12の月の小夜曲   作:野生のムジナは語彙力がない

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あらすじ
サンタクロース捕獲作戦が始まる。

今更クリスマスイベと思うでしょうが、まだスキンの発売は続いているから別にいいですよね?あと……ご意見、ご感想などがあれば是非仰ってください。どんなものでも作者の励みとなりますので!


それでは、続きをどうぞ……




後編

 

虚空に満ちた空からは依然として雪がシンシンと舞い降り、滑走路や格納庫など、司令部の周囲は降り積もった雪で真っ白に染め上げられていた。

 

それじゃあシェロン、あとはお願いね

 

「はぁ……めんどくさ」

 

とある事情により基地を離れないといけなくなったので、基地の指揮をシェロンに預けようとすると彼女はやる気のなさそうな声を上げた。

それでも、司令部にある指揮官用の椅子に座っているあたり、やる気はあるようだった。

 

大丈夫。前にも言ったけど、指揮権の移譲はあくまでも形式的なものだから、気楽にね?

 

「むぅ……また1つ貸しだからね?」

 

しぶしぶといったように呟くシェロン

 

「先生ー! 車の用意ができましたー」

 

振り返ると、部屋の入り口に龍馬の姿。

シェロンに礼を告げ、龍馬と共に司令部から退出する。

 

そういえばスノーは?

 

「車の中で待ってるよ! 」

 

そう言った龍馬の声はやけに大きく、感情を抑えるのに必死な様子が伺えた。

 

なんか、上機嫌だね?

 

「そ、そう見えるかな? へへっ、実を言うと……こういうことは初めてで、上手くできるか分からなくて緊張してるところもあるけど、ちょっとワクワクしているんです」

 

大丈夫、初めてなのはこっちも同じだから、気楽にね

 

「そ……そうでしたね!」

 

そういえば、夏美には連絡した?

 

「はい! 姉ちゃんも頑張ってたし! 僕も頑張らないと!」

 

そっか……

 

日ノ丸に戻った夏美は不正にまみれた高橋重工を改革すべく、まだ学生の身でありながらクリスマスを返上して仕事をしていた。明らかに無理をしている彼女を引き止めることもできたのだが、これはあくまでも彼女の戦いであり、それを止める権利はこちらにはないと、温かく見守ることにした。

 

龍馬を基地に残したのは、彼女が弟・龍馬への依存を治すためでもあったが、それ以上に彼が寂しい思いをしてしまわないようにとの配慮もあった。そうまでして、たった1人で頑張っている夏美のことを思うと、今まで積み上げてきたものは無駄じゃなかったと素直に思えた。

そうだ、諦めない限り……道は続く。

 

凍えるような風が吹き付ける中、雪に覆われた地面を一歩一歩踏みしめ、車が停めてある司令部の裏手へと向かった。

 

「なんだか騒がしいですねー」

 

……?

 

龍馬に言われ、そこでなにやら辺りが騒がしいことに気づいた。周りを見回すと……雪の上を2つの影が走り回っている。

それは赤毛の少女と白猫のような少女だった、赤毛の少女はなにやら大きな円筒状の物体を持ち、白猫の少女を追い回している。

 

シャロ? メルル?

 

「こらー、待ちなさい!」

 

「イヤにゃ! クッキーはにゃーのものにゃ!」

 

追っているシャロと逃げるメルル。よく見ると、メルルは大きな袋を担いでおり、透明な袋の中にはパーティーで出したはずのジンジャークッキーが大量に入っていた。

2人の行動と会話から察するに、どうやらメルルがパーティーで出したクッキーを独り占めし、怒ったシャロがそれを取り返そうと追いかけているのだろう。

 

2人の元気な様子を微笑ましく思いつつ、車の方へ目をやると、視線に気づいたのか車の運転席に座るスノーがこちらを見上げた。

 

龍馬と共に車へ乗り込もうとしたその瞬間……

 

「あれ? 指揮官、まだいたんだ?」

 

……?

 

振り返ると、そこにはセラスティアがいた。いつものように青いツインテールを揺らし、こちらへと挑発的な視線を送っている。

だが、着ている服だけはいつもと違っていた。

 

その服は……?

 

「お! 流石指揮官、目の付け所が良いわね!」

 

そう言ってセラスティアは自分の服を見せつけるかのごとく雪の上でターンをしてみせた。

今、彼女は露出の少ない全身真っ黒な服を着ているのだが、それはどことなく、サンタクロースが着ている服にも似たデザインをしていた。

 

「どう? 似合う?」

 

似合ってるけど……これは……?

 

「ブラックサンタよ、知ってる? 」

 

ブラックサンタ?

 

「そ、クリスマスの夜に訪れるもう1人のサンタクロースよ」

 

セラスティアの話をまとめると、こうだった。

ブラックサンタはどこかの国に伝わる存在で、彼がクリスマスの夜に訪れるのは、主に悪いことをした子どもたちのところとされており、クリスマスプレゼントの代わりに生ゴミやガラクタをその子どもの元へ送るらしい

また、その子どもが相当なワルだった場合は、ガラクタなどが入った袋で寝ているところを叩きつける他、子どもを袋の中に入れて(しまっちゃうおじさん的な)地獄へ連れて行ってしまうという恐ろしい存在だった。

 

「ふふん、指揮官も悪いことをしたら寝込みをブラックサンタに殴られて、変なところへ連れていかれちゃうかもしれないわね?」

 

それは、怖いね

 

セラスティアが(雪が大量に詰め込み)鈍器と化した袋をハンマーのように振り回す素振りをしてみせたので、こちらはあえて大げさに怖がってみせた。

しかし、セラスティアはなぜそんな恐ろしい服を着ているのだろうか……いや、今更言うまでもない

 

そんなにまでして、サンタクロースを捕まえたいの?

 

「それは勿論、負けず嫌いだからよ!」

 

そう言ってセラスティアは自身たっぷりというように胸を反らした。

驚くべきことに、セラスティアが着ているのは彼女が半年をかけ、今日のためだけに開発を進めてきたものだそうだ。一見するとなんの変哲も無い黒い服に見えるが、服の内側には体温調節装置が埋め込まれており、長時間の雪中行動が可能となっている。その他……伸縮性の高い繊維を利用しており設定をいじれば誰でも着ることができる、防水加工も万全、超軽量でありながら多少のパワーアシストも備わっている。さらに彼女が履いている靴も、雪の上を歩くことを想定して沈み込みを軽減すべく新たに開発されたものを使用している……とのことだった。

 

「去年はまんまと逃げられたから、今年は絶対に捕まえるわよ! いいわね、みんなー!」

 

セラスティアがそう言って後ろを振り返ると、司令部の影からぞろぞろと、彼女と同じ服を着た者たちがまるで黒い壁のように一列になって姿を現した。(KKKじゃあるまいし……)

 

そこにはスロカイ様をはじめとする機械教廷の面々もいれば、先ほどまで追いかけっこをしていたはずのシャロとメルルもいつのまにか列に混じってブラックサンタの格好をしている。

 

おぉ……

サンタクロースの捕獲という目標の元、ここにあらゆる民族と人種の垣根を超えた1つのまとまりができたことに、思わず感心してしまった。

だが、それも長くは続かず……

 

「おい。なぜお前が仕切っているのだ?」

 

スロカイ様の言葉に、まとまりは早くも空中分解を起こしかける。

 

「それは勿論、このセラスティア様の発案だからよ」

 

「はあ? それだけか?」

 

「なによ、何か文句でもあるわけ?」

 

「いや、お前のような天才(笑)には仕切られたくないのでな。こっちはこっちで勝手に動かせて貰うぞ」

 

「誰が天才(笑)よ!」

 

セラスティアは青筋を浮かべ、スロカイ様へ視線を送り

 

「いいわ! どっちが先にサンタクロースを捕まえられるか勝負よ! 姉に勝る妹がいないってことをここで証明させてあげるわ!」

 

「誰が妹か! この天才もどきが!」

 

「なんですってぇ!?」

 

どうやら、彼女たちが完全に一致団結するにはまだまだ時間がかかりそうだった。小さくため息をついてスノーの運転する車に乗り込み、3人揃って基地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

「12の月の小夜曲」(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンタクロース捕獲作戦、チーム分け

 

「ねぇ、そこのあなた?」

 

「む?」

 

その呼びかけにスロカイが振り返ると、そこには紫髪の女性が佇んでいた。白い肌に赤い唇、そして豊満な肉体。その女性の内側からは妖艶な雰囲気が放たれており、まさに色欲の化身と呼ぶにふさわしい魅力があった。

 

「なんだお前は?」

 

