二組六人の異世界人   作:117

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3章 11話

 青空の下、声高らかに復讐を誓う。

 

 

 

 その朝、3―Aのテンションは大きく二つに分かれていた。

 その一角。一般人組の中心で、パルがパクティオーカードを掲げて勝ち誇っている。

「ふはははは! このパル様に敗北の二文字は無いぃぃぃ!!」

「結局豪華賞品GET出来たのは三人だけか~。っていうか三人とも5班で図書館島探検部なのはそーいう事なのか!?」

「ふふふ、このパル様直伝の必勝法がはまったのさ!!」

「アホな事言ってないでハルナはいい加減落ち着くです」

 調子にのるパルを醒めた視線でバカにする夕映。一方でのどかはファーストキス記念にもなるそのカードは大事そうに――

「本屋の絵が描いてある」

「あー、スゴイ! これは欲しかったなー」

「ラブラブキッス成績上位者にふさわしいねー」

 ――大事そうに、他人に回し見させていた。NOと言えない日本人であるのどかはカードを手に取らせてという要望を断りきれなかったらしい。渡りに渡って、パクティオーカードはこのかの元に。

 そしてそのこのかはというと、パクティオーカードを手に取って涙目で悔しがっている。

「キスするとこのカード貰えるんやな。ウチも参加すれば良かった~」

「このかさん」

 結構マジで言うこのかに対してたしなめるように言う夕映。しかしこのかの占いグッズ好きはその程度でめげる訳もなく。

「別にネギ君とじゃなくてもよかったやん。横島先生か、衛宮先生でも」

「いえ、ネギ先生ならともかくとして、このかが横島先生か衛宮先生とキスするのはちょっと洒落にならないと思うのですよ」

 冷や汗混じりでそう口にする夕映。確かに別ベクトルだが、あの二人とこのかのキスはまずい。片方は本気になりそうだし、もう片方は援助交際にしか見えないだろう。パルと横島くらい軽いノリならば冗談ですむかも知れないけど。

 そんな風にワイワイと騒がしい3―Aたちだったが、しずな先生が登場した事によってその騒がしさもお終いに向かう。

「はいはい皆さん。今日、三日目は完全自由行動日よ。部屋に戻って準備してねー」

「ハーーイ」

「あれ、アスナやおキヌちゃん達は?」

「ちょっと先生方と話があるって言っていたですよ。私たちは先に準備をしてしまいましょう」

「私たちも切嗣君待たなくちゃいけないしね」

「んん? 切嗣君って誰ー?」

「衛宮先生のイトコー。結構カッコイイよー」

「お菓子もおごってくれるですー」

「いい人ですー」

「へえ、一班はいいよねー。ウチの班はバゼットさんが居るからさ。悪い人じゃないんだけど肩がこっちゃって」

「凝る程胸ないじゃん、夏美は。那波さんならともかく」

「ゆーなひどっ!!」

 女三人寄れば姦しいというが、この人数が集まったのならなんと表現すればいいのやら。

 そしてこの騒がしさとは対極に、自販機がある休憩所の前に集まっていた魔法関係組はうって変わって通夜のような静けさが満ち満ちていた。

 主犯である朝倉とカモは正座。消極的ながらも昨日のゲームを認めてしまったバゼットや、止める為とはいえどもゲームに参加して特に何も成果が出せなかったり裏目ってしまったアスナや刹那、ネギに横島におキヌはうなだれてしまっている。そして唯一殺気に近い怒気を撒き散らせているのは士郎。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 士郎は怒りに任せて怒鳴りつけるような性格をしていない。だがしかし、それ故の沈黙がここではとてつもなく痛い。だがそれも士郎が苦々しい顔で口を開いた事で終わる。

「朝倉はともかく、アルベール・カモミールが何を考えてこんな愚行をしたのか、極めて興味があるのだが……」

 状況と表情。それにそぐわない極めて平坦な声は、その場に対するそぐわなさという意味でかえって恐怖心を煽る。名指しされたカモは尚更に。

 少し視野を広げて見れば、朝倉がこういった行為に及んでしまった理由はなんとなく分かる。裏に関わったばかりならば面白半分やそれに準ずる感覚で他の者にちょっかいを出したくなるだろう。それは自分が秘密を知り他の者が知らないといった優越感を考えてみれば、さほど不思議な展開ではない。そこにトトカルチョで儲けられるという即物的な欲求がからめば尚更に。

 だからこそ、十分な説明と説得が重要なのだ。その責任ある役目に任せておけというカモに任せた結果、こうなってしまった。説得できないならばまだしも、一緒になって神秘の漏洩をするとは想像をはるかに超える愚行。士郎でなくても頭を抱えたくなる。

