1章 0話
ありとあらゆるものに終わりを。そして次なる始まりを。
ウェールズの山奥、荘厳な卒業式で幼い魔法使い達に卒業証書が授与され、また次なる世界へと巣立つ儀式。それもつつがなく進み、終わる。
そして卒業生の筆頭にあげられたネギに。幼なじみのアーニャが、そして義理の姉でもあるネカネも声をかける。
「ネギ、何て書いてあった? 私はロンドンで占い師よ」
「修行の地はどこだったの?」
「今浮かび上がるとこ」
ネギはその問いにワクワクしながら答える。
魔法使いはその存在を世間に秘匿しなくてはならないが、困っている人を助けるのもまた使命。魔法がバレては困るのに魔法を使ってでも人助けをしなくてはならないその矛盾。
故に、世間にバレない様に魔法使いとして関わらなければならない為の試験が存在する。今までの魔法学校は知識や技術、立ち振る舞いを教える場所だったのに対してこれからはそれらを総合した、いわゆる実技を量る試験になる。
運転免許書習得に例えるならば、今までは教習所内での運転や講義でこれからは実際に教習車で公道に出るといったところか。この試験にクリアしたところで、ようやく1人前の魔法使いと形式的には認められる事になるのだ。
閑話休題
「お……」
「どう?」
ネギはポウッと優しげな音をたてて光を発する卒業証書を見つめる。そして現れた文字は――――
『A TEACHER IN JAPAN』
直訳すれば日本にいる教師、意訳をすれば。
「日本で――先生をやること」
と、なる。
「「「ええ~~~~~っ!?」」」
いくらなんでもコレは予想外で。3人揃って大声をあげた後に、校長のところまですっとんでいった。
「こ、校長。『先生』ってどーゆーことですか!?」
「ほう。『先生』か」
校長の後ろ姿を見たとたん、ネカネは走りつつも声をかける。しかし校長はと言えば落ち着きを乱さない。そんな校長の態度にネカネとアーニャはいっそう強く抗議の言葉を投げかける。
「何かのマチガイではないのですか? 10歳で先生など無理です!」
「そうよ! ネギったらただえさえチビでボケで」
「しかし、卒業証書にそう書いてあるなら決まったことじゃ。立派な魔法使いになるためにはがんばって修行してくるしかないのう」
が、そんな2人の言葉を校長は無情とも言える正論で一蹴する。
「ああっ」
「あっ、お姉ちゃん!」
ネギに与えられた、あまりにも過酷すぎる試験にネカネは立ちくらみをおこし、ネギとアーニャは慌てて支えて。
「ふむ…」
校長はそんなネカネの様子を見て考えを巡らせる。
「まあ、ネカネが心配するのも分かる。だが安心せい――修行先の学園長はワシの友人じゃからの。
それに日本には今、士郎君がおる。彼ならなんらかの形でネギのサポートをしてくれるじゃろ」
懐かしい名前にネギとネカネ、そしてアーニャが固まる。そしてすぐに3者3様に騒ぎだした。
「し、士郎君ってあの士郎さんですかっ? そして日本にいるんですかっ!!」
「し、士郎さんが日本にいるんですかっ!? 連絡がとれるんですか?」
「試験なのにそんな手助けするのはアリなのっ!?」
ぎゃーぎゃーとうるさい3人に苦笑いを浮かべる校長。
「落ち着きなさい。士郎君の事はワシに責任があるから、ワシはたまに士郎君と連絡をとっているだけじゃ。
それにワシは士郎君にネギの事を助けてやってくれとは言わん。ただ、今のネギの状況を伝えるだけじゃ。それで士郎君がどんな反応をするかは士郎君次第という訳じゃよ。別にこの試験では手助けを禁止している訳でもないしの」
そして一息ついてから、
「まっ、こういう訳じゃ。大変じゃろうががんばりなさい」
こういう。そしてネギにも選択肢があってないようなもの。ネギはお腹に力をいれて大きな声で、
「ハイ! 分かりました!!!」
元気よく返事をした。
そんなウェールズの山奥での出来事からしばらく後の、日本の麻帆良学園のある朝。
「やばいやばい!