「アタシはアマンダ。ソロモンの鍵出身よ」

 

「ソロモンだと?」

 

「……ッ!」

 

アマンダと名乗る女性の言葉に疑問符を浮かべたスロカイだったが、その隣に控えていたマティルダは違った。どこからともなく二本のパワーソーを取り出し、スロカイを守るようにアマンダの前に飛び出した。

 

「……陛下に何の用だ」

 

マティルダはソーを構えてアマンダを睨みつけた。

 

「ウフフ、そんなに身構えなくていいじゃない」

 

「答えろ! ソロモン!」

 

「別に、ただ……よければサンタクロースを捕まえるのを手伝ってあげようかなと思ってね」

 

「なんだと……?」

 

「落ち着け、マティ」

 

スロカイは尚もアマンダへ威嚇するマティルダの肩に手を置いて彼女を落ち着かせ、アマンダへと視線を送った。

 

「アマンダとか言ったな? 悪いが余は、お前がソロモンであろうがなかろうが異教徒と手を組むつもりはない、下がれ」

 

「あら? いいのかしら」

 

スロカイはアマンダを追い返そうと払うように手を振ったが、アマンダは小さく笑うだけで一歩も引く様子はないようだった。

 

「人手は多い方がいいんじゃないの? 何しろ、サンタクロースは神出鬼没。いつ、どのタイミングで現れるのか分からない……でも、あなたたちは3人しかいない、たったこれだけの人数でこの基地全体をカバーできるとは思えないけど?」

 

アマンダはそう言ってスロカイ、マティルダ、ウィオラの順に視線を送った。

 

「別に、仲間に入れてくれないのならそれでもいいわ。アタシたちソロモンメンバーはあっちのお嬢さんのところへ行くから……ただ」

 

アマンダは自分の後ろでサンタクロース捕獲のための準備を行なっている青髪の少女をチラリと見た。

 

「負けたく、ないんでしょ?」

 

「…………」

 

その言葉に、スロカイは淡々とアマンダを見つめた。

 

「ソロモンの中でも精鋭のアタシたちがいれば勝利は確実……とまでは言わないけど、勝率はグーンと上がると思うわぁ? うふふ、どうかしら?」

 

アマンダの提案に、スロカイは少しだけ考えた後……

 

「まあ、たまにはいいかもしれんな」

 

そう言って小さくため息をついた。

 

「陛下!?」

 

一切の油断なくソーを構えていたマティルダは、信じられないとでも言うかのような表情で自分の主人を見つめた。

 

「陛下! いくら戯れとはいえ、ソロモンはかつて陛下の命を狙った組織なのですよ! それなのに、この女と……ソロモン出身の者と手を組むなど……」

 

「確かに、そんなこともあったな」

 

「ではなぜ……」

 

「決まっているだろう? こやつらの実力は確かだ利用する価値は十分にある。いや、何より……余は、あのふざけた天才もどきには負けたくないのだ」

 

そう言ってスロカイはチラリと遠くのセラスティアを見やった。

 

「どうやら決まりのようね。昔は色々あったみたいだけど、今日だけはそれを忘れて一緒に楽しみましょう?」

 

「ふん、貴様らのやったことを忘れるつもりはないがな。ところで女、お前はこの同盟の果てに……余に、何を求む?」

 

「何もないわ。強いて言えば……何か面白いことが起きそうだから、とでも言っておきましょうかね」

 

「ん、なんだそれは?」

 

「ふふっ、ただの女の勘よ」

 

 

 

チーム①【教廷・ソロモン連合】

メンバー

・スロカイ

・マティルダ

・ウィオラ

・アマンダ

・メルル

・セイン

・蘇瑞

 

 

 

「〜♫」カキカキ……

スロカイの命令に従い、ウィオラは回ってきたボードにグループ名とメンバー1人1人の名前を記入した。

それを横から見ていたスロカイは、空いたもう1グループの枠を見てニヤリと笑うと……

 

「では、あの天才もどきのチームはその他諸々の有象無象ということか。よし、ウィオラ、代わりに書いてやれ」

 

「誰が有象無象よ!」

 

「〜♫」カキカキ……

スロカイの言葉に苛立ちをみせるセラスティアだったが、ウィオラはもう1つの枠にさっさとペンを走らせた。しかし、新人の彼女は途中で相手方のメンバーの名前を1人も知らないことに気づき、少しだけ考え……すぐにまた書き始めた。

 

 

 

チーム②【有象無象】

メンバー

・(その他)

 

 

 

「ほ、本当に書くなんて!」

 

「っていうか、その他って……」

 

「ええい、もう! 貸しなさいよ!」

カキカキ……

 

ボードの中に書かれた文字を見てセラスティアとシャロが怒りを露わにしていると、その間に『松ぼっくり』という名のリスを連れた少女、シアがウィオラからボードを奪い取り、文字の上に取り消し線を引き、それからまたグループ名とメンバーの名前を書き始めた。

 

 

 

チーム②【有象無象】→【サンタクロース捕まえ隊】

メンバー

・(その他)↓

・シア

・セラスティア

・五十嵐命美

・カロル

・アン

・クソガキ(シャロ)

 

 

「ふぅ……よし! これで完璧ね!」

 

「ちょっと! おかしいよね!」

 

やけにキラキラとした営業スマイルを浮かべるシアに対し、シャロは自分の名前が1人だけおかしいことに抗議の声を上げた。

 

「なによ! うるさいわね、クソガキ」

 

「クソガキはそっちでしょ! っていうか、あたしはお子ちゃまじゃない、この『あだると』で『せくしー』なシャロ様の美貌が目に入らないの?」

 

そう言ってシャロは自分の『ない胸』を反らした。

 

「でも……思ったより参加人数が集まりませんでしたね、セラスティアさん」

 

「それは……仕方ないじゃないの……」

 

シアとシャロが五十歩百歩の論争を繰り広げている間、命美はセラスティアと共に参加している全員を見渡していた。

 

「ええ。参加を希望していたクルスとドリスはパーティーで遊び疲れてダウン、ソフィアはサンタクロースが来るからって早くも就寝の準備に入っていますし、他の人たちも……」

 

命美はため息をついてそう告げた。

補足すると、レイアは次の公務があるため帰国、リンダはフェードアウト、ヒルダは仕事の都合で街へ、テイラーは明日に備えてノイジーバットを護衛に付けて帰宅、シェロンは形式的とはいえ基地を任されているため論外(そうでなくとも面倒くさがり屋の彼女が参加することはないのだが)その他……基地スタッフも適当な理由で参加を見合わせている。

 

「こっちは6人、あっちは7人……数では負けてるわね」

 

ボードを見下ろして呻くセラスティア

 

「なんだ? 戦う前から負けを認めるのか?」

 

そんなセラスティアにスロカイは嘲笑を送る。

 

「み、認めたわけじゃないわよ! 戦いにおいて、数の差が全てではないことを、教えてやるわ!」

 

「そうだな、数だけで戦争の勝敗は決まらないことは歴史が証明している。だが、お前のところは見たところ、何ともちんまりとしたグループではないか。ハッ、ガキどもの集まりに一体なにができるというのだ?」

 

「「ガキって言うなッッ!」」

 

いがみ合っていたシアとシャロが同時に声を上げた。

 

「っていうか、アンタだってちっちゃいでしょ!」

「アンさん! お、落ち着いてください!」

 

遠くから今まで惨めなエールの送り合いを傍観していたアンも「ちんまり」という言葉にカチンときたのか、持っていたピコピコハンマーを振り上げて今にも飛びかかりかねない様子だった。

かろうじて、それをカロルが止めている。

 

「むっふっふ、あっちのグループはみんなお子ちゃまばっかりだにゃ! これなら楽勝にゃー!」

 

「よーし、サンタクロースを捕まえるぞー! セインも、一緒に頑張ろうねー!」

 

「ん……サンタクロースを捕まえたら、奪ったプレゼントは研究材料の引き換えに使ってもいいよね? じゃあ、頑張る」

 

同じソロモン出身で仲のいいメルル、蘇瑞、セインは横に並んでワクワクしたようにサンタクロースの出現を今か今かと待っているようだった。

 

 

 

それから1時間後……

 

 

 

「あ! あれを見て!」

 

その時、事態が動いた。

 

『…………』

 

それは司令部から少し離れたところにある、鉄塔の上に突如として出現した。赤色を基調とした服装と帽子、真っ白なおひげを蓄え、顔は帽子とおひげに隠れてよく見えない。そして太っちょな体型の彼は、そのお腹よりも大きな袋を抱えていた。

 

「来た!」

 

