら新田先生は別の場所に向かって歩き始めてしまう。そのまま少し待って、ようやく安全だと判断した刹那は地面に降り立つ。その瞬間、また角から人影が現れる。

「うをっ!」

「きゃ! ……って、アスナさんに桜咲さん?」 

 角から現れたのはパルにおキヌ。

「何で天井から降ってくる訳?」

「いえ、さっき新田先生が通ったので緊急回避に」

「そこで天井に張り付くという選択肢は人間としてありえないと思うんだけど」

 登場シーンが登場シーンな為に、どこか毒気が抜かれてしまった感じのパル。ついでに言えば刹那もこのゲームに関してやる気はない。だがしかしその他2人は別だ。

「ちょっとおキヌちゃん、なんでこのゲームに参加してるのよ?」

「え? だってホラ、横島さんにキスなんかしちゃったら横島さん、絶対勘違いしちゃうじゃないですか。そのフォローというか、なんというか、その、そんな感じでしょうか?」

「ふーん。じゃあおキヌちゃんは誰にもキスしないんだ?」

 ジト目で見てくるアスナ。その視線に顔が赤くなってあわあわと挙動不審になるおキヌ。

「い、いやでもほらですね? チャンスがあったらこんな機会ですし一回くらいしちゃってもいいかなーって……」

「いいかなー。じゃなーーーーい! しっかりカモの術中に嵌まってるんじゃないのおキヌちゃん!!」

「い、いいじゃないですか女の子ですもん! 修学旅行の夜にキスの1つなんてロマンチックな事考えても!」

「このゲームのどこにロマンチック要素があるかっての! 見てよこれ、私たちが持ってるの枕よ? 枕投げ推奨中のゲームよコレ!?」

 極めて珍しく論理的かつ理性的におキヌを論破しかけているアスナ。面倒見がいいにも程がある。だがやはり少し頭が足りないというか、自分が高畑先生に向かっている想いを鑑みればこの程度の説得に応じる訳もなく。

「……枕って逆にアリだと思いません?」

「思わないわよ、耳年増かアンタッ!?」

 まあ、おキヌに関してはそれ以前の問題なのかもしれないけど。

「っていうか、そうとまで言うならなんでアスナさんはこのゲームに参加してるんですかっ!?」

「それはっ……」

 これは絶対カモがお膳立てしたパクティオー計画だから。そう口に仕掛けてこの場にパルが居る事に気がついてしまう。まさかパルが居るのにまさかそんな事を口にしてしまう訳にはいかない。

 そんなアスナの態度に、ふふんと鬼の首を取ったように胸を張るおキヌ。そんな態度をとってしまえばますますヒートアップするのは当然で。

「ほら、アスナさんだって大きな声じゃ言えない事考えってるんじゃないですか」

「っ……! 私は誰にもキスさせないようにしてるだけよ!」

「え? じゃあ目の前にネギ先生が居てもキスしないんですか?」

「するかっ! だいたいネギよか衛宮先生の方が大人っぽいし――?」

「ア、アスナさん?」

「ほほぅ、流石オジン趣味のアスナ。ネギ君よりかはえみやん先生か」

 見事に自爆った。今まで傍観者だった刹那とパルが野次馬根性丸出しでいきなり話に入ってきた。途端にアスナの顔に血が集まってくる。

「ふむふむ。じゃあ不可侵条約でもしない? こっちは横っち狙いだし、あたしらはそっちの邪魔をしないから、そっちもこっちの邪魔をしなぶっ!?」

「うっさーーーーい! しねーーーーーー!!!!」

 逆ギレたアスナが枕でパルを殴打した。

「やったなこの! おキヌちゃん、いくよ!」

「はいっ! 負けませんからね、アスナさん!!」

 即座に反撃に移るパルとおキヌ。羞恥と怒りに任せてボコボコと枕を振るうアスナ。どうしたらいいのかとオロオロとする刹那。

「コラ長谷川、何やっとるかーーー!!」

「ぎゃぴぃいーー!!」

 と、その声にピタリと動きが止まる四人。

「やっべ、とっとと横っちの所に行くよおキヌちゃん!」

「はいっ!」

「あ、ちょっと待ちなさいよー!!」

 ドドドドドと廊下を走って消えていくパルにおキヌにアスナ。ポツンと残される刹那。

「……あのー、私はどうすれば?」

「さーくーらーざーきー?」

 呆けて気配を感じ取る事を忘れたのは一生の不覚。ギクリと体を強張らせる刹那がギギギギギと後ろを振り向けば、ジタバタと無駄な抵抗を続けている千雨の首根っこを捕まえた新田先生の姿が。

