二組六人の異世界人   作:117

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3章 13話

 幼さ故の無謀。そうでなければ、気が付けない事もある。

 

 

 

「たぁぁぁぁぁ!!」

 スパンとアスナがハリセンで大蜘蛛を引っぱたく。すると空気が抜かれていく風船のように式神の大蜘蛛は体積を減らしていき、やがて消えた。

「やった、3匹目!」

「ひーん、いいからアスナさん、助けて下さいー」

「あ」

 ガッツポーズを決めているアスナだったが、向こうでは元気のいい大蜘蛛に追いかけまわされているおキヌの姿が。彼女の得意なのはヒーリングとネクロマンサーの笛、それからアーティファクトとして手に入れた無矢弓である。無矢弓が使い物にならないので、ネクロマンサーの笛が無効な相手に対しておキヌは攻撃手段を持っていないのだ。

 だがアスナがおキヌに辿り着く前に、おキヌと大蜘蛛の間に小柄な影が入りこむ。それは小さな体の、杖を持った魔法使い。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。

 光の精霊23柱。魔法の射手、連弾・光の23矢!」

 ネギの杖の先から光の矢がいくつも飛び出し、大蜘蛛に叩きつけられた。無駄に大きく俊敏性のないその体ではその23のサギタ・マギカを一つさえかわす事は出来ず、全てがその体に吸い込まれる。

 23の打撃を喰らった大蜘蛛はひっくり返り、そのまま動かなくなる。そしてぼやけるようにその体が薄くなっていき、やがて一枚の紙に姿を変えた。灰は灰に、塵は塵に。心ない式神は紙切れに。それが世界の法則。

「……ようやく倒せましたね」

「はい。でも私、なんの役にも立てませんでした」

 しょんぼりとするおキヌ。だが今はフォローとかをしている場合ではない。ここの結界をなんとかしなければ、親書を届けるどころかここで朽ちていくしかないかもしれないのだ。

「早くさっきの男の子を――小太郎とか言った、あのガキんちょを見つけてこのハリセンでドツかないと……」

「はっはっ、俺を探す必要はないでハリセンの姉ちゃん。っていうかさりげなく恐い事言っとるな」

 小さい冷や汗をかきながら軽やかに、ネギたちの目の前に降り立ったのは件の少年、小太郎。

 そしてその腕の中には少女が一人、お姫様抱っこで恥ずかしいやらすごい勢いでここまで連れてこられて恐いやら。顔を真っ赤にして目を回しているのどかが抱えられていた。

「っ! のどかさ……!!」

「ちょっとガキんちょ! 本屋ちゃんをどうしたのよ!?」

「あ? いや別に何もしとらんがな。第一俺は女を殴る趣味はないしな。

 見ての通り、怪我一つ――うぉ!? 気ぃ失っとる!?」

 今改めて目を向けて見たら目を回して気絶していたのどかに、むしろ一番驚いていたのは小太郎だったりする。意識のないのどかに一気にボルテージをあげていくネギとアスナ。

 普通に考えれば一般人を高速で振り回せばこうなるのは当然だが、のどかの事を魔法関係者と勘違いした小太郎にそこまで求めるのは酷な話だろう。計算違いにネギたちの怒りを煽ってしまった小太郎だが、少し考えてこれでもいいかと納得してしまう。

「ま、ええわ。この姉ちゃんを届けるのは言い訳やったしな」

「……どういう事ですか?」

 眦を吊り上げたおキヌに対してヘラヘラと笑いながら答えを返す。

「や~、一応俺はあんたらをこの結界から出さないような命令を受けてるんやけどな。その為に結界内を逃げ回るなんて格好悪いやん。けど勝手に依頼主の命令を無視する訳にもいかんし、第一弱々な西洋魔法使いと戦ってもそこまで楽しそうじゃなさそうやし――――」

 小太郎のバカにした言葉にカチンとくるネギだが、あえて反論はしない。

 そんなネギを見て小太郎はますますネギを見下し、バカにする。

「――――それでこのお姉ちゃんを届ける口実にいっちょ揉んでやろうかなとか思ったんやけど。無駄やな、ここまで挑発されても言い返さん奴とやったっておもろないわ」

 言いたい放題言う小太郎。そしてのどかを道に寝かせるとくるりと堂々とネギたちに背を向ける。まるで後ろから攻撃されても全く問題ないと言わんばかりに。いや、それならばまだいい方で、もしかしたら後ろから攻撃する度胸もないだろうと挑発しているのかもしれない。

