二組六人の異世界人   作:117

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0章 6話

 いかなる人との関わりでも、あらゆる物事に作用する。

 

 

 

「のおおおぉぉぉ!」

 小竜姫が弾き飛ばされて、おキヌと離れてしまった横島は1人異世界へと落ちていく。そして――

「ひでぶっ!」

 顔面着地。このお約束は大阪人の血ゆえだろう。そしてすぐに回復(リカバー)、辺りを見渡す。

「いててててて、……どこだここは?」

 そこは一種幻想の世界だった。横島の今いる所は真っ直ぐでない、カクカクとした渡り廊下。後ろを見れば大きな門が、前を見ればどこか西洋的・未来的なレンガ造りの建物に超有名なアニメの空に浮かぶ城のにあるようなテラスがついている。下を見れば水霧がたち込めて、上を見れば遥か彼方に無機物が自ら光を放っている。

「……マジでどこだ?」

 そういいつつも、とりあえず横島はイソイソと名残惜しそうに竜神の武具を外す。後遺症が出る前にと思って小竜姫に借り受けたそれを外したのだが。

「っ~~~~~!!!」

 少々遅かったらしい。体中に鈍い痛みがはしる。以前の美神程では無いが動きに支障が出るレベルだ。戦闘どころか逃走すら危うい、急激な動作が出来ない。だと言うのに。

 

 コツコツコツコツ

 

 足音。明らかに人のものであるそれは前方の建物から。しかし、音はするのに人の姿はない。

「だ、誰だ?」

 横島の震えた声に反応は無く、規則正しく横島に近づいてくる。

 

 コツコツコツコツ……

 