セラスティアは興奮気味に鉄塔の上を仰ぎ見た。

 

「サンタクロース! ここであったが1年ぶり、今年こそアンタをとっ捕まえて、その正体を暴いてやるんだから!」

 

「……あれが、サンタクロースなのか?」

 

1年前にも見たサンタクロースに対して敵対心を露わにするセラスティアに対し、サンタクロースを初めて見るスロカイは、まさか本当にいたのかと驚きを隠せないようだった。

 

「む……?」

 

そして、あることに気づき、スロカイは眉を潜めた。

 

「おい、天才もどき」

 

「なによ」

 

「サンタクロースというのは、3人いるのか?」

 

「え? そんなわけ…………あ」

 

そこで、セラスティアはようやく気づくことができた。

 

『…………』

『…………』

 

今まで影になって見えなかったのだが、太っちょサンタの背後にはさらに2人のサンタが隠れていた。次の瞬間、後ろの2人が飛び出して横並びにスロカイたちのことを見下ろしてきた。

太っちょサンタの右に立つサンタは、痩せ型で2回りほど背が低かった。一方、太っちょサンタの左側に立つサンタは、同じ痩せ型でありながら背の高い胴長の体型をしていた。

 

「サンタクロースが3人?!」

 

その場にいた全員に動揺が走る。

 

『…………』

 

そんな彼女たちの心境を知ってか知らずか、中央にいた太っちょサンタが右腕をバッと上げると、その両隣にいた痩せ型と胴長型のサンタが鉄塔から飛び降りた。

 

あっ!

驚く間も無く、2人のサンタは10メートルほど下の地面へと華麗な着地を決め、その場にいた女性たちを囲むように移動を始める。

 

『…………』

 

「え? え?」

 

「な……何なのよ、コイツら?」

 

胴長のサンタクロースを前にして、シャロとシアが戸惑ったような声を上げる。

 

『…………』

 

「陛下! おさがり下さい!」

 

「ここは私共が!」

 

立ち塞がった痩せ型のサンタクロースを前に、マティルダとウィオラはそれぞれ得物を構えて対峙する。

 

『…………』

 

そして、しばらくの間硬直状態が続いた後……鉄塔の上に佇む太っちょサンタが、その懐からおもむろに筒状の何かを取り出すと、それを自分の真上に掲げ、スイッチを押した。

 

 

 

ヒュルルルル…………バーン

 

 

 

「これは……?」

「花火?」

 

スロカイの言葉を付け足すようにセラスティアが呟く

太っちょサンタの掲げた筒の先から、一筋の曳光弾が上空に向けて放たれた次の瞬間、依然として雪が降る夜空の中に、一輪の巨大な花が咲いた。

 

『…………』

『…………』

 

サンタクロースの意味不明な行動にその場にいた全員が疑問符を浮かべている中、胴長型と痩せ型、2人のサンタは花火を見て小さく頷くと……その場で回れ右をして、全速力で駆け出した。

 

「え?」

「は?」

 

とても人とは思えない速度で雪の上を走るサンタクロース。その場にいた全員を置いてけぼりにして、サンタたちは司令部から離れたところにある格納庫の方向へ消えた。

一同はしばらくそれを呆然と見続けていたが……

 

蘇瑞「あー! 逃げたー!?」

 

カロル「お、追いましょう!」

 

メルル「でも、どっちを追えばいいにゃ!?」

 

セイン「……3人いるってことは、偽物も混じっているということ?」

 

アン「いや、どれが本物でどれが偽物かなどと言った真偽は、この場においては関係ないだろうな」

 

命美「そうね! こうなったら全員、取っ捕まえればいいのよ!」

 

命美の言葉に、【機械教廷・ソロモン連合】のメンバーは痩せ型のサンタクロースを、【サンタクロース捕まえ隊】のメンバーは胴長のサンタクロースを追って、雪の中を走り出した。

 

「状況が変わったな」

 

「ええ、そうね」

 

他のメンバーがサンタクロースを追って雪の中を走り出す中、スロカイとセラスティアはその場に残って密かに言葉を交わしていた。

 

「では、最も多くサンタクロースを捕まえることができた方の勝利……ということでどうだ?」

 

「なるほど、分かりやすい決着の付け方ね」

 

お互いにニヤリと流し目で見つめ合った後、2人は……鉄塔の上に佇むサンタクロースを見上げた。

 

『…………』

 

鉄塔の上のサンタクロースは、そんな2人を淡々と見下ろしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

『…………』

 

格納庫の中に入った胴長型のサンタは、ちょうど格納庫の中心部に当たるその場所まで来ると、足を止めてジッとその場で佇んでいた。

それはまるで、追っ手が到着するのを待っているかのようだった。

 

「いた、こっちだよ!」

 

サンタを追っていち早く格納庫へと到着したシャロは、後続へサンタクロースの発見を報告し、サンタクロースへと近寄る。

続いてカロル、五十嵐命美、アン、シアが到着し、そのまま5人から囲まれる形になったものの、しかし胴長型のサンタは全く動じることなく一同を見返した。

 

「逃がさない!」

 

シャロはそう言って、持っていた円筒状の物体をサンタに向けて構えた。黒い砲身のようなそれは、ハンターネットの発射装置だった。

巨大なワイヤーネットを放って目標を捕縛するその武器は、元々は対BM用にシャロが開発したオリジナルの装備だったのだが、今回のハンターネットは対人(サンタクロース用)にアレンジが施されたもので、自分(子ども)でも携行できるように軽量化と小型化がなされていた。

 

殺傷能力はないが、元々が対BM用であるため直撃時の衝撃は凄まじく、当たればそれなりに痛みを伴う。

 

しかし、そんなものを向けられてもサンタクロースは身動き一つしなかった。

 

「当たれー!」

 

シャロはハンターネットのトリガーを引いた。

 

砲身から勢いよく飛び出したネットは、射出されたと同時に大きく広がり、まるで海中のプランクトンを飲み込むジンベエザメのようにサンタクロースの体へと殺到し……

 

「え?」

 

次の瞬間、シャロは言葉を失った。

 

『…………』

 

サンタクロースの足元には、真っ二つに切り裂かれたハンターネットの残骸。そしてサンタクロースの手には、いつのまにか一本のブレードが握られていた。

 

高速で飛来するハンターネットが体に巻きつくよりも早く、胴長型のサンタクロースはブレードでハンターネットを切り裂いたのだ。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

一方その頃……

痩せ型のサンタクロースを追う【機械教廷・ソロモン連合】

 

『…………』

 

シャロたちがいる格納庫とは別の格納庫内にて、痩せ型のサンタはその驚異的な脚力を発揮し、ハンガーに吊るされた機体から機体へと飛び移っていた。それはまさに、深いジャングルの中で木々の間を飛び回るサルのようだった。

 

「待つのにゃ!」

 

「陛下のために!」

 

それを追う、2つの影

白猫のような少女、メルルは持ち前の身体能力を発揮してサンタクロースと同様、機体から機体へと飛び移り、体を機械化させた少女……マティルダもまた自らのアドバンテージを活かしてサンタクロースを追い詰める。

 

『…………!』

 

そして、その時は訪れた。

輸送機の上へと降り立ったサンタクロースが、機体上部の凹凸につまずき、そのまま体のバランスを崩して転倒してしまった。

 

「今だにゃ!」

 

それを好機と見たメルルは、輸送機の上へと降り立ち、サンタクロースと同じ穴を踏まないよう慎重に輸送機の上を走ってサンタクロースへと迫る。

 

「(たま)とったにゃ!」

 

そして、メルルの爪がサンタクロースの心臓を捉えようとした……次の瞬間

 

 

 

『…………!』

 

 

 

バチバチバチ……!