「は、この調子やとお前の親父のサウザンドなんとかいうのも腰ぬけやったんやろな。あーあ、何が大戦の英雄の息子やねん。期待させんなや、ホンマ」

 ブチンと、ネギは自分の頭の中の何かが切れた音が気がした。人は俗にそれを堪忍袋の緒という。

 明らかに様子の変わったネギに、アスナとおキヌがやや引きつった顔をしてネギを見る。が、ブチ切れたネギにはそれを気にする余裕はない。

 そして小太郎はというと、カツカツと石畳に音を響かせながら歩いてネギたちから離れていく。走りさる事すらしない。

「僕の名前はネギ・スプリングフィールド」

「――ほぉ」

 低いネギの声。それに小太郎は足を止めて振り返る、その顔に獰猛な笑みを張り付けて。

「君の名前は?」

「名乗られたら名乗り返さなアカンな。犬上小太郎や」

 その言葉に視線を強くしたネギは持った杖を小太郎に突き付ける。

「犬上小太郎。君は僕のみならず、西洋魔法使、いや僕の父さんを侮辱した」

 いったん言葉を切り、そうしてネギは深く息を吸い込んでから、その言葉とそして言葉以上の怒りを込めた視線を叩きつけた。

「決闘を申し込む!」

「はっ、それこそ男ってもんや。いいで、ボッコボコにしてやるわ!!」

 ヒートアップする男二人にこれはまずいと顔を見合わせるアスナにおキヌ、ちびせつなにカモ。完全に頭に血が上っているし、何より相性が悪い。

 一昨日の夜に見せたこの少年の素早さと攻撃力を見る限り、恐らく前衛の戦士型。対してネギはガチガチの後衛の魔法使い型。サシの勝負では余りに分が悪い。

 そしてそういった部分で一番黙っていられない性格をしているのがハリセンを携えたバカレッドである。

「えーい! なに二人して盛り上がってるのよ。私だってネギのパートナーなんだから、少し役に立つ事くらい出来るんだから!!」

「姉ちゃん、女やんか。第一これは男と男の決闘やで?」

「決闘ならアスナの姐さんが参加する資格があるな。なんせ姐さんは兄貴の従者だ、言わば兄貴の剣であり盾でもある。まさか道具に資格がないとかいうんじゃねーだろうな?」

 ニヤリと悪徳笑いをしつつ人権を無視した言葉を放つカモ。一応名言しておくが、これは詭弁八百、小動物の理論なんて全く通るはずがない。

 だがしかしアスナは全く引く気はないようである。何か言おうとしたネギの気配を察してギロリと睨みつける始末だ。とは言ってもネギだってここで引く訳にはいかない。そもそもネギだってアスナを戦いに巻き込む事は不本意な事なのだ。

「アスナさん、お言葉嬉しいですが、アスナさんにはのどかさんの事を――」

「のどかさんの事なら私に任せて下さい。そもそも私はネギ先生の従者ではないですし、戦いに参加する義理もありませんですしね」

 相変わらず絶妙のタイミングで割って入るのはおキヌ。そう言ったおキヌはまるで小太郎が敵ではないかのように彼のすぐ傍まで行き、横で目を回しているのどかの様子を診る。

「――よかった。本当にのどかさんは目を回しているだけみたいです」

「当然やろ。男が女を殴る訳ないやん」

 そう言った小太郎は改めてネギとアスナを見る。ネギはどうしようかとうろたえているし、アスナは絶対に引かないと強い瞳で訴えてきている。

 小太郎の口から嘆息が漏れた。ガチでやれないのは悔しいが、まあこれもある意味で仕方のない事なのかも知れない。下手にアスナをまいたとしても、決闘の最中に乱入してこないとも限らない。

 素直に小太郎は諦める事にした。

「ええで、二人がかりで。この先に広場があるから、そっちでやろうか」

「よっしゃ、そうこなくっちゃ!」

 ガッツポーズをするアスナだが、ネギとしては申し訳ないやらなんと言えばいいのやら。だがネギの方がアスナの側に長い間いるだけあってほぼ確信に近く感じ取っている。

 すなわち、アスナは決闘参加を認めなければ絶対乱入してくるだろうと。だがそれをアスナのワガママと取るのではなく、自分がアスナを危険に巻き込んでしまったと取るのはやはり彼が内罰的な性格だからだろう。

「すいません、アスナさん危険な事に……」

「なーに言ってんの! これはあたしが選んだ事なんだから、あんたが気に病む事なんかないのよ!!」

 ウィンクをしながらネギの背中を思いっきりバチンと叩くアスナ。彼女が全く負い目に思っていないのにネギが引け目を感じているのは話の流れ的に色々と間違っている。

 それはともかくとして小太郎はネギたちに背を向けて歩き出す。それに追従するのはネギにアスナ、そしてネギの肩に乗ったカモ。おキヌとちびせつなはこの場に残ってのどかの事を見ていなければならない。

「…………おキヌさん、のどかさんの事をお願いします」

「はい、のどかさんの事は心配しないで下さい。それよりネギ先生、気をつけて。彼、どこか普通の人とは違う気配がしますので」

「え?」

「おっ。袴の姉ちゃん、なかなか鋭いやん」

 そう言って小太郎は帽子を取る。そこにはぴょこんと犬耳が。それを見て呆気にとられるのはつい先日まで一般人であったアスナ。

「…………は?」

「――狗族!!」

「正解や、式神の姉ちゃん。俺は狗族のハーフや。そこんそこらの人間と一緒にしない方がええで」

「なるほど。狼男みたいなもんか。そら油断ならないわな」

 またバケモノか。そう思ったアスナだったが、流石にこんな小さい子供を捕まえてバケモノ呼ばわりする程ヒドイ人間ではないつもりだ。

 非現実についていけなくなりつつ、けれどもなんだかんだいって順応し始めている自分。疲れた顔で頭を振るのは、仕方がないかも知れない。

 