 しかし朝倉に魔法がバレた原因を考えてみれば士郎にも責任があるし、もっと広義的な責任を問うならばカモに任せたここにいる全員に責任があると言える。もちろん実行犯であるカモの責任が一番重い事には違いは無いが。

「だ、だってよ、衛宮の兄貴! 関西呪術協会の妨害がこれから激しくなる事を考えれば仮契約をして戦力を増やした方が――……」

 士郎から発される殺気の大きさにカモの言葉が尻すぼみになっていく。士郎は士郎で、そこに一般人を巻き込んでどうすると怒鳴りつけるのを抑えるので精いっぱいだ。一般人を巻き込む事はゲスのやる事だと自分で言っておいて、こんな行為に及ぶ精神構造はもう理解の範疇外にあるといっても過言ではない。

 人々を守る為に魔術を使いまくってきた士郎だが、最低限の心得として一般人にバレないようにと細心の注意を払ってきたというのに。カモとそして朝倉に関してはもっとキッチリ神秘の隠匿について教え込まなくてはならないだろう。

 とにかく、今はいちいち丁寧にそんな事を教え込んでいる暇はない。班別行動の開始時間が迫ってきている。

「まあ、今はそれについて追及している時間は無い。今は宮崎と早乙女に魔法の事に一切関わらせないというだけに落ち着けるしかないだろうな」

 絞り出すように言う士郎。それと同時に弛緩していく空気に、ようやく全員が一息つけた。

 士郎は今『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を使うかどうか真剣に悩んでいるが、あれも殺傷能力はナイフ程度しかないとはいえ、言い換えればナイフ程度はあるという事だ。それをなんの落ち度のない14歳の少女に突き立てるのは流石に気が引ける。妙なところで良心の呵責と戦っている辺り、士郎のズレっぷりもなかなかのものだ。

 話は戦力確認へと移っていく。確かにカモは神秘の隠匿という意味で下策極まりない手段を使ってしまったといえ、今ここに昨日とは違う戦力が加わったのは事実。その確認を怠る訳にはいかない。

「とりあえずアスナの姐さん、カードのコピーを渡しとくぜ」

「えー、そんなのいらないわよ。どーせ通信が出来るだけなんでしょ?」

 どこからともなくカードを取り出すカモだが、それに顔をしかめるアスナ。正直、自分の絵柄が入ったファンタジーなカードを持つ趣味なんてアスナにはない。

 だがしかしカモはカードの有用性を力説する。

「ちがうって! 兄貴がいなくても道具だけ出せるんだよ! ぜってー役に立つって!!

 出し方は簡単、持って『来たれ(アデアット)』って言うだけ。ほら、試しにやってみて!」

「え~~? やだなぁ」

 明らかにやる気のない様子で、しぶしぶとカードを受け取るアスナ。それでもしっかりとカードを持って呪文を唱えると、光と共にカードが一昨日に見たハリセンへと変わる。

「すごい! 手品に使える!!」

「神楽坂、君まで神秘を積極的に漏洩するつもりか?」

 思わずはしゃいだアスナだったが、いつも以上に堅い士郎の言葉にすぐにうなだれてしまう。一応、その後のカモのしまう時の説明はちゃんと聞いていたようだったが。

 それはさておき、カモは残りの五枚のカードを手早く横島とおキヌに渡してしまう。それぞれのオリジナルカードにコピーカード、それからパルのオリジナルカードだ。

「なあカモ。これって俺たちも使えるのか?」

「もちろん。横島の兄貴もおキヌの嬢ちゃんもアデアットって呪文を唱えさえすれば使えるはずだぜ。絵にちゃんとアーティファクトが描いてあるだろ?」

「いえ。私のカードには弓が描いてありますけど、横島さんのカードには何も書いてないですよ」

「は?」

 おキヌは自分に配られた横島のオリジナルカードを見ながら言う。横島も自分のコピーカードを穴が空く程見ている辺り、アーティファクトを見つけられないのだろう。

 周りの人間も覗き込むようにカードを見るが、確かに横島のカードには赤いバンダナを巻いたラフな横島が変なビー玉を持っていたり、手からライトセイバー染みた光の剣を出したりしているが、それ以外に際立った変化は無さそうだ。

「このビー玉みたいなのは違うのですか?」

「ああ、こっちは別口」

 バゼットが当然の疑問を口にするが、横島はそうとだけ口にする。ちなみに彼は別に文珠の能力を隠そうとした訳ではなく、ただ単に今の話題にそぐわないから端折っただけだったりする。もしもここでもう一歩突っ込んだ説明を求められれば、戸惑いなく味方である全員にその異常性を説明をしただろう。だがしかし元執行者であったバゼットはそう捉えずに、気軽に自分の手札を明かす訳がないと判断してそれ以上の追及をしなかった。そんな心情の違いはさておいて、話は進んでいく。