 やがてその足音は横島の目の前と思われる位置で止まり、そして――

「どちら様ですか?」

「ほぅわっ!」

 なぜか横島の真後ろから綺麗な声がした。慌てて後ろを見た横島の目に飛び込んできたのはゆったりとしたローブで体中を覆った……男?だった。

「あ、あんた。どうしてそこに?」

「どうしてとは心外ですね、ここは私の家です。あなたこそどうやってここに来たのですか?」

「んなもん俺が聞きたいわっ! って、そうじゃなくてどうして前から足音がしたのに後ろから声がかけられるんや!」

「あれ? あなたは出来ないのですか?」

「出来るかっ!」

「そうですか……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「で、あなたの名前は?」

「質問に答えんかい!」

 ズビシと横島は鋭いツッコミを入れるも、スカッと男?の体を通り抜けてしまう。と、同時に横島の体全体に鈍い痛みが。

「いてててて! つか、体通り抜けた! そして痛い、そして痛い、そして痛い!」

 自分の状態に関わらずツッコンでしまう関西人の血の性で悶える横島。

 男?はそれをハッハッハッと笑いながら見下ろす。

「この体は幽霊みたいなモノですからねぇ。ところで痛みはそのアーティファクトの副作用ですか?」

 ちらりと男?の視線が竜神の武具へ向かう。痛みに悶えつつも横島は首を縦に振った。

「それはそれは……」

 男?は心底気の毒そうな声で。

「可哀想ですね」

「そこまで聞いて哀れむだけかいっ!」

 再びツッコミ、再び通り抜け、そして再び痛みに悶える。

「ォォォォォォォ」

「ハッハッハッ、そんな怨霊みたいな声を出さなくてもあなたの名前を教えてくれたらあなたの体を治してさしあげますよ」

「横島忠夫だっ!」

 痛みに据えかねて、思考を通さないままに自分の名前を告げる横島。それにふむ、と男?は思考を巡らす。

「名乗った、俺は名乗っただろっ!? 早くこの痛みをなんとかしてくれ!」

「ああ、これは失礼しました」

 そう言いつつ男?は横島の頭に手を近づける、が。途中でいきなり手が止まる。

「失礼と言えば相手に名乗らせて私が名乗らないと言うのも礼に欠きますね、失礼致しました。

 私の名前は――」

 僅かに沈黙。その間は渡り廊下の下の方から水音が聞こえるのみ。

「――クウネル・サンダースと申します、以後お見知りおきを」

「分かった、分かったから早くこの痛みを……」

「おや、ツッコミ無しですか。つまらないですね、せっかくですから昔からの小粋なジョークでも1つ……」

「とっとと治せやぁ!」

 横島は限りなく全力に近いツッコミをし、

「ふぎゅあぁぁぁ!」

 人間としてヤバい痙攣を始める。そんなピクピクとした横島を見て、クウネルは満足そうにニッコリと笑って言う。

「あなたとなら世界も夢ではないような気がしますよ、横島さん。ではそろそろ本格的にあなたの体を治しましょうか」

 恨みがましい横島の目を心地よく受け流しながらもクウネルはフードを外してその素顔を明らかにする。そしてその瞬間、

「死ねぇ――!」

 クウネルの頭を掴んで、膝蹴り。なんかムエタイの奥義にありそうな技を痛む体にも関わらず繰り出す横島。まあ、スカッとクウネルの体を通過してしまうのだが。

 そして、痛みに目が潤みつつもしっかりとした憎悪の目でクウネルの顔を睨む横島。それをやはり涼しげな目で見返しながら横島に問うクウネル。

「どうしました、横島さん?」

「どうしましたかじゃないやろ! 敵に施しを受けるかいっ!」

 クウネルの顔はその言葉に始めて困惑の色を浮かべる。

「敵、ですか? ちゃんと治療をしようとした私がなぜ?」

「あ~、そうかい。まだしらばっくれるのかい」

 据わった目で、ゆらりと腕を動かして、ビシィ! とクウネルの顔を指さす。そしてたった一言、横島にとってこれ以上敵である事は無い事実を突きつける。

「美形!!!」

「は?」

 流石のクウネルも呆けるが、そんな些事は目にも呉れずに横島は滂沱の涙を流しながら天に向かって叫んでいた。

「チクショー、チクショー、ドチクショー!!! ミステリアスな雰囲気に見合ったどこか陰のある知的な美形! これでモテない訳があるかっ!? いや、無いっっっ!!! なぜ、なぜ神は美しさというものをこの世に作りたもうたのか~~~!」

 そんな心の叫びを体中の痛みにも関わらず、地下中に響きわたらす横島に。クウネルは信用出来ない笑みを浮かべながら手を振りかざした。

「とりあえず、体を治すのは約束でしたから治させて頂きますよ」

 その瞬間に横島の体から痛みが消えて、再び雄叫びをあげる横島。

「しまったぁ~、敵から施しを受けてしまった! くそ、俺の根性無し! あの位の痛みが耐えられなかったんか!」

「人間としてヤバ目な痙攣をしてましたけどねぇ」

「それがどうしたんや! この胸の虚しさに比べれば痛みなんか、痛みなんか……。アカン、やっぱ痛いのはイヤやっ!」

 かなりハイテンションな横島に、信用の出来ない笑みを浮かべながらクウネルは言葉を投げかける。

「そんなに横島さんは女性と仲良くなりたいですか?」

「当然やっ! きれーなねーちゃんとアッハ~ン♪ な関係になりたくない男がいるかっ!? いや、ないっ! だからこそ美形は、美形は敵なんや~~~!!!」

 右手で床を叩きつつ、左手を天に突き上げる。情緒不安定に叫ぶ横島に、クウネルはにっこりと信用出来なさすぎる笑みで悪魔の提案を投げかけた。

「ならば―――私が横島さんに女性と仲良く出来る方法を伝授してもいいですよ」

 ピタッと横島の声が止まる。

「ク、クウネル様? 今あなた様はなんと仰いましたか……?」

「いえいえ、ただのお節介ですがね。横島さんがそんなに女性と親しくなりたいなら私が女性関係を含む、イロイロな事を教えてもよろしいですよ」

 相変わらずの信用出来なさすぎる笑みをにっこりと浮かべたまま、クウネルは横島へ手を差し出す。

「う……あ……う……」

 対する横島は僅かに硬直していると、いきなり地面に向かってガンガンと激しくヘッドパッドを始めた。

「いかん、いかんいかんいかんいかんいかん! 悪魔の囁きに騙されてはならんぞ横島忠夫っ! 確かにっ! 確かに美人なねーちゃんと仲良くなれるのはおいしいっ!!! だが、だがしかしっ! それをこの美形に教わっていいのかっ!? それは譲ってはいけない男最後の誇……り…………?」

 そこまで叫んで、はたと横島は気付く。

(俺に男の誇りなんてあったっけ……?)