「……はら?」

「あ、起きました?」

 ネギたちが立ち去ってってからほんの少しの時間が経って。ちょっとだけ腫れぼったい目をこすりながら目を覚ましたのどか。

 ドカカカカと遠くも近くもなさそうな場所で破壊音が響いてくる。

「あ、おキヌさん。おはようございます」

「のどかさんもおはようございます。どこか痛いところはないですか?」

 たあー、とか。そんなもんかい、とか。熱血バトルに欠かせない声が届けられて。

「痛いところですか? いえ、特にないですけど」

「そうですか。それはよかったです」

 いちおう自分の体を確認しつつ答えるのどかににっこりと微笑みながら声を返すおキヌ。

 らすてるますきるとかなんとかそんな一般人には訳の分からない、けれどもとても聞き覚えのある――――

「あ! ネ、ネギせんせーは!?」

 ――――ようやく何かを思い出したらしい。

「ネギ先生ですか? あっちですよ?」

 そしてネギたちが戦っている、戦場のような爆音が聞こえてくる方向をなんのためらいもなく指さすおキヌ。

 のどかはというとその言葉を聞いた瞬間から即座に、彼女なりにではあるが、飛び起きて向かうのどか。

 だがただ単にそれを見逃すおキヌではない。走り出そうとしたのどかの肩をつかまえる。

「待って下さい!」

「は、離して下さい~! ネギ先生が、ネギ先生が大変なんです!!」

「お尻と背中に砂がついちゃってますよ。今まで地面に横になっていたんですから」

「はな、はなー……へ?」

「ちょっと脇腹の方にもついていますね。ちゃんと払わないと」

 呆けるのどかを無視してぱっぱっとのどかの服についた砂を払っていくおキヌ。

 そして一通り払い終えるとむしろ自分が率先して戦場に向かって歩き出す始末。

「あの、えっと、おキヌさん?」

「どうしたんですか? 行かないんですか?」

「いえ、行きます。行きます、けどー……」

 ちなみに小太郎を相手にしてのどかはもちろんとして、おキヌさえもロクな戦力になれるとは考えにくい。

 結論として。のどかを預けた人物をどこかで間違えてしまったのかもしれない。

 

 一方でネギの方の戦いは芳しくない。

「オラオラオラ! そんなもんかいな西洋魔術師!!」

「くっ! ラステル・マスキル――」

「ったるいわぁ!!」

 始動キーの段階で腹を殴打され、吹き飛んでいくネギ。

 木や鳥居までも足場に利用した三次元的な動きで広場を文字通りに動きまわる小太郎に触れるどころか、その影を見るだけで精一杯といった風情である。現に今も障壁が抜かれなかったこそ衝撃に耐えきれずに吹き飛んでいくしかない。この戦いだけでもう4回目の出来事だ。

「たぁー!」

「おっと、あぶなーあぶなー」

「ええい、ちょこまかと!!」

 それも小太郎に向かってハリセンを振り回してくるアスナに対して一切の危害を加えないで、だ。かわしいなし時には受け止めて。実質的に小太郎にもアスナにも傷らしい傷は存在しない。ダメージを蓄積していくのはただネギのみ。

 されとてネギもただ殴られているという訳にはいかない。なにしろこれで都合4回目。なんの策も思い浮かばないようでは天才少年の名が泣く。

 吹き飛ばされて木に体を打ちつけられる。一応ある程度障壁が衝撃を軽減してくれるとはいえ、ネギの体はまだ10歳のそれなのだ。それに今回は障壁に回す魔力を少なくしたから衝撃も一層酷い。

「――ッ。マ、ギステ、ル! サギタ・マギカ、セリ、エル・フルグラーリ、ス!!」

 それは策と呼ぶよりかはむしろ根性論に根差したものといったものに近かったが。

 呪文を唱え、更に魔力を構築して魔法に至るには集中力が必要なのだ。故にその最中で外部からの衝撃で集中力が乱されてしまうと魔力の構築が上手くいかないで魔法にまで成らない。

 だがしかし魔法を使って接近戦を挑む人間もいるように、攻撃される事を覚悟してしまえば集中力を掻き乱される事もなくなる。もちろん覚悟に脳のメモリーを割いてしまう為に複雑な魔法は使いにくくなるが、今はこれで十分。