 次に横島たちが着目したのはおキヌのカード。こっちにはしっかりとアーティファクトが描かれている。巫女装束を着たおキヌが持っている小さな弓、恐らくそれがアーティファクトなのだろう。するとますます横島のアーティファクトが描かれていないのが気になる。

 と、そこでネギが思い出したように士郎を見る。

「そう言えば士郎さんのカードにもアーティファクトって描かれてなかったですよね?」

「ん、ああ。私のアーティファクトはそういう能力だからな」

 こちらもさらりという士郎だが、彼は横島と違ってこれ以上の説明をする気はまるでないようだ。それを感じ取ってか、ネギは詳しく知りたそうな顔をしつつもあっさりと引き下がる。

 対して士郎はカードに描かれた絵と文字を暗記していた。無いとは思うが、万が一カードを偽造された時の手がかりとなる為である。正しい情報はあっても困る事は、基本的にない。

 おキヌのカード番号は0。特性は愛。星は月。方位は北。色は白。称号は『聖愚なる闇巫女』。アーティファクト名、無矢弓。

 横島のカード番号はⅡ。特性は希望。星は彗星。方位は西。色は無色。称号は『太極を孕む男』。アーティファクト名、心象指輪。

(ん?)

 横島のアーティファクト名は心象指輪。それを確認してから、改めてよくそのカードを絵柄を見つめる。

「……………………あった」

「え? 何がですか?」

「忠夫のアーティファクト。ビー玉を持っている方の手の、中指」

 士郎の指摘に全員がそこに着目する。そこでようやくその小さな指輪に気がついた。

「……あ」

「ホントだ」

「気づくかんなもん!」

 確かにこれを即座に見つけろという方が酷だろう。誰に文句を言っても仕方のない話ではあるのだろうけれど。

「まあまあ、これでとりあえずアーティファクトは見つかったって訳さ。一度アデアットしてみねえかい?」

 ざっくばらんに言うカモに、横島とおキヌは互いに頷き合う。

 そしてまずはおキヌから呪文を唱えてアーティファクトを召喚。カードの代わりに小さめの和弓が現れる。

「わー、すごい。ホントに出てきた!」

「そりゃ出てこないと問題だろうよ」

「……相変わらず非常識ですね、アーティファクトというのは」

 バゼットのみ、余りに元居た世界とのギャップが大きい為か、どうにもこの現象には慣れないらしい。

 それはともかくとして他のメンバーは魔法のように(というかある意味魔法そのものではるのだが)現れた弓に夢中だ。それを手に持っているおキヌは梓の触感を楽しんだり、イタズラに弦を引いたりしている。

 だがしかしそれもやがて弓に必須の物が用意されていない事で、段々と不満げなものへと変わっていく。そう、このアーティファクトには弓に付き物のはずの矢が存在していないのだ。

 困ったようにそれを指摘するのはもちろん所有者であるおキヌ。

「これ、矢はどうするんでしょうか?」

「別個で用意するとか?」

「今すぐ矢なんて準備出来ないけどな」

 首を傾げ合うが、そこでやはりというか口を挟むのは士郎。彼とて弓も使い、矢共々投影で創り出す事を得意とする。弓や銃は確かに遠距離から攻撃できる優れた武器であるが、それには弾数という制限がある。まさかアーティファクトであるのにその致命的とも言える弱点をカバーしていないとは、普通は思えない。

「氷室、試しにその弓に魔力を送ってみろ」

「え?」

 唐突な言葉に一瞬反応出来なかったおキヌだが、士郎はそれに気分を害する事もなく言葉を繰り返す。

「弓に魔力を送ってみるんだ」

「魔力、ですか? うーん……」

 魔力と言われてもおキヌには魔力に関する扱いの慣れがない。仕方なく慣れた霊力を送ってみる。するとその変化は劇的だった。

 弓が光り、送られた霊力が収束し、不定形の矢となって弓に番えられる。

「おお、成程。そういう仕組みか。こりゃ即戦力になるんじゃねーかな?」

 うんうんと頷くカモ。ここまでくれば流石に察しはつく。魔力や霊力といった物を送り込めばそれを矢とする事が出来るアーティファクトなのだろう。

 そこまでおキヌが理解した時、

「あ」

「え?」

 気が抜けて、力が抜けた。思わず矢から指を離してしまうおキヌ。その先には朝倉の姿が。

 殺気もないその余りにも予想外過ぎる行動に、誰も反応出来ない。弓から飛びでた矢は朝倉へと向かい――

 