「お前もかー!!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 新田先生は刹那の首根っこも捕まえて、そのままロビーへ。

「二人ともロビーで正座!!」

「びぇ~~ん」

「な、何故こんな目に……?」

 正座しながら号泣する千雨と、頭痛がするように頭を揉む刹那。別に刹那にとっては正座なぞ苦でもないが、情けないやら訳が分からないやら。

「というかこの姿、きっとお嬢様もテレビで見てるのですよね……」

 刹那の目から流れたキラリとしたものは、見なかった事にするのが優しさかも知れない。

 

 一方、明らかに人の通る場所ではない、屋根の下にあるスペースを這って進む夕映とのどか。ちなみにそこは普通に外なので、蚊がよってくるのが悩み所な場所だ。

「ゆ、ゆえ~~。何でネギ先生のとこ行くのにこんなとこ通ってるの? 部活みたいー……」

「持っている技能を使うのは当然です。私たちはアスナさんやまき絵さんのように身体能力に優れている訳ではありませんから、部活で培った技術を使わなくては勝利はおぼつきません。

 ネギ先生の部屋は端っこですので、普通に行けばどうやっても必ず敵や新田先生に当たってしまいます。ですがこのルートならば敵に遭遇する可能性はほぼゼロと言っていいでしょう。もしかしたらパルが考え付くかも知れませんが、探検部に入って日の浅いおキヌさんがいればこちらの方に分があります」

 そう言いながらホテルの見取り図をのどかに見せる夕映。その指が動かす、記載されていないルートを見てピンとくるのどか。

「そっか、裏手の非常階段からすぐ中に入れば…………。

 で、でも非常口にはカギがかかってるかもー」

「こんなこともあろうかと、あらかじめカギを開けておいたのです」

 夕映は一体どういった事態を想定していたのだろうか? 後、そういう行為は防犯上極めて危ないので自粛すべきなのは言うまでもない。

 それはともかく夕映の目論見通り、誰にも遭遇せずに非常口からの潜入に成功する二人。ネギの部屋はもう目の前だ。そろそろと気配を窺いながら足を進める。

(まだ誰もいません……。チャンスです。

 そこの304がネギ先生の部屋です。さあのどか、今のうちに)

(う、うん。ありがと~~)

 小声でで話し合う二人。その前にバラリと縄梯子が降って来た。あんまりに想定外な出来事に完全に硬直してしまう。

(あううう、こわいです~~)

(まだ誰もいない……って、ゆえ吉に本屋!?)

 縄梯子の上の方を見てみれば、屋根裏から降りようとしている双子の姿が。

(ふーちゃん!? ふみちゃん!?)

(そ、そのルートがありましたか!!)

 勝手に戦慄する夕映は置いておいて、臨戦態勢を整える双子。

(しまった、殺るよ、史伽!!)

「「鳴滝忍法、分身の術!!」」

 そう言って二人同時に襲いかかってくる。

(別に分身してないです~~!?)

 ツッコミをしている場合じゃないとツッコミをする人間はそこにはいない。代わりに先手必勝とばかりにのどかに直進していた風香に向かってカウンター気味に飛んできた枕が激突する。

「もげっ!?」

「お、お姉ちゃ……!?」

(風香さん、史伽さん! 私が相手です!!)

 勢いにのって啖呵を切る夕映。ならばと双子も夕映にならって啖呵を切る。

(おのれゆえ吉ちょこざいな! 我ら甲賀忍群に適うと思うてかでござる!!)

(お……思うてか!)

 かなり微妙に締まらない。そんな二人に問答無用に枕を振り下ろす夕映の攻撃に、奇声をあげてぶっ倒れる双子。

(や、やったね~~っ)

(あっ……何か凶器を出したです!!)