 身も蓋もないその思考。そこに思い至った時に、横島はクウネルに跪いてその手を手を取っていた。

「パトラッシュ。そうお呼び下さい、ご主人様」

「ハッハッハッ。ならば私はネロにでもなるのでしょうか?」

 ひとしきり2人で笑いあった後にクウネルは横島を立たせる。

「では詳しいレクチャーを始めましょうか」

「よろしくお願い致します、マスター!」

「クウネルで構いませんよ」

「了解しました、クウネル」

 ビシッと敬礼をする横島に、クウネルははたとまるで今思い出したかというように言葉を紡いだ。

「あっ、そうそう。横島さんには魔法使いの才能があるみたいなので、そっちのレクチャーもしましょう」

 その言葉に、横島の顔が嫌そうに歪む。

「えー、わざわざんないかがわしくてめんどくさそうな事しなくても……」

「これをレクチャーした後に女性関係についてのレクチャーを致しましょうかねぇ」

「骨の髄まで叩き込んで下さい、サー!」

 ビシィとこれまた見事な敬礼をする横島。それを見てクウネルはくすりと心の中だけで笑い、思う。

(そうですね、良い人止まりな女性の扱い方を教えましょうか)

 

 クウネル・サンダース。本名、アルビレオ・イマ。かつてサウザンドマスターと肩を並べ、更にかのサウザンドマスター自身とも契約を結んだことのあるその男の趣味は。

 他人の人生の収集と、他人をからかう事である事を。スキップしながら喜んでいる横島はまだ知らない、気付かない。

 

 

 

 横島がこの世界に流れ着いてからいくらかの時が経ち、とある秋の麻帆良において。

「あっはっはっはっはっ。いや~、やっぱ中学生は辛いねぇ!」

「ほんまや。お金なんてあっという間になくなってしまうやもんなぁ」

 それに同意するのはほわほわとした笑顔で京都弁の髪長少女。そして次に発言するのは長い前髪で目を完全に隠してオドオドとしている少女。

「で、でも~。楽しかったよ」

「ま~、楽しかったけどねぇ。せめて夕方までは遊びたかったよね~」

 そう言って4人の中で一番背の高い少女は天を仰ぐ。その空にある太陽は未だに下りに入っていない。

「くぁ~、歌いたんねぇ! 後せめて2時間は歌いたかった!」

「カラオケは高いんだから我慢して下さい。そんなに歌いたいなら今ここで歌いますか?」

 背の高い少女にかけられたのは抑揚の無い平坦な声。声をかけたのは声と同じく無表情な『魁! 男汁!!!』と書かれたステキジュースを飲みながら歩いている少女。というか、男汁なんて書かれたものを飲みたいと思う人はいるのだろうか? この少女と共に製作会社も置いてる店もなかなかの強者である。

「おっ、それいいね~。やっちゃう? やっちゃう?」

 そしてある意味それと同じくらい強者な背高少女。周りは駅前広場で、休日の真っ昼間という事もあり人混みで溢れている。こんなとこで急に歌いだしたらいったいどんな目で見られるのか。

 いや、色々と非常識なこの学園である。周りもノって、駅前広場が大カラオケ大会になる可能性も十分ありえるが、寡黙少女にとってはどちらでも疲れる事態になる事は違いない。

「冗談じゃありませんよ、ハルナ。ここはおとなしく図書館島にでも行って」

「ねえ。君たち、暇?」

 時間を潰しましょう。そう言いかけた背高少女・ハルナに寡黙少女の声を遮って、4人組の少女に軽薄そうな声がかけられた。

 その声を聞いた瞬間にオドオド少女は体を強ばらせ、寡黙少女はオドオド少女を背中に庇う。ハルナは間髪入れずに声が聞こえた方を振り向いて一歩踏み出し、ほわほわ少女はオドオド少女の真後ろにつく。そこまでの動作を無駄なく終わらせてからオドオド少女を除く3人の少女は声の主を見た。