今日は早く出なきゃいけなかったのに!」
オレンジ色の髪をした少女が騒がしくそんな言葉を口走りながら駆ける。その後ろでローラースケートで走る黒髪の女の子は、横島にナンパされた4人組の一人である木乃香。そしてオレンジ色の髪の少女は朝からメンドクサイ役目を押しつけられたそのグチを親友にこぼす。
「でもさ、学園長の孫娘のアンタが何で新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの」
「スマンスマン、そんだけ偉い人なのかも知れへんし」
そんな親友に気を悪くせずにさらりと自分の意見を述べる木乃香。
「ジジイの友人ならそいつもジジイに決まってるじゃん。こんな年下で鼻の下をのばすなら程度がしれるもんよ!」
「そうけ? 今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ」
「えっマジ!?」
「ほらココ」
ローラースケートをしながら本を見る木乃香と、それに走ってついていきつつ、本の文字まで読むオレンジ髪の少女。そして迎えまで時間が無いのにも関わらず話す余裕のある2人。いろいろと大物だ。そしてそんな雑談はまだまだ続く、木乃香はじっと本を見ていたかと思うと占いに言葉を付け加える。
「しかも好きな人の名前を10回言って『ワン』って鳴くと効果ありやって!」
「うそっ!?
高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生、高畑先生!
ワンッ!!!」
美少女の突然の奇行に周りの、特に吠えられた人はビクッと体が硬直する。遅刻寸前だというのにいい迷惑だ。
そんなオレンジ髪の少女に木乃香は目を丸くして頭を掻く。
「あっ、あははは。アスナ、高畑先生のためなら何でもするわ。ホンマにやるとわ……」
「殺すわよ?」
ようやく騙されたと知った、オレンジ髪の少女――アスナはすごい顔で木乃香を睨む。それにムズムズッとイタズラ心を刺激される木乃香。
「えっと、次は逆立ちして開脚の上全力疾走50メートルして『ニャー』と鳴く……」
「やらねぇ!!」
占いの本を見ながら嘘八百を並び立てる木乃香に、パンツ丸見えになる事を想像して顔を赤く染めたアスナがガーと吠える。
まあ、木乃香を90パーセント位は冗談だったのだろう。クスリと軽く笑ってこの話を打ち切り、お茶を濁す為にチラリと自分の足元を見ながら話題を変える。
「にしてもアスナ足速いよねー、私コレやのに」
「悪かったわね、体力バカで」
が、それもあまりアスナの機嫌を直すにはいい話題ではなかったようだ。からかわれたと思ったアスナの言葉にはトゲがある。
そんな、いつもの通りと言えばいつも通りな朝の登校風景。が、ここからいつもと違う、新たな物語の始まる出会いがあった。
「ん?」
ふわっと柔らかい風がアスナの側を流れ、チラッとそっちを見る2人。そこには軽い笑みをたたえた、日本人ではない顔立ちで背が低く、更にたくさんの荷物をガッチャガッチャとかき鳴らす子供が、2人の横を走っていた。
少年はそこでアスナの顔を見て一言。
「あの―…。あなた、失恋の相が出てますよ」
間
そしてさぁーとアスナの顔から血の気が引いていき、絶句する。
「え…、な。し…しつ…って。
何だとこんガキャー!!」
「うわああ!?」
アスナ、再起動。いきなりくってかかられた少年は驚きと恐怖で叫び声をあげて、言い訳の言葉を言う。
「い、いえ。何か占いの話が出ていたようだったので、つい……」
が、そんなモノはアスナの火に油を注ぐ事に等しい。目と同じ幅の涙を流しながら幼すぎる少年に猛抗議をする。
「どどどどういいことよ、テキトー言うと承知しないわよ!」