 かなり泥沼なバトル、スタート。

「あぁっ、いやーん! ゆえ吉、本で殴るの反則ーーッ!」

「枕の上からなら無問題です!」

「きああーーっ」

(あ、あわ、あわわ~~)

 自分でルールを作って修羅場にする夕映にもう言葉が出ない呆然としたのどか。

 そんな呆然としたのどかを見て部屋の中へ押し込む夕映。

「ここは私が食いとめるです! のどかは早くネギ先生に…………!!」

「あ、あう! ありがとう夕映!!」

「ゆえ吉、それ死亡フラグー」

「ほっときなさいですぅぅぅ!!」

 夕映の奇声を聞きながらピシャンと扉を閉めるのどか。そうして暗い部屋の中を歩いていく。

 そうして小さな寝息を立てている布団の前にペタンと正座し、目を閉じて懺悔するように、自分の心の中を謡うように、声という形にしていく。

「ネ、ネギ先生……すいません…………こ、こんな形でー……。

 でも、でも……私、嬉しいです、嬉しいんです……………………。先生……キス、させてください……」

 そう言ってから、のどかは静かに顔を近づけていって、横島の唇に――――

「って、キャアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!????」

「ぐぼぅぉ!?」

 間一髪。唇の代わりにエルボードロップを降ろす事に成功した涙目ののどかの心臓はさっきとは別の意味でバクバクだ。

 ガバリと横島の一つ奥の布団からネギが体を起こす。

「!? 横島さん、何事ですか!?」

「何この痛み、何この悲鳴!? て、敵襲!!??」

「て、敵襲!?」

 とっさに『煙』と書かれた文珠を投げつけて、ネギを抱えて窓から脱出する横島。ボフンと煙で一杯になる部屋からはのどかの叫び声がなお大きくなった気がするが、脱出した二人にとってはそれどころではない。

 横島は窓から出ると目の前にあった木を蹴って、三角蹴りの要領で屋根へと登る。

「忠夫、どうした!?」

「どうしたじゃねーよ士郎! 敵襲だぞ、いきなり顔にエルボードロップをかまされた! どこ見張ってるんだ!?」

「……いや、敵襲はおかしくないか? 狙うならネギ君の親書か近衛だろう? いきなり忠夫に攻撃を加えられるのはおかしいと思うんだが」

「実際攻撃を食らったっちゅーの! アレじゃないのか、俺とネギを見間違えたとか!?」

 適当に言った事が微妙に的を得ている横島。

「忠夫とネギ君は見間違えるような背格好をしてないだろうに。そもそも不審者は誰も近づいてないぞ。今夜はその気配もない」

「見落としたとかは?」

「絶対にないとは言えんが、まあ有り得んな」

 そこでようやく首を傾げあう三人。

「……じゃあ、さっきの襲撃は何なんだ?」

「私が知るか。ところでネギ君、親書は?」

「あ、はい。万が一の事があるといけないので、眠っている時も肌身離さず持っていたので、ここにあります」

 ゴソゴソと浴衣の中を漁り、親書を取り出して士郎と横島に見せつけるネギ。それを確認した三人は頷き合う。

「もしかしたらこれは陽動かも知れないし、私はこのまま外を見張っておく。忠夫は近衛の安全の確認をしてくれ。ネギ君はその他の一般生徒の安全を確認」

「了解」

「分かりました。

 ……あ、僕たちの部屋に杖を置きっぱなしにしちゃったんで、横島さん、行く前に僕を部屋に連れて行ってくれませんか?」

「ん? 分かった」

 そこで話は終わり、士郎はそのまま外の警戒を続け、横島とネギはまた部屋に戻っていく。

 部屋の中は薄暗く、しかし窓を開けっ放しでいった為に煙はもう晴れていた。

「人の気配はなさそうですね」

「ああ。じゃあ俺はこのかちゃんの所に行ってくるから」

 そう言って横島は部屋から出ていく。ネギは軽く体を緊張させると、愛用の杖の元へ――

「っ!?」

 行く、前に。布団の中にナニかが居る事に気がついた。じっとりと手の中に汗をかきながら、そろりそろりと杖の方まで歩いて行くネギ。まず杖を持っていないと話にもならない。子供用練習杖程度でなんとかなる相手だとは限らないのだ。