 ポスン♪

 

 ――可愛らしい音を立てて床に刺さった。推定飛距離、50cm。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………ちなみに氷室、弓矢を扱った事は?」

「…………全くありません」

「…………助かったけど、こりゃ使えないね」

「…………前言撤回だなこりゃ」

 ため息と共にカモが呟いた言葉が虚しく響いた。

 だがいつまでもそうしている訳にもいかない。自然、視線は横島へと集まっていく。その視線の期待通りに横島はアデアットと呪文を唱える。

 光と共にカードが変わる。それはやがて小さな指輪へと収束し、横島の中指へ。

「……で、これはどういった能力があるんだ、士郎?」

「私が知るか。というか忠夫、なぜ真っ先に私に話をふる? 魔法に詳しいカモかネギ君に聞くのが妥当じゃないか?」

「いやだってお前、すぐにおキヌちゃんのアーティファクトの効果見抜いたじゃねーか」

「たまたまだ」

 益体もない会話が終わる。剣とかだったら適当に振ったり切ったりすれば効果が現れるのだろうが、指輪となると今一つ効果が分かりづらくて困る。

 だが一般的に考えて指輪を始めとした装飾品の魔具と云えば、能力の強化や補助といった物が普通だ。攻撃した時に威力を増やしたり、攻撃を受けた時に威力を軽減したり、他に例えば足が早くなったり。

 そう思い至ったのはバゼット。その事を口にしようとした瞬間、

「うぉ!?」

 ぐにょぐにょと、変に有機的な動きをしながら心象指輪が蠢きだした。明らかにありえない体積増加を伴いながら指輪は形を変えていき、そして――

「アホかぁ!!」

「ぷろ!?」

 ――素晴らしいプロポーションを持った美女の像へと変化した。しかも全裸で。当然の如くバゼットの鉄拳制裁が横島の顔面へと突き刺さる。

「…………み、美神さん」

 ちなみにその像の面影に心当たりのあり過ぎるおキヌは思いっきり顔を引き攣らせている。その他、アスナは軽蔑の視線を横島に向けているし、朝倉や刹那に士郎とネギは呆れ顔。カモだけはキラキラと瞳を輝かせているが、その心情を察するつもりは誰にもないだろう。

 全員が全員脱力している間にも、指輪から変化した像は艶かしいポーズを取り続けている。それが更に全員の気力を奪っていた。

「あー、死ぬかと思った」

「アンタはいっぺん死ぬべきじゃない?」

 棘のあり過ぎるアスナの言葉だが、言われた本人はなんのその。至ってケロっとしている。

「それで横島さん。どうしたら、その、あの、こういった事になったんですか?」

「それがよく分からん。さっきおキヌちゃんが弓に霊力を送っただろ? それと同じように魔力を送ってみたら、なんかこうなった」

 卑猥な像を直視できず、顔を赤らめながらしどろもどろに問うネギ。対照的な横島は平然と答えているが、流石にこんなエロいアーティファクトがあっても困る。横島の性格的に絶対ないと言い切れないのが悲しい所ではあるのだが。

 だがしかし、このエロい像のモデルが美神という現実の女性だという事を知っているおキヌはなんとなーくこのアーティファクトの効果に察しがつきつつあった。例え本人があまり察したくないと思っていたとしても、察してしまった物は仕方がない。

「横島さん」

「どうかした、おキヌちゃん?」

「試しに元の指輪をイメージしてみてくれませんか?」

 唐突なおキヌの呼びかけに、首を傾げながらそれに従う横島。するとエロい像はみるみるうちに縮小し、指輪の形になって横島の指に収まる。

「おおお、すげぇ!!」

「……やっぱり。次は魔力を加えながら剣とかをイメージしてみて下さい」

 ここまで来ればおキヌの言いたい事はなんとなく察しがつく。ぐにょぐにょと蠢く金属は形を変えて剣となり、盾となり、横島の腕を覆うガンドレットにもなった。

 その様を見て、ネギが幼い頃に禁書庫で見た魔性金属(マジックメタル)の記述を思い出す。そしてポツリとその名前を口にした。

「魔力喰い(マナイーター)…………」

「なんですか、そのマナイーターというのは? 名前からして禍々しい気がしますけど」

 ネギの言葉を耳聡く聞きつけたのは刹那。彼女は西洋魔術には詳しくなく、ネギの呟いた言葉に心当たりなんて存在しなかった。

 そして聞かれたネギはといえば、目を閉じて自分の中の記憶に埋没し、昔に一度だけ読んだその記述の内容を掘り起こしている。

「魔性金属(マジックメタル)の中でも特に希少な金属です。魔力喰いの名前の通り貪欲なまでに魔力を吸収し、その魔力に籠った思念そのままに形を変えると言われています。

 そのほとんどは国家に所属し、残留魔力を喰らわせて難事件の手がかりを掴んだりするのが主な使い道だったはずです。ごく稀に富豪の好事家か所有していたりするそうですが。

 後は……確か、とてつもなく軽く硬い金属だったはず、です」

「つまり……」

「ええ。つまり、何も考えないで魔力を喰わせた結果ああいった像が出来たという事は、その――」

 言葉尻を濁すネギだが、いくら刹那であってもその先の言葉はなんとなく想像がつくというものだ。

 はしゃぐ横島を見てこっそりと、しかし深いため息が二つつかれていた。

 