 それは高校生くらいの男だったしかし、その服のセンスは微妙におかしい。ジーパン、これはやや形が古くさいところを置いておけば別にいい。着ているティーシャツも多少よれている所を除けば悪くない。

 まあ置いておけば~、とか除けば~、とか言っている時点でアウトなのだが、何よりおかしいのが他の2つ。ジーンズの上着と赤いバンダナはどう見てもアウトを越えている。

 特にバンダナ。赤いうんぬんは置いておいて、バンダナという時点でイメージだけだが某電気街にいる人々を思い起こさせる。ハルナは比較的同族に近いがその他はそうもいかない。そういう訳で、とりあえず慣れているハルナがつくり笑いを浮かべながら代表として声をかけた。

「え~と、お兄さん。私たちに何のようですか? ナンパ?」

 ハルナは自分の顔とスタイルがそんなに悪くない事を自覚してるし、ナンパされたの経験も少なくない。だいたいの先を読みつつ、どう断るかをシュミレートしながら話し掛ける、が。

「うん、ナンパ」

 いきなりシュミレートが崩された。普通はナンパとかイメージの悪い言葉は否定しつつ誘うものだが、男はにっこりと信用出来ない笑みで、直球で答えを返してきた。ちなみにその硝子の仮面が師匠譲りなのは言うまでもない。

「へぇ~。中学生をナンパするなんて、お兄さん変わった趣味してるね~」

 されどハルナもさるもの。即座に立て直してカラカラと笑いながら男を暗にロリコンじゃないのとからかうも、男は更に笑みを深めつつ言葉を返す。

「女の子の綺麗美しいに年は関係ないよ。と言うか、中学生だったんだ。みんな大人びてるから高校生かと思ったよ」

「いややわぁ~。お世辞巧いなぁ~、お兄さん」

 この言葉にほわほわ少女はまんざらでは無い印象を受けたようで、やや警戒心が消える。他の3人はまだまだ警戒心を立てまくっていたが。

「あっはっはっ。あたしはともかく、他は流石に高校生には見えないっしょ。お世辞ってバレバレだよ、お兄さん」

「雰囲気が大人っぽいんだよ。でも大学生って感じじゃないし、君は背もスタイルもいいから高校の同級生かなって。違ったかな?」

(うっわ手強いわ、この人)

 僅かに喜んでしまった自分に驚きつつもハルナは最後の断り文句を口に出す。もうこの人には下手な言い訳では通用しない、ダメな理由と本音をしっかりと言わなきゃ負けると思ったから。

「や~、なかなか嬉しい事を言ってくれるね。私だけなら正直いいんだけど。後ろの子が恥ずかしがり屋で人見知りするんだわ。だからお断り」

 キッパリとハルナが言い切ると、男はチラリとハルナの後ろの3人に目を向ける。1人は視線を向けられて手を振り、1人は憮然とした表情を露わにする。そして1人は軽く目があっただけでビクリと過剰な反応を返した。

「あの子?」

「そうそ。だからごめんね~」

 そうハルナが言い、立ち去ろうとした所で。

「うん、じゃあこれは人に慣れるいい練習になるかも。電話番号もメルアドも住所も聞かないよ。

 だからさ、半日だけ一緒に遊ばないかい? もちろん全部俺が奢るよ」

(奢り!?)

 男はハルナの弱点をついた言葉を無意識言った。しかもオロオロ少女についてもなかなかに的を得たことを言っている。

「タイムアウトォ!」

「後2回な?」

 ノリのいい会話をして、ハルナが無理矢理4人で円陣を組ませる。

(ハルナっ! タイムアウトなんてアホな事言ってないでとっととあんなアホな男の誘いなんて断って下さい!!)