 ゆっくり、ゆっくり。布団の中に居るナニかを刺激しないように杖の側まで行った、その瞬間。バタンと扉が開く音がした。とっさにそちらの方を振り返れば、出入り口のドアに人影一つ。逆光でよく見えないけれども、あの輪郭は――――

「夕映、さん?」

「ネギ先生?」

 夕映の方もまさかここにネギが居るとは思わなかったのだろう。呆気にとられた顔をしてネギを見返している。

「あ、あの、夕映さん? 何故ここに?」

「あ、いや、その、実はここでのどかが寝てて……」

 しどろもどろに返事をしながら布団に視線を向ける夕映。ネギがその視線をたぐるように見てみれば、そこには先程人の気配がした布団。

 一応杖を持ってその布団の側まで行ってみれば、確かにそこには安らかな寝息を立てているのどかの姿が。

「なぜここにのどかさんが?」

「あ~、いや、それは、えっとですね。とりあえずのどかを起こしますのでちょっと待って下さい」

 ネギの疑問から逃れつつ、のどかの側に行き揺すって起こそうとする夕映。

「ほら、起きてのどか。ネギ先生が来たですよ」

「う、う~ん。ネギせんせー?」

 フラフラとしながら体を起こし、ネギを見るのどか。そんなのどかを真正面から見るネギ。途端、ぼふんと顔が真っ赤になる二人。

「あわわわわ、ネネネ、ネギ先生っ!?」

「ははは、はい。ネギですっ!!」

(あうううう、どどどどどどどどどどどど、どーしよー!!??)

(あうえいうおいえあ! ででで、でもいつまでも返事を先延ばしに出来ないし、やっぱりここはちゃんと……!)

 先に立ち直ったのはネギだった。大きく深呼吸を一回、二回。そうしてからようやく、冷静にのどかの顔を真正面から見直す。

「あの……お昼のことなんですけど…………」

「えっ……?

 い、いえっ! あのことはいいんです…………! 聞いてもらえただけでっ!!」

 顔を真っ赤にして慌てるのどかを前にして、ネギは自分の心の中を再確認する。それは、大部分を申し訳ないという感情で占める心。

「すいません、のどかさん…………。

 ぼ、僕……まだ、誰かを好きになるとか…………よくわからなくて。いえっ……もちろんのどかさんのコトは好きです。

 で、でも僕、クラスの皆のコトが好きだし、アスナさんやこのかさん、いいんちょさんやバカレンジャーの皆さんも、その、そーゆー好きで……あ、それにあの、やっぱり先生と生徒だし…………」

「い、いえ……あの……そんな、先生――」

 まごまごとしたネギ達に、ちょっとだけ呆れ顔の夕映。けれどもその顔も次のネギの言葉で変わる。

「だから僕、のどかさんにちゃんとしたお返事は出来ないんですけど……。

 あの、友達から……お友達から始めませんか?」

「…………はいっ!」

 ほんの僅かな時間、ネギの言葉を理解する時間を置いて。満面の笑みで返事をするのどか。

(……そうですね、これがフツーの反応でしょう、まだ10歳なんですから)

 後ろの方で夕映がどこかつまらなそうな、残念なような、ほっとしたような。そんな顔で不思議ジュースを飲んでいる。

 この流れだとキスをする訳にもいかないだろうとどこか諦め気味な夕映だった。

「それじゃあ、部屋まで送っていきますよ」

「はい。ありがとうございます、ネギせんせー」

 そんな夕映に気がつかず、紳士な笑みを浮かべたネギが布団から体を起こしただけののどかに手を差し伸べる。のどかもちょっとだけ顔を赤くしながらおずおずとその手を取り、ネギに引かれるように体を起こしていく。

「コォラ、ネギ! 何してんのよ!!」

 

 スパン ズル ムチュ

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 どこかで『パクティオー!』とか言う声が聞こえた気がする。