 木に体を打ちつけられたネギはその体が地面に落ちるよりも早く魔法を発動して雷の矢を小太郎に向かわせる。

「んなっ!?」

 びっくりしたのは小太郎だ。キャンセルしたと思った魔法が向ってくるのである。とっさに袖口から千草から預かった札で防御出来たのは彼の戦闘経験の多さと、そして狗族としての俊敏性のおかげだろう。

 バジジという不快な音と共に札が弾けるが、しかしそれでも小太郎にネギの魔法は届かない。まだ彼の持つ札には余裕がある。軽くそれを確認して安心する小太郎。

(今程度の魔法だったら後2~3回は防げそうな感じやな。けどま、あんな一回限りの奇襲なんてもうくらわへんけど)

 客観的に見ても正しい判断を下し、そして少し血ののぼった頭をあげて木に寄りかかるネギを見やる。

 それと同時。

 スパンという音。ほんのわずかに衝撃。消えていく帽子の感覚。

「……――あ」

「や、やったー!!」

 アスナの歓声を聞くまでもなく現状を理解する小太郎。

 魔法を喰らってしまい足を止めてしまった自分。常人をはるかに超える脚力に加えて魔力供給をされたアスナ。

 まさかと思って木に体を預けるネギを見ればその口元には笑みが。

 そう。ネギたちにとっては一瞬で、一撃でよかったのだ。帽子を破壊すればこの結界から脱出でき、帽子を破壊するにはアスナの持つハリセンで一回叩けばいい。更に小回りはともかくとして小太郎に一瞬で追いつく脚力を持っているアスナは、本当に一瞬でも小太郎が止まれば一撃を加えられる。その隙をつくる為だけに攻撃を覚悟してくらい、木にぶつかりながらも尚魔法を使う事を止めようとしなかったネギ。

(っっっーー! やってくれるやないか!!)

 見下していた相手の掌の上で踊らされていた事実、というか戦いに気を取られて相手の勝利条件を見誤っていた自分自身。それが小太郎に激情からくる力を与えた。更に同時、冷静な部分から爆発する歓喜も。

 小賢しい。少しはやる。いっぱい喰わされた。その張本人であるネギを、力一杯ドツく!! 少しは力を認めた人間の、更に自分はその上をいく!!

「帽子が壊れてもお前が先に進めないほどボロボロなら――っていうか親書が灰になったら関係ないわなぁ!?」

 今度不意を突かれた、というよりも油断をしたのはアスナだった。帽子を壊し、結界を壊したと思った事でガッツポーズまで決める始末。元々一般人であった彼女に求めるのは酷かもしれないが、勝って兜の緒を締めよという言葉もある。少なくとも全くと言っていいほどダメージのない小太郎を無視していい訳がない。

 瞬間で爆発したように飛び出した小太郎にアスナは全く反応出来ないで見送る事しか出来ない。あっと言う間にネギに肉薄する小太郎。

「――ビカンス」

「あ?」

 閃光、衝撃、麻痺、熱傷。つまりは電撃。見えるネギの顔、ドヤ顔。同時に理解。

 油断していたのは、アスナだけだった。ネギはアスナが帽子を破壊した時に、場合によってはそれ以前から小太郎を戦闘不能状態にする為の魔法を構築していた。ネギが木に寄りかかっていたのはダメージもあるだろうがそれだけではない。万が一にも背後から小太郎から攻撃される事を嫌った為、更には移動する時間も惜しかった為。即座に正面に魔法を放つ為。

 ネギには小太郎の動きを見きって魔法を当てるだけの力はない。だがしかし真正面から突っ込んでくると分かっていればそこに魔法を打ちだすだけでいい。

 カウンターの要領で『白き雷』を喰らってしまった小太郎は手持ちの防御札を貫通して僅かに体を硬直させる。

 防御札越しの威力なんてたかが知れている、がしかしこの一瞬だけは僅かな電撃に加えて予想外の反撃の為に動きが止まっている。

 故にこの一瞬が勝負。

「契約執行0.5秒(シム・イプセ・パルス・ペル・セクンダム・デイーミデイアム)ネギ・スプリングフィールド(ネギウス・スプリングフイエルデース)」

 蹴り、あげる!

 意図せずして浮かされた空中では為す術はない。ネギは一瞬の隙を使い、一回の時間へと繋げる。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル」

 どこか他人事のように、呆然と眼下で呪文を唱えるネギを見る小太郎。反射的に袖口を探るが紙の感触はない。

 空を見上げるネギ。何が起きたのか分からない、真っさらな顔で自分を見る小太郎。その瞳に映る自分の顔も無感情でどこか笑えた。逆転の一手がこうも鮮やかに決まるというのに。

「闇夜を切り裂く一条の光(ウヌース・フルゴス・コンキデンス・ノクテム)我が手に宿りて敵を喰らえ(イン・メア・マヌー・エンス・イニミークス・エダツト)」

 ははっ。そう小太郎は笑う。

 ふふっ。そうネギは笑う。

「白き雷(フルグラテイオー・アルビカンス)!!!!」

 防御札で守られていない小太郎の全身を、白き雷は確実に焼く。

 