突然、痩せ型サンタの体から強烈なスパークが放たれた。

 

 

 

「ぎにゃあああああああああああ!?」

 

サンタが放った電撃を受け、メルルは訳も分からないまま感電。身体中から煙をたなびかせた彼女は、目を回して千鳥足になり輸送機の上をヨロヨロとする。

 

「な?! 電撃だと!?」

 

それを間近で見ていたマティルダは電撃の第2射に備えて一旦下がろうとするも、目の前でメルルが輸送機から落ちかけているのを見て、なんとか踏み止まった。

 

方向感覚を失い、ヨロヨロと輸送機の端へと歩いていくメルル。マティルダは彼女が落下してしまう寸前でなんとか突き飛ばすことに成功し、2人揃って輸送機の上を転がった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「し……心配しないで……にゃーは九つの命を……」

 

よく分からないことを口走り無事を主張するメルルだったが、目を回している以上、サンタクロースの追跡は困難なようだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「あ……あたしのネットが……!」

 

一方、胴長型サンタを追う一行。

シャロは目の前の光景が信じられないと言わんばかりの表情でサンタクロースを見つめていた。

 

「ここは私が!」

 

相手のブレードに対抗すべく、騎士見習いのカロルは持っていた剣を抜いてサンタクロースと対峙……そして、勢いよく斬りかかった。

 

「くっ……!」

 

しかし、サンタクロースの驚異的なパワーに押され、カロルの剣はあっけなく弾き返されてしまった。

 

「ならば!」

 

後方へと吹き飛ばされるカロルに代わってサンタクロースの前に歩み出たのは小柄な金髪の少女……アンだった。

アンは一見すると小さくて可愛い少女にしか見えないのだが、これでもミョルニル公国の女大公であり「神の槌」と呼ばれるほどの強者だった。

 

アンはこの日のために準備したピコピコハンマーを構え、彼女の得意技である「巨神の一撃」を発動させ、サンタクロースへと迫る。

 

「なに!?」

 

しかし、巨大なピコピコハンマーの一撃がサンタクロースを捉えることはなかった。胴長型のサンタはその身体能力を活かしてアンの攻撃を回避すると、そのまま囲みから離れた別の場所へと着地する。

 

「やるわね……あのサンタクロース……」

 

攻撃の手段を持たず、何もすることができない命美。彼女は悔しそうに戦いの行方を見守ることしかできなかった。

 

命美「シャロ! ハンターネットの再装填急いで!」

 

シャロ「ごめん。アレ、単発で……」

 

カロル「ど……どうしましょう、アンさん」

 

アン「どうしようもないわ! くっ……せめて一瞬でも隙を見せてくれれば……」

 

 

 

「何よ! みんな使えないわね!」

 

 

 

シャロや命美が弱気になっている中、しかし、シアだけは違っていた。その場に流れる良くない雰囲気を発散させるかのように声を上げ、サンタクロースの前へ出る。

 

「つまり、隙を作ればいいんでしょ?」

 

『…………?』

 

シアの言葉に、サンタクロースはブレードを構えた。

 

「どうやら、このシア様の奥義を見せる時が来たようね!」

 

奥義……?

シアの力強い言葉に【サンタクロース捕まえ隊】の全員が期待の眼差しを浮かべ、固唾を飲んで見守っていると……

 

 

 

「喰らいなさい! シアーハートアタック!」

(訳:シアの心攻撃)

 

 

 

そう言ってシアは、彼女の肩に乗っていた「松ぼっくり」と言う名のリス(心の友)をおもむろに掴み上げると、それをサンタめがけて投げつけた。

 

 

 

松ぼっくり「キュ〜〜〜〜〜?!」

(訳:「コッチヲ見ロッ!」)←嘘

 

 

 

『!?』

 

何かが来ると踏み、ブレードを深く構えていたサンタだったが、まさかリスが飛んで来るとは思いもよらず、驚愕した。

流石にリスを叩き斬る訳にもいかず、しかし迎撃態勢から唐突な回避へと転ずることもできず、サンタクロースは棒立ちのままリスと正面から激突してしまった。

 

(えぇ……)

まさに『友達はボール!』である! ヒドイ!

シアの残虐非道な行いに、その場にいた全員がドン引きした! これには動物愛護団体も真っ青である!

 

松ぼっくり「キュ!」

(訳:「今ノ爆発ハ人間ジャネエ!」)←嘘

 

『あっ!』

 

その際、運良くリスの足がサンタクロースのブレードに当たり、サンタクロースの手からブレードが転がり落ちてしまう。ワザマエ!

 

「隙ができた! い、今よ!」

 

サンタクロースの見せた隙に、命美は慌てて攻撃の指示を送った。

 

「はあああああッッッ!!」

 

「うりゃあああああああッッッ!!」

 

次の瞬間、サンタクロースめがけてカロルとアンが同時に飛びかかった。

 

『!!!』

 

カロルの鋭い斬撃とアンの強烈な打撃を受け、サンタクロースの体がゆっくりと倒れた。

 

「よくやったわ、松ぼっくり! 」

 

一同「…………」

 

「って……みんな、なんでそんな可哀想な目で松ぼっくりを見るの……? 私はそんなヒドイ事はしてな……」

 

【サンタクロース捕まえ隊】

サンタクロースの確保に成功

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

一方その頃、反対側の格納庫にて……

 

『…………』

 

メルルを倒し、マティルダの追跡を振り切った痩せ型サンタは、物陰に隠れて周囲の様子を伺っていた。そして、辺りに誰もいないことを確認し、一息ついたその時だった……

 

「みぃ〜つけた」

 

『!!!』

 

突然、背後から響き渡ったその声に、痩せ型サンタはびくっと反応した。その驚きようと言えば、漫画か何かのようにその場で飛び上がってしまうほどのものだった。

 

「うふふ、そんなに驚かなくてもいいじゃない?」

 

サンタクロースが振り返ると、いつのまに背後を取っていたのだろうか、ほんの数メートルほど先に、紫髪の妖艶な女性……アマンダが佇んでいた。

 

「ねぇ、サンタさん?」

 

『?』

 

「私と…… イ・イ・コ・ト してみない?」

 

『!?!?』

 

アマンダの意味深な提案に、サンタクロースはおひげと帽子で顔を隠す事はできても、戸惑いまでは隠すことはできないようだった。

 

「あらあら〜照れちゃって〜、可愛い……」

 

『…………!?』(ブンブン)

 

まるで心を完全に見透かしているかのように語るアマンダ。サンタクロースは首を大きく横に振って否定するも、アマンダから発せられる恐ろしい雰囲気を感じ取ったのか、後ずさりを始めた。

 

「今日は……クリスマスイブ。1年に一度しかない、とってもステキな日……こんなロマンチックな日には、いつもとちょっと違う、トクベツなケイケンをしてみたくなっちゃうの……あなたもそうでしょう?」

 

『……っ』(ぶんぶん)

 

「そう恥ずかしがらないでぇ。あなただってこの時期は、誰かの温もりを求めたくなるでしょう? でも、それは当然のこと。雪の寒さは人肌を恋しくさせるもの……誰かの熱で、自分の体を温かく包み込んで欲しいのよね?」

 

『ッッッッッ!?』(びくっ)

 

追い詰められるサンタクロース

アマンダはそんな彼の目と鼻の先まで迫ると、彼の耳元にそっと息を吹きかけ……それから、着用しているブラックサンタのコスチュームに手をかけ……

 

「さあ……私といっしょに、一生に一度の思い出に残る、最高の性夜を過ごしましょう〜」

 

そう言って、自分の裸体を見せつけることに快楽を抱く変質者のごとく、バッ……と、ブラックサンタの服を脱ぎ捨てた。

 

 

 

『ぎゃあああああ!!!』

 

 

 

そして、中から現れたアマンダの(世にも恐ろしい、例の)クリスマススキンを見て、サンタクロースは悲鳴をあげた。

 

バチバチバチ……

再び、サンタクロースの体から防衛本能によるスパークが放たれ、電撃がアマンダの体に殺到する。

 

『…………!?』

 

あのメルルさえも一撃で戦闘不能に追い込んだ電撃を、しかしアマンダはその直撃を受けても倒れる様子はなく、しかも痛がる素振り一つ見せなかった。

 

「それ、私の……ぶ・ん・し・ん」

 

『……!!』

 

背後に嫌な気配を感じたサンタクロースは、咄嗟にその場から逃げようと試みるも……

 

「捕まえた〜」

 

サンタクロースが跳躍するよりも早く、背後から物凄い力で抱きしめられ、サンタクロースは身動きが取れなくなってしまう。

 

「ああん、もうっ……暴れちゃだーめ」

 

サンタクロースを抱きしめるアマンダ。彼女は事前にスキル「窮地の幻影」を使って自分の分身を生み出し、真正面から話をすると見せかけてサンタクロースの背後に回り込んでいた。

 

ちなみに「窮地の幻影」は自身の体力が少なくなった際に発動できるスキルなのだが、どうやって彼女が自分の体力を減らしたかについては、各自で察していただきたい。

 

「さあ、お姉さんとロマンチックで熱い夜を過ごしましょう〜?」

 

『……っ!? 〜〜〜ッッッ』

 

顔面蒼白になったサンタクロース。彼はアマンダから逃れようと、必死な様子で両手両足をバタつかせるが……

 

「動くな!」

 

『…………!』

 

突如として真正面に着地したマティルダにパワーソーの刃を突きつけられては、最早抵抗のしようがなかった。

 