 寡黙少女のひそひそ怒声。それににやけながらハルナは言葉を返す。

(まーまー、落ち着きなってゆえ吉。タダだよタダ。ちょっと遊びにつき合うだけで午後遊び放題だよ?)

(だからどうしたですかっ! もっとのどかの事を考えて下さい。木乃香も何か言って下さい!)

 ヒートアップして行く寡黙少女・夕映はほわほわ少女・木乃香を振り返る、が。

(ん~、ウチはのどかさえ頷けば構わへんよ?)

(木乃香っ!? 何を言ってるですかっ!!)

 思わない返事に唖然としてしまう。そして木乃香の言葉に調子にのるハルナ。

(そうそう、冷静に考えればこんな人見知りを直すいい機会はないよ? 私たちはついてるし、半日限定で後腐れは無いし、奢って貰えるし!)

(最後のが一番重い理由な気がしますが……まあハルナの言ってる事も間違えじゃないです。のどかさえいいなら私もいいですよ)

 そう言って夕映はオドオド少女・のどかの方を見る。つられてハルナと木乃香ものどかの顔を見た。

 それで困るのはのどかである。夕映はどこか何かを諦めてるし、木乃香は相変わらずニコニコしてるし……ハルナは何かを期待しているように目をギラギラとさせているし。

 夕映はのどかの方を向かずに、せめて一度は無意識のプレッシャーをかけているハルナの方を見るべきだったのだが、たらればを言っても仕方がない。

 親友の期待を裏切れずに、のどかは小さな声でこう呟いてしまう。

「い、行く……」

「お兄ーさん! 遊び行くよー!」

「早っ!? 早いですよハルナ!」

 瞬動もかくやという早さで振り返り、返事をするハルナに夕映が思わず突っ込む。そしてそれを見事にスルーする他の面々。

「そっか、そりゃ良かった。あっ、俺は横島忠夫って言うんだ。横っちと呼んでくれ。で、君たちは?」

「呼び方が古いね~、横っち。私はハルナ、パルでいいよ~。んじゃ、まずは軽くカラオケに行こっか?」

「ウチは木乃香って言います。よろしゅう」

「……綾瀬夕映です」

「み、宮崎のどかです」

 そのまま横島は4人と共に雑談しながら歩き始める。

「しっかし横っちはナンパうまいね。なに、成功率何パーセントくらい?」

「何パーセントもなにも、何年もナンパしてて数える程の成功だよ」

 横島はとある海岸で、サザエを殻ごと齧り喰う人魚とのナンパを思い出して。そして5人でゆっくりと歩きながらの会話。

「そうなん? 横っちはむっちゃ誉め上手な気がしたんやけどなぁ」

「うむ、実は最近ナンパの師匠に新しい教えを授かって今日が初めての実践投入だったんだよ。で、君らは今日2組目のナンパ」

 急に砕けた口調になる横島。

「……えっと、横島さん。口調変わった?」

「ほう、私たちの前に1組にふられてるんだ。どんな人にふられたのかにゃ~?」

 オドオドと言うのどかと面白そうに言うハルナの声が重なる。

「先にのどかちゃんの質問に答えれば、別にもう猫被る必要ないからね~」

(その軽そうなのが素ですか。全く、これではのどかにどんな悪影響があるか分かったものではありませんね)

 心の中で夕映が悪態をつく。そんな事はつゆ知らず、横島はハルナの質問に答えるべく続けて口を開いた。

「で、パルちゃんの質問に答えると、チア部に入ってるらしい3人組だったね。その中でショートの黒髪の子に随分キツい事言われちゃってな~。地味にショックだった」

(釘宮やな~)

(くぎみーね)

(釘宮さん、かな?)