「あ、が、く……」

 狗族という人種に呆れればいいのだろうか。白き雷は決して弱い呪文ではないのに、ほとんど気で守られていない体で受け止めて死なないどころか意識を保ち、尚立ち上がろうとしている。

 だが彼の肉体ではそこが限界らしい。動こうとするがしかし、電撃のせいかダメージのせいか。震え蠢くだけで精一杯。

 そんな小太郎の側にネギは毅然と歩みより、立つ。そして万感の思いで、言う。

「どうだ! これが西洋魔術師(ぼく)の力だ」

 その言葉を聞いてなるほどと納得する。確かに魔法使いは隙が多い、代償に一撃の威力と射程距離は洒落にならない。

 それを補う為の手段である従者が小太郎には影からこそこそと狙い撃つ軟弱者に見えたのだが、なんて事はない。彼らにとって従者は仲間であり、酷い言い方をすれば手段の一つである。決して自分が安全地帯に引きこもっている訳ではなく、必要ならば自分の命さえ囮に使って反撃の足掛かりとする。

 冷徹で合理的、しかし仲間を思う温かさもある。そのやっかいさは裏に住む小太郎だからこそ熟知しているとも言える。

 認めよう。彼らは強者、ならば必要なのは寝転がる事ではない。

「た…ただの人間に、ここまでやられたのは、初めてや。

 …………軟弱いうのは、取り消すで、ネギ・スプリングフィールド」

 ネギの強さは認めた。だが、小太郎は自分が弱者と認めた訳ではない。否、その程度では言葉が軽い。認められる訳がない。力が全ての裏の世界で自分が弱者だと、認められる訳がない。

 ベキゴキゴキンと骨格の変わる音がする。ザワリと髪が逆立ち色が変わる。ビリと体に巻きつく布を破り捨てる。

 獣化。狗族の血が濃い彼に許されたその能力は多大なエネルギーを代償として身体能力を強化させる。

「ええ~っ。何よそれーー!?」

 思わずアスナが叫び声をあげてしまう変化っぷりであるが、それに小太郎が付き合う義理はない。より正しくは余裕がない。

 ただでさえ消費が激しい状態だというのに、先の白き雷が予想以上に体を蝕んでいる。長くは持たない。

「いくでぇ!」

 瞬間。ネギには何が起きたのか分からなかった。アスナは目で追うことは出来たが反応は出来なかった。

 数メートルは離れた場所にいた小太郎。陳腐な表現をすればいつの間にかといった言葉が使えるだろう。ネギとアスナの間の石畳が爆裂した。その衝撃波だけでコミカルに引き飛ぶアスナ。反射的にそちらの方を向いてしまえばそこにはバランスを崩した小太郎の姿が。どうやら凄まじい速度と思った以上のダメージのせいで自分でも制御が利かなかったらしい。

 だがしかし小太郎は理解した。全力で動いては体がついてこないが、5割前後ならばなんとか制御できるだろうと。今のネギの反応を見れば半分程度の速度でも対応される事はまずない。逆に制御しきれない速度で動く方が隙を生じさせてしまう。

 そう判断してからは早かった。即座にネギの左に回りこむが影すら見えていないらしく、彼は右の方向を見てしまう。

 ガラ空きになったその背中に一撃。獣化している分攻撃力は段違いにあがっているが、ネギも最初の接近でそれを理解していたらしい。障壁の力強さも先ほどと段違いだ。攻撃に回すほどの余裕がないのか、守ればいつか小太郎が自滅すると踏んでいるのか。どちらにせよ守りに回ったネギは小太郎にとってサンドバッグに等しい。その身の体力が尽きるまで殴りたい放題だ。

「なんやなんや、守るだけかい西洋魔法使い! さっき胸を張って言ったお前の力はどこへいった!?」

「ぐ、あぐ、うぐぐ……」

 一気に形勢が変わってしまった事を誰よりも理解していたのはひっくり返されてしまったネギの方だ。確かに一時的に能力を倍増できるような効果があれば最初っから積極的に使うのが普通、それをしなかったのはネギがなめられていたという事もあるだろうが、何よりそれなりのデメリットがあると考えるのが当然だ。

 少しあせったような攻撃の仕方といい、恐らくはガス欠までの時間が早くなってしまったり、または獣化している時間に比例して体に反動がくるというタイプのものなのだろうが、しかし小太郎のそれを待つよりも早くネギの魔力が枯渇してしまいそうだ。拳や膝など攻撃する場所のみに気を集めればいい小太郎と違って、どこに攻撃が来るか全く予測できないネギには全方位に魔力障壁を張って耐えるしかない。なにせ下手に一撃でも攻撃を通してしまえばそれで勝負どころか自分の人生が終わってしまいそうな攻撃の雨なのだ。

(な、なにか。なにか手は……)

 反撃をしようにもどこに攻撃が来るのか分からない。元々圧倒的に速度の面で負けているというのに、ガムシャラに反撃したところであたる事はない。

 それに恐らく反撃できるのは一度が限度。攻撃に魔力を割いてしまえば次の小太郎の反撃が耐えられるはずもないし、そもそも警戒した小太郎に攻撃が当たるとも思えない。あせって自分の攻撃に没頭している今こそが最後の好機。

 だが。

(なにか、なにか、なにか、なにか!)