「い、いえ。かなりドギツい失恋の相が……」
「ちょっとおお~~~っ!!」
真面目過ぎる少年には、ここは嘘でもいいから否定するべきだという事は分からない。アスナの火にガソリンを注ぎ始める少年。
それを宥めるつもりなのか、それとも純粋な好奇心が。木乃香が少年の顔をのぞき込みながらなごかに言う。
「なあなあ相手は子供やろー? この子初等部の子と違うん? かーいーわぁ」
「あたしはね、ガキは大ッッ嫌いなのよ!」
失恋の事にショックを受けたのか、アスナはポロポロと涙をこぼしながら手をワナワナと震わせて――
ガッ
「うひぃっ!」
少年にアイアンクロー。そのまま右手一本で少年の体を宙に浮かす。
「取・り・消・しなさいよ~」
「坊や、こんな所に何しに来たん?」
「あいや、あわわっ」
明らかに大人気ないアスナと、目の前の暴力を全く意に介していない木乃香。その2人に冷静に対処出来てない少年はパニクってあわあわ言うのみ。
が、そんな事はほのぼのとした木乃香には全く意味を与えていないようで、マイペースに言葉を続ける。
「ここは麻帆良学園都市の中でも一番奥の方の女子校エリア、初等部は前の駅やよ」
「そう! つまりガキは入ってきちゃいけないの、わかった?」
「は、放してください~っ!」
木乃香の話を案外冷静に聞いていたアスナはアイアンクローから首締めに変えて、涙目のまま少年におもいっきりガンをとばす。
(あうう。な、なんて乱暴な女の人なんだー。 日本の女の人は親切で優しいって聞いてたのにーっ!)
パニクり続けている少年がそんな風に現実逃避していると、バンっ! と地面に叩きつけられた。なんとか足で着地するも、ジ~ンと衝撃でしびれがくる。
「ほな、ウチら用事があるから一人で帰ってなー」
「じゃあね、ボク!!」
にこやかに手を振ってる木乃香と、頭をおもいっきり押さえつけるアスナ。それにあわあわと弁解する少年。
「いや、あのボクは…」
「いやー、いいんだよアスナ君!」
いや、弁解しようとした時に上から声がかかった。3人が同時に見上げると、金髪で少し年を喰った男性が窓から手を振って見下ろしている。
「お久しぶりでーす!! ネギ君!」
「えっ」
「あ」
憧れの先生に暴力シーンを見られてしまったアスナはパッと手を離し、ネギと呼ばれた少年は久しぶりに見る友人に目を丸くする。
それはさておき。アスナは急にしおらしくなって、木乃香はにこやかに担任に挨拶する。が、
「た、高畑先生!? お、おはようございま……!」
「おはよーございまーす」
「久しぶりタカミチーッ!」
「!?…っ。し、知り合い!?」
あまりの事実にアスナなズザザッっとネギから遠ざかる。そんな風景を気にも止めないで高畑は久しぶりに会うネギに言葉をかける。
「麻帆良学園へようこそ、いい所でしょう? 『ネギ先生』」
いや、少しは気に止めていたようだ。かなり失礼な事をしていたアスナに釘を刺す意味もあり『先生』を強調する。そしてその効果は絶大だった。
「…………」
「え…。せ、先生?」
「あ、ハイ。そうです」
疑いの目で絶句するアスナと、流石に信じられないのか冷や汗をカキながらネギを見つめる木乃香。そんな2人にあっけらかんと答えたネギはコホンと1つ咳払いをして。
「この度、この学校で英語の教師をやることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」
「え…ええーっ!!」
ペコンと挨拶、直後に怒号。片頬が吊り上がった微妙な表情をするアスナに、目も口もまん丸な木乃香。
「ちょ、ちょっと待ってよ、先生ってどーいうこと!? あんたみたいなガキンチョがー!」
「まーまー、アスナ」
そしてアスナはいきなりネギに掴みかかり、一気に揺さぶる。そしてそれを後ろから押さえる木乃香。