(釘宮さん、ナイスです! ですがこのナンパ男を引き受けて頂ければもっとナイスでしたのに)

 一名やや私怨と八つ当たりの混じった感想が付随したが、全員の心は完全に一致した。

「確か……円ちゃんだったかな? 桜子ちゃんって子が名前で呼んでたけど」

((((やっぱり))))

 再び一致。同じクラスの人をナンパに誘うあたり、なかなか奇妙な縁を感じないでもないが。

「うっし、ついた。どの位歌う?」

「軽く3時間、点数勝負! 後はついでにボーリングに行って、勝負だ横っち!」

「ハルナ……そんな初対面の人にそこまでたからなくても」

 飲んでいるモノ以外は常識的な夕映が窘めるも、2人は完全に熱い世界に突入していた。

「ふっ……、カラオケの忠ちゃん・ボーリングの忠ちゃんと言われた俺に勝負を挑むとは、愚かな」

「くっくっくっ、クラスにその人ありと言われたこのパルの実力を見ても同じ台詞が言えるかな?」

「誰が言ったのですか、そんな事」

「まぁ、お手柔らかによろしゅうな」

「……………………」

 みんなそれぞれの個性を出しつつ、賑やかな5人組はカラオケ屋の中に入って行った。

 

 

 

 

 

「いや~、負けた負けた!

 まさかこの私が負けるとは……。やるな、横っち!」

「くっ、危なかった! まさかこの俺がここまで追いつめられるとは!

 パル! その名前を俺は決して忘れない!!!」

「アホばっかりです」

 時は夕暮れ。カラオケとボーリングと、ついでにおやつまでご馳走になった女の子は充実した表情で歩いていた。夕映ですら見る人が見れば多分楽しそうだと言える表情をしている。

 横島も成功したナンパに喜びを隠そうともせず、一緒に歩いていた。

「……んじゃあ、この辺りでお別れしよっか?

 横っち、次こそは私が勝たせて貰うよっ!」

「名残惜しいが仕方あるまい。

 パルよっ! 次も返り討ちにしてやる」

「ご、ごちそうさまでした~」

「まあ、それなりに楽しかったですよ」

「楽しかったわ~。ありがとな、横島はん」

 多少は打ち解けてようで、のどかもようやく横島と声をかわせる位にはなった。視線は合わせてくれないけれども。

 夕映も当初よりかは大分横島を認めているようだし、木乃香は最初からフレンドリー。パルとはブラザーになりつつある。そして最後にそのブラザーから念押しの言葉が入った。

「でも横っち、私のメアド本当にいらないの? 連絡取れないよ?」

「ふっ、真の漢とは一度言った事は取り消さないものさ。心配するな、俺とパルは心が繋がっている。いわば心友! 例え誰が拒絶してもいつか出会える運命からは逃れられないのさっ!!」

「うっわ似合わねーセリフ」

「アホの大将ですね」

「かっこええなぁ~」

「…………」

 ニヤニヤとバカにした笑みになんの捻りもない嘲り、ボケに素で返される痛さと無言の視線逸らし。

「ちくしょー! どうせ俺にはキザなセリフなんて似合わないんだよっ!」

「何を今更ですか」

「つか、今のセリフ似合う人はいないでしょ?」

「甘いな、パル。俺のナンパの師匠ならきっと似合う」

 横島らしい、パル達のクラスらしいバカ話をしつつ。

「んじゃ、また縁があったらね~」

 どっかで聞いたようなパルのセリフを最後に別れる。

「今日はホンマに楽しかったなぁ」

「うむ、まさかあそこまで金のかかる遊びをタダで出来るとは思わなかったね!」

「2万はかかってるです。アレは相当女に飢えてますね」

「コラ、夕映ちゃん! まだ声は届いてるんだからな!」

「知ってますよ」

「なら遠慮せいっ!」

「あっはっはっはっはっ。ところでのどか、少しは男の人に慣れたかな?」

「…………」

「やっぱりダメでしたか。まぁ少しずつ慣れていけばいいですよ」

 そんな少女達の声が消えるまで、横島はずっとその少女達を見送っていた。

(さて、と)

 やがて少女達が見えなくなり、横島は変化を表に出さないように注意をしながら近くのベンチに座る。

(……気配が減ったな。居なくなったのは最初にいた方か。

 でも、まだ俺は監視されてるよな~。木乃香ちゃんの監視に引っかかったみたいだな~)