 そんな余りに勝率の低過ぎる賭けに自分の命を乗せられるはずもない。結果、ネギはただ小太郎の攻撃に耐えるのみだ。漫然と云う言葉で表現するには早すぎる魔力の消費量を自覚してはいるが、だからといって覚悟を決めるというのも余りに無謀。

 何かが欲しい。ほんの少しでいい、自分の勝率をあげられる何かが。自分の命を賭けられる、その小さな勇気をくれる何かが。敗北を待つだけのこの状況をあがくための何かが!

 ガードしている腕がきしむ。見えない位置の背中に鈍痛。何かが見えたと思ったら額が後ろに押し戻される。震える足を後押しするように右足に衝撃。

 その中の、額。頭に攻撃をくらった時。それはもしかしたら一種の走馬灯のようなものだったのかも知れない。意識が飛びかけたような感覚を覚えたとき、唐突に頭から湧き上がってきたその情景。

 

 夜の大浴場、相手を殺そうと打ちあっている士郎とバゼット。

 

 あの時の2人は本気で相手を殺そうとしていた。首、心臓、頭。命中すれば致命となる部分をなんのためらいもなく攻撃していた。

 …………だが、それだけではない。確かな殺意があったというのに士郎の剣は速さを重視して足を狙い、バゼットの重みの感じられない拳は指を狙っていた事もあった。何故か? 簡単だ。実力が拮抗している者同士、小さな傷で膠着した戦いが決壊する事もある。つまり、削りだ。

 考える。今、小太郎は『削り』に来ていない。愚直に大きなダメージを与えられる攻撃しか行っていない。後一歩で倒せる敵を相手にして削る必要なんてない、そう考えているのかも知れないが、それはつまり小太郎の攻撃は全て全力で大ぶりであるという事も示している。

 ガードしている腕をすり抜けて腹につま先がめり込む。腰に響くようなダメージ。こめかみに鋭い痛み。足への一撃はガクンと膝を落とさせた。

(お腹、後ろ、頭、脚のローテーション)

 その油断は攻撃の順序にも表れている。夜の大浴場のような、いい意味での遊びが全くない。そして大振り。カウンターへの条件は完全に整っている。

 ほんの小さな勇気の灯が、ネギの心に宿った。確かに小太郎の攻撃は全く見えない。がしかし、何度も攻撃を受けたおかげでリズムは把握出来た。そして次の一撃がどこにくるかも分かれば――――

 脇腹に蹴り。歪んだ体を後押しするように肩に痛み。次は、頭。やるしかない。

「あああああああっっっっーーーーーー!!」

「なあっ!?」

 破れかぶれというには余りに唐突だった、小太郎の眼前に迫るその拳は。普通破れかぶれになる時は迷いの気配を見せ、それが大きくなって自分に負けたように飛び出してくる。だが最初に動揺の気配を見せたネギは、そのまま縮こまってしまった。我慢比べを選択したかと思ったが、違った。一撃を当てる為に体を丸めて力を蓄えてこの瞬間を待ち望んでいたのだ。しかもどうやって捕捉したのかは分からないがネギの拳は真っすぐに小太郎の顔面に向かってきている。拳の速度自体は遅いが小太郎が全力でネギに向かっているせいで、相対的に恐ろしいまでの速度を以てその拳は小太郎に迫ってきている。

 拳は止められない。もとより出しかけた拳をしまうのはプライドが許さない。だがこのままではネギの拳は確実に小太郎に一撃を与え、そして一撃でも喰らってしまえばダメージと疲労の積み重なったこの体、それだけで獣化が解けてダウンしかけない。

「なめ、」

 それら全てを理解して、小太郎は拳を残したまま体を捻る。無理な行動は肩関節からギチギチギチと不吉な音を響かせて、しかしそれでもネギへの攻撃は中止しない。自分は攻撃線上から体を逃がしていく。

「んなやぁぁぁぁーーーーーーー!!」

 無理に体を捻り過ぎた代償に小太郎の攻撃も逸れてしまう。顔の中心を狙ったはずの攻撃はあごを僅かにかするのみ。そしてネギの攻撃も薄く浅く小太郎のあごに当たる。

(勝った! 凌いだで、ネギ・スプリングフィールド!!)