「あれ〜? もう終わったの〜?」

 

「プレゼントは?」

 

そこへ続々と駆けつけるソロモン組

(メルルはウィオラにおんぶされている)

蘇瑞とセインはサンタクロースからプレゼントが入っていると思わしき袋を奪い取ると、和気藹々とその中身を物色し始めた。

 

「あなたもプレゼントを貰ってきたらぁ?」

 

「いや、私は陛下のご意向に沿うことができれば、それで十分だ」

 

「ふぅん、真面目ねぇ」

 

ピクリとも動かなくなったサンタクロースを抱きしめつつ、アマンダはマティルダの言葉に少しだけ感心を抱いた。

 

「それじゃあ、私へのプレゼントはこのボウヤってことね」

 

「ボウヤ?」

 

アマンダがサラッと発したその言葉に、マティルダは引っかかりを覚えた。マティルダの視線が、アマンダの胸の中でぐったりとしている痩せ型のサンタクロースへと移る。

 

「お前……こいつの正体が分かるのか?」

 

「当たり前よぉ〜」

 

そう言って、アマンダはサンタクロースから帽子を取り上げた。

 

【機械教廷・ソロモン連合】

サンタクロースの確保に成功

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「オッケー、よくやったわ!」

 

命美からサンタクロース確保の報せを受けたセラスティアは、通信機をポケットにしまい、それから勝ち誇ったようにスロカイへと視線を送った。

 

「こっちではサンタを捕まえることができたわ! アンタのところはどうかしら?」

 

「奇遇だな、こっちでも1人……捕まえたぞ」

 

スロカイもニヤリと笑い、通信機をポケットに収めた。

 

「へぇ……じゃあ、同点ってわけ」

 

「まあ、それもすぐに変わるがな」

 

一瞬だけ火花を散らせた後、2人は同時に鉄塔の上を見上げた。

 

『…………』

 

最後に残った太っちょのサンタクロースは相変わらず鉄塔の上に佇み、ジッと2人のことを見下ろしていた。

 

「あいつを先に捕まえた方が勝ちってことね。言っとくけど、私は勝利を譲るつもりはないから」

 

「それはこちらのセリフだ、ここで引導を渡してやる」

 

セラスティアとスロカイがそんな言葉を交わした直後……

 

『…………!』

 

なんの前触れもなく、サンタクロースは鉄塔の上からダイブし、雪の上に華麗な着地を決めた。

そして、スロカイとセラスティアに背を向け、雪の上をとてつもない速さで走り始めた。

 

向かう先は、目の前に広がる滑走路を隔てた格納庫

 

「待ちなさい!」

 

サンタクロースを追って走るセラスティア

だが……

 

「はぁ……はぁ……」

 

しかし、数十メートルほど走ったところで息切れを起こし、足を止めてしまう。彼女が息を整えている間に、スロカイは歩いてセラスティアを追い越してしまった。

 

いくら服のパワーアシスト機能があるとはいえ、コンクリートで舗装された普通の地面を歩くのと、積もり積もった雪の上を歩くのとは訳が違った。

 

「お前は何をしておるのだ?」

 

「ず……頭脳労働派なのよ! 私の天才さは!」

 

「ハッ、情けない奴め」

 

スロカイはそう言って肩をすくめてみせた。

 

「く……っ、大体、この基地広すぎなのよ!」

 

そう言ってセラスティアはどこまでも広がる滑走路と、その傍に並ぶいくつもの格納庫を見渡した。

 

「まあ、ここの戦力は既に小国のそれに匹敵するからな。それを運用するためには、それなりのキャパシティは必要だろう。もっとも……我が機械教廷にはまだ遠く及ばぬがな」

 

スロカイは傍で荒い息を吐いているセラスティアから目を離し、その視線を雪の上の……とある一点へと向けた。

雪に覆われた滑走路の一点、そこに佇むサンタクロースは、自分の動きについてこられない2人の様子を見て、余裕たっぷりというように手を振っていた。

 

「舐められたものだな」

 

「え?」

 

「そろそろ、本気を出すとしよう」

 

え? こいつ……もしかしてスポーツ万能なの?

自信ありげなスロカイの言葉に、セラスティアがそう思いかけたその時だった。

 

 

 

「来い! 『ハンニバル』!」

 

 

 

次の瞬間、2人から見て前方の滑走路が割れ、そこから巨大な竜巻が噴き出し……いや、竜巻は竜巻でも、それは鋼鉄の竜巻だった。

葵博士の所有する工作艦ダイダロス2号と同等の全長を誇る、巨大な黒いミミズのようなその機体は、高速回転しつつニョキニョキと地面から飛び出し、スロカイの前で頭を垂れた。

 

すると、先端のドリルがパカっと割れ、その中にはコックピットへと通じるハッチとタラップが出現した。

 

「サンタクロースを捕まえるのは、この余ぞ!」

 

呆然と立ち尽くすセラスティアに向けて、スロカイは高らかにそう告げた。それからタラップに登り、ハンニバルへと乗り込む。

 

「ちょっと! そんなの使うなんて卑怯だわ!」

 

「卑怯? それは、負け犬の遠吠えだな」

 

「ぐっ……!?」

 

「では、な。貴様はそこで見ているがいい!」

 

やがてハンニバルが動き出し、まるで蛇のように滑走路上を移動し始めた。その向かう先は、格納庫の前で慌てふためくサンタクロース

 

「このままじゃ……!」

 

どうにかしてスロカイよりも先にサンタクロースを捕獲したいセラスティアだったが、そもそも彼女の足ではサンタクロースに追いつくことすら叶わない。それに対してハンニバルはその巨体ゆえに歩幅(正確には這っているのだが)が大きく、サンタクロースに追いつくのは時間の問題だった。

 

「何か……何か手はあるはずよ!」

 

そうして、セラスティアは周囲を見回した。

格納庫に行けばBMの1台や2台はあるのだろうが、ここから格納庫まではまだ大分距離がある。

格納庫まで機体を取りに行ったとしても、走って、機体を探して、乗り込んで、装備を整えて、発進する頃には、スロカイはサンタクロースを確保していることだろう。それでは遅すぎる……

 

一応、天才であるセラスティアは頭の回転も早く、一瞬でそう判断することができた。しかし、それが一体なんだと言うのか?

 

それでも負けず嫌いのセラスティア、何かないかと視線を巡らせ、背後の司令部へと振り返ったその時……そして、ついに「それ」を目撃した。

 

「あれは……?」

 

司令部の隣に、不自然に積もった雪の山

 

セラスティアは一か八かの勝負に出た。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「これまでだ」

 

『…………!!』

 

あっという間にサンタクロースを追い詰めたスロカイは、まるでとぐろを巻くようにサンタクロースの退路を塞ぎ、ドリルの先端をサンタクロースに向けた。

最早、サンタクロースに抵抗の余地はなかった。

 

「さあ、大人しく我が軍門に……む?」

 

今まさにサンタクロースを捕らえようとしたその時……背後から殺気を感じ、スロカイは反射的に機体をブレイクさせた。

 

その最中、こちらへ迫り来るミサイルを目撃した。

 

「なにっ!?」

 

思いもよらぬ事態にスロカイは驚愕しつつも、機械神の加護によるバリアを展開し、落ち着いてミサイルを処理した。

 

「貴様……なんの真似だ?」

 

シールドを解除し、スロカイは雪の舞い散る夜空に浮かぶ1機のBMを睨みつけた。右腕にライフル、単独飛行を可能とさせるバックパックにはビームキャノンとミサイルランチャーが装着され、両腕にはドローン砲を内蔵したシールドを装備している。

そして、何よりも特徴的なその黄金の輝き。見る者を魅了する、その美しい輝きは、雪雲に覆われた空に突如出現した「金色の月」のようだった。

 

「ふっふっふ……」

 

黄金色のBMから不敵な嘲笑が響き渡る。

 

「お前は……」

 

「黄金は王者の色」

 

かつてのパイロット、オスカーの格言を引用したその言葉に反応するかのように、黄金色の機体……『ウァサゴG』のメインカメラが、自らのボディから放たれる輝きにも劣らぬ、強い光を放った。

 

「つまり……1位の色!」

 

ウァサゴGに乗り込んだセラスティアは、そう言って両腕を(「すしざんまい」「バエルポーズ」)軽く上げ、スロカイの乗るハンニバルを見下ろした。

 

「は?」

 

意味が分からず、スロカイは首を傾げる。

 

