ダンジョンにキバがいるのは間違っているだろうか 作:ブルーホワイト
ある日…オラリオから北東に数百キルロも離れた山岳部に存在するたった一つの小さな村の家に黒いドレス姿の1人の美しい女性が訪れた。
その女性はその家を軽くノックし扉の向こうからの返事を待った。
そして出てきたのは1人の白い髭を生やし体格のよい老人だった。
「マヤか」
「…お久しぶりです…ゼウス様」
「まぁ此処では何だ…少し上がっていけ」
「…失礼します」
ゼウスと呼ばれた老人はマヤと呼ばれた女性を家に招き、女性もその誘いに乗った。
ゼウスと呼ばれた老人が住んでいるのは普通の一軒家であり1人がくらすにむしろ広いような家だった。
「それでその子供はなんじゃ」
ゼウスの視線は女性に抱かれて眠っている1人の白髪の1〜2歳くらいの幼子に向けられていた。
「…この子は私と『あの人』の子です」
「『あやつ』はどうしたんじゃ」
「…彼は私とこの子を守る為に亡くなってしまいました」
マヤは悲しい顔で幼子を撫でながら男が亡くなった事を言った。
「…惜しい男を亡くしたのぉ」
ゼウスはその男の死を本気で惜しんだ。
「それでお前は何の為に此処にきたのだ?」
「…………この子を育てて欲しいのです」
マヤは振り絞るような声でその願いを口にした。
「お前が育てられぬという理由はやはり刺客か?」
「…はい…『クイーン』でなくなった私を狙い、恨みを持っている他の『同種』が私を襲ってくるからです」
「やはりその子と一緒では逃げ切れぬか」
ゼウスは考えるような顔をし、一緒にはいられないのかと質問した。
「…私1人なら逃げ切る事は出来ます、ですがこの子と一緒ではこの子を争いに巻き込んでしまう。私はこの子を争いに巻き込みたくないのです!」
マヤはその体から悲痛な声を絞り出した。
「なろほどの…しかし良いのか?そうすればお前はもう二度とこの子と会えなくなるかもしれんのじゃぞ?」
「…確かに、この子と会えなくなるのは辛いです。ですが、私はこの子を争いに巻き込み…傷つけてしまう方が怖いのです!」
マヤは今にも泣き出してしまいそうな顔つきで声を張り上げ、幼子を抱きしめた。マヤとて愛する我が子に会えなくなるのは辛く悲しい決断だったがこの子を守るには他に方法がないと悟っていた。
「…覚悟は決まっておるようじゃな、マヤよ…この子が存在している事を他の者は知っているのか?」
「…いえ、この子の事を知っているのは、私と『あの人』…そして今は亡き『キング』だけがこの子の存在を知っていました」
「そしてこの子を守る者としてキバットバットⅢ世を付けます」
「キバットバット族を付けるという事はお主はこの子に『キバ』の『鎧』を継承させたというのか!?」
ゼウスはマヤが此処に来てから初めて声を張り上げた、ゼウスは今マヤが抱きかかえている子供が『鎧』を継承できるとは艶とも思っていなかったからだ。
「…はい、しかしこの子に継承させたのは『キング』が使用していた『闇のキバ』の『鎧』ではありません『ナイト』と『ポーン』が新たに製作した『鎧』を継承させました」
「だがマヤよこんな子供に『王としての証』でもある『鎧』を授けるのはこの子の運命を過酷にしてしまいかねんぞ」
「…私はこの子に王として生きて欲しいわけでは無いのです。『鎧』の力は、この子が大切な守りたい者を守る時…自分の信念を貫き通す時…困っている誰かを助けたい時にこの『鎧』の力を正しく使って欲しいのです」
マヤは眠っている幼子に暖かい目を向けて、幼子の髪を撫でてその寝顔を愛おしそうに眺めた。
「そして今この子の存在を知っているのは私とあなただけです。私が狙われ続ければこの子は普通に生活をする事が出来ます」
「…この子には普通の人生を歩んで欲しいのか?」
大切な物を守る為に自分を犠牲にしてでも助けるというものはゼウスが久しく見ていなかった光景だった。ゼウスはかつて自分の『ファミリア』があった数十年前ではその光景をよく見ていたが引退し、オラリアから離れてからもう二度と見る機会がない物だと思っていた。
「…ええ…この子は、健康で普通に生活をして未来を悩みながら選択してたまには冒険をして恋をして結婚して幸せな人生を歩んで欲しい」
「それがお主の願いか…………分かった引き受けよう」
ゼウスにはこれがマヤの自分に対する最後の願いである事がとてもよく分かっていた。
これからマヤが『同種』の手によって命を奪われるか…『同種』の存在そのものがなくならない限り永遠に追われる続けなければならなくなってしまったからだ。
大切な息子を守るための願いをゼウスは引き受ける決意をした。
「ありがとうございます。ゼウス様」
「それとこれを預かって欲しいのです。」
そこでマヤが取り出したのはがヴァイオリンを入れる為の革製のケースだった。
「これは?」
ゼウスは初め、首を傾げている様子だったがマヤの夫である男のある楽器の才能を思い出し納得したような顔になった。
「『あの人』と私が作った世界にたった一つしかないヴァイオリン…『ブラッディローズ』。この子が大きくなったらこのヴァイオリンを渡してあげて欲しいのです」
これはマヤ自身の我儘だった。もう二度と会えなくなるかもしれない我が子に自分と夫が最後に息子に残したかった最後の品だったからである。
「分かったそちらも引き受けよう」
「してマヤ…この子の名前は?」
ゼウスはその我儘も引き受け、マヤに対しての最後の質問をした。その子供育てる上で名前は必ずしておかなければならない物だった事と、2人がどんな名前を子供に与えたのか興味が湧いたからだ。
「『あの人』が付けてくれました。この子の名前はーーー」
「『ベル・クラネル』」
キバット「次回!ダンジョンにキバがいるのは間違っているだろうか」
ベル「やっぱりオラリアは怖いところなのかなキバット?」
ヘスティア「僕の眷属にならないか?ベルくん」
エイナ「君はどうして冒険者になろうと思ったの?」
ベル「僕は作りたんです…父さんと母さんが残してくれたこのヴァイオリンを超えるヴァイオリンを」
キバット「お前はお前がしたいことすれば良いんだよ」
第1話「序曲 追いかける夢」
Wake Up!定めの鎖を解き放て‼︎
今執筆している他の物語の話が終わったら直ぐに2話を書きたいと思います。感想もばんばん下さい!
次に更新する作品はどれが良いと思いますか?
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この慈愛の勇者に祝福を!
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ダンまち キバ
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バカとテストと親愛なる隣人