 

 

 改めてだが。本日、24日は自由行動日である。

 もちろん班別に行動しなくてはいけないが、それでも自分たちでスケジュールを立てて自由に行動できるというのは、大きな楽しみの一つになる事は違いない。

 そして追加して明言しておくが、自由行動なのは生徒だけである。これが『修学』旅行である以上、生徒たちの行動は全て学業の一環であり、教職につく者達は最終日に解散するまで仕事であるというお題目が確かにある。実際彼らはホテルで万が一の生徒たちの連絡を待ったり、その際に関してすぐに動けるようにしておかなくてはならない。自分勝手に動く生徒たちを統率出来ない自由行動日というのは、教職につく人間にとって鬼門に他ならない。万が一の事態がいくつも重なった時、いくら人手があっても足りると断言できる事は決してないからだ。

「はぁ……。緊張するなぁ」

「今から緊張していても仕方ないさね、気楽にいこうぜ、兄貴」

 だから青空の元、オコジョと気楽に話している親書を携えた子供先生という図は色々な意味で普通に考えて存在するはずもないのだが、何故かここに存在していたりする。

 理由は簡単、まだ若い教職ならば自由行動日には仕事の免除を新田先生が黙認を出してくれていたから。今日の教職の役目は緊急事態への対処だけだからと、折角京都に来たのに仕事だけだと可哀そうという理由で。職務放棄以外の何物でもないが、理性と感情は別物である。普段来れないような遠い土地に来たのならば羽の一つや二つ伸ばしたくなるのが人情であり、その辺りの感情もしっかりと汲んでくれた成果である。

 以上の理由により、ネギだけでなく横島や士郎、バゼットまでも今日明日は自由行動を黙認されている。まあ彼らは彼らで遊びという名目で護衛任務についているのだから、楽をしているという訳でもないのだが。

「それにしてもアスナさんにおキヌさん、遅いなぁ……」

「まあまあ兄貴、女の支度には時間がかかるってもんさ。じっくりと待つのが男の甲斐性ってもんじゃねぇかな?」

 自由行動日は今日明日。まだ明日があるとはいえ、まさか自分から状況をギリギリにする訳にもいかない。そんな訳で親書を運ぶ決行日は今日にして、メンバーはネギにアスナにおキヌ。さらわれかけたこのかの護衛力が低下するのでおキヌは一緒に居て欲しいと刹那がしぶっていたが、親書を届ける事も大切には違いない。結局刹那が折れる羽目になった。

 それで今、ネギとカモはアスナとおキヌが5班を抜けだしてくるのを待っている最中なのである。

「ネ~ギ先生♪」

「え?」

 と、そこでボーとしていたネギに声がかけられた。少なくともアスナやおキヌの声ではない。

 何事かと首を傾げながら振り返ってみれば、そこには私服姿での5班と横島が勢ぞろい。いや、何故か刹那だけはベストを脱いだ制服姿なのだが、そこは置いておく。各々がラフで動きやすく、それでいて自分の魅力を高める事を目的とした可愛らしい服装だった。巫女姿のおキヌを除いて。

 そこでネギの目がいったのは申し訳なさそうな顔をしているおキヌと、ゴメ~ンと言いたそうにジュスチャーで謝っているアスナ。そして何か諦めたような顔をしている横島。

「わあ~~っ! 皆さんかわいいお洋服ですねー」

(…………じゃなくて!! なな、何で5班全員が勢ぞろいしているんですか~~っ!?)