セラスティアが乗っている機体は、昼間、買い出しから戻ってきた指揮官が司令部の隣に放置して、そのまま雪をかぶっていたウァサゴGだった。

これ幸いとウァサゴGに乗り込んだセラスティアだったが、不運なことに武装が一切積まれていなかった。そこで近くの格納庫を漁ってみると、不幸中の幸いと言うべきか……全てその場に置きっ放しだったので、すぐさま発進準備を整えることができた。

 

「これは運命ね……しかも、ドローン砲とミサイルもこんなに装備しているなんて……まさに、この天才セラスティア様に相応しい機体だわ!」

 

「おい、なんの話だ?」

 

「銀色のアレも良かったけど、それよりもっと良い、私にぴったりな機体がこんな身近にあったなんて……指揮官も見る目があったということね!」

 

「話を聞け!」

 

暴走したセラスティアに、スロカイは苛立ちを覚えた。

 

「そっか……この機体なら、私は1位になれる!」

 

セラスティアはライフルの銃口をハンニバルへ向けた。

 

「チッ……そういうことか」

 

放たれた火線を機械神の加護で防ぎつつ、スロカイは機体の胴体に内蔵されたミサイルポッドから、無数のドリルドローンを放った。

 

「これで条件はフェア!」

 

セラスティアはウァサゴGの空戦機動により、迫り来るドリルドローンを全て回避、お返しとばかりにライフルの銃口をスロカイへ向ける。

 

「先にこいつを倒して、後でゆっくりサンタクロースの正体を暴いてやるわ!」

 

「ハッ、できるものか!」

 

次の瞬間、黒と銀色の機体が交錯した。

 

『…………』

 

突如として発生した戦闘を前に、サンタクロースはただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「ちょこまかと……!」

 

必死にハンニバルを操るスロカイだったが、ここにきて機体の巨大さが仇となった。こちらに比べて小さく動きの素早いウァサゴGを中々捉えることができず、スロカイはイライラとしたものを感じていた。

 

「遅い遅い!」

 

セラスティアはそんなスロカイを嘲笑うかのようにハンニバルの上空を飛び回り、ライフルを放ち、ドローン砲とミサイルで撹乱した。

 

「硬いわね……」

 

煽るセラスティア。しかし、ウァサゴGの攻撃はハンニバルに対し効果が薄かった。それもそのはず、スロカイのスキル「機械神の加護」の前にはウァサゴGに搭載されたあらゆる武器は歯が立たず、しかもハンニバルの装甲は戦艦並みときた。

 

(いわば……2つの壁ってことね……)

 

上空からチマチマと攻撃しても無駄だと考えたセラスティアは、飛来するドリルドローンを避け、機体を地上へダイブさせた。

 

「ゼロ距離なら!」

 

セラスティアはハンニバルに対しゼロ距離攻撃を敢行するつもりだった。懐に飛び込んでしまえは敵はその巨体ゆえに反撃し辛く、また機体の周囲に展開されるバリアも意味をなさなくなる。

 

地面スレスレを飛行するウァサゴG、ドリルドローンの網を掻い潜り、ついにハンニバルの背中へと飛び乗った。

 

「これで!」

 

ライフルを突きつけた、次の瞬間……

 

「やはり、お前は天才もどきだな」

 

「!?」

 

咄嗟にシールドで防御していなければ、ウァサゴGはおそらく大破していたことだろう。強い衝撃に襲われ、ウァサゴGは大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ……一体何が……!?」

 

空中で機体を立て直したセラスティアは、状況を確認するべく顔を上げた。

 

「な……!?」

 

そして、驚愕した。

なぜなら、今まで蛇かミミズのように地面を這うことしかできなかったハンニバルが、いつのまにか姿形を変え、まるで人間のように直立二足歩行をしていたからだ。

ハンニバルはスロカイ主導の下、テクノアイズで開発された試作機だった。ドリルの持つ本来のアイデンティティである掘削能力を損なうことなく戦闘に活かすことをコンセプトとし……その結果、トランスフォームが可能な機体として誕生した。

これにより、地中を移動する「マッドアングラー形態」で敵の防衛線を無視して本拠地に進軍、その後は「BM形態」に変形し内側から敵を殲滅することを可能としていた。

 

そして今、BM形態へと変形したハンニバル

武装は右腕に巨大なドリルアーム、左腕に5連装200ミリネイルガン・アーム、全身の至る所にドリルドローンポッドを内蔵し、そして胸部にはアトミック焦土レーザーを装備していた。

通常のBMを遥かに超える大きさ(例えるならフリーダムに対するデストロイ)を誇り、その大きさもさながら、悪魔のようなその顔つきは、見るもの全てを圧倒するほどの存在感を放っていた。

 

「褒めてやろう、余をここまで本気にさせるとは」

 

そう言ってスロカイは巨大なネイルガンをセラスティアへと向けた。セラスティアは咄嗟に回避行動を取るも……5本の指から射出された巨大なネイルの雨を前に、FSフィールドを展開せざるを得なかった。

 

「ふん、不可視の壁か……だが、そんなものが一体いつまで保つというのだ?」

 

スロカイは撃ち尽くしたネイルガンのリロードを行いつつ、続いて全身のドローンポッドを展開……装填と同時に順次、ドリルドローンを射出した。

 

「くっ……」

 

無数のドリルドローンに追われるセラスティア。FSフィールドでその一部やり過ごすも、そこでフィールドの限界時間が訪れた。

 

「終わりだ、天才もどき」

 

その瞬間、スロカイは勝利を確信し、ありったけのドリルドローンを射出した。

 

「まだ! 終わりじゃないッ!」

 

迫り来るドリルドローンを前にセラスティアが叫ぶ。そして、彼女の赤い瞳がまるで種割れを起こしたかのように真紅に染まった。(元からです)

 

「はいーーやぁぁ!!」

 

次の瞬間、ウァサゴGから……いや、セラスティアの体から目には見えない何かが放たれた。それは迫り来るドリルドローンの1つ1つに影響を与え、その制御システムに障害を発生させ……

 

「なんだと?」

 

目の前の光景が信じられないというかのように眉を潜めるスロカイ。それもそのはず、放ったドリルドローンの、その全てがウァサゴGに届く前に地面に落下し、爆発してしまったのだ。

 

「どう? これが私の『マインドゾーン』よ!」

 

全てのミサイル・ドローンを支配下に置く、セラスティアのアクティブスキル。そして、それは次の攻撃への布石でもあった。

 

「今度はこっちの番よ!」

 

セラスティアはウァサゴGの切り札を発動した。

専属能力「Gモード」により、ウァサゴGから放たれる黄金の輝きが、より一層強いものとなった。

 

そして、マインドゾーンの発動をキーとして、セラスティアの攻撃スキル「ソウル」も併発、Gモードとソウルの重ねがけにより、ウァサゴGの攻撃力は通常の3倍(くらい)となった。

 

「それがどうした?」

 

しかし、ただ黙ってやられるスロカイではなかった。ハンニバルの胸部装甲が割れ、中から巨大な砲門……焦土レーザーが出現する。

 

「いや、足りぬな『機械神』!」

 

ウァサゴGの装甲に耐ビーム塗装が施されていることを見抜いたスロカイは、焦土レーザーの威力を上げるために「機械神の咆哮」を発動。

ハンニバルの胸部に光が集まる。

 

一方、セラスティアはウァサゴGに内蔵されたありったけのドローン砲を展開し、それをライフルの周囲に束ねて配置した。

 

「「これで、決める!!!」」

 

両者がトリガーを引くのは、ほぼ同時だった。

 

光と光がぶつかり合う……その瞬間……

 

「え?」

「む?」

 

突如として上空から飛来した黒い影が、2人の間に割って入り……そして、その機体から発生した不可視の壁「FSフィールド」が両者の砲撃を無効化させた。

 

「あれは……?」

「ほぉ、アガレスとは」

 

それはソロモン工業製BM『アガレス』だった。

 

FSフィールドにより両者の攻撃を受け止めたアガレス。しかし、攻撃の余波でパイロットが脳震盪でも引き起こしてしまったのか、ほぼ無傷ながらゆっくりと雪の上に倒れてしまった。

 

それから少し経って、アガレスのパイロットがコックピットからのそのそと姿を現した。

 

『…………』

 

赤を基調とした服と帽子、真っ白なおひげと大きなお腹……

それは、例のサンタクロースだった。

サンタクロースは何とかコックピットから這い出ると、そのまま酒に酔ったおじさんのようにヨロヨロと雪の上へ降り立った。

 

それを見て、セラスティアとスロカイは本楽の目的を思い出した。2人はBMを操縦してサンタクロースの元へ駆け寄ろうとするも、なぜか両者ともに機体が動かなくなってしまっていた。