 ネギの方を振り返る。地面に倒れていくネギが目に映る。後押しする必要はないが後一撃でも加えればそれが確かな止めになる。それにあんな中途半端な攻撃がこの勝負の終わりになるなんてつまらない事この上ない。

 そう思って足を踏み出す小太郎。踏み出そうとする小太郎。進まない足。疑問に思うと同時、揺れる世界。ひっくり返る世界。

 駆け寄って来るアスナの姿。のどかの姿、おキヌの姿。白いオコジョの姿。何が起こった、そう思うと同時。

 小太郎の意識は闇に落ちた。

 

 アスナの目にはその超速の攻防がしっかりと映されていた。また、心眼を与えられたおキヌにもその戦いは細部まで捕らえられていた。ただのどかだけがその速さに目がついていけず、影がネギを傷つけていくようにしか見えなかった。

 その戦いの結末は相打ちという形で終わった。互いの一撃があごに当たり、脳を揺らす。本来ならば意識を失うことはなかっただろうがしかし、今までのダメージの蓄積が大きすぎたのだろう。ネギも小太郎もそのまま立ち上がることは出来なかった。

「ネギッ!」

「ネギせんせー!!」

「ネギ先生!」

「ネギの兄貴っ!」

 敵である小太郎の事は眼中になく、3人と1匹は全員ともネギへと駆け寄る。

 満身創痍のネギを見てアスナは息を呑み、のどかは目尻に涙がたまっている。

「「ひどい……」」

 言葉にすればたったそれだけだが、それは限りなく重かった。お腹といわず脚といわず体全体に青あざをつくり、爪でやられたのか切り傷もあちらこちらに。特に顔の形はかなり変わってしまっており、全体の輪郭はもちろん瞼は腫れ上がって口からは鮮血を流している。たった10歳の少年に与えられる傷ではない。

 気の弱い人間ならば思わず顔を背けてしまいたくなるような惨状だが、意外にものどかはしっかりとネギの事を見つめていた。ボロボロになったとはいえ好意を寄せている少年である。痛く苦しい時だからこそ、尚更目をそらしてはいけない。

 そう。のどかは気弱な少女かもしれないが、決して弱い少女ではないのだ。

「大丈夫です」

 たった一人顔をしかめなかったのはおキヌ。ただし真剣な顔のまま、ネギの体を抱き寄せて、その小さな体を自分の体で覆うように包み込む。

 そしておキヌから溢れる温かく優しい光。それは意思を持ってネギの体に入り込むとみるみるうちに傷を癒していく。

「魔法障壁でしたっけ? それがちゃんと張られていたみたいですね。ぱっと見のダメージは多そうですけど、余り芯に響かない傷みたいです。これくらいなら私のヒーリングですぐに治りますから」

「そっか。おキヌの嬢ちゃんはヒーリングが得意だとか言ってたな。

 兄貴に意識がない今、おキヌの嬢ちゃんが居てくれて助かったぜ」

 安心出来る笑みを浮かべたおキヌを見てようやく安堵の息を吐くカモ。アスナとのどかはその言葉を聞いても心配そうだったが、あっという間に体の傷を治してネギが目を開けるとようやく型の力を抜く事が出来た。

「す、すみません。おキヌさん。ヒーリングをさせてしまって……」

「いいんですよ、ネギ先生。その為に一緒に来たんですから」

「それにアスナさんにのどかさん、カモ君にも心配かけてしまったみたいで」

「本当よ。心配かけさせないでよ、このガキンチョ!」

「と、とにかく大事がなくてよかったですー」

「ま、敵も倒せたし結果オーライってヤツよ」

 心配させられた事を怒るアスナに、体が治った事を喜ぶのどか。カモはタバコを吸いながら、とりあえず脅威が去った事で余裕を取り戻す。

 そんな彼らを見て、しかしネギの顔は浮かばない。何かを探すようにキョロキョロと見回して、アスナに対しておずおずと聞く。

「あの……」

「ん? どうしたのよネギ?」

「…………ちびせつなさんは?」

「「「あ」」」

 思わず声が揃ってしまうアスナにカモにおキヌ。そういえばさっきから姿を見ていない。のどかはなんの事か分からずにきょとんとしている。

「さ、最後に見たのは何時でしたっけ?」

「確かネギが決闘に行くとき、本屋ちゃんを治すのに残ったと思ったんだけど……」

「わ、私は見てないと思いますよー。

 ……たぶん。なんの事かよく分からないですけど……」

「ちびせつなさんはインパクトありますからね。のどかさんが見たら絶対覚えていると思うのですが、見覚えがないとなるとおキヌさんがのどかさんを治療するのに集中している間に消えてしまった事になるのでしょうか?」

「かも知れねーな。ああいう式紙っていうのはそれなりに集中力を使うものだし、もしかしたら敵に襲われて式紙を使う余裕もなくなったのかも……」

「えー! 大変じゃない!! 助けにいかなくちゃ!!」

「まあ待ちなってアスナの姐さん。向こうには横島の兄貴もいるし、ただこっちに集中している場合じゃなくなっただけかも知れねーじゃねぇか。そもそも今から戻ったりしたら俺っち達がなんの為に分かれてここまで来たのか分からなくなっちまう」