 いきなりドアを開けて乗り込んできたアスナ。その怒声に力の抜けたネギがのどかの方に倒れ込んで、そのまま布団に押し倒すように。更にしっかりとその唇は重なりあって。

「な、ななななななななな……! なにしてんのよネギ坊主ーー!!」

「ひー! すいませんアスナさん!!」

「何しているのかはお前もだ、神楽坂」

 ピシィとアスナは石化する。ギギギと変な擬音をたてながら後ろを振り返ればそこには――

「ひぃぃぃ! ににに、新田先生ーー!?」

「神楽坂、ロビーで正座してこい! それから綾瀬に宮崎、ネギ先生もです!!」

「「「「ははは、はいーー!!」」」」

 転がるように部屋から飛び出してロビーへ向かう四人。

 ただネギが新田先生の側を通る時、ボソっとした声がネギの耳に届いてきた。

「暗くてよく見えませんでしたからね。それから、そういう事はならべく他人にバレないように」

 

「うあちゃー、結構捕まっちゃってるねー」

「どどど、どうしましょうかパルさん? もう部屋に戻た方がよかったりするんでしょうか?」

「う~ん。ここまで来て逃げるのも悲しいなぁ。だいたいみんなの狙いはネギ君だから仕方ないとしても、横っちは最初っから狙い目だから逃げるのもしゃくだし」

 いつでも逃げられるように、自班の部屋の前で作戦会議をしているパルとおキヌ。さっきから連続した叫び声と、新田先生の名前を呼ぶ声を聞く限り、もうほとんどの参加者と、ついでにネギも捕まってしまったらしい。それについてはネギがターゲットではない彼女らには別に問題はないが、流石にここまで来てしまうと横島を見つける前に新田先生に見つかってしまいそうだ。行くべきか引くべきか。うんうんとうなって考えている、と。

「あれ? パルにおキヌちゃん。部屋の前で何してるの?」

 瓢箪から駒が出てきた。

「あ、あれ? 横島さん、ここでなにしてるんですか?」

「あー、そのな、さっきなんか俺らの部屋にちょっと不思議な事があったんだよ。だからちょっと見回りに」

 パルが居る為、少し話をぼかして伝える横島。その言葉にピンと来るおキヌ。

「ああ、そういう事ですか。はい、このかさんは大丈夫ですよ。今は一班の部屋に居たと思います」

「つか、そもそも横っちが見回ったら逆に危なくね?」

「おーけーブラザーパル。その言葉は俺の心を深く抉ったぜちくしょー!!」

 体操座りをして滂沱の涙を流す横島。そんな横島を見て、あっはっはと笑う悪魔なパル。と、そこで横島は変な事実に気がつく。

「……って、ちょっと待て。じゃあさっきのアレはなんだ?」

「アレってなにさ?」

「え~と、なんか知らんが、寝てたらいきなりエルボードロップが降ってきた」

「「…………」」

 反応に困るおキヌとパル。一歩間違えればただの変な人だ。いや、確かに横島は十分に変な人ではあるのだけど。

「絶句するのは分かる。だが、事実だ」

「あ、うん。反応に困る希少な体験だね、それ」

「そ、それで横島さん、怪我とかは大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫。すぐに治ったから」

 実際、美神にしてやられた方がダメージは圧倒的にデカかったりする。

「それで、誰が攻撃してきたのか分かる?」

「いや、分からん。すぐに逃げ出したから」

 パルの言葉に横島はそう返答する。対してパルはそろそろかな、とか思い始めていた。彼女たちは横島と雑談する為にここに居るのではない。横島の唇を奪う為にここにいるのだから。