 

「パワーダウン? ふん、所詮は試作機ということか」

 

「くっ、メンテナンスがなってないわね!」

 

それぞれ悪態を吐きつつも、仕方なく2人はコックピットを開け、BMから飛び降り、雪の上へと着地して……

 

『…………!?』

 

2人はサンタクロースの元へと全力疾走した。

 

「1位は私よ!」

「勝利は渡さん!」

 

2人の手がサンタクロースに触れるのはほぼ同時だった。2人から引っ張られ、冷たい雪の上に引き倒されるサンタクロース

 

話し合ってもいないのに、まるで「同着の場合は先にサンタクロースの正体を暴いた方が勝ち」と最初から取り決めが行われていたかのように、2人の手がサンタクロースの帽子にかかった。

 

そして……

 

「「……………………は?」」

 

帽子が雪の上に落ちた頃には、2人の顔は固まっていた。

何故なら……

 

……や、やぁ……2人とも、メリークリスマス

 

帽子の下には、2人もよく知る顔があったからだ。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

さ……寒い、冷たいっ

 

身ぐるみ(サンタ服)を剥がされ、上着すら着けることを許されず、結束バンドで両腕を縛られ、雪の上に膝立ちの状態にされること数分……

頭に雪が降り積もり、雪に触れる足が絶望的に冷え切ったころ、それぞれの格納庫からぞろぞろと、捕獲したサンタクロースを連れてみんなが帰ってきた。

 

「それじゃあ、どういうことか説明して貰うわよ? …………指・揮・官」

 

セラスティアはやけにニコニコとした表情で尋ねてくるが、頭に青筋を浮かべている以上、それが彼女の激怒であることはよく分かっていた。

 

説明する前に足を崩してもいいでしょうか?

 

「は?」

 

……いえ、なんでもないです

 

「せ……先生……」

 

呼ばれ、その方向に目をやると……そこには、アマンダに抱きしめられ苦しそうに呻く、痩せ型サンタ……いや、サンタクロースの格好をした高橋龍馬がいた。

 

「た……助けて、先生……」

 

アマンダ、彼を離してあげて

 

「う〜ん、それはぁ指揮官の説明次第ねぇ」

 

そう言ってアマンダはさらに龍馬の体を強く抱きしめてみせた。なんてことだ……龍馬の瞳が徐々に虚ろなものへと変化していく。

そして、こちらを見つめるみんなの表情もどこか怪訝そうなものだった。どうやら、全てを打ち明けるしか解決の道は残されていないようだった。

 

「ま……待ってください!」

 

今度は反対側から声が上がる。

視線を移すと、そこには胴長型サンタ……の、格好をしたスノーの姿。スノーはこちらと同じく帽子を取られ、両腕を結束バンドで縛られているのだが、身ぐるみまでは剥がされていないので雪で体を冷やすことはないだろうと、一安心する。

 

「皆さん、誤解しています! 指揮官様は悪気があってこのようなことをしていたわけではありません! 全ては皆さんの……」

 

「それを、今から凡人に説明して貰うつもりなのだ」

 

スノーの弁護をスロカイ様は手で制した。

そして、ニヤリと笑ってこちらを見下ろしてきた。しかし、どこか明るい表情に対し……その瞳は笑っていなかった。

 

実は……

 

そこで、全てを話すことにした。

話を要約すると……ただクリスマスの日にパーティーを開いても、それでは普通すぎて面白みに欠ける上に、盛り上がりも少ない。でも、最近は戦闘続きだったから、この日くらいはみんなに思いっきり楽しんで欲しいと思ったのが、ことの始まりだった。

 

だから、たまにはいいかなと……ちょっとしたファンタジーな非日常のイベントを企画して、みんなに楽しい一日を過ごして欲しいかった。

 

そこで、セラスティアの計画を利用することにした。

 

セラスティアがサンタクロース捕獲作戦を計画していることは、彼女がゼネラルエンジンへ依頼を送ったという情報をリークした時点で察しがついていた。

その際、セラスティアがブラックサンタの服を大量に発注していたことから、計画は複数名で行われると予測し、同時進行でこちらも計画を進めた。

 

OATHカンパニーの関連企業にサンタクロース型パワードスーツの開発を委託し、当日参加できるメンバーの中から龍馬とスノーを選出し、みんなに隠れて密かに当日の打ち合わせを行っていた。

そう、サンタクロースに扮した龍馬とスノーが鉄塔からダイブして華麗な着地を決めたのも、雪の上を素早く走ることができたのも、全てはパワードスーツの加護があったからなのだ。

 

本当はサンタクロースとの交流を経て、そのついでにクリスマスプレゼントを手渡して、みんなの思い出に残る一日を作りたかったというのが目標だったのだけど……まさか、ここまで大ごとになるとは思っていなくて……

 

「ふーん、そっかぁ……指揮官は、この私を利用したってことね? 指揮官、ちゃあんと私の目を見て答えなさい?」

 

……ま、まあ……そうなるね

セラスティアの鋭い視線に思わず目を逸らす。

 

「にゃーからも質問にゃ! お兄ちゃんは何でこの2人をサンタさんに選んだのにゃ?」

 

メルルの質問に、真面目なこの2人なら確実に秘密を守れるだろうと思ったからということを伝えた。

 

「別に、クリスマスプレゼントをくれるなら普通に送っても良かったのに……」

 

セインの言葉に、それでは普通すぎてつまらないと思ったことと、指揮官として直接プレゼントを贈った時に相手にいらぬ遠慮をさせてしまう懸念があったことを伝えた。

 

ほら、サンタクロース相手ならみんな遠慮なくプレゼントを受け取ってくれるでしょ? 返す必要もないんだし

 

「あー、そっかぁ……」

 

セインは納得したように手を打った。

 

「でも、わざわざこんなスーツを作る必要はあったのかしら……?」

 

雪の上に転がったサンタクロース(型パワードスーツ)服を見つめ、命美は首を傾げた。まあ、そこはサンタクロース……1日で全世界を回るのだから、常人を遥かに超える身体能力がある……という設定でね

 

「なるほどな。凡人なりに、色々と考えがあってのことだったのか」

 

はい。まあ、一番の誤算はスロカイ様が今回のイベントに参加してくれたことだったんですけどね……お楽しみいただけましたか?

 

「ふん……まあ、いい暇つぶしにはなったな」

 

そう言ってスロカイ様は小さく息をついて肩をすくめてみせた。頰が少しだけ緩んでいる辺り、どうやら少しは楽しんで貰えたようだった。

 

「ちょっと待って! それじゃあ……去年のクリスマスに見た、あのサンタクロースも指揮官が仕組んだものだったの?」

 

ハッとしたようにセラスティアが呟く

 

 

 

いや、それは本物

 

 

 

「「「……は?」」」

 

……え?

その場にいた全員が全く同じ反応を見せた。

 

「じゃあ、指揮官はサンタさんの正体を知ってるの?」

 

シャロの言葉に首を横に振る。

そして、自分はあくまでもこの基地でサンタクロースを見かけたことがあるというだけで、その正体までは分からない……ということを伝えた。

すると、スノーや龍馬、シャロ、命美などサンタクロースの存在を本気で信じている人たち以外の瞳が、怪訝そうな目つきに変わった。

 

「凡人……お前、まだ何か隠し事をしているな」

 

す……スロカイ様? いえ、隠し事など何も……

 

「怪しいわね!」

 

「そうよ! 全部洗いざらい吐きなさい!」

 

セラスティアとシアが詰め寄ってきた

……ちょうどその時だった。

 

「み……みんなー!」

 

その慌てたような声に、その場にいた全員が反応し声のする方向へと振り返った。見ると、雪の上を走ってこちらへと向かってくる3つの影があった。

 

それは各々の理由からセラスティアの計画に欠席し、基地の寮舎で寝ているはずのソフィア、ドリス、クルスだった。

どうやら、先ほどの戦闘で発生した爆音で彼女たちを起こしてしまったらしい……のだが、その慌て方は少しだけ違うように見える。

 

「大変だ! みんな来てくれ!」

 

「え? 何かあったの?」

 

「いいから来るのだ! 基地が……吾輩たちの基地が」

 

「凄いことになってるよー!」

 

3人は何やら驚きを隠せない様子だった。

しかし、その表情からは嬉しさが滲み出ていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

3人に連れられたそこは、夕方にクリスマスパーティーが開かれた会場だった。テーブルの上を彩っていた多種多様な料理は既に片付けられ、会場は僅かな明かりに照らされるだけとなっていた。

 