(ゴメン、パルに見つかっちゃのよー)

(恐るべしだな、ブラザーパル……)

(予定がいきなり狂っちゃいましたね~)

 一瞬パニくって素の反応をしてしまったネギだが、そりゃいきなり予定外の人間がドンときたなら慌てもする。あんまりにも慌てていたせいで、のどかの手にアーティファクトが握られている事も見落とす位だ。

 気がつかなかったものは仕方なく、話はそれに触れられる事なく進んでいく。

 目ざとくパルはネギの手に握られている物に気がついた。色どりに溢れた上質の紙は間違いなく地図であり、つまりそれはネギに目的地があるだろう事を示している。そうとなればパルの行動は一つだけである。すなわち、便乗。

「ネギ先生、そんな地図もってどっか行くんでしょー? 私達も連れてってよー」

「い、いえ。これは、その……行く場所を今から探していたので、どこに行くって決めていた訳ではないんですよ! 5班は自由行動の予定に沿って行動して下さい!!」

 とっさにしてはなかなかの嘘をつく事に成功したネギ。だが5班の返事はその更に上を行く。

「5班には自由行動の予定はないです。強いて言えば、テキトーにぶらつく予定ですね」

「ネギくんに予定ないならよかったなー。一緒に回ろ、ネギ君♪」

 夕映とこのかのコンボ炸裂。まさかこんな好意100%のお誘いを断る訳にはいかない。そもそも断ったとしてもアスナとおキヌが一緒になって抜け出さなくては戦力に不安がある。仕方なくネギは5班に合流する事になってしまった。

「よっしゃー! んじゃ、レッツゴー!!」

 パルの号令で移動を開始する一行。

 と、言っても予定がある訳でもなく。あてもなくそこら辺をぶらつくのが関の山。関の山なのだが、そこは流石に京都。ただぶらつくだけでも古都としての町並みが広がる、普段とは違う世界が目に映ってくる。

「わー。宿の近くもすごくいい所なんですねー♪」

「はい。嵐山、嵯峨野は紅葉の名所も多いので、秋に来るのもいいですよ」

 広がる世界を目の当たりにして、感嘆の声をあげるのは他でもないネギ。そして補足するのは夕映。

 そうしてまったりと歩いている一行だが、別行動をしなくてはいけない焦りというのは確実に存在する。

(ど、どうしましょう。アスナさん?)

(うーん。ちょっと騒がしい所に入ってまくしかないかなー)

 その焦りをパートナーであるアスナに相談し、アスナもこれはマズイと本格的に脱出案を検討し始める。だがその姿は傍から見れば、いちゃついているように見えなくもない。

 外から見るパル。ラブ臭が……するような、しなような。ぶっちゃけよく分からない。こういう時は直球、ドストレートに限る

「………………ねえ、アスナ。ちょっと聞いていい?」

「ん? 何よパル?」

「…………あんた、ネギ先生とつきあってないよねぇ?」

 ズルっと滑ったアスナがドゴシャと道端にあった信楽焼きのたぬきに頭突きをかます。ちなみに何故信楽焼きのたぬきがその辺にあるのかは謎だ。

「なにぃ! ネギ坊主、お前アスナちゃんとつきあっていたのか!? そうなのか、パルっ!!!!????」

「なんで横島さんはそんなに喰いつきがいいんですか……」

「やー、それが分からないからちょいと直球で聞いてみたんだけど」

 あまりの喰いつきの良さに逆にパルの方が引き気味だ。

 そして横島のノリでは、もしかしたら間違ったら、このままネギの彼女認定されてしまうかもしれない。アスナとしてはそれだけは絶対に避けなくてはいけない結末だ。

 アスナの頭突きを見て魔法で治そうかどうかをアワワと悩んでいるネギを引っ掴み、そのままズイとみんなの目の前に突き出す。

「そんなことある訳ないでしょ! まだ10歳なのよこの坊主はー!!」

「ご……ごめん。そーだよね。まあフツーは小学五年生とかやってる年だもんねー」

 一般的な女学生(かどうかは異論の余地があろうが)に抱えられる程度の大きさであるという事を強調しつつ、思いっきり大声でパルと横島の言葉を全否定するアスナ。

 アスナの気迫に曖昧に頷きながらも、しかしやはり普通に考えていたら小学5年生と中学3年生のカップルは珍しいを通り超えて、どっかの名家で許嫁を結ばれたとかいった方が現実味がありそうな線だ。

 そんな風に下らない雑談をしながらも先を歩く一行。その眼前にゲームセンターが見えてきて、ニヤリと笑いを浮かべるパル。

「ホラ、あっちにゲーセンあるから記念に京都のプリクラ撮ろうよ。

 のどかも! 変な本の表紙とか見てないでとっとと行くよー! ネギ先生とプリクラ撮りたくないのー?」

「あ、え……。ネギ先生とプリクラ……?」

 パルの言葉に思わず赤面してしまうのどか。ニヤリと笑うパルはのどかの手を取ってゲーセンに向かって一直線。

 そんな二人を見たこのかはおずおずと刹那へと向き直り、控えめな、捨てられそうな小犬の目で刹那を見て、その白い手を差し出した。

「せっちゃん……。あのな、うちらも一緒にプリクラ、撮らへん?」

「あ、いえ。私は…………」

「刹那さーん。このかさんの事、嫌いだったらはっきりと嫌いって言って断った方がいいよ」

 どうしたものかと迷った隙に外野からそんなおキヌの声が聞こえてくる。そんな事を言われてしまったら、断るという事はこのかの事を嫌いだと言っている事に他ならなくなってしまう。まさか刹那に嘘でもこのかが嫌いだなんて、言える筈がない。