 わいわいとこれからの行動を言いあう一同。そんな中でおずおずと手をあげるおキヌ。

「あのー。私ならすぐに横島さんたちの様子を見る事が出来ますよ」

「? どうやってよ?」

 ここから遠く離れた場所の様子を探る事が出来るならばその方法を聞くのは当然だろう。

 だが敵に襲われている最中ならば携帯に出る可能性も低い。というか、その程度の方法は先程から試している。

 そしてその答えに斜め上の返答をするおキヌ。

「幽体離脱です」

「へ?」

 キョトンとなるみんなを尻目に、その場に横になるとスルリと服を脱ぐような気軽さで魂と肉体を分離させるおキヌ。魂の方に人魂が浮いている辺りが重くシュールだ。思考停止している面々の中で特にのどかが気絶してしまう位には。

「ああっ!? のどかさん、大丈夫ですかっ!?」

「いやいやいやいや!!?? そういうおキヌの嬢ちゃんが一番大丈夫かよっ!?」

「? 何がですか?」

「魂と肉体が離れている事とかですよ!」

「丸一日とか離れていると肉体が死んじゃうかもですけど、数時間なら全然大丈夫ですから」

 霊体がのどかの介抱をするという酷く現実感の無い光景を前にアスナは声すら出せずに引きつった顔で見る事しかできない。

 まあ、それが一般的な反応なのかもしれないけれども。

「う、う~ん……」

「あ、のどかさん。気が付きましたか」

「…………」

「…………」

 目覚めて、じっとおキヌの姿を見るのどか。足がない。半透明。人魂が浮いている。結論、幽霊である。おキヌが、知り合いの人間がである。

 パタンと気を失ってしまうのどか。

「ええっ!? なんでまた気を失ってっ!?」

「当たり前でしょーが! おキヌちゃんが幽体離脱をしている限りそうなるに決まってるじゃない! いいからアンタは早く体に戻りなさいよ!!」

「け、けどこの状態じゃないと横島さんたちの様子を見に行けませんし……」

「っていうかアスナさん、適応力がありますね」

「あり過ぎって位にな」

 既に何の違和感もなく幽霊状態のおキヌと漫才を繰り広げているアスナにちょっと離れたところで冷や汗を流しながら軽いツッコミを入れているネギとカモ。しかしかく言う彼らも魔法使いと喋るオコジョであり、何だかんだ言ってアスナは彼らにもあっさりと適応しているのである。彼女の適応能力の高さは今更過ぎるくらい今更かもしれない。

 ちなみに。のどかが起きておキヌの幽体を見て気絶するという天丼を二回ほど繰り返す事になる。意味の無いタイムロスは実に5分弱にも及んでしまった。

「と、とにかくおキヌさんは幽体離脱出来る不思議な能力があるんですねー?」

「あとは霊能力者だったり、何百年も前から幽霊と神様の間みたいな存在で生きていたり、ちょっと前に横島さんや美神さんに反魂の術で生き返らせて貰ったとかいう経歴がありますよ~」

「……とにかくおキヌさんは幽体離脱出来る不思議な能力があるんですねー?」

「あー。その認識でいいと思うわよ、本屋ちゃん」

 理解が及ばないのか理解する事を放棄したのか。話が進まないのでのどかの言葉をアスナが全面肯定する事でようやく話が進む。

 おキヌの現状を理解したのどかは全員に見えるように古く価値がありそうな本を掲げる。ネギはそれが契約カードに描かれていたアーティファクトだという事に即座に気が付いて息をのんだ。

「皆さんの事はだいたい理解していますー。実は朝、話を立ち聞きしてしまいまして…………」

 そうしてのどかはネギ達が班行動から離れたのを見つけてついてきた経緯、そして彼女が持つ本の能力を説明していく。

 呆れるやら驚くやらの感情を一通り出し、おキヌの持つアーティファクトの効果に特に目をつけたのはおキヌとカモだった。

「じゃあその能力で私の心を読みとって下さい。そうすればあちらの状況がダイレクトに伝わると思いますし」

「いやいや、その前にこのコタローとかいう奴から出来る限りの情報を取り出すべきじゃねぇか? こんなちびっこい奴でも敵の一員だし、それなりの情報を持ってるだろ?」

「時間が足りないかも知れません。まずは私が横島さん達の方に向かいます。新しい情報が手に入ったら私の肉体に言って下さい。なんとなく伝わるはずですから」

「おうよ、なんとなくっていうのがそこはかとなく不安だが。

 じゃあ俺っちたちはコタローの意識だけ戻して情報の取り出しだな」

 おキヌとカモの間で作戦がまとまっていく間にヒソヒソ話をするアスナとネギ。

(ねえ、ネギ。本屋ちゃんは巻き込まないんじゃなかったの? また衛宮先生が怒るわよ?)

(は、はい。覚悟の上です。でも、ここまで知られてしまったどのみち、ですし…………)

 そして少しだけ離れた所でぽっーとネギを見つめているキーパーソンのどか。

 

 もしも第三者が見ていたならば、とても不安になるであろう反撃開始の幕開けであった。

 

 

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