 そう。最初に4人組に話しかけた時から横島は監視され続けている事に気がついていた。話しかけた瞬間に感じた、怒気・殺気・緊張。裏の世界の上位者でさえ気づくのは難しい程僅かだったそれを、横島は臆病だったからこそ感じられた。つまりはその能力に特化してないと感じられないという事から、やはりよほどの実力者だと横島はあたりをつけた。

 で、なぜそんな奴がいるのかと周囲を探ってみたらすぐに答えにたどり着く。目の前にいた木乃香から異常なまでの魔力を感じたのだ。一度感じ取れば、なぜすぐに気づかなかったのかと疑問に思うも答えはすぐに出た。日常の空間に浸透する程に木乃香の魔力が強すぎたのだ。

 まあ、その程度で美少女に対する評価を変える横島でもない。この魔力なら監視がつくのも当然かと考えて、木乃香の近くに居ればなにか事を起こさない限り行動は起こすまいと遊びにふけっていたのだが、どうやらきっちりマークされてしまったようだ。いくら横島でも敵対視されている相手に住処を教える恐ろしさは分かっている。

(まあ仕方ないな。ああ、財布が痛い……)

 そう思いながら最寄りの駅に乗り、一番安い区間の切符を買う。ナンパならウン万出しても何も悲しくないのに、逃走の為に安い切符を買うのを渋るのは横島らしいと言うか。

 

 そのまま区域を過ぎても横島は電車に乗り続け、監視者の不信感を煽る。

(そろそろいいかな?)

 僅かなイタズラ心をかもし出しながら、横島は掌の中で文珠を創りだして文字をいれる。そして一般人を監視者の間に挟んで発動。

 

『遮』

 

 それが文珠に込められた文字。それによって横島は周りの人はおろか、監視者にさえ見つからない完全な迷彩を纏う。

 文珠を発動してから程なくして、横島の目の前に刀を持った綺麗な女性が現れた。多分、魔法的ななにかを使っているのだろう。その女性の銃刀法違反に誰も見向きもしない。

 そしてしばらくその辺りを探す妙齢の女性。恐らく横島を探しているのだろう。だが文珠で隠れた横島を見つけられるはずも無く、その女性はやがて携帯電話を取り出して通話をする。もちろんそれを咎める客はおろか気付いている客すらいない。

「もしもし、学園長ですか? 刀子です」

『おお、刀子君か。どうかしたかの?』

「申し訳ありません、学園長。彼を見失いました」

『ふむ、君ほどのモノがのう……』

「ええ、不可解な事ですが彼をずっと見ていたはずなのに視界から消えていました」

『……なるほど、つまり彼はそういう能力を持っているのかもしれん』

「と、言うと?」

『逃げに特化した能力を持っているという事じゃ。彼の能力は分からないがのぅ、その可能性は高そうじゃ』

「逃げに、ですか?」

『もしそうならやっかいじゃのう。いつか隙を見てこのかをさらわれたりした場合、敵の能力如何では追う事も難しくなるかもしれん』

「む……」

 美系の、その顔が思案に暮れるのを見てちょっと興奮する横島。ついつい口を出したくなる。

「大丈夫ですよ、お姉さん! 俺はいつでもあなたの側にいますから!」

「なっ!!?」

 驚愕の表情をあらわにする女性。そのういういしい表情をもう少し見ていたいと思う横島だが、やたらめったら刀を振り回されてもたまらない、なにせ知覚できないとは言えども横島の体はそこにあるのだ。名残惜しくないと言えば嘘になるが、横島は即座に手に握り込んでいた2つの文珠、『転』『移』を発動すると、女性の狼狽した姿を見る事無しに図書館島の最深部に転移される。そこで待ち構えていたのは彼のナンパの師匠、クウネル。

「ナンパ、どうでしたか?」

「どうせ見てたんだろ? クウネルの言う通りにしたら成功したぜ! 次会う時にはもっと親密になってみせる!」

 僅かにもナンパが成功し、前進そう燃える横島に。

(やっぱりいい人止まりでしたねぇ。次はどうやってからかいましょうか?)

 そんな黒い事を彼の師匠が考えていたのは、クウネルだけの秘密である。

 

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