 うなだれながら刹那はこのかの手を取る以外の選択肢はなく。手を取られたこのかがパァーと太陽のような笑みを浮かべた。……こんな笑みが見られるならまあいいかと思ってしまう辺り、刹那も実は何かを色々と諦めているのかもしれない。

 そして絶妙のフォローを入れたおキヌはといえば、

「横島さん、私達も一緒にプリクラ撮りませんか?」

「お、いいね。みんなで撮るか!」

 横島を誘って、良いのか悪いのか分からない成果をあげたりしている。そして残されたネギとアスナと夕映が後ろからゆっくりと追いかけている。

「…………」

「…………」

「…………」

 三人の間に会話は、特にない。

 

 様々な組み合わせでプリクラをとり、音ゲーをやり、パズルゲームをやって、クレーンゲーム。そして今、一行はカードゲームのアーケード版をプレイしていたりする。

「はーはっは! 甘い、甘いぞネギ坊主!! 例え天才子供先生だろーが、ゲームの横ちゃんと言われた俺にその程度の腕で勝てると思っているのかぁぁぁぁぁ!!」

「ぅぅぅぅ――」

「え、えげつな……」

「横島さん、相手はまだ子供なんですから……」

 そこで周りが引く位に調子に乗った横島は、ゲームで子供を涙目にさせている。比喩ではなくて、目尻に涙がのった、いいんちょに見せられない系の涙目だ。

 ちなみにここに来るまでに横島はプリクラでは体を寄せるついでにセクハラまがいの事をしてパルとおキヌに制裁を受け、音ゲーでは人生のどこに生かしているんだと言わんばかりの音感とリズム感で全国11位のスコアを叩きだし、パズルゲームにおいてはパルと熱戦を繰り広げたあげくに自爆して、とどめのクレーンゲームでは賞品を取り過ぎて逆に邪魔だと店員に返却してたりしている。

 完全に護衛としての本分を忘れているノリの横島だが、それがパルや夕映、このかをゲームに熱中させてネギ達が抜けだしやすくする隙を作っている辺り、なにがどう役に立つのか分からないものだ。

「つかさ、俺もこのゲーム初めてなのに、俺の強さよりもネギ坊主の方に同情票がいくのはどういう訳だよ?」

「そりゃ問答無用でネギくんの方が可愛らしいし」

「それ以前に横島さんのテンションの上げ方は見苦しいです」

「いくらなんでも大人げなさすぎますから」

「童心に返った大人全否定かよっ!?」

 パル、夕映、おキヌのゲーム外からの三連コンボで今度は横島が涙目に。

 まあ、港で赤い人が童心に返った時や、ミニ四駆で童心に返った男共と。例を思い返せば童心に返った男がそういった反応をされるのはきっと世界の摂理なのだろう。

 グスグスとうっとしい泣き声を出しながら問答無用でネギをボコボコにしている辺り、タチが悪い。

「やるな、兄ちゃん」

 ギャラリーの中から声があがる。横島くらいの年齢の男がカードデッキを片手にゆっくりと近づいてきていた。本人はかっこいいと思っているかもしれないが、一歩引いて見るとただのナルシストにしか見えない。

 そのナルシストは終わったゲーム場面を見て、そしてからゲーム機に座っているネギと横島を見定めるように視線を浴びせる。

「なるほどなるほど。ネギ=スプリングフィールド君に横島忠夫君やな?

 どや、いっちょ俺とどっちか勝負せんか?」

「ふ、その勝負、この横島忠夫が受けて立つぜ!」

「くっくっく。そのノリがどこまで続くかな? 関西にその人ありと謳われた俺に勝てるモンなら勝ってみやがれ東京モン!!」

 そう言ってノリよくゲーム機に座り、持っているカードデッキを機械に読み取らさせていく。やがて出てきた名前、それを見て夕映が戦慄した。

「な! ま、まさか高山宗!? あ、あの高山宗なのですかっ!?」

「知っているのかゆえ吉!?」

「ええ。関西地方大会で4年連続ベスト4に入る猛者の名前です。入れ替わりの激しいこの世界において4年も上位に残り続ける辛苦は言うまでもなく、その論理的な戦術眼はこの私さえも認める所!