会場の中央には様々な飾りとカラフルな電飾で彩られた大きなクリスマスツリー。これは事前に用意したクリスマスの木をそのまま持ってきたものなのだが、夕方見た時と違って何やら様子がおかしかった。

 

「こ……これは、もしかしてクリスマスプレゼント!?」

 

ツリーの真下に置かれた箱の一つを手に取り、運良く名札に自分の名前が記されていることに気がつき、カロルの顔がパァっと明るくなった。

 

名札付きのクリスマスプレゼントはツリーの下を埋め尽くすように配置されていた。名札はカロルのものだけではなく、基地で働くスタッフ全員分が用意されていた。

 

「こ……これって……」

 

「一体、どういうことなの?」

 

自分宛のプレゼントを見つけた命美とアンが、お互いに顔を見合わせた。そのすぐ隣では、自分のクリスマスプレゼントを探すべく、必死になってプレゼントの山を掘る白猫(メルル)とクソガキ(シア)の姿。

さらにその隣には、一足先に見つけたプレゼントの包装紙を破り始めるシャロとクルスの姿があった。

 

「ねぇ、アンタ」

 

「……なんだ?」

 

セラスティアは自分の隣に佇むスロカイへと尋ねた。

 

「これ、なんなの?」

 

「いや、余は何も知らぬ」

 

 

 

「そんなの、決まってるじゃないですかー! ホンモノのサンタさんが、今年も来てくれたんですよー!」

 

 

 

嬉しそうにプレゼントのぬいぐるみを抱きしめ、蘇瑞は笑ってそう答えた。

 

「ねぇ、これは一体どういうことなの?」

 

セラスティアは振り返って、後ろ手に結束バンドをかけられているスノーと龍馬を見やった。

 

「ぼ……僕たちじゃないよ! 本当だよ!」

 

「はい。私たちはただ、格納庫まで皆さんを誘導してくれればそれで良いと言われただけなので……」

 

格納庫まで……誘導?

スノーの発したその言葉に、セラスティアの思考が一瞬だけ停止してしまう。そして次に再起動した時には、既にその結論を導き出していた。

 

なんのために、みんなを遠く離れた格納庫の方へと誘導させたのか?

それは計画の参加者が基地の方へ行かないようにするため。つまり、サンタクロースを追う者をこの場所に近づけさせないようにするため。

では、それをやって1番の利があるのは誰なのか?

 

 

 

それは……

 

 

 

「つまり……指揮官は……」

 

「サンタクロースと、グルだった可能性があるな」

 

スロカイと目を見合わせるセラスティア。

次の瞬間、2人は指揮官の姿を探した。

 

しかし、ここまで連行してきたはずの指揮官の姿は……まるで煙になって消えてしまったかのごとく、どこにもいなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「指揮官様、こちらです」

 

うん、ありがとう

 

彼女に連れられ、管制塔の最上階にある監視台へと到着した。基地のスタッフでも限られた者しか知らないこの場所は、ストーブと食料の備蓄があり、少しだけ身を隠すにはうってつけの場所だった。

 

彼女はこちらの両腕に巻きついた結束バンドを外すと、すぐさまストーブを点けにかかり、さらに温かい飲み物の用意までしてくれた。

 

ありがとう

雪の上で長時間膝立ちさせられ、極限まで冷え切ってしまった両足をストーブで温めつつ、礼を先に述べてから、差し出されたマグカップを受け取った。

 

「いえいえ」

 

その女性……べサニーはそう言って小さく微笑んだ。

彼女は今、サンタクロースの服を着ている。

 

「指揮官様。皆様の陽動、お疲れ様でした」

 

べサニーも、プレゼントの搬入……お疲れ様

 

お互いに、持っていたマグカップを小さく打ち鳴らした。

 

全ての真相はこうだった。

基地に現れると言うサンタクロースの正体……それはべサニーだった。いや、というより喫茶店バビロンという方が正しいのだろう。

バビロンお抱えの商人である彼女に全員分のクリスマスプレゼントの調達を依頼し、外でドンパチやっている間に、それをバビロンのメンバー(ヴィヴィアンやタプファー)で会場まで運んでもらっていたのだ。昼間、バビロンの一員であるハヤが厨房にいたのも、プレゼントの搬入をやって貰うために待機していたのがそもそもの始まりだった。(なので厨房という予定にない仕事を与えてしまったことに関しては深く反省している)

 

ちなみにシェロンやヒルダなど、一部のスタッフはそのことについてしっかりと理解している。みんなの夢を壊さぬよう、彼女たちには必要に応じてこの基地に出没するサンタクロースの話をするよう、言いくるめていたりする。

 

ふと、下の階を見ると……バビロンのメンバーが楽しげな様子で女子会を開いているのが見えた。何を喋っているのかまでは聴き取れないが、彼女たちの表情を見る限りでは、みんな楽しげな様子だった。

 

しかし、べサニーはその輪には加わらず、相変わらずニコニコとこちらを見つめている。そうだ、彼女にはまだ仕事が残されているのだ。

 

「指揮官様、こちら……私の領地で採れたメロンです」

 

わぁ、凄い!

 

「続いて、請求書です」

 

……わぁ…………高い

 

メロンの入った木箱の上に、ポンと置かれた請求書に記された金額を見て、思わずそう呟いてしまった。

いや、まあ当然か……プレゼントの調達もそうだし、彼女たちにしてみてもクリスマスという日にわざわざ働きに来ているのだ。そう考えれば、この金額も妥当なものだろうと思えた。

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

ふんわりとした営業スマイルを浮かべるべサニー

こちらも乾いた笑いを送って彼女から目を離し、司令部の方向を見れば……その入口でスロカイ様をはじめとする教廷メンバーと、セラスティアや命美など、この件に関して納得がいかなかった人たちがせわしなく動き回っていた。

 

消えた指揮官を探しているのだろう。

 

「指揮官様」

 

ん?

べサニーの声に反応し、視線を戻した。

 

「お疲れではないでしょうか?」

 

まあ、少しだけ

 

「では今度お店へいらした際には、私がまた……貴方のことを、朝までじっくりと癒して差し上げます。そろそろ、耳の汚れも溜まってきている頃ですからね♫」

 

……よく、そんなこと堂々と言えるね?

 

「別にやましいことではありませんし、恥ずかしいことでもありません。はい、ただの『耳かき』ですから」

 

さいですか

 

「では、私はこれで失礼致します」

 

あ、待って

 

「はい、何でしょう?」

 

言い忘れてたけど、その服、よく似合ってる

 

「え?」

 

べサニーの綺麗な桃色の髪と彼女が着ている真っ赤なサンタクロースの服が、色調的に妙にマッチしているのを見て、思ったことを正直に言ってみた。

すると、べサニーは少しだけ固まった後……

 

「うぅ……その、似合っていると思いますか? その……ごめんなさい、少し恥ずかしくて……でも、ありがとうございます」

 

『耳かき』のくだりで堂々としていたべサニーは一体何処へやら。顔を赤らめ、急にもじもじとしてしまった。

なにこれ……かわいい

 

 

 

「コホン、それでは指揮官様……メリークリスマス」

 

うん、メリークリスマス

 

最後にお決まりの言葉を交わし、下の階へ降りて行くべサニーを見送り、それから空を見上げた。展望台の天井は透明になっており、そこから暗闇に包まれた空を見渡すことができた。

空からは、相変わらずシンシンと雪が舞い降りている。

 

 

 

その日……

この星は有史以来初めて、争いのない瞬間を迎えた。

 

 

 

でも……たまにはこういう日があっても、いいでしょ?

 

 

 

12の月の小夜曲ーENDー




こうね……歴史的に見ても、最近のラノベとか漫画でも多いのですが、語られるのはいつも男目線のお話ばかり。今回のイベントもテレサ主人公(期待してた)かと思いきや、まさかのロランっていう……いえ、酷評しているわけではありません。正直いうと悔しかったです、ストーリーが本当に良かったので。私自身、書き手の端くれですれば、これほどまでのお話を作れる人は中々滅多にないと心の底から思いました。
男目線云々言ってますが、まあ私が言える立場にないと分かってはいます。
ですが……何というか、もったいなくてですね……アイサガにはどの男キャラにも負けない個性豊かな女性がたくさんいるはずなのに、主人公として担ぎ上げられるのは男性ばかり、真に掘り下げるべき女性はもっと他に沢山いるというのに!もったいない!(今回はそれを踏まえて作りました)

……などと言っておりますが、これはあくまでも私個人の意見、同意を求めるものではありませんので、一個人が発したただの愚痴として捉えてくれれば幸いです。
それではまた、どこかでお会いしましょう
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