「さて。それじゃあそろそろかな」

「そろそろってなに?」

 横島の疑問に答えず、パルは二歩後ろに下がり、代わりにおキヌの背中を押して一歩前に出させる。

「?」

「あああああ、あの、パルさん?」

「さささ、おキヌちゃん、遠慮なくいっちゃいなさい!!」

 んっふっふ笑いを零しながら、おキヌと横島の様子を楽しげに見守るパル。そんなパルの様子に顔を真っ赤にしながら横島へと向き直るおキヌ。

「よ、横島さん!」

「ん? どしたのおキヌちゃん? 改まって?」

「あああ、あの、その、この、どの、あれは何でしょうか?」

「あれって……蛍光灯じゃないの?」

「じゃああれは!?」

「消火器」

「じゃあこれはっ!?」

「…………壁? という答えを期待してるの?」

「ですよね! それじゃあ私はそろそろ寝ますのでお休みなさい横島さん!!」

「? ああ、お休みおキヌちゃん」

 しゅたっと挨拶をして自分の部屋に引っ込もうとするおキヌ。その服をがっしりと掴んで止めるのはパル。

「ちょい待ちおキヌちゃん。結局何もしてないよ?」

「あわわわ、無理、やっぱり私には無理ですよパルさん! 今日はもういいですから離して下さいぃ~~!!」

 涙目でジタバタ暴れるおキヌだがパルの拘束からは逃れられない。そして横島は訳の分からない展開に首を傾げる事しか出来ない。

 おキヌの余りの取り乱しっぷりに、やれやれと首を振るパル。

「分かった。おキヌちゃん、とりあえず落ち着こうか。別におキヌちゃんは何もしなくていいから、ちょっと落ち着いてそこで待ってて」

「……へ?」

 てっきり無理矢理にでもしろと言われるかと思っていたおキヌは、逃亡の消極的肯定をするパルに毒気を抜かれてきょとんとしてしまう。その隙にパルは横島の側まで行って、両手を合わせて一言。

「そんじゃ、いきます」

「へ?」

 ぶちゅると。そんな変な擬音をたてながら口を合わせるパル。

「「っ!?!?!?!?!?!?!?!?!」」

 そして全力でパニくる横島とおキヌ。そんなおキヌの様子を横目で確認したパルは、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべておキヌを挑発的に見やる。

 その視線に嫌な予感がしたおキヌだが、もう遅い。

「むぐぅ!?」

 その感触に、横島は思わず変な声が出てしまう。

(舌、舌が入ってきた!!)

 貪るように抉るように吸うように、横島の口内を蹂躙するパルの舌。そしてやがてちゅぽんと口を離すパル。

 放心状態の横島を放っておキヌの側に戻ったパルは、赤くなったり青くなったりするおキヌに勝ち誇ってバカにしたような笑みを向ける。

「ふふふ。じゃあおキヌちゃん、部屋に戻ろっか~?」

 そんな嘲った声におキヌの理性がプチンと切れた。パルの思うつぼである。

 つかつかつかと怒気を隠さずに横島の側まで歩いて行くおキヌ。その圧迫感にようやく横島の正気が戻った。

 おキヌのふくれっ面に、横島の頭の中で警鐘がなる。これはヤバイと、ヤバ過ぎると。怒った顔で殴るのはまだいい。だが、拗ねた顔かコロス笑みはマジでまずいと横島はその経験上からよく知っている。

「あ、あの、おキヌちゃ――」

 横島の言葉は最後まで言えなかった。思いっきり頬を両手で掴まれると、顔を引っ張られる。おキヌの顔が近づく。唇が、合わさる。

 おキヌのキス。無理矢理、奪うように。しかも舌が入ってくる。

 さっきのパルとは違い、口の中にぶつけるように。蠱惑的なそれではないけれど、いや蠱惑的でない分、真っ向からぶつかってくるような舌。

 しかしそのキスはやがて終わり、銀の橋をかけながら唇が離れていく。

 完全に放心状態になった横島に、ほんのりと桜色に染まったおキヌ。そしてどこまでも上機嫌なパル。

「あっはっは。やったねおキヌちゃん! 君ならやると思っていた!!」

「……同じじゃないですか」

「ん~? どうしたのかナおキヌちゃん?」

「一回じゃ、パルさんと同じじゃないですか」

「へ?」

 おキヌの言葉に目を丸くするパル。パルが言葉を理解するよりも、おキヌの行動の方が早かった。

 放心状態の横島に、もう一度深く唇を合わせる。

 もう一度奪うように舌を入れる。

 もう一度、妖艶な銀の橋がかかる。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………はふぅ」

「ちょ、おキヌちゃーん!?」

 自分の中の何かが壊れたらしいおキヌが意識を失って、呆気に取られていたパルがその体を抱きとめる。横島は未だに自分の身起こった事に理解が追いつかず、放心し続けていた。

 

 

 

「へくし」

 可愛いくしゃみが夜空に響く。

「ううう、寒い」

 来ない襲撃者を一段階上の警戒心で見張る士郎。今日一番の貧乏くじは彼かも知れない。

 

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