 それよりなにより高山宗と言えば2年前の全国大会優勝者にて去年の全国大会3位! 決勝よりも準決勝の方が圧倒的に支持率が高かったあの戦いにおいて、序盤に大きな劣勢をしかれたのにも関わらず最後まで諦めずあわや逆転寸前までいったあの手腕は雑誌4ページ分の特集を組まれるのにふさわしいものでした!」

「うんまあ、知ってるけどね」

「か、語りますね、綾瀬さん……」

 ノリよく言ったパルに更にノリまくった夕映、そして完全において行かれた刹那が呆気にとられて語りまくる夕映を見ていた。

 そうこうしている間に横島と全国的な有名人のゲームが始まり、白熱した戦いに他のギャラリーも目が釘付けだ。既にトトカルチョまで始まってしまっている。

 そしてその隙はネギとアスナ、おキヌにとっては待ちわびたもの。お互いにお互いが頷き合い、その空気を感じ取った刹那が彼らに視線を向けた。

 アイコンタクト。

 

 親書を届けに行きます。後の事は刹那さん、よろしくお願いしますね。

 暴走した横島先生を抑える自信がないので、やっぱりおキヌさんは残って貰えません?

 ……いざとなれば殴ればいいですから。多分それで正気に戻ります。

 ……古い電化製品じゃないだから。

 

 下手にアイコンタクトなんてしなければよかった。4人の頭に冷や汗が流れつつ、こっそりとゲームセンターを後にする4人。

(…………? ネギせんせーにアスナさんにおキヌさん? どこ行くんだろー……?

 この本で覗き見たりしたら…………やっぱりダメだよね?)

 そう、4人である。親書を届けに動いた3人に一般人であるはずののどかがこっそりとついていく。先の事に気を取られた3人が彼女に気がつかなかったのは、吉となるのか凶となるのか。

 それはともかく、勇気を出したのどかの冒険は始まったばかりである。

 

 

 

 人が入らないような薄汚い路地裏。しかしそうでなくてもそこは人払いの結界が張られているので、一般人は入ってこれないようになっている。だがそっちの方が一般人にとって幸せな事だろう。細いとはいえども車がちゃんと通れるようなその道を塞ぐように、異形の悪魔が佇んでいるのだから。

 そこに居る人間は5人。白髪学ランの少年、帽子を被ったやんちゃそうな少年、ゴスロリ服を着て刀を2本携えた少女、動きやすくアレンジした巫女装束をキッチリと着込んで長刀を帯びている女性、そして煽情的な和服を艶かしく着こなしている女性。

『なるほどなるほど。ネギ=スプリングフィールド君に横島忠夫君やな?

 どや、いっちょ俺とどっちか勝負せんか?』

 その煽情的な女性、千草の手に握られた音声機から声が流れてくる。ややノイズがまじったりしているが、声として認識するのにはなんの支障もない。

 聞こえてきたその単語を聞いて千草の顔が暗い愉悦に歪んだ。一昨日の夜、10かそこらの少年に呑まされた煮え湯の痛みは彼女の心にしっかりと残っている。

「くっくっく。タダのガキじゃあらへんと思っていたけどやはりあのサウザンドマスターの息子やったか。今までの時のカリはキッチリ返させてもらうえ」

 グシャリと音を立てて千草の手の中の機械が壊れる。

 握り潰されて煙をあげる機械。その破片で傷つけられ流れている血だが、千草はそんな事は気にも留めない。

 ただ、側に控えていた巫女服姿の女性は違った。真っ白な布を取り出し、血を流す千草の掌をいたわるようにその布を巻いていく。

 そんな女性の所作を、なんの感慨もなさそうに見やる千草。そしてやがて治療が終わるとようやく口を開いた。

「しっかし、戦闘能力だけの契約でここまで機転が利くのを雇えたのは嬉しい誤算やったな。

 高山はんも魔力に頼らないで向こうの情報を聞き出してくれるし、梢はんもすぐに作戦を立案してくれる。いや、うちの立場がないわ」

「ただそれだけで世界を渡れる程の強さを私は持ち合わせていませんので。それは高山も同じです。かのサウザントマスター程度の実力さえあればよかったのですが」

「それは高望みを飛び越えて理想ってもんや。ただ、値段に見合う実力は持っているやろ?」

「ええ、それは勿論です。依頼の最終確認ですが、仕事は要注意人物である3人の足どめだけで構わないのですね?」

「ああ、それで構わへん。後の仕事は全部こっちでやるわ」

「了解です。神鳴流の妙技、ご覧に入れましょう」

 梢と呼ばれたその女性は力強く剣の鞘を握りしめる。

 ミシと、小さく不吉に木が悲鳴をあげた。

 

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