「ハハハ。いや、彼は頭がいいんだ。安心したまえ」
「先生、そんなこと言われても――」
そこに笑いを湛えた高畑が上から降りて来るもアスナは軽く抗議をいれる。教師の仕事は勉強を教えるだけではないのでこの抗議は当然なのだが――
「あと、今日から僕に代わって君達A組の担任になってくれるそうだよ」
――アスナにとって更にショックな事実を突きつけられて沈黙する。
「そ、そんなぁ。アタシこんな子イヤです。さっきだってイキナリ失恋…いや、失礼な言葉を私に……」
「いや、でも本当なんですよ」
「本当言うなー!」
会ったばかりなのに見事なボケとツッコミのテンポ。アスナは生意気な事を言うネギの首を吊り上げて怒鳴りつける。
「大体、あたしはガキがキライなのよ! あんたみたいに無神経でチビでマメでミジンコで――」
思いつく限りの罵詈雑言。流石のネギもムカッときてしまう。
(ううっ、ひどい言われ方だ。何だよこの人ー。 占いだって親切で教えてあげたのにーっ!)
と、その時。ネギの服がアスナに首を絞められた事により少しほつれ、更に首を絞める為に服が顔に近づいてしまってネギの鼻にはいってしまう。その結果。
「ハッ…ハッ……」
どんな結末が待っているか知らないアスナはくしゃみをしかけているネギをジト目で見るだけで。
「はくちんっ!」
突如の突風。それはなぜかアスナの服だけを狙ったかのように剥ぎ取り、残ったのは下着だけ。
「なっ…!?」
いきなりの事態にアスナは硬直してしまうが。
「あ」
(はうっ)
憧れの人の視線に正気を取り戻させられる。ペタンと足の力が抜けてお尻が地面つく。アスナ渾身の絶叫の前に一瞬の間。
(くまパン)
(毛糸のくまパンか)
さりげなくチェックをいれる高畑と木乃香。ネギは完全に自業自得なアスナにプンプンと頬を膨らます。そして――
「キャーッ! 何よコレーッ!!」
手で胸を隠し、絶叫。まあ、憧れの人の前でいきなり下着姿を晒してしまったのだから仕方のない反応ともいえる。
そしてその叫びが終わった時に。
「往来で、年頃の娘が肌を出すのは関心しませんね」
下着姿なアスナに背中からパサッと何かが声と一緒にかけられた。その何かとは紺色のスーツの上。しかも肌触りからかなり質の良い品だ。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながらアスナは後ろを向いた。まず目に入ったのはスーツのズボン、もちろんアスナにかけられたのと同種のソレ。視線を上にズラせば白いシャツに濃い紫色のネクタイ。ネクタイの両側にある膨らみがその人物の性別を教えてくれる。最後に更に上をのぞき込めば、そこには顔。キレイとも格好いいとも言える中性的な顔つきで、直前に胸の膨らみを見なければ女性と分からない程に。
上からもう一回視線を下に落とせば。ネクタイよりもやや薄い、十分濃いと言えるショートの髪。左の目の下には泣き黒子があり、両耳にはセンスのいいイヤリング。背中には何か入った筒のようなものを背負っており、手袋をした両手には大きめのジュラミン製のトランク。その革靴にも良いセンスが光っている。
「あ、あの――」
アスナは何か声をかけようとするが、うまく声にならない。いつの間にか横に並ばれたネギは呆然としてるし、木乃香も「ひゃー、かっこええ」と言いながら現状についてこれていない。
「君は……何者だい?」
ただタカミチだけが油断なくポケットに手を入れて、その男装の麗人に問いかける。
その人物はタカミチの方を向き。にっこりと作った笑みを浮かべながら問いにしっかりとした口調で答えた。
「申し遅れました、私はバゼット・フラガ・マクレミッツと申します。以後お見